笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
前回から3人もの方がお気に入りしてくださいました!!ありがとうございます!!もう寿命が人類の限界超えそうな気がしますね!!頑張ります!!
そして先週投稿できなくて申し訳ありません。忙しいのもありましたが、内容を大幅修正してたら無理でした。何したんだよ団長!
今回は前回に引き続き松下さんのお話です。ちょっと長めですよ!!
というわけで、どうぞご覧ください。
「どうじまじょお〜!!!!」
「なんだなんだ詳細不明のまま泣き叫ばれても俺には何もできんぞ。あとくっつくな…意外と力強えなこいつ」
「創ちゃんから離れてー!!!」
「ぶえええええん!!!!」
ある日のことだ。
部室に入ってきた奏が号泣しながらタックルをキメてきた。泣いてるくせにテンションが暑苦しい。そして結構な力でしがみつかれている。凛が思いっきり引っ張って引き剥がそうとしているがなかなか離れない。
「とりあえず離れろ」
「いやでずぅうううぎゃあああああ!!」
「力ずくだ…」
「力ずくだね…」
「ハラショー…」
とりあえず首根っこを引っ掴んでひっぺがした。絶叫するんじゃない。
「で、何がどうしたんだ」
「うぶうううううう」
「…マジでなんなんだ」
「なんだかお兄さんが部屋から出てこなくなっちゃったんだって」
「お兄さんじゃなくてお兄さま!!!!」
「そこはツッコむのかよ」
忙しいやつだな。
「…松下さんが?」
「お兄さま!!!」
「うん…部屋も鍵がかかっちゃってて、ノックしても返事がないって」
「なんでまたそんな引きこもりみたいなことになってんだ?メンタル病んだのか」
「いやあああああお兄ざまぁああああ!!!」
「…」
「創ちゃん今イラっとした?」
「…………してねえぞ」
奏が喚いてると話が進まないな。
「よし、ちょっと黙らせる」
「黙らせるって…どうするにゃ?」
「こうだ」
「うわぁ?!」
「肩に担いで…?」
「そしてこうだ」
「窓を開けて…?」
「えっえっまさか私投げられたりしませんよね?!」
「そしてこうだ!」
「窓からジャンプ…ってどこ行くにゃー?!」
「いやぁぁぁぁぁあああ?!?!」
窓から飛び出し、秋葉の街を疾走する。奏を肩に担いだまま。とりあえずサクッと神田明神まで行ってUターンして戻ってきた。
「ただいま」
「お、おかえり…」
「こうすると人は黙る。茜が身をもって教えてくれた」
「きゅう」
「か、奏大丈夫…?」
肩に担いだままそれなりの速さで走ると、風圧と恐怖で黙るらしい。茜を担いで走った時にそう言っていた。瀕死の茜が。
つーか
あとで松下さん(兄)に怒られそうだ。
「で、結局何なんだ」
「奏のお兄さんが部屋から出てこないからどうしようって話です」
「どうしようって言われてもな」
「創ちゃんが引っ張り出せばいいんじゃない?」
「いいわけあるか。穂乃果じゃねぇんだぞ」
「どういうこと?!」
力ずくで引っ張り出しても、穂乃果のようにノリと勢いで生きているやつ以外には効果が薄いどころか逆効果だろう。脳筋はダメだ。
「そもそも原因がわからねぇのに下手なこと出来ねぇだろ」
「それはそうね」
「でも心配だね…」
「心配だけど、よく考えたら私たちあんまり松下さんと接点ないよね…」
「…そういえばそうだな」
言われてみれば、時々何かしら手伝ってくださってはいたが…ロクに会話したことがない。俺だけじゃなく、だいたいのメンバーがそうだろう。
奏以外でまともな接点があるのは、
「作詞を見てもらっている海未ちゃんくらいかなあ?」
「だな。というか、ほぼ唯一の接点だろう」
そもそも海未がいなければμ'sと関わることすらなかったかもしれないくらいだ。松下さんと最も関わりの深いメンバーは海未で間違いない。
「海未、何か松下さんから聞いて…海未?どうした?」
「…」
「おい?」
「海未ちゃーん?」
だから海未に聞いてみようと思ったんだが、当の海未はなにやら考え込んでいた。心当たりがあるのか?
