笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

前回からもまた1人お気に入りしていただきました!ありがとうございます!!励みになります!!寿命も伸びます!!!(まだ言ってる)

今回は次回に引き続き、御影さんのお話です。ちょっと長めになりましたが、頑張る御影さんを見てあげてください。


というわけで、どうぞご覧ください。




僕に勇気を

 

 

 

 

 

「…また希ちゃんと絵里ちゃんを連れてお出かけって、本当に僕を利用してるわけじゃないんだよね?」

「本当だっつーの!!ほら今回は茜とにこちゃんもいらっしゃるだるるぉ?!」

「謎の巻き舌だ」

「いつものことじゃない」

「いつものことやね」

「いつものことなのね…」

 

 

とある週末に、なんか天童さんに呼ばれた。にこちゃん連れてきていいって言うから迷わず連れてきたら、なんか希ちゃんも絵里ちゃんもいるしなんか御影さんもいる。これ何の集まりなんだろうね。女の子達はわかる。同級生だ。僕ら男性陣はわからない。

 

 

まあでも天童さんがよくわかんないことするのはいつものことだね。

 

 

いやいつものことでは困る。治して。

 

 

「いいじゃねーかよー、ただでさえお前らは用が無ければ引きこもってんだから。ただのショッピングくらいついてこいこんにゃろう」

「ただのお買い物にみんなで行く必要はあるんですかね」

「女の子はよくみんなで行くじゃん?」

「僕らは女の子じゃないんですよね」

「れっきとした男性だね」

「うるせえなあ!女の子が着飾った姿とか見たいだろぉ?!俺は見たい!!主に希ちゃんの姿をッ!!!」

「帰りましょう」

「うん、帰ろう」

「ちょっとぉおおおお?!」

 

 

欲望だだ漏れだ。やっぱり天童さんだった。彼女ができてもブレない天童さんさすが。僕も全然ブレてなかったわ。さすが。

 

 

「おいコラ茜!!にこちゃんのいつもより可愛い姿を見たくはないのか?!」

「にこちゃんは毎秒可愛いの最大値を更新してますし」

「ふんっ!!」

「あふん」

 

 

にこちゃんは常に今が最高だからね。

 

 

「うーんどうしよう、毎秒可愛いの最大値を更新してるというのは一理ある…」

「一理あるのか…」

「ふっ…大地にはわからんだろうがな…彼女というのは、常に毎秒毎瞬最高に可愛いのだよ…」

「やだもー天童さんったら」

「あ痛ぁっ?!希ちゃんそこはツボっ!!」

「賑やかだね…」

「ご、ごめんなさい」

「ああいや、悪いとは言ってないんだ。…ただ、羨ましいなって」

「?」

 

 

天童さんはなんでいつも自爆してるんだろう。もしやドMなのでは?なんかやだ。

 

 

「もう、早く行くわよ。今日は色んなところいかなきゃいけなくて時間ないんだから」

「絵里ちゃんの言う通り。ゆっきーのお店混んでるしね」

「雪村さんってお店出してたん?」

「正確にはゆっきーの服を置いた僕のお店。建物のデザインとか内装とか経営とかは僕の管轄で、商品だけゆっきーに依頼してるの」

「あ、茜…いつの間にか凄いことしてない…?」

「何よ今更。μ'sにいた頃から裏方の仕事全部1人で回してたじゃないの。力仕事以外」

「そうだぜ絵里ちゃん。茜だって腐っても超常の天才野郎なんだ、運動能力以外のスペックは全体的に高いんだぜ?小規模の経営くらいできるさ」

「全国展開してる人に言われても嬉しくないですけど」

 

 

そう、言ってなかったけど、今日行くお店は僕が色々取りまとめているお店だ。まあ店長とかそういうのじゃないし、僕が行っても問題ない。たぶん。

 

 

こういうことしないとゆっきーの服一般に売れないしね。

 

 

あと天童さんは世界的に色々やってるんだから黙っててください。

 

 

「んじゃ、そういうわけだからさっさと行くか!!」

「はーい」

「うぉわあああっ!!軽々しい返事をしながら腕を組むんじゃありません希ちゃん!!天童さんびっくりしちゃうぞっ!!」

「えー?」

「何してんのあれ」

「知らないわよ」

「これは珍しい光景だなぁ…」

 

 

天童さんは何を狼狽えてんの。希ちゃん彼女なんでしょ。

 

 

