笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

前回からまた1人お気に入りしてくださいました!!ありがとうございます!!皆様のためにも私がんばります!!

しかし隔週投稿がデフォになってきました。よろしくない!頑張って書きます!!

今回はタイトル通りエリーチカの出番です。つまり彼の出番でもあります!さてどうなるのでしょうか!!


というわけで、どうぞお楽しみください。


また1万字いきました。




エリーチカポンコツ化の瞬間を捉えることに成功

 

 

 

 

 

長い長い夏休みも終わり、今日から2学期が始まる。

 

 

現時点で既に来年度の入学希望者は去年よりも多く、廃校とはなんだったのかと言わんばかりだ。スクールアイドル活動も相当な影響力があったと見える。

 

 

まあ、海外ライブとかファイナルライブをしたのは去年度の末だったし、μ'sが最も人気が出たタイミングを考えると来年度の入学希望者の方が多くなるか。

 

 

「理事長、ありがとうございました。続きまして、生徒会長挨拶。生徒会長、よろしくお願いします」

 

 

そして、2学期頭は生徒会の代替わりの時期だ。穂乃果の危なげないようでちゃんとした会長業務も遂に終わるのだ。

 

 

その穂乃果は、去年絵里がやったように、立ち上がって拍手をする。他の生徒も続いて拍手で新しい生徒会長を迎える。

 

 

そして、その新生徒会長とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは。ご紹介いただきました新生徒会長、西木野真姫です」

 

 

 

 

 

 

 

…まあコイツしかいないだろ。

 

 

穂乃果が生徒会長してたことを考えると凛がやってもいい気もしたが…まあ、真姫の方が適任だろ。

 

 

まあアイドル研究部2年生はまるごと生徒会にぶち込まれたがな。

 

 

そう。

 

 

俺もだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、これからよろしくね」

「一緒に頑張ろうね!」

「頑張るにゃー!」

「ま、よろしくな」

 

 

つーわけで、新生徒会始動だ。見慣れた面子だらけで目新しさがほぼないけどな。

 

 

「真姫が生徒会長なら安心ですね」

「これからがんばってね!」

「わからないことがあったら何でも聞いて!」

「穂乃果に聞いても何もわかんねぇ気がするんだがな」

「そんなことないよー!」

「去年の予算会議の資料はどこにあるんだ」

「えっと…」

「それでしたらそちらの棚に」

「ほらな?」

「いじわるー!!」

 

 

旧生徒会メンバーもサポートしてくれるらしいが、穂乃果は実務的にはあまり役に立たないだろう。いや、生徒会長としてしっかり仕事はしていたんだが、やり方が我流だったせいで参考にならないのだ。

 

 

心構えとかなら聞いてもいいかもしれんが、実務に関しては海未とかことりに聞く方が遥かに建設的だ。

 

 

「まあ、がっつり働くのは明日からになるだろ。軽く仕事の確認したら練習行くか」

「そうね。勝手がわからないまま頑張っても上手くいきそうにないし」

「ふふ…()()()()は頼もしいですね。マネージャー業務のおかげでしょうか」

「さあな。弟達のおかげかもしれん」

 

 

そう。

 

 

新生徒会の中での俺の役職は副会長だ。

 

 

会長のサポート役である副会長にはマネージャーたる俺が最適だという結論になった。花陽でも良いと思ったんだがな。ちなみに花陽は書記で凛は庶務。まあ妥当か。

 

 

「じゃあ、生徒会の仕事を軽くおさらいしてから練習行きましょ」

「えー、すぐ練習したいにゃー」

「我慢しろ。何もわからないままだと足手まといになるぞ」

「にゃー…」

 

 

まあすぐにでも練習したい気持ちはわかるが、学院内でも結構重要な立場になるんだ。疎かにはできないな。

 

 

考えるのが苦手な凛には悪いが、頑張ってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、って感じだけど。

 

 

僕は今、絵里ちゃんと待ち合わせしている。

 

 

国立大学って夏休みが長いんだ。だいたい9月末まではお休みらしい。だから高校生が2学期始まっても大学生はお休みだったりする。

 

 

