さて、お待たせしました。第三話となりますが、この辺りからアルベド様やデミえもんがアップを始めます。
では、駄文ですが、よろしくお願いします。
ユグドラシルが終了し、ラストとモモンガがこの世界にナザリックごと放り出されてから丸一日ほどが経過した。
彼らは自分が自室から出れば、常に儀仗兵が付いて廻るのにちょっとドン引きしながらも、慣れてきたのか支配者ロールをしたりして意外と二人ともこの世界を満喫していた。
「そういえば、モモンガさん、この世界でひとまずプレイヤーとしての力が使えるってのは分かりましたけど。なんか違和感とか感じませんか? 特にモモンガさんって、アンデットですし」
「今度はどうしたんですか……まあ、食欲も睡眠も感じないので、確かに人間の頃とはだいぶ勝手が違いますね。こんな能力、
「あったとしても戻りたくはないですけどね」
「それはそうですね」
軽く笑い合う二人だったが、ラストは内心では懸念していた。
自身は食事も睡眠も性欲もばっちりと存在している。むしろ、ただの人間だったころよりも健康的な身体になったと言えるし、せいぜいが背中の翼を動かす感覚にテンションが上がったくらいだ。天井にぶつかってモモンガに怒られたが。
だが、モモンガはどうだ。人間の三大欲求が全滅しているではないか。眠ることも、食事に舌鼓を打つことも、可愛い女の子に胸を熱くすることもないのだ。そのことが、モモンガという個人に一体どういう影響を与えてしまっているのか計り知れない。
少なくとも、ラストは危惧していた。このことがモモンガに何らかの変調を齎しているのではないのか。
「……モモンガさん」
「ん? どうしました? あ、あと、流石に儀仗兵たちを戦わせるってのは止めておきましょう。あれはナザリックの大切な子どもたちみたいなものですし、そんな遊び半分で俺らが戦わせたりすべきじゃないです」
「そうですね。お互い悪乗りが過ぎました」
ナザリック、ひいてはアインズ・ウール・ゴウンを想う気持ちに変わりはないことが救いか。
ラストは自分の中にある思いをひとまず封印する。考えたところでどうしようもないからだ。宝物殿にある”アレ”を使えばどうにかなるかもしれないが、それは最終手段である。
「ふぁ……」
ふと、ラストの口からあくびが漏れ出た。天使となった体は人間だったころと比べるもなく、数日くらいなら眠ることなく万全な体調を保つが、人間であった頃の習慣が生きているのか、じわりと睡魔が忍び寄ってきていた。
「ああ、ラストさんはそろそろ寝ますか? もう丸一日寝てないってことですし」
「そうですね……ふぁ、でも、こんな高そうなベッドで寝れるかなぁ。モモンガさんはどうするんです?」
「そうですね。
「……」
眠りに就けない、それは残酷なことなのではないのか。ラストは平然としているモモンガに、そう思ってしまった。
モモンガさんは、大丈夫なのだろうか……。
こんなネガティブな思考をしてしまうのは眠いからかもしれない。ラストは小さく左右に首を振り、モモンガに「おやすみなさいー」と言いながら自室へと向かうことにした。寝て起きれば、すっきりとした思考がもっといい答えをくれるだろうと思いながら。
「ほんとに眠くもならないしお腹も空かないな……」
モモンガはラストが自室から出て行った後、頭蓋になった頭に指を手に当てながら自身に起きた変化を考えていた。それはラストが考えたことでもあり、二人の危惧していたことはまたしてもシンクロしていたのだ。
そして、モモンガはどうしたものかと頭を悩ます。
睡眠が必要なラスト、必要のないモモンガ。食事の必要なラスト、必要のないモモンガ。
性欲があるラスト、ほとんど性欲が無くなったモモンガ。
「最後のが一番酷くないかな」
モモンガはどこか不公平じゃないかと思うのを止められなかった。
「っと、言ってても仕方ないか。寝る必要や食事がないってことは便利は便利なんだし」
モモンガはアイテムボックスから
「……」
しかし、思うように動かせなかった。ユグドラシル時代であれば、パネルをタッチするだけで動かすことが出来たが、現実になってしまった以上、そんな便利な機能は存在していなかった。
(ラストさんも寝たし、どうせ時間はあるから、気長にするかぁ)
手を振ったり、指を振ったり、モモンガは鏡の向こう側の視界を動かそうとする。
