お待たせしました。第八話となります。
今回はオリキャラが出てきます。ご了承くださいませ。
村へと戻ったのはアインズだけであった。戦士長たちが居る以上、ラストとエンリは面倒の種にしかならないと判断したからだ。ラストはエンリをこっそりとカルネ村へ連れて行ったらそのままナザリックに先に戻っておくと言っており、アインズもまた守護者たちへの説明もあるだろうと許可を出した。
村へと戻ったアインズを村長を含めて、多くの人が取り囲む。
村人総出での無数の賛辞や感謝の言葉を受けている中、ガゼフ・ストロノーフが姿を見せた。
「おお、戦士長殿。ご無事で何より。もっと早くにお救いできればよかったのですが、何分時間のかかるアイテムでしたので、申し訳ない」
「いや、ゴウン殿感謝する。私が助かったのは、あなたと、あなたの騎士のお陰だ。……ちなみに、彼らは?」
その身に傷の無い個所を探す方が困難という有様の戦士長では、あったが、それはむしろ戦士と言う彼の価値を高める勲章のようでもあった。
アインズは努めて、何の感情も抱かないように淡々と戦士長に答える。
「ああ、彼らでしたら追い返しましたよ。流石に全滅させるのは無理でした」
無論、嘘である。陽光聖典の者たちは全員がナザリック地下大墳墓へと送られており、デミウルゴスがその後を引き継いでいるはずである。
ガゼフはアインズの答えを聞くと、驚きに目を見開き、そして深く息を吐く。
「お見事。幾たびもの危険を救ってくださったゴウン殿に、この気持ちをどう表せばよいのか。王都に来られた時は必ずや私の館に寄ってほしい。歓迎させていただきたい」
「そうですか。では、そのときはよろしくお願いします」
「そういえば、あの騎士殿は……?」
ガゼフは薄々察しながらも、聞かずにはいられなかった。あの光に、自分を庇い呑まれてなお立っていたあの騎士のことを。
「彼なら、仕事を終え、帰るべき場所に戻りましたよ」
「……そうか」
礼のひとつだけでも、言いたかったのだがな。ガゼフは心の中だけで思い、彼の騎士に魂の安らぎがあらんことを、信じても居ない神に祈るだけにとどめた。
彼の騎士が役目を果たしたというのなら、それは惜しんだとしても、間違いではなかったのだろう。
「では、ゴウン殿はこれからどうされるのかな? 私は部下たちと共にこの村で休ませてもらうことになっている」
「そうですか。私はこれから出立するつもりです。どこに行くかは決めておりませんが」
「もう夜。この中を旅するのは……いや、失礼。ゴウン殿のような強者には不要な心配でしたな。では、王都に来られたときは是非に」
アインズは、ガゼフに頷きを返し、今日、この村ですべきことは終わったと判断する。なんだかんだと予想外の出来事が重なり、少々長居をしすぎてしまったとアインズは思った。
何より、早く家に帰って休みたかった。
「帰るかぁ。家に」
アインズは、仕事が終わり、家路につく時のような小さな声で呟いてしまうのだった。それはどことなく、
カルネ村への外地調査から一日経った後、諸々の報告会を終えたアインズとラストは何故か感動をしている守護者たちに首をかしげながら、ひとまず戦士長たちがカルネ村から離れるのを待つことにした。
そんなアインズの私室には、キングサイズよりも広い、巨大なベッドが存在している。
アインズ一人では使い切れず、もしアインズは自分が寝れるとしても、こんな高価なベッドじゃ逆に寝れなくなりそうだという感想を抱くほどに立派なものである。
そのベッドに、骸骨と天使が身体を投げ出して、あーとか、うぼあーとか唸っていた。
アンデットであるアインズは本来、疲れを感じないはずではあるが、ナザリックのNPCたちが向けてくる忠誠心やそれに応えようとするプレッシャーなどの精神的な疲労まではカバーしきれていない。
ラストも同様に、精神的な疲労も感じている上に、天使はアンデットと違い疲れを感じるのだ。
「すっげぇ疲れたぁ。いや、アンデットだから肉体的じゃなくて、精神的に」
「私は両方ですよ、モモ……アインズさん」
「気を付けてくださいねー、守護者たちの前で呼び間違えるのもアレですし。あー、ベッドの柔らかさに寝れそうなのに寝れないー」
「アンデットですからなー。あ、寝落ちしそう」
二人を見守っているのはアインズが改めて呼び出した
二人がゴロゴロだらだらとしているのは、
「あ、
「となると、やっぱ死体が原因ですかね」
「ですかねぇ。……よっと、寝てたらほんと寝落ちしちゃいそう」