だから学生が減る9月頭にチョコレート展に行くことになったんだけど…。

 

 

 

 

「…どっ、どうしよう…天童に連絡がつかないし、僕は今日一体どうしたらいいんだ…??」

 

 

 

 

僕は絶賛ヘタレていた。

 

 

だって仕方ないじゃん。少しマシになったとはいえ、僕はシナリオがないと何もできないことに変わりはないんだから。

 

 

「誘ったのはいいし、予定もバッチリ決めてあるけど具体的に僕は何したらいいんだ…?まずお昼ご飯食べて、そのあとチョコレート展に行って、終わったら解散。漠然としすぎだよ!!もっとこう、具体的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()くらい決めないと…」

 

 

不安しかない。

 

 

シナリオなしで生きていくのは僕にはちょっと難易度高すぎる。

 

 

変装しているから、道ゆく人には僕が誰だかわからないはずだ。でも露骨に不安がっていたら変質者かと思われちゃうから、平常心を装わなきゃいけない。

 

 

冷や汗出そうだ。

 

 

「お待たせしました!」

「ふぉっ」

「ど、どうかしましたか…?」

「なん、何でもないよ…」

 

 

目の前に突然天使…げふん、絢瀬さんが現れたから変な声が出ちゃった。うわぁめっちゃ綺麗だ…いつもよりお洒落してきてくれてる気がする。かわいい。美しい。綺麗。三倍役満だ。

 

 

「あの…今日、ちょっとお洒落してきたんですけど…どうですか?」

「ほあっ?!え、えーっと、か、かわいいというか、素敵というか、なんというか…」

 

 

こ、これはまずい。照れてる絢瀬さんの破壊力に僕の語彙力が追いつかない。助けて天童。助けて松下君。

 

 

焦って色々もごもごと言っていると、不意に絢瀬さんが笑い出した。

 

 

「…うふふっ!」

「な、何で笑うのさ?!」

「ごめんなさい、焦ってあわあわしてるのがおかしくて…!」

「ううううう…だからシナリオに無いことをするのは苦手なんだって…。今日は何のシナリオもないからきっと終始こんな感じだよ…」

 

 

恥ずかしくて思わず顔を隠してしまう。情けない。頼りない。みっともない。三倍役満だ。穴があったら入りたい。

 

 

「ふふ、大丈夫ですよ。今日は私がしっかりエスコートしますから。無理せず、のんびり行きましょう?」

「は、はい…」

 

 

しかも絢瀬さんはものすごいしっかり者だ。とても申し訳ない。

 

 

僕らはそのまま、絢瀬さんに手を引かれるまま移動を始めた。もうちょっと、男らしいところというか、頼りがいのあるところを見せないと失望されちゃう…なんとかしなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(きゃーーーーーーーっ?!今私御影さんの手握っちゃったわ!!緊張して手汗とかかいてないわよね?あーだめだめ落ち着くのよエリーチカ、御影さんは自分で考えるのが苦手って言ってたし、私がしっかりしなきゃ!平常心、平常心よ。クールでスマートにかっこよく!いくわよ!!)

 

 

つい手を握っちゃったけど大丈夫かしら。御影さんは申し訳なさそうに俯いているから表情が見えない。けれど、今私の顔を見られたら多分真っ赤だしにやけてるしで酷い表情だから見られなくて正解かも。

 

 

それに今日のチョコレート展はたまたま一緒に誘っていただいただけなのだし、あまり浮かれちゃいけないわ。

 

 

御影さんに良いところも見せたいし、私がしっかりしなきゃいけないのよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わああああ!!見て見てこれすっっっごく美味しそう!!ああっこっちも綺麗でお洒落だわ!!」

「そっ、そうだね…!待って待って先行くとはぐれるよ!!」

 

 

大誤算だ。

 

 

あんなにしっかり美人で凛々しい絢瀬さんが今や小学生並みのハイテンションかわいいガールになってる。

 

 

ギャップ萌えで鼻血出そう。

 

 

でもすごい勢いであっちこっち行くもんだから僕も見失わないように必死だ。君がエスコートするんじゃなかったのかい。むしろ君が迷子になる勢いだよ?

