では、お待たせしました。第四話となります。
駄文ですが、よろしくお願いします。
「くふ……! くふふ……!」
モモンガとラストが退室した後の会議室に、アルベドの陶酔しきったような笑みが零れる。情欲に濡れた瞳で、掲げた左手の薬指に嵌められた指輪を見つめている。
その目からは光が失せ、その思考は自身の世界へと飛んでいってしまっていた。
「あ、アルベド……?」
明らかに様子のおかしいアルベドにアウラが恐る恐ると声をかける。しかし、気味の悪い笑い声しか返ってこず、アウラは助けを求めるように弟へと目を向ける。
マーレはそっと目をそらした。誰も、進んで奈落へと身を、放り出したりはしないのだ。
「あ、アルベドが壊れたでありんす」
「御方カラ指輪を下賜サレタノダ。気持チハ分ラナイデモ無イガナ」
シャルティアとコキュートスも遠巻きにアルベドを見ているだけに留めており、唯一デミウルゴスだけが感嘆するように息を漏らす。
「やはり、至高の御方には私の考えなんてお見通しだったご様子ですね。すまないね、ナーベラル。余計なお節介を焼いてしまったみたいだ」
「ソウイエバ、何故ナーベラルヲ連レテキタノダ? デミウルゴス」
こきりと、コキュートスが蟲の骨格、人間で言えば首に当たる辺りを傾げさせる。
「そうだね、コキュートスは以前私たちが話した中でお世継ぎのことが出てきたのを覚えているだろう?」
「アア、アレハ素晴ラシイ未来デアッタ」
「も、もしかして、ナーベラルさんをモモンガ様かラスト様の伴侶にってことですか?」
「そんな! それならわたしは……!」
マーレが出した答えに、シャルティアが焦るように食いついてくる。
デミウルゴスは眼鏡を押し上げながら、未だの自身の世界から帰ってこない守護者統括殿に視線を向ける。
「それじゃあ、最初から説明させてもらうがとしようか。まずは、至高の御方が、積極的にか慎重にかの違いはあれど、この世界への進出を望んでおられることは確かだ。それはさっきの会議からも分かることだというのはいいね?」
他の守護者からの質問がないことを確かめた後に、デミウルゴスは続けるようにして指を一つ立てる。
「ここで一つ考えられるのは。モモンガ様、ラスト様の御二方のどちらか、または御両名が、直接この世界への調査を行うことだったんだ」
ざわりと守護者たちの間に衝撃とも違う、焦りにも近い空気が流れる。
「し、至高の御方が直接向かわれるなんて……全部、僕たちにお任せしていただければ……」
「どういうことでありんすか? もしかして……わたしたちは信頼されないということでありんすか?」
マーレとシャルティアは絶望するように、その表情に影を落とす。コキュートスやナーベラルも、差はあれど似たような、至高の二人に失望されるのを恐れるようであった。そして、その気持ちはデミウルゴスも同じであった。
「確かに。すべてを私たちに任せてくだされば、と私も思っているさ。だが、私たちだけでは、至高の御方のお考えを全て汲み取ることはできないだろう。私やアルベドでもね。それは仕方のないことだ……だからこそ、至高の御方は足りない私たちのために慈悲深くも自ら動かれるのだと思えるのだよ」
「ツマリ、至高ノ御方タチハ、ソノオ優シサカラ、自ラコノ世界ノ調査をナサレルノカ」
「その通り。だが、それでは私たち、至高の御方に創造された者たちの本懐を果たせない。故に、調査に向かわれる至高の御方には供を付けるべきであり、それが至高の御方のご厚意を無駄にせずかつ私たちがお役に立てる方法だ。私はそのために、ナーベラルを供へ推薦するつもりだったのさ」
「なるほど、そういうことでありんしたか。でも、それならどうしてわたしたち守護者じゃなくてナーベラルでありんす?」
シャルティアがデミウルゴスの意図を理解したとばかりに安堵の息を漏らすが、それとともに疑問が生まれた。なぜ守護者の中でも最強である自分ではなく、レベルが六十前後のナーベラルをと考えたのか。
万全を期すなら自分、少なくとも守護者レベルの実力を持つべきであるだろう。
