骸骨と天使   作:怪盗K

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お待たせしました、第二話となります。
駄文ですが、よろしくお願いします。


第二話

(遅い……)

 

 モモンガは時間になってもラストが来ないことにその骸骨の中の赤い瞳を怪訝そうに潜める。

 目の前では自身がギルド武器で呼び出した、根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)と双子の闇妖精(ダークエルフ)が戦っていた。

 魔法の検証を行ったあとに、様々な検証を行っており、この模擬戦もその一つであった。自身の魔法が満足に使えること、特殊技術(スキル)も本能ともいうべき部分で使えるようになっていること。

 

(現実世界だけど、ユグドラシル的な縛りもある。随分とちぐはぐな状況だなぁ)

 

 モモンガは、溶けていくようにして倒された根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)と、はしゃぐようしてこちらへと走り寄ってくる双子に巡らせていた思考を呼び戻す。

 

「素晴らしいな。アウラ、マーレ」

 

 モモンガは先ほどの二人の戦いぶりに感嘆を正直な言葉に表す。アウラは自身の特性と相手の特性をきちんと理解し、相手の攻撃を一撃も喰らうことはなかった。さらに、マーレも森司祭(ドルイド)として、バフとデバフを使い分け、的確な支援を行っていた。

 NPCとしての闘い方ではなく、確固たる思考を持って思考を巡らせて連携していることは、モモンガにより一層NPCがシステム的なNPCではなく、一つの生命であると思わせていた。

 

「いえいえ! これくらい当たり前ですよ。久しぶりに運動ができました! ありがとうございます、モモンガ様!」

 

 雫となった汗がアウラの頬を伝う、根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)の凄まじい熱気に晒されながらも前衛を一人で引き受け、さらにその攻撃を一撃も喰らわぬように動いていたのだ。ダメージはなくとも疲労は蓄積したのだろうと、モモンガは一つのアイテムを取り出す。

 

無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)

 

 モモンガ自体はアンデットであったため使用する機会はなかったため、騎獣やラストしか使わずほとんどアイテムボックスの肥やしになっていたマジックアイデムである。

 続いて取り出したコップに水を注ぎ、二人に手渡す。

 

「アウラ、マーレ。飲むといい」

「え? そんな、畏れ多いですよ」

「そ、そうですよ。水ぐらいならボクの魔法で」

 

 二人の畏まるような様子に微笑ましいなと笑みをこぼしながら、支配者としてのロールで押し通す。

 

「これは私から、二人へのささやかな労いのようなものだ。いつもご苦労、さきほども素晴らしかったぞ」

「ふわー」

「ふえー」

 

 尊敬する支配者であるモモンガから、ねぎらいの言葉とともに手ずから渡されるコップを受け取り、二人はコクコクと喉を鳴らして水を飲む。

 それを見てモモンガは自身の喉元へと手を運ぶ、そこにはあるべきものがなく、しかし、それが正常な状態であると本能が言っていた。そして、この体には睡眠も食事も不要となってしまったであろうことも。

 

(このことも、早急にラストさんと話し合わないとな。結局……こいつを使うことはなかったな……)

 

 使われることもなく使用不可に近い烙印を押された股間の一物を、薄くなった性欲から寂しげに見つめる。

 

(ペロロンチーノさんがなんか言ってたなぁ。魔法使いになれるとかどうとか。本当になれちゃったよ……ぐすっ)

 

「どうかされましたか? モモンガ様」

「ああ、すまない。少し考え事をしていた」

 

 大きな喪失感を覚えるが、下品な思考を目の前の双子の前で考えていたことに、彼女たちの創造主含めてものすごい罪悪感に襲われてしまった。そして、またしても精神の動揺がアンデットの特性からか沈静化されてしまう。

 

「おや、わたしが一番乗りでありんすか」

 

 幼い少女の声と共に、闘技場の地面に影が生まれる。それは半円状にせり出すとともに、その向こう側から一人の少女が現れる。

 転移が阻害されているナザリック内で使用することのできる数少ない転移魔法である転移門(ゲート)の魔法を使い、現れたのは白磁のような肌をゴシックなドレスに納めた、モモンガもよく知る少女であった。

 

「よく来たな。シャルティア」

 

 アウラが何か言いそうであったが、モモンガは機先を制してナザリックの第一階層から第三階層の守護者である、シャルティア・ブラッドフォールンを出迎える。彼女を作成したペロロンチーノは、属性過多と言えるほどにシャルティアに設定を詰め込んでたなぁ、とモモンガは彼女がどんなキャラだったかを思い出そうとする。