 

 

「あら!これ試食していいんですか?」

「はぁ、はぁ…やっと立ち止まったと思ったら試食か…」

「んーっ!美味しい!!」

「幸せそうで何よりだよ…」

 

 

至福と言った表情でチョコレートを頬張りながら頭を揺らす絢瀬さん。同時に自慢のポニーテールもブンブン揺れるもんだから犬みたいだ。うわーかわいい。

 

 

「どうぞ!」

「え?」

「はい、あーん!」

「うぅおうおぅええぇ??」

「あーん!!」

「あ、あーん?」

 

 

すっごい笑顔でチョコを一欠片差し出された。しかもあーんされた。何、僕今日が命日だったりする?

 

 

口の中に優しく放り込まれたのは甘いミルクチョコレートだった。美味しいし甘い。そしてやってることもとても甘い。

 

 

「ね!美味しいですよね!!」

「う、うん…美味しいね」

 

 

味わうどころじゃない。でもこんなすっごい笑顔で言われたら頷くしかないじゃん。

 

 

「はぁ…天国みたいだわ…!」

「うん…多分ニュアンスは違うけど僕もそう思うよ…」

 

 

絢瀬さん的にはチョコ天国なんだろうけど、僕からしたらギャップ萌え天国だ。

 

 

と、そこへ。

 

 

「あら?絵里さんじゃない」

「はっ!つ、ツバサさん…こ、こんにちは。こんなところで会うなんて奇遇ね」

「ええ。まさかあなたがいるなんてね。あんじゅも英玲奈もいるんだけど…()()()()1()()()()()

()()

 

 

まさかの知り合いとの遭遇だ。

 

 

絢瀬さんとは事前に、「知人にあったら僕は居ないものとして振る舞う」ように頼んでいる。いつもの完璧な変装じゃなくて自我が残った上での変装だから、それなりに話したことがある人には見抜かれるかもしれない。

 

 

僕が絢瀬さんと2人で出かけていることが知られたらスキャンダルとかですごく困る。僕自身が、というより絢瀬さんに迷惑がかかる。だから絢瀬さんには1人のフリをしてもらって、僕は目立たない人に()()。離れすぎない程度に距離をとっておいて、後で合流するんだ。

 

 

「そういえばチョコが好きって話だったわね」

「ええ、前から来てみたかったのよ。逆にあなたがいるのが意外ね」

「そうかしら?私たちのマネージャーが誰か、考えてみたらすぐわかると思うわよ」

「あっ」

 

 

僕も察した。よく見れば少し離れたところにすごい人だかりが出来てるし、きっとあそこに彼が…白鳥くんがいるんだろう。

 

 

「あなたも大変ね」

「ほんとよ。また渡は女の子に囲まれて…そんなにお仕置きして欲しいのかしら…ぐぬぬ」

「す、すごい人気ね…」

「当然よ。世界中で絶賛された最高級のチョコレート、しかも渡が全力で原価を抑えてるからそこら辺の高級チョコより全然安いのよ?誰だって欲しくなる…のはわかるんだけどなんであんなに女の子ばっかり集まるのかしらね!!」

「ツバサさん、すごい顔になってるわよ…?」

 

 

綺羅さんがものすごく憤慨して目を向ける白鳥くんはちょうど裏方に引っ込んだようで、人だかりは少しずつ解消され始めた。

 

 

「私たちのマネージャーなのに!」

「有名人だから…ってわけでもなさそうね」

「そうよ。あいつ天然タラシだから!ほんとに!!」

「あ、あはは…。でもそんなに嫉妬するなんて、相当好きなのね」

「ええ」

「…」

「ええ、好きよ。当たり前じゃない。あんなにいつも側にいてくれて、私たちのために頑張ってくれて、辛い時に励ましてくれて、大丈夫、俺が全部なんとかしてやるって言ってくれて。好きにならない方が無理なのよ」

 

 

綺羅さんは何のためらいもなく言い切った。アイドルだっていうのに、全く恐れず。

 

 