そんなことをしばらくしたのちに、適当に手を動かしたときに、視点が大きく切り替わる。
「……ん? 廃村? 人は居るのか……?」
切り替わった視界の中、モモンガは鏡の向こう側に破壊されつくした小さな村のようなものを見つけた。
家屋は焼き払われたのか、多くが無残に崩れ去り、村の畑らしき場所は灰が積み重なり微かに煙を立ち昇らせている。
「……」
そして、その村の中にはちらほらと人の死体のようなものさえあった。本来であれば、本来の鈴木悟であれば倒れた人の姿に声を上げていただろう。
しかし、モモンガは何の感情も抱かなかった。
道端に虫の死骸があったところで、心を揺り動かされることのないように。ただただ、そこに亡骸があるな、ということしか考えられなかった。視点を街の中心に切り替えれば、そこには折り重なるようにして、無数の亡骸が無造作に打ち棄てられていた。しかし、それすらもモモンガの心を揺り動かすことはない。
背筋が凍り付かせるような感覚に襲われた。自分が本当にアンデットとなってしまったせいではないのかと、人間を既に同族であると見れなくなってしまっているのではないかと。
モモンガは自身の掌を見つめる、肉が削げ落ち、骨だけとなった手の平だ。死者となっても、なお何かを求め続けた
なんだ、化け物じゃないか。どこが人間なんだろうか。
モモンガはその手の平を握り、顔を上げる。もうすでに化け物になったのなら、人間の死に何の感情も抱けないのは道理だと、こんな感慨を抱くのも鈴木悟だった残り滓のせいだと。
そして、顔を上げたモモンガは、めいっぱいまで顔を寄せていたラストと目が合った。
「ふぁあっ!?」
どアップだったラストから飛びのくようにしてモモンガが仰け反る。ラストは悪戯が成功したとばかりにくつくつと喉を鳴らす。
「おはよう、モモンガさん。悪い夢でも見てました?」
「悪い夢って……寝たんじゃなかったんですか、ラストさん。心臓が飛び出すかと思いましたよ」
「飛び出す心臓ないじゃないですか、モモンガさん」
「いやまぁ、あえて言うなら……この宝玉?」
「アンデットジョークかな」
ラストはモモンガの自室の椅子を、モモンガの側に持ってきて座る。
「そういや、ラストさん寝るんじゃなかったんですか?」
「いやー、そう思ったんですけどね。なんか勘が囁いたんですよ、これも
ラストの持つ
「天使の勘ってやつですかね。ぼんやりとこうした方がいいって」
「うーん、自分の
軽口を言い合う二人だったが、ラストはモモンガから目を離し、
モモンガは見られたくないものを無理矢理に暴かれた気分だった。見てほしくなかったとも言う、ここに居るのはラストの友であるモモンガではなく、一人のアンデットのモモンガでしかないのだと、そう思ってしまうから。
「人が、死んでますね」
積み重なった亡骸をラストはその美しい表情で見下ろす。そして、モモンガへと目線を戻す。その目に射竦めるように、モモンガの、鈴木悟であった人の残滓が悲鳴を上げた。
自分が人の死に何の感情も抱けなくなったことは、目の前のラストにとっては理解しがたいことなのかもしれない。もしかしたら、その無情な心に憤慨してしまうかもしれない。
もしかしたら、こんな人外を見放してどこかへと行ってしまうかもしれない。
まるで、判決を待つ罪人のような気持ちだった。顔を俯け、ただ天使に赦しを乞う罪人のように。
見捨てないで欲しい、こんなになってしまったけれど、君にだけは隣に居てほしい。
皆に置いて行かれた自分には、このナザリックと君しかないのだから。
「モモンガさん」
天使の手が肩に置かれる。優しく、骨のみの人外と成り果てた身体に滲み込むように、心が熱を持つ。流せぬはずの涙を、心が流す。
天使は傲慢な存在である。自分勝手に罪を定め裁く者である。
「あなたの罪を、私は赦しましょう。あなたの罪を、共に背負いましょう」
罪とは人の死へ不感となったこと。罪とは人であった頃の残滓をないがしろにしたこと。罪とは己を愛さぬこと。
罪とは一瞬でも友を疑ったこと。
しかし、
「私はあなたの友だから。あなたは私の友だから」
「実際のところ、俺も人の死には感じ入ることはあまりないんですよね。むしろ、これを引き起こした、つまり、無辜の迷い子を虐殺した者に断罪を振り下ろしたくなる程度で」
