笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

おかげさまでついにお気に入りが10人に達しました。私の寿命も100年が保証されました。本当にありがとうございます。自己満全開ですが頑張ります。

というわけで、どうぞご覧ください。




後日談

 

 

「とまあ、そんな経緯でにこちゃんは無事スクールアイドルに復帰したわけだよ」

 

 

とある喫茶店で、嬉しそうに語るのは波浜茜。音ノ木坂学院の3年生であり、圧倒的頭脳と抜群の芸術センス、そして脆弱な体と小さな身長を持つデザイナー界の神童である。

 

 

そして。

 

 

「…なあ、仕事の打ち合わせに来てんのにお前、2時間くらい矢澤の話しかしてねぇぞ」

「いいじゃないか。にこちゃんのことだぞ」

「いいわけあるか。暇じゃねえんだ」

「嘘つけ」

「ぶん殴るぞ」

 

 

波浜の対面に座っているのは、細身で背が高く、手足が長くてぼっさぼさの黒髪を頭に乗せた眠そうな顔の青年。その実態は波浜が作ったステージ演出等請負グループ「A-Phy(えーさい)」の一員であり、ペンネームはサクラ、音楽担当の別名"音楽界の神童"。

 

 

名を、水橋桜と言う。

 

 

「桜、暴力は何も生まないよ」

「そうだな、何もないところから暴力を生むことはできるがな」

「だから人は争いを止めないんだね」

「煽るやつがいるせいでな」

「乗ってくるから悪い」

「まず煽んな」

 

 

設立メンバーなので仲はいいのだが、ノリはこんな感じである。

 

 

「まあとにかく、次の舞台はアキバドームらしいし気合入れないとね」

「じゃあ矢澤の話してる場合じゃねえだろ」

「そうそうにこちゃんといえば」

「黙ってろ」

「あふん」

 

 

どうしてもにこちゃんの話をしたいらしい波浜の額に水橋の拳が刺さった。身体能力が壊滅的な波浜はそれだけで軽く意識を持って行かれる。

 

 

「ああ…にこちゃんが僕を呼んでる…」

「もう帰れよお前」

「冗談だってば」

 

 

冗談と言う割には焦点が定まってないが、冗談ということにしておく水橋。というか、下手に加害を肯定すると賠償金とか取られそうで怖い。

 

 

「ったく。…アキバドームほど広い場所だと照明装置の設置調整だけで一苦労だぞ、前日のライブの撤去、当日の機材搬入の時間も考えると相当厳しいぜ」

「適当なタイミングで現場入りして、下見してプログラムをあらかじめ組んでおけばだいぶ余裕できるよ」

「普通は出ねえ発想だっつーの」

「どうせ音響設備もそんな感じでしょ」

「そりゃあな」

「じゃあ同じことだ」

 

 

2人とも神童と言われるだけあって並みの感覚ではない。圧倒的なセンスと仕事の早さがその有名さの秘密でもあった。

 

 

「じゃ、とりあえずいつも通り図面から仮想で配置を組むか」

「りょーかい」

 

 

そう言って喫茶店の机にドームの見取り図を広げて、彼らにしかわからない打ち合わせが今日も始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ出発です!!」

「出発にゃー!」

「なんで私まで…」

 

 

秋葉原にて声を上げる3人の女子高生は、小泉花陽、星空凛、西木野真姫。音ノ木坂学院の1年生であり、スクールアイドルである。今日は久しぶりに練習が休みなので、「スクールアイドルショップに行きます!!」と花陽が鼻息荒く宣言し、それに凛が真姫を連行して同行したところである。要するに真姫は巻き込み事故なのだが、だいぶまんざらでもなさそうだった。

 

 

「そんなこと言って真姫ちゃん嬉しそうにゃ」

「そっそんなことないわよ!」

 

 

凛に絡まれながら、ふんすふんす言って先を行く花陽についていく。なんでも、どこかのスクールアイドルの新曲の発売日らしい。聞いたら目をキラキラさせて語ってくれた。アイドルのことになるとキャラが変わるのが小泉花陽である。

 

 

スクールアイドルショップは駅からそう遠くないため、大した時間もかからず到着した。

 

 

「…あれ?」

 

 

テンションMAXな花陽やなんだかんだ舞い上がってる真姫は気づいていないが、凛は確かに見た。

 

 

自分たちが目指すスクールアイドルショップに、ものすごくデカくて屈強な男性が身を屈めて入っていくのを。

 

 

(あの人どこかで見たような…)

「凛、置いてくわよ」

「わわわ、待ってー!」

 

 

まあいいやと思い直して2人についていく凛。そんなに細かいところまで頭の回らない凛であった。

 

 

