アリス・イン・オーバーロード   作:マンボー豆腐

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第3話

 

「それでは主様、失礼いたします」

 

「ええ、ありがとうポルト。とても助かったわ」

 

アリスの言葉に幸せな笑みを見せながら、ポルトは消えた。

 

「さて、ビーストマン、体調はいかがかしら」

 

「ばっちりですぜ、ご主人!いますぐにでも戦えまさぁ!」

 

「そう、頼もしいわね」

 

微笑むアリスに、しかし彼は不安そうに訊ねる。

 

「ですが、その、いいんすか?ご主人にとって、おれは…その…」

 

「ああ、良いのよ、その点は。一度殺してスッとしたから」

 

きょとんとした彼。アリスは続ける。

 

「私ね、元々人間だったのよ。だから人間が死ぬのは、好きでないの。あなた達を殺したのは、つまり、癇癪というやつね」

 

「はぁ」

 

「不服でしょう」

 

「いえ、滅相もない。納得しました」

 

あっけらかんとした答えに、アリスは目を丸くした。

 

「ご主人は、強い。強者に必要なのは、ほどよい傲慢さっす。気に入らないから、戦いを挑み、倒す。弱い者を屈服させ、従わせる。あたりまえの事っすわ」

 

そんなもんですよ、そう言う彼の瞳に曇りは無い。

 

これが種族の違いか。アリスは思った。

 

「けど、じゃあ、のっぴきならない問題があるんすけど」

 

「なに?」

 

彼、自分の口を指差し、苦笑い。

 

「おれ、なにを食べたら良いので?」

 

「それもそうよね」

 

アリスは、短剣を掴んでいた手を虚空へ突っ込む。彼は初めて目にした光景に目を見開く。

 

「ちょっ、なんすか!?」

 

「気にしないで、荷物入れに手を入れているだけだから」

 

「えぇ…?」

 

アリスは短剣をしまい、かわってひとつの指輪を取り出した。

 

「飲食が不要になる指輪よ。ついでに、肉体的には疲労しなくなる指輪も。これらをつけなさい」

 

言外に人間食を禁じられ、耳や尻尾が項垂れながらも、受け取る。

 

「不満?」

 

「いえ、そんな…ところでこれ、どこに巻き付ければいいんです?」

 

「え?…ああ、それは使用者にあわせてサイズが変わるから、そのまま…」

 

「?」

 

「少し待ってちょうだい」

 

アリスは、ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーターを取り出し、お腹一杯になるまで水を飲ませてから、指輪を装備させた。

お腹に耳をあてながら。

 

(……ぐるぐる鳴ってたのが、ぴたりと止んだわね…不思議だわ)

 

アリスの不可解な行動に困惑しながら、彼はつとめてゲップを飲み込んだ。

 

「さて、では行きましょう。お花を摘みたくなったなら、遠慮せず言ってちょうだい」

 

「うっす…」

 

目的地や、被襲撃時などの打ち合わせを済ませてから、彼の先導で歩き出す。

 

日没までには、我々が襲撃した場所に着けるだろうという彼は、彼なりに気を配ったペースで進む。

 

 

「そういえば」

 

 

最初こそ、黙々とついていっていたアリスだが、数時間もして、やがて代わり映えしない景色を眺めるのに飽き、警戒を怠らない彼へ話しかける。

 

「名前を、聞いていなかったわ」

 

「や、こりゃ失礼しました…ですが、ご主人」

 

彼は、振り返らずに続けた。

 

「おれは、勝てずに殺されて、しかも今は従僕みたいなもんです。前と同じ名は、もう名乗れません」

 

「あら、たとえ、故郷に帰れたとしても?」

 

アリスは遠慮なく言い放つ。彼に対して気を遣う気は、あまりないのだ。

 

「帰れたとしても、でさぁ」

 

即答である。

 

「なら、呼び名を決めなくてはね。ビーストマン、リクエストはあるかしら?」

 

「いえ、好きなように呼んでください」

 

「たとえ汚く貶められた名前でも?」

 

苦笑しながら、ビーストマン。

 

「ええ、たとえ汚く貶められた呼び名でも、かまいませんぜ。逆らえやしませんからね」

 

「随分と潔いのね」

 

ふふふ、アリスの笑い声が耳を擽った。なぜだかむず痒くなる心に、彼は頬を掻く。

 

「ではこうしましょう、ビー」

 

言いかけて、背後の地面が、噴き上がる。

 

自然、アリスと彼の足が止まった。

 

勢いよく地面から頭を出した、巨大なミミズのようなモンスター。

 

ヤバイ、彼は直感する。あれは我々をも容易く餌とする、恐ろしいモンスターであると、彼は記憶していた。

 

「ごしゅ」

 

主は、魔法を使う、それは凄まじい威力だ。

しかし、あまりに近い距離からの奇襲では、魔法の発動が間に合わないだろうというのが、ビーストマンの共通認識である。

 

主と定めたからには、この人間を、失いたくない。

 

それは部族の矜持であり、敗れた身としてアリスを尊いものと感じている彼の、意地である。

 

慌ててアリスの背後へ、半ば捨て身の突撃を敢行すべく、脚へ力を込めた瞬間。

 

「じん」

 

どこから現れたのか、何時から居たのか、全くわからなかった一体の、水色の髪に青と白の衣装が印象的な人形が、モンスターへと綺麗に透き通った短めの槍を突き立て。

 

モンスターは、1秒にもみたない微かな時間で、その全身を凍てつかせ。

 

「ビーストマン、あなたは」

 

追撃の、なぎ払うようなひと振りで、粉微塵に砕かれた。

 

キラキラと輝く汚い氷の破片。対抗するように、青く輝く光の粒となり、消え行く人形。彼は驚きのあまり、たたらを踏んだ。

 

「今より、タモン」

 

「……タモン」

 

「そうよタモン。あらためて、よろしくね」

 

「は…はい!」

 

背後を一瞥し、何事もなかったかのように歩みを再開するアリス。あらためて、彼は礼をした。

 

 

「ところで、タモン」

 

「はい!なんすか?」

 

「まだ、お花を摘みに…いえ、その…用を足したくは、ならないのかしら?」

 

「あっ、はい」

 

やがて、順調に歩き続けたアリスは、タモンのいったとおり明るいうちに、竜王国の都市に無事、辿り着くことができた。

 

さんさんと輝く太陽のもと、不整地を歩き続けたというのに、喉も渇かず、疲れもしない。

 

魔法ってすごい。

 

アリスとタモンは、改めてそう思った。

 

 

 

 

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