骸骨と天使   作:怪盗K

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感想、お気に入り、評価、誤字報告などありがとうございます。
お待たせしました、第五話となります。

駄文ですが、よろしくお願いします。


第五話

 デミウルゴスからの報告を聞いたモモンガとラストは、再度守護者たちを会議室に集めていた。すぐさまに召集された守護者たちは、モモンガとラストを前に改めて忠誠の儀を捧げていた。

 

「よく集まってくれた。度々申し付けてすまないと思うが、時間も差し迫っているからな。では、これより昨日話していた案件の報告会を行う。デミウルゴス、任せたぞ」

「はっ、では、僭越ながら、先日モモンガ様が発見された廃村から存在が推測されていた暴力集団ですが、今回の調査でその存在が確認されました」

 

デミウルゴスの言葉に、守護者たちはその雰囲気を剣呑なものへと変える。明確な敵の姿に守護者たちの功名心が刺激されたのだ。デミウルゴスはそんな守護者たちの様子に、報告を続ける。

 

「その実力は影の悪魔(シャドウデーモン)やアウラの魔獣を探知することもできず、装備なども貧弱と言うほかありませんでした。ナザリックに対する脅威度としては零に近いでしょう」

「つまりは、外の世界には脅威はないということでありんすか?」

「いえ、そう決めつけるのは早計と言えるでしょう。この村を襲っていた者たちの他にも、周辺に存在する騎士たちも確認され、その中には実力的にはレベル二十前後の戦士職の存在が確認されています。私たちからすれば弱者の一言で片付きますが、彼ら以上の存在が居ないとは言えません」

 

 シャルティアの言葉に対するデミウルゴスの推察には、モモンガとラストも同意していた。目の前に居る兵士だけが弱者である可能性も存在するのだ。慢心というものが如何に愚かであるのか、二人はきちんと理解している。

 

「さらに、この騎士たちのさらに後方には、神官風の部隊も確認されています。この神官風の部隊ですが、他の二部隊よりも練度が高いものと思われます。恐らくですが、この村を襲っている部隊は囮であり、騎士たちを釣り出すとともに、神官風の部隊で騎士たちを殲滅するという作戦なのでしょう」

 

 わずかな情報から、デミウルゴスはその頭脳から兵士たちやその背景についての考察を出す。そして、それはまさしく的を得ていた。

 

「それができるということは、後ろには国家的な存在が絡んでいるということね、デミウルゴス」

「ええ。つまり、彼らに不用意に干渉することは、本来であれば控えるべきでしょう」

 

 現状の、この世界の情報が少ない状況では、国家などの大きな組織に関わるべきではないのが普通だ。

 モモンガとラストは、たしかにそうだよなー、とデミウルゴスとアルベドの話を聞きながら思っていた。

 

「ですが、至高の御方であるモモンガ様とラスト様は、この機にこそ動くべきだとお考えでしょう」

「……え」

「彼らが国とつながりがあることは、逆に考えれば、国同士が対立という関係にあるということです。ならば、私たちはそれを利用して、醜く争う人間から領土をかすめ取ることもできるということです。まさに先の先を読む慧眼、私も先日、モモンガ様とラスト様から任を受け、実際に彼らを捕捉するまでそこまで考えは至りませんでした。ナザリックの出先機関をと考えられていたのは、このことだったのですね。」

 

(今も至ってないんですがそれは)

 

 モモンガとラストの心の声が合致する。国同士の諍いに介入することと、出先機関を作ることが繋がらないのだ。

 

「素晴らしいわね……問題はどの部隊に助力をし、どの部隊を撃滅するかね」

「ええ、それに関しても、確信的な情報が得られています。先ほど述べた部隊の内、騎士たちの部隊は破壊された村々での救助活動を行っていたので、彼らがこの一帯を治める者たちの武力なのでしょう」

「つまりは、その騎士たちの国に恩を売り、さらに私たちよりもその国に非難の目を向けるってこと?」

「ええ。この世界における戦闘力の実験にも、村を襲った者たちを捕虜とすればその国の情報も得られるでしょう。さらには村を秘密裏にナザリックの支配下に置く。この三点も含めて多くの利点がこの作戦にはあります」

 

 アウラも作戦の全容を理解し、他の守護者たちも感心するように息を漏らす。

 