「…いえ、何でもありません」
「いや今の
「何でもありません」
「お、おう」
ドスが効いている。怖えよ。
「確かに松下さんは心配ですが、私たちも練習をしないわけにはいきません。さあ行きますよ!」
「ふぇえん」
若干無慈悲だが、事実は事実。練習をサボるわけにもいかない。…去年はにこを尾行したりして練習が消滅していたこともあった気がするが、まあ、気にしないことにする。
しかし心配なものは心配だな。部屋から出てこないってのがどれだけ深刻な事態かいまいちピンと来ないが、精神が病んでる可能性だってあるわけだ。
あまり深刻じゃないといいんだが。
心配でないはずがありません。
だって、先日体調が悪そうな松下さんを見たばかりなのです。何かあったのは確実でしょう。
ですから、練習が終わった後。
「奏」
「ふぇっはい、何でしょう海未さ…えーっと、海未…ちゃ…ちゃん!!」
「松下さん…お兄さんに会わせていただけませんか?」
「えっ?あのあの、お兄さまは今…」
「はい。だから会いたいのです。何かあったのなら、いつもお世話になっている身として、力になりたいと思うんです」
「…ふええええ、海未ざんありがどうございまずぅぅううう!!!」
「ちょ、ちょっと抱きつかないでください!鼻水!鼻水が!!」
尊敬する兄を心配して貰えたのがよほど嬉しかったのか、奏は号泣しながら抱きついてきました。穂乃果みたいですねこの子…。
「お願いします…」
「え?」
「お願いします、お兄さまを助けてください…!お兄さまは
まくしたてるように一気に吐き出した奏。…何といいますか、やはり松下さんの妹です。とてもよく人を見ています。兄妹だからといって、心を読める松下さんの心中を見抜けるというのは相当な観察力でしょう。
中身は穂乃果より大人かもしれません。
「ええ、わかりました。任せてください」
「うううう、何もできなくてごめんなさい…頼ることしかできなくて…」
「そんなこと…奏がいなかったら、松下さんに何かあったって気づくことすらできなかったんですから」
「海未さんお優しい…ふええん」
「わかったから鼻水をなすりつけるのをやめなさい」
さすがに鼻水をつけるのはやめてほしいです。
「さあ、行きましょう」
「はい!よろしくお願いします!!」
「よーし張り切って行こうぜ諸君!!」
「…」
「う、海未さん、変質者が」
「待って待って初対面で変質者って言われるのマジで納得いかないよお兄さん」
いつのまにか隣に天童さんがいました。
この人は本当に何者なんでしょう。というか何しに来たのでしょう。
「大丈夫ですよ奏。すごく胡散臭い人ですが悪い人ではありません」
「はい…」
「ねえ今のはフォローのつもりだったの?もうちょっと褒めてくれたってバチは当たらんと思うんだが??」
「最大限褒めたつもりだったのですが…」
「うっそ今のが最大値?そんなに俺に泣いて欲しいの君」
茜と違って私は天童さんとそれほど関わりが深いわけではないので、正直褒めにくいです。
「ま、まあいい…俺の評価はどうだっていいんだ。明の話だし」
「お兄さまのですか?!」
「おうぐいぐいくるな君」
「お兄さまは大丈夫なんですか?!」
「オーケーとりあえず落ち着こうか」
よっぽど松下さんが心配なのか、奏はお兄さんの名前が出てきただけで今にも掴みかかりそうな勢いで天童さんに詰め寄ります。ほとんど動じない天童さんはおそらくこうなるとわかっていたのでしょう。
「はっきり言っておこう。
「そ、そんなぁ!どう、どうしたら…!」
「だからこそ俺はここにきた。海未ちゃん、君に頼みごとをするために」
「え?わ、私に…?」
不意に話の矛先がこちらを向いてびっくりしました。なぜそこで私なのでしょう…?