 

「ああ、我が君。わたしが唯一支配できぬ愛しの君」

 

 シャルティアがモモンガの胸へとふんわりと飛び込んでくる。両手を首の後ろに回され、妖艶な表情をモモンガへと向けてくる。

 これが彼女の創造主であったなら、即座に陥落したであろうが、モモンガからすれば幼い子供が背伸びして見せているように思え、沈静化すら発動しなかった。モモンガはロリコンではないのだ。

 

「ちょっと、近すぎんじゃないの? モモンガ様に屍肉の臭いが移るわよ?」

「あら? チビすけ、居たんでありんすか? 小さすぎて分かりんせんでありんしたわ」

 

 ピキっと、そんな擬音が聞こえてきそうにアウラの顔が歪む。シャルティアはモモンガの首から手を離し、アウラと向き合う。その表情は嗜虐的な笑みになっており、微かに身長の低いアウラを見下していた。そんな二人からマーレはそそくさと距離を取り、モモンガもそれにならった。

 

「はん、あんたこそ、偽乳で盛ってて、それが崩れないようにって周りが見えないんじゃない? あそっかぁ、さっきも転移門(ゲート)で来たのは、その胸の詰め物が落ちないようにってこと?」

「な、な──」

 

 意外とアウラも言うなぁと、モモンガは無いはずの目を遠い目にして二人を見つめる。そんな間にも二人の言い合いは過激になり、お互いに罵倒の言い合いへとなっていく。

 

「おんどりゃあー! 吐いた唾は飲み込めんぞー!」

「上等よ! マーレ! 手伝いなさい! その偽乳、晒して笑ってやるわよ!」

 

 モモンガは二人のやりとりに、彼らの創造主である姉弟を重ねてしまった。マーレもおろおろとしており、そろそろ止めるかなと動き出そうとした時であった。

 

「サワガシイナ」

 

 明らかに人の声帯以外が無理矢理に人の言語を音として発したような声であり、物理的な冷気を伴って、二人の諍いも凍り付かせた。

 

「御方ノ前デ遊ビガ過ギルゾ」

 

 それは輝く甲殻を持った二足歩行の虫であった。ナザリック第五階層守護者である、蟲王であるコキュートスは、冷気を纏い二人を諫める。

 

「コキュートス、止めないでよ。この女が」

「そうでありんす。この小娘には一度教育しないといけないでありんす」

 

 それでもなお、二人はお互いに敵意を治めようとはしない。モモンガも、流石にそろそろ止めないとなと思った。支配者が配下を注意する時ってどんなだったけ、と自身の上司を思い浮かべ、そして思い出した上司のせいで沈静化を受けながら、できる限り低い声を意識してみる。

 

「……シャルティア、アウラ、戯れもその程度にしておけ」

『申し訳ありませんでした!』

 

 二人が怯えるように頭を垂れる。

 

(あれ? そんなにかしこまるなんて……ちょっと脅しすぎたかな)

 

「さて、よく来たな。コキュートス」

「オ呼ビトアレバ、即座ニ御前ニ」

 

 コキュートスと一つ二つ言葉を交わし、彼らの忠誠心が自分の想像以上に高いことにモモンガは不安を覚え始めた。

 

「皆さんすいませんねお待たせしました」

 

 そして、さらに赤を基調としたスーツを纏った悪魔、第七階層の守護者であるデミウルゴスがそしてその隣にはアルベドの姿が闘技場の入り口にあった。

 

「これで、私が呼んだものは全員揃ったな」

「はい、モモンガ様からお呼びのあった者は皆。では皆、至高の御方に忠誠の儀を」

 

 アルベドが号令をかけ、そして守護者たちがその後ろに整列し、並び立つ。

 

「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

「第五階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

「お、同じく。第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に」

「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

 

 シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴス。

 各階層守護者がモモンガの前に膝をつき、首を垂れる。その所作は幼い見た目であるアウラやマーレを含め、全員が堂に入ったものであった。

 

「守護者統括、アルベド。御身の前に」

 

 最後に全員より一歩前に出ていたアルベドが膝をつき、首を垂れる。

 

「第四階層守護者ガルガンチュア、及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。ご命令を、至高なる御方よ」

 

