天の知恵研究会と一族の戦いの序章です。
アルザーノ帝国西部に広がる広大な森。
その一角にその小さな村はあった。その村には特殊な力を持った一族が住んでいた。
彼らの力は『
また、この力はあまりにも危険だった。一族は力を持ったものが、力を悪用しないよう契約を結んでいた。
『魔法遺産』を使う力を引き出すにはある詠唱が必要でありその詠唱は自分が誰かの為に尽くす事を誓い、その者の為に力を使うというもの。この詠唱の存在によりこの力を自分の為だけに使うことは不可能となっている。
また、この力を契約するには女王陛下の前で力を契約する者と、その者が尽くすことを決めた二人が共に、互いが互いの事を誓い合い、女王陛下が二人のことを認めて初めて力を使うことができるようになる。
天の知恵研究会はその一族の強大な力に目を付け、幾度となく刺客を送り込んできたが無事帰ったものは誰一人としていなかった。だが、9年前のある日。その悲劇は起こった。
「アレンの兄ちゃん! 遊ぼー!」
7歳のリアムが家の庭から部屋の中に居た青年へと声を掛ける。青年の名はアレン=フリード。一族でも数少ない『魔法遺産』を使える1人だった。
「ははっ、元気だな。リアム。今行くよ」
アレンはリアムにそう答えるとリアムは嬉しそうに頷く。席を立つアレンにアレンと話をしていた金髪の美女が声を掛ける。女性の名はシャルロット=ロディウス。リアムの実の母親だった。
「いつも悪いわね…アレンだって疲れてるでしょう?」
「なぁに甥と遊んでやるのも叔父の務めってもんでしょ。それに村に子供はリアムしかいねーしな。遊んでやらねーと」
「ありがとう、アレン。でも村に子供がリアムしかいないのは、貴方と二アスが結婚相手を見つけてこないのが原因だと思うけど?」
「っ……じゃ、じゃあ、リアムと遊んでくるよ。姉さん」
アレンは庭へと向かおうとしたその時、シャルロットが持っていた通信用の魔導器が甲高い音を立てる。アレンは歩みを止めシャルロットの方を振り返る。
シャルロットが頷き魔導器を起動する。
『天の知恵研究会が一族の力を狙い村へ向かっている』
「と言ってもいつもみたいに小物でしょ?」
『いや、今回は
「「!?」」
その言葉にアレンとシャルロットの二人は息を呑む。存在が都市伝説とも言われる第三団《天位》が遂に動いたということに驚きを隠せなかった。
『情報を掴むのが遅れた…俺のミスだ』
「そんな事ないわ。第三団《天位》が動く案件なんて天の知恵研究会でもトップシークレット。よく情報を掴んだわよ。事が起こる前なら少しでも対策できる」
「カルロさん。奴等が来るまでの時間はあとどれほどですか?」
『5分あればいい方だ。すぐに皆に知らせてくれ』
「了解です」
『……よく聞いてくれ…いくらお前達でも死ぬ可能性が高い。相手はそれほどまでの戦力を投入してきている』
「……そうですか。時間を考えると安全に逃がすことが出来るのは一人ですね。なら…」
「アリスに連絡するわ。カルロはフレイザーさんに連絡して。アレンはこの事をみんなに伝えて」
アレンは頷きすぐに家を飛び出す。
『既に連絡した。俺は今すぐそちらへ向かう。それまで厳しいとは思うが持ち堪えてくれ』
「最善は尽くすわ」
『……死ぬなよ』
カルロとの通信が途絶える。そしてすぐにシャルロットは別の通信用の魔導器を取り出して起動する。
『シャルロット? どうしました?』
魔導器からアルザーノ帝国女王、アリシア七世の声が聞こえてくる。
「アリス、今から一族が天の知恵研究会の襲来を受ける」
『……今すぐ兵士を派遣します』
「いや、いいわ。死人が増えるだけ。前に約束したでしょう? 一族だけで対処するって」
『ですが……』
「だから、リアムのこと。頼むわね」
『……分かりました』
「ありがとう」
『……ご武運を』
「えぇ」
シャルロットがアリシアとの通信を終えた時アレンがリアムと一人の男性を連れて駆け込んでくる。
「姉さん! ニアスを連れてきた! あとは任せる!」
アレンはそう言い残し再び家を飛び出していく。リアムは何が起こっているのかわからずクエスチョンマークを浮かべていた。シャルロットがアレンと同じくらいの年齢の青年、ニアスに話しかける。
「ニアスどこまで飛ばせる?」
「流石に王宮までは…フェジテまでは何とか。それでも数分かかりますね」