「なぜ天童さんや奏でではなく私に?」
「明は俺には警戒心から本心を話さない。奏ちゃんには信条から本心を話せない。でも君は違う。奴のことを知っていて、警戒されていない唯一の人物なんだ。君しかいない。君にしか頼めない」
天童さんの目は今まで見たことがないほど真剣でした。いつものふざけている天童さんではない…。なら、真面目に聞かなければならないでしょう。
「あいつの不調の原因は、恐らく先日君が予想した通りだ。あいつは何かのために、何かをするために、自分の限界以上のことをしようとしている」
「…はい」
「救おうと考えなくていい。助けようとも思わなくていい。あいつの話を聞いて、君の言葉をぶつけてやってくれ。きっとそれが一番だ。そもそもあいつに小細工は通用しないし」
「はい、大丈夫です。もとからそのつもりですから」
「うんうん、頼もしい限りだ。では最後に一つだけ」
「?」
いつものように軽いアドバイスをされるだけかと思ったら、まだ続きがありました。
「…頼んだよ。どうしても仲良しにはなれなくても、明は俺の大事な友達だから」
「…はい」
茜は以前、「天童さんって人を操れるから基本的には頼みごととかしてこないからね」と言っていました。
だから、今のは。心から願っているからこそ、普段は言わないようなことを言ったのでしょう。
「お任せください」
ならば、応えないわけにはいきません。必ず松下さんの不調を治します。
「…天童さんって…」
「ん?どうしたよ奏ちゃん」
「本当に胡散臭いですね」
「せっかくシリアスに締めれそうだったのにこれだよ!!!」
しかしまあ、胡散臭いのは事実です。
「ここが…」
「私の家です!」
秋葉から電車に乗って着いたのは、閑静な住宅街の中の一軒家でした。電車通学だったのですね。
「そういえばご両親は…?」
「お父さまとお母さまは2人ともお忙しいのでほとんどいらっしゃらないのです」
「そうでしたか…」
「私はお兄さまがいるので寂しくないですけどね!!」
深く考えていませんでしたが、ご両親がいらっしゃった場合は色々と断りを入れなければならないところでした。あとは松下さんとお話している最中にご両親が帰ってこないことを祈るだけですね。
「ただいまー!!」
「お、お邪魔します…」
玄関の扉を開けて挨拶しても、返事もなく出迎えてくださる人もいらっしゃいません。
「…本当に松下さんはいらっしゃるんですか?」
「います!靴はありますので!」
たまたま外出していた、というわけでもないようです。松下さんの礼儀正しい性格からして、来客時に顔を出さないことはないでしょうし、妹が帰宅して「お帰り」の一言もないのはさすがに違和感があります。
「…今日もお兄さまは出てきてくれません…」
「奏…」
しゅんとして目を伏せる奏。よほど心配なのでしょう。
「大丈夫。私に任せてください」
「海未さん…あの、」
「どうかしましたか?」
「お兄さまを助けてくださるのはいいんですが、いかがわしいことはしちゃダメですよ?」
「いかっ…し、しませんよ?!」
突然何を言い出すのですかこの子は。そんな、あの、い、いかがわしいことなど…!