「あなたはそういう人、いないの?」

「…えっ私?!」

「ええ。にこさんや希さんの話は聞いてるけど、あなただけ何の音沙汰もないもの」

「………………わ、私は

「ツバサ!ここにいたのか!」

「何よ英玲奈そんなに急いで」

「急げ!渡が疲れて無防備になっているのは今しかない!あんじゅはもう先に行ってるぞ!!」

「…ちょっと何でもっと早くそれを言わないの!!絵里さんごめんなさい、もう行くわね!!」

「えっ、ええ?」

 

 

綺羅さんは何やら大急ぎですっ飛んで行ってしまった。会話の続きが気になるところだけど…まあ、仕方ないか。

 

 

「…もう大丈夫かな?」

「わあっ?!み…もう、びっくりさせないでください」

「あはは…存在感消してたからね。ごめんね」

「いえ…私も派手に驚いてしまってごめんなさい。それにしても、白鳥くんの人気はすごいですね。こんなにも人が集まるなんて」

「そうだね…。料理の才能もすごいけど、人としての魅力も高いんだろうな」

「チョコも美味しそうですし…」

「…買ってあげようか?」

「え?」

 

 

展示してある、白鳥くんが作ったであろうシンプルなミルクチョコ。絢瀬さんがずっと凝視してるものだから、流石に欲しがっているのがわかる。

 

 

こういう時は買ってあげるもんだ。…って天童が言ってた。こういう気遣いが自分でサッと出てくるようになりたいなぁ。

 

 

「えっ…いえっ、あの、そんな…」

「申し訳ない、とかは思わなくていいよ。一緒に来てくれたお礼もしたいし」

「えっと…じゃあ、お言葉に甘えて…」

 

 

ただ、チョコを食べたくて仕方ないって顔してる絢瀬さんに我慢させたくなかった、っていうのは…僕の考えってことでいいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーむ、なかなかやるな…」

「すごいよね。うちは御影さん、しばらくどこにいるかわからなかった」

「あーまあ、大地がすごいやつなのはわかってんだがな」

「?」

 

 

こちら天童。そう、みんな大好き天童さんだ。今は友人である大地を尾行して楽しnゲフンゲフン。大地を見守ってやっているところだ。

 

 

しかし、ぶっちゃけ大地より気になることが出てきたのだ!

 

 

「俺が言ってるのは絵里ちゃんのことだよ。あの子、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。テンション上がってウキウキな状態でもボロを出さないのはなかなかの意志力だなって」

「ふふ、えりちは意志の強い子やからね」

「流石は君の友人だな」

 

 

絵里ちゃんは大地と会ってから一度も「御影」も「大地」も言っていない。意外と難しいことだ。友人ならお前とかあんたとか、二人称で通せるだろうが絵里ちゃんにとって大地は年上の有名人だ。名前を呼ばないで問いかけるのは気を付けていてもうっかり出そうなもんだ。

 

 

「でもうちが隣にいるのに天童さんはえりちばっかり見てたってことやね?」

「おっと希ちゃん距離が縮まってないかね?何とは言わないが柔らかいものがわたくしの腕に当たってるんですよいいんですかねお嬢さん」

「当ててるんです」

「やだこの子とってもやらしい。やらしくて嫉妬深いなんて近い近い近い顔が近い」

「天童さんのためならちょっとやらしいことくらい…」

「何だって?雑踏のせいでよく聞こえん」

「ばかっ」

「こら腕にまとわりつくんじゃありません。天童さん寒気がすごいよ今。背筋に大寒波来てる」

「凍えちゃえ」

「彼女からの当たりが強い件について」

 

 

まあ結果としては希ちゃんの機嫌を悪くしてしまったがな。しかしそんなところも可愛い。みなさーん!うちの彼女可愛いですよー!!