「なんか天使っぽいですね。私も、アンデットになったせいか。虫が死んでるなー的な感想しか抱けなかったんですよ」
「虫って……例えがひどい……もっとこう、犬とかペットにしてあげましょうよ」
「そういう問題ですか……?」
『天上の住まう者だけに許された天啓とも呼べるスキル。このスキルは所持者自身の身に降りかかる危険を感じ取るだけではなく、迷える者や悩める者を所持者に教えることもある。その者の福音と為れるのはこのスキルの所持者だけである』
ただ、ラストはこの効果をモモンガに語ることはないだろう。
エンリ・エモットの朝は早い。
ただの農村であるカルネ村にとって、エンリの年齢では立派な働き手の一人であり、重要な労働力であるからだ。
朝早くに井戸から一日の糧となる水を運び、両親や妹と共に家事や家の畑仕事を手伝う。
平凡な村娘の一日の始まりである。今日も昨日と同じように、平和な、それでいてかけがえのない日々となるだろう。
しかし、その日は違った。
エンリは初め、理解できなかった。地を揺らす音と、その意味を。
けたたましい蹄の音だと気付くころには、遅すぎた。
その音と村の異変に父親が焦る様にして妻と、エンリたち子どもたちを家から押し出した。
「エンリ! ネム!」
エンリが家を飛び出した瞬間、母親に妹とまとめて押し倒された。腕の中に妹を抱え、倒れ込んだ衝撃から息が漏れる。
生温かい、どろりとした物がエンリの顔に垂れてきた。しかし、思わず目を瞑ってしまった彼女にはそれが何かは最初分らなかった。
「逃げろ! エンリ!」
父親の声に、エンリは顔を上げる。
エンリの体の上には、母親が覆いかぶさっていた。その顔は、いつも通り優しい笑みだった。
「逃げなさい……エンリ……ネムを連れて……!」
母の向こう側に剣を振りかぶる男が居た。ぼうっとした思考が、冷や水をかけられたように凍り付く。
お母さん、とエンリが言うよりも早く、その剣は振り下ろされた。母の身体が揺らぐ。
肉が割け、骨を打つ音がエンリの耳まで届く。しかし、母親は歯を食いしばり、少女とその妹の上からどくことはしなかった。
母親として、血が滲ませながら、愛する者を守るために声を吐き出す。
「いきなさい! エンリ!」
母の怒声に、少女の身体が弾かれるように動く。火事場の馬鹿力というべき力で、母親の下から自分ごと妹を引っ張り出す。
涙がこぼれた。家族を置いて逃げることと、手を握る小さな妹と、どうしようもない自身に。
しかし、足が止まらない。エンリは、最後にちらと両親へと目だけを向ける。父親は鎧を着た男に組みつき、周囲へ怒鳴り散らしていた。鎧の騎士たちがそちらへと注意を向け、血に濡れた剣を手に父へと群がっていく。
笑っていた。優しい、頭を無骨な手で撫でてくれた父親の顔だった。
笑っていた。優しい、子守歌を歌ってくれた母親の顔だった。
「……あぁ……! あぁあああ……」
両親の願いを、エンリの身体は忠実に実行する。ただ、その目からは止めどなく涙が流れ落ちた。
「モモンガさん、そろそろ話に決着を付けよう」
「そうですね。いつまでもこうして言い合ってても仕方ないですし」
ラストとモモンガは円卓の間でも、自室でもなく、ナザリック九階層内にある会議室で今後について話し合っていた。
しかし、話し合うと言っても一つの議題の是非を問うているだけであるだが。
それはナザリックの外へ進出するか否か。
ラストは先日見た村の惨状から、今すぐにでも外部調査を行い、無法者へ断罪を下すべきと考えており、モモンガは軽率に動くべきでなく、少なくとも、その無法者たちを遠隔から捕捉、実力を調査してからと主張しているのだ。
この世界での初めの議題は紛糾した。お互いがお互いに理があり、譲れぬものがある以上、話は平行線上を辿っていた。
「それじゃあ、守護者たち呼びましょうか」
「確かにアルベドやデミウルゴスなら絶対俺らよりも賢いし」
モモンガはアルベドに<
「アルベドか。今、時間はあるか?」
『モモンガ様!! 大丈夫でございます、たとえどんなことがあろうとも、御方の御言葉より優先されることなどはありません!』
「そ、そうか。今すぐ守護者たちを九階層の会議室に集めてくれ。ラストと話をしていたのだが、お前たちの意見も聞きたくてな」
『そんな! 私ども程度の意見など……! 深淵なる思考をお持ちのモモンガ様と総てを見渡す目を持つラスト様に必要などとは……』
