ミストルティンが初めての淘汰を行うという設定の話になっております。
時系列などは特になく、マスターは実質喋りません。
手が、届かなかった。わたしの目の前でマスターはいなくなってしまった。ずっと憧れていて、求めていたマスターは、そこにはもう存在しなくなっていた。
「……どうして、わたしなんかを」
『君を守りたかった』
マスターの最期の言葉が心で反芻する。一言を残して、私の前から消えてしまった。ただ、ずっと一緒に静かに生きていられればそれで良かったのに。
「なんで、どうして、マスターは、マスターは、わたしを、どうして……どうして……」
思い出が遠くなる。全てが、壊れていく。求めていた時間も、ちょっとした幸せも、何もかも。
こんな結末を迎えてしまうならば、マスターと会わなければ良かった。でも、マスターと会えなかったら私は変われなかった。マスターと一緒の時間は、とても楽しかった。それを否定など、出来なかった。
「マスターは、マスターは、マスターは……」
マスターのことを考えると胸が苦しくなる。もう戻れないという実感と事実が私を蝕む。
今のわたしは本当に生きているのだろうか。もう死んだようなものではないか。全てが黒く歪んだ感情に押しつぶされていく。
「マスターがいない、世界なんて……」
必要ない。いらない、壊してしまえ。
理不尽でぐちゃぐちゃで、幸せが許されない世界なんて必要ない、みんな、みんないなくなってしまえばいい。
わたしが叫んだとき、わたしはわたしを失った。
びっくりする様な出来事というのはそう何回も起きてほしくないものである。
丁度いい木陰を見つけてゆっくりと休憩している時に話しかけられるのは、悲鳴をあげてしまうほど驚いてしまうし、マスターの口からいきなり依頼を託されてしまうと唖然としてしまう。
「淘汰、依頼……ですか?」
唐突に告げられた依頼は暴走したイミテーションの淘汰であった。マスターは首を縦に振り、ミストルティン、君にしか出来ないことなんだと言葉を続けた。
それに対して、私は困惑する。これは、明らかに身の丈にあっていない依頼ではないか。他のマスターの方のイミテーションの私に頼む方が、淘汰に打ち勝てるのではないだろうか、と。
「私なんかが、淘汰なんて……出来ないかも、しれません……」
未だに淘汰を体験したことが無い、という事もあって不安を感じざるを得ない。
異族とは何回も遭遇して、戦闘も行っているため戦えない…という訳ではない。
ただ、部隊の他の姫と違い、私は淘汰の場と遭遇したことがないのだ。それが、怖い。
そんな私の言葉を受け止めながら、マスターは他の方には頼めない状況であり、自由に動ける人材が限られていると続けた。淘汰を避けることはどうやら出来ないらしい。
「負けて、いなくなってしまうかもしれませんよ……?」
街で偶然遭遇した、別のマスターと一緒に行動していた私のイミテーションの話を聞く限りでは、一つになる儀式であり、避けて通れない。一つの存在として完璧になるために必要な行為であると語られ、記憶も勝者に受け継がれると言っていた。
勝利したキラープリンセスが人格のベースとなる、というのであれば、もし暴走したイミテーションに負けてしまったら、マスターに迷惑をかけてしまうのではないだろうか。それが、ただただ怖かった。
すぐに決断できない私を見て、マスターはごめんなさいと何回も繰り返していた。まるで、自分に非があるように、痛ましく。
そんなマスターの姿を見ていると、どうして私が悩んでいるのかと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。マスターだって、苦渋の決断を迫られたに違いない。私が落ち込んでいては始まらないのである。
