笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

前回からまた一人お気に入りしてくださった人がいらっしゃいました!!ありがとうございます!!
そして先週投稿できなくてごめんなさい。いえもう大変だったんですよ…虹ちゃん1stライブDay1に行きまして、終わってからご飯食べて帰ろうと思ったら人身事故で電車止まって帰れなくなったんですよぉ!!カラオケに駆け込んで夜を超えたんですよ!!家帰ってから彼方ちゃん生誕祭の絵を描いてたんですよ!!翌日もう月曜日なんですよ!!
はい。ごめんなさい。

今回は藤牧さんのお話の続きです。さて、天才無双をどうぞお楽しみください。


というわけで、どうぞご覧ください。




NEVER

 

 

 

 

 

「それで週末、まっきーがお母さんの手術をするってわけだね」

「そうみたい。…茜は知ってたの?藤牧さんのお母さんのこと」

「もちろん。…どうでもいいけど、真姫ちゃん他人のお母さんは「ママ」じゃなくて「お母さん」って呼ぶのね」

「べ、別にいいでしょ!」

 

 

たまたま病院行った時に真姫ちゃんに会って、まっきーのことを聞いた。真姫ちゃんとまっきーってまきまきコンビだね。ごめん何でもない。

 

 

ちなみに僕は定期検診だよ。肺の。治してもらったとはいえ検診はするよ。ぼくえらい。

 

 

「まあ僕からしたらやっとやる気になったかって感じだけどね」

「10年前のことよね。あの自信過剰な藤牧さんがそんなに長く躊躇するなんて…」

「腹立つことに過剰ではないんだよねあれ。でもそれだけ念入りに準備したんだよ、あいつの使命みたいなものだし」

 

 

お父さんとの約束を果たすために、それに何より自分のためにお母さんの命を救う。まっきーが自分の診察でも忙しい中、わざわざ西木野総合病院に足を運ぶ理由だ。生きる原動力でもある。

 

 

「使命…」

「そうそうを僕がにこちゃん大好きなのと似たようなもんだよ」

「私がいない間に何言ってんのよ」

「ぐぇ」

「おかえり。遅かったじゃない」

「ここ広すぎて自販機が遠いのよ!」

 

 

あ、もちろんにこちゃんもいるよ。ジュース買いに行ってた。

 

 

「心配いらないでしょ。あの人なんでもできそうじゃない」

「そうそう。というか実際なんでもできるからね」

「うーん…」

「何か心配?」

 

 

真姫ちゃんはずっと微妙な顔をしている。まっきーに限っては何かやらかすことはないと思うけどね。

 

 

「心配っていうか…なんだか不安になるのよ」

「そう?完全無敵人類だし不安になる要素がないよ」

「それは…そうかもしれないけど」

 

 

そんなに不安になる要素あったかな。

 

 

「気にしすぎよ。それより茜は検査どうだったのよ」

「健康そのものだよ」

「それはわかってるわよ。肺活量の話よ肺活量」

「あんまり変わってないよ」

「何でよ!」

「痛い痛い運動し始めたの最近なんだからそんなすぐ変わんないってば」

「病院の中で騒がないで!」

 

 

肺移植をしてから今のところアレルギーが起きたりはしてない。とっても元気だ。でも体力が壊滅してるのは変わんないし、肺活量がナメクジ以下なのも変わりない。やっと運動し始めたとはいっても、始めたのはこの間の夏合宿の時だからそんな急に改善したりはしない。しないよ。しないから頭ぐりぐりするのやめてにこちゃん。

 

 

「とにかく。茜の肺まで治した人なのよ?死んだ人を生き返らせたっておかしくないわよ」

「それは流石にないけど、まっきーができるって言って出来なかったことは無いから安心してよ」

「…ええ」

 

 

納得はしてないみたいだけど、真姫ちゃんがそれ以上まっきーのことに言及することはなかった。

 

 

まあ大丈夫だよ、まっきーなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、オペを始める」

 

 

手術室。

 

 

流石に実際に立ち入るのは初めてで、手術衣を着るのもこれが初めて。沢山の道具や機材が置いてあり、中央には患者…藤牧さんのお母さんが寝かされている。

 

 

そして、その傍らに立つのが藤牧さん。

 

 