「じゃあ僕らも腕組んでぐふぇ」

「組まないわよ」

「今のは波浜くん死ぬんじゃない」

「茜なら大丈夫ですよ」

「えぇ…」

 

 

僕も便乗してにこちゃんと腕組もうとしたら肋骨と骨盤の間に鋭い拳がめり込んだ。とても痛い。なんか攻撃力上がってない?気のせいかな。気のせいか。

 

 

でも御影さんにドン引きされてるからやめてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何しに来たんだ」

「そんな露骨に嫌そうな顔するんじゃないよ」

「そりゃ服買いに来たに決まってんだろ?わざわざ君に会いに来たわけじゃないさ。いやいるのは知ってたけど」

「……………」

「そんな露骨に嫌そうな顔をするんじゃねーやい」

「あっはは…まあ、いいじゃないか。君が作った服を見に来たんだし、デザイナーとしては嬉しいことじゃないかな」

「…………………………」

「そんな露骨に嫌そうな顔しないでほしいなぁ…」

 

 

雪村くんの服が買えるというお店に来たら、雪村くん本人がいた。僕らを見るなりものすごく嫌そうな顔をされたけど、そんな嫌な顔されるようなことしたっけな。

 

 

「ゆっきーは何してんの」

「…特注品の納品だ。お前が余計なプロデュースをするから仕事が多くて大変だ」

「ゆっきーがお金欲しいって言うからじゃん」

「……………」

「めちゃくちゃ不機嫌じゃん」

「ゆっきーはいつもこんな感じです」

「悪かったな」

 

 

不機嫌なのが平常運転なのはあんまり良くないんじゃないかなぁ。

 

 

「すごい…服ってこんなに素敵なものがあるのね…!」

「ちょっと茜!どれがいいか決めなさい!!」

「無茶振りの極地」

「ねぇ天童さん、これどう?」

「それ下着ッ!!!!!!!!」

「…元気だなぁ」

「やかましいの間違いでしょう」

 

 

女の子は一瞬でテンションを上げ、その恋人たちは彼女達に振り回されていた。やっぱり女の子は服が好きなんだな。

 

 

「いや、間違いじゃないよ」

「?」

 

 

それに。

 

 

「ああやって、自分の意思で楽しめるのは元気な証拠だよ」

「…?そうですか」

 

 

お買い物はであれがいい、これがいいって楽しめるのは、自分の理想があって、希望があるからだ。

 

 

僕にはできない。僕自身では考えられないから。

 

 

「…いやよく考えたら元気とは関係ないな…」

「どっちなんですか」

 

 

天童のシナリオ通りのことを言ったはいいけど、自分でちょっと怪しくなった。楽しめること自体はいいことなんだけど、元気かどうかは関係ないような?

 

 

…まあいいか。

 

 

考えてもわかんないし。

 

 

「さて、僕も服選びを手伝ってくるかな。雪村くんも来る?」

「…いえ、用があるので帰ります」

「そうか、残念」

「天童さーんこれどおー?」

「だーからそれは下着…じゃない!スケスケエロティックなネグリジェか!!っていうかむしろそれは君が着る勇気ある?!」

「…………えっと、」

「ほらなぁ!!自分で着れる範囲の服持ってきて?!」

「き、着ます!!」

「嘘つけ!!そんな寝間着を使うような状況を考えろ!!」

「にこちゃんあれ着てみる?」

「着ないわよ!!」

「ぶぎゃる」

「…とりあえずあれ止めてくるね」

「…頼みます」

 

 

流石にお店の中で騒がしいのは迷惑千万。止めよう。シナリオ上も止めることになってるし。

 

 

(…って、あれ?止めるはいいんだけど、どうやって止めるかは聞いてないぞ?)

 

 

やばい。

 

 

何も気にしてなかったけど、まさかこんなところで急にアドリブをしろっていうのか天童。僕は自分で考えられないからそういうの苦手だって言ってるのに。

 

 

とりあえず応急で何かの「役」に入るしかない…けど、他人を注意するための役なんて流石にないぞ?いや、無くはないけど、だから僕に判断させないでくれって。

 

 

どうしたものか悩んでいると、僕より先に別の声が飛んだ。

 

 

「こーら、お店の中で騒がない!」

「ふぁい」

「むぅ、絵里だって真っ先にテンション上げてたじゃないの」

「私は騒いでないもの。希も天童さんを煽らないの」

「はーい」

「ほらやっぱり返すんじゃんその服。買う気ないんじゃん。ダメよそうやって人をからかうのは」

「天童さんも!最年長なんですからしっかりしてください」

「いや大地も同い年

「返事は?」

「あっはいすんません生きててすんません」

 

