笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

前回から2名!さらにお気に入りに登録してくださいました!!ありがとうございます!!もっともっと頑張ります!!

今回からAfter stories 2の本編です。そんなに長くないと思います。多分。関係ないお話をぶっ込みすぎなければ。笑

今回は天才の権化たる彼のご登場。でも前半は全く関係ない日常です。いや全く関係ないわけじゃないですが。


というわけで、どうぞご覧ください。




天才は斯くあるべしと知る

 

 

 

 

 

夏休み。

 

 

学生だけが持つ、夏の長期休暇。

 

 

…まあ、当然学生以外には無縁なんだが、俺は服を作るだけだから常に休暇みたいなものだ。学生が休みならば、つまりことりと会う機会も増える。いいことだ。

 

 

だが。

 

 

「瑞貴さーん!頑張ってー!」

「瑞貴くん!ことりが待ってるわよ!」

「瑞貴ー!ああん生まれたての子鹿みたいにぷるぷるしちゃってお母さん濡

「おーい瑞貴ー、早くこっち来ないと母さんが大変なことになるぞ変態的な意味で」

「す、好き勝手言いやがってあんたらぁ…!!」

 

 

何故俺は大勢の前で、自宅の廊下で歩行訓練をしているのか。

 

 

っていうか何故ことりの母親もいるんだ。ここ俺の家だぞ。確か理事長なんだろ。夏休みといえどもやることあるんじゃないのか。あるだろ。

 

 

うちの両親はまあ、母さんは専業主婦だし、父さんも休みの日は休みだからな。

 

 

だがいくら暇でもこんな情けない場面を見にくるな。

 

 

「こ、これで重心制御システム?がついてるとかいうから不思議だな…!まっすぐ立つだけでもキツいぞ…」

「あらやだ瑞貴ったら足腰立たなくなっちゃった?」

「紗枝ちょっと黙ってなさい。ことりちゃんのお母さんがいらっしゃるんだから」

「いやん人に見られたら余計感じちゃう」

「やっぱもうダメだわこの子」

「漫才してるくらいなら手を貸してくれ…!」

「それはお前のためにならないだろ。ほらファイトだ瑞貴、愛しのことりちゃんが待ってるぞ」

「い、愛しの…?」

「何疑問系になってんだことり…、愛しいに決まってるだろ」

「ふぇっ」

 

 

愛しの彼女のためじゃなければこんな努力はしない。

 

 

「まぁ。そんなにはっきり好きって言ってくれるなんて羨ましいわ」

「うふふ、お父さん譲りですのよー」

「素敵な旦那さんですねー」

「あげませんよ!!」

「こら抱きつくな」

「マジで親御さん達は何しに来たんだ…!邪魔だ邪魔!」

「ま、まあまあ…」

 

 

親睦を深めるなら別室でやれ。見るな。

 

 

「さて冗談はここまでにして。紗枝ちゃん、この状況どう見るかね」

「まず間違いなく体幹不足よねぇ。あとは股関節が固まっちゃったかしら。座りっぱなしだったから」

「前傾姿勢なのはそのせいだろうな」

「急に頭良くなるのやめてくれ。惨めになる」

「いいじゃないか。ことりちゃんはそんなお前も愛してくれる」

「ふぇっ?!」

「そんなことはわかっている」

「ふぇえ?!」

 

 

ちなみに真面目な時のうちの両親は普通に頭がいい。何故俺がこんなに頭悪いのか不思議なくらいだ。マジで凹むからやめてくれ。

 

 

つーかマジで見るな。本当に。頼むから。

 

 

「おお、もう少しだぞ!」

「瑞貴さん!」

「がんばれ♡がんばれ♡」

「母さんもうちょっと別の掛け声にしようか」

「なんでぇー?なにもやましいことは言ってないわよぉ?いやんお父さんのすけべー」

「ほんっとに黙っててくれ…おわっ」

 

 

気が散る。

 

 

そのせいかどうかはわからないが、ことりのもとにたどり着く直前で躓いた。

 

 

そして。

 

 

「ぴゃあっ?!」

「おふっ」

「あらっ」

「まぁー!」

「おおラッキースケベ」

 

 

ことりの胸に顔から突っ込んだ。

 