今は、右肩から例のうねうねした何かが飛び出ている。

 

 

「本来なら助手を何人かつけるところだが」

「…」

「今の私はマイクロミケランジェロを装備中だ。助手が10人いるよりも効率的に施術できる」

「いいから早く始めてください」

「そう焦らなくても良いのだが…ん?」

 

 

いつも通り余計なことを喋り出した藤牧さんを急かしていると、藤牧さんのどこかから着信音が聞こえた。って、手術室に携帯持ってこないでよ。

 

 

「何で手術するっていうのに携帯持ってきてるのよっ」

「いつもは手術しながら通話するからな」

「信じられない…」

「…が、今日に限っては施術に集中しよう。母様が待っているのだから」

 

 

この人全体的にモラルが足りてないんじゃないかしら。失敗しないから大丈夫、とかそういう問題じゃないと思う。

 

 

「さあ始めようか。起きないはずではあるが、念のため麻酔の導入を行う」

 

 

遂に始まった。

 

 

もちろん、見ていてわかるわけがない。というか見たくない。右腕のナニカから分かれた数十本もの黒くて細い針金のようなものが一斉に患者の頭に群がり、一瞬で頭皮と頭蓋骨を切除し、その中に入っていく。

 

 

下手なホラー映画より怖いわよこれ。

 

 

「回路237番再接続。血管48番血栓除去。同145番血栓除去。区画σ壊死細胞除去。新規培養細胞導入、ニューロン再接続」

 

 

あと何言ってるかもよくわからない。何となくわかるのは、脳の血管とか神経回路を番号付けて呼んでるってことくらい。人によって違うでしょそんなの。

 

 

っていうかこの人ニューロン再接続とか言ってなかった?できるのそんなこと。

 

 

そんな感じで見たくないけど微妙に気になる高速手術をする藤牧さんは、汗ひとつかかずに手術を進めている。いつもと違うのは、その目が真剣そのものだってことくらい。

 

 

何がどうなっているのか全くわからないまま、黒くて細い何かはすごい速さで頭蓋骨に空けた穴を塞ぎ、頭皮を縫合してしまった。

 

 

「施術時間、1時間12分。バイタルサイン正常…終了だ。非の打ち所のない完璧な施術だ」

「そ、そう…お疲れ様…」

「麻酔が切れれば母様も目覚めるだろう。元の病室に移動させる」

 

 

そう言うだけ言って、ベッドを押してさっさと出て行ってしまった。自由すぎるでしょこの人。

 

 

右腕の気持ち悪いのはいつのまにか取り外してしまったらしい。左腕だけで今日にベッドを操縦し、集中治療室に戻る。

 

 

「何だかあっさり終わったわね…」

「当然だ。私は天才だからな」

「…はぁ」

「何のため息だ」

 

 

本当にいちいち勘に障るわね。

 

 

「まったく、君は昔はそんな失礼な子ではなかっただろう」

「…何で昔の私を知ってるんですか」

「会ったからに決まっているだろう?私は西木野総合病院に入院していたんだぞ。幼い君に出会うことも当然あるだろう」

「全然覚えてない…」

「当時君は5歳だったからな。私のような天才でなければそうそう覚えていられないだろう」

「…天才って言葉使わないようにできません?」

「何故だ?」

「ちょっとイラッとする」

「それが何故かはわからないが…私に不可能はない。その程度のことはすぐにやってみせよう」

 

 

全然覚えてないけど、藤牧さんと会ったことあったのね。たしかに病院には小さい頃からパパやママについて行っていたけど。

 

 

あと、我慢できなかったから「天才」って言葉は禁止した。それでも結局ムカつくけど。

 

 

「私は茜や瑞貴に比べれば軽傷だったからな、君と会って話す機会も比較的多かった。引っ込み思案で人見知りする子ではあったが、優しく笑顔の明るい子だった」

「そう。今は優しくなくて笑顔も明るくなくて悪かったわね」

「いや、今でも優しく笑顔の明るい子ではあるが」

「うぇえっ?」

「何だその声は。昔の性格に照れ屋と無愛想を加えたら今の君になるな」

「…褒めてるのそれ」

「褒めても貶してもいないが」

 

 

褒めてないの今の。

 

 