 

絵里ちゃんだ。

 

 

さすが、生徒会長をやっていただけのことはある。しっかりしている。

 

 

「ごめんなさい御影さん、騒がしくて…」

「えっ、あ、ああ…気にしないで。元気なのはいいことだし」

「元気すぎて困ります…」

「あはは…」

 

 

わざわざ僕に謝りに来てくれた。いや僕の方こそ不甲斐なくてごめんって感じだけど、うん、アドリブでそんな気の利いた言葉は出てこない。

 

 

後で天童に文句言ってやる。

 

 

「なんだか、私たちの買い物に付き合っていただいたみたいになっちゃってごめんなさい」

「へっ?ああ、うん、いや、気にしなくていいよ。うん。楽しいし」

「…?」

 

 

気を遣って話しかけてくれているんだと思うけど、しどろもどろになってしまってロクな返事ができない。本当に申し訳ない。今この瞬間はシナリオに無いんだ。

 

 

「…あの、

「よう大地、あっちに男性用の服もあるぞ。変装に使えるかもしれん、見に行こうぜ」

「えっ?わ、わかった。絵里ちゃん、また後でね」

「あっ…」

 

 

突然横からぬっと天童が現れて、割と強引に連れていかれた。まあ状況的には助かった。

 

 

(すまん、なんか予定外の会話が生まれちまったな)

(どういうことだよもう、君たちを止める方法も台本に無かったし!)

(え、書いてなかったっけ。しまったな、本日は反省デーかな?)

(バカなこと言ってないで、この先をなんとかしてくれよ。またアドリブやらされたら今度こそ何も答えられないぞ?)

(もうちょい頑張れって言いたいところなんだがな…。まあ、なんとか元の軌道に乗せるさ!天童さんに不可能はないのさ!!」

「天童さんうるさいですよ」

「大変失礼いたしました」

 

 

本当に反省してるのかなこいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、僕とにこちゃんはスクールアイドルショップに行ってきます」

「何が『というわけで』なのかしら」

「にこっちのわがままってことやん?」

「違うわよ!!」

「違ったか?」

「違うんです!!!」

 

 

服を買った後は、昼食、アクセサリーなどを買って、これからどうしようかなって話をしていたら、矢澤さんが断固としてスクールアイドショップに行くと言うのでなぜか別行動になった。

 

 

シナリオ通りだけど、何でだろう。今日のシナリオはよくわかんないところが多いような?まあ、よくわかんなくてもシナリオに従うしかないんだけどさ。

 

 

僕はシナリオを知っているからよくわかんないけど、他の人は何の疑問もなく誘導されてるからやっぱり天童はすごいな。

 

 

「じゃあいってきまーす」

「いってらー。俺たちは喫茶店でも行って待ってるかね」

「あ、うちちょっと…」

「オーケーおトイレだなうぼぇえっ?!」

「何かえぐい右フックが決まったけど…」

「今のは天童さんが悪いですね」

「れ、レバーが…」

「…天童、大丈夫?東條さん行っちゃったけど」

「だ、大丈夫じゃない…くそ、希ちゃん意外と身体能力高いな…。ちょっと、俺も一旦トイレ…」

「き、気をつけてね」

 

 

天童のデリカシーゼロの発言で怒った東條さんはさっさと行ってしまった。天童自身も大ダメージを負って退散。シナリオ通りではあるけど、天童が本気で大ダメージ受けてそうで心配だ。

 

 

とりあえず僕と絢瀬さんで待機だね。大丈夫、シナリオ通りだし。

 

 

「仕方ないな…。ちょっと待っていようか」

「はい」

 

 

あとはしばらく黙っていれば次のシーンだね。

 

 

「あの…御影さん」

「んえ?な、何?」

 

 

ちょっと天童。

 

 

今日のシナリオガバガバなんだけど。一体どうしたのさ。

 

 

「あの…もしかして、私たち、御影さんに失礼なことをしていたりしませんか?」

「へっ?な、何で?」

「いえ…なんだか受け答えに困ってるようですし、返答に困るような不快な思いをさせてしまったかと…」

「あ、ああ、そういう…いや、うん、そういうわけじゃなくてね」

 

 

なんだか余計な心配をさせてしまったようで申し訳ない。

 

 

