骸骨と天使   作:怪盗K

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感想、評価、お気に入り、誤字報告ありがとうございます。
お待たせしました、第六話となります。

駄文ですが、よろしくお願いします。


第六話

「アインズ様、よろしいでしょうか」

 

 ラストとモモンガがエンリの待遇についてあーだこーだ議論していると、空き家の扉が控えめにノックされる。

 アインズはその声の主が誰か分かっていたので、努めて穏やかな声で答える。

 

「ああ、村長ですか。構いませんよ」

「失礼します。この村に騎士風の集団が訪れたと村人が気づきましたので、お話に参りました」

 

 デミウルゴスから報告を受けていた、恐らくカルネ村を治める国の兵士たちであるだろう。アインズは怯える様子の村長を、安心させるように宥める。

 

「安心なさってください。一度助けた村が再び襲われるとあっては、我々も見過ごせません。私も死の騎士(デス・ナイト)を連れて同行しましょう。安心してください、今回は報酬は要りませんので」

「それは本当ですか! ありがとうございます、アインズ様!」

「それじゃあ、アインズ、私は姿を隠しておくよ。エンリちゃんも、流石に天使になった姿を村人以外に見られる訳にはいかないからね」

「ああ、そちらは任せる」

 

 ラストはアインズに手を振り、空き家から出ていく。ラストを村長と共に見送り、アインズは脳内でこれから会う騎士たち相手の交渉をシュミレーションをしていた。

 まず、自分たちナザリックの存在は国には気取らせない。そのためには、村長との話の中で出てきた魔術師(マジック・キャスター)、それも長い間魔法の研究で引き籠っていたということでひとまずはいいだろう。

 続いて、交渉材料としてこの村を襲っていた騎士たちの捕虜を引き渡すことで、この国、リ・エスティーゼ王国に対して恩を売る。アインズ・ウール・ゴウンという名だけならば、国の中枢へと渡っても問題はない。むしろそれに対して何らかのリアクションがあったのならば、プレイヤーの存在がその後ろにはあると確信できる。

 

「では、行きましょうか」

 

 警戒はする必要はあっても、恐れることはない。そう思いながらアインズは、村長に連れられて村の広場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「さて、見えてきましたね。彼らですか」

 

 まず、騎兵たちが堂々とした様子で、綺麗な隊列を組みながら近づいてきていた。

 村長は村人たちを集め、避難させるとともに、自身はアインズと共に向かってくる騎兵たちの姿を見つめていた。側には死の騎士(デス・ナイト)を控えさせており、アインズは仮面の中の目──目玉はないので仮面の奥、頭蓋の中の赤い灯──を細める。

 

(先ほどの騎士たちと違って、鎧や武器に統一性がないな。これなら、騎士や兵士というよりは傭兵って言う方が近そうだ。ただ、隊列自体や行進は綺麗だから、訓練はされているってことか)

 

 やがて、騎兵の一団は村の広場、アインズと村長たちの前でその歩みを止める。整列した騎兵の中から、一際屈強な男が歩み出る。その目が村長へと向かい、次に死の騎士(デス・ナイト)で驚きに目を見開かれ、最後にアインズへと視線が留まる。

 アインズは目の前の男、戦いと命の奪い合いに慣れた男の視線で射抜かれても、さざ波ほども心がざわつかなかった。

 それは目の前の男が自分にとって何ら脅威にならないということであったかもしれないし、アンデットの身体となったことによる度々起こる精神の鎮静化の影響かもしれなかった。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長の我ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐するために王の御命令を受け、村々を回っているものである」

「王国戦士長……」

 

 アインズは自身が思っていた以上の立場の人物であったことに、若干の驚きを覚える。ただ、その地位故に命を狙われていることも理解できた。

 

「この村の村長だな。横にいるのは、一体誰なのか教えてもらいたい」

「それには及びません。はじめまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来た魔法詠唱者(マジック・キャスター)です」