「これでも結構感謝はしているんだ」

「え?何に?」

「君に。正確には昔の君に、か。あの事故当時は私も弱っていたからな、単純な話し相手としても随分と助かったものだ。数少ない友人は二人とも集中治療室行きだったしな」

「そんなにたくさん話したかしら…」

「したとも。西木野先生に頼まれて勉強を教えたりもしていたからな」

「…そんなこともあったような」

「あったのさ」

 

 

確かに誰かの病室で勉強を教えてもらった記憶はあるけど、こんなに尊大で上から目線な人じゃなかった気がするわ。

 

 

「それにあの頃、私は母様の容態の詳細を聞いて、完治させる自信がなかった」

「自信がなかった?あなたが?」

「そう、私が。いくら天才であっても、これは治せないのではないか…そう思った。右腕も失っていたしな」

「意外…昔からずっと自信満々なのかと思ってた」

「自信を無くすことだってあるさ。失敗したことはないが、どうしても救えない命だってあることを知った直後だったからな」

 

 

なんだか自信無くしてる藤牧さんって想像できないわね。

 

 

「もちろん今の私に不可能は無いのだが」

「そういうとこよ」

「君、敬語使う努力すらしなくなったな。…まあいい。とにかく、君には一度だけ弱音を吐いたことがあってな。本当に私は母様を救えるのかと」

「覚えてないけどなんとなく何て言ったかは想像できるわ」

「ふっ、君であることに変わりはないからな。『天才なのに?』と言われたよ」

 

 

藤牧さんは眠り続けるお母さんの隣で、珍しく普通に笑っていた。いつもは自信満々のムカつく笑顔なんだけど、普通に笑うとすごく綺麗な人だというのがよくわかる。

 

 

態度と表情のせいでわからなかったけど、この人顔立ちも物凄くいいのね。

 

 

「確かにその通りだと思った。私は天才なのだから何も迷うことはないと」

「ほんとそういうとこよ、あなた」

「いや、その言葉で私は随分と自信を取り戻したものだよ。突拍子もない机上の空論ではなく、可能性が僅かでもあるならば、天才たる私に失敗はない。それまでの人生で十分わかっていたことだ」

「…なんかすごく余計なこと言っちゃった気分ね…」

 

 

幼い頃のこととはいえ、無駄に自信つけさせちゃったみたい。この人にムカついたことある人全員に申し訳ないわ。

 

 

「何も余計なことではないさ。おかげで私はただ一度の失敗もなく、救える命の全てを救ってきたのだ。むしろ多くの患者に讃えられるべきだろう」

「どんだけ自信満々なのよ」

 

 

実際にそうだとはいっても、自分が賞賛されることに全く疑いもないってのはほんとに人としてどうなのよ。

 

 

「さらに、今やこの新たな右腕によって物理限界さえも超えられるようになったのだ。成長する天才ほど恐ろしいものはないな」

「自分で言ってる…」

 

 

さっきの笑顔が嘘みたいな腹立つ笑顔ね、この人。

 

 

「…さて。もうすぐ母様が目覚めるだろう。母様は君のことも知っているはずだし、挨拶していくといい」

「えぇ…」

 

 

絶対この人私が拒否する可能性を考えてないでしょ。

 

 

でもこのタイミングで出て行くのも逃げたみたいだし…って、どうしようか考えていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………なぜだ?」

「…え?」

「何故だ、何故目覚めない…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か様子が変だった。

 

 

「もう目覚めてもいいはずだ…いや、目覚めるはずなんだ。バイタルサインも正常だ。自発的な呼吸だってしている。何故、何が、どうして母様は目覚めないんだ…?!」

「ちょ、ちょっとどうしたのよ?」

「計算を間違ったか…?いや、いや、そんなはずはない。私が麻酔の量や効く時間を間違えるはずはないんだ…」

 

 

明らかに藤牧さんの顔色が悪い。そして焦ってる。震える手で機械を操作してるけど、表情は一向に明るくならない。

 

 

「正常、正常、正常…どれも正常だ。おかしいところはないのだ…」

「お、落ち着いて…一体どうしたっていうのよ?」

「な、何が…」

 

 

機械だけじゃなくて自ら母親に触れて容態を確認しているけど、やっぱり様子は変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

「………まさか。し、失敗、した、のか…?」

 

 

 

 

