笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
前回からまたお2人!!お気に入り登録してくださいました!!ありがとうございます!!!ほんとにもう…がんばります…最後まで!!
2週に一回くらいは投稿しないと…と思ってこの時間。前回に収まらなかった花陽ちゃん&湯川君ストーリーがなかなか進まず!綺麗にまとめるのに時間かかりました!!
先に考えておけよって話なんですよね。おっしゃる通りでございます(スライディング土下座)
そんなわけで花陽ちゃん&湯川君ストーリー後半です。湯川君の告白を受けて花陽ちゃんはどうするのか…?!
というわけで、どうぞご覧ください。
「だから僕らに相談したのね」
「うん…」
11月の中頃。ラブライブ最終予選もそこそこ近づいてきた時に花陽ちゃんに呼ばれて喫茶店に来た。何かと思ったら、湯川君に告白されたって。でも自分の気持ちがわからないんだって。
そもそも湯川君に恋愛感情とかあったんだね。
「まったく、ことりのことがあってからみんな恋に振り回されてるわね?真姫ちゃんも藤牧に振り回されてるし、凛と創一郎もそわそわしてるし」
「えっ凛ちゃんと創一郎ってそういう感じなの」
「………………あんた気付いてなかったの?」
「まったく」
急に新しい情報が入ってびっくりしてるんだけど。まじ?いつからそんな感じだったの?
「まあそれは置いといて」
「置いとくのね」
「まずは目の前の花陽ちゃんだよ。どうしようね、気持ちがわからないって言われても困る」
「そうよねぇ、そもそも花陽と湯川くんの関係性をよく知らないし」
「そ、そうだよね…」
「そんなしゅんとしないの」
前からだけど、花陽ちゃんは落ち込むとき際限なく落ち込むタイプだから気をつけないとね。
「幼馴染って意味では僕とにこちゃんは同じだけど、僕と湯川君じゃ人間性が違いすぎてね」
「状況は似たようなものじゃない。ご両親が事故で亡くなったんだし」
「僕は心も体も死にかけたけど湯川君は多分どっちも無傷なんだよね」
まあつまり僕には湯川君のことはわからないよ。
「だからにこちゃんの出番だよ」
「また花陽の気持ちの話だからそうよね。だから茜追い出していい?」
「えっ何で」
「本人の目の前でどう思ってるか言いたくないでしょ」
「そんなぁ。どうせラブが溢れてるのは明白なのに」
「ふんっ」
「ぶぎゃる」
肘が入った。ありがとう、いい肘です。全然ありがたくない。痛い。
「わかったらさっさと出なさい」
「わかってないんだけど。えっ本当に僕追い出されるの?まじ?今日まだ全然喋ってないのに」
「別に喋んなくていいのよ」
「そんなひどい」
そのままにこちゃんにぐいぐい押されてほんとに追い出された。そんなひどい。花陽ちゃんもどうしていいかわからないのかオロオロしてるのに。
仕方ないから外で待ってよう。帰ったらにこちゃんに怒られそうだし。いや逆に帰って怒らせるというのもありでは?今僕無慈悲にも追い出されたし。やられたらやり返す、倍返しだ。
いやでもやっぱりにこちゃんに嫌な思いをさせたくないし待ってよ。ちょっと寒いけど。もうちょっと厚着してこればよかった。
茜を追い出したからやっと話が進むわね。茜には後で謝らないと。帰ってなかったら。帰ってたら怒るわ。
「え、えっと…」
「さて、邪魔者もいなくなったし続けましょ」
「えぇ〜…あ、茜くんはいいの?」
「いいの。恥ずかしいじゃない」
不安そうな花陽には悪いけど、茜の目の前で茜をどう思ってるかなんて言ったら恥ずかしさでどうにかなりそうよ。
「で、最初に言っておくけど」
「うん」
「多分参考にならないわよ」
「え?」
「茜って意地悪だし、すぐ煽るし、小さいし、体力無いしヘタレだし足遅いし…別にそんなに好かれる要素があるやつじゃないのよ。小さいし」
「今小さいって2回言ったよ…?」
「だって真姫ちゃんより背低いのよあいつ」
「真姫ちゃんは背が高い方だし…」
いいのよ男性の中では背が低い方なんだから。