 

 口を開きかけた村長を押し止め、アインズは軽く一礼をして自己紹介をする。

 それに対して、ガゼフは馬から飛び降り、アインズの前へと歩み出る。そして、ガゼフはその頭を深々と下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い」

 

 アインズは驚いた。目の前の人物、恐らくは国の要職に就き、特権階級である人物が身分も明らかでないアインズに頭を下げ、感謝をしたのだから。そのことが、アインズの中での、目の前のガゼフ・ストロノーフの評価を一段上げる。

 

「……いえいえ。私も報酬目当てですから。お気になされずに」

「ほう。報酬か。とすると、冒険者なのかな?」

 

 冒険者ってなんやねん、とアインズは内心で思いながらも話を合わせる。ここで知らないなどとは口が裂けても言えない。後で村長とかにきちんと聞いておこうと心に留めておく。

 

「ええ、それに近いものです」

「ふむ……なるほど。かなり腕の立つ冒険者とお見受けするが、寡聞にしてゴウン殿の名は存じ上げませんな」

「私は長い間、魔法の研究で僻地に引きこもっており、最近ようやく出てきたところでしたので、知らないのも仕方ありません」

「なるほど。優秀な魔法詠唱者(マジック・キャスター)であらせられるようだ。お時間を奪うようで心苦しいが、村を襲った不快な輩について詳しい説明を聞かせていただきたい」

「もちろん、喜んでお話しさせていただきます。それに、何人かは捕虜としてとらえておりますので、そちらもお引渡ししましょう」

「なんと! 本来我々がすべきことをしていただき、本当に感謝する」

 

 再び頭を下げるガゼフであったが、上げた顔の視線が向かう先は死の騎士(デス・ナイト)であった。その身に漂う、血の臭いと沸き立つ悍ましさを感じ取っていたのだろう。

 

「今ここで二つだけお聞きしたいのだが……そちらの騎士は?」

「あれは私が魔法で生み出したシモベです」

 

 ガゼフが感心するように息を漏らし、鋭い視線でアインズの全身を観察するように動く。

 

「では……その仮面は?」

「この魔物の制御に必要なマジックアイテムです。なので、仮面を外すことはできません。申し訳ありません」

「そうか。では、取らないでいただいた方がよろしいな」

 

 アインズは内心で、仮面を取れと強要されなくてほっとした。ガゼフは視線を村長へと戻し、穏やかな声音で話しかける。

 

「さて、では椅子に座りながら詳しい話を聞かせてもらいたいと思う。それと、もしかまわなければ時間も時間なので、この村で一晩休ませてもらいたいと思っているのだが……」

「分かりました。では、宿泊に関しましても、私の家でお話しできれば─────」

 

 村長が答えようとした時、村の広場へと一人の騎兵が駆け込んできた。息は乱れ、その表情は焦るようにしていることが、運んできた情報の緊急性を物語っていた。

 

「戦士長! 周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各員傾聴、獲物は檻に入った」

 

 一人の男の声が、彼らの中に響き渡る。それは彼らが信頼する隊長の声であり、その内容はこれから彼らの作戦、その核となる部分が実行されるということである。

 その声の主は、今まで何度も死線を共にした部下たちの落ち着いた様子に、この作戦の成功に何の疑いも抱かない。

 

「汝らの信仰を神に捧げよ」

 

 全員が黙祷を捧げる。

 それと共に、全員の思考が戦闘、殺人を生業とする冷徹なものへと変貌する。何百、何千と繰り返し行われたそれは、一種のトランス状態へと移行するためであり、彼ら、スレイン法国にある神官長直轄特殊工作部隊群、六色聖典の一つ、陽光聖典たちが作戦前に行う儀式であった。

 彼らの信仰心は厚く、そしてその信仰心は非合法な行いや残虐な殺戮に対しての罪悪感を正当化させるほどであった。

 やがて、祈りを終えた瞳が開かれる。その瞳はガラスのようなものへと変化していた。

 