「素晴らしいね、デミウルゴス。私たちもそこまで考えつかなかったよ」

「御冗談を。この程度のこと、お二人であれば昨日の時点でお考えでしたでしょう」

 

 デミウルゴスが頭を深々と下げる様子に、守護者たちの感心と感嘆が自分たちへと向けられるようになったことを自覚するモモンガとラストである。

 

「では、モモンガ様、そろそろお時間と思われますので、<千里眼(クレボヤンス)>と<水晶の画面(クリスタル・モニター)>の巻物(スクロール)使用許可を」

「いや、それくらいなら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を使おう。この世界に巻物(スクロール)の材料があるとは限らないからな」

「これは……! 非才なこの身をお許しくださいませ……」

「構わんとも」

 

 モモンガはアイテムボックスから遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を取り出し、会議室内に一つの廃村の光景が映し出される。そして、モモンガが視点を切り替えると、そこでは一つの村が蹂躙されている光景が浮かび上がった。

 村人たちが鎧を着た者たちに虐殺されている光景に、モモンガとラストは自分たちが人としての感性が変質してることを再確認しながら、これからの出撃の後のことを考える。

 

「すでに、彼らは行動していたようだな。デミウルゴス、後詰の準備は出来ているか?」

「はっ、御身自らが出撃されるとのことでしたので、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を中心とした部隊で周辺を固めております」

「すでに村が襲われているみたいだし、もう出撃するかい? モモンガ」

「ああ、そうだな。しかし、その前にお前たちに告げておくことがある。私はこれ以降、アインズ・ウール・ゴウンの名を世間に知らしめるために、アインズ・ウール・ゴウンと名乗ることとする。ラストからの同意も得ているが、お前たちからは異論はあるか?」

 

 モモンガは彼らから異論が一つでも、いや、その顔に不満が走ったのならばすぐさま撤回するつもりだった。しかし、守護者たちのその顔に浮かぶのは信頼。最後までこのナザリックに残ったモモンガであれば、そしてその一番の友が認めているのならば、自分たちからは何も言うことはない、誰もが表情でそう語っていた。

 モモンガは、否、アインズはその様子に頷く。

 

「アインズ・ウール・ゴウンがこの地で行う最初の軍事行動だ。各員、あらゆる事態に対処できるように備えておけ」

「そして、私たちの姿を見ておいてくれ、愛し子らよ。私たちのこの世界への最初の一歩を。行こうか、モモンガ。いや、アインズ」

 

 アインズが遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)の光景を切り替える。そこでは、今まさに二人の少女たちが騎士に惨殺されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネム……! こっちよ!」

 

 両親がその命を使って作ってくれたわずかな時間、それを無駄にはしまいと、エンリは妹の手を引いて足を動かす。

 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!

 必死に思考を逃げることだけに塗りつぶそうとする。脳裏にチラつく、両親の最後の表情に足がとまってしまうことのないように。

 近づいてくる村の外れにエンリが微かな希望を抱いた瞬間、後ろから金属音が聞こえてくる。振り返らずとも分かる、すぐ後ろから死が迫ってきていることに。

 

「あっ!」

 

 エンリは手を引く妹の足がもつれ、それに引っ張られてしまう。しかし、繋いだ手が離れることはなく、転んだりしてしまうことはなかった。

 しかし、その時間は致命的だった。

 

「無駄な抵抗はするな」

 

 すぐ側で、その嘲笑うような声が聞こえてきた。それはすぐ様にでも命を奪える、生殺与奪の権利が自分にあると確信しきった声音であった。

 エンリの胸の中に、凄まじいまでの激憤が沸き上がる。

 

 ふざけるなと、自分はお前たちに殺されるような家畜なのではないのだと。

 

 騎士が剣を振り上げたその瞬間、エンリの身体が動く。一歩前へ、死へと立ち向かう勇気と、目の前の不条理への限りない怒りを込めて。

 

「なめないでよね!」

 

 兜に守られた頭へと、エンリの握った拳が砕けかねない力で叩き付けられる。骨が砕けてしまおうが知ったことか、それ以上に知らしめねばならなかった。一矢報わねば気が済まなかった。

 騎士がよろめき、その隙に妹の手を引いて逃げ出そうとする。

 

「き、貴様ぁああああ!!」

 

