笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
7話の閲覧数が6話より多いんですが、絶対皆様スケベ目当てでしょ!!ふっふっふっ残念ながらスケベ路線は控えめなんですよ!!え?R-15タグついてる?あーあー聞こえない。
スクフェス5周年のために絵も描いてたらするので投稿忘れそうになりますよ…危ない危ない。
というわけで、どうぞご覧ください。
翌日もにこちゃんはちょっと元気なかった。雨も止まないし、僕もテンションが上がらない。いつも別に高くないけど。
にこちゃんは、結局自分がどうしたいのか決めきれずにいるのだろう。生来の性格なのか、アイドル根性なのかはわからないけど、彼女らに頭を下げるのはプライドが許さないようだ。いかにもにこちゃんらしいが、僕がせっつくわけにもいかない。それで変に傾いたら後で困る。にこちゃんが自ら望んで手を伸ばさなければいけない。
「…なんか、静かに感じるわね」
「昨日が賑やかだったからね」
いつも通り部室で昼食中の僕ら。今日はなぜかにこちゃんが直々に弁当作ってきてくれて驚いたが、中身がもやし炒めとかで妙に質素で困った。そこまで節制しなくてもよかろうに。
「…やっぱり、茜は賑やかな方がいい?」
どうにも弱気になってるらしいにこちゃんが弱々しい声で僕には聞いてきた。いつもなら即断即決でガンガン行っちゃうのにね。
「僕がどうとかより、にこちゃんが望むべきだろ。決めるのはにこちゃんだ」
「…むぅ」
ふてくされしにこちゃん。流石にそこはね。にこちゃんの意思で決めてほしいから。
「私は、あんたにも決めてほしい」
「へえ」
ふてくされながらもやし炒めを口に突っ込むにこちゃんがそう言う。ちゃんと飲み込んでからしゃべるあたりは流石お姉ちゃん。高校生なら普通かもしれないけどさ。マナー的に。
「なんでさ?」
「だって…あんたはうちの、アイドル研究部のマネージャーなんだし。あの子達に部屋を渡すなら、あんたの許可だって必要なはずよ。部長はそんな強権じゃないの」
「そうかな」
「そうよ」
僕も僕で弁当を平らげてから返事をする。弁当箱を片付けながらにこちゃんを見てみると、結構真剣な目でこっちを見ていた。僕に縋るんじゃなく、本当に僕の意見を尊重しようとしてるんだろう。こういうときしっかりしてるから困る。ギャップ萌えというやつだ。多分。
「そうだね…。僕は確かに賑やかな方がいいかもしれない。にこちゃんが笑顔になるからね」
「そんな理由なの?」
「そんな理由って酷くないかい」
眉をひそめて苦言を呈するにこちゃん。失礼な、僕にとっては大事な理由だぞ。
「にこちゃんの笑顔はね、見てるとこっちも笑顔になれるんだ。僕はもっともっと多くの人に君の笑顔を見てほしい」
「…そこは独り占めしたいって言いなさいよ」
「なんでさ」
にこちゃんからよくわからない返事が返ってきた。ツッコミはしておくけど、まだ話は続きがあるから続ける。
「にこちゃん、にっこにっこにーしてるときとか、踊ってる時とかはちゃんと本気で笑顔になれるけど、なかなか心から笑わないもの。昨日にこちゃん楽しそうだったから、あの子たちと一緒にいればにこちゃんも心から笑顔になってくれるかなってさ」
そう言ってにこちゃんに笑顔を向けると、にこちゃんも笑顔で返してくれた。いつもの大輪のひまわりみたいな笑顔じゃなくて、もっと静かで可憐な笑顔だった。たまに見る、落ち込んだ後に見られる元気が出たサイン。とても可愛い。禿げる。僕禿げすぎじゃない?やばいね。
「…そうかもね」
「いい笑顔だよにこちゃん、可愛い」
「どんだけ可愛いって言えば気がすむのよ」
「いつまでも言うよ」
呆れつつ、にこちゃんは嬉しそうだった。
「…でも、やっぱり私はそんなにすぐに割り切れないわよ」
「だろうね」
「だろうねってあんたね」
にこちゃんの意地っ張りがすぐ治るならもう治してるよ。
「でも、にこちゃんが決めたことなら僕はどこまでもついてくからさ」
結局はそういうことだ。
「ほんとに恥ずかしいわねあんた」
「そんなにかい」
いつの間にやら弁当箱を片付けたにこちゃんがこっちに歩いて来ながら言う。僕は恥ずかしくないぞ、だって事実だもの。にこちゃんは可愛い。事実を主張するのになんのてらいも有りはしない。
「私が恥ずかしいのよ」
「そうは見えないぞ」
僕の横で仁王立ちするにこちゃん。僕も座ったままにこちゃんに向き合う。普通に真顔で恥ずかしがってる気配はない…いや顔がちょっと赤い。やっぱり恥ずかしがってる。流石にこちゃん、アイドルは表情詐欺が完璧だ。ごめん詐欺は言いすぎた。
「だから」
急ににこちゃんははにかんで、一歩近づいて、
額に唇をつけてきた。
………………………。
…………………………………………ん?