「開始」

 

 短く、ただ必要なことだけを告げられた彼らは動き出す。標的の入った村を囲み込み、逃げ場を無くす。

 その動きは尋常ならざる訓練の賜物であり、それは彼らがただ信仰のために築き上げられたものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……確かに居るな」

 

 家の影から、ガゼフは報告された人影を確認する。

 村を等間隔で囲む者たちは軽装であり、ただ、ゆっくりと村への距離を狭めてくる。しかし、ガゼフはその横に浮かぶ翼を持った者たちへと目を向ける。

 天使。

 異界より召喚されるモンスターであり、特にスレイン法国では神に仕えていると信じている者が多い。ガゼフにとっては、どこから来ているなど、宗教家にでも論じさせておけという程度の存在である。

 しかし、敵として目の前に存在するなら話は別である。ガゼフからすれば、天使は様々な特殊能力に加え、魔法を扱うこともできるため、厄介な敵というランクに定められる。

 

「戦士長、私やこの村には、彼らのような者たちに狙われる心当たりがないのですが」

「ゴウン殿に心当たりがない……つまりは、私か」

 

 ガゼフは困ったように眉を顰める。

 それは村々が襲われていたのは自分をおびき出すためであり、そのために村人たちが殺されたことへの憤りも多分に含まれていた。

 

「戦士長殿は、随分と憎まれているようだ」

「戦士長という地位についている以上は仕方が無いことだが……本当に困ったものだ。貴族どもを動かして、装備をはぎ取ってまでとは……それに、天使を召喚するものをあれだけ揃え、このような任務に従事することを考えれば……恐らく、スレイン法国の神官長直轄の特殊工作作戦群、六色聖典の一つだろう」

「ほう……」

 

 ガゼフの漏らす言葉を余さず、アインズは心のメモ帳に書き記していく。村長から話に聞いていたスレイン法国であるならば、やはり帝国の鎧は欺瞞工作であったということである。

 

(デミウルゴスの言ってた通りだな。となると、彼らの戦闘を一旦静観して、手の内を見せてもらった方がいいか。俺たちが介入するのはその後でも遅くはないはずだし)

 

「……それに、あれは炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)? 外見は非常に似ているが……なぜ同じモンスターが? ……魔法による召喚が同じ? ……だとしたら……?」

 

 ぶつぶつと呟くアインズに、ガゼフは一縷の望みをかけて問いかける。この悲劇的な状況で、切り札になりうる可能性がある人物に。

 

「ゴウン殿。良ければ雇われないか? 報酬は望まれる額を約束しよう」

「……お断りさせていただく」

 

 一瞬、この世界の貨幣という魅力に心が揺らいでしまったが、それでもアインズは、最初に予定していた通りに彼らで殺し合いをしてもらうことにした。

 

「……かの召喚された騎士を貸していただけるだけでも構わないのだが?」

「……ふむ」

 

 アインズは手を顎に当たる部分へと当てる。

死の騎士(デス・ナイト)は所詮雑魚モンスターだ、失ったところで、アインズにとっては何ら痛手とはならない。

それに、死の騎士(デス・ナイト)炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を戦わせることで、あれがユグドラシルのそのままのモンスターであるかの確認もできるだろう。

 

「いいでしょう、戦士長殿。私はこの村を守りますが、貴方に私の騎士をお貸ししましょう」

「本当か! ゴウン殿!!」

「ええ。その代わり、報酬は期待させてもらいますよ?」

「ああ、もちろんだ。私にできることであれば、何でもさせていただく」

 

 おどけるように言うアインズに、ガゼフは笑顔で返す。そんな実直な男へ、アインズはある程度以上の好感を抱いていた。出来るならば、友好的な関係を築きたいと思うほどには。

