学校休みで暇だったからね!仕方ないね!
白金魔導研究所の研究所見学では特に問題は起こらなかった。しかし問題は見学後、ホテルに帰ってから起こった。
グレンと話をしていたリィエルが突然飛び出して行ったのだ。よってこうしてリアムは、リィエルを探して街中を走り回っている。
リアムはリィエルだけではなく、グレンのことも気にかけていた。その理由は白金魔導研究所で『Project:Revive Life』と聞いた時のグレンの様子が明らかに変だったからだ。その事について兄に連絡しておこうかとリアムは考えていた矢先、目にしたことがある青髪がリアムの視界に映った。
「いた…!」
リアムは港の方へと屋根を伝って駆けていく。
※※※
「え…?」
港にはグレンとリィエル、そして一人の男がいた。
そしてグレンは今起きたことが分からない様子で自分の身体を確認する。リィエルの大剣がグレンの身体を突き刺していた。
「リィエ……ル…なん……で」
リィエルは大剣をグレンに突き刺したまま答えた。
「ごめん。グレン。でも私は兄さんの為に生きるって決めた。だから…ごめん」
その言葉を聞いたグレンは有り得ないという表情でもう一人の男を見る。
だがすぐにグレンの視界から男は消え空が広がる。背中に激痛が走る。
リィエルはグレンを剣で突き刺したまま放り投げた。剣は途中で抜けグレンはコンクリートに叩きつけられる。
コンクリートに赤い血が広がり染み込んでいく。
「とどめを刺せ! リィエル…!」
男のそんな声を聴きながらグレンの意識が暗転した。
※※※
「は…!?」
リアムは信じられないものを目にした。
リィエルがグレンを剣で突き刺していたのだ。いくら様子がおかしいからといってまさかグレンにあんなに懐いていたリィエルが剣で刺すなど思ってもみなかった。
そしてリィエルはグレンを投げ飛ばし、グレンの方へと近づいき、とどめを刺そうと剣を振りかぶっていた。
リアムは魔術を使い脚力を強化すると一気に駆け抜けた。
「間に合え───ッ!」
※※※
「そうだ、殺れ! リィエル!!」
リィエルが剣を振り下ろす。
かつての仲間。自分が一番大切に思っていた仲間だったグレンを殺すことにリィエルは躊躇いなどはなかった。
グレン以上に大切な自分の兄が現れ、その兄がグレンを殺すことことを望んでいる。
なら自分はグレンを殺すだけ。その事に一切の迷いはない。
大剣がグレンの喉を目掛けて振り下ろされる。
だが、大剣がグレンを捉えることはなかった。
リアムが駆けつけリィエルの大剣を寸前で両手の剣によって防いでいたのだ。
リアムがリィエルの剣を押し返し弾き飛ばす。
リィエルは大きく距離を取った。
リィエルを見るリアムは怒りを露わにしていた。
「お前…自分が何やったか、分かってるのか…!リィエル…!!」
「グレンを刺した。とどめを刺そうとしたらリアムが邪魔した」
「何でグレンを刺した…!?」
「兄さんがそれを望んだから。私は兄さんの為に生きる。邪魔するならリアムも斬る」
「はぁ!? 兄さん…!?」
リアムはそこで一人の男がいることに気がついた。男の服装はリアムがこれまで何度も見てきたものだった。
「テメェ…天の知恵研究会だな」
「そうさ。そして僕がリィエルの兄だ」
リアムがリィエルの兄に向かって右手を構える。
「そうか、なら死んでもらうだけだ」
しかしその男の前にリィエルが立ち塞がる。
「兄さんは殺させない」
「リィエル…!? お前天の知恵研究会の味方をするのかよ!?」
「ん。私は兄さんの為に生きる。兄さんの邪魔するやつは斬る」
「リィエル…!そいつも殺せ…!!」
男はリィエルにそう指示するとその場をすぐに立ち去る。
リアムが追いかけようとするがその前にリィエルが立ち塞がった。
「分かった」
「ちっ…」
リィエルが静かな音を立て剣を構える。その姿にリアムも決心し、双剣を構える仲間であるリィエルに向かって。
「……通してもらうぞ。リィエル」
そして二人は同時に地面を蹴った。
※※※
剣と剣がぶつかり合い火花が散る。リアムが体を捻りながらリィエルの背後に回り込む。
大剣はそのままリアムが元いた場所に振り下ろされコンクリートが砕ける。リアムが背後からリィエルへと斬り掛かる。が、双剣がリィエルの体を捉える前にリィエルは地面に突き刺さった剣を手に距離を取る。リアムの双剣は宙を切る。
リィエルは地面を大きく蹴りリアムとの間合いを一気に詰めると、その手の大剣を大きく振る。
「ちっ…!?」
リアムは回避を試みるが間に合わないと判断し右手に持つ剣で大剣を止める。しかし勢いがある分リィエルに部がある。
リアムが左手を構える。