雑念を振り払ってから、奏の案内で松下さんのお部屋の前に来ました。特に変わったところもない木の扉なのですが、不思議と強いプレッシャーを感じます。
「ここです」
「ありがとうございます。…奏はどうしますか?」
「わ、私は…ここで待っています」
「わかりました。…いってきます」
「はい…お願いします」
意を決して、重い扉を開けて室内に入りました。
「お、お邪魔します…」
冷静に考えてみると男性の私室に入るのは初めてで、なんだかドキドキしてしまいますが今はそれどころではありません。気合い入れていきましょう。
お部屋の中は、壁を埋め尽くすほどの本で埋まっていました。これほど大量の本があるのに、部屋全体は綺麗に整理整頓されていて、松下さんの几帳面さが表れているようです。
そんな書斎のような部屋の一画にあるベッドの上には、震える丸まった毛布がありました。
いえ、おそらく。
あそこに松下さんがいらっしゃるのでしょう。
あんなにも凛々しく指導してくださった方が、こんな風になってしまうなんて…一体何があったのでしょうか。
「あの、松下さん…?」
勇気を出して声をかけてみましたが、返事はありません。
もうここまで来たら思い切って毛布を端っこだけでも剥がしてしまいましょうか。毛布の端を掴んで持ち上げ、声をかけます。
「松下さ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!」
不意に絶叫が響き渡りました。
「あ゛あ゛っ…こ、声がっ…うぐぅ、はぁ、は、そ、園田さん、の、声、がぁっ?!」
「…あ、えっと、ま、松下さん?」
「ぐぁ、ああ、あ゛あ゛あ゛!!やめ、やめてくっ、やめてくれ!!僕に声を、あっ、頭が、あああああっ!!!」
絶叫しながら毛布から飛び出してきた松下さんは、耳を塞いで、目には包帯のようなものを巻いて、髪もボサボサで服も汚れた、みるに耐えない姿をしていました。
どうしたのかと聞こうと思いましたが、私が聞くより先に、発狂したような様相の松下さんが必死に言葉を紡いでくださいました。
「こ、声がっ、頭の中に、響き渡ってっ、あたまが、頭が痛い、狂う、ああっ僕の言葉が!!頭に、うあああああ!!!」
どれほどの痛みかは私にはわかりませんが、頭を壁にぶつけても、床にぶつけても、本棚にぶつけて沢山の本が降り注いできても、一向に耳を塞いで暴れまわる松下さんの勢いは収まりません。よほどの痛みなのでしょう。
私が黙っていると、まだ息は荒いですが少し落ち着いてきたようです。
「はぁっ、はぁ、ほんの、わずかな声からも、心の声が、雪崩れ込んで、きてしまうんです、何十人もの声が、頭の、中で、うう、ううううう…!自分の、声まで…!!」
…詳しいことはわかりませんが、やはり松下さんの読心能力が関係しているようです。
そう、たしかに天童さんも言っていました。「自分の限界以上のことをしようとしている」と。おとぎ話のようですが、もしや読心能力を限界以上に使っているということなのでしょうか。
こんな理解の及ばない状態の松下さんに、私ができることなど本当にあるのでしょうか。
そう、思った時でした。
「かっ…奏は…?」
「………え?」
「奏は、奏はどこにいるんです…?ああ、私に会うのが、怖いから…違う、違う、違う違う違う僕は僕はそんなつもりでは…!!!」
「ま、松下さん、落ち着いて…」
「違う違う違う違う違う!!!僕は、奏を守りたいだけなんだ!!!あの裏のない清らかな心を守りたいだけなのに!!!何故、何故こんな、なんで!!!うううああああ声が声が声が声が!!!聞きたくない、聞きたくない聞きたくないそんな欲望も悪意も打算も僕は聞きたくないいいいあああああ!!!!」
再び半狂乱に陥る松下さん。しかし、私は心配するより前に、今まで不思議だったことが腑に落ちて冷静になっていました。
なぜ、松下さんがこれほどまで悪人を厳罰に処そうとするのか。
すべて、奏のためにしていたことだったんですね。妹を守るために、ただそれだけのために。
そうとわかれば、私がすることは明確でした。先程までとは違い、自分のすべきことをしっかり認識した上で松下さんに近づき、
バシィッ!!!!!
