よろしくお願いします!
「ねえ、アルベルト。私達今回何をするの?」
「女王陛下の周囲の監視だ」
「分かった。怪しい奴がいたら斬ればいいんでしょ?」
「………監視対象に気付かれないように女王陛下の周囲を監視し、怪しい者が居たら殺さず捕らえる」
「分かった。背後から叩き斬る」
「………」
この日魔術競技祭が行われるアルザーノ帝国魔術学園の近くにて丈長の黒のローブを身に包んだ男女の二人組が会話をしていた。
一人は十代半ばの少女である。伸び放題の青髪に眠たげに細められた瑠璃色の瞳。しかしその美少女の表情は無表情でその姿はまさに人形のようであった。その少女の名前はリィエル。帝国宮廷魔道士団の一人である。
リィエルにアルベルトと呼ばれた青年。藍色がかった長い黒髪と鷹のように鋭い瞳が特徴的な青年である。彼の容姿は多くの女性を引きつけることであろう。そんな彼もまた帝国宮廷魔道士団の一員であった。
アルザーノ帝国魔術学院の競技場の観客席は人で溢れていた。この日は生徒達が待ちに待った魔術競技祭の日だ。
『またまた二組だぁああああああ!!「飛行競争」の三位に続き「魔術狙撃」においても四位以内を確定させたぁあああ!!』
成績上位者のみが出場するのが伝統だったこの大会も今大会は異様な光景に包まれていた。
成績上位者のみならずすべての生徒が参加している二組が優勝候補筆頭の一組と同じように優勝争いに名乗りを上げていたのだ。
「マジか…」
二組の担任、グレンも想像以上の結果に驚きを隠せないでいた。
確かにグレンは様々なアドバイスを生徒達に伝えていたがそれでもここまでの結果を残せるとは思っていなかった。
観客も驚きの声を上げてはいたが「やがて失速するだろう」というのが大方の見解であった。
しかしウェンディの【リード・ランゲージ】の一位など、成績上位者は確実にポイントを重ね、成績が特別高くない生徒も各々結果を残している。
そして午前の競技を二つ残した時点で二組の順位は大方の予想を裏切り三位。
優勝の可能性が十分にある位置につけていた。
しかし他のクラスは成績上位者で固めているためやはりそれなりに差は出てきてしまう。
二組は三位につけては、いるが優勝争いを続ける五組や一組との差は大きかった。
この午前の残りの競技で多くポイントを稼ぎこの二クラスに追いつかなければ優勝は厳しいそんな状況であった。
そして迎える次の競技は【精神防御】───
出場するのはルミアだ。
精神防御は配点が高いが、ポイントを得られるのは一位のクラスのみ。
さらにはこの競技において最強とも言われている五組のジャイルが出場することもありハーレイの一組は捨て石をこの競技に出場させている、
屈強な男達の中に一人混ざったルミア。
その紅一点の女子生徒を観客は困惑の目で見ていた。
そんな状況でもルミアはにこにこと笑い二組のクラスメイト達に手を振っている。
「ルミア…」
リアムは競技場の中央で多くの視線を集めながらこちらに手を振るルミアを見ていた。
「なんだ…? 彼女が心配なのか…?」
そんなリアムにグレンが揶揄うように話しかけてきた。
「いやだから彼女じゃないですって…てか心配って…そんな心配いらないでしょ」
それもそうだとグレンも競技場の中央に視線を戻した。
その光景はとても信じられないものであった。
屈強な男達が次々と倒れていく中。
その中でも屈強な男達の中に混ざった一輪の花───ルミアは顔色一つ変えず平然と立っていた。
会場はその異様な光景に大歓声に包まれる。
やがて残ったのはルミアとジャイルの二人だけとなった。
「ふん。お前…なかなかやるじゃねーか」
「そ、そうかな…?」
「へっ。だが、そろそろきついんじゃねえか?棄権したらどうだ?」
「心配してありがとう、ジャイル君。でも……だめ。私だって負けるわけにはいかないんだ」
ルミアは気丈に笑うが痩せ我慢なのがありありと見て取れた。
その姿を見たジャイルがやれやれと肩をすくめる。
「はっ……わからねえな。こんなくだらない競技祭ごときで。一体、何がお前にそこまでさせている?」
「私…負けるわけにはいかないの。全員で勝とうって言ってくれた先生や、クラスのみんな。彼の為にも」
「彼…? ほう…彼氏か?」
「そっ…そんなんじゃないよ…!彼はいつも私を護ってくれる。でも護られてるだけじゃ嫌なの。私もなにかできることをしたい。だから頑張るんだ」