 しかし、エンリの背中から鮮血が散る。熱した鉄棒を肉の内側に入れられたような痛みに、エンリの顔が歪む。零れ出そうになる涙を堪え、妹の手を引いて逃げようとする。

 そのエンリの後ろから、その命を奪うための一撃を振るうため、剣が振り上げられる。

 せめて、妹だけは助かってほしい。そんな叶わぬと分った願いを心の中で捧げながら、自身の命が絶たれる瞬間に目を瞑ってしまう。

 

「……え?」

 

 しかし、一秒、二秒、待てど、その最期の時は訪れない。

 エンリは恐る恐る、目を開く。

 

 

 そこには、光と闇があった。

 

 

 一人は、闇を纏い、死という概念そのものが姿を象った恐ろしい仮面の魔王。

 一人は、輝きを纏い、地平を照らす明けの明星を司る天使。

 

心臓掌握(グラスブ・ハート)

 

 死の支配者が騎士に掌を差し出し、握り込む。ナニカ柔らかい物が潰れる音が、その握られた手の内から響く。

 それとともに、エンリの後ろから金属音が響く。目の前の死の支配者から目が離せないが、エンリは好奇心に負け後ろを見てしまう。

 そこには、さきほどまで、エンリにとって死を齎さんとする騎士が死んでいた。そう、一目で分かるほどに、その体からは生気というものが抜け落ちていた。

 

「大丈夫かな? 助けに来たのだけれど」

 

 光の使者が、へたり込んでいたエンリをのぞき込む。優し気な笑みを浮かべるその輝く貌に、エンリは状況を忘れて心奪われてしまう。その瞳も金色に輝いているように、それでいてエンリの心を焦がしてしまうように、エンリは吸い込まれてしまうような感覚を覚える。

 

「<大治癒(ヒール)>」

 

 呟き一つ、暖かい光がエンリを包み込むとともに、背中の痛みも、骨が折れ鈍痛が走っていた手も治っていく。腕の中でネムがわぁと声を上げるのが聞こえる。

 その様子に満足げな笑みを浮かべ、天使は立ち上がり魔王の隣へと並び立つ。

 

「これでひとまず、大丈夫だと思うよ。アインズ、すまないね。待たせてしまって」

「なに、構わないとも。ラト、お前の優しさは、私もよく理解しているつもりだからな。それに、もう一人も片付け終えたところだ。弱いと聞いてはいたが、龍雷(ドラゴン・ライトニング)で死ぬとはな」

「それは重畳。スキルも試してみたらどうだい?」

「そうだな。実験にはこの程度が手ごろかもしれん」

 

 死の権化と、優しい天使が並び立ち、仲良さげに語らう姿に、エンリは目の前で神話の一幕が繰り広げられているのではないかとも思った。

 アインズ、そう呼ばれた仮面の魔王が、先ほどの騎士を奪ったような動きで掌を虚空へと出す。

 

 ───────中位アンデット作成・死の騎士(デス・ナイト)──────。

 

 中空から形容しがたき黒き影が姿を現す。そして、さきほど心臓を握りつぶされた死体へと覆いかぶさる。

 ドクリと、騎士の死体が一度大きく跳ね上がり、その肉体が膨張していく。

 

「ひっ!」

 

 そんな様を間近で見せられ、エンリの人間としての忌避感が悲鳴を上げた。その間にも死体は膨れ上がり、その鎧も、武器も、生きた痕跡すらもどす黒く塗りつぶされて生み出されたのは、まさしく死の騎士と呼ばれるに相応しいアンデットであった。

 

「ごめんね、怖がらせたみたいだ」

 

 そう言いながら、天使は、その六対十二枚の翼を広げる。

 ───────中位天使創造・断罪の能天使(パワーズ・ジャッジメント)──────。

 

 アインズの作成した死の騎士(デス・ナイト)が防御に優れたアンデットであるならば、ラストの創造しようとした天使は攻撃という点に特化した天使であると言える。

 トータルのレベルとしては死の騎士(デス・ナイト)とほぼ変わらないが、その特殊能力と攻撃に偏重したステータスから、ユグドラシル時代には自爆特攻用のモンスターとして召喚していた。それでもやはり、アインズやラストからすれば、死の騎士(デス・ナイト)断罪の能天使(パワーズ・ジャッジメント)も雑魚というべきモンスターである。

 

 ラストの翼から一枚の羽根が零れおち、光を放つ。ここまではユグドラシル時代と変わらないエフェクトであった。このまま光が天使を形取り、召喚という流れでった。しかし、ここからその羽根が驚きの動きをする。