リアムとリィエルの剣の実力はリィエルの方が上だ。しかし二人の帝国軍の模擬戦の対戦成績は8対2でリアムが大きく勝ち越している。二人のこの差は魔術にある。リィエルが魔術は筋力等の強化以外からっきしなのに対しリアムは多くの魔術を使いこなす。その魔術の差が二人の実力に大きな差を作り出していた。
「悪いなリィエル。剣だけとは言ってないぜ?」
そう言ってリアムは剣を左手で二本持ち右手を構え詠唱する。
「《雷槍よ》──!!」
そして【ライトニング・ピアス】が起動し、リィエルを捉える。否、リィエルを【ライトニング・ピアス】が捉えることは無かった。
そもそもリアムが唱えた魔術はリィエルを捉えるどころか起動しなかった。
それはまさにグレンの使う【愚者の世界】のように───
「なっ…!? まさか───!?」
グレンの発動した【愚者の世界】の効果圏内にリアムは入っていたのだ。その為魔術を発動することが出来なかったのである。リアムが来る前にグレンはリィエルの兄と名乗る男を殺す為に【愚者の世界】を使用していたのだ。後から来たリアムはその事を知らなかった。
魔術を詠唱したにも関わらず魔術が発動しない、それは当然隙が出来る。その隙を逃すほどリィエルは甘くない。リィエルの大剣がリアムを捉えた。しかしリアムもすぐに回避行動を取っていた為致命傷とはならない。だがその傷は決して浅くはない。
リアムが一瞬怯み体勢を少しだけ崩す。リィエルはその隙にリアムに斬り掛かる。
「いいいいゃぁあああ───!!」
仲間を斬るというのに全く迷いのないリィエルの真っ直ぐな荒々しい一撃がリアムを襲う。
間一髪でリアムが双剣で防ぐが剣の一方が折れる。
「ちっ──!?」
リアムの戦法は双剣による剣技と正確な魔術の組み合わせによる攻撃。魔術が大きくその戦法を支えている。その魔術を失った為リアムは本来の力を大きく発揮することが出来ない。リアムとリィエルの対戦成績は魔術があってこそだ。その魔術が無くなった時その実力差は反転どころか更に大きな差が出来る。
リアムが魔術を使ったとしてもリィエルは10本勝負したら2本リアムに勝つことが出来るのだ。つまりそれは魔術があろうがリィエルの剣に及ばないことがあるということ。魔術無しでリアムがリィエルに剣で勝てるほど甘くはなかった。
(勝てる見込みはない…けど───)
片方の剣を失ったリアムが残った剣を構える。その剣にも既に小さなひびが入っている。リアムの剣の強みは双剣による手数の多さだがその強みは失われた。
いつものように新たに剣を錬成しようとも【愚者の世界】の効果圏内の為錬成できない。リィエルと戦い始め、そう時間は経っていない。軽く見積もっても愚者の世界の効果が切れるまで最低でもまだ一分はある。だがリィエルが片手剣のリアムを始末するのに一分という時間は十分に事足りるのだ。
双剣でも及ばないリィエルに片手の剣だけで最低でも一分耐えなければならない。しかもそれも早くて一分なのだ。二分経ってもまだ【愚者の世界】の効果が継続している可能性もある。
状況はリアムに圧倒的に不利。しかしそれだとしても───
「諦める訳にはいかねぇ──!」
※※※
数分前───
森の中でアルベルトは遠見の魔術を使用しグレンがリィエルに刺されたのを確認する。
「ちっ…あのバカ…」
『Project:Revive Life』の名前の聞きアルベルトは警戒を強めていたが、アルベルトが考えていた最悪のシナリオになりつつある。
そのシナリオを阻止すべくアルベルトがその場を立ち去ろうとするが、アルベルトは立ち止まった。
アルベルトは立ち止まらされた。
「……まさかとは思ったが貴様らも絡んでいたか」
アルベルトの前に立つのは先日アルベルトと戦って逃がした天の知恵研究会の女。エレノアだった。
「あら、アルベルト様。今宵はお一人ですか? リィエル様の姿は見えませんが…」
「よく言う」
アルベルトが右手を構えると一節で詠唱する。
「《吼えよ炎獅子》───!!」
爆炎がその場には巻き起こる。火が燃え移った木がエレノアが立つ場所に倒れる。アルベルトは無言で背後へと振り返り【ライトニング・ピアス】を
光の力線が一直線に放たれる。
爆炎を躱したあとアルベルトに攻撃しようと背後に回り込んでいたエレノアをアルベルトは冷静に狙った。しかし、エレノアはその攻撃も軽く躱してみせる。エレノアは不敵に笑いアルベルトに呟く。
「ふふふ、グレン様の所には行かせませんわ…!」
「エレノア。貴様はここで仕留める」
リメイク前に今回でやっと追いつきました!
て、ことでリメイク前の『青髪天才魔術師と禁忌教典』は消しました。
これからも『俺は貴女を守る剣となる』をよろしくお願いします!