 

弾力のおかげで痛くはなかったが、バランスがうまく取れないせいでそのまま押し倒す形になってしまった。顔が胸に埋まったまま。若干息苦しい。

 

 

「はぅう、み、瑞貴さん、あの、」

「あらぁ、ことりちゃんすけべな才能ありそうね」

「変な才能を見出さなくてよろしい。起き上がれるか瑞貴」

「足が邪魔で起き上がれん」

「ほとんど人生で聞くことのない理由だな」

「本当なんだ。こうして手で起き上がっても…」

「ひゃうう!!」

「ここまでしか起き上がれん」

「あらおっぱい鷲掴み」

「やめんか。俺の家族が変態だらけになっちゃうだろ。よっと」

 

 

最終的に父さんが両脇を持って起き上がらせてくれた。ことりが倒れたまま悶絶しているがどうかしたのか。まさか頭打ったか?

 

 

「今よことりちゃん、お腹の下の方を意識して

「こら何を教え込もうとしてるんだ。ほら南さんも何か言わないと娘さんが変態にされますよ」

「学校の外でならそういうお勉強も必要かなって…」

「残念ながら何をどう考えても不要だよ。あなたは娘さんを変態にしたいのか」

「よくわからんがとりあえずどっか行ってくれ。ことりが苦しんでいる」

「一応言っておくが原因はお前だぞ?」

「わかってる」

「ちなみに頭打ったわけじゃないぞ?」

「…………なんだと」

「ほらわかってない」

 

 

じゃあなんでことりは悶えているんだ。

 

 

しばらくわちゃわちゃした後、ことりは真っ赤な顔で起き上がった。どうしたんだ。

 

 

「あ、あの、瑞貴さん」

「…なんだ」

「次は…あの、もうちょっと優しく…」

「…何の話をしてるんだ」

「あぅ…なんでもない!!」

 

 

首まで真っ赤になったことりは俺の部屋に駆け込んでいってしまった。何がしたいんだ。というか勝手に俺の部屋に入るな。

 

 

「あらあら」

「うふふ、お孫さんの顔が見られるのもそう遠くないかもしれませんねぇ」

「あらまあおばあちゃんになっちゃいますね」

「何を言っているんだ」

「とりあえず全面的に瑞貴が悪いぞ?」

「何故だ」

 

 

母親二人がわけのわからないことを言っているが放っておこう。父さんの言い分もよく分からないし。俺が何をした。したかもしれん。わからん。

 

 

それに身体のあちこちが痛いから、あとで蓮慈になんとかしてもらわなければ。

 

 

と思って早速電話をかけたのだが。

 

 

「…?出ないな」

 

 

診察中でも手術中でも構わず電話に出るくせに(多分よくないことだろうが)、今日は全然出ない。

 

 

珍しいな。

 

 

「こら瑞貴、電話なんてかけてないで追いかけなさい」

「そうよぉ。大丈夫、私たち耳塞いでおくからナニしてもいいわよ!!」

「はいはいお母様2名は別室にご案内」

 

 

言われなくても追いかけるからさっさとどこかへ行ってくれ。とりあえず天童一位にメールだけしておこう。変なことがあったらとりあえずあの人にぶん投げておけ。

 

 

その後はことりと二人でまっすぐ立つ練習をしていた。終始顔が赤かったが、具合が悪いのかと聞いたら違うと怒られた。何なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み。

 

 

学生だけが持つ、夏の長期休暇。

 

 

そして、外出や外遊びにより外傷を負う者や熱中症により倒れる人の増加により、病院が忙しくなる時期でもある。

 

 

それ故に、私も西木野総合病院に出向く機会が多くなり、西木野嬢も手伝いをしに来る頻度が多いようだ。

 

 

「西木野先生、急患です。7歳男児、および5歳女児。前者3箇所、後者1箇所のオオスズメバチによる刺傷。両者ともに解毒処置は完了。女児は回復傾向にありますが男児はアナフィラキシーショックの前兆を観測したためアドレナリン注射を済ませてあります。効果が見られなければ後ほど再投与を行います」

「ああ、ありがとう。その子は任せた」

 

 