 出した答えは間違ってはいないはずだ、リスクとリターンを考え、その上で答えを出したはずとアインズは考える。

 ガゼフは目の前の底知れない騎士を従える魔法詠唱者(マジック・キャスター)の助力が得られることに、それも、その騎士そのものを貸してもらえることに勝機を見出していた。

 

「本当に、本当に感謝する。無辜の民を理不尽から救っていただいただけでなく、素晴らしい力を持つであろう騎士を貸していただけること。何度感謝しても足りはしないだろう。もし、王都に来られることがあれば、ぜひ私の家を訪ねてほしい。ガゼフ・ストロノーフの名にかけて、できる限りの便宜を図らせていただく」

 

 ガゼフはガントレットを外すとすっと手を差し出す。アインズはガントレットを外すことが出来ないことを少し残念に思いながら、その握手を返す。

 

「戦士長、死の騎士(デス・ナイト)にはあなたの指示に従うように命令を出しておきます。それと、こちらを」

 

 アインズは懐から、小さな木彫りの彫刻を差し出す。ガゼフからすれば、なんら特別なものには見えない。しかし──

 

「君からの品だ。ありがたく頂戴しよう。ではゴウン殿、名残惜しいが私は行かせてもらおう」

「御武運を祈っておりますよ、戦士長殿」

 

 戦士長は、その顔に必勝を抱き、木彫りの彫刻を腰の皮袋へと仕舞う。アインズはそんなガゼフに、強い意志を持った人間の輝きを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さくなったガゼフたちの背中を見送りながら、アインズはそっと伝言(メッセージ)を開く。それは信頼する天使であり、戦士長たちの前では姿を出すことのできなかった対天使に限定すれば、最強の切り札(ジョーカー)

 

「ラト、今何をしている?」

『ああ、すまない、エンリ。アインズからの連絡が来た。……お待たせ、アインズ。今はエンリの能力の確認をしていたところだったよ』

 

 ラストがいう能力の確認というのに、相方が時間を無駄にしてなかったことにアインズは安堵する。天使となってしまったエンリの能力とやらについて聞きたくなったが、今はそれよりもすべきことがあった。

 

「ラト、村の周囲を囲んでいる天使だが、確認しているか?」

『天使? ……今確認したよ、外を囲むアレ。あれは炎の上位天使(アークフレイム・エンジェル)だよね』

「そうだな。ユグドラシルのモンスターが、ユグドラシルの召喚魔法で呼び出されているとみて間違いないだろうが、同種族として確信できるか?」

 

 自身では確信は抱けないが、同種族であり、天使系統の特殊技術(スキル)を豊富に持つラストであれば、何か分かることがあるかもしれないと思った。

 

『なるほどね。同じ天使として、あれは炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)と断言してもいいね。それで、簡単に状況を説明してもらってもいいかな?』

「ああ、構わない。それぐらいの時間はありそうだからな。今は村人の目しかない、来てもらってもかまわないか?」

『ああ、すぐに向かうよ』

 

 アインズの側に、影が生まれる。

 転移門(ゲート)の魔法で、ラストと、その後ろにエンリが姿を現す。エンリはアインズに一度礼をすると、そっとラストの横に控える。

 

「それで、走って行った彼らは王国の兵士たちだったのかい?」

「ああ。それも、戦士長という立場の人間が居たぞ」

 

 アインズの戦士長という言葉に、ラストは驚く。しかし、それと同時にこの村を取り囲んでいる軍勢の目的を察する。

 

「となると、彼は囮になったわけか。死の騎士(デス・ナイト)は彼の援護に?」

「ああ、レベル二十前後とは聞いていたが、どの程度かは調べないといけないからな。実際にそれを討ちに来た戦力と死の騎士(デス・ナイト)と戦わせてみようと思っただけだ」

 

 なるほどね、と呟きながら、アインズがその戦士長を気に入っていたことをラストは気付く。不器用だなぁと内心だけで苦笑いをし、そっとそこには触れないでおく。

 元々、目の前のモモンガは強い意志を持つ人間に憧れを抱きやすかった。それはモモンガが尊敬した一人の純白の聖騎士からも分かったことであった。

 