「やれる限りのことは……やってみますね……?」
決心して、立ち上がる。イミテーションの私ができたことならば、同じキラーズを持つ私でもきっと、できるはずだ。
自信はないながら決心をした言葉に対して、マスターは手を握って答えてくれた。この暖かさのためにも、負けるわけにはいかない。
淘汰実行日は2日後に決まったらしい。厳密には時間は確定されてなく、街付近に暴走したイミテーションが到着すると推定される時間が2日後なのである。
淘汰に備えて、なにかやるべきことはないだろうかと考えた私は、ひっそりと森の中に篭り、杖の素振りをしていた。
こういうことをするのは、私らしくないという自覚はある。それでも、何故だか体を動かしていないと不安で仕方がなかった。木陰でじっとしていると、未来への恐怖で体が動かなくなりそうで。
「自信がある、なんて言えないけれど……」
やるしかないのである。あの、必死なマスターの瞳を見ると逃げようという気持ちは薄れていく。なんとしても、勝たないといけない。
「私が、諦めないで頑張らないといけないから……」
20、30、40と素振りを続ける。杖から放つ魔弾の精度を上げる訓練だ。いざというタイミングに外すわけにはいかない。
集中して、打ち込む。魔力の当てるイメージを掴む。何回も繰り返して、自分のものにする。
気を少しでも緩めると、疲れが押し寄せてくる。でも、ここで立ち止まってはいけない。止まってしまったら、感情に押し潰される。
50、60、70と、何回も振り続ける。秘策なんてない。奥義なんて思い浮かばない。その先に進めない焦燥感が心を蝕んでいく。
このままではうまくいかない。何か、何か、手段はないのだろうか。
「やっぱり、私なんかが頑張っても……うまく、いかないのかな……」
一回気持ちが沈み始めると、沼にはまったかのように悪いことが頭に浮かんでしまう。
もし負けてしまったら、私という存在はどこに消えてしまうのだろう。
暴走したイミテーションに取り込まれたら、マスターに迷惑をかけてしまうのではないか。
私の行動は全て無意味ではないか。
考えれば、考えるほど怖くなる。でも、その時間は迫ってくる。逃れられない。それが怖かった。
悪い癖、というのは自覚している。けれども、私ではうまくいかないのではないかという気持ちがどんどん強くなっていく。
「私なんかが……」
どうして求められたのだろう、そう言葉にしようとした時、何かの視線を感じた。
異族かもしれない、と瞬時に身構える。しかし、その予想は外れた。
「ん、君はミストルティンじゃないか。こんなところで何をしてるんだい?」
「クラウ・ソラスさん……?」
「私のことはクラウでいいよ。そっちのほうが呼びやすいだろ?」
「す、すみません、クラウさん」
樹木の中から出てきたのは、同じ隊に所属しているクラウ・ソラスであった。堂々としているその姿はいつも見ていて凄いと感じる。少なくとも私はそのようにできないだろう。
自主的な訓練を行っていたからだろうか、うっすらと額には汗が滲んでいた。
「次の戦いに備えて、少しだけ練習をしていました……」
「大規模な掃討戦でもあるのかい? 先ほどから聞こえていた杖の振る音の激しさから考えて、大事な戦いだとは推測できるけど……」
音だけで推測できるのは、凄いと感じた。一緒に戦場に立つことは少なくはないけれども、そこまで見抜かれると驚いてしまう。
「実は、近日中に暴走したイミテーションの淘汰を行うことになっているんです……」
「なるほど、淘汰。……君は、まだ行ったことがなかったんだよな?」
「そうなんです、だから不安で……」
「それは、そうだろう。私も淘汰の時になると身構える」
「……え?」
それは、予想していなかった言葉だった。剣士として強い、クラウさんでも身構えるものなのかとびっくりする。