「じゃあ、もしかしてお仕事で何か辛いことがあったとか」

「え、いや、そんなことはないよ、うん」

 

 

心配そうな表情でこちらを見てくる絢瀬さん。真正面から見ると本当に綺麗な子だ。いやそんなこと思ってる場合じゃないな。

 

 

勘違いさせたままじゃ申し訳ないし、いっそ話してしまおうか。

 

 

「…僕はさ、考えるのが苦手なんだ」

「…?」

「あー、あの、えーっと。僕は役者だからさ、役になりきるのは得意だけど、その役にはその役自身の考えが必要で、僕の考えは邪魔になるから、僕自身は考えなくなったっていうか。だからいつも天童が用意したシナリオに沿って暮らしていて」

 

 

話そうと思ったはいいけど、よくよく考えたら話す内容は自分で考えなきゃいけないんだった。結局なんだか脈絡のない感じになってしまった。なんかダサい。

 

 

「だからえっと…僕は自分の意思がないっていうか。僕は常に『僕じゃない誰か』だから、僕個人としての意思はないというか、無駄というか。だから台本に無い会話ってほとんどできないんだ。ごめんね」

 

 

よし、いつもよりはしっかり話せた気がする。伝わったかどうかはわからないけど。

 

 

「…えっと、ごめんなさい、よくわからなかったんですけど」

「…だ、だよねぇ」

 

 

ダメだった。

 

 

「御影さんは確かに役者さんですけど、御影さんは御影さんですよね?」

「…ん?」

「だから御影さんの意思が無いだとか無駄だとかそんなことは無いと思います」

「あー、いや…あれだよ、僕に求められているのは『与えられた役を完璧にこなす』ことだけだから。僕の考えとかいらないんだ」

「そうでしょうか。それでも演じるのは御影さんなんですから、御影の意思も必要なんじゃないですか?」

 

 

ちゃんと僕の話が伝わったかも疑問だけど、フォローのような何かをされたんだけどどうしたらいいんだろう。

 

 

「私は、何でもできる御影さんってすごいと思いますよ」

「何でもできるってわけじゃないんだけどなぁ…」

「でも、どんな役でもできるじゃないですか。そんなことができるのは御影さんだけですし」

「うん、まあ…そうなんだろうけど」

 

 

どうしてだろう。

 

 

この子、「才能がすごい」とは言わないで「僕がすごい」と言っているように聞こえる。気のせいかな。

 

 

気のせいだと思うけど…おっと、そろそろシナリオ通りに動かなきゃ。

 

 

「あ、ご、ごめんなさい…事情も知らないのに知ったようなことを言って」

「ううん、大丈夫。…ごめん、ちょっと僕もお手洗いに」

「あ、はい…」

 

 

流石に無理やり席を外しすぎたかな。でもシナリオ上ではここで移動しなきゃならない。

 

 

ついでに一旦お手洗いにひきこもったはずの天童に文句を言おうかと思ったけど、天童の姿は見かけなかった。おそらく個室に引きこもっているんだろう。人もそれなりにいるし、ここで天童に文句を言うのは流石にダメだな。

 

 

しかし…。

 

 

絵里ちゃんの言葉、僕自身を褒めてくれた言葉は、もしかしたら初めてもらったかもしれない。気のせいだったとしても、そうだと信じるくらい許してほしい。

 

 

『御影さんは御影さんですよね』

『何でもできる御影さんってすごいと思いますよ』

『そんなことができるのは御影さんだけですし』

 

 

すごい才能だとか、誰が演じているかわからないくらいだとか、どれだけ頑張っても僕じゃなくて才能を褒められて、自分の努力は父さんに否定されて、僕自身の価値なんて無いのかと思っていたけど。

 

 

絢瀬さんの言葉のおかげで、少し自信が持てたかもしれない。

 

 

少しくらい、また自分で判断できるように練習してもいいかもしれない。そりゃ急には無理だけど。

 

 

そんな、ちょっとだけ温かい気持ちをもって絢瀬さんがいた場所に戻ると。

 

 

「…あれ?」

 

 

絢瀬さんが、いない。

 

 

お手洗いかな?

 

 

そう思った時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやっ離して!!」

 

 

 

 

 

 

 

…今のは、

 

 

「絢瀬さんの声…?!」

 

 

近くの路地からだ。今周りに他の人はおらず、声を聞いたのは僕だけ。こんなのシナリオに無い、無いけど、路地をちょっとだけ覗いてみる。

 

 

ガタイのいい男性が、3人。

 

 

よく映える金髪の女の子を囲んでいる。

 

 

咄嗟に首を引っ込めて隠れる。ヤバい、3対1は勝てない。そもそもこんな状況はシナリオになくて、どうしたらいいかわからない。

 

 

天童を待つしか無い…!