と。
ビンタをお見舞いしました。
「……………………????」
包帯で目を隠した松下さんは何が起きたか全くわかっていないようで、完全に動きを止めてしまいました。
「…あなたは何をしているんです」
私は怒っています。
だって。
「奏を守りたいと言っておきながら!あなたはこんなところで何をしているのです!!奏は今、あなたを想って悲しんでいるのですよ!!それなのにあなたは!!ここで引きこもって何をしているんですか!!」
どれだけ辛い症状なのかは私にはわかりませんし、それを想像できないのに偉そうなことを言うのは失礼かもしれません。
ですが、それでも。
あんなに悲しそうな顔をしていた奏を見た後で、こんな状態で「奏を守る」だなんて言われても。
全く信じられません!
「…何ですか、僕がどれだけ辛いか、苦しんでいるかも知らないで!!よくもそんな、そんなことができますね!!この割れるような頭の痛みが!気が狂いそうな声の氾濫があなたにわかりますか?!理解できるのですか?!」
「わかるわけないでしょう!!いつもいつも全部一人でやってしまうあなたのことなんて、誰のことも信頼していないあなたのことなんて!!わかるはずがありますか!!!」
「だったら…!」
何故なのでしょうか。
何故、この人は。
「なんで…なんで全部一人で抱え込んでしまうんですか…」
「…え」
「私が一度でもあなたを利用しようと思いましたか?穂乃果は、ことりは、μ'sのみんなは、あなたの才能をアテにしてなり上ろうなんて考えていましたか?わかるんでしょう、人の心が。だったら、なぜ悪意のない人を味方につけようと思わなかったのですか…私を頼ってくださらなかったんですか…」
人の心が読めるなら。自分を悪用しようとする人とそうでない人の見分けがついたはずです。
私たちは絶対に松下さんを利用しようだなんて思いませんでした。私たち以外にも、そう思っていた人はいたはずです。
その人たちを拒絶してしまったのは。
松下さん自身が、他人を信じることを諦めてしまったからなのでしょう。
きっと、打算を持たない人たちのことも、「将来的にはどうなるかわからない」と言って信じられなかったのでしょう。
「私だって、奏はいい子なのはわかります。大切な後輩で、守っていかなければならないんです。心からそう思っているんです。わかるのでしょう?なぜ、信じてくださらないんですか…?」
「そんな、そんなことは…僕を利用しようとしなかった人なんていないんです。父さんも、母さんも。だから君達だっていつか…」
「いつか心変わりが起きたとしても、今はあなたの味方であるはずです。味方である間だけでも、信じてはくれないのですか?」
そっと松下さんに手を伸ばし、包帯を解いていきます。松下さんも特に抵抗はしませんでした。
包帯の下には、涙で腫れ上がった松下さんの目がありました。いつも泰然としていて大人な印象の松下さんが、今だけはひどく幼く見えました。
いえ、もしかしたら。
ずっと痛みから逃げていた心は、幼いままだったのかも、しれません。
「………ああ、それでも、僕は、裏切られるのは、怖いんです…」
「大丈夫…私は裏切りません。絶対に」
「そんなの、そんなのわからない…」
「いいえ。私は誓ってもいいです。絶対に私は裏切らない。私は心のすれ違いの痛みを知っていますから」
裏切りとは違うかもしれませんが、私はことりが留学しそうになっていた時のことを思い出していました。少なくとも、穂乃果は裏切られたと思っていたでしょうし、その時の傷つき方も見ています。
あんな思いはもうしたくないですから。
私が誰かを裏切ることはないでしょう。
「…僕は、奏を守りたかっただけなんです」
「はい」
「あんなに裏のない心は見たことがなかったから」
「はい」
「でも…ああ、僕は、自分の目を曇らせていた。あなたも、あなた達も、みんな素晴らしい心を持っていた…」