私は主に急患への対応を任されている。私は何を任されても十全に対応できるが、外部の者に重大な手術を任せるわけにもいかないため、速やかな処置が必要な現場を任されたというわけだ。

 

 

西木野嬢は今日は西木野先生の側で手伝いをしているようだ。話す機会もあまり取れないだろう。

 

 

外の現場ではマイクロミケランジェロを大っぴらに使えない。超常の技術が使われているこの装置は、一般の目に晒せるものではない。私なら認識できない速さで使うことも可能だし、それなりの頻度で持ち出してはいるものの、こういった人がひしめく現場で使うべきではないだろう。

 

 

よって、私の左腕だけが頼りとなる。

 

 

「藤牧先生、自動車追突事故の患者が到着しました!」

「脳挫傷の患者も今到着しましたが…!」

「構わない。()()()()()()。ああ、ここから見ただけでわかる、手術室へ。()()()()()()()。手術室に向かいながら親族に説明をする」

「「えっ、ど、同時に?!」」

「もたもたするな。命は待ってくれない」

 

 

医療は最善最短最速で行わなければならない。一瞬の遅れが命取りになる世界だ、5人同時に施術くらいできなければ人の命は救えない。

 

 

「そ、そうは言いましても…準備が…」

「準備も含めて私一人で十分だ。手術室に運び入れたら皆様は他の業務にあたってくれていい」

「ひ、一人で?!助手は?!」

「必要ない」

 

 

私のような天才に追いつける助手などそうそういない。強いて言うなら天童氏くらいか。

 

 

手術室に向かう間に患者の親族が近寄ってきた。

 

 

「せ、先生!いきなり手術だなんて…そんなに危険な状態なんですか?!」

「右脇腹損傷。計7本の肋骨を損壊、うち2本が肺に刺さっている。肺機能に甚大な被害が及ぶ可能性があるため早急に摘出を行う」

「先生、うちの子は…」

「左側頭部の脳挫傷、マンション5階相当から落ちたか。患者が幼いため脳に損傷はないだろうが、出血による圧迫で後遺症が残る可能性が高い。早急に止血し、血液を取り除き、患部を保護する必要がある」

「そんな…先生、助かるんですよね?!」

「手術すれば治るんですよね?!」

「安心するといい」

 

 

気が気でない様子の親族にも、私は揺さぶられない。

 

 

なぜなら。

 

 

「私は天才だ」

 

 

そう、紛れもなく天才であり。

 

 

「故に、失敗などない」

 

 

そうあるべくして産まれた者であり。

 

 

「1週間で完治させてみせよう。だからそこで静かに待っているといい」

 

 

命を救うために生きる者だ。

 

 

術衣に着替え、手術室に入る。道具さえ揃っていれば問題ない。患者2名への麻酔の導入も済ませた。

 

 

あとは完遂するのみだ。

 

 

天才の天才たる所以をお見せしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は一日パパとママのお手伝いをしたけど、夏休みだからなのかすごく忙しかった。藤牧さんも手伝いに来ていたけどほとんど姿を見ていない。

 

 

別に見なくてもいいんだけど。看護師さんたちの話だと、今日だけで17人の手術をしたって言ってたけど…そんなわけないわよね。

 

 

お手伝いを終えて先に帰ろうとしていたら、パパに「帰る前に藤牧さんのお手伝いもしてあげてほしい」って言われた。だから今、仕方なく藤牧さんの隣を歩いている。

 

 

「私は手伝いなど不要と進言したのだが」

「…」

「先生は君に私の仕事ぶりも見てほしいそうだ。天才たる私の動きを真似できるとは思わないが、何かの参考くらいにはなるだろう」

「…」

「特殊な容態の患者でもあるし、経験としては上等という意図もあるかもしれないな」

 

 

…藤牧さん、普段は目が死んでるというか、活力が全然感じられないのに意外と口が回る。そんなに自慢したいのかしら。

 

 

去年とか、以前は私も適当に返事をしていたけど、言い回しがいちいちムカつくのと敬語がどうのっていちいちつっこんでくるのが面倒だから最近はほとんど返事もしない。それでも延々と喋ってるからほんとにメンタル強いわねこの人。

 

 

「まあ…そろそろ知っていてもいいかもしれないしな」

「…え?何を?」

「私がここに来る理由」

 