「でもね。凄くお人好しなのよ、あいつ。人を見捨てるって発想がない。自分じゃ体力的に何もできないくせに全然諦めないのよね。…まあ、あいつのご両親が亡くなってからはそんな姿見なくなったけど」
「…」
「そんな姿が好きだったのよ。ずっと。献身的なクセに強気で諦めが悪くて、ボロボロになっても最後はなんとかしちゃう。かっこよかったのよ、そういう姿」
「にこちゃん…」
「それに、あいつ必ず笑顔だから。本気で辛そうな顔とほとんどしないから、優しくて、強くて、明るくて。そんなの好きになっちゃうわよ」
実際、あいつ昔は女の子に囲まれてたし。モテたから。だから事故の時にあんなこと言っちゃったんだけど。
「でもね」
「?」
「今言ったのは全部後でわかったこと。好きになった瞬間なんてわかんなくて、気がついた時にはもう好きになってたのよ」
「後で、わかったこと?」
「そ。後で冷静になって、今までのことを振り返って、その時にやっとわかったこと。だから今誰かを好きになったとして、その理由を考えても意味ないのよ。わかんないから」
「そうなんだ…」
そう。少なくとも私は、いつから好きだったとかはわかってない。だいたい茜が事故した時でさえ恋してた自覚があったわけじゃない。高校入った時くらいにやっと気付いたくらいよ。
意外と恋に落ちる音なんてしないものよ。
「だから、幼馴染を好きだと思うかどうかは今までを振り返って考えるのがいいと思うけど…」
「それは…もう考えてみたし…」
「でしょ。だから多分参考にならないって言ったのよ」
立場は同じでも、環境も状況も全然違うもの。流石にあんまり当てにならないわよね。私と茜が特殊だっていうのもわかってるつもりだし。
だけど。
「でもそれは恋の話」
「…え?」
「いい?ここから先の話は、多分元μ'sの誰に聞いてもされない話で、もしかしたら花陽の役に立つかもしれない話よ」
私だけができる助言だってある。
「私は今は茜に恋してないわ」
「えぇっ…?!で、でも付き合ってるんだよね?」
「そうよ。落ち着きなさい、別に好きじゃないって言ってるわけじゃないわよ」
「?????」
ちゃんと最後まで話を聞きなさいよ。…って私もよく茜に言われるけど。
「
それはきっと、μ'sが解散しそうになって茜が引きこもった時から。
他の人に茜を取られたくなくて必死だった前の私が、茜を自由にしてあげようって決心したあの日から。
茜がどれだけ遠く離れても心は繋がってるって感じるようになった。
「ことりと雪村とか、希と天童さんみたいにべったりくっついて過ごすようなことはしないし。そんなことしなくてもお互い想いあってるのはわかってるから不安もないのよ」
「十分べったりくっついてるような…」
「そんなことないわよ!」
そこらへんのカップルよりはマイルドよ。多分。茜がうちに来ても妹たちがいるから変なことはできないし。茜は茜でご飯作って食べたら帰っちゃうし。
…別に変なことしたいって言ってるわけじゃないわよ。
「とにかく。私はそんなトキメキを追い求めるような感情じゃないの。花陽もそんな感じなんじゃない?」
「うーん…確かに照真くんといてもドキドキしたりはしないけど…じゃあ恋じゃないならなんなのかな?」
「知らないわよそんなの」
「えぇ…」
私だって答えを知ってて言ってるわけじゃないのよ。
ただ、人を好きになるっていうのは恋だけじゃないってことを伝えたかっただけ。
「そういう感情もあるって話よ。恋か恋じゃないかの二択じゃ意外と辛いでしょ」
「にこちゃん…何だか去年より頼もしいね」
「去年が頼もしくなかったみたいじゃない!」
「そんなに頼もしくなかったじゃん」
「ぬぅわっ!茜何で戻ってきてんのよ!!」
「寒かった」
「まだそんな凍える寒さじゃないでしょ。11月なんだし」
「肌寒い中じっとしてるのもなかなか辛いことを学んだよ」
「よかったじゃない」
「よくない」
いつの間にか茜が外から戻ってきてた。帰ってはいなかったけど、話の途中で戻ってこられても困るのよ。恥ずかしいから。
「ふふっ」
「何よっ」
「2人とも、本当に仲が良いね」