「淘汰は、イミテーションとの戦いであると同時に、自分との戦いでもあると思っているんだ。何回か繰り返し、勝利をしてきたけれど、その心情は変わらない」
「自分との、戦い……?」
「そうだ。淘汰の性質上、単純に姿が一緒だがら困惑するということはないだろう。しかし、イミテーションの自分の生き方、自分の生き方、そういうことを考え始めると、戦闘中でも雑念に襲われてしまう。それらに惑わされないようにするには、心を鍛えるしかないんだ」
「心を鍛える……といっても……」
どうすればいいのか解らない。何回も淘汰を繰り返してきたクラウさんですら悩む問題を、私がどうにかできるのだろうか。心を鍛えるという言葉の意味を考え込んでしまう。
「……ミストルティン。私は、心を鍛えるってことは、実はそう深く考えないでいいものだと思っているんだ」
「どういうことですか……?」
「例えば、イミテーションの君と、今ここにいる君。どちらもキラーズは同じだ。元々の性格も同じかもしれない。でも、私達にはマスターがいて、色々戦って、信頼しあったという経験があるだろ? それを受け止めればいいだけの話さ」
「……よく、わかりません」
「……一心不乱に杖を振ってる君を見ていると、何故だか私と重なってしまってね。イミテーションと戦うことになるということに対する、気持ちのモヤモヤを……雑念を振り払おうとしていたんだろ?」
まるで心を読まれているようだった。しかし、重なって見えたという言葉からそうではないとも感じた。
「そう、ですね。……目の前にある淘汰に対しての恐怖からただ逃れたくて、でもどうしようもなくて、体を……動かしてたんです……」
「その行動には、身に思えがある。鍛錬を繰り返していても、取れないモヤモヤはあるものなんだ。そういう時は、自分のことをゆっくり見つめ直すいいんだ」
「見つめ、直す……?」
「楽しい思い出、失敗した出来事、どんなことでも構わない。じっくり自分のことを見つめるんだ。思い返して笑ってしまっても、泣いてしまってもいい。それがそのまま力になるんだ」
「精神的な支えが、体に力をくれる……ということですか?」
「正直、精神論を唱えているという実感はあるけど、言いたいことはそんな感じだ。雑念は勝利を遠ざける要因になる。だから、それを打ち消せばいいんだ」
私を導こうとする姿は、まさしく光のようだと感じた。眩しすぎず、寄り添ってくれるような暖かい光。
真摯に向き合ってくれるその姿が素敵で、気が付いたらクラウさんの話をじっくりと聞いていた。
「私に、出来るのでしょうか」
「大丈夫。君は絶対に負けないよ。この、勝利の剣クラウ・ソラスが約束しよう」
少し、気取るように。それでいて、嘘偽りないはっきりとした態度で、答えた。
凛としたその姿がとても心強く、君なら大丈夫だと言われているようだった。
「……頼もしい、です」
「戦場でよく協力しあってるし、こういう場でも助け合いたいんだ。帰ってきたら一緒にカフェにでも行こうじゃないか。……柄ではないけど、美味しいゼリーがあるお店を知ってるんだ」
「私なんかと一緒で、いいんですか……?」
「君とだからこそ行きたいんだ。一生懸命に頑張る一途な姿がとても素敵だからさ」
「素敵だなんて、そんな……でも、嬉しい言葉です……」
謙遜こそしてしまうが、真っ直ぐな目で見られてしまうとどうにも照れてしまう。
あまり人付き合いが得意でないことも手伝って、少し目を合わせにくい。
「……だから、絶対に戻ってくるんだ。これをお守り代わりに持っていってくれ」
クラウさんの手から渡されたものは、宝石のネックレスだった。きらきらと輝いていてとても美しい。
「これは……」