「……そうかい」
それ以降、ジャイルはルミアに対して何一つ言わなくなった。堅い信念を持って立ち塞がる好敵手に語る言葉などない、ということなのだろう。
『続いて二十八ラウンド───ッ!』
いよいよ勝負も佳境。観客席は盛り上がりに盛り上がっていた。
その加熱ぶりは止まるところを知らないようだ。
「では…さきほどよりもう少し【マインド・ブレイク】の威力を上げよう。いくぞ、心の準備は宜しいかな…?」
「……はい」
「いつでもいいぜ?」
ツェスト男爵が慎重に呪文の威力を徐々に上げていく。
余裕があった二人の顔もだんだんと余裕がなくなってきた。
しかし二十九、三十、三十一とラウンドを重ねて行っても二人はまだその場に立っていた。
ルミアには限界が近づいていた。
(…ッ!……もうそろそろ…でも駄目。負けるわけには……)
ドサッ
遂に倒れる音が会場に響いた。
しかしルミアは体制を崩し倒れかかってはいるもののまだ倒れてはいなかった。
観客がまさかとそちらへと視線を移すと
【精神防御】で優勝確実と言われていたジャイルが倒れている姿がそこにはあった。
『ああ───ッとぉおおおお!!ここでジャイルくんダウン…!? 勝者はなんとまさかの紅一点ルミアちゃんだぁああああ──ッ!』
ルミアの勝利に湧き上がる歓声。
二組の生徒達が観客席から飛び降り、一直線に駆け寄って来てルミアを取り囲み、その健闘を次々と口早に讃えてくる。そんな中システィーナがルミアに抱きついた。
「もう、ほんっとに心配したんだから! でもおめでとう。無事でよかった」
「システィ…」
そしてルミアはクラスメイト達を振り返り嬉しそうに笑ったのであった。
リアムは観客席からその様子を見つめていた。
そのリアムを見つけたルミアはリアムに対し手を振り嬉しそうに花のような笑顔で笑った。
そしてルミアはリアムに向かって右手を握りしめ突き出すと口パクで何かを語りかけた。
「が ん ば っ て か…」
リアムはルミアのメッセージを受け取ると待機場所へと歩き出した。
「次は俺の番…だな」
「頼んだぜ? リアム」
隣に居たグレンがリアムへと話しかける。
「余裕ですよ」
振り返ることなくリアムは答えると再び歩き出した。
【呪文詠唱】の競技に出場する生徒が競技場中央に集まっていた。
『さぁあああ!!午前最終競技。【呪文詠唱】が今始まります!!』
合図とともに的が現れ一人を除き参加者が呪文詠唱を開始する。
「「「雷精の紫電よ───」」」
リアムは呪文詠唱を行う素振りを全く見せずその場に佇んでいる。
『おっと───? どうした、二組のリアム選手。ここまで全く呪文詠唱を行っていないぞ───!?』
「ふんっ…大口を叩きながら本番では緊張して全く動けないか…これだから二組の生徒は───」
ハーレイがグレンに話しかける。
「なーにいってんすか。ハーレム先輩。競技はまだ始まったばっかっすよ」
「ハーレイだ。ハ ー レ イ ! 貴様、グレン=レーダス──!覚える気がないだろう──ッ!それに現にあの生意気な生徒は一言も呪文を詠唱していない!」
それぞれ参加者が呪文を詠唱し、【ショック・ボルト】や【ゲイル・ブロウ】、【ファイア・ショット】の魔術が飛び交う。
【呪文詠唱】の競技はこの三つの魔術で現れる的を如何に早く壊すことが出来るかが問われ、的を割る事に一点入り、また間違った魔術で的をわると減点となる。
『おっとー!一組のハインケル選手。この【ショック・ボルト】の的も取った───!! ここまで【ショック・ボルト】のポイントを総取りだぁあああ!!』
「ふっ…聞いたか。グレン=レーダス! この競技は一組が貰ったな! 先ほどの【精神防御】には驚かされたが、これでまた差が開くな!!」
「そろそろか」
「き、貴様…!? 無視だと!? ふざけるなよ! グレン=レーダス!!」
リアムはこれまでただ立っているのではなく冷静に他の生徒の事を観察していた。
(この程度か…しかしハインケルとかいうやつの【ショック・ボルト】
リアムが右手を突き出す。
「ま、相手にはならないけどな」
「なんだと…!?」
小さく呟いたリアムの方を見てハインケルが苛立ちを見せるが再び中心を見据えハインケルは競技に集中する。
(何を企んでるのかは知らねーがここからの逆転は全て取るくらいじゃないと不可能! 第一俺が【ショック・ボルト】の詠唱で負けるわけが無い! こい…! こい…!!)