ラストがベッドから立ち上がり、伸びをするように翼ごと背中を伸ばす。部屋の端から端まで届かない程度には抑えているが、それでもずっと折り畳んでた翼を伸ばすと気持ちがよかった。
アインズはまだベッドに寝ころび、天井を見ながら仕事終わりのおっさんのごとく口から間抜けな声を出している。アインズからすれば、実際にひと仕事を終え、家に帰ってきたと言っても過言ではなかったのだが。
ラストとアインズが部屋に二人で籠る時は、
「となると、できる限り死体は集めた方がいいかなぁ」
「そうですねー。天使創造は……なんか色々取り返しがつかないですし」
「絶対に勝手に使わないでくださいよ。あのエンリって娘だって、これからどうするつもりなんです?」
「ナザリックにうまく溶け込めるならいいんですけどねぇ。時間かかりそうですし、うーん、カルネ村に匿っててもらうのが正解かな」
しかし、存外にエンリたちは守護者たちから高評価であった。特にデミウルゴスとコキュートスが一目置いており、それなら、本人が希望するならコキュートスに鍛錬とかお願いしてもいいかなとか考えていた。
「そうですねぇ。まあ、現地の人がナザリックに協力してくれるって言うのはいいことですし、今回は結果オーライですよ」
「ありがとうございます」
ラストとアインズは各々、思い思いに楽な姿勢をしながらダラダラとしていた。ラストは翼をはためかせずとも飛べるということで、無重力を満喫するかの如く宙にごろ寝をしている。天使が空中でごろ寝し、アンデットがベッドでごろ寝をするという、シュールな絵面が出来上がっていた。
「確か、一番近い都市がエ・ランテルでしたっけ」
「そうですね。近々情報収集を兼ねて行かないとですねぇ」
「うーん、それならやっぱりエンリちゃんに付いてきてもらったらいいですかね。文字とかも流石に日本語じゃないでしょうし」
「……あ、そっか。あんまりにも普通に話せてたから気づかなかったです」
あまりにもすんなりと言葉が話せてしまっていたことから、文字が読めないという事にも思い至ってなかったアインズが、固まるように動きを止める。
アインズ自身、この世界が翻訳コンニャクを食べていることをカルネ村で確かめたばかりであったが、文字にまでは気が回っていなかった。
「ラストさんは、
「ええ……旅の守護天使ってのが……ユグドラシルの時はゴミスキルでしたけどね。モモンガさんは何か言語解読みたいな魔法は持ってましたっけ?」
「まさか、異世界に来るなんて思わなかったからなぁ……結構な数は取ってますけど、言語解読の魔法は無いですね」
「解読のアイテムも、数があるわけじゃないしなぁ」
ラストは天使ロールをするために、天使っぽいと思ったスキルを片っ端から偏らせて取っていた。その癖にわざとレベルダウンしてスキルや職業レベルを最適化させるこだわりも持っていた。主にパーティを一時的に切ったアインズの即死魔法によって行われていたが。
そんな過去の自分に感謝しながらも、ラストは自身はともかくアインズはどうしたものかと腕を組む。文字をマスターするなど、一般庶民であった自分たちには一朝一夕でできることではない。
「宝物殿に解読のマジックアイテムの予備がないか探しに行きます? ナザリックの皆も必要になるでしょうし」
「……」
宝物殿と言う言葉にアインズは黙り込んでしまう。宝物殿にはアインズが封印した黒歴史が居るはずだからだ、そして、おそらくそいつは自分の意思を持って動き始めている。
アインズはその光景を想像し、アンデットなのに鳥肌が立ってしまいそうな感覚を覚えてしまった。守護者たちに見られでもしたら、悶死するかもしれない。
「あー……なんなら、私が取ってきましょうか? 私の創ったNPCも居るはずですし」
「それなら私が一人で行った方がましですよ! ……いや、やっぱり二人で行きましょうか」
「あっはい」
ラストとアインズは、指輪で宝物殿へと向かう。現状指輪を持っているのはラストとアインズ、そしてラストから指輪を渡されたアルベドだけである。
アインズはその内他の守護者にも折を見て渡さないとなと、思考を巡らす。
宝物殿で二人を出迎えたのは数えきれないほどの金銀財宝たち、ゲームの頃とは違う、重量を感じさせるその光景に、ラストとアインズは凄いたくさんお金があるなーという大雑把な小市民的な感想しか抱けなかった。
「そんじゃ、行きましょうか」
「……そうですね」
