グレン率いる二組男子生徒達とリアムの『楽園』を巡る戦いから少し離れた森の中にその男はいた。
「何をやってるんだ。あのバカは…」
暗い森の中で黒いローブを羽織り木を背にその男、アルベルトは遠見の魔術を起動していた。一通りグレン達がホテルへと戻って行くのを確認するとアルベルトは遠見の魔術を解除した。
「いやー楽しそうっすねえ。グレン先輩」
アルベルトが背にしている木の反対側から男の声があがる。
「要件を言え。クロウ」
「い、いきなりっすか…相変わらず真面目ですね…アルベルトさん」
その男もまたアルベルトと同じ黒いローブを羽織っている。それが意味することはつまり、彼もまた帝国軍の魔術師だと言うこと。
「白金魔導なんちゃらが研究している内容が分かりましたよ」
クロウのその言葉にアルベルトが耳を傾ける。
「なんだ」
「『Project:Revive Life』これがその白金なんちゃらが研究している内容らしいですね」
「なんだと…?」
『Project:Revive Life』と言うワードにアルベルトがいつも以上の反応を示す。
「その研究データを持ち帰ってこいと……室長が言ってました。最悪でも確実に処分しろとのことです」
「………分かった。だがわざわざお前が出向いた意味はなんだ…?」
「俺この近くで任務あるんすよ。そのついでです。それにこの島。今、外部と連絡取れないんすよ」
「なに…?」
アルベルトが、通信用の魔導器を使ってみるが外部と連絡は取れない。どうやらクロウが言っていることは本当らしい。
「それと、天の知恵研究会もなんか絡んでるみたいですね。第二団クラスが来てる可能性もあるみたいなんでそれを《月》、《星》、《戦車》の三人で抑えろと……室長からの指示です」
「………分かった」
「アルベルトさんの後方支援に加え護衛対象のすぐ側にリィエルにリアム。それにグレン先輩もいるんで安心ですね」
「だといいんだかな」
「……? 弟じゃ頼りないって言いたいんすか? 相変わらず弟に厳しいっすね。大丈夫ですよ。リアムなら上手くやるでしょ」
「……そうだな」
アルベルトが気にかけていたのはリアムではなく、リィエルだ。普段も気にかけなければいけないが今回はそれとは間違う意味で気にかけなければならなかった。
「とにかくこれ以上人員は避けないということですね。バーナードさんを待たせてるんで俺は行きますねー」
そう言うとクロウはその場から立ち去った。アルベルトは再び遠見の魔術を起動すると周囲の監視を再開した。
※※※
次の日。この日も天気は快晴。グレンのクラスの生徒達はビーチへと来ていた。女子生徒達は水着へと着替えており、男子生徒達は感動の涙を流していた。
「「「『楽園』はここにあったのか!」」」
海ではしゃぐ生徒達をグレンは傍から眺めていた。傍から眺めているのはグレンだけで無く二人の生徒がグレンの近くにいた。
「お前らは泳がねーの?」
グレンがギイブルとリアムに話しかける。ギイブルは制服、リアムは水着にこそ着替えて入るが上着を羽織っている。
「当然です。僕達は遊びに来た訳では無いのですから」
「昨日ので疲れましたー」
ギイブルはヤシの木を背に本を読みながら淡々と答え、リアムもまた、別のヤシの木を背にしながらだるそうに答える。
リアムが言っていることは当然嘘であり、リアムは周囲の警戒をしていた。
「そーかい」
グレンもその事は分かっており追及はしない。そんなリアムの元へとルミアがやって来る。
「リアムくーん!」
ルミアは青と白のストライプの水着姿だった。これは先日、ルミアがシスティーナと共に出掛けた際、リアムに見せるために新しく買ったものだ。当然リアムはわざわざ自分に見せるためにルミアが新しく水着を買ったとは思ってない。
「どうしたよ?」
「どう? この水着、似合ってる?」
ルミアがリアムの前でくるりと無邪気に回ってみせる。
「似合ってる似合ってる。凄ぇ可愛いよ」
「ふふ、ありがとう! 実はね…」
「??」
ルミアの言葉に疑問をリアムが抱いているとすぐ隣までルミアが近づき耳元で小さく囁く。
「この水着、リアム君に見せるために買ったんだよ?」
「………ふぇ?」
