異世界転生!メラルー(亜種)でも成り上がれますか? 作:モンスター親衛隊
(※この発言もネタバレ)
なんだか、あったかい。そういえば、私何してたんだっけ……。朦朧した頭でぼんやりそんなことを考える。
「…………は。」
重い瞼を上げた私は絶句した。純白の羽衣のような皮膜に陽光に当てられてきらきらと輝く立派な二本の角。その容姿はどこか神々しく、出る筈のない冷や汗が背中を伝わる気さえする。
恐怖に体が自然と震え出した時だ。ふいに、濃厚な鉄の臭いが私の鼻を掠めた。
……っ、物凄い鉄臭い。もしかして、こいつ怪我してる?
そっと立ち上がって、背伸びをして見ると純白の羽衣は所々赤黒く変色していて痛々しい。特に後ろ足が酷く損傷していた。これでは当分動けないだろう。傷の経緯を思わず想像しぞっとしたが、この隙に退散するべく私はそっと足を動かす。
「ッグ、グガァッ……!」
突然背後から聞こえた苦しそうな声に肩が跳ねた。え、起きちゃった?心配になって振り向くと変わらず龍はその瞳を固く閉じていた。どうやら、龍は魘されているようだった。
ふと、龍の前足が目に入る。純白の皮膜から顔を出すように並んだ二本の爪は無惨にも全て割れ、その先には真っ赤な血が滲んでいる。私が凄惨な傷痕を思わず凝視している間もずっと、龍はその顔に苦悶の表情を浮かべて必死に何かから逃げ惑うように僅かに手足を動かしていた。
このまま、放っておいていいのか。私は良心の呵責に苛まれ、頭を抱える。此所は自然界なんだからこんなことは日常茶飯事なんだよ私!起きたら食べられちゃうかもしれない。その時、龍のか細い声が私の耳に入ってきた。
「…ぐっ、誰か……。」
負けた……。良心に負けた……。私は今近場の小さな池でタオルを濡らしていた。まさか、こんなとこで使うことになろうとは夢にも思わなかったよ。ついでに、保身のためのお魚もここで手に入れた。 で、気づいた。前回渓流での魚取りはモリで、つまり二足歩行で行った訳だが、四足歩行で行った方が当然ながらバランスがとれるし、反応も鋭敏だ。
最初からこうしてりゃ良かった……。
私の心は短時間での多すぎる収穫に複雑な心境になった。あー、切り替え切り替え!そんなんじゃ、これから先やってけないぞ私。
龍の傍に大量の魚を置いて、その中の1つを手に取った。もうびくりとも動かなくなった魚だが、私にはとても魅力的に感じられる。そういえば、ずっと食べれてないんだよね。今から死の危険に脅かされるんだからその前にちょっと満腹になったって許されるよね。そう思った私はバッグから木の枝を取り出して魚に刺すと、口から火を吹いて一気に焼き上げた。
実は私、普通のメラルーとは違い。火を吹くことができる。流石に小さくしか出せないが、生活するだけならお釣りが来ても可笑しくない火力だと思っている。暖を取るにしても、魚を焼くにしても炎は必要不可欠。勿論この能力のことは黙っていた。知られたら気味悪がられるだろうし、得しないと思ったからだ。
ほくほくの身を頬張った私は、三日ぶりのご飯に視界が歪む。そりゃ、涙目にもなる。あんなことやこんなこと(中略)があったんだから。
運命の第一ラウンドが始まった。私は毛に付着した血の塊を丁寧にタオルで拭いていく。傷痕に触れないように丁寧に丁寧に。手はマナーモードかよってぐらい震えてるし、これ嫌な予感がするな。途中川のほうでタオルを洗いに行くが、その間も龍が目を覚ました痕跡はない。体制もそのままに龍はまだ魘され続けていた。
嫌な予感はよく当たる。私の作業も終盤に差し掛かった時、奴は目を覚ました。突然持ち上がった頭に、前足を拭いていた私は思わず飛び上がり、尻餅をつく。
え、うそお。起きちゃったんだけど……。あ、終わった。
龍はその鋭い瞳で私を射抜くと傍に置いてあった大量の魚に視線を落とした。暫く魚や辺りの臭いを嗅いだりする素振りを見せたが、最後に私に一睨み効かせて魚を頬張り始める。どうやら、余程お腹が空いていたらしく、数分もしないうちに(私から見たら)高く積み上げられていた魚達をぺろりと食べてしまった。
「…む、なんだお前。まだいたのか。」
そう言う龍は少し離れた所で様子を見ていた私をまた睨み付けると、不快そうに喉を鳴らす。しかし、どうやらそれがいけなかったのか龍は開いた傷の痛みで苦悶の声を漏らした。
白い龍の毛にじんわりと赤が染み込む様子はとても痛々しく思わず私は数歩近づくが、それに気がついた龍は荒々しく咆哮を上げる。
しょうがないと、思ったこともある。龍が決めたことだから自分にはどうもできないと。あんな身体で咆哮を上げれば、異変を察知した他の大型モンスターに襲われてしまうだろう。反撃などあの傷では到底できるはずもない。
小さい頃から何度も龍の話をされた。龍は獰猛で縄張り意識が強く、他の追随を許さぬ孤高の存在であると。見かけても絶対に近づいてはいけないとも言われた。
前にもこんなことあった気がする。
「あの、良ければこれ使って下さい……。」
だから殺さないでという命乞いに聞こえたかもしれない。でもそれでいいと思った。プライドの高い龍は他の恩恵を滅多に受けようとしないと聞く。
私はバッグから取り出した薬草を龍の傍に置くと背を向いて駆け出した。