「ダイヤモンドのネックレス。最近作っててさ、誰に渡そうか悩んでたんだ。でも、決めたんだ。君にあげようって」
「で、でも、私がこのようなものを貰ってよいのでしょうか」
「趣味で作ったものだから構わないさ」
「その……私には相応しくないかもしれませんよ……? 私には、眩しすぎます……」
「そんなことはないさ。君の輝きはダイヤモンドにも引けを取らないと私は思うよ」
「え……?」
急にそんなことを言われると恥ずかしくなってしまう。顔が赤くなってしまったと感じ、とっさに顔を手で隠してしまうほどに。
「困難に打ち勝とうとする意思。このダイヤモンドと一緒にずっと輝いてほしい」
まるでプロポーズのような言葉に対して、どのように反応すればいいのか一瞬反応に困ってしまった。
素直に受け取ろうにも、あまりに大胆な言葉だから、うまく返答が出来ないし、目を逸らそうにも真っ直ぐすぎる瞳から逸らすのは気が引けた。
「ん……どうしたんだい、顔が真っ赤だよ?」
さらに、クラウさんが無自覚にその言葉を喋っていたという事実に気が付き、もっと動揺してしまった。
そもそも人から避けてばかりいたため、このような場面に対してどう対応すればいいのか解らなかった。
「あ、ありがとうございます、絶対に、戻ってきますから……!」
「お、おい、ミストルティン?」
追い込まれた私が取った行動はいつもと同じように森の深くに隠れることだった。いつも以上の速さで、森の中を走り、目立たない位置へと。平穏がほしかった、というよりも気持ちを落ち着かせたかったのだ。
……迷惑をかけてばっかりな私でも、信頼してもらっている。仲間として、励ましてくれる人がいる。その事実を感じると不思議と嬉しかった。普段、一人でばっかりいる私でも変われる気がした。そう思うと、自然に力が沸いてきた。心の迷いが少し、晴れたのかもしれない。
クラウさんに修行の手伝いをしてもらいながら、休息も取って、今までのことを思い出す。それらのことをローテーションで繰り返していたら、あっという間に淘汰の日となっていた。
暴走したイミテーションの動きは概ねラグナロク協会の予想通りだったらしく、想定された時刻、街周辺に現れた。
私は、ゆっくり深呼吸をして身構える。現在地、街の周辺、森林地区。民家は存在しない。別働隊が異族を討伐しながら誘い込んでくれているらしい。マスターは周辺の異族撃破の指示をせわしなく行っている。
「気持ちのほうは大丈夫かい?」
周辺の異族をあらかた片付けたクラウさんが声をかけてくれた。息切れしていないあたり、余力を残していると感じる。
「やれる限りのことを、どうにか、やってみます……」
「大丈夫。君は勝利するさ」
信頼の言葉に対して、心が温かくなる。この気持ちさえあれば、きっと負けない。
「ありがとうございます……!」
「よし。……暴走したイミテーション周辺の異族を討伐する! 淘汰の邪魔を異族にさせるなよ!」
切り替えるように、クラウさんは敵陣へと走り去っていった。
勇気付けてもらった言葉には、しっかり答えないといけない。
戦場の姫の情報を頼りに、イミテーションがいる場所へと走る。
あまり、実感はないけれども、呼ばれているような感覚がある。私ではない私が、自分のことを呼んでいる。情報と照らし合わせるなら、これは淘汰するべき相手を体がしているるということなのだろうか。今はその感覚を信じる。
走り、走り、到達した場所は、いつも私が隠れている木陰付近であった。そこに、私のイミテーションはいた。
「マスター、マスター……!」
暴走したイミテーションの私は、信じられないほど虚ろな目をしていた。まるで、全てが終わり果ててしまったかのように、瞳の色が濁っている。体も傷だらけで、自分で付けたような傷跡もあった。とても痛々しく、苦しそうに呻いていた。
止めないと……!