「それは先ほどの話に繋がるんだが、私はナーベラルにラスト様の伽もお願いするつもりだったんだ。モモンガ様はまだ、どなたをお気に入りに成られているか判断が付かなかったからね。それで、後々には妃に、果てはお世継ぎ、をとね」
「そ、それなら! わたしが! わたしがモモンガ様の夜伽をするでありんす!」
デミウルゴスへと、その胸倉をつかみかかるほどにシャルティアが詰め寄る。しかし、デミウルゴスがそれを止めようとするよりも先に、部屋の中に響いたものがあった。
「……伽? ……妃? ……お世継ぎ? どういうことかしら、デミウルゴス」
凍土よりも冷たく、灼熱よりも苛烈な声であった。聞き捨てならないフレーズに、守護者統括は現世に帰ってくる。
ゆっくりと振り返ったその顔は美しい女性のものであったが、凄絶な愛に彩られ、見る者に背筋の凍る感覚を思わせるものであった。
「はぁ。だから、お節介だったと言ったのですよ、アルベド。どうやら、ラスト様は君をお妃にとお考えのようですしね」
「く、くふふ! そうよね! だって指輪ですもの! あぁ、ラスト様……。申し訳ありません、モモンガ様、私はラスト様に愛を捧げさせていただきます。タブラ・スマラグディナ様、娘は今お嫁さんになります……」
般若のような顔から一転、恋する乙女のような表情へと戻ったアルベドの様子に、他のメンツはドン引きであった。そして、そんな面々は視界に入らないとばかりに、アルベドはナーベラルに近づき、肩に手を乗せる。
ナーベラルは心底恐ろしかった。目の前の守護者統括様に、自分が僅かにでも抱いた懸想を感づかれてしまったのではないかと。デミウルゴスに言われるがままに、自分が至高の御方の寵愛を受けるのをよしとしてしまったことを断罪されるのではないかと。
「……第二夫人までなら、許すわ」
ぼそりと呟かれた言葉に、ナーベラルは脱力する。見抜かれていた、自分でも不敬と思い信じられなかった、微かな渇望を。そして、恐る恐る顔を挙げれば、聖母のような笑みを浮かべたアルベドがそこに居た。
「あ、アルベド様……」
「むしろ、貴女だからこそ、共にラスト様を愛することを許せるわ。もしお供になるのなら、分かるわね?」
邪魔な虫が付かないようにしろよ。言外にそう言い含められていた。
「そ、そんな……私など」
「でも、一番は私よ。いいわね?」
アルベドは有無を言わせず、ナーベラルは何も言えなかった。デミウルゴスはアルベドが凶行に走らなかったことに安堵しながらも、至高の御方に与えられた仕事を果たすために動き出す。
「では、アルベド。私はこれからシモベの選抜に入りますが、私の仕事の一部をそちらにお任せしてもいいですか? アウラ、手間をかけさせるが、森への潜伏に適した魔獣を何体か見繕ってくれないかい?」
「分かったわ。何か支援が必要になったらまた報告してちょうだい」
「りょーかい! 任せといて!」
『一途だがビッチである』
これにさらに童貞たちの妄想により、「処女ビッチ」という概念を加えられたこの設定は、方向性を一度決めれば暴走特急となる。ラストは、まさか、ただ指輪を渡すだけで、こんなことになるとは思ってもいなかっただろう。
モモンガは難を逃れ、ラストはその蜘蛛の糸に引っかかってしまったのだ。天使はいつだって、色欲に堕天する可能性を秘めた存在であることを、人々は語り継いでいることを、二人はすっかり忘れてしまっていたのだ。
「モモンガさん、外に行くときには偽名を使いませんか?」
「そうですね。私たち以外のユグドラシルプレイヤーが居たら、厄介なんてもんじゃないですし」
モモンガとラストは守護者たち、特にアルベドの話題を避け、ナザリック外に進出するにあたり、どのようなことをしておくべきかを話し合っていた。
「あ、でも、逆に考えれば、ヘロヘロさんとかももしかしたら居るかもしれませんね」
「あー、ログアウトしきれずに寝落ちしたとかだったらあり得そう……」
どれだけ低い確率かは分からないが、アインズ・ウール・ゴウンの仲間たちがこの世界に迷いこんでしまっているかもしれない。そう考えれば、少しはアインズ・ウール・ゴウンの存在を仄めかすものが必要であるだろう。