「そりゃまあ僕はにこちゃんの王子様だし」
「ふんっ」
「ぐぇ」
ほんとそういういとこで損してるわよあんた。
まあ、とりあえず花陽の表情が多少晴れたしいいかしら。
「にこちゃん寒いからあっためて」
「はいカイロ」
「違うそうじゃない」
「何よ、コーヒーでも頼んでおきなさいよ」
「そーうーじゃーなーいー。はぐはぐフリーハグ」
「ふん」
「ぶぎゃる」
「あはは…仲いいね…」
「無理に言わなくていいわよ」
茜はちょっと黙ってなさい。
にこちゃんと茜くんに相談して、その帰り道。
本当にたまたまなんです。
遠くで手を繋いで歩く海未ちゃんと松下さんが見えたのは。
あっ、と声を出した瞬間に松下さんがこっちに気がついて手を離し、海未ちゃんもものすごくうろたえて松下さんの後ろに隠れてました。
「え…っと、お、お久しぶりですね小泉さん…」
「いえっあのっ私何も見てませんから!続けてください!!」
「いえ…何だかすみません…。南さんのことがあってからそんな立て続けにカップルができるとは思いませんよね…」
「なっななななななな何で花陽がここここここここにいるんですかっ?!」
「動揺しすぎです海未さん…そんなに怖がることですか」
「いえっいえ!私は無実です!!松下さんが悪いんですー!!」
「それはちょっと聞き捨てなりませんが」
「だ、大丈夫だよ海未ちゃん…ことりちゃんの時みたいに怒らないから…」
松下さんは全部見抜いているかのような返事をしてくださいましたが、海未ちゃんはもう完全にパニックです。
ことりちゃんの時は私もつい怒っちゃったけど、今はもう恋愛禁止じゃないから私も怒りません。自分がどうするかは別ですが、他のみんなの恋愛を止めたりはしません。
「というか…見つかりたくなかったのなら、やはりもっと人通りの少ないところを歩くべきだったのではありませんか?」
「そ、そんな…人通りの少ないところだなんて…」
「あなたの考えてるような意味ではありませんよ」
海未ちゃんが顔を赤くしてくねくねしてるけどどうしたんでしょう。
あ、そういえば。
松下さんは文学者だったはずです。人の心のことも詳しいかも…。
「あっ、あのっ」
「違いますっ!!」
「何が?!」
「すみません…海未さんは動揺してしまっているようで」
「そんなっ私はそんな破廉恥なことは考えていませんから!!」
「そ、そっか…」
一体何を考えてるんだろう?
「まあ海未さんはおいといて…お困りのようですね」
「は、はい…そうなんです」
「なるほど…」
「え?」
「あーいえ、なんでもありません。よければお話しませんか?何か助けになれるかもしれません」
「いいんですか?」
「もちろんです。困っている人を放ってはおけませんし」
「あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして。…海未さん、黙っていても嫉妬のオーラは何となく察せますからね?」
「し、嫉妬なんてしてません!」
「答えた時点であなたの負けですよ」
とにかく、松下さんが相談に乗ってくれるそうです。海未ちゃんも作詞してるし、何かいい話が聞けるかも。
「恋の先…なるほど、しかし流石にそこに達するのはまだ早いですね…。恐らくこの情熱が冷めた後のことですし…」
「…あの?」
「ああ、すみません。落ち着いて話せる場所があればいいのですが…そうだ。大学行きましょう」
「はい?」
「大学です。幸いすぐそこですし、僕は准教授なので何とでもなります」
「そ、そうですか…いいんですか?私、大学生じゃないですけど…」
「それは大丈夫ですよ。構内立ち入り禁止というわけではありませんし、そもそも食堂や図書館は一般開放していたりしますからね」
また喫茶店でお話するのかなぁと思ったら、まさかの大学内でした。確かに国立大学はここから近いですけど…なんだか緊張します。だって国立大学ですから。絵里ちゃんたちが通ってるとはいえ、そうそう入る機会がない場所です。