はぁとモモンガはため息をつきたくなった。
(どんだけ超人みたいに思われてるんだろう。ただ骸骨になっただけの凡人なのに)
「構わん、それでもお前たちの意見を聞きたいのだ」
『……畏まりました。すぐに守護者各員に召集をかけさせていただきます』
アルベドがそう言った後に、モモンガは<
「相変わらずです? アルベドたち」
「ええ……俺たちは深淵なる思考と総てを見渡す目を持ってるらしいですよ?」
「ワロエナイ」
そろそろ守護者たちが来ると、二人は支配者ロールを始めることにする。最近はこの支配者ロールも板についてきたし、守護者たちやシモベの気配を察して自然と支配者ロールへシフトできるようになってきていた。
「お待たせしました。モモンガ様、ラスト様」
「よく来た、デミウルゴス」
「よく来たね、デミウルゴス」
一番初めに姿を現したのは階層的にも距離が一番近いデミウルゴスであった。恭しく礼をするスーツの悪魔はやり手の営業職のように優し気な笑みをな浮かべており、ノックから入室して膝をつくまでの一連の所作も洗礼されたものであった。
その後ろにはナーベラルが控えており、彼女もデミウルゴスより一歩後ろに膝をつく。そのことにラストとモモンガが訊ねるよりも先に、デミウルゴスが顔を伏せたままに喋り出す。
「モモンガ様、ラスト様、申し訳ありませんが、ナーベラルをこの度の会議の末席に加えることをお許しいただけないでしょうか?」
「ああ、構わない」
「うん、私もかまわないよ。むしろ歓迎さ」
モモンガもラストも何で連れてきたんだろうと内心で首をかしげるが、それを顔には出さない。
しかし、デミウルゴスは我が意を得たりとばかりに、その笑みを深める。
「流石は至高の御方々、私の浅慮など、お見通しであらせられましたか」
(分かります? モモンガさん)
(全然分かりません)
「ほう、デミウルゴス。よければ聞かせてはくれないか? お前が浅慮と言っても、私たちは実際にお前の言葉でお前の考えを聞きたいのだ」
「ああ、そうだね。しかし、デミウルゴス、君はナザリックでも随一の知恵者なんだから、浅慮なんて変に遜らなくてもいいのさ」
なんとか、なんとかデミウルゴスの意図を支配者としての尊厳を失わずに聞き出そうとするモモンガと、何とか守護者たちの自己評価というか、自分たちとの比較評価を修正しようとするラストである。
「では、僭越ながら────」
デミウルゴスが伏せていた顔を上げ、手に胸を当てて答えようとした時に、会議室の扉がノックされる。
「お待たせしました。モモンガ様、ラスト様。アルベド以下各階層守護者を招集しましたので、ご入室の許可を」
「ふむ……すまないな、デミウルゴス。また、後で聞かせてもらってもいいか?」
「是非もなく、御身の御言葉のままに」
「いいよ、入っておいで、アルベド」
ラストの声に、扉が開かれて守護者たちが入ってくる。アルベドはデミウルゴスの後ろに控えているナーベラルに顔を少し歪めさせる。ナーベラルはすまなさそうな表情をアルベドへと向けながらも、顔を伏せる。
「デミウルゴス? なぜナーベラル・ガンマをここに呼んだのかしら? 至高の御方は守護者たちをお呼びになられたのよ?」
「モモンガ様とラスト様には、ナーベラルの同席の御許可はいただきましたよ。アルベド、それに、貴女なら私がナーベラルを呼んだ意味を理解できるでしょう?」
「そう……分かったわ」
(分かります? ラストさん)
(全然分かりません)
「んん! まずは、先日からお前たちの働き、その忠勤への感謝を述べさせてもらおう」
「そんな! 感謝など! 私どもは至高の御方のために創造された者たち、その役目を果たすことは当然の義務でございます!」
「アルベド、それでもさ。私たちのための働いてくれる愛し子へ、私たちからの感謝という愛を届けさせてくれ」
「ら、ラスト様……!」
ラストは上座から一歩アルベドに歩み寄り、その肩に手を当てる。労いと親愛を伝えるつもりだけだったが、アルベドが微かにナニカを堪えるように小刻みに震える。
(あれ? 選択ミスった? やっぱり女性に軽々しくボディタッチは軽率だったかなぁ。上司からのお疲れの肩ポン的なイメージだったんだけど……セクハラで訴えられそうだな……)