ハインケルの思惑通り次に現れた的は【ショック・ボルト】。ハインケルの狙い通りだった。
「《雷せ───!?」
的が現れた瞬間その的が電撃によって割れる。
一瞬の出来事に競技場全体が静まり返る。
「あ、やべ。やり過ぎた」
『な、なんだ───!?今の高速詠唱は─!?ここまで一度も呪文詠唱をしなかったリアム選手。ここに来て得点だぁあああ!!』
「なんだと───」
ハーレイも目を丸くしてリアムの方を見ていた。
「馬鹿な───ッ!?いくら何でも早すぎる───ッ!【ショック・ボルト】とはいえ学生の域を完全に超えている───」
「どうしたんですかぁあ?ハーベストせんぱぁあい?」
そんなハーレイの様子を見てグレンが憎たらしい顔を作ってハーレイを煽る。
「…お、おのれ…!」
ハーレイは悔しさの余りに身体を震わせていた。
その間にもリアムは次々と的を破壊していく。
他の生徒達は最下位だったリアムが徐々に得点を重ね追い上げていくのに焦りを感じる余りに減点を連発していった。
「《ほらよっと》」
リアムが唱えた【ファイア・ショット】の炎弾は的を破壊した。
『きたぁああああ───ッ!これで二組リアム選手、首位の一組ハインケル選手とポイントが並んだ───!!』
次に【ショック・ボルト】の的が現れた。
他の生徒よりもいち早くハインケルとリアムが呪文を詠唱する。
「《雷精よ》」
ハインケルも【ショック・ボルト】の改変呪文で素早く魔術を唱えポイントを重ねてきた。しかし───
「《いけ》」
リアムの詠唱はさらに短く切り詰められており詠唱速度はその上をいっていた。
逸早くリアムの放った電撃がハインケルのものよりも的に到達し的を割った。
『決まったぁああああ───ッ!!最後のポイントは二組リアム選手───!【呪文詠唱】の競技も【精神防御】に続き二組が一位だぁあああ!!』
リアムは二組のクラスメイト達の方を向くと右手を突き出した。
二組の生徒達は歓喜の声を上げていた。
こうして魔術競技祭午前の部は終わりを告げた。
※※※
昼休み───
リアムは迫り来るクラスメイト達から逃げ中庭の隅の木の上で昼飯を食べていた。
「やれやれ…そんな全力で追いかけてくるなよ…」
昼休みにはグレンがシスティーナに吹き飛ばされるという小さな事件もあったりしたが平和に過ぎていった。
リアムは遠見の魔術を使用しルミアの様子を確認した。
ルミアはグレンにサンドイッチを持っていきグレンと一緒に何かを話しているようだった。
グレンと一緒なら大丈夫だろう───リアムはそう判断し目を瞑った。
「んっ…」
リアムが目を覚ますと賑わっていた中庭には誰もいなかった。
(ああ…俺は寝ていたのか…)
「確かに最近寝不足だったからなあ…」
競技場が賑わっていた。どうやら午後の部が始まるらしい。木から飛び降りてリアムは闘技場へと向かったがそこにルミアの姿はなかった。
不審に思ったリアムがシスティーナに事情を聞くと───
「あぁ、ルミアなら先生が探しに行ったから大丈夫よ」
「そうか」
グレンが探しに行ったなら大丈夫か、ただしまあ念には念をとリアムが遠見の魔術を起動しルミアの姿を確認した。
だがリアムが見た光景は予想していたものとは全く違っていた。
リアムの視界に写ったのは複数の兵士に剣を向けられるルミアと兵士によって殴られ倒されたグレンの姿だった───
「っ……!?」
「ちょっと!リアム!どこ行くのよ!?午後の競技、すぐに始ま───」
「すぐ戻る!」
リアムに話しかけるシスティーナを他所にリアムは闘技場を走り去った。
この作品の題名を変えようか悩んでいます。
何かご意見や題名案などあればよろしくお願いします!