店内はそれほど広くないが、壁にも棚にも所狭しとスクールアイドルグッズが並べられていた。それはもう天井から床までびっしり。そのせいで彼女ら程度の身長では脚立や踏み台を借りないと天井近くの品は手が届かなかったりする。彼女らに限らず、だいたいの人がそうだが。

 

 

「すごいわね…」

「すごいよねー」

「すごいです!!」

 

 

真姫は初めての光景に圧倒され、凛は慣れたもんだとばかりに眺め、花陽はまたライナップが変わってることにテンションを上げていた。どうにも共通点が少ない1年生ズである。

 

 

花陽の目当ての品はすぐに見つかった。新発売ということで見やすく取りやすい場所にあったのでそう困らなかったのだが、

 

 

「あ…!あれは!」

 

 

そう言って見上げた先に、今人気上昇中のスクールアイドルのキーホルダーがあった。花陽は前々から欲しいと思っていたのだが、なかなか見つからないと思ったらあんなところにあったのか。

 

 

「うう…あんな高いところに…」

「かよちんどうしたのー?」

「あれが欲しいんだけど…脚立ないと届かないなぁ…」

「持ってこればいいじゃない」

 

 

そう言って真姫が脚立を探しに行こうとした時である。

 

 

後ろからぬっとどでかい人影がやってきて、花陽が欲しがっていたキーホルダーをスッと手に取り、

 

 

「…これか」

 

 

花陽に差し出してきた。

 

 

「ぅえ?あ、ありがとうございます…」

 

 

突然の出来事に変な声を出しながら見上げた先にいたのは、2mはあろうかという巨体に、細身ながら屈強な体、オールバックにした銀髪、そしてサングラス越しのものすごく鋭い眼光。

 

 

音ノ木坂1年生唯一の男子生徒である、滞嶺(たいれい)創一郎だった。

 

 

もちろん、風貌が怖いので3人とも話したことはない。というかほとんど1年生全員が話したことない。

 

 

「えっ」

「にゃっ」

「うぇえっ」

「…なんだ」

 

 

3人揃って変な声が出た。そして当の滞嶺には不審そうな顔をされた。

 

 

「…滞嶺くん、スクールアイドル好きにゃ?」

「そうだが」

「似合わな…」

「まっ真姫ちゃん!!」

 

 

真姫が余計なことを口走ったので花陽が止めにかかるが時すでに遅し。バッチリ聞こえたはずだ。

 

 

「自覚はある」

「えっ」

 

 

気にも留めてなかった。

 

 

というか自覚していた。

 

 

「なんだ、滞嶺くん怖い人かと思ってたのに急に怖くなくなったにゃ」

「そんなに怖いか」

「そりゃあいつも仏頂面で無言で机に足乗せてたら怖いわよ」

「仕方ないだろう。話すこともないんだ」

 

 

1年生の間ではただただ凄まじい存在感とプレッシャーを与えていた滞嶺だが、別に本人はプレッシャーかける気などまっっったくなく、むしろ「何故みんな俺の周りを避けるんだ」と軽くしょげていたくらいである。真相はただ怖かっただけだった。

 

 

「あ、滞嶺くんもそのCD買うんですか?」

「ん?ああ、そりゃ新発売なら買うだろ。今注目のスクールアイドルの初シングルだ、買わない手はない」

 

 

あれ。

 

 

結構ガチファンなんじゃなかろうか。凛と真姫はそんな予感がして、花陽は確信した。

 

 

「た、滞嶺くん、今度スクールアイドルについて語りませんか?!」

「?お、おう、つーか何であんた敬語なんだ」

「かよちん、滞嶺くん引いてるにゃ」

「花陽アイドルのことになると怖いものなしね」

 

 

目を輝かせて滞嶺に詰め寄る花陽と、若干引く滞嶺。滞嶺も、こんな見た目ながら隠しもせずドルオタをしている結構な重症患者だが、それこそ見た目に似合わず冷静である。それに、今までドルオタ仲間がいなかったのもあって花陽のテンションについていけない。

 

 

「…わかったから早く買ってこい」

「…っは!そうでした!凛ちゃん、真姫ちゃん、それと滞嶺くん、外で待っててください!」

「だからなんで敬語」

「滞嶺くんが怖いからじゃないかにゃ?」

 

 

そんなに怖いか、と若干落ち込む滞嶺。以外とメンタルが脆いらしい。

 

 

「でも、あなたスクールアイドル好きなのに私達のこと知らないの?」

「真姫ちゃん、凛たちはまだ1回もライブ出てないにゃ」

「あ、確かに」

「…なんだ、お前らスクールアイドルやってたのか。μ'sは高坂穂乃果、園田海未、南ことりの3人だと思っていたが」

 

 