 

 

「ほらチョコ買ってあげるから機嫌直して」

「天童さんも一緒に食べよ」

「えー俺甘いのあんまり好きじゃない」

「知ってる」

「知ってて言ったのかね君は」

 

 

しかし俺の財布からはお金が消えていくのであった。可愛い彼女のためだからね。仕方ないね。

 

 

いや仕方なくないな。破産しちゃう。経済のハサンだ。アサシンになってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は誘っていただいてありがとうございました」

「どういたしまして。楽しんでくれたようで何よりだよ」

 

 

自分がエスコートするとか言っておきながら、うっきうきで先行しちゃった絢瀬さんも会場を出ると元の美人に戻った。ギャップで燃えそう。灰になる。

 

 

さっきまで小学生ばりのうきうきテンションだったのに今は背筋を伸ばしてクールに歩いてるんだから、これはもうギャップで何人か萌え殺していてもおかしくない。

 

 

ああ、やっぱり好きだな。

 

 

凛々しくて、しっかりしてるけど時々危なっかしくて可愛い、そんな絢瀬さんが好きだ。

 

 

まあ綺羅さんのように堂々と宣言はできないけど。

 

 

いつか言えたらいいな。

 

 

「さ、早く帰ろうか。チョコ溶けちゃうし」

「ええ。…なんだか、今日1日ですごく変わりましたね」

「へ?何が?」

「あなたが。朝会ったときにはうまく言葉も出なかったのに、今はあなたから『帰ろう』って言ってくださっている…。考えるのが苦手だって仰ってましたけど、随分慣れたんですね」

「…そうかもね」

 

 

言われてみればそうかもしれない。今、帰ろうかって促したのは無意識だ。何かの役に入っていたわけでもなく、自然と、僕の意思で。

 

 

絢瀬さんに振り回されたからかな、僕がしっかりしなければって思ったから。

 

 

なんだか絢瀬さんには色々貰ってばっかりだ。

 

 

この先もこんな風に成長していけたらいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大地、何をしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喉が干上がった。

 

 

絢瀬さんと並んで歩く、人通りのない住宅街の道の先。

 

 

よく知る人がいた。

 

 

「と………………父、さん」

 

 

御影辰馬。

 

 

僕の、父親。

 

 

「こんなところで何をしている」

「…」

「時間は有限だと何度も言ったはずだ。遊び惚けている暇があったら演技を磨け。台本を頭に叩き込め。身体を鍛え、体の質を上げろ。ボーッとしている暇など全くない」

 

 

父さんは、役者としての僕にしか興味がない。僕の才能にしか興味がない。僕という人間には、興味がない。

 

 

そして、僕は父さんに逆らえない。そうして生きてきたから。

 

 

突然生き方を変えるなんて、できはしない。

 

 

「………ぁ、」

「ぼさっとするな。早く家に帰れ。帰って役を叩き込め。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「お言葉ですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

掠れた声で、はい、と答えそうになった時だった。

 

 

絢瀬さんが。

 

 

真剣な表情で、凛々しく、力強く、僕を守るように一歩前に出た。

 

 

「御影さん…御影大地さんは、()()()()()()()()()()()()()()。大地さんの人格を否定するような物言いは相応しくないかと思います」

「…なんだ君は」

「申し遅れました。絢瀬絵里と申します」

「絢瀬絵里…ふん、スクールアイドルとかいう()()()()()()()()()()。悪いが君に用はない」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

絢瀬さんは父さんの嫌味にも一切臆さない。むしろカウンターで倍返ししそうな勢いだ。

 

 

「近頃の学生は不躾だな。これは私と大地の、親子の問題だ。部外者が口を挟むな」

「お断りします」

「何?」

「お断りします。友人が困っているのですから、それを助けるのが友人の役目。ましてや家族間の問題で悩んでいるのなら、家族に頼れないというなら、友人以外の誰が助けるというのですか?」

「…口だけは達者だな」

 

 

言い負かした。父さんに、反論のネタを尽きさせた。なんて子だ…。

 

 

「だが、私は息子の教育をしているところなのだ。邪魔をするな」

「あなたのそれは教育とは言いません」

「…なんだと?」

()()()()()()()()()()()。大地さんは自分で考えるのが苦手だと言っていましたが、今わかりました。原因はあなたですね?あなたが彼から自立を奪ったのですね?」

「ふん、()()()()()。大地は天才だ、天才的な役者の才能を持っている。何の役にでもなれる。性別すら問わず、な。だが、役者が本当に「役に成る」ためには、自我は必要ない。役として考え、役として動き、役として尽きるのが最高の役者だ。役者とは無我なのだよ」