 

 

 

消えそうな声。

 

 

震えてまともに聞こえないほどの小声で藤牧さんはそう呟いた。そして、そこから堰を切ったように言葉が出てくる。

 

 

「しっ、ぱい?この、私が?このタイミングで?今まで一度の失敗も無かった、天才たるこの私が?私が失敗したのか?」

「落ち着いてってば…」

「ふふふ、ふふははははっ!まだ、まだ母様は目覚めない!失敗したのか私は…!よりにもよって、このタイミングで、私が、失敗だと!!」

「だから落ち着いて

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛!!!」

 

 

突然笑い出したと思ったら、頭を抱えて叫び出してしまった。半狂乱状態だ。

 

 

「そんな、そんなバカな?!私だぞ、私が執刀したんだぞ!!マイクロミケランジェロまで使ったんだ!!ただ一つのミスもなく!!完璧にこなしたんだ!!目覚めるはずだ、目覚めるはずなんだ!!母様、母様!!目を覚ましてくれ、母様ぁ!!!」

「やめて!!」

 

 

ついに力ずくでお母さんを揺り起こそうとし始めた。呼吸用のチューブや点滴だってついているのに、急に乱暴に扱ったら危険だわ。

 

 

だから、私も必死で藤牧さんにしがみついて抑えていた。荒い息で震える藤牧さんはいつもみたいな尊大な様子は全く無くて、余裕なんてどこにも無くて、とても小さく見える。

 

 

「そんな…そんなはずはない…私は天才なんだ…失敗など、するはすがないんだ…」

「ねぇ、落ち着いて…お願いだから…」

「ぁあ、ああぁ…私は、私は天才なんだ…」

「藤牧さん…」

 

 

膝から崩れ落ちて、地面に左手をついて項垂れる藤牧さん。

 

 

どこか、昔の茜に似ているような気がした。

 

 

μ'sが解散しそうになった時の茜に似ている。心の支えを失った状態。

 

 

もしかしたら。

 

 

藤牧さんも、何か辛い出来事を、「絶対失敗しないこと」だけを支えに耐えてきたのかもしれない。

 

 

そうよ、昔の話をしている時も言っていたじゃない。4()()()()()()()()()()()()()()。絶望的な状況から自分を含めて4人も助けたのに、助けられなかった誰かを思って膝をついたのよ。

 

 

きっと、誰も気付かなかっただけで。

 

 

自分の手が届かない誰かや、どうやっても救えない誰かに、胸を痛めていたんじゃないかしら。

 

 

今まで、少なくとも自分の手が及ぶ範囲の人は必ず救えるという実績が藤牧さんを支えていたんだとしたら。

 

 

その支えを、自分の母親を救えなかったという最悪のシチュエーションで失ってしまったとしたら。

 

 

「私は…天才であるはずなのに…」

 

 

私は、何て言って励ませばいいの?

 

 

「天才に不可能はないはずなんだ…。ああ、それなのに、私は…私は、一体何なのだ…」

「藤牧さん、やめて…自分を責めないで」

「ならば誰を責めればいいと言うのだ…。私が失敗したのだ、私のせいだ…私が傲慢だったんだ…」

「大丈夫、大丈夫よ…まだお母さんは生きてらっしゃるじゃない…」

「無理だ…私には無理だ。私にできる最大限だったんだ…。これ以上は、ない…」

「大丈夫、大丈夫だから…」

 

 

顔を上げてこっちを見た藤牧さんは、子供みたいにボロボロ涙を流していた。

 

 

見ていられなくて、ほとんど無意識に手を伸ばして抱き寄せていた。藤牧さんも抵抗しなかった。

 

 

「ああ…私は…母様に何と詫びれば良いのだ…父様に何と報告すればいいのだ…」

「藤牧さん…」

「あぁ、ああ…父様の言う通りだった…驕ってはならなかった…知っていたはずなのに…この世界に100%なんて存在しないことは、知っていたのに…」

「お願い、落ち着いて…あなたのせいじゃないわ…」

「私のせいなんだ…私のせいでなければ誰のせいだというのだ…」

 

 

顔は見えない。嗚咽も聞こえない。鼻をすする音も聞こえない。でも、確かに藤牧さんは泣いている。とめどなく溢れる涙が床に落ちる音だけは聞こえるから。

 