「うーん、休日ですから大抵の部屋は空いてると思いますが…いえ、広めのセミナールームは理系学生が使ってそうですね。図書館の個室…は、入館手続きが面倒なので…狭いセミナールームにしておきますか」
「明さん。色々考えるのはいいのですが、道に迷わないでくださいね?」
「流石に自分の職場で迷いませんよ…多分」
「…多分?」
「たぶん…」
なんだか不穏な言葉が聞こえたけど大丈夫でしょうか。
少し歩いたら、すぐに大学の正門が見えました。何度か前を通ったことはあるけど、中に入るのは初めてです。
「さて、行きましょうか。とりあえず僕のラボがある文学部棟に向かいましょう」
「明さん」
「大丈夫です、流石に迷いませんってば。こっちですよ」
「明さん」
「何ですか海未さん、自分の職場で迷ってたら色々と問題が
「明さん、そっちは工学部棟です」
「…………………………………………さて、行きましょうか」
「何事もなかったかのようにしないで下さい」
「い、いえ…今のはたまたまですから…次は間違えませんから…」
「そっちは理学部棟です」
「……………………………………………………」
「あ、あの…大丈夫です、急いでないので…」
松下さんは道の隅でうずくまってしまいました。なんだか意外な弱点です。
しばらく松下さんは落ち込んでいましたが、最終的には無事小部屋にたどり着きました。案内してくれたのは海未ちゃんだったけど。何で海未ちゃんが大学の道に詳しいんだろう?
それに、隣同士で椅子に座った2人の距離がやたらと近いです。恋人ってそういうものでしょうか。
「さて、気を取り直して…いや気を取り直すのは僕だけですけど」
「あはは…よろしくお願いします」
この数分でずいぶんやつれたように見えますけど大丈夫でしょうか。
ひとまず私の状況を説明することにしました。難しかったけど、松下さんはちゃんとわかってくださったようです。
「湯川君の告白にどう答えたらいいのか、自分の気持ちがわからない、ということですが」
「は、はい」
「あまり深く考えることもないと思いますよ。きっと既に答えは出ていますから」
「え?」
「答えは出ていますが、別の理由で結論を出せない…いえ、出したくないのでしょう」
やつれてはいますが、その目と口調は真剣でした。
「結論を、出したくない…」
「はい。…ですが、核心に迫る前に小泉さんの想いを整理しましょうか」
そう言って松下さんが隣にいる海未ちゃんを見ると、丁度2人の目が合いました。その瞬間に海未ちゃんは顔を赤くして俯いてしまいました。
…私は何を見せられているんでしょう。
「ええ、この通り、僕たちは目が合うだけで恥ずかしがってしまうようなお年頃です」
「は、恥ずかしがってません!」
「どの口が言うのですか。とにかく、手を繋ぐのも緊張するような、でももっと触れていたいような、近くにいたいような。そんな気持ちを恋と呼ぶことが多いですね」
「なるほど…」
「波浜君と矢澤さんのケースはどうでしょうか。手を繋ぐのを躊躇うというか、そもそもそんな頻繁に手を繋いだりしませんね。時々お会いしても、隣同士で座っていてもこんなに近くないです」
「私…そんなに近いでしょうか…」
「目と鼻の先と言っても過言ではないですね」
確かに、さっき会った茜くんとにこちゃんはこんなに近くなかった気がします。自然な距離というか。
にこちゃんは茜くん追い出してたし。
茜くんはにこちゃんに抱きつこうとして殴られてたし。
「おそらく僕らと波浜君たちは別の感情で動いているのでしょう」
「はい…にこちゃんも言っていました。恋とは別の感情なんじゃないかって」
「ええ。僕は波浜君のような感情を、「愛」と呼んでいます」
「…愛」
「恋は求めるものです。近づきたい、触れたい、側にいたい…主に自分のために相手を求める心だと考えています」
「そっ、それだと私が自己中心的みたいじゃないですか!」
「恋心一般の話をしているんですからね?あと一応僕も同罪になります」
愛…。恋と愛って違うのかな。
「…とまぁ、小泉さんが抱く感情に対して仮の定義をしたところでもう一つの議題に入りましょうか。湯川君に対してどう答えたらいいのか」