ラストが自身に毒属性を無効化する魔法をかけ、翼をはためかせて先へと進んでいく。アインズも<
毒無効をしていなければ三歩と待たずに死んでしまう薄い紫色の煙を抜け、ラストの翼が黒いぬりかべのような壁の前で止まる。
「えーと、確か……かくて汝、全世界の栄光を…………?」
「あー、っと、我がものとし、暗きものは汝より離れ去るだろう……?」
ラストが途中でど忘れしたパスワードをアインズが思い出すように探りながら、答える。しかし、そんな答えでよかったのか、黒く塗りつぶされた壁が中心にブラックホールに吸い込まれるように中心に集まっていき、二人の目の前には続く通路が現れる。
その通路には左右に様々な武具が整理され、飾られている。それは神聖さを思わせるような白い羽のような細剣から、この世の怨嗟全てを合わせたかのような表情をしている兜、、渦のような螺旋を描き中心には全てを呑み込んでしまいそうな大楯から様々なものである。
二人は勝手知ったるやといった感じで通路を進んでいく。ここには二人がプレイヤーキルをして手に入れた装備もあれば、かつてのギルドメンバーが昔使っていたが新調したために使わなくなったといった武器が多く、思い出を遡るように足を進めていた。
やがて、通路は終わり、待合室のような空間に出る。そこにはソファーとテーブルのみであり、左右には今まで来た道と同じように通路の出口が存在していた。
そして、そこには居たのは
「もうよい、パンドラズ・アクター。元に戻れ」
アインズが手を振り、ペロロンチーノの姿がぐにゃりと歪む。一拍した後に、そこに居たのは卵のようにつるりとした埴輪のような顔をした、ドッペルゲンガーであった。
「おぉ…おぉ! よぉこそおいでくださいました! 私の創造主であらせられるモモンガ様! そしてその無二の友にして明けの明星たるラスト様!!」
言葉の区切り区切りごとに、大振りなポーズを決めながら、ドッペルゲンガー、パンドラズ・アクターがこれまた大きな声量で答える。一つ一つの動きがオーバーなうえに、それを行っているのは埴輪顔であったことから、いっそシュールと表現すべきな動きとなってしまっていた。
「……ぅぉっ……」
自分が思ってた以上にひどい
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。モモンガ様、そして我が創造主、ラスト様」
それは二股に分かれた舌を出し入れしながら、恭しく頭部を下げる赤い鱗の蛇であった。パンドラズ・アクターも慣れた様子で片腕を持ち上げて蛇が巻き付きやすいようにしてある。
「久しぶり、になるかな? 元気にしていたかい? シャーロット」
「もちろんでございます。パンドラズ・アクターともども、宝物殿守護の任を問題なく遂行させていただいております」
「それはなにより。そら、アインズ、そろそろ再起動しなよ」
ラストの作成したNPCであり、パンドラズ・アクターの補佐として設定されているシャーロット・ミカエリスは舌先でチロチロと空気を舐める。そんな自分が作り出したキャラが動き出していることに、少なくない感動とそれと同じくらいの気恥ずかしさを感じた。
「……よし、気を取り直せ。アンデットなのに精神的動揺を覚えている場合じゃないぞ」
黒歴史的な割合が多すぎて自己暗示もどきをしている
「んん、パンドラズ・アクターにシャーロットよ。今後、私をアインズと呼ぶように。アインズ・ウール・ゴウンだ」
「おお! かしこまりました。我が創造主、アインズ様!」
「かしこまりました、アインズ様。ですが、一体どういった由縁でしょうか? 異論は勿論ありませんが、少し疑問に思いましたので、お聞かせしていただけるのならば、お教えくださいませ」
ラストはそう訊ねるシャーロットの様子に、自身が書いた設定である、知識欲の塊という一文を思い出した。
「話せば長くなるが、ナザリックがユグドラシルとは違う世界に転移したようでな。この世界にもしアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーが迷い込んでいたら、私がこの名をこの世界に広めることで、仲間たちの道標となればいいというだけだ」
「なるほど。そうでございましたか。考えが至らず、申し訳ございません。ただ、新しい世界ですか……では、僭越ながら、私のもう一つの役職から、何か助言をさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか」