「それじゃあ……っと、村長が来たようだ」

 

 これから自分たちがどうするのかを話し合おうというタイミングで、村長たちがやってくるのがラストの探知に引っかかる。

 そのすぐあとに、息を切らした村長が部屋の中に入り込んでくる。

 

「アインズ様。私たちはどうすればよろしいのでしょう? ……何故、戦士長殿は私たちを守ってくださらず、村を出て行かれるのでしょう」

 

 村長の声には恐怖だけではなく、見捨てられたという怒りが隠し切れていなかった。

 守られるだけをよしとする、その姿勢に対して。さきほどの村人を守るために、寡兵で敵に向かっていく彼の姿勢と比べて、僅かに不快な感情を抱く。

 

「村長殿、村を取り囲んだ者たちの目的は戦士長の暗殺でした。つまり、彼らはこの村を戦場としないために、出て行かれたのですよ?」

「なんと……! そんな、勝手な想像で私は……」

 

 善良な人物ではあった。

 戦う力を持たず、ただ守られるだけの自分たち、そんな自分たちを守るためだけに、決死の覚悟を持って戦いの挑む戦士長を、己たちを見捨てたと思い込んでしまった自分を恥じたのだろう。

 

「私たちは……これからどうすればよいのでしょうか」

 

 村長が項垂れるようにしながら、ラストとモモンガへと言葉を絞り出す。

 

「私たちは今まで、森の近くに住んでいましたが、決してモンスターに襲われることはありませんでした。今まで幸運だっただけなのに安全だと勘違いし、自衛という手段を忘れ、結果、村人は多くが殺されました……」

 

 それは後悔であった。日々を安寧に過ごし、生きていることが当たり前であると勘違いしたことへの。それは、村長だけではなかった。親しいものを失った村人、目の前で大切なものを奪われたエンリも同様であった。

 アインズからすれば、彼らを慰める義理もなければ、それを言うだけの資格もないと口を閉ざしていた。

 ラストはそんな村長に声をかける。それは試練を課す天使のようでもあり、しかし迷えるものを導かんとする天使のようでもあった。

 

「村長殿、恥じることはありません。今まで、それでよかったから、今までが大丈夫だったから。そう思ってしまうのは、仕方が無いことです」

「……」

「ですが、忘れてはいけない。奪われた悲しみを、守れなかった後悔を。そして、今生きているあなたたちが何をできるかを、考えなさい」

 

 ラストの言葉が、優しく村長とエンリの胸へと溶けていく。そして、村長はその言葉を呑み込むように、俯く。そんな村長の様子にアインズは嘆息しながらも、自分たちも行動を開始する。

 

「さて、村長殿。お悩みのところ申し訳ないが、村人の皆さんを大きめの家屋に集めてください。私の魔法でちょっとした防壁を張っておきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬の蹄から伝わる振動が心地よかった。

 何の憂いもなく、ただ眼前の敵にだけ、ガゼフはその意識を集中させる。

 隣には馬の脚と並走する漆黒の騎士が居た。その顔は生者のそれではないが、ただ今はその凄まじい身体能力がガゼフには心強かった。

 

「敵に一撃を加え、村の包囲網をこちらに引き寄せる! しかる後に撤退だ。そのタイミングを逃すなよ」

『はっ!!』

「行くぞ! 奴らの腑を、喰い散らしてやれ!」

 

 こんな愚かな指揮官に付き従ってきてくれた部下に、ガゼフは心に熱いものがこみあげてくる。

 ガゼフは背中の弓を取り出し、引き絞る、狙いは頭部、必殺を持って。しかし、敵の頭部へと寸分違わずに放たれた矢が、何の効果も示さずに弾かれる。

 魔法によって守られていることに、ガゼフは舌打ちをしながら弓矢を捨てる。目くらましにもならない以上、荷物になるだけであるからだ。

 前方に居た敵の一人が、こちらに手を向けてくる。魔法と思い、ガゼフは体勢を引くくし身構える。しかし、その対象はガゼフではなかった。

 