「………んん?んんん?!?!」
「恥ずかしいのお返しよ。じゃ、私はもう行くから」
待て。待ってくれ。事象に認識が追いつかない。にこちゃんはさっさと出て行ってしまったが、僕はパイプ椅子に縛り付けられたが如く動けない。ちょい、にこちゃんが、んん?!
意識もはっきりしないまま立ち上がろうとして、盛大にこけた。ついでに机に顎を打って視界が明滅する。散々だ。まったくまったく散々だ。
痛いやら恥ずかしいやらで悶絶してたら、授業に30分遅れた。
授業後にはにこちゃんもいつもの感じに戻っていた。僕も忘れることにした。なかったことにした。それがきっと正しい。正しいって言ってお願い。
にこちゃんの教室前で合流して、職員室に部室の鍵を取りに行って、二人並んで部室に向かう。その間二人とも言葉はない。なんだかんだ言って、昨日の喧騒が恋しくなってるんだとは自分でも理解できる。きっとにこちゃんも同じ気持ちだ。
だから、にこちゃんの気持ちは、きっと彼女たちとともに歩む方向に進んでくれるはずだ。にこちゃんも心の奥でそれを望んでるはずだから。
今しばらく時間をおけば、きっと。
「ねえ、帰りどっか寄ってかない?」
「いいね!部員のみんなも誘っていこ!」
そんな言葉が横を過ぎる。にこちゃんも反応したようで、部室の扉の前で一瞬固まった。
「…入ろうか」
「うん」
僕が促して、にこちゃんは扉を開ける。
何故か電気がついた。
…ここ自動点灯だったか?
「「「「「「お疲れ様でーす!!」」」」」」
「なっ」
「えっ」
μ'sの皆様がそこきちんと着席していらっしゃった。
………
……………んんん???
「お茶です部長!」
「ぶ、部長?!」
さっとお茶を出す高坂さん。え。…え?なんで君たちいんの?どうやって入ったの?
「今年の予算案になります、マネージャーさん!」
「あ、どうもご丁寧に…」
僕に紙束を渡してくる南さん。いや何受け取ってんだ僕。他に聞くことあるでしょう。
「ちょいちょい、君たち」
「部長!ここにあったグッズ邪魔だったんで棚に移動しておきました!」
「こらっ勝手にっ」
「さ、参考にちょっと貸して、部長のオススメの曲」
「おーいみなさまー」
「なら迷わずこれを…!」
「ああっだからそれは…!」
「聞いて」
聞いてよ。勝手にもの動かしちゃダメでしょ星空さん。あと小泉さん伝伝伝ってDVDじゃなかったっけ。ライブDVDなんだっけ。あとそれ保存用らしいからダメよ。
「ところで、次の曲の相談をしたいのですが部長!」
「やはり次はさらにアイドルを意識した方がいいと思いまして」
「それと振り付けもいいのがあったらお願いします!」
「歌のパート分けもお願いします!」
投げすぎじゃない?