ルミアの思ってもみなかった言葉にリアムが素っ頓狂な声を出し赤面する。
「今からみんなでビーチバレーするから行こ?」
「いや、俺は…」
「ほら行くよ?」
断ろうとするリアムの手をルミアが掴みリアムを無理矢理連れ出すとリアムも観念したようにルミアと共に皆の元へと向かう。
途中ルミアが振り返りグレンとギイブルへと声をかける。
「先生とギイブル君も早く! みんな待ってますよ?」
「いや、僕は…」
ギイブルが断ろうとするが
「ったく。しゃーねーなあ。行くぞ、ギイブル」
グレンは立ち上がりギイブルも無理矢理連れていくのであった。
そして白熱のビーチバレーが行われた。
※※※
その日の夜。リアムは部屋に居た。既にセシルとギイブルの二人は寝ている。リアムも寝ようかと思ったが、寝る前に周囲の安全の確認をすることにした。
すると、誰かがホテルから出るのを使い魔のネズミが捉える。
リアムが使い魔と視界を共有し、確認する。
「ルミア達か…どこに行くんだ?」
ホテルから出たのがルミア、リィエル、システィーナの三人だったので付いて行く。三人は海へと向かい三人が遊んでいるのを確認する。
「大丈夫そうだな」
近くにグレンもいたのでリアムは安心して眠る事にした。
※※※
次の日、グレンのクラスは遠征学修先である白金魔導研究所へと向かっていた。クラスの生徒達は皆疲れが見て取れたが軍所属のリアムに疲れは当然なかった。
その途中、リィエルがルミア、システィーナと喧嘩する場面もあったが一同は無事、白金魔導研究所へと到着した。
「ようこそ、アルザーノ帝国魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労様です」
生徒達を出迎えたのは白金魔導研究所の所長バークス自らであった。バークスは不思議と親しみやすい雰囲気の初老の男だった。
だが、リアムはバークスを見た瞬間に直感で感じ取っていた。
(こいつ…クロだ。隠そうとしてるようだが隠しきてないこの雰囲気───天の知恵研究会の奴らと同じ雰囲気だ。兄貴が言ってたのはこういう事かよ)
リアムがバークスを睨んでいるとカッシュが隣からリアムに話しかける。
「なーに怖い顔したんだよ? リアム」
その声に我に返ったリアムが普段通りの顔に戻る。
「あ、あぁ。何でもねーよ。俺も疲れてたみたいだな」
「なんだよ。疲れて無さそうに見えてやっぱりリアムも疲れてたんだな。水やるよ」
そう言ってカッシュが水を差し出す。リアムはその水を有難く頂戴する。
「さんきゅー」
リアムは水を飲みながらバークスを見てみるとバークスが一瞬、ルミアに冷たい視線を向けていたのが見えた。
「水、ありがとな」
「おう」
そう言ってリアムはカッシュへと水を返すとルミアの元へと向かった。
「あーやっぱりリアムのやつルミアちゃんと見て回るのか…良いなあ」
カッシュがそんなことを呟いているとリアムがカッシュのことを手招いていたのでカッシュはリアムの元へと向かう。
「なんだよ? リアム」
「カッシュも一緒に回ろうぜ。セシルも呼んでくれると嬉しい」
「良いのか? 二人で回らなくて? ルミアちゃんも?」
まさかの提案に驚いたカッシュが二人に疑問をぶつける。
「私は全然大丈夫だよ? どうして?」
「いや、二人が付き合ってるから二人で見て回るのかと」
「だから付き合ってないって」
「そ、そうだよ!? まだ、付き合ってないよ!?」
「そ、そうか。じゃあセシル呼んで来るよ」
そう言ってカッシュはセシルの元へと向かった。ルミアの「まだ」という言葉にカッシュは気を落とす。一方のリアムは全く気づいていない。
リアムはなるべくルミアと複数で回る方が安全と考えた為、カッシュ、セシルと四人で回ることにした。ルミアとしてはリアムと二人で周りたかったのだが、リアムが自分の事を思ってのことだと分かっていたので快く了承した。
その後、セシルが合流して間もなく研究所内の案内が始まったので四人は他の生徒達に続いて白金魔導研究所の中へと入っていった。
オリジナルキャラのクロウさんは特務分室のメンバーです。
まあ暫く登場しないんですけどね。
クロウ「解せぬ」
彼は今後大きな役割を果たすのでしばしお待ちを。