「いっそのこと、モモンガさんがアインズ・ウール・ゴウンを名乗るとか?」
「流石にそれは馬鹿でしょ」
「うわ、ひどっ!」
二人は偽名をつらつらと並べていく。ムササビ、タスマニアデビル、エゾリスなど何故か小動物の名前が多く出されていたが、中々いい名前が決まらなかった。
中にはオグロプレーリードッグなどというぶっ飛んだネタネームも出たりした。
「モモンガさんのネーミングセンスが久しぶりに爆発してる」
「うーん、うーん」
骸骨が頭を悩ませ、天使は自身の偽名として縮めて「ラト」とすぐに考え出していたので高みの見物と洒落込んでいた。
ふと、ラストはモモンガは外の風景を見ていなかったなと思い、気分転換も兼ねてもう一度夜空を見てみたくなった。
「モモンガさん、気分転換に外の様子でも見に行ったらどうですか?」
「外って、大丈夫ですかね」
「大丈夫大丈夫、この辺りには誰も居なかったんですし。あの夜空を見れば、ちっぽけな悩みなんて吹っ飛びますよ」
「それじゃあ、ちょっと見に行きましょうかね。ラストさんはこの後どうされますか?」
「俺は寝ようと思います。結局寝てなかったですし」
ふあと、あくびを漏らし、ラストはモモンガの自室から自身の自室へと戻る。
残されたモモンガは久しぶりに、部屋の中がしんと静かになった感覚に少し寂しく思いながらも、言われたとおりに外の様子でも見に行くかと考える。
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モモンガの姿が漆黒の鎧に包まれる。部屋の外だからと四六時中支配者の姿勢を保つのは非常に精神的に疲れるし、この姿ならば自分がモモンガだとラスト以外には分かるまいと思ってのことであった。
指輪の力で第一階層のもっとも地表に近い場所まで転移する。墳墓として作られた薄暗い中であっても、アンデットとしての特性である
鎧の靴音を鳴らしながら、出口へと向かうモモンガの前に、三種類四体ずつの十二体のモンスターが居た。そして、その奥にはスーツ姿のデミウルゴスの姿まである。
彼らはモモンガの姿、黒い甲冑で変装したはずのモモンガを認めると全員が迷いなく膝をつく。
「これはモモンガ様、供も連れずに、このような所へ。いかがなされたのでしょうか」
(一瞬でバレてるし……なんか臭いでもしてるのかな)
アンデットになって体臭は無くなったはずなのに、と、モモンガは自身の身体に無いはずの鼻をひくつかせた。
「ご苦労だ、デミウルゴス。先ほど命じた仕事は順調か?」
「はい、現在は
「そうか……私は少しやることがある。周囲の安全は確保されているか?」
「はい、周囲にもシモベを配置し、マーレによるナザリックの隠蔽工作の準備も進んでおりますので、危険は皆無かと」
なら大丈夫か、とモモンガはデミウルゴスたちに御苦労と告げ、その間を歩き去ろうとする。
「お待ちくださいませ、モモンガ様。モモンガ様の御配慮は重々承知しておりますが、やはり、供も連れずに、となりますと、私も見過ごすわけにはいきません。ご迷惑かと重々ご承知しておりますが、何とぞこの哀れな者に寛大な御慈悲を賜りますようお願い申し上げます」
「……仕方ないな。一人だけ、同行を許す」
モモンガは内心配慮って何だろうと思いながらも、優雅に笑みを浮かべるデミウルゴスにそれ以上なにも言えなくなってしまっていた。
「私のような者のお言葉を受けいれていただき、ありがとうございます。では、お前たちはここで待機し、任務を継続しておけ」
「畏まりました、デミウルゴス様」
ナザリック墳墓から外に出たモモンガの眼前には、圧倒的とも言える光景が広がっていた。ユグドラシル時代であれば、常闇と冷気に覆われた、陰惨な風景であり、天空には分厚い黒雲が覆っていただろう。
しかし、今は素晴らしい夜空がそこにはあった。
モモンガは、ラストと同様。その世界に心をしばし奪われていた。彼らが知る空は大気汚染によって薄汚れた空であり、このような澄み切った夜空は写真や映像資料の世界のものであった。