 

急にちょっと気になる話をしてきた。ちゃんと理由あったのね。

 

 

「当然、西木野先生への恩義もある。事故で負った怪我の治療をしてくださったのは西木野先生だからな」

「なんか茜もそんなこと言ってたわね…」

「そうだ。私も、茜も、瑞貴も。みんなここで治療していただいた」

 

 

そういえばパパにも聞いたわね。うちはヘリポートもあるから、山中で起きた事故の患者を受け入れやすかったって話だったはず。

 

 

「だがそれだけではない」

「じゃあ何ですか。お金稼ぎに来てるとかですか?」

「医者をしていれば金は貯まるさ。そんな話ではない…そもそも報酬金はいただいていない」

「えっ」

 

 

じゃあボランティアでこの人ここに来てるの?

 

 

藤牧さんはカードキーで扉の鍵を開け、集中治療室に入っていく…って、集中治療室?!

 

 

「むしろ手を貸しに来るのが謝礼だからな。私のためにここの施設を使わせていただいているのだから」

「…どういうことですか?それに集中治療室って…」

「それを今から君は見るんだ」

「言葉で言ってください」

「見た方が早い」

 

 

何なのよほんとに。

 

 

そう思うのとほぼ同時に、藤牧さんは一つの扉の前で立ち止まった。見上げた藤牧さんの表情は、いつもの死んだ目じゃなくて、少しだけ寂しそうに見えた。

 

 

「…ここだ」

「こんなところに…って置いてかないで!」

「病院では静かにするべきだぞ、西木野嬢」

 

 

藤牧さんは私の言葉なんか聞かずにさっさと病室に入っていってしまった。ほんとに何なのよこの人。

 

 

部屋の中には沢山の機械が並んでいて、その中心にあるベッドには1人の女性が横たわっている。すごく綺麗な人だけど、私と同い年って言われても違和感はないし、50代だって言われても納得しそうな、不思議な雰囲気の人だ。

 

 

呼吸器をつけられているし、脳波やバイタルサインを見る限り眠っている…いや、意識不明みたいね。

 

 

でも、この人は一体誰なのよ。

 

 

藤牧さんは全くためらわずに周りの機械を操作して、時々何かしらぶつぶつ言っている。

 

 

そして、突然話しかけてきた。

 

 

「茜から話は聞いただろう」

「…へっ?な、何の話を?」

「事故の話を。私と茜と瑞貴はとある重大なバス事故の生き残りだ」

 

 

確かにそんな話はしていたわね。

 

 

「その時に言ってはいなかっただろうか。()()()()()()()()()4()()()()

「…言ってた、ような気もするわね…。じゃあ、その人が?」

「ああ、その通りだ。未だ意識は戻らないが」

 

 

わざわざ同じ事故の被害者の治療をしようとするなんて意外ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の言葉を聞くまではそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この人の名は、藤牧楓。()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「…えっ」

 

 

言葉が詰まった。

 

 

「天才たる私が、他の何物よりも、医学に全てを捧げたのは…そう、母様を治療するため。そして父様との約束を守るため。私がこの病院を使わせて頂いているのは、母様の命を繋ぐためだ」

 

 

モニターの光に照らされた藤牧さんの瞳には、確かな慈愛の色が見えた。

 

 

いつも何考えてるかわからなくて、ムカつく言い回しばかりして、人のことなんて考えてないのかと思っていたけど。

 

 

この人も、誰かを助けようとする心を持った人間なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日。

 

 

私が右腕と右目を失い、瑞貴が足を失い、茜が肺を損傷したあの日の、私しか知らない真相を。

 

 

今、話そう。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

ラッキースケベ担当の雪村君。しかし動じない。ことりちゃんは動じる。鈍感なラブコメの主人公でもこうはいきませんねぇ!!笑
そして今回の主役である藤牧さん。だいたい一言多い人ですが、出番がそんなに多くなかったので不明なポイントが多いですね。
次回はいわゆる過去編が入ります。波浜君の過去…「ひとりの盲信の真相」の話にリンクする話となります。藤牧さん視点のバス事故、何があったのでしょうか!!多分大したことはありません!!笑
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