 モモンガは目の前の守護者たちにかつてないほどの緊張感を強いられていた。言葉を間違えてはいけないというプレッシャーがじくりじくりと無くなったはずの胃が痛むような気さえした。

 

「……面を挙げよ」

 

 モモンガの声に一糸乱れぬ動きで顔を上げる守護者たち、ひぇっとモモンガの動揺がまたしても沈静化で沈められる。さらには、つい絶望のオーラを発動させてしまう。

 

「よく集まってくれた。まずはそのことを感謝しよう。」

「感謝など……モモンガ様からの御命令があれば、それを忠実に果たすことこそ私たちの役目。お呼びがあれば集まるのは当然のことでございます」

 

(忠誠心高くね? 助けて、ラストさん! てか何してるのあの人! 時間もうかなり過ぎちゃってるのに!)

 

 今だ姿を表さないラストにモモンガは声にならない悲鳴を上げる。はたして、その願いが届いたのか。闘技場の入り口から見慣れた天使の姿が現れる。

 

「待たせてしまったかな、モモンガ」

「いいや、ちょうどいいタイミングだ。ラスト」

 

 モモンガは内心、遅かったラストを責めまくっていた。ラストの後ろに控えるように、セバスとナーベラルも闘技場へと姿を現す。ラストはモモンガがなんか凄まじいオーラを溢れ出してるのに目を剥きながらも、特殊技術(スキル)を使い恐怖耐性などを引き上げる。

 そんな動揺を押し殺しながらラストはモモンガの隣に並び立ち、セバスとナーベラルは守護者たちより一歩後ろに同様に膝をつく。

 

「っと、守護者たちももう集まっていたか。すまないね、皆、私が遅れたばかりに」

「そんなことございません! この身は至高の御方々に捧げた身でございます!」

 

 ラストの言葉にアルベドがいの一番に反応を返す。その必死な様子にちょっと引きながらも、ラストはモモンガと小声で会話する。

 

(えっと、どういう状況です?)

(いや、なんか、忠誠の儀って……と、とりあえず、報告をする流れに持っていきますね!)

 

「守護者たちよ。お前たちを呼んだのはほかでもない。今、このナザリックは未曾有の危機に見舞われているといって過言ではない。この事態に際し、お前たちは何か異変を感じることはあったか?」

 

 守護者たちの顔は一様に真剣であり、モモンガの言葉を一言たりとて逃さないという意思が伝わってくる。そして、誰も自身の守護する階層に異変はなかったと告げる。

 

「先ほどまで、セバスとナーベラル、そしてラストに外の様子を見に行ってもらっていた。この異変がナザリックの外まで及んでいるのかも含めて、な」

「ああ、随分とおかしなことになってたよ。周囲五キロの範囲で調べてみたけれど、草原と森しかなかったし、もっと範囲を広げれば別かもしれないけれど、ひとまずは特に脅威になる生物や知的生命体は居なかったみたいだ」

 

 モモンガは顎に手を当て、ユグドラシル時代に存在してありえ得る可能性を考える。

 

「そうか。天空城とか、ユグドラシルを思わせるものはあったか?」

「なかったね。空も満天の星空でとても綺麗だった、うん、すごく綺麗だったよ」

 

 さきほどまで見ていた夜空を思い出したのか、僅かに頬を緩ませる。天使の微笑みであったが、モモンガからすれば、遅れといて自分だけ星空満喫していたラストにイラっとした。

 このまま守護者への対応押し付けてしまおうか。そんなことを思いがむくりとかま首をもたげるが、何とか自制をする。

 

「んんっ! まあ良いものが見れたのならそれはよかったな。ふむ、そうだな。アルベド、ナザリックの運営システムに関してだが────」

 

 そのままアルベドたちにひとまずのナザリックの警戒態勢の指示を出すと、モモンガは最後の確認をするために守護者たち全員とセバス、そしてナーベラルを眺める。

 

「ひとまず、この後は指示通りに動いてもらうこととなるが。最後に、お前たちに聞いておきたいことがある。シャルティア─────お前にとって、私たち二人はどんな存在だ?」

 

 さらっと聞きにくいことを聞きにいくなぁと、ラストは思っていたが、その他人面した内面はすぐに打ち破られることとなる。

 

「モモンガ様は、まさに美の結晶。この世界で最も美しいお方であります。その白きお体に比べれば、宝石すらも見劣りしてしまいます。そして、ラスト様はまさに明けの明星と呼ばれるに相応しい、何よりも尊い至高の天使であります」