「凄いな……。仮想現実でもここまでは。大気汚染が進んでなくて、空気が綺麗な証拠か。……こんななら人工肺も要らないだろうな。ラストさんが時間に遅れてくるわけだ……」
もっと近くで、そう思い魔法で空を飛ぼうとするも、着ていた鎧が魔法の発動を阻害していることを思い出した。
アイテムボックスの中から一つのアイテムを取り出す。それは翼を象ったネックレスであり、見た目通り、このネックレスにはある魔法が込められている。
モモンガの身体が重力を無視して空へと浮かび上がる。そのまま、モモンガは後ろに控えていたデミウルゴスのことさえも一時忘れてしまい、さらに上へ、上へと飛翔していく。そんな主人にデミウルゴスも慌てて、自身の変態の一つを使い、空へと追従する。
雲を突き抜け、現れた世界に、モモンガは鎧の兜を剥ぎ取るようにして外す。
巨大な月、夜空に散らされた星々は宝石のように輝いている。その輝きは地平の果てまで届き、雲は銀色に煌めいている。世界はかくも美しいものだったのか、ありのままの自然の姿にモモンガは言葉を漏らす。自分の語彙では表現しきれない、だが、それでも何かを口に出さずにはいられなかった。
「綺麗だ……いや、そんな言葉じゃ表現したりないな……ラストさんが、ブループラネットさんに見せたいっていったのがよく分かるよ」
自然を語る場ではアインズ・ウール・ゴウンに誰一人として譲らなかった男を思い出す。自然を愛していたロマンチストであり、よく自然に関する薀蓄を語って聞かせてくれたものだと。
「星と月の明かりだけで世界が照らされるなんて。……本当に現実の世界とは思えませんよ、ブルー・プラネットさん。……キラキラと輝いて、宝石箱みたいです」
「そうなのかもしれません。この世界が美しいのは、モモンガ様とラスト様の身を飾るための宝石を宿しているからに違いないかと」
デミウルゴスの言葉に、モモンガは少しばかり思い出に浸り過ぎていたのかもしれないと思考を戻す。しかし、奪われた心までは戻せず、夜空を見上げ、その月と星の輝きに満たされた世界に目を向ける。
「本当に綺麗だ。こんな星々が私たちの身を飾るためか……。確かにそうかもしれないな。私たちがこの地に来たのは、誰も手に入れてない宝石箱を手にするためやもしれないか」
「お望みであり、ご許可さえいただけるのであれば、ナザリックの全軍をもってこの宝石箱をすべて手に入れてまいります。そして、最後まで残られた至高の御方であるお二方にそれらを捧げさせていただければ、このデミウルゴス、これに勝る喜びはありません」
背中から皮膜の大きな翼を生やし、蛙のような顔つきへと形態を変化させたデミウルゴス。そんな悪魔と呼ぶにふさわしい姿となったデミウルゴスの姿に、モモンガは彼の創造主である、悪を語る一人の悪魔を思い出す。そして、彼らとともに語った、一つの夢物語も。
「この世界にどのような存在が居るかも不明な段階で、その発言は愚かとしか言えないがな。ただ……そうだな。世界征服なんて面白いかもしれないな」
「……!」
もし、モモンガが夜空から目を戻し、背後に控えるデミウルゴスの顔に浮かんだ表情に気づいていたのなら、決してモモンガは先の言葉が冗談であると告げたであるだろう。
しかし、既に賽は振られたと言える。モモンガは自身の言葉に、デミウルゴスがどう思ったのか。気づくことなく星空を見ていた。
ちなみに、モモンガはこの景色に感銘を受け、モモン・ザ・スターダストという名前を思いついたそうな。
モモンガが夜空を宝石箱と例えていた頃、ラストはナザリックの九階層では自室へと足を向けていた。
結局、
一般メイドとすれ違う度に頭を下げられても気にならない程度には、ラストの頭は眠気にやられていた。
「ラスト様、お帰りなさいませ」
「おや、ナーベラル。どうかしたのかい?」
自室の前にナーベラルが待っていたので、自然と支配者ロールへと移行する。ラストが優し気に笑みを浮かべれば、ナーベラルの冷たさを思わせる美貌に少しばかりの朱が差しこむ。しかし、思い出したかのように、焦ったような剣幕で扉の前へと割り込んでくる。
