異世界転生!メラルー(亜種)でも成り上がれますか? 作:モンスター親衛隊
集落から勘当されて早2日。最初は故郷がない虚しさと勘当された悲しさで胸がいっぱいで、全然食欲とか湧かなかったけど、流石にもう限界を感じる。そう思った矢先、タイミング良く自身のお腹の虫が騒ぎ出したので、取り合えず食べ物を探そうと思う。
確かこの先に川があった筈……、先ずはそこで水分補給しよう。
そう考えて、立ち上がった私の耳が僅かな物音を捉える。それはどうやら人間の話し声のようだった。段々とこちらに近づいてくるそれに、思わず私は反対方向に駆け出した。人間達の中には私たちメラルーを見ると積年の恨みを晴らすかの如く武器を片手に追い回してくる性質の悪いのがいるからだ。私も元は人間。勿論、人恋しさに人間に近づこうとしたこともあったものだ。しかし、悲しきかな。過去に私はそれでボッコボコにされて帰って来たメラルーを知っている。
少し走ったところで歩きに切り替えてそのまま真っ直ぐ前進していると、土地が開けた所に着いた。恐らく先ほどいた場所からここまででそんなに距離は無いとは思うが、流石にリーチや体力の関係でどうしても息が切れてしまう。食料もそうだけど、早くこの体力をなんとかしなきゃね。襲われ難いとは思うけど、大型モンスターに襲われた時の対処法も考えないとだし。
そんなことを一匹悶々と考えながら、ごろごろとした石の上に膝をついて渓流の水を手ですくって口に流し込んだ。二日振りの水分だ。飲めるだけ飲んでおこう。そう考えた私は何度も水をすくって口に流し込んだ。
「うーん、水飲み過ぎたなあ。」
飲めるだけ飲んで置くのではなく、ある程度飲んだら、きちんとした入れ物を作ってそれに汲んで持ち歩けば良かったのだ。あほだなあ、と一匹呟いて草で編まれたバッグに目を落とす。そう言えば、バッグの中に小型のナイフを入れて持って来た筈だからそれで、竹なんかを削ってモリでも作れば良いんじゃないだろうか。それ一つで武器になるし、渓流の魚も捕まえられそうだ。一石二鳥じゃないかと、私はゆっくり立ち上がると竹林の方に歩を進めた。途中またしても人間と鉢合わせになりそうだったので、別ルートを通ってなんとか竹のある所まで来ることができた。物凄く遠回りをした気がするが、命には変えられない。この際、この不満は全て魚にぶつけるとしよう。
大体一時間と少し経っただろうか。やっと完成した水筒と自身の相棒モリを見て軽く達成感に満たされるが、鳴り止まないお腹の虫を鳴き止ませるべく、私は今度こそ近道で渓流に戻った。行きよりも大分早く着いたように感じられる。やはり、かなり遠回りをしていたようだった。
ばしゃばしゃ、と鳥の水浴びのような忙しない音を立てるのは私の相棒。え?モリを使うのってこんなに難しいの?おっかしいなあ。既に体力は虫の息だ。想像していたものとは遥かに掛け離れた状況に、このままでは、一生捕まえられないかもしれない、そう感じた私はバッグから大きな網を一つ取り出した。この網は地べたに寝たくないからとハンモック用に持って来たものだったが仕方ない。綺麗に畳まれたそれを広げると渓流の流れに沿って網を設置する。それから魚が網にかかるまでの間、私は水筒に水を汲んだり、バッグに渓流の小石10個と傍に生えた木々の落ち葉や木の枝を沢山詰めた。因みに、なんでこんなことをしているかと言うと、正直ここには長居したくないのだ。ここは土地としては開けていて、大型モンスターも余裕で闊歩できるからだ。特に最近はこの辺でアオアシラを見たメラルー達が多いとの噂だ。アオアシラは気性も荒いし、大型モンスターの中ではそんなに大きくないため、超ちびである私も危険だろう。ああ、そう考えたら震えが止まらない。
焦る心持ちでそっと網を見れば、なんと複数の魚がかかっているではないか。急いでそれを陸へ引き上げる。陸の上でびちびちとのたうつ新鮮な魚ににやけが止まらない。何せもう二日も何も食べていない。加えて、最近食べれてなかったサシミウオや重くて運搬が困難なためちょっとした高級食材として扱われるハリマグロなんかも入っているのだ。これがにやけない訳がない!
「ふふふ、大漁だあ。」
この時、私は念願の食料が取れたという事実にばかり気を取られ、すぐ傍にある木々が怪しく揺れたことなど微塵も気が付かなかったのだ。
私が魚が入った網をサンタクロースのように担いで運ぼうとしたその時だ。とうとう、その気配の主は私の前に姿を現した。私は思わず硬直する。
青い絵の具に苔を溶かしたような青緑の体毛に、土色に角質化した表皮、そして鋭い爪。アオアシラだ。一瞬にして私の気分は崩れ落ちた。なんでなんでなんで。
なんでよりによって今なんだよぉぉー!!
その時、背中側でぴちぴちと跳ねていた魚が突然最後の力を振り絞るかのように暴れだした。私は思わず前のめりによろめく。眼前に迫る青緑に恐怖故に声を出すことも許されず、そのままそれにぶつかった。
しかし、相手に下を見る素振りは無く、ただ首を傾げただけだった。よかった、まだ気づかれていないのかな。そう思った刹那、顔の横を紅葉色の何かが通り過ぎる。次に、奴の咆哮が私の耳をつんざいた。
いっ!?やばい!このままじゃ本当に………!
視界の隅では小さな魚が元気よく泳いでいる。あっちに行ってみたり、こっちに来てみたり、どうやら八方塞がりらしい。退路は………、………退路?
そうだ、退路は自分の力で切り開くものじゃないのか。
アオアシラの爪が眼前に迫った時、私は持っていた魚を網ごと手離すと力一杯前足で地を蹴り、前転で奴の又の間を通り抜ける。一瞬のことに、流石の奴も動揺していた。今だっ!!!私は私の持てる全ての力で大地を蹴る。
あの小さな魚は例え行く手が八方塞がりに見えようと、退路を諦めなかった。生きることを諦めなかった。
例えそれが、本能的なものであっても、私はあの小さな魚に感謝する。あと一秒でも決断が遅れていたら、私は今頃あの恐ろしい爪の餌食となっていたことだろう。甦った恐怖に苛まれた体がまた、震え始めた。
足の震えが止まらない。不味い、このまま走ったら……。
次に地に足が着いたとき、私の足はぐぎりと嫌な音を立てた。瞬間、勢いをそのままに投げ出され私は近くの木に頭を強打してしまう。
ああ、意識が………。アオアシラが追って来ている気配はない。私は少しの安堵と共に朦朧とする意識を手放した。
次話では師匠(モンスター)に出会った主人公ちゃんが奮闘します。