「もう一つの役職……?」
「あー……アレか……」
シャーロットがにょろにょろと、パンドラズ・アクターの手から降り、ラストとアインズに蛇の身体だけでソファーを指し示す。アインズは知らない設定に内心首を傾げ、ラストは過去の趣味から勝手に付けていた設定が生きていることに思い至った。
「ナザリック専属顧問探偵という役職でございます」
(あー、そういえば、一時期シャーロックホームズにハマってましたっけ)
(いやー、懐かしい……。きちんと短い文だったとしても反映されてるみたいですね)
(確か、智慧の蛇ってことで、パンドラズ・アクター、アルベド、デミウルゴスと同等の頭脳であり、人物観察と推理と言う点では三者を凌ぐ、でしたっけ)
(そうですそうです。パンドラズ・アクターがワトソン的な感じだとしっくり来ますし。まあ、元ネタを聖書とかエクソシストとかから引っ張ってますから、ごちゃごちゃになってるキャラなんですけどね)
(いやいや、パンドラズ・アクターのあのすっごいダサいポーズとかよりはずっといいセンスだと思いますよ)
(パンドラズ・アクターなぁ……顔が埴輪じゃなかったらなぁ……ユグドラシル時代よりも動きがキレッキレだから、なおさら……)
(まさか、こんなことで精神の安定化が引き起こされるとは思ってませんでしたよ。今だけはアンデットであることに感謝してますよ……)
「では、アインズ様。ユグドラシルとは違う世界に転移ということでしたが、全くの未知ということでよろしかったでしょうか」
「ああ、そうだな。ただ、ユグドラシルの魔法が存在しているが、誰もユグドラシルの存在を知らない。そして、ユグドラシルと同じモンスターが存在しているが、未だ未知数と言ったところだな。私たち以外の他のプレイヤーが居るかも不明、と言っていいだろう」
「なるほどなるほど。同系統の魔法が存在していながらも、誰もユグドラシル、ひいてはナザリックのことを知らないのですね」
「ああ、ただ私が遭遇した者たちが知らないだけかもしれないがな」
「恐らくは、アインズ様の御推察の通り、その者たちが知らなかっただけでしょう。これも私の勝手な推察でございますが、ユグドラシルの魔法が一般的に使用されているというのなら、それが人々に認知されるに至る、つまりは常識となるだけの時間が経過しているということであります」
「……なるほど」
「そこで考えられますのが、遥か昔、ユグドラシルにおけるプレイヤーがこの世界で魔法を広めたと考えられます。その者が存命か、既に死んでいるかは分かりませぬが、百や二百年と言った昔ではないでしょう」
「ふむふむ、続けてくれ」
気が付けば、アインズはシャーロットの推理とも言えるこの世界への考察に聞き入っていった。それはアインズやラストたち自身では気づかなかったことを気づかせてくれる、大変興味深いことであった。
「未だ未知数と思われますが、マジックアイテムなどはいかがでしたでしょうか。ユグドラシルに存在していたものがあったとしたならば、少しだけこの話は深刻なものとなってきます」
「なに? 確かに、この世界の特殊部隊にあたる者たちが、魔封じの水晶を使用する場面があったが……」
「でしたら、
「……な……!」
「……そういえば、そうだね」
言われて気づく、そして、プレイヤーの存在に思い至りながら、そのことに気づかなかった自分たちがどれだけ間抜けかを思い知らされたような気分だった。
「我らアインズ・ウール・ゴウンは、至高の御方々たちの御尽力によって、十二の
「……」
「……」
確かに、とアインズとラストは二人で考え込む。二十と呼ばれる使い捨て故にとりわけ強力な
仮に、それを使用してこの世界に魔法を広めた、つまりは世界のシステムを改変したなどとしたら、辻褄が合うと考えられる。
「差し出がましいようではございますが、御身がこの世界の外へ向かわれるのでしたら、宝物殿の
「……ああ、私もシャーロットに言われて
「これが私の役目ですので、感謝などもったいなくございます」
「いやいや、シャーロット。君の功績は誇るべきだよ、私たちがこのことに思い至らないで、
「ありがとうございます。父上様」
シューシューと、褒められて嬉しそうに、シャーロットは微かに身をくねらせる。明かりに反射して、赤い鱗がキラキラと反射して僅かに虹を思わせるような光沢を帯びる。
「ということは、アインズ様。ついに!