「い、いえ。少々お待ちくださいませ! お部屋の掃除がまだ済んでおりませんので。もうしばし、もうほんのしばしお待ちになってくださいませ」
「あ、ああ」
言うが早いか、ナーベラルはラストの部屋へと身を隠してしまう。
「アルベド様! ラスト様がお戻りになられました……!」
「……そう、私は戻るわ。ありがとうね、ナーベラル・ガンマ。今度お礼をするわ」
「いえ……ラスト様とアルベド様の仲を応援させていただくだけで私は十分ですので……」
「そう、謙虚も美徳ではあるけれども、貴女自身も叶えたい望みをちゃんと考えておきなさい」
「はい……ですがアルベド様、なぜラスト様に隠れてベッドに……?」
「……恥ずかしいけれど………私、
「わ、分かりました。ひとまず、ラスト様をお待たせしてしまってるので、今のうちに御退室なさってください。ベッドの乱れは直しておきますので」
「本当にありがとう、ナーベラル。やっぱり今度何かお礼をさせてもらうわ」
しばらく、それこそ十分も無かったであろう時間でナーベラルが部屋から出てくる。若干疲れたような表情をしているが、ラストは気のせいだと思うことにした。
「ありがとう、ナーベラル。ご苦労様」
「いえ……メイドとして当然のことをしたまでのことです……」
「それでもさ、ありがとう。ナーベラルもゆっくりと休んでくれ」
ナーベラルは深く礼をし、顔を隠す。ラストは自室に入るとともに、どことなく甘い、いい匂いが漂ってきた。
ラストはナーベラルがアロマでも焚いてくれたのかと、ベッドへと身を投げ出す。ふわりとした羽毛がラストの身体を優しく受け止め、そっと押し戻す。
ここまで高価な寝具に身を委ねることなどなかったラストは、うぼあーと変な声を出しながら脱力していく。寝間着に着替えなきゃとも思ったが、それよりもベッドから起き上がりたくないという思いが勝っていた。
「……ん? ベッドからもなんかいい匂いが……柔軟剤的なものってナザリックにあったっけ」
どこかで嗅いだことのあるような、それでいてどこか安心感を覚えるソレにラストは翼を折り畳んで、仰向けになる。シーツを被り、そっと目を閉じる。
モモンガとこの世界に来て、NPCたちと触れ合って、色々なことがあったせいか、ラストの意識はすぐに眠りに落ちていく。この胡蝶の夢のような現実が、目が覚めても続いてますようにと、少しだけ思いながら。
「それじゃあ、アインズ・ウール・ゴウンの名前を結局使うんです?」
翌日、ラストの部屋にラストを起こすついでに一晩考えていたことを伝えるモモンガと、一般メイドに運んできてもらった食事を食べるラストである。寝ぼけたラストに代わって、モモンガが食事を受け取っていたが。
「はい、モモン・ザ・スターダストは他のところで使う時に取っておくとして、ひとまずアインズ・ウール・ゴウンの名前を使って行動したいと思います。もし他のプレイヤーが居るにしても、できる限り敵意を持たれないように動けば問題はないと思いますし、ギルメンが居るなら一発で分かってもらえますから」
「そうですねぇ。俺はいいと思いますよ? 昨日なんか馬鹿とか言われた気もしましたけど」
「だから、すいませんって。だってアインズ・ウール・ゴウンはあんま評判よく無かったじゃないですか」
「ぶーぶー……。まあ、いいですよ。悪くはないと思いますし、モモン・ザ・スターダスト以外は」
ラストからすれば、正気を疑うようなネーミングセンスであった。もっと他になんかなかったのだろうかと。
「かっこいいじゃないですか! 星屑ですよ!? あの夜空見て思いついたんですよ!」
「あの景色を見て、そんなネーミングセンスを爆発させるな!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人であるが、ラストの自室なので支配者たるモモンガとラストではなく、友人のモモンガとラストとしての二人なりのじゃれ合いでもあり、ナザリックに二人きりになってからは何度も繰り返された光景であった。