というかほんとに何なのだろう。まさか昨日追い出されたからってゴリ押ししにきたのだろうか。にこちゃんそんなにちょろくないぞ。でこちゅーしてくるくらいだからな。あー待ったこれは思い出しちゃいけないやつだった今のナシ。
「いやいやいやいや君たち」
「…こんなことで押し切れると思ってるの?」
にこちゃんも同じ考えのようだ。どういう経緯でどういう思いがあってゴリ押しを敢行したのかはわからないが、そんな力技に負けるようなヤワな精神はしていない。僕も、もちろんにこちゃんも。アイドルなんて力技ではやっていけないし、力技に押されるようでもやっていけないのだ。
「押し切る?」
やっていけないのだ。
「私はただ相談しているだけですよ」
…やっていけないのだ。
「音ノ木坂アイドル研究部所属の、μ'sの"7人"が歌う次の曲を」
…………、
「…7人?」
…これは。
力技じゃないのか。
「…そうか。君たち…」
「何よ、どういうことなのよ茜」
驚き、戸惑い、不安や恐怖まで見て取れるにこちゃんの顔。目の前で起きる怪現象にどう反応したらいいかわからないといったようなその表情に、僕は優しく笑顔を返した。
「ふふ、簡単なことだよ。彼女たち、"音ノ木坂アイドル研究部所属の"って言ったんだよ?」
「それが何よ」
「部員、僕らしかいないはずなんだ。じゃあなぜ7人なのか。」
君はもう、ひとりじゃない。
「この子たちがアイドル研究部に入ったからだよ」
今度は自分ができる最高の笑顔をにこちゃんに送った。
「アイドル研究部所属のスクールアイドルがμ'sなら…にこちゃんも、μ'sのメンバー。だろ?だって、にこちゃんもスクールアイドルなんだから」
にこちゃんの心が決まるまで待つつもりだったけど。
周りはそんな悠長に待つつもりなんてなくて。
それでいて、より良い手を打ってきた。
にこちゃんがスクールアイドルをやりたいと思ってることが前提だから、にこちゃんが以前スクールアイドルをやっていたと知らないと思いつきそうにない作戦だけど…どうせ東條さんあたりが教えたんだろう。
まあ、何にせよ。
にこちゃんは無事押し切られてしまったわけだ。知らぬ間に。
でも、返事しないで僕を見つめるにこちゃんは、理解が追いついてきたのか、戸惑いながらも嬉しそうだった。
やがてにこちゃんは真剣な表情に戻ってμ'sの仲間たちに目を向ける。
「…厳しいわよ」
「分かってます、アイドルへの道が厳しいことくらい!」
「分かってない!」
デカい声で、でも割と嬉しそうに声を張るにこちゃんはやる気に満ちていた。ポジティブなにこちゃんを学校で見るのは久しぶりだ。
「あんたも甘々!あんたも、あんたも!あんた達も!!」
μ'sの仲間達一人一人を見据えて容赦なく言い放つにこちゃんは、アイドルという意味では間違いなく先導者であった。
「ついでに茜も!」
「僕関係なくない?」
「いーや!あんたは部員が8人になった重大さがわかってない!」
「あっはい」
おっしゃる通りですお嬢様。
っていうかそうじゃん7人じゃなくて8人じゃん。いやμ'sは7人か。なんか寂しい。
「いい?アイドルっていうのは笑顔を見せる仕事じゃない。…笑顔にさせる仕事なの!そのことをよーーく覚えておきなさい!!」
「「「「「「はい!」」」」」」
まあ、何はともあれ。
無事ににこちゃんがスクールアイドルに復帰してくれた。本懐は果たしたけど、本番はここからだろう。
にこちゃんの笑顔を世界中に振りまく、お手伝いをしなければ。
「じゃあ、にこちゃんも加わったことだし…練習する?」
そう言って窓を開け放ち、7人となったμ'sへ振り向く。開かれた窓の向こうは、いつの間にか雨は上がっていて、わずかながら青空まで見えていた。
で、屋上。
「にっこにっこにー!」
「「「「「「にっこにっこにー!」」」」」」
「…それやんの?」
なぜかみんなでにっこにっこにーしてた。あれにこちゃんの専売特許じゃないの。いいの。
「釣り目のあんた気合入れなさい!」
「真姫よ!」
「名前は覚えてあげて部長さん」
「茜うるさい」
「扱いがひどい」
今のは正論でしょ。セイロンティーでしょ。ごめん今の無し。
その後もわちゃわちゃやりながらひたすらにっこにっこにーしてたけど、時折にこちゃんが背を向けて涙を拭ってるのを見て嬉しくなった。きっと、やっと一緒にやっていける仲間を得られて感涙してるんだろう。今夜はハンバーグ作ってあげようかと、練習を眺めながら考えていた。
空は、雨が降ってたのが嘘みたいに快晴になっていた。
最後まで読んで読んでいただきありがとうございました。
若干短めでしたが、ついににこちゃん加入です。ここからが本番、やっと原作に合流です。ラブコメっぽいこともしてましたが、この先減るのでラブコメタグをつけるべきか否か。
あと次回はオリジナル展開、遂に男が本格的に増えます。せっかく原作に合流したのにね!!