 

 おや? とモモンガとラストの思考がシンクロする。

 

「──コキュートス」

「モモンガ様ハ守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シキ方カト。ラスト様ハソノオチカラヲ無為ニハ振ルワヌ義ニ溢レル御方カト」

 

「────アウラ」

「モモンガ様は慈悲深く、深い配慮に優れたお方です。ラスト様はその愛を以て世界を包み私たちを見守ってくれるお方です」

 

「──────マーレ」

「も、モモンガ様は凄く優しい方だと思います。ラスト様も、凄く優しい方です」

 

「────────デミウルゴス」

「モモンガ様は賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力を有される。まさに端倪すべからざる、という言葉がふさわしいお方です。ラスト様も同様に聡明であり、その賢智は遥かな地平を見渡すの如き。まさに天上よりすべてを見通しておられるお方です」

 

「──────────セバス」

「至高の方々の総括に就任されていた方。そして最後まで私たちを見放さずに残っていただけた慈悲深き方です。ラスト様もその無償の愛を我々に注ぎ、我が子のように大切にしてくださる方です」

 

 モモンガの目がこの中で唯一レベル一〇〇ではなく、他の者たちより一段低い立場であるナーベラルへと向けられる。

 

「─────────────ナーベラル」

「私如きが守護者の方々と並んで語るべきではないと自覚しながらも述べさせていただくならば、モモンガ様は死の支配者にして私たちの絶対の主として相応しいお方であり、ラスト様も至高の天使であり、その威光は地平の彼方まで輝き、その光は今も私の身を忠誠という炎で焦がしてしまいます」

 

 もうお腹いっぱいですモモンガさん。私もです。でもこの中でアルベドだけ聞かないわけにはいかないじゃないですか。

 伝言(メッセージ)ではなく、アイコンタクトでそれだけをやりとりする二人であった。

 

「最後になったが、アルベド」

「モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人たちであります。ラスト様も最後まで私たちを見守ってくださる尊きお方です」

「……そうか。お前たちの忠誠、嬉しく思う。これからも、その意気込みでナザリックのために励んでくれ」

「さて、私たちは二人で話すこともあるし、九階層に戻ろうか。皆、よろしく頼んだよ。セバスとナーベラルは付き合ってくれてありがとうね」 

 

 それじゃあ、と言い、ラストの姿が消える。続くようにモモンガの姿も目の前から掻き消えてしまう。

 二人の姿は闘技場から円卓の間へと移っており、周囲に誰も居ないことを確認してから二人は揃って大きく息を吐く。

 

「疲れた……」

「なに、あの高評価」

 

 何一つ自分の自己評価と合致しない守護者たちの言葉に、二人は笑い飛ばしたくなっていた。しかし、先ほどの彼らの表情を思い出し、それが絶対に冗談で言ってる様子でなかったことは察していた。

 ─────────つまり、マジであった。

 

「これからどうすんだよぉ、モモンガさん。俺あんなかしこまられて生活するなんて無理だよぉ」

「泣かないでくださいって……ああもう、泣きたいのは俺ですよ。それより、これからのことですよ。いや、NPCたちのいやに高い評価も捨てておけないですけど」

 

 一緒にゲームをプレイしていた頃から、すぐに泣く涙もろいラストの様子に、さらに自分の不安を煽られてしまうモモンガだが、アンデットの特性である精神の鎮静化が冷静な思考を取り戻してくれる。

 

「うぅ……少なくとも、他にユグドラシルのプレイヤーは居なさそうでしたよ。ほんと、旧時代の自然って感じでした。あの星空は一度は見てた方がいいです」

「あ! そう! 時間遅れたでしょラストさん! 何かあったんじゃって焦ったんですからね!?」

 

 心配したし、守護者たちの目の前に一人で立ち会ったときのプレッシャーから少し怒る様にモモンガは黒い威圧を出す。ラストはたらりと汗をこぼす、特殊技能(スキル)では無効化できない素の動揺から来る冷や汗であった。

 

「それは……すいませんでした。でもブルプラさんのこと思い出して。もっとちゃんと話聞いておけばよかったなって思っちゃって」

「……そうですか。まあ、ひとまずこの辺りは敵は居ないって感じですかね。でも、油断はできないですよね。この世界のレベル一がユグドラシルのレベル一〇〇とかだったら洒落にならないですし」

 