「は、はい」
「…しかし、先ほども言いましたが、その答えは既に出ているはずです」
「…」
「海未さんからμ'sの方々…いえ、元μ'sの方々ですか。皆様の話は聞いています。話を聞く限りでは、あなたは慎重で思いやりのある方なのでしょう。自分よりも他人を優先する傾向のある優しい方であるはずです」
「そ、そうでしょうか…」
海未ちゃんは松下さんに私のことを何て言ったんでしょうか。
「しかし、長所というものは 短所と一体であるものです。慎重は時に臆病となり、思いやりはお節介となる」
「明さん、そんなことは…」
「いえ、いいえ。誤魔化してはなりません。何事も過ぎれば毒となる…例え正しきことでも、善意であっても。それは僕が一番よく知っています。だから言わなければなりません」
松下さんは真剣な目で、海未ちゃんの制止も振り切って私に言いました。
「あなたは不安なんじゃない。変化を恐れているんです」
真剣な瞳です。それが絶対に正しいんだって言いそうなほど。
「湯川君との関係を大切にするが故でしょう。告白に応じてしまえば、2人の関係性は間違いなく変化する。それによって湯川君が今まで通りの生活を送れるかわからない。それなら、
「…それは」
「ええ、きっとそうなのだと思います。何も変わらなければ、ずっと今のままでいられる。…ですが、あなたは知っているはずです。変わることの大切さを。動くことの重要さを。あなたがμ'sに入った時のこと、星空さんが自信を持った時のこと、湯川君が僕たちと話せるようになった時のこと」
私は返事ができませんでした。
松下さんが言っていることはわかります。その通りなんです。
だけど、今まで私が大きな何かをするときは、いつも誰かが背中を押してくれていたから。μ'sに入るときは凛ちゃんと真姫ちゃんに。凛ちゃんの時にはμ'sのみんなに。湯川君の時にはもっと沢山の人に。
今度は、私一人で変わらなきゃいけない。行動しなきゃいけない。誰も後ろにいてくれない。
もし、もし何か間違えちゃったらって思うと、怖くて動けない。
だから、不安なフリをして向き合うのを避けていたの。
「花陽」
「海未ちゃん…」
「大丈夫です。恐れないで…とは流石に言えませんが、どんな決断をしたとしてもきっと上手くいきます。だって花陽は沢山決断してきたんですから。自信を持ってください」
「うん…」
「それに、どんな時も私たちは花陽の味方ですから。必ず、いつまでも」
俯いていたら、海未ちゃんが隣に来て手を握ってくれました。それだけで少しだけ気が楽になれます。
私には、みんながいる。
この決断も、私だけでするんじゃない。みんなが助けてくれたし、応援してくれてる。
それなら、もう怖くない。
「松下さん…あの、」
「ええ、行ってください」
「えっ」
「あっ、ええっと…まあ、今びっくりなさったことについては後日説明しますので」
「あ、明さん…いいのですか?」
「いいんですよ。さあ、行ってあげてください。彼もきっと待っていますから」
「は、はい…あのっ、今日はありがとうございました!」
「どういたしまして」
今すぐ照真くんのところに行こうと思ったら、何か言う前に松下さんが返事してくださいました。心を読まれたみたいでびっくりしたけど、とにかく早く行かなきゃ。
急ぐ必要は全然ないんですけど、どうしても早く行きたかったので走って部屋を出ました。
照真くんを、1秒でも長く待たせないために。
「…いいのですか?読心のことを話すということですよね?」
「ええ、いいんです。僕も友人達に信頼してもらおうとするなら、隠し事はしない方がいい。…そもそも天童君や御影君は知ってますしね」
「でも…」
「ええ、信じてもらえるかはわかりません。でも他人に恐れるなと言った手前、僕が恐れていては説得力が無いですからね」
「…わかりました。明さんがそう言うなら」
「はい。ありがとうございます」
花陽が来た。
「はぁっ、はぁ…て、照真くん!」
「…?どうした」
来たはいいが、何故かものすごく疲れているようだ。どうしたのだろう。
