ルミアが立つのは人気のない中庭の街路樹の下。
そしてそのルミアを囲むようにして王室親衛隊が立っている。
「体の力を抜いて、動かぬことだ。急所を外せば長く苦しむことになる」
隊長格の衛士が剣を握りしめルミアの前に立つ。
「………はい」
ルミアは一つ深呼吸をして目を瞑った。
ルミアはいつかこのような日が来るのではないか───そう覚悟していた。
元々自分は三年前に死ぬはずだった。そんな自分は無理をして生かされていたのだ。
いつ殺されたっておかしくない。死んだって構わない。
そう思っていた───1人の少年に出会うまでは
その少年は自分に言った。
大切に思ってくれる人の為、自分の為に生きろ。
そう言われルミアは生きたいと思えた。
(……リアム君、もっと貴方と話したかった。もっと貴方と一緒にいろんなことをしたかった。もっと貴方の側で、いつまでも貴方の側でいたかった…私…貴方のこと───)
その時ルミアの耳元に声が聞こえた。
「そのまま、目、瞑ってろ───」
「……えっ?」
何かが爆ぜるような音が鳴り響くと耳を指すような悲鳴がその場を支配した。
「うぎゃぁああああああ───ッ!」
ルミアが目を開くとそこには剣を取り落とし目を抑えて悶え苦しむ衛士達の姿があった。ルミアには何が何だか分からない。
「【フラッシュライト】の呪文さ」
リアムがルミアに近づきルミアを後ろ手に縛める縄を切った。
「リアム君!」
するとルミアはリアムの胸に飛び込んできた。
「怖かった…! 私怖かったよ…もう駄目かと……助けに来るの遅いよ!」
ルミアが目元に涙を浮かべながらリアムの胸を叩く。
「すっかり遅くなっちまったな、悪かった…」
リアムがそんなルミアの頭を撫でる。
そんな中───
「くっそー強烈なヤツぶちかましやがって!てか俺が助けに来なくても良かったじゃねーかよ」
グレンが二人の元へと近づいてきていた。
グレンは片目を抑えていた。
どうやらリアムの【フラッシュライト】をもろに食らったらしい。
「先生…!」
「あ、先生いたんすか」
「いたんすか。じゃねえ! お前知ってただろ!?」
「さー?」
二人とグレンが話をしていると───
「いたぞ───ッ!」
向こうから新手の衛士達かこちらに向かって駆け寄って来ていた。
「み、見ろ! 同士達が殺られているぞ!?」
「おのれ、我が剣の錆にしてくれるッ!」
「志半ばで倒れた同胞の無念、必ず晴らしてみせる!」
どうやら勘違いされてしまったようで、衛士達は妙に殺気立ってこちらに向かってきている。
迫り来る衛士達が一斉に抜剣する姿に、三人のは顔は青ざめていく。
「ど、どうしよう!?」
「逃げるぞ!」
「ちょっ…なんか俺も疑われてない!? やったの俺じゃなくてリアムなんですけどー!? あーもう。くそう!」
グレンが三節のルーンで呪文を唱える。
「リアム! ルミアは任せるぞ!《三界の理・天秤の法則───》」
「了解」
「任せるって───きゃっ!?」
リアムはルミアを横抱きに抱えると、一節のルーンを唱え跳躍する。
すると人の脚力ではありえない高さまで、二人の体が空へと舞い上がった。
黒魔【グラビティ・コントロール】。重力操作の呪文である。
グレンもリアムに遅れながら三節詠唱で二人を追いかけ学院を囲む鉄柵を大きく飛び越え、学院のその外へと出た。
呪文を解除すると二人は猛然と駆け出した。
「とにかくここを離れるぞ。ルミア」
「う、うん」
リアムにお姫様抱っこされている状態のルミアは赤面しながら答える。
「ああ、もう!なんで俺まで──ッ!?」
グレンの悲痛で切実な叫びがフェジテの街に響いた。
魔術学院のある北地区から、西地区へと至り、リアムは抱えていたルミアを下ろした。
「はぁ、はぁ…これからどうする…」
息を整えながらグレンはリアムに問いかけた。
「先生はルミアと一緒に逃げて下さい。俺が囮になります。一節詠唱ができる俺の方が相手を翻弄できます」
「……そうだな。頼んだ」
「リアム君…」
「無事に戻ってくるよ」
その一言だけ残しリアムはその場を後にした。
そんなリアムの姿を心配そうに見つめていたルミアはやがてリアムが見えなくなるとグレンへと振り返り
「先生も私を助けてくれてありがとうございます」
ルミアがグレンに礼を述べる。
突然告げられた感謝の言葉に戸惑うグレンだったが…
「俺は何もしてねーよ。助けたのはリアムだ。俺は巻き込まれただけ」
「ふふっ」
「なんだよ?」
「なんでもないです」
ルミアがグレンに笑顔を見せた。
「───たくっ…」