 どんなに警戒をしたところで、この非常事態ではし足りないと言える。そう考えれば、ラストをセバスたちと行かせたのは軽率だったかもしれないとモモンガは反省する。だが、この周辺に脅威がないことも分かり、同時にラストを向かわせてよかったとも思っていた。

 

「そうですね。すいません、こんな時に心配させちゃって」

「ほんとですよ、もう。もう怒っちゃいませんけど」

「それじゃあ、これからどうするかですね」

「そうですね。先ずは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残された守護者たちは、支配者たちが姿を消すとともに、そぞろに立ち上がってお互いに向き合う。

 すぐ前まで、目の前には死の重圧が物理的な重みを伴ったのではと思えるほどの気配があったのだ。その表情はたった今緊張から解放された安堵にも近い表情とその威光に敬服しきりの表情が混在していた。

 

「いやー、緊張したなぁ」

「そ、そうだね、お姉ちゃん。すごく怖かったよ」

 

 モモンガとラストは気付かなかったが、モモンガが持つスキルの一つである<絶望のオーラ>を発動させていた。それは本来同レベルである守護者やセバスには効くはずのスキルではない。

 しかし、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンにより強化された結果、耐性を貫通して効果を発揮していたのだ。

 

「しかし、なぜナーベラルは無事だったの?」

 

 自身たちでも押しつぶされてしまいそうになっていたオーラは、レベルで劣るナーベラルであれば素の耐性では即死してもおかしくないと思えた。

 アルベドの疑問はまっとうであり、アルベドがセバスの方を見ても心当たりはないと首を横に振った。

 

「恐らくはこれのお陰でしょう。流石ラスト様、そのお優しさはまさに福音そのものと呼ばれるお方だ」

 

 デミウルゴスがナーベラルの背中に付けられていた一つの羽根に目を付ける。純白の淡く輝くソレは、守護者たちもよく知っているものであった。

 

「それは、ラスト様の羽根!?」

「ナゼ、ナーベラルガラスト様ノ羽根ヲ」

 

 彼らのもう一人の主であるラストが羽を与えることによって加護を与えていたのだ。そして、その加護がナーベラルの耐性を守護者レベルにまで引き上げていたのだ。

 天使であるラストは加護を与える特殊能力を多数持っており、その効果も種族として天使を極めたラストのものは非常に強力な加護となっている。

 

「う、羨ましいなぁ」

「も、申し訳ありません!」

 

 自身よりも位の高いマーレから羨ましがられ、ナーベラルは身を縮こまらせてしまう。そして、自身ですら気づかない内に加護を授けてくれていたことに深い感謝と僅かな、言いようのない優越感を抱いてしまった。

 

「ところで……静かですね。どうかしましたか、シャルティア?」

 

 そんなナーベラルの様子から、気を利かせたデミウルゴスが話題をそらすため、未だ膝をついたままのシャルティアへと話を振る。

 微かに痙攣するシャルティアが頬を上気させ、その表情は陶酔するように蕩けていた。

 

「モモンガ様の凄まじい気配を受けて、下着の中がすこぉしまずいことになっているでありんす」

「……」

 

 思いもよらなかった回答にデミウルゴスを含め、周囲の空気が静まり返る。

 

「このビッチ」

 

 アルベドからの軽蔑を含んだ表情でシャルティアを見下ろしていた。

 

「はぁ? 超絶美形のモモンガ様から、あんな力の波動、ご褒美を受けておいて、濡りんせん方が頭おかしいでありんす! この大口ゴリラ!」

「ヤツメウナギ!」

「この姿は至高の御方々に作られたものでありんすぇ!」

「それはこっちも同じことだけどぉ!」

 

 ヒートアップするように、周囲にオーラをばら撒く二人。その様子に処置無しとデミウルゴスはため息を一つつく。女性の諍いに首を突っ込んで、いい結果に終わることなどないのは彼の聡明な頭脳には察せらた。

 

「あー、アウラ、ナーベラル。女性のことは女性に任せるよ」

「ちょ! デミウルゴス!?」

「デミウルゴス様!?」

 

 デミウルゴスやコキュートス、マーレとセバスたち男性陣は、女性たちの喧騒から距離を取る。

 二人の諍いをどうにか諫めようとあたふたするナーベラルの背中、もっと言うなら、その背中に添えられている純白の羽根を見て笑みを深める。

 

「全ク、喧嘩スルホドノコトカ」

「個人的には、結果がどうなるかは気になるところではあるけどね」

「どういうことですか?」

 

