異世界転生!メラルー(亜種)でも成り上がれますか? 作:モンスター親衛隊
深い深い森の中。鬱蒼と生い茂る木々の間で三匹の黒猫は自身の体の半分もある大きな編み籠を背負い、一生懸命に大地を踏みしめていた。一番後ろにつく二足歩行の黒猫は体躯が先頭の二匹に対し非常に華奢であり、まだ生まれて間もない子供だろうか、何処か歩き方も覚束ない。それを知ってか知らずか前列の二匹はその眉間に深く皺を刻み、足早に大地を蹴っている。
いつもの獣道に差し掛かったところで、突然前列の二匹のうち目付きが鋭く尖っている方が口を開いた。堪えきれなくなったという様子であった。
「お前があそこであんな余計なことしなけりゃ、今頃俺達だって月猫祭の準備に取り掛かれてた筈なんだにゃ!」
余程祭りを楽しみにしていたのだろう。金色の虎毛が特徴の黒猫はその目を更に鋭利な刃物の如く尖らせて、とぼとぼと着いてくる黒猫に声を荒げる。華奢な黒猫の肩がびくっと跳ねる。すると、一番背の高い黒猫が大きく溜息を吐いた。
「黙って歩けないのか虎丸。」
言動や態度から察するに、どうやらこの中での年長者は彼だ。虎丸程目付きが鋭い訳ではないが、その瞳からは他の追随を許さない何かが感じ取れた。長の息子であるという片鱗がもう現れ始めているのだ。
しかし……、
「だって!黒牙さんも巻き込まれてるんすよ?」
怒り心頭である虎丸はそれすらも伝わらない。
華奢な黒猫は目尻に涙を浮かべて必死に謝っている。そんな姿を見て黒牙は口許に嘲笑を浮かべてこう吐き捨てた。
「お前もそろそろだろうな。」
華奢な黒猫の動きが一瞬ぴたりと止まる。その場の空気も同様に、先程まで不満を漏らしていた虎丸でさえ、その言葉の意味を分かりかねているのだろう、ただ眉間に刻まれた皺が一層深みを増しただけだった。
洞窟の地下にあるメラルーの集落に戻ると、一番に出迎えたのは虎丸の姉、虎子だった。集落のメラルーの話を聞くに虎子は帰りの遅い弟を一時間前からこの入口前で待ち続けていたのだという。何でも最近、この辺に夜行性の狂暴な龍が出たのだとかいう噂のせいもあるのだろう。
そんな中、一番後ろについていた華奢な黒猫は集落の長に呼ばれ、一匹とぼとぼとまた歩き出した。
長の目の前で深々と頭を下げた華奢な黒毛は、顔を上げて話を聞いて欲しいと言われ、言う通りに耳を傾ける。
「お前がこの地に生まれて早3年、これまで様々ことがあった。そして、お前の裏切り行為はこれで3回目。とても残念に思う。わしはこれ以上"わしの息子である"お前を傷ものにはしたくないのだ。」
分かってくれるな?わが息子よ。そう後に付け足して、長は悲しそうな顔をちっぽけな黒毛に向けた。だがしかし、その瞳の本質には全く我が子を慈しむような美しい感情は籠っていなかったように感じられる。寧ろ、そこには何の思いも籠っていなかったように感じられるのだ。小さな黒猫にももう長の言いたいことが分かってしまった。ちっぽけな黒猫は言わないで欲しかったのだ。或いは、その四肢を俊敏に働かせ、今すぐにでもこの場から離れたいと強く思っていた。
「お前にはもう此処が故郷だと口にしないで欲しいのだ。」
痛々しい事実を遠回しにした言葉はちっぽけな黒毛の心をいとも容易く潰して見せた。それは、端的にお前はクビだと言われるよりも、もっとずっとちっぽけな黒毛にとって辛いことだったのだ。心のどこかで期待していたのだ。ちっぽけな黒猫のちっぽけな理想はこの時、涙と共に崩れ落ちた。
(それだけは言って欲しくなかったんだ。)
序章です。
次のお話から主人公視点に切り替わります。
地下に集落があるというのは完全に捏造です。
長くなると思いますが、お付き合い頂けれぱ嬉しい限りです。