グレンが右手で頭をかく。
「さてこれからどうするかな…」
グレンが次に打つべき手を考えていると遠くの方で大きな音が鳴り響く。
どうやらリアムが王室親衛隊と戦闘を始めたらしい。
ルミアが心配そうな顔でその方角を見る。
「大丈夫だ。あいつは強い。俺よりもな」グレンがそうルミアに告げると「そうですね。彼を信じます」とルミアは笑顔を見せた。
「さてと。どうやって陛下に会うか、だが……あ。別に直接会う必要はないな」
グレンはポケットからセリカとの遠隔通信の魔導器を取り出した。
「いたぞ!あそこだ!」
衛士達はリアムの姿を見つけると携えた剣を引き抜く。
リアムがそれに対し呪文を唱える。
「《雷槍よ》」
リアムの左手より放たれた一筋の
さらに次から次へと雷は放たれ衛士の剣を次々弾き飛ばしていった。
「こいつ…!」
衛士が弾かれた剣を拾おうと目を向けた瞬間───
激しい音と振動が発生する。
リアムが唱えていた【スタン・ボール】が決まり衛士達は気絶した。
その後もリアムは衛士達を片っ端から【ショック・ボルト】などの呪文を行使し行動不能にして回った。
「ひとまずはこんなもんかな…」
見渡す限りは追ってくる衛士達はもういない。
「とりあえず二人と合流するか」
リアムはルミアとグレンを探しに駆け出した。
『お前だけがこの状況を打破できる……そう、
「それは一体、どういう意味だよ…!?」
『グレン、この意味、よく考えろ。そして、なんとかして女王陛下の前に来い。来たなら取り巻きの親衛隊くらいは……これ以上は危険だな。切るぞ』
「あ、おい!?」
セリカはグレンとの通信を一方的に切った。
「わけわかんねえ…女王陛下の元に来いって言われてもな…それに俺だけが状況を打破できるってどういう事だ…?」
グレンがセリカの言った言葉の意味を考えていたその時───
「見つけた」
ぞくり、と。背中を駆け上がる、氷の刃で斬りつけられたような悪寒。
「───殺気!?」
かつて慣れ親しんだその感覚に、グレンが脊髄反射で殺気を感じた方向へ目を向けると同時に何者かがこちらに向かって駆け出す。
その者の手には大剣が握られていた。
そして大きく地面を蹴り飛び上がる。
「ルミア!下がれッ!」
グレンがルミアを路地の奥へと逃がす。
その時グレンはその何者かの顔を観てその正体に気がつく。
「リィエル!? 宮廷魔導士団も動いていたのかよ!?」
リィエルが大剣を力の限りに振り下ろす。
グレンが間一髪逃れたその場所の石畳は大きく割れ大剣が突き刺さっていた。
突き刺さり抜けなくなった大剣を無視しリィエルが呪文を詠唱する。
「《万象に希う・我が腕に・剛毅なる刃を》」
リィエルが両手を地面につくと紫電が走ると共に、リィエルの手に新たな大剣が生み出された。
「───《白銀の氷狼よ・吹雪纏て・疾駆け抜けよ》ッ!」
グレンが突き出した左手から吹雪が吹き荒れ大量の氷礫がリィエルへと襲いかかる。
軍用
「効かない」
リィエルは大剣で襲いかかる冷気を防ぐと、地面を強く蹴り飛び上がって、冷気から逃れる。
「猪かよ───ッ!?」
グレンは咄嗟に【ウェポン・エンチャント】を唱えて拳を強化する。
「いいいいやぁああああ───ッ!」
暴風のように飛び込んできたリィエルがその手の大剣を振りかざし稲妻の如くそれを振り下ろす。
その荒々しく苛烈な剣撃を、強化した拳で受け止める。
グレンが剣を受け止めた瞬間、その衝撃から踏みしめていた大地は割れて砕ける。
「ぐッ───」
グレンは血を吐きながらもその一撃になんとか耐えきった。
「先生ッ!?」
グレンの軍時代。リィエルとの相性は抜群だった。
グレンの固有魔術【愚者の世界】によって魔術を封じてもリィエルの剣術には微塵の影響もない。
グレンが帝国宮廷魔導士だった頃はその相性もありよく組んでいた。
だがそれが相手となると相性は最悪である。
グレンの【愚者の世界】をもろともしないリィエルはグレンにとって天敵でもあるのだ。
グレンも何とかリィエルの攻撃を捌いていたが徐々にリィエルの剣撃がグレンを押していく。
「くっ…リィエルッ!?話を聞いてくれッ!?」
「問答無用ッ! 斬るッ!」
これが答えとばかりにリィエルがグレンに斬り掛かる。
リィエルの凄まじい剣撃を前にグレンも防戦一方となる。
そして───
「が───ッ!」
グレンがリィエルの剣によって弾き飛ばされ壁に打ち付けられる。
「先生ッ!」
「私の………勝ち──ッ!」
リィエルがグレンに剣を振り下ろした刹那───
キィィィン!!!