他人事とは思えなかった。苦しんでいるイミテーションの姿が、心に強く刺さる。
「……ごめんなさい、私のイミテーション。こうするしかないんです……!」
杖から魔弾を生成し、解き放つ。閃光の魔弾、ホーリービラー。
「当たって……!」
召還した光の柱が、イミテーションを包み込む。命中した。訓練の成果だと信じたい。
「マスター、マスター……!」
しかし、それをもろともせずに、イミテーションは走ってきた。
魔弾を重ねて追撃として打つべきか、いや、それでは遅い。杖を身構えて新たな魔弾を発動する。守る為に、魔弾を切り替えることを選択した。
「どうして、どうしてどうして……!」
至近距離で放たれた魔弾は、ホーリーバースト。私の魔弾ではない。
「ドレイン……!」
同時のタイミングに魔弾ドレインを発射。しかし、光の奔流に打ち勝つことは出来ない。
「ドレイン!」
ダメージを受けることを覚悟して光の中に突っ込む。そして、もう一撃解き放つ。
「グ……!」
光の衝撃に私の体が吹き飛ばされる。それでも体のふらつきを心配している余裕などない。与えたダメージを確認しなくては。
立ち上がり、確認する。イミテーションに対する私の攻撃は、確かに効いている。しかし、まだ余力を残している様子だった。
「ウアアアアアアア!」
「暴走が、もっと進行している……?」
呟くように話していた言葉も無くし、イミテーションは魔弾を周囲にばら撒き始めた。
無差別に破壊を繰り返し、森の林を一つ一つ消失させていく。まるで、全てを無かったかのようにしたいように。
攻撃する方向はでたらめだった。しかし、木登りが出来そうな高さの木を、木陰を全て壊そうと暴れまわっている。
それは、私がよく休む木陰に、そして、落ち着くと感じていた樹木によく似ていた。
イミテーションは、瞳に涙を浮かべながら、全てのものを消し去ろうとしている。
痛ましく、思い出となりそうなものを、思い入れを感じるものを破壊する姿は、まるで押し寄せる感情から逃避したがっている様だった。
「……今、私に出来ることは」
イミテーションに止めを刺すことだ。
あの涙は、きっと悲しみの涙。止めてほしいと願う、気持ちの表れ。
私が、彼女を終わらせないといけない。
ダイヤモンドのネックレスを、右手で掴み、決心する。
次の一撃で終わらせよう。
決意をし、私は目標に向けて走り出した。
「貴女の悲しみも、思いも、記憶も、全て受け取ります」
無差別に飛び交う魔弾の中を走る。目標は、イミテーション。
「だから、私に……教えてください、貴女の全てを」
掠って受けるダメージを気にせず、走る。杖に最大級の魔弾を構えながら。
「その涙も、壊したくなる理由も、全部……教えてください」
今まで込めていない魔力も全て注ぎ込む。確実に、終わらせるために。
「さようなら、私のイミテーション……ホーリービラー!」
飛距離ゼロ。最大の魔力を解き放つ。
「グ、アアアア……」
光の柱がイミテーションの体を貫く。うまくいった。
淘汰が終了したからだろうか、イミテーションの瞳に光が戻る。力無く後ろに倒れそうになっていたので抱きしめた。
「……わたし、は……」
「……貴女は暴走していました。でも悪い夢は、もう終わったんです……」
「そう、ですか……でも、マスターが、死んじゃって、わたし、わたし……」
力なく握ってくるイミテーションの……もう一人の私の手は冷たかった。
「一人ぼっちになっちゃって、孤独がこんなに辛かったんだって思ってしまって、そこから……」
「そこから……?」
「何もかも、壊してしまいたくなっちゃったんです……こんなの、わたしらしくないですよね……」
涙ながら語るもう一人の私の言葉は、悲しみの感情と同時に少し安心感をもたらした。
「私も……」
「……え?」
「私も、大切な人がいなくなってしまったら……そうなってしまうかもしれません。暴走、してしまうかもしれません」
「……でも、そうだとしても、わたしは迷惑をかけてしまいました……そんなの、許されない、ですよね……」