 

「は?」

「え?」

 

 その羽根は、ひらりと風に流されるように、エンリの胸元へと飛び込んだのだ。そして、そのままエンリの体の中に、羽根が溶けていくようにして入り込んで行ってしまった。

 それとともに、エンリは体の内側から熱を帯びるような感覚を覚えた。それはさきほど騎士に切り付けられたものとは違う、うなされる様な熱である。

 その熱が背中がへと集まり、やがて何かが突き出てくる。

 

「お姉ちゃん……髪が……」

 

 妹に言われて、三つ編みにして肩から垂らしている自分の髪を見てみる。エンリはそこにあるのが燃え上がるような朱に変わっていることに気づく。そして、背中へと目を向ければ、二枚の翼、純白の綺麗な翼が服を突き破って生えてきていた。

 その光景を見て、アインズとラストの動きが止まる。

 

(モモンガさん、ヘルプ)

(こっちのセリフですよ!? 何やってんすか!?)

(だって! モモンガさんが死の騎士(デス・ナイト)呼び出したんだもの! 俺だってスキルで天使呼び出してもいいじゃん!)

(呼び出せてないじゃないですか!! なんか憑依転生させてるじゃないですか!)

(さっきアルベドたちにも言ってたじゃないですか! あらゆる事態に対処できるようにって!)

(想定外過ぎるんだよ! この綺麗なるし★ふぁー!)

 

 アインズとラストは表面上は冷静そのものであったが、内心では回線がパンクするほどに混乱していた。ラストが名前を変えたはずのアインズを、モモンガと呼ぶくらいにはテンパっていた。

 

「き、気分はどうだい?」

「え……あ、はい、大丈夫です」

 

 なんとか口を再起動をさせたラストが、断罪の能天使(パワーズ・ジャッジメント)の特徴を宿した村娘に声をかける。

 

「……死の騎士(デス・ナイト)、お前はこの先の村を襲っている騎士たちを生け捕りにしろ。ラト、私は先に村へと言っておく。その娘のことは任せたぞ」

 

 モモンガはひとまず放置することに決め、死の騎士(デス・ナイト)に指示を出す。目の前で起きた緊急事態は元凶に押し付けることにした。<飛行(フライ)>の魔法で空へと飛び、使命を果たすべく動き出した死の騎士(デス・ナイト)と共に村へと向かった。

 

「あー、そうだね。名前を聞いてもいいかな?」

「……エンリ・エモットです……貴方は……?」

「私はラト。さっきのは私の仲間のアインズというんだ。あのような見た目だけど、君たちを助けに来たから安心してくれ」

「はい……その、ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」

 

 エンリと、その腕に抱かれたネムが深々と頭を下げる。エンリの背中から生えた翼がばさりと音を立て、はらりと羽根を散らす。

 

「その、一つ聞きたいのですが……私は……どうしたのですか?」

 

 聞くのは当然と言えば当然だが、ラストは答えに窮してしまう。だって、自分でも何が起こったのかは分かってないのだから。

 特殊技術(スキル)で召喚されるはずだった断罪の能天使(パワーズ・ジャッジメント)が彼女になってしまったのだろうか。ユグドラシルの仕様ではありえない事態だが、さっきほどのアインズが使用した特殊技術(スキル)が死体に作用していた。

 つまり、仕様が変わっている部分があるということだ。

 

(どういうことだ……? でも、なんか繋がりっぽいのは感じられるんだよな)

 

 そう考えてエンリの方へと顔を向ければ、琥珀色から黄金色に変わった瞳と目が合う。小首をかしげるように、エンリがその愛らしい顔をきょとんとさせる。

 

(ヘルプミー、モモンガさん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村では、アインズが来る前から変わらず、蹂躙が行われていた。しかし、先ほどまで蹂躙する側であった騎士が蹂躙される側であり、その騎士たちを痛めつけるようにして嬲っているのは一体の巨体を誇るアンデットであった。

 その死の騎士は突如として現れ、その瞬間には今まさに殺されようとしていた村人も呆気に取られてしまっていた。

 そのアンデットは決して騎士たちを殺すことはなく、逃げようとした者には回り込んで足を潰し、向かって来る者はその腕を鎧ごと斬り捨てていた。

 逃げることもできず、弄ばれるようにして騎士たちはその身を地に伏せ痛みに呻いていた。

 健在な者は既に半分以下、その者たちも、動けば手足を斬り捨てられるために逃げ出すこともできなかった。

 