その晩私は自分も足を痛めていることに気がついて、バッグに手を突っ込むが、そう言えば薬草はあの龍に全部やってしまったんだっけなんて思い出す。今から採りにいくのも危険な気がして、私は結局その後直ぐに、近くの茂みで眠りについた。
また、来てしまった。昨日と同じくそこに横たわる龍の毛は所々傷が開いて血が滲んでいる。おそらく、無理矢理立ち上がろうとした結果だろう。
私は両手いっぱいに抱えた魚を龍の目の前にそっと降ろした。幸運なことに龍はぐっすりだ。起きる気配はない。だが、昨日龍の傍に置いた薬草は消えていた。
それを見てなんだか嬉しくなった私は明日もここに来ようかなと思った。これはきっとエゴだ。それでもいい。
次の日もその次の日も、雨の日も風の日も、私はあの龍の所へ行った。度々見つかりそうになったものだが、それでもなんとか茂みに逃げたりしてやり過ごした。そうしていくうちに、どんどん龍の傷は癒えていった。
そして今日であの龍と出会って一週間。もう、立ち上がれるだろう。きっともう大丈夫だろう。この世界に来てから今までメラルーとして生きてきた私がやったことと言えば窃盗ばかりで、それすらもままならず半端者として村から絶縁された。
でも、半端者で良かったのかもしれない。子供の頃から盗みばかりする一族の方針が気に入らなかったのだ。私は新人ハンターや他のモンスターが困っているのを何度も目にしたことがある。
私以外の一族の皆はそれを見てはけらけらと笑っていたけれど、私はどうしても笑う気にはなれなかったのだ。一族の中で、否、メラルーという種族の中で私だけがどこか異端だった。
そして今、渓流に流れる滝の傍で水汲みに来た筈の私は何故だか訳のわからない揉め事に巻き込まれていた。
「いいか?ここは元々俺達の縄張りなんだ。悪いことは言わん。早く出ていけ。」
ぐるるると威嚇の声を上げながら今にも爆発しそうな憤怒の感情が籠った瞳を向けるのはリオレウス。対して此方はテツカブラだ。異常に発達した顎をガチガチと鳴らして、無言でリオレウスを鋭く睨んでいる。
「無視か。何とか言ったらどうなのだっっ!!!」
そう言うリオレウスの口許からは赤く燃え上がる色が度々顔を出している。余程お怒りらしい。
「お母さん、僕怖いよぉ……。」
「大丈夫よ。大丈夫だからね。」
そう、実はこの二体の竜は先程からずっと数頭のアプトノスを間に挟んでいがみ合っているのだ。そして、その数頭に運悪くも紛れ込んでしまったのが私。
ていうか何この状況……。私は水を汲みに来ただけなんだよー。おーい。
なんて言えるわけもなく、隣で震えるアプトノスの親子の足にもびくびくしつつ私はじっと隙を窺うしかない。
ふ、踏まないでねたたた頼むから……。
その時だ。今の今までテツカブラといがみ合っていたリオレウスがばっと空に視線を移す。それは突然だった。つい先程まで雲一つない晴天だった空は、どこから来たのかも分からない巨大な灰色に飲み込まれていく。灰色の影は未だ空から目を離そうとしないリオレウスやそれを見て好機と思ったのか飛び掛かろうと構えるテツカブラでさえも飲み込んで、やがて光は閉ざされた。
渓流は天気が変わりやすく、このようなことが無いわけではない。では、先程から石のように動かなくなったリオレウスは何故こんなにも夢中に空を見上げているのか。それは、この場の空気が尋常ではなかったからだ。普段から空と共に生活している飛竜だからこそ敏感なのかもしれない。
空に一つの竜巻が見えた時、今まで石のように微動だにしなかったリオレウスはぎゃあと何かに怯えるような悲鳴を漏らすと、直ぐ様反対方向に駆け出した。テツカブラの飛び掛かりはそれに間に合わず、その爪は空を切り足跡を潰す。相手が逃げる後ろ姿を見たテツカブラは誇らしく空に咆哮した。だが、それがいけなかったのかもしれない。
咆哮が空に響いた直後だった。私の身体をとてつもない寒気が遅い、私は思わずその場に縮こまって両耳をぎゅっと押さえた。どうやら予感は当たったらしい。
ものの数秒も立たないうちに物凄い轟音が地面を揺らして、私の口からぎゃにゃあ!という悲鳴が上がる。暫くして揺れがおさまり、私はそうっと目を開けた。その光景は想像を絶した。
辺りに散らばる黒焦げの物体に鮮やかな赤が絡み付いている。発達したあの勇ましい牙は見当たらず、眼球があった筈の場所は黒い空洞ができていた。鼻を掠めたのは吐き気がするような臭いだった。とても形容しがたいが、それはあっという間に私の記憶に深く刻まれた。
空の王者はこれを危惧して逃げたのだ。テツカブラはそれに気がつかなかった。空の異変に気がつけなかった。只それだけで呆気なくその一生が終わってしまう。なんて、なんて理不尽なんだろう。ただただ、恐ろしいと思った。だが、それが何に対しての恐怖なのかは分からない。自然に対してなのか、それともこの自然災害を起こし得る何者かに対してなのか。
私はその場にへなへなと座り込んでしまった。体が言うことをきかない。
逃げられない……!!!!
さてはてどうなるのか?
次回もお楽しみに!して下さる方々に感謝です。
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