「私は、迷惑だなんて……感じてません。その感情は、きっと間違いじゃないと、思いますから……」
「……ありがとう、ございます……」
「全ての感情を、受け入れます……だから、大丈夫です」
「すみません……」
もう一人の私が少しずつ消滅し、光の粒となっていく。淘汰が終わる。
「最期の時に、貴女に会えて……嬉しかった……」
消えていく。もう一度だけと、きつく抱きしめるのも叶わず、イミテーション光の粒となって消滅してしまった。
「……さようなら。貴女の分まで、一生懸命生きます……もう一人の、ミストルティン」
受け止めた重さに押しつぶされないように、静かに目を瞑った。
もう一人の私の記憶は淘汰を行い、一つになったことによって知ることが出来た。
二人一組の関係で旅をしていて、村の防衛を行っていた。そこに大量の異族が押し寄せてきて、防衛戦を行う中で、マスターが死亡し、支えを失った心が暴走を引き起こしたみたいである。
いざ、纏めてみると他人事のように話せる。しかし、思い出すとその度に心が苦しくなり、胸が締め付けられる。最期に残してくれた、めいいっぱいの笑顔が、頭を過ぎる。
「浮かない顔だね……どうしたんだい、ミストルティン」
「あ、すみません……イミテーションの記憶で少し気持ちが落ち着かなくて……」
淘汰が終わった後、私は約束通り、クラウさんとカフェに行くこととなった。
その為、今は二人きりである。話す相手がいるのに考えこんでしまい、申し訳ない気持ちになってしまう。
頼んでいた紅茶を飲む。少しすっぱくて、温かかった。
「どういう記憶が、落ち着かないんだい?」
「心を通じ合った人と別れてしまう記憶です……1人でいたほうが、苦しまなくてすむのかななんて……考えてしまうんです……」
こんなことを考えても意味が無いのは解っている。それでも考えてしまう。
「……私は、君と一緒にいたいと思うよ。ミストルティン」
「……え?」
どうして、と言葉を繋ぐ前にクラウさんが先に口を開いた。
「全てが終わってしまうとしても、それまでは目の前を一緒に走っていきたいんだ。もし、別れてしまうようなことがあったとしても、私は悔いを残したくない。君と一緒に居たいんだ」
「クラウ、さん?」
「……ダイヤモンドに引けを取らない輝きって言ったのは、嘘ではないよ。真っ直ぐに生き、挫けそうになっても努力する君の姿は美しい。そう思ったから口にしたんだ」
「そんなこと、ないですよ」
「君の輝きを守りたいんだ。……駄目、かな」
守りたい、という言葉に心が痛んだ。どこか遠くに行ってしまいそうで、怖くなる。
「……守られるだけは……嫌、です」
「そうか……」
残念そうな声が響く。でも、ここだけの言葉だけで終わらせる気は無かった。
「で、でも。……私も、一緒にいたいです。だから、強く……なります……!」
「やっぱり、君は後ろ向きだけどそれでも前を向くんだな。その姿、かっこいいよ」
「もう……悲しみに暮れたくは、ないですから……!」
大切な人が遠くに行ってしまわないように。
守られるだけの存在にならないように。
静かに、確実に決意した。それは、もう一人の私に対する約束でもある。
……一生懸命、生きるという小さな、それでも、大切な約束。
「よし。じゃあ、修行の準備の為の腹こしらえとしようか。ササミを食べよう」
「……カフェにササミってあるんですか?」
「大丈夫。注文に書いてある。私と同じメニューを食べよう!」
「え? え……?」
少しだけ、強引なクラウさんに驚いてしまうけれど、人付き合いが苦手だから、あわあわと混乱してしまいそうになるけれど。こういうのもとても素敵だと、思う。だからこそじっくりと、この時間を楽しむことに専念することにした。
マスターも、大切な仲間もしっかり守れるように強くなろう。
まだ、先は遠いかもしれないけれども、一歩一歩、進んでいく。何度失敗しても、立ち上がる。私は、ミストルティンは、これからも挫けずに、めいいっぱい頑張る。後悔しないように、ただ真っ直ぐに進んでいくのだ。