「そこまでだ。死の騎士(デス・ナイト)

 

 頭上から、重々しい声が響いてきた。その声に反応するように死の騎士(デス・ナイト)が構えていた武器を納める。健在だった者も、地に伏した者も、助けられた村人たちも、その声に釣られるようにして顔を上げる。

 そこには、闇のようなローブを纏った、仮面で顔を隠した人物が宙に浮いていた。

 

「まずは自己紹介をさせてもらおう。我が名はアインズ・ウール・ゴウン。この村が襲われているのを見て、義憤に駆られて助けに来た者だ」

 

 仮面で隠された表情からは何もうかがえない。ただ、騎士たちは自分たちを裁きに来たと、村人たちは自分たちを助けに来たことだけを理解し、その表情を明暗に分けた。

 

「投降するというのなら、君たちの命は保証させてもらおう。いかがかな?」

 

 未だ武器を手にした騎士四人へと、アインズの仮面が向けられる。直接見据えられていることに、騎士たちは弾かれるように武器を投げ捨てる。

 

「よろしい。では、今すぐこの場から失せろ。逃げる分には、私は追わないことを約束しよう」

 

 当然、村の周囲にはシモベが配置されており、騎士たちは万が一にも逃げ出し、帰還することはないだろう。これは村人たちの目に届かない場所で、騎士たちをナザリックへ誘拐するためである。

 

「ふむ……」

 

 騎士たちは命からがらといった風情で逃げて行った。残されたのは歩くこともできず、置いて行かれた負傷者であった。彼らは村人から一先ずの死なないためだけの応急手当だけをされ、縛り上げられて野ざらしにされていた。村人たちが復讐心から騎士たちに私刑をしないのは、ひとえに村の恩人である仮面の人物が居るからであった。

 村の村長の家に招かれたアインズが、変に遜る村長からなんとかこの世界の情報を聞き出した後、村の葬儀が行われている間、空き家になった家の一つを借りて一人になっていた。

 モモンガは未だにやってこないラストと、その特殊技術(スキル)によって天使になってしまったと思われる少女をどうしたものかと額に当たるところを一度二度、叩く。

 

「あ、アインズ様! 何かが飛んでやってきます!」

 

 葬儀の途中だった村長が、慌てた様子でアインズの待っていた空き家にやってきた。打合せ通りとは言えないが、天使であるラストに村人たちが驚くのは予定通りではある。

 

「安心してください。それは私の仲間です。村の離れで逃げ遅れていた者が居たので、その人を助けに行ってもらってたのですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、モモンガが<飛行(フライ)>の魔法で飛んでいった直ぐ後のことである。

 

「すまない、エンリ。私が君に治療を行ったときに、力を注ぎ過ぎてしまったみたいだ」

「そ……うなんですか……」

 

 ラストは必死にこじつけを考えていた。明らかに天使になってしまったこの少女をどうしたものかと。いっそのこと、ここで始末して証拠を残さずに消し去ってしまった方がいいのではないかと考える。

 しかし、目の前で抱き合う姉妹に、ラストは慈愛にも似た感情を抱くようになってしまっていた。さてと、ラストは立ち上がる。

 エンリが天使となったことで、何か繋がりにも似たものを感じ取っていたことも、その理由として多分にあった。

 

「エンリ、君は天使になっても村に受け入れてもらえるかい?」

「え……? その、まだ分かりません……村の皆は優しいですけど、流石に、こんなになっちゃうと、どうなるか分かりません……」

「お姉ちゃん、綺麗だよ?」

 

 苦笑いし、エンリは翼をばさりと動かす。ネムは目をキラキラさせながら、羽根を撫でるようにして触っている。

 エンリは自分の身体が創り変えられたことに、戸惑いながらも、不思議と忌避感はなかった。微かに目の前で申し訳なさそうにしている天使様とのつながりを感じると、仄かに温かいものを感じ取れた。

 

「そうか。もし、村に受け入れてもらえないとなると、私のせいだからね……私たちの組織に来てもらうしかなかったよ」

「私たち……さっきの、その、仮面の方でしょうか」

 

 仮面、そう口にした瞬間、どこからかゾワリと神経を逆なでするような感覚に襲われた。エンリはネムを抱きかかえて慌てるように周囲を見渡す。そして、すぐ側に何か潜んでいるのを感じ取ってしまう。