 

 

「デカい声出してもこの時間じゃ誰にも聞こえねーよ。黙ってついてこればちょっとは優しくしてやるよ」

「嫌よ。それに今日は私の友達と一緒なの。ここで大声出せば誰かは聞いてくれるわ!」

「おいおい、俺らより強いやつがいるのか?奥にはさらに5人控えてんだぞ、むしろ大声を出さないでお友達を巻き込まないようにした方が賢明じゃねーかなぁ?」

「それとも女の子のお友達でも連れてきてくれるのか?ひっひ!!」

「くっ…!」

 

 

ま、まださらに5人もいるのか?!まずいって、天童は、天童はまだ来ないのか?!

 

 

僕だって助けに行きたいけど、どうしたらいいかわからないし、

 

 

 

 

『何でもできる御影さんってすごいと思いますよ』

 

 

 

 

違う、やっぱり僕には何もできなくて、他の誰かにならないと、誰かの役にならないと、

 

 

 

 

『御影さんは御影さんですよね』

 

 

 

 

だめだ、僕はこんな状況で咄嗟に動けるような人間じゃなくて、

 

 

 

 

『でも、どんな役でもできるじゃないですか。そんなことができるのは御影さんだけですし』

 

 

 

 

今誰になったって、シナリオがなければ僕は動けない…!

 

 

 

「いいから大人しく着いてこい!」

「嫌って言ってるのよ!!」

「ってぇ!何しやがる!」

「痛い目にあいたいらしいな?!」

 

 

ダメだ、助けたいのに、足が震えて動けない。屈強な男たちじゃなくて、自分で判断すること自体が怖すぎる。

 

 

いつのまにか荒くなった呼吸のまま、座り込んでしまいそうになった、その時。

 

 

脳裏に浮かんだのは、優雅に踊る絢瀬さんの姿。必死にライブをするμ'sの姿。

 

 

彼女たちも怖かったはずだ。初めてのライブだったり、コンクールの決勝だったり、ラブライブ本戦だったり、足が震える場面はあったはずだ。

 

 

『御影さんは御影さんですよね』

 

 

さっき聞いたばかりのはずの、頭の中から消えない言葉。

 

 

「…僕は、御影大地だ」

 

 

僕は御影大地だ。

 

 

僕は誰にでもなれる、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

名前の無い誰かなんかじゃない。

 

 

無意識に作ったのはピースサイン。

 

 

映像でも、ライブでも、何度も見たμ'sのサイン。

 

 

前に掲げたそのサインを、勢いよく振り上げる。

 

 

かつて、女神たちが困難を打ち破るためにそうしたように。

 

 

「…よし」

 

 

もう足は震えない。息も荒くない。僕を無我の呪いから少しでも遠ざけてくれた恩人を。

 

 

「助けよう」

 

 

見殺しにするわけにはいかない。

 

 

たとえシナリオにはない横道であっても。

 

 

僕は、御影大地という、意志のある人間なんだから。

 

 

だから。

 

 

だから!!!

 

 

「ぶぐぇえっ?!」

「っ、どうした?!」

 

 

姿勢を低くして一気に駆け出して、一番後ろにいた男の懐に飛び込んでタックルをかまし、壁に叩きつけた。なかなか珍しいくらいのヤバそうな叫びをあげる。

 

 

「なんっ…なんだテメェ!こいつの友達か?!」

「おい出てこい!邪魔が入ったぞ!!」

 

 

まずは1人。後ろから5人出てきたから、あと7人。

 

 

さっきは3対1じゃ勝てないと思ったけど、今、不思議とちゃんと働く頭が勝算を弾き出している。

 

 

「僕は、御影大地」

「ああ?!俳優がこんなところにいるわけねぇだろ!!舐めてんのか!!」

「やっちまえ!!」

 

 

僕は御影大地。

 

 

だけど、僕は誰にでもなれる。

 

 

今までは役に入りきると完全に自分の意識を手放していたけど、今なら自分のままでいられる。今なら()()()()()()()()()()()()()

 

 

それはつまり、自分の役に操られるんじゃなくて、自分の役を制御しているということだ。

 

 