ラストはロールプレイに夢中になり過ぎたと冷や汗をこぼす。翼の付け根当たりに汗とかが溜まってしまいそうな感覚にさいなまれながらも、表情を微笑から動かすことなく、元の位置へと戻る。
「あー、それで、お前たちを呼んだのはほかでもない。私とラストでは、現状結論が出せていない議題があってだな。お前たちの意見が聞きたくて呼んだのだ」
モモンガの言葉に、アルベドとデミウルゴス以外の者たちがざわついた。至高の存在である、モモンガとラストを以てしても結論が出ない話題に、一同に緊張感が走る。
「そ、それは一体どんな議題なんですか? モモンガ様」
「至高の存在である御二方が答えを出せない議題に、わたしたちの知恵が役立つでありんしょうか……」
アウラとシャルティアの戸惑う様子に、ただ外に行くのにどうするか意見聞きたいだけなんだよなーとモモンガとラストは大袈裟だと思った。
「現在ナザリックが別の世界へと転移したことは知っているな? 私は先ほど、この世界で人間たちの集落だったものを発見したのだ」
おぉ、と守護者たちとナーベラルが声を漏らす。このナザリックから出ることなく、至高の存在たちはこの世界の調査を行っており、その成果をいの一番に生み出したのだ。
実際はアイテムを使って、適当に操作してたら見つけただけだと、モモンガは口が裂けても言えなかった。
「しかし、そこは何者かが破壊しつくした後であり、生存したものは確認できなかった。私とラストは、この世界に進出するに当たり、この破壊を行った者、もしくは者たちを警戒し、どう動くかを決めかねていたのだ」
「ああ、この世界への一歩となる大事な選択だからね。私は積極的な調査を行い、その破壊者を捕捉、可能なら撃滅すべきだと思い、モモンガは遠隔的な調査を行い、対象の大体の戦闘能力やレベルを計ってから動くべきだと思った」
「そして、ここで議論が尽きず、お前たちの意見を聞きたいと思った次第だ。各員の意見を聞かせてくれ」
モモンガとラストの言葉に、一番に反応をしたのはアルベドだった。その顔は紅潮しており、息も荒い、口が僅かに広がっており、その目は陶酔染みた色に満ちている。
「至高の御方がなんら恐れることはありません。ナザリックの軍勢を以てすれば、その破壊者の補足から撃滅、捕獲まで思いのままでしょう。御身はただ、玉座よりご命令をしていただければ、全て私どもで解決いたしましょう」
「なるほど、確かにそうだ。隠密に長けた者もナザリックには居るから。そのシモベたちを使うのもよさそうだ。ありがとう、アルベド。貴重な意見だ」
「く、くふー!! 勿体ないお言葉です!!」
モモンガとラストは自分たちが行くつもり満々であったが、確かにアルベドの言う通り、シモベたちを使うことも可能であった。ラストがセバスとナーベラルを連れて外に出たことをすっかり二人とも忘れていたのだ。
「では、僭越ながら、私からも」
「よかろう、デミウルゴス。話してみろ」
「はっ、至高の御方がにおかれましては、この世界においての一歩を慎重になさる必要があると愚考しますが、それ以上に、この破壊者を利用し、この世界への足掛かりとするべきだと考えさせていただきます」
「ほう……」
デミウルゴスの言葉に、モモンガは興味深そうに骸骨の奥の目を光らせる。ラストも目の前の知恵者の悪魔がどんな知恵を出してくれるのか、期待と興味から翼を一度揺らす。
「その破壊者が村を破壊していたということは、なんらかの戦力的な組織であることが考えられます。つまり、盗賊などではない限り、この者たちの背後には国家という者が存在しているということが考えられます。彼らと接触するときには、そのことを考慮しなくてはいけません。ですが、これは逆に捉えれば、その国に関しての情報や、交渉の材料になると考えられます」
するときには、そのことを考慮しなくてはいけません。ですが、これは逆に捉えれば、その国に関しての情報や、交渉の材料になると考えられます」
「……」
「……」
「彼らへの姿勢は戦闘能力次第ですが、友好的にまたは敵対的に接触をし、この世界の情報を引き出すべきかと」
二人からしてみれば目から鱗であった。村を破壊した者たちから情報を引き出すまで考えが至らなかったのだ、彼らの破壊者としての側面しか見ておらず、撃滅や放置などばかりを考えていた。
感心しきりの二人の様子を知ってか知らずか、デミウルゴスの口は止まらない。
「さらにですが」
(まだあるの!?)