「そうかもしれません。私は役者になったことが無いのでそれはわかりません」

 

 

絢瀬さんが父さんの言葉を認めた時、父さんは目を細めて口角を吊り上げた。そして、そのまま言葉を叩きつける。

 

 

「だったら

「ですが」

 

 

いや、叩きつけようとした。その前に絢瀬さんの言葉が差し込まれた。父さんはそのまま言い淀んでしまう。

 

 

「大地さんは、大地さんです」

「…」

「何の役になろうとも、大地さんは大地さんなんです。()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()。他の何者でもありません」

 

 

一瞬、静かになった。

 

 

そして、いつか絢瀬さんと2人で話した時のように、絢瀬さんの言葉が僕の中にスッと入ってきた。

 

 

「…他の、何者でも、ない」

 

 

声に出してみると、心が軽くなった。ずっと思っていた、「僕自身なんて無い」という思いが崩れて「僕は僕だ」と思う心が芽を出した。あの日、絢瀬さんがくれたきっかけが、今確実に僕の心に根付いた。

 

 

「…それがどうしたのだ」

 

 

父さんは止まらない。引かない。むしろ、こちらに向かって近づいて来ながら威圧してくる。

 

 

「天賦の才を無駄にするわけにはいかない。そいつは最高傑作だ、役者の中の役者だ!私が、全ての役者が夢見た最高の役者だ、その才能を無駄に消費するわけにはいかない!!」

 

 

ずんずん近づいてきて、父さんが右腕を振りかぶる。絢瀬さんを払い除ける気だ。

 

 

いや、そんなことはさせない。

 

 

絢瀬さんには指一本触れさせるものか。

 

 

()()()()。だから、今は、僕が思うまま動ける。

 

 

例え父さんが相手だとしても!!

 

 

「そこをどけ小娘…!!」

「っ!」

「父さんッ!!」

 

 

バシっ!!と、父さんの腕を僕の腕で受け止める。一瞬だけ滞嶺くんの役に力を借りた。突然前に出てきた僕に、父さんは驚いていた。

 

 

「…もうやめよう、父さん」

「…何を言っている」

「ごめん、父さん。僕はもう従順な奴隷じゃいられない。僕自身の足で立って、僕自身の腕で守らなきゃいけない大切な人がたくさんできたから」

「ふざけるな。それでは数多の役者の夢が…」

「父さん」

 

 

父さんが言って欲しく無いことは、わかっている。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そして、僕はそれを敢えて言わなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

無言だった。

 

 

父さんは驚いた表情で動きを止め、絢瀬さんは心配そうに僕を見ている。

 

 

やがて、父さんが腕を下ろし、一歩下がった。

 

 

「…」

「父さん、

「やめろ」

 

 

声をかけたら、遮られた。きっとこれ以上声をかけても答えてくれないだろう。

 

 

「…気づいていたのか」

「最近ね」

「…そうか」

 

 

父さんはそれだけ言って後ろを向き、ふらふらと歩いて行ってしまった。どうしよう。

 

 

「あ、あの…ごめんなさい、口出しちゃって。でも私、我慢できなくて、あの、」

「…ううん、ありがとう。むしろ感謝してるよ。君のおかげでやっと父さんに向き合えた気がする」

 

 

後ろにいる絢瀬さんはあたふたしていたけど、僕はむしろ感謝しかなかった。本当に、彼女のおかげで動けたんだ。

 

 

だから僕は、絢瀬さんの頭にそっと手を置いて、

 

 

 

 

「君がいてくれて、本当によかった」

 

 

 

 

そう言った。

 

 

なんだかとっても晴れやかな気持ち…ん?今すごく恥ずかしいことしてない?

 

 

「はぅ、はわわわわわ…」

「…………………あっごめん!!急に頭撫でたりしちゃって!あの、えっと、これはね!あれだよあのー、えーっと

「お、おおおおお先に失礼しますぅっ!!」

「えっ?!ちょ、ちょっと?!」

 

 

気がついた時には絢瀬さんの顔は、いや顔からどころじゃなくて耳も首も真っ赤で、裏返った声で叫んで走っていってしまった。

 

 

え、これはどうなったの?