「こ、この前の、返事をしに…!」
「この前の返事をしに…返事、返事が必要なのか」
「あぅ…そっか、照真くん自身には告白したって意識がないんだ…!ないよね…知らないもんね…」
そのままへなへなと座り込んでしまった。大丈夫だろうか。
「どうした、大丈夫か、花陽」
「うん、大丈夫…。それより、聞いて」
顔を上げた花陽の表情は真剣だった。何を言うつもりだろうか。
「わ、私…」
「うん」
「私も、照真くんが好き。すっごく、心から
「…愛してる?恋ではなく」
「うん。色んな人に話を聞いてわかったの。私たちの感情は、恋じゃなくて愛なんだって」
「恋じゃなくて愛なのか。どう違うんだ?」
「えっと…私も詳しくはわからないけど…。愛の方が、ちょっと穏やかかな?」
「ちょっと穏やか」
「うう…わかんないよね…」
「いや、わかる」
「わかるのぉ?!」
わかる。花陽がいない間に恋する人々の周りでデータを取っていたからな。
恋する人たちの行動は衝動的だ。俺とは違う。俺はそんな激情に駆られて動いたりしない。
だから、そんな激情がない「好き」というのが愛ならば、それは理論としては正しい。
「わかるならいいかな…。うん、私は、照真くんを愛してます」
「ああ」
「それで…えっと、本当なら、私たちは恋人同士になって…うーん、お互い好きだよっていう宣言?みたいなことをするんだけど…」
「…本当なら、ということは何か違うのか」
「…うん。あのね、すごく勝手なお願いなんだけど、恋人になるのは私が卒業するまで待ってて欲しいの」
「いいぞ」
「そんな勝手なお願いは失礼だとは思っ…いいのぉ?!」
「いいぞ」
そんなに驚くことだろうか。
「宣言するかしないか程度の違いでしかない。愛しあっていることに変わりはない」
「ま、まぁ…確かにそうだね…」
「だが何故だ?何故待たなければならない?」
花陽は一瞬躊躇ったが、すぐに俺の目を見て答えてくれた。
「…あのね、アイドルって、本当は恋愛しちゃいけないの」
「恋愛しちゃいけないのか」
「うん。だから、私がスクールアイドルでいる間は恋人になれない…ダメじゃないんだけど、私が個人的になりたくない。私は私が大好きなアイドルの姿を貫きたいの。にこちゃんもそうしてたんだから」
アイドルは恋愛禁止だとは聞いた波浜も言っていたし、天童も言っていた。だから知っている。
知っているし、問題はない。
「いいぞ」
「さっきから即答だけどほんとにいいの?!」
「いい。花陽は俺を愛していると言ってくれた。それだけでいい」
そう。
それだけあればいい。
花陽の心が側にあると信じられるだけで、俺は何も怖くない。
「………うぅっ」
「どうした、何故泣いている」
「ご、ごめんね…嬉しくて…」
「嬉しくて?」
何故嬉しくて泣いているのか。花陽はよく嬉しい時も泣くが、今でも理由がよくわからない。嬉しいときは笑うはずだが。
考えていると、不意に花陽が抱きついてきた。どうしたのだろう。
「花陽?」
「…ぐすっ、ごめんね。ちょっとだけ、このままでいさせて…」
「…わかった」
花陽はそのまま、腕の中で泣いていた。花陽はよく泣くが、今はいつもと雰囲気が違う気がした。何かはわからないが。
これから学んでいけるのだろうか。
そういえば。
俺の体に花陽の胸が当たった時、一瞬心拍が上がったが、何だったのだろうか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
前回の時点で、告白にすぐに答えないパターンを作らなきゃ…と思ってこんな話が始まりました。毎回告白してすぐOKでは芸が無いですからね!!(いらない)
ついでに珍しく深めに恋愛論を描かせていただきました。だいたい筆者の偏見です。異論は認めます。カモン異論。
湯川君視点の地の文があっさりしてるのは仕様です。湯川君は感情があんまり動かないし、語彙力があるわけでもないので詳細な描写とかできません。こんな感じでキャラ毎の違いも楽しんでいただけたらなぁと思います。約130話まできて今更感のある発言。