(お腹いっぱいだよデミえもん!)
「彼らが断続的に破壊行動をする、もしくは複数の村を襲っており、これからも襲うというならば、私からの一つ策としましては、村を襲う彼らを確保、この世界での情報源とするとともに、我々が救出した村を一先ずのナザリックの出先機関として利用することができるでしょう」
「……なるほど、素晴らしい考えだ。デミウルゴス」
「いえ、この程度のことならば、至高の御方々ならばお考えでしたでしょう」
(ですって、モモンガさん)
(他人事じゃないですよ。ラストさん)
「では、アルベドとデミウルゴスの意見を考慮し、隠密に長けたシモベを放ち、調査を進めるようにし、その後、彼らの動きに合わせて、我々は交渉、または彼らが村などを襲った場合は救世主として村を接収する目的を持って動くこととする」
『はっ!』
「シモベの指揮はデミウルゴスに一任する。補佐には、アウラを付ける。こちらの存在を悟られぬことを優先し、情報の報告を密に行いようにせよ」
「御身の御言葉のままに」
「はい! 頑張らせていただきます!」
デミウルゴスが恭しく、アウラが元気に返事を返す。そんな二人を羨ましそうに見ていたアルベドに気づいたラストがいいことを思いついたと、またしてもアルベドの元へと近づく。
そして一つの指輪をアイテムボックスから取り出し、アルベドへと差し出す。
「そうだ、さっきは感謝の言葉だけ言わせてもらったけど。やっぱりきちんとした形で褒美を渡した方がいいだろう?」
「こ……これは……! いけません! これは至高の御方々にのみ許された指輪、私たちのようなものが身に着けるには分不相応でございます!!」
前々からモモンガとラストは話し合っていたことがあった。
純戦闘職であるアルベドでは、転移が阻害されているナザリック内で自由な転移を行うことができない。守護者統括としての職務を果たすうえで、そのことは大きな障害となっているのではないだろうか? と思っていたのだ。
転移してからの守護者たちの中でもアルベドの功労はきちんと評価しないといけないものと二人は思っていたし、その褒賞としてもふさわしいものだと、渡すこと自体は二人の間でほとんど決定していたのだ。
「モモンガとは前々から渡そうって話していたんだ。守護者統括の仕事をする上じゃあったほうがいいものだしね。よかったら、受け取ってほしいんだ。アルベド」
「ら……ラスト様……」
アルベドがそっと左手を、手の甲を上にして差し出してきた。
「……」
ラストの動きが止まる。これは、そういうことなのかと。一瞬の葛藤の末に、ラストは指輪をアルベドの中指に嵌めようとする。
一瞬アルベドの手がブレて、指輪は薬指に収まっていた。天使の動体視力を以てしてもその動きを見逃してしまった。
「……」
「……くふ」
アルベドの表情が怖くて、ラストは目を合わせられなかった。
「……では、守護者各員は、デミウルゴスかアウラから要請があった場合は作戦に協力するように。以上で解散とする」
モモンガは自室へと逃げるようにして、転移していった。ラストは見捨てやがったあの骸骨と心の中で悪態をつく。
「あ、アルベド? 私も自室に戻ろうかな? あ、指輪はナザリック外には持ち出さないようにね?」
「はい、後のことは私どもにお任せくださいませ」
淑女然とした雰囲気に戻ったアルベドが、ドレスの裾を持ち上げて礼を捧げる。デミウルゴスの後ろのナーベラルはこの会議の間、一言も発してなかったが、デミウルゴスを見ればその表情からは何も読みとれない。
何で連れてきたのか聞きたかったが、今は目の前で微笑む
「そ、それじゃあ、後は任せたよ」
ラストもモモンガ同様、逃げるようにして転移したのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
天使「ずっ友だよ!」 という回でした。
時系列としてはカルネ村のことは他の描写よりも若干後となっております。
ここから原作と乖離し始め、原作と設定の齟齬も起こり始めてしまうかもしれませんが、どうか温かい目で見守ってくださいませ。
では、これからもよろしくお願いします。