 デミウルゴスはその丸眼鏡の奥の瞳をより細め、マーレに諭すようにする。

 

「偉大なる御方の後継はあるべきだろう? モモンガ様にしても、ラスト様にしても、最後までこのナザリックに残られた方ではあるが、他の方々のようにいつかこの地を去られるかもしれない。そんな時に、我々が忠誠を誓うべきお方を残していただければ、とね」

「ソレハ不敬ナ考エヤモシレヌゾ?」

 

 コキュートスが冷気を吐き出しながら、友の言葉を諫めるように言う。

 

「ただ、モモンガ様やラスト様のご子息にも忠義を尽くしたくはないかね?」

「ソレハ……!」

 

 コキュートスの脳裏に自身が偉大なる御方の子どもの教育係としての未来が映る。

 自身が剣技を指南するところ。敵を目の前に、その子どもを背に戦うところ。そして、成長した子供に忠誠を誓う自分。

 

「オォ……素晴ラシイ……素晴ラシイ光景ダ。……爺ハ……爺ハ……」

 

 自分の世界に入り込む自身の友の姿に、デミウルオスは嘆息を一つ零す。

 

「ラスト様は、ナーベラルがお気に入りになられているご様子ですね。いやはや、ナザリックの未来は明るいですね」

「え、えぇ! や、やっぱりラスト様のお羽根ってそういう意味が?」

「ラスト様がそのお優しさから、モモンガ様の御威光にナーベラルが押しつぶされないようにとも考えられるけど。以前、私の創造主であるウルベルト様がラスト様のことを『ポニーテール好き』とおっしゃられてもいたからね。可能性は、充分にあると思われるよ? コキュートス、いい加減戻ってきたまえ」

 

 マーレからすれば、寝耳に水のような話であった。しかし、確かにラスト自身も髪型はポニーテールにしているし、ありえない話じゃないだろうとも思えた。実際には先ほどナーベラルに特殊技術を使用したときに、つい他の加護系の特殊技術(スキル)も諸々ナーベラルに付与していただけである。

 コキュートスも、デミウルゴスから声をかけられてトリップしていた思考を引き戻す。数度頭を振るい、名残惜しくもその幻想を振り払った。

 

「良イ光景ダッタ……アレハマサニ望ム光景ダ」

「そうかね? それは何よりだ。アルベド! シャルティア! まだ喧嘩をしているのかね?」

 

 女性陣もそろそろ帰ってきてもらい、アルベドには守護者統括として指示を出してもらわないといけない。デミウルゴスはそう考えて女性陣に声をかける。

 

「喧嘩は一段落したよ。モモンガ様のオーラはご褒美、ラスト様の御加護もご褒美。濡れる? ってのも仕方ないってさ。どういう意味か私はよくわからないけどね」

 

 アウラは少し理解が足りない部分があるようだが、ひとまず話は着地点にたどり着いたようだとデミウルゴスは眼鏡を押し上げる。

 

「今はモモンガ様とラスト様、御方々が誰を第一夫人とするのかを話しているでありんす」

「……」

 

 それ、君たちじゃ延々と終わらない議題にならないんじゃないか? デミウルゴスはそう言いそうになったが、目の前の筋力系女性陣を前になんとかその言葉を喉に押し戻すことができた。

 

「あー、その話は非常に重要なものだろうが、ひとまずはモモンガ様からの御命令を果たすべきじゃないかな? 守護者統括殿」

「そうね。それじゃあ────」

 

 アルベドの指示に従い、守護者たちは動き出す。

 すべては、このナザリックに残られた、最後の至高なる御方たちのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ、モモンガさん。お腹空いたけど、一緒に食堂に行かない?」

「飲食できない俺へのあてつけですか!? だからあんたは綺麗なるし★ふぁーなんだよ!」

 

 なお、ラストが現実(リアル)では味わえなかった美食に涙を流し、食堂の一般メイドたちを困らせたのはまた別の話であった。




 モモンガ様が綺麗なるし★ふぁーというのは、「空気が読めない」「人の心をもっと察せ」「反省はするがたまに悪乗りが過ぎる」、種族を天使で統一してたオリ主への暴言としてユグドラシル時代から使ってたものです。
 周りの仲間たちも面白がって使っていました。

 ここからできる限り独自展開へと引っ張っていきたいと思います。
 感想、評価など、これからもよろしくお願いします。
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