涙をぼろぼろこぼしながら松下さんは呟きました。ついに、松下さんが心を開いてくれたように感じました。
まっすぐに、こちらを見て、ゆっくりと私に手を伸ばしてきました。
「ああ…なぜ、心を一番よく知るはずの僕が気づかなかったのでしょう。あなた達の輝きを、奏だけでなく、皆様も素晴らしい心をお持ちだったことを」
そのまま、本当にゆっくりと近づいて。
「僕が、あなたのことを…
「ちょぉぉおおおっとおおおおお!!!」
バンッ!!!!!!と。
松下さんの手が私の頬に触れるまさにその瞬間、奏が扉を蹴破るほどの勢いで開け放って、部屋に飛び込んできました。
松下さんも一瞬で手を引っ込めました。
「ちょっとちょっとちょっと海未さん!!!いかがわしいことは禁止って私言いましたけど!!!」
「ええ?!い、いかがわしいことなんて私は何も…!」
「そ、そうですよ、奏、なにもやましいことは…」
「うわーん!!お兄さまがたぶらかされてる!!!」
「たぶらかされてませんよ?!」
「たぶらかしてもいませんからね?!」
何故か謂れのない罪を押し付けられました。いえ、もしかしたらあのまま誰も止めなければ…やっぱり考えるのはやめましょう。恥ずかしいので…。
「もう!お兄さまが元気になったなら十分ですから!!お兄さまは渡しませーん!!」
「ちょ、ちょっと押さないでください…本当に力強いですね?!」
「ふふーん!体力テストAの実力をお見せしますよふんぬー!!」
「スポーツエリートですかあなたは?!」
不思議なくらい力の強い奏に追い出されてしまいました。
ちょっと消化不良ですが、松下さんも元気になったようですし…お暇させていただきましょうか。
まさかビンタされるとは思いませんでした。
しかし、園田さんの言う通り、奏を守ろうとするあまり盲目になっていたようです。世界は悪い人だけではない…当たり前のことのはずだったのに。
「全くもう!お付き合いはちゃんと告白してからしてください!」
「あの、奏、何の話をしているのですか…?」
で、僕は今奏に怒られています。
いや理由は読めるんですが。
「だってお兄さま、海未さんのこと好きでしょう?」
「……………あのですね、今しがた自覚したばかりのことを何故奏が知っているのです?」
奏に邪魔されて言えなかったことを、奏は読心もなく見抜いていたようなのです。
「え?見ていたらわかりますよ?」
「えぇ…」
「だって海未さんと会う約束をしている時のお兄さま楽しそうですし!海未さんのお話が多いですし!」
「そ、そうでしたか…」
もしかして、僕は自分が自覚していないことは読めないのでしょうか。
ああ、そういえば。海未さんにビンタされてから過剰な読心は起きなくなりました。痛みで気が逸れたのか、とにかく先ほどの一件から読心に指向性を持たせられるようになったようです。話し相手限定で心を読めるとか、今はそんな感じですね。
こういった恐ろしい適応力も天才ゆえなのでしょうか。広範囲の読心もやろうと思ったらすぐできましたし。
とにかく。
守りたい人が増えてしまいましたし、気持ちの整理をしなければいけませんね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
正直めちゃくちゃ難しかったです松下さん。そもそもどういう経緯で海未ちゃんとくっつけるか、ずっと迷っていたんです。一応一つ案はあったのですが、いざ書こうとして全然しっくりこなかったので1週間見送るハメに。先に考えときなさいよまったく!!
奏ちゃんを守りたいがために、無理をしてぶっ壊れた松下さんに対して海未ちゃんはお得意のビンタです。海未ちゃんといえばビンタ。異論は認めます。とにかく、ことりちゃんや希ちゃんみたいなふんわりした子ではないので、多少パワフルになっていただきました。年下にビンタされる松下さんを想像して是非ニヤニヤしてください。
個人的にはただのいい人になった天童さんが推しポイントです。