 

「そこまでだ、控えろ。エンリも。すまないね、彼にはアインズという名前があるんだ。これからはそう呼んでくれるかな」

『……ハッ』

「は、はい」

 

 声だけが響き、エンリの側から、ナニかが離れていく。

 

「今のは……?」

「私とアインズの仲間さ」

 

 エンリは今も繋がっている首を擦り、そっとラストの服の裾を掴んでしまっていた。ラストは困ったなと言いながらも、その手を振り払うことはしなかった。

 

「村は、大丈夫でしょうか」

「アインズが向かったから、大丈夫なはずさ」

「……はい」

 

 アインズの方は、上手く村長とか村の上役と交渉できたのだろうか。そんな風に自分の目の前にある問題から現実逃避気味に思考を巡らせるラストであった。

 

「安心してくれ、エンリ。何かあっても、私がどうにかするから」

 

責任感というべきものか、自分の身勝手なスキルの使用のせいで人外にしてしまった彼女。いわゆる、ラストからすれば、自分の行いに責任を取るという当たり前のことであった。

 

「はい、よろしくお願いします……」

 

顔を赤らめ、恥じらうようにするエンリが、どのように受け取ったかは、ラストには分からないことであった。

 

 

 

 

 

「っていうことがあったんですよ」

「あーはい、壁でも殴ればいいんですか?」

「うっ、やっぱりロールプレイの方向性変えようかなぁ。優しい天使ロールから断罪スタイルに……」

「別にそれはいまのままでいいと思いますよ。まぁ、こんなことはもう滅多にないでしょうけど」

「ハイ、気をつけます」

「それで、結局どうするんですか? その子」

 

 人払いをし、借り受けた空き家で二人は打ち合わせをしていた。

 大体は当初の予定どおりではある。ただ一人、エンリ・エモットの存在を除いては。

 アインズとラストは、この村を将来のナザリックの出先機関とすることを見据え、異形種への忌避感を薄れさせるために、ラストは天使の姿ままで活動させる予定ではあった。

 アンデットや悪魔と比べ、天使は人類種からの忌避感は薄いと判断し、また村の恩人という立場を利用する予定だったのだ。

 実際にアインズと合流し、村人の治療を行った後には、村人たちは口々にラストを讃えていたことからもこの案はひとまずの成功を収めていたと言えるだろう。

 

「ナザリックで引き取るとかはできないですかね」

「うーん……」

 

 エンリが天使になってしまったことは、彼女の今までの日ごろの行いと、ラストが村人の治療を行ったことでそれなりに受け入れられていた。ただ、明らかに人外となってしまった彼女を、アインズ・ウール・ゴウンとしてどう扱うかを頭をひねっていた。

 

「いっそのこと、この村のナザリックの外交官にするとか?」

 

 この村をナザリックの出先機関とするなら、その窓口になる人材が必要ではある。それがこのカルネ村の元住人であったのなら、より円滑なものとなるのではないだろうか。

 アインズはそう考え、一先ずはこの村の村長からナザリックへの従属を引き出さないとなと一人これからの交渉に頭痛を覚えてしまった。

 表向きは王国所属のまま、それでいて裏側ではナザリックの拠点の一つとして。それがこの作戦でアインズとラストが考えていた理想形である。

 

「それが一番ですかねぇ。とりあえず、天使創造スキルは封印で」

 

 もし使う度に天使が増えるなんて洒落にもならない。そのことはラストも自覚しているのか、その顔を自責の念で影を落としながらも、小さく答える。

 

「……はい」

 

 翼ごと項垂れるようにしているラストに、モモンガは嘆息しながらも、これから村長へナザリックへの従属をどう交渉するかと考えていたのだった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

能天使エンリちゃん爆誕。
ということですが、今回の大きな原作との乖離としましては、エンリがオリ主のせいで天使となってしまいました。彼女が能天使のままか、覇王天使炎莉となるかは未だ未定です。
ゴブリンさんたちも好きなので、出してあげたいところではあるのですよね。

次回は村長vsアインズ様と、戦士長登場となるかと思います。ニグンさんまで出せると嬉しいな。

結構こじつけ感が強い話ではありましたので、若干の修正を後に加えるかもしれませんが、ご了承くださいませ。

では、今回はこれにて。これからもよろしくお願いします。
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