「まあ、一先ずは、デミウルゴスたちの報告待ちですかねぇ」
六階層の一画で育てられたという林檎をデザートとして齧りながら、ラストはその顔を不快気に歪める。モモンガはラストが天使として無法者の存在を許せず、断罪という業が色濃く出ていることを察していたが、ラストは元々曲がったことが嫌いな性格であったし、その部分が天使となったことで色濃く出てしまってると結論を出した。
「まあ、やりすぎないようにしてくださいよ? ラストさん、天使っぽいロールじゃないですよね、今の」
「あー、はい……分かってはいるんですけどね。どうも……多分ですけどね、天使になったせいか。随分とちぐはぐになってるんですよ」
「ふむ……」
「自分が、というか、ナザリックが他者を利用するのは多分何のためらいもないんですよね。まあ、子どもや力のない女性とかは別でしょうけど。そのくせ、他の人たちが力ない者たちを蹂躙するのは許せないっていう」
ある種の上位者としての傲慢だと、モモンガは思った。自身が試練と称して苦痛を与えるのは天使として間違っていない、それでいて、弱き者を守る者としての天使の側面としても間違ってはいない。
自身以上に複雑そうな状況に陥っているラストに、モモンガは少しばかり心配になる。
「なんか変な所とか、違和感とかあったらすぐに言ってくださいね。最悪、宝物殿の奥に仕舞ってある”アレ”を使いますから」
「あー、それ、昨日私もモモンガさんに思ってたんですよ。アンデット化のせいで変調が酷かったら勝手にだけど使おうって」
考えることは一緒か、とモモンガとラストは笑い合う。
「宝物殿と言えば、パンドラズ・アクターはどうするんです?」
「……」
ラストが挙げた
「あれは……もっと非常事態の切り札に……?」
「……アッハイ。分かりました」
結構かっこいいのにまだ苦手なのか、と思いながら、ラストは林檎の最後の一切れを食べ終える。
「モモンガさんも食事できたらいいんですがね、何かいい方法はないかな……」
「うーん、そこまで言うなら食べてみたいですけど……
「あー、もしかしたら
二人はこの案件を要検証として、それでいて回数や機会が限られているのでその内に、とした。
「お待たせしました。モモンガ様、ラスト様。デミウルゴスです。ご下命された調査の任、報告書を作成いたしましたので、ご報告に参りました」
「やっべ、寝ぐせがそのままだった……デミウルゴス! 少し待っててくれ。身だしなみを整える」
寝て起きてそのままだったラストだったので、着ている制服は
「ああもう、ラストさん。はい、櫛」
「さんきゅです」
モモンガから部屋に据え置きの櫛を投げ渡され、撫でつけるようにして寝癖を直す。天使の寝ぐせは素直なのか、一度撫でればすぐさま櫛がすり抜けるような滑らかさを取り戻す。
そこでラストは自身の翼も寝ぐせが出来ていることに気づく。しかし、自分の手では背中にまで届かない。
「モモンガさん! 背中! 翼の寝ぐせを!」
「なんで翼に寝ぐせ!? 早く櫛貸してください!」
その後、一般メイドや守護者統括を巻き込んで、ラストの翼の寝ぐせを直す権利争奪戦が行われることなるが、それはもう少し後の話。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
アルベド様は「処女ビッチ」を含む複数の属性を骸骨と天使という童貞によって植え付けられ、さらに元々あった設定も混ざり合ってヘタレストーカー気質になってしまいました。
原作のアルベド様も好きですし、モモンガ様とのやり取りも好みですが、今回は「先に」オリ主へと心を決めてしまったため『一途』という設定に従ってアルベド様には邁進していただきたいと思います。
フォローするナーベラル可愛いよナーベラル。
そして、次こそ……次こそカルネ村へ……! エンリちゃんの活躍を……!
という訳で、今回はこの辺りとなります。皆様のご感想等、楽しみにしております。
では、これからもよろしくお願いします。