マジックアイテムマニアという設定が存在するパンドラズ・アクターが、その名の通り役者の如く大仰なアクションをキメ、最後に軍帽の唾を片手で引き下げながら、目線────埴輪顔なので空洞だが────をアインズとラストへと向けてくる。
「そ、そうだね」
「嬉しそうですね。パンドラズ・アクター」
ラストはテンションが上がったパンドラズ・アクターに苦笑いを返し、シャーロットはほほえましいものを見る様な声音であった。
「おいー、ちょっとー、こっちに来ーい」
アインズはパンドラズ・アクターの腕をつかみ、壁際に引っ張る。そして、壁際に追いつめるようにして壁に手をつけ、顔を寄せる。
「俺はお前の創造者だ、そうだな?」
「その通りでございます、アインズ様」
「だったらな、そんな主人からの命令でも頼みでもいいからさ……! 敬礼はやめないか……?」
そっとアインズの話を聞こえないように、顔をそむけるくらいにはラストはどんな会話が行われているかを察していた。向かい側のソファーではシャーロットが首をかしげていた。
「うん、ほら、なんというか。敬礼って、変じゃないか……? 軍服はまぁ……強いから良しとしてさ。な、本気でその敬礼は止めような」
アインズがさらに顔を寄せ、眼を紅く光らせる。そんな主人にパンドラズ・アクターは最大の敬意を以て答える。
「
「ドイツ語だったか……! それも止めような。いや、やってもいいけど、俺の前ではしないでくれ、頼むぞ?」
何度もアインズの中で羞恥による精神の混乱と、沈静化が連続で巻き起こる。パンドラズ・アクターはぽかりとした瞳が、気圧されたように微妙な感情を宿したような気がした。
キスでもしてしまいそうなほどに近づいていた顔を離し、アインズは力無くソファーへと戻る。
「……お疲れ、アインズ。私も軍服は好きだよ」
ラストの慰めが、アンデットなのにささくれた心に染みたアインズであった。
怒涛というべき一日を終え、エンリは自宅のベッドに横になっていた。
同じベッドには、妹であるネムが自身に新しくできた翼を羽毛布団にして泣きつかれたように眠っていた。
村を襲ってきた兵士たちによって、自分たちの両親が死んでしまった。そのことを、エンリは存外に冷静に受け入れていた。今でも涙を流してしまいそうになるし、生きていて欲しかったと思っている。
ただ、このどこかすっきりとしたような、やり遂げたような清々しさは、エンリが自身の力で決着を付けてしまったからなのかもしれない。
「……眠れないなぁ……」
エンリは妹に縋りつかれていない、右手を持ち上げて、透かすように見つめてみる。畑仕事でささくれ、皮がむけ固くなっていたその手の平は、まるでエンリが思う貴族の令嬢のように綺麗になってしまっていた。この灯りの無い部屋の中ですら、はっきりと周囲も見えてしまう。
何もかもが急速に変わり過ぎてしまった。エンリ自身のことも、エンリの周りのことも。
今だ自分が夢の中に居るのじゃないかとも思ってしまう。でも、エンリの胸の中にある、何か繋がりのような物が、これが現実だとも伝えてくれていた。
(そういえば……ラスト様、迎えに来るって言ってたけど……)
天使にしてそのまま放り捨てるなんて無責任なことはできない、そう言っていた天使のことを思い出す。
ラストの友人であり、エンリにとってはもう一人の命の恩人であるアインズは、ナザリックと言う組織に興味がないかとも言っていた。初めは凄く怖いアンデット、死そのものみたいだと思っていたが、その実はラストと同じようにどこか人間味のある人だったなとエンリは感じた。
ラストとアインズが居る組織になら、きっとカルネ村も、ネムも悪いようにはならないだろう。
そんな信頼とも言える様な思いがあるのは、ラストの力で天使になったからなのかもしれない。
「でも……悪くないな」
自分が天使になった時の、あの優し気な少し困ったような笑顔を思い出すと、エンリは自然と自分もクスリと笑ってしまいそうになる。途方もなく、自分とは住む世界が違うのに、ちょっとおかしくて。
(早く明日が来ないかな……)
明日に迎えに来るとは言ってなかったけれど、それでも、エンリは明日が来るのを待ち遠しく思いながら、腕の中で眠る妹と同じように、そっと瞳を閉じた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
まだカルネ村篇が終わらない……だと……。
事後処理のようなものと、フラグ折りでした。
オリキャラと言うことで、主人公作成の赤い蛇、種族は特に決めてませんが蛇です。ナーガが上半身人間で原作で既出なので、ただの蛇は何て言えばいいのやら……。
蛇さんこと、シャーロット・ミカエリスは素直だし、礼儀正しいし、パンドラズ・アクターをダサいと思ってません。
主人公以上に天使なのかもしれないですね。
シャーロック・ホームズとセバスチャン・ミカエリスが元ネタですが、作者自身はシャーロキアンという訳ではなく、ただ顧問探偵と言う響きがかっこいいなと思ってナザリックに設置しました。お許しくださいませ。
ワトソン枠はパンドラズ・アクターです。
ちなみにシャーロットちゃんは女の子です。にょろにょろテカテカしてて可愛い子です。
では、これからもよろしくお願いします。