自分の高校ながら、まだ知名度の低いスクールアイドルも名前まで完璧に把握しているあたりだいぶ詳しい。さすがに公表されていない内容までは知らないようだが。

 

 

「今は凛たち3人とにこ先輩が入って7人になったにゃ」

「7人。多いな」

「多いの?」

「そうだな、ほとんどのスクールアイドルは2〜5人だからな」

 

 

へえ、と感心する凛と真姫。花陽なら知っているだろうが、この2人は調べたとはいえまだまだ素人である。

 

 

「お待たせしました!さあ行きましょう!」

「いくにゃー」

「ああ、じゃあな」

「えっ滞嶺くん帰っちゃうんですか?!」

「なんで帰らねえと思ったんだよ」

 

 

やっと出てきた花陽が号令を出すと同時に自然と撤退を始める滞嶺。何故か花陽に驚かれたが、こっちはこっちで用がある上に今日初めて話した相手とお出かけするほどコミュ力は高くない。

 

 

「俺は俺で用があるんだよ」

「そうですか…」

「ショックにゃ…」

「なんでそんなにショック受けてるのよ」

 

 

冷静なのは真姫だけであった。しかしいくら悲しい顔をされても用があるのは事実。また学校で話すと(仕方なく)約束して帰路に着いた。

 

 

(…まあ、初めての友人と思えばいいか)

 

 

こんな見た目でも、彼は高1である。

 

 

友達ができて嬉しくないわけがない。

 

 

 

 

 

「…ったく、もう日が沈みかけじゃねぇかよ。最初の脱線がなければもうちょい早く終わったろうが…」

 

 

水橋桜はブツクサ言いながら帰路についていた。6月で午後6時はもう日は地平線近い。街灯も疎らにつき始める中、1人寂しく歩いている。波浜は「にこちゃん家行くから」とか言ってさっさと帰ってしまった。毎度思うが、通い妻かよ。

 

 

暗くなり行く道をのそのそ歩いていると、ふと一軒の店が目に入った。

 

 

饅頭屋「穂むら」。

 

 

水橋が好物とする、和菓子の店である。

 

 

「…夕飯とはいかねえが、流石に腹減ったからな」

 

 

誰に言うわけでもなくつぶやいて穂むらに向かう。結局は穂むら名物「ほむまん」が食べたいだけである。財布の中身を確かめ、10個入りでいいかと決めて店に入る。

 

 

「いらっしゃいませ…あ!桜さん!」

「10個で」

「素っ気ない?!」

 

 

店番は長女の穂乃果がしていた。元気でいいことだが割とおっちょこちょいで、割とアホだ。波浜が手伝いをしているμ'sの発起人でもある。

 

 

「あ、桜さん、μ'sまたメンバー増えて7人になったんですよ!」

「ああ、茜から散々聞いたよ」

「えっ桜さん波浜先輩と知り合いなんですか?」

「言ってなかったか?」

「はい、初めて聞きました」

 

 

割といらんことまで話してしまった記憶があるのだが、波浜のことは話していなかったようだ。まあ、いちいち会話の仔細を覚えてる奴の方が少ないかと特に気にも留めないことにする。

 

 

「なんつーか、ちょっとした縁でな。そんなことよりほむまん早く」

「相変わらずせっかちですね」

「余計な御世話だ」

 

 

はいどーぞ、と差し出されるほむまん(10個入り)。基本的に表情筋が死んでいる水橋も、これを見ると無意識に表情が緩んでしまう。穂乃果はいつもこっそりそれを観察するのを楽しみにしていた。

 

 

「ありがとうございました!」

「ん。新曲、楽しみにしてる」

 

 

それだけ言ってさっさと店を後にする。わざわざ言わないが、当然早くほむまんを食べたいからである。

 

 

(スクールアイドルねえ…)

 

 

帰り道、すっかり暗くなった道を歩きながら考える。

 

 

(俺も高校行ってたら…いや、考えるな。無理な話だ)

 

 

嫌な方向に思考が向かいかけたので頭を振ってリセットする。幸せな学生生活や青春なんてものは、自分で潰してしまったのだから、今更取り返せるはずもない。

 

 

街頭に照らされた夜の道を、ふらふらと不安定な足取りで歩いていく。誰もいない住宅街は不自然なほど孤独を感じさせた。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございました。

新しく出てきた2人、またキャラの濃そうなやつらですね。誰が考えたんだ!!私か!!

実は今まで出てきた3人は、この話を書こうと考えた最初期からいたメンバーです。他の男たちは名前や中身がコロコロ変わっているのですが、彼ら3人はほぼ変化なし。なので作品全体としては彼ら3人が最も活躍する予定です。いい意味でも、悪い意味でも。


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