 

私はこれ以上何も言えずに黙って、藤牧さんの頭を撫でていた。だって、励ます根拠が見つからない。手術自体がうまくいったかどうかは私にはわからないし、大丈夫だっていう根拠もない。

 

 

こんなに震えている藤牧さんに、その場凌ぎの励ましはしたくなかった。

 

 

いつの間にか私も泣いていて、頬を伝った涙が藤牧さんの頭に落ちた。それに気づいた藤牧さんは顔を上げて、私の顔をじっと見つめていた。

 

 

藤牧さんが何か言いかけた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「安心しろ!!君は何も失敗していない!!強いて言えば()()()()()()()()()()()()()!!」

「きゃあああ?!?!」

「びっくりするかなーとは思ったけどそんなに驚きますかねお嬢さん?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

急に病室の扉が開いて、誰かが入ってきた。

 

 

誰かっていうか、こんなテンションの人は一人しか知らない。

 

 

天童さんだ。

 

 

「なっ、て、天童さん?!ちょっ何で、ここ集中治療室…」

「はっはっはっこの俺に不可能なんてないのさ!!雪村君が『なぜか蓮慈が電話に出ない』とか言うから未来予測してすっ飛んできたんだよ。…いやまあ正直説得には時間かかったけどさ…って何で君ら泣いてんの」

「な、何だっていいでしょ!」

「タメ語っ!!」

 

 

急にコミカルな雰囲気になったわね。

 

 

でも、藤牧さんは不安定なまま。天童さんの元にすごいスピードで接近して問い詰め始めた。

 

 

「どういうことだ、天童氏!あなたには何が見えている!!」

「うぉわぁっ?!早っ!!動き早っ!!」

「教えてくれ、お願いだ!!私にはもう何もわからない、わからないんだ…!あなたなら何かわかるのか?!私と違って正しく超常の天才であるあなたなら!!」

「待って待ってお前さんそんなやかましいキャラだっけ痛い痛い肩掴むな揺さぶるなぐぇええ」

「藤牧さん落ち着いて!!」

 

 

天童さんの肩を掴んでガックンガックン揺さぶりだしたから、急いで引き離す。藤牧さん腕力も強いみたいだから最悪あれで死ぬわよ、天童さん。

 

 

「ぐっふ、登場から数十秒で退場する羽目になるところだったぞおい。まあいいや、気を取り直して…藤牧君、君のお母さんは随分長く眠っていらっしゃったようだな?」

「…はい。10年もの間」

「おう、とっても長い時間だ。その間脳は機能せず、体も動かず…そんな状態だったわけだ」

「そんなことは

「オーケーオーケー、わかってるさ。君ならそれくらい承知してるだろうな。…だがな、藤牧君。君にはわからないだろう、真に命を失いかけた人々ばかり見てきた君には。人間ってのはな、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…プラシーボ効果のことを言っているのですか」

「そうそう。頭良い人は話が早くて助かるわー。あと君意外とちゃんと敬語使うんだな…。とにかく、自分は風邪を引いているという思い込み、逆に病気になどかかっていないという思い込み。そういったものだけで病気になったり病気を治したりできるのが人間だぜ。偽薬の話は知ってるだろ?」

 

 

プラシーボ効果…簡単に言ったら思い込み。偽薬っていうのは、薬に見せかけたブドウ糖なんかの塊を使って思い込みの影響を調べるためのもの。逆に言えば、()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…まさか」

「そう、そのまさかだ」

 

 

今、その話が関係あるとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十年も意識不明であれば、脳が『死んだ』と勘違いしてもおかしくない。身体がどれだけ健康であろうとも、思い込みを正さないと生き返ることはできないのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…じゃあ、」

「そうだな。君は手術を失敗したわけじゃない。むしろ大成功さ。…いやさ、雪村君とか茜から話を聞いたから余計不思議なんだけどさ、君のお母さんの容態って一般的には脳死って呼ばれる状態だからな?ほぼ死んでるからな?もはや死者蘇生じゃん」

 

 

藤牧さんは呆けたように動かなかったけど、涙はもう流していなかった。

 

 

失敗したわけじゃなかったんだ。

 

 