 

 

今のリアクションは恥ずかしがってたのか嫌がってたのかどっち??

 

 

教えて天童。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでしたか?」

 

 

俺は大地の後は追わず、希ちゃんも家に返した上で、住宅街の一角で待ち伏せしていた。

 

 

待っていた相手は。

 

 

「…()()()()()()()

「ええその通りですよ。お久しぶりですね、辰馬さん?」

 

 

大地の父親、御影辰馬さんだ。

 

 

「数年前も君に唆されたな」

「唆されたなんて言わないでくださいよ。いい話だったでしょう?大地を俺に預けてくれれば世界最高峰まで連れて行きますよって言っただけですし、実際その通りになったんですから」

 

 

この人とは面識がある。というか、半分監禁されていた大地を引っ張り出すために色々交渉したんだけどな。いやーあの時の俺頑張ったなー!

 

 

「…大地は最高の逸材だったんだぞ」

「ああ、()()()()()()()()()()()()最高の役者という夢を叶える人材としてはね」

「…」

「そう睨みなさんな。事実なんですから」

 

 

恨み込められても困っちゃうぜ俺。

 

 

それにさ。

 

 

「大体、あなたの息子なんだから同じこと考えますって。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…っ?!な、なぜそれを…」

「調べたんですよ、昔のニュース。新聞漁るしかなくて大変だったんですよー?俺らが生まれる前の話ですし。妻の竜胆沙苗さん…あー、竜胆は旧姓か。まあいいや、とにかく奥さんとロケ先で出会って、親密になって…。奥さんをマスコミから守るために俳優を辞め、息を潜めてほとぼり冷めてから結婚した。そうでしょう?」

「…」

 

 

割と気にはなっていた。

 

 

何でわざわざ大地を洗脳してまで俳優業をやらせたのか。

 

 

答えは単純、自分が叶えられなかった夢を叶えて欲しかったから。もしかしたらそんなつもりはなかったのかもしれないが、たまたま、才能の塊ともいうような息子に恵まれてしまったから、そんな考えが浮かんでしまったんだろう。

 

 

きっと大地が凡人だったら、そこそこいいお父さんになっていただろうに。

 

 

大地が天才だったばかりに、夢を思い出してしまった。またかつての夢を見てしまった

 

 

天才って罪だな!

 

 

「…私のようにならないために、関係を遮断したのに」

「バカですねぇ。あなたの選択が悪かったわけじゃないし、そこに劣等感を抱く必要はまったくなかったのに。それに」

「…?」

「大地はあなたとは違う人間なんですから。あなたの望むような人生を送るわけがないでしょう」

 

 

たまに、子供に自分がしたかったことをやらせようもする親がいる。

 

 

まあ好きにしたらいいんだが、子供は自分とは違う人間だということは理解しておかなければならない。

 

 

多様性をしっかり理解して初めて、まともに他人を思いやれるようになるし、親切になれるのだ。

 

 

周りの天才どもが基本良いやつなのも、他人と自分の違いが分かり易いからだろうしな。

 

 

「まあ、大地なら大丈夫です。たまたま巡り合った絵里ちゃんのおかげで、あいつは俳優としてのプライドも手に入れ、愛する心も見つけた。きっと来年には堂々と交際し始めるでしょうよ」

「来年か…」

「そ、来年」

「…ふ、遠いな」

「何開き直って楽しみにしてんですか」

 

 

辰馬さんもそういうのを理解してくれるといいなぁ…とか思ってたのに急に下世話なお父さんになりやがった。切り替えはえーなオイ。

 

 

ま、これで親子仲良くなるならいいんだけどさ。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

絵里ちゃんと絡むたびにどんどん強くなる御影さん。そしてポンコツ化したりイケメン化したりする絵里ちゃん。濃いなこのコンビ!笑
御影さんのお父さん話は結構前からしようと思っていました。親子って難しい。そして絵里ちゃんのおかげで関係が改善していく御影家が楽しみ!笑
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