金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。
グレンを叩き斬ろうとしていたリィエルの大剣は二つの剣によって防がれた。
リィエルはその場から少し下がり距離を取る。
「リアム君!!」
駆けつけたリアムがリィエルの攻撃を防いでいた。
「な、なんでリィエルと先生が───」
「リアム! 邪魔!」
「ちっ…!」
リアムの言葉を遮るようにリィエルがリアムへ襲いかかる。
リアムもそれに応戦する。
咄嗟にリアムが左手の剣をリィエルに向かって投げつける。
しかしリィエルは軽くかわす。
「《雷槍よ》──!」
リアムがその一瞬の隙を狙い【ライトニング・ピアス】を撃つ。
しかしその攻撃もリィエルはバク宙でひらりとかわす。
「マジかよっ!? なんて身体能力してんだよ!?」
「邪魔するなら───斬る───ッ!」
リィエルが大剣を振りかざしリアムへと襲いかかる───
だがリィエルは攻撃を突如中断し空中で体を捻る。
そのリィエルの横を光の筋が走った。
グレンの【ライトニング・ピアス】だ。
あのままリィエルが攻撃を続けていたら直撃していたのだがリィエルはそれを直感で察知し回避した。
「いや今の避けるとか有り得ねえだろッ!?」
グレンが嘆いていると
ふとグレンの視界に一人の青年の姿が映る。
リィエルと同じ黒のローブに長い髪、そして鷹のような鋭い目───
その男の正体を悟ると同時にグレンがリアムに向かって叫ぶ。
「リアムッ!よけろっ!」
「えっ?」
リアムとリィエルの激しい攻防が続く中、超高速で飛来する稲妻の力線が真っ直ぐ二人めがけて飛んでくる。
「アルベルトだ!」
しかしリアムに回避する余裕などなく、リアムに稲妻が命中するかと思いきや───
「きゃんっ!?」
黒魔【ライトニング・ピアス】は、リィエルの後頭部に刺さっていた。
途端にリィエルはどさりと倒れ伏し、地面でぴくぴくと痙攣し始める。
「「……え?」」
先ほどまで吹き荒れていた破裂音が嘘のような静寂が、不意に訪れた。
呆然とするグレンとリアムの前に、アルベルトが歩いて近付いてきた。
「久しぶりだな、グレン。リアム」
「あ、あぁ……」
アルベルトの挨拶に戸惑っているグレンの横でリアムは固まったまま動かなかった。
不審に思ったルミアが駆け寄ってきて、リアムに問う。
「どうしたの? リアム君?」
その様子に気がついたグレンもリアムに怪訝の表情を向ける。
「あ、あ…」
「「
ルミアとグレンが顔を見合わせる。
「あ、兄貴ぃいいいいいい!? なんでここに!?」
そのリアムの問い掛けにアルベルトは淡々と答える。
「任務だ。ほかに何がある?」
「いやイテリア地方への長期任務はどうしたよ!? まだ一週間しか経ってないぞ!?」
「既に終了した」
「あの任務二人で一ヶ月はかかると思うんですけど!? なんでたった一人でしかも一週間で終わらしてんの!? 」
「造作もない」
そんな兄弟の会話に割って入ったのはグレンだ。
「待て待て待て!? 今、リアム。兄貴って言ったか!? お前ら兄弟なの!?」
ルミアも目を丸くしている。
「あぁ。血は繋がっていないがな」
グレンの問にアルベルトは冷静に答えた。
今回の話は前作読んでない人には衝撃の事実…かな? 皆さん気付いてましたかね?笑 題名変更を検討中です。このままの方がいい!とかこんな題名はどうですか?などご意見聞かせて頂けると嬉しいです!