「僕は御影大地…だけど、」

 

 

それならば。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「今の僕は僕だけじゃない。少しの間でいい、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

考える時は天童で、行動する時は滞嶺くん。

 

 

こと喧嘩において、こんなに強い組み合わせはないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は圧倒的だった。

 

 

ヤンキーAとCが殴りかかってくる。Aの拳をいなしてEに当て、Cの拳を避けて腹に膝をたたき込む。そんな曲芸みたいなことをして、1分すらかからず全員を撃退した。

 

 

ただまあ。

 

 

「…っは、はぁ、はぁ…うぐ、痛っ…か、身体中痛い…あと頭も痛い…」

「だ、大丈夫ですか?!」

 

 

あんなことやったら体ぶっ壊れるよね。

 

 

滞嶺くんと同じ動きをしたらそりゃあ筋肉の限界超えるし、天童の真似したら頭パンクする。1分もやってないのにこの重症度はやばいな、彼らの化け物具合がよくわかる。

 

 

「ちょ、ちょっと無理したかな…あはは…ったぁ…頭が…」

「そんな、私なんかのために…」

「私なんか、なんて言わないでよ。さっきの会話だけで、僕がどれだけ勇気を貰ったと思ってるのかな…いてて…。君の姿に、どれだけ後押しされたと思ってるのかな」

 

 

あ、やば。なんか朦朧としてきた。

 

 

「そんな、そんな…私は全然…」

「ふふふ、謙遜しないでよ。君は強くて、冷静で、思慮深くて、さらに優しい。少なくとも僕はそう…いったた、骨が軋んでる気がする…」

「だ、大丈夫ですか?!誰か、誰か呼ばないと…!」

 

 

なんか自分で何言ってるかわからなくなってきた。

 

 

「ああ、泣かないで、絢瀬さん、うぐっ、泣いてる顔も素敵だけど…」

「ええっ、ちょっあの、急にそんな」

「やっぱり僕は、笑顔の君が好きだなあ…」

「ふぇえ?!あ、あの、いえ!今はそんなことを言っている場合じゃないですから!!」

 

 

なんだか絢瀬さんの顔が赤い気がするけど大丈夫かな。

 

 

「おーい、いねぇと思ったら何でそんな路地に…って、え?何で大地倒れてんの?ついに自らが母なる大地と一体化する決意で満たされたの?」

「て、天童さん、なんだかそんなこと言ってる場合じゃなさそう!えりち泣いてるし!」

「なになに今これどういう状況なの。今戻ってきたらなんか深刻な雰囲気」

「ちょっと絵里どうしたのよ!それに御影さんどうなってんの?!救急車、茜はやく!!」

 

 

ん、天童やっと帰ってきたのか。

 

 

「て、天童…」

「おいおい大丈夫か?!どうしたんだ一体!!」

「後でぶっとばす…」

「なぜに?!」

 

 

とりあえずこいつは殴っておこう。

 

 

それだけ決意して、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか、あんなことになっちまうなんて」

「天童さん…」

 

 

完全に誤算だった。

 

 

本当は大地の「無我」を克服する前準備としてシナリオの詳細を一部省いただけだったのに、こんなイレギュラーが起きるとは思わなかった。

 

 

「すまない、希ちゃん、君の親友を危険な目に合わせちまった」

「ううん、うちの方こそごめんなさい。あんまり未来予知なんてしないでってわがまま言ったせいでこんなことに…」

 

 

未来はわからないから楽しいんよって、希ちゃんが言っていたから、最近はろくにシナリオを考えていなかったし、危険分子の動向を見ていなかった。

 

 

「いや、君のせいじゃない。俺が急に全部スパッと切ってしまったから悪かった」

「天童さん…」

「だから、やばいやつらの動向くらいはしばらく見ていよう。また悲劇が生まれないように」

 

 

やっぱり、自分の周りの人くらいは何事もなく過ごしてほしいからな。

 

 

その手伝いくらいしてもいいだろ、希ちゃん。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

短時間でものすごい魂の成長を見せるじゃん御影さん…。主人公かな?
御影さんは松下さんと似たようなベクトルの悩みを持ってもらいました。才能に振り回されるタイプの悩みですね。海未ちゃんや絵里ちゃんはかなりしっかりしてる子なので、逆に男性陣は根がしっかりしてない人をぶつけました。

というわけでAfter stories 1のメインはここでおしまいです。気が済むまでおまけストーリーを書いたら次のカップリングに参ります!!
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