「どう! どう! どう!」

 

 突如として馬が制御を失う、上体を持ち上げ、それとともにガゼフの身体も一瞬重力から解放される。ガゼフは馬から放り出される前に、手綱を引き、なんとか落馬を避ける。

 しかし、馬はガゼフの指示に従わず、動き出そうとはしない。

 精神支配系の魔法とガゼフは思い至り、その対策をしなかった自分へ悪態をつきながら、馬から飛び降りる。並走していた死の騎士(デス・ナイト)がガゼフの隣へと守る様に並び立つ。

 そして、部下たちが二人を避けるようにして分かれ、先へと進んでいく。部下の一人が速度を落とし、自分に手を差し出してくる。しかし、それよりも先に空中から天使が襲い掛かってくる方が速かった。

 ガゼフは剣を抜き放ち、一閃。

 王国最強であり、周辺国家にも並ぶ者は居ないと謳われるその剣閃は、まさに全てを両断する勢いがあった。しかし、天使の肉体に深く食い込むも、絶命までには至らない。

 

「ヴォオオオオオオオオ!!!」

 

 ガゼフの横で、死の騎士(デス・ナイト)がその剣を振るう。ガゼフと同じく、その一撃は風を斬り、そのままの勢いで天使を両断してしまう。そのまま雄たけびを上げ、迫りくる天使へと再びその剣を振るう。

 

「……心強いな……これは」

 

 奮迅の活躍を見せる死の騎士(デス・ナイト)に、ガゼフはその力と、それを躊躇いなく貸してくれた魔法詠唱者(マジック・キャスター)の懐の深さに感謝した。

 そして、ガゼフも負けていられないと武技〈戦気梱封〉を使用する。刀身に微かな光が宿る。その力を込めた隙を狙うように、天使が剣を振りかぶる。

 

「──遅い」

 

 しかし、それはガゼフからすれば緩慢にすぎた。先ほどと同じように一閃。その一撃は先ほどとは違い、天使の身体を容易く両断する。ガゼフは消えゆく天使から目を離し、顔を持ち上げる。

 

「魔法ってのは何でもありか」

 

 そこには先ほど見たよりも数を増やした敵。天使も、それを召喚する者たちも。それは本来なら絶望に足る光景なのであろう。しかし、今のガゼフには力強い味方が居る。それはともすれば、今まで自分に付き従ってきた部下たち以上に、己の背を預けるに足る騎士であるだろう。

 

「言葉が通じているとは思わんが、それでも、言わせてくれ」

「……」

 

 当然、ガゼフは明確な返事を期待していなかった。独り言のようなものであり、自分に比肩する騎士と肩を並べて戦えることへの感謝の言葉と共に戦う者への決意のような者であった。

 

「背中は任せたぞ──!」

「オオオオァァァアアアア!!」

 

 生者を呪うはずである叫びが、自身の言葉への返答に思えたガゼフは、笑みをこぼしながら剣に握る力を強める。そして、敵の背面、その向こうから向かってくる騎兵たちも目に入る。

 剣を抜き、馬を走らせ、雄たけびを上げながら部下たちが敵の目を引かんと突進を仕掛ける。自ら死地へと、吶喊する彼らは口々にガゼフのことを叫んでいた。

 

「包囲が縮まったら撤退だと言っただろうが。……本当にバカで、本当に……自慢の奴らだ」

 

 共に戦い、死ぬ覚悟。遠目にでもその意思を感じ取ったガゼフは、その心が熱されるように熱く燃え上がるのを感じていた。それと同時に、優れた戦士としての冷静な思考が判断する。

 これが勝機であると。部下が命懸けで作ってくれる、最大にして最後かもしれない勝機であると。

 