「じゃあ、1分で」
「相変わらず無茶言いますよね……何とかします」
リアムがシャルロットの元へと歩いてくる。
「母さん。みんなどうしたの?」
その間も家の外では一族の者達が慌ただしく動いていた。
「リアム」
「なに?」
シャルロットはリアムを強く抱きしめる。
「ちょっと母さん…く、苦しい…」
「私はいつまでもどこにいても貴方のことを愛してる。今からすることは貴方を守る為。だから……許して。貴方だけでも…生きて」
「えっ? か、母さ──」
シャルロットが魔法遺産『メモリーシール』を使用するとリアムは気を失った。
そしてニアスがグローブを嵌めた手を翳すとリアムはその場から姿を消した。
「リアムは無事フェジテまで飛ばせました」
「……そう」
その時、外から大きな破裂音が聞こえる。それは周囲を囲っていた結界が破られたことを意味していた。
シャルロットとニアスが外に出ると、天の知恵研究会の先行隊の姿があった。ニアスは村の入口の方へと走っていく。入口にはアレンが1人で槍を手に持ち立っておりニアスがそのアレンの隣に立つ。
「遅かったな? ニアス」
「あのな、俺の魔法遺産は本来人を飛ばす為の物じゃないからな」
「リアムは?」
「安心しろ。無事だ」
「良かった。……やるぞ」
後方に居た天の知恵研究会の魔術師三人が詠唱を終えるとまるで隕石のような巨大な炎が村へ向かって飛来する。
ニアスが前方へと飛び出すと両手を突き出す。
「馬鹿め! 死にてーのかこいつ! B級軍用魔術の【フレア・メテオ】だぞ! たった1人で何が出来るんだあ?」
天の知恵研究会の男の1人が笑う。そして巨大な炎はニアス目掛けて飛んでくる。ニアスに直撃するかに思われた瞬間、巨大な炎は姿を消した。
「馬鹿はそっちだろ。どこ狙ってやがる」
その時天の知恵研究会の魔術師の上空から先程消えた炎が突如現れて魔術師達を炎が襲う。
爆炎が魔術師達を包み込んだ。
「ありえ…ない」
「まさか…こいつ」
ニアスの前の空間には穴が空いておりそこからは力尽きた魔術師達の姿が映っていた。魔術師達の頭上にも同様の穴があり、そこからはニアスの姿が見えた。
「あれ程の魔術を飛ばしたというのか…!?」
ニアスの隣をアレンが駆け抜けていく。
「手合わせ願おうか! 天の知恵研究会!!」
天の知恵研究会の魔術師達目掛けて突撃するアレンを狙って魔術師達が構える。
「ここで死ね!!《雷槍よ》──!!」
アレンに向かって魔術師達は【ライトニング・ピアス】を放つ。
無数の雷撃がアレン目掛けて駆け抜けていく。だが、アレンはそれを諸共せずそのままのスピードで突撃する。
「こいつ…死にてぇのか!?」
雷撃がアレンに突撃する瞬間アレンは僅かに体を逸らして躱す。続く第二撃、三撃も最小限の動きで躱す。
「あ、有り得ない…!」
「おいおい。ホントに【ライトニング・ピアス】か? 姉さんのと比べたら…止まって見えるぜ!」
「ほらよっ!!」
アレンは跳躍すると勢いよく手に持つ槍を投げつける。槍が地面に突き刺さった瞬間辺りを雷撃が駆け抜ける。
「ぁあああ!?」
アレンは着地すると突き刺さった槍を手に持ち再び地面を蹴る。
「!? ど、どこに…」
剣を構える男の背後に瞬時に回り込み倒すとその後も手に持つ槍を振るい途轍もない速さで敵を葬っていく。
「ちっ! 《吠えよ炎獅子》」
男が【ブレイズ・バースト】をアレンの背後から放つ。だが、アレンはそれを見ようともせず首を曲げるだけで躱す。
「ほらお返しだ」
アレンが躱した炎球が飛来する先には穴が空いており炎球は穴へと消える。
「ぐぁああああああ」
【ブレイズ・バースト】を放った男を爆炎が襲った。
アレンとニアスの二人の手によって天の知恵研究会の先行隊はたった1人を残して倒された。残った男がアレンと向き合う。
「第一団《門》の名にかけて貴様を倒す!」
「《吠えよ炎獅子》!!」
男は【ブレイズ・バースト】を
「うるせーよ」
背後に回り込んでいたアレンが攻撃する。だが、男もその攻撃を読んでおり躱す。
「甘いな。その程度の攻撃でやられる私では……貴様、槍は何処に!?」
男がアレンが槍を手放していることに気付いた時には遅かった。男の頭上から雷撃が男に炸裂した。こうして天の知恵研究会の先行隊はアレンとニアスの二人の手によって全滅した。