「ただ、心理の影響を軽く見過ぎたのがある意味失敗か。まあいいさ、あとは気付けなりなんなりで起こしてやればいいだけのこと」

「気付け…それなら

「まあ待て、素敵な道具を見せてやる。てれれれってれー!ねりわさびー!!」

「………………おい待て、あなたまさか」

「そう!そのまさかさ!!ねりわさびをこう、鼻の下にうにゅ〜っとやればツーンとくるアレで飛び起きること間違いなし!!」

「馬鹿かッ!!おまっ、母様にそんな宴会芸のようなことをさせられるか!!」

「はっはっはっ敬語抜けてんぜ藤牧kうぉおおおお?!何だこいつ超早いし動きが最適化されすぎちゃん!!」

 

 

…全部解決しそうでいい話だったのに、何でこんなコメディな空気になってるのよ。

 

 

「はぁ、はぁ…そんなことをしなくても、自前のアンモニア水があるからそれでいいんですよ…」

「何で君アンモニア水持ち歩いてんの」

「道端で誰かが失神するかもしれないでしょう?」

「普通の気付け薬を持ち歩いてた方がいいと思うんだよなぁ…なあ真姫ちゃん」

「いや知りませんけど…」

 

 

私に話振らないでよ。

 

 

藤牧さんはポケットの中から小さなガラス瓶を取り出して、蓋を外して、藤牧さんのお母さんの顔に近づけた。

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、けほっ」

「!!!!か、母様!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に目が覚めた…!

 

 

「ああ、ああ…母様、わかりますか、蓮慈です、あなたの息子の蓮慈です…!あなたが眠ってから随分時が経ってしまって、私の声も姿も変わってしまいましたが、わかりますか、母様…!!」

「…………れん、じ?」

「はい、蓮慈です!私はここにいます!!」

「ああ…蓮慈……お父さんそっくりになって…なんだかタイムスリップした気分だわ…」

「ああ…母様…よかった…!本当に…!!」

 

 

藤牧さんは左腕でお母さんを抱きしめて泣いていた。なんだか私まで泣けてきちゃうわ。

 

 

「母様はもう10年も眠っていらっしゃいました…私はもう18歳、今年で19歳になります…。ですがもう医師免許を取得し、小さいながらも自身の診療所を持っています。西木野先生の元でお手伝いもさせていただいています。父様と母様の名に恥じぬよう、必死に頑張ってまいりました…!」

「…そう…。じゃあ、お父さんはやっぱり助からなかったのね」

「……………それは」

「いいの。わかっていたわ。私を庇って岩の下敷きになったのは私も見ていたから。…ごめんね蓮慈、辛い時に、そばにいてあげられなくて…」

「…いいえ、いいえ…そんな…私は母様が生きていてくれただけで…!!」

「…あら、そこのお嬢さんは、もしかして西木野先生の娘さん?」

「うぇっ?は、はい、あの、西木野真姫です…」

「ああ、やっぱり…大きくなったわね、真姫ちゃん…」

「は、はい」

 

 

こうして目を覚まして、話していると思い出す。ママと仲のよかった女性のお医者さんの、その一人。

 

 

…本当に、助かってよかった。

 

 

「そのお隣の方は…?」

「あっ、えーっと…はい、天童一位と申します。脚本家で…()()()()()()()()

「まぁ…お友達…!」

「ええ、ええ…()()()()()()()()()()()!!」

 

 

少し照れ臭そうに答えた天童さんに対して、藤牧さんは友達だと言い切った。

 

 

きっと、才能や性格のせいもあって、藤牧さんにまともな友達がいなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「父様の言うことは本当だった…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って、その後はずっと泣いていた。

 

 

日が暮れるまで、ずっと。

 

 

 






最後で読んでいただきありがとうございます。

天才無双と言ったな?あれは嘘だ。
藤牧さんの弱点と言えば、その態度です。藤牧さんメインの話を作るとしたらそこを中心にするべきかなーと最初から思っていました。慰める真姫ちゃんが天使すぎてハゲます。

人心の理解に一番長けているのは松下さんですが、やっぱりこういう時は天童さんに出勤いただきました。天童さん便利…笑

ちなみに二話前の雪村君の電話はここに繋がっています。時系列が連続じゃなかったんですよ!やってみたかったんです時系列トリック!!わかりにくい!!笑
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