「おぉおおおおおおお!!」

 

 ガゼフが駆ける。狙うは敵の指揮官。周囲の天使と兵士たちは背面からの突進に対処している今、足の筋肉が込められた力に比例して膨れ上がる。地を大きく削りながら、身を低くして駆ける様はまるで獣のようでもあった。

 当然、ガゼフを止めようと天使たちと法国の兵士たちが動きだす。しかし、ガゼフはそれを一顧だにしない。

 

「ヴォォオオオ!!」

 

 ガゼフの動きを止めようと動き出した天使が、死の騎士(デス・ナイト)によって切り伏せられる。ガゼフの身を守るように、その巨大な盾で放たれる魔法を弾き飛ばす。

 

「ち、より多くの天使で囲め! 後ろから来た雑兵は天使ではなく魔法主体で蹴散らせ! 天使を失った者は再召喚を速やかに行え!」

 

 法国の指揮官が冷静に指示を出す。敵ながらその判断は間違ってはいないと、ガゼフは目の前に並ぶようにして天使たちが囲い込むようにして距離を詰めてくる。その数は三十、幾ら死の騎士(デス・ナイト)が守り優れた騎士であったとしても、数が多すぎた。

 

「邪魔だぁああああ!!」

 

 判断は一瞬、ガゼフは道を文字通り切り開くべく、自身の切り札たる一撃を繰り出す。ガゼフ・ストロノーフが王国最強であり、英雄の域であると証明する一撃にして六の剣閃。

〈六光連斬〉

 最も近い六体の天使が光へと還る。しかし、天使はさらに数が多い。ガゼフは止まることなく、次の武技を発動させる。

〈即応反射〉

 攻撃後の身体を無理に動かし、次の攻撃を放つことのできる態勢へと整える。強引に動かした体にミシリと、心地悪い音が響くことを自覚しながら、ガゼフは攻撃を止めない。

〈流水加速〉

 そのまま流れるような動きで、向かってきた天使たちを斬り飛ばす。その光景はまさしく人の領域を超えたとも言え、ガゼフの部下たちの間にも希望に満ちた空気が流れ始める。

 しかし、その希望を塗りつぶそうとするように、冷ややかな声が周囲に響く。

 

「見事だ。アンデットに頼ってまで、戦おうとする生き汚さには称賛しか覚えんよ。そこまで堕ちたか、ガゼフ・ストロノーフ。………天使を倒された者は再召喚しておけ。ストロノーフには魔法での攻撃を集中させろ、アンデットには私の監視の権天使(プリンシバリティ・オブザベイション)で対処する」

「舐めるなよ……」 

 

 先ほどの隙に敵の指揮官を倒せなかったことに、ガゼフは今回の闘いで何度目かわからぬ舌打ちを零す。敵に態勢を整えさせてしまった以上、天使を倒し、敵の魔法から耐えながら再び機を狙うしかない。

 しかし、その目に絶望はない。ただ、勝利への道を探る戦士の目しかなかった。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

死の騎士(デス・ナイト)先輩が居るだけで、ガゼフさんたちは戦況がかなり好転するのではと思っての、アインズ様からのご助力でした。
作者の中では、死の騎士(デス・ナイト)先輩が戦線に加わることで、トントン程度まで持っていけると思いながらも、勢い余ってニグンさんが倒されたらどうしようと思っておりました。

死の騎士(デス・ナイト)がレベル三十五。第四位階で安寧の権天使(プリンシバリティ・ピース)が呼び出されるので、ニグンさんの監視の権天使(プリンシバリティ・オブザベイション)もそれらと同レベル帯と考えまして、二体でなら死の騎士(デス・ナイト)先輩が防御寄りのモンスターであることやニグンさんのタレントも考えてギリギリ対処可能かなという推察でした。

次回 大天使エンリの怒りの炎がニグンさんを襲う

では、これからもよろしくお願いします。

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