笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
今回は早いじゃないかって?もちろんですとも。連載当初から書くつもりだったお話ですから。筆も早いってもんです。
前回とびきりの真実を暴露してくれた水橋君、一体過去に何があったのでしょうか。
ちなみに、タグの「残酷な描写」はこの日のために付けたものです。苦手な方はご注意を。
というわけで、どうぞご覧ください。
まだ小学生の頃のことだ。
「お兄ちゃーん!」
「おっ、桜か。どうした?」
「鉛筆貸して!」
「…また筆箱忘れたな?」
「えっへへー」
「まったく…仕方ねーな。ちょっと待ってろよ?」
「うん!」
俺には…
「暦って妹と仲良いよなぁ。羨ましい」
「なー。桜ちゃんいい子だし、俺の妹と交換して欲しいぜ」
「バーカ。桜は絶対渡さん」
「ちぇっシスコンめ」
「シスコン上等だ」
俺と桜は仲がよかったし、それは誰が見ても明らかだった。別に隠したりする必要もない。大切な家族だ。
友人達にも知れ渡るほど仲が良く、校内でも評判だったくらいだ。たまたま廊下ですれ違ったときとかも凄い笑顔で全力で俺を呼んで手を振ってくれる。そして俺はそのあと友人に絡まれる。割と平和な日常だった。
小学校の授業が終わった後は、いつも桜が正門で待っていた。帰る時はいつも一緒、ブンブン手を振って俺を呼ぶ桜と一緒に、その手を握って少し寄り道したりしながら帰っていた。
「お兄ちゃーん!見て見て、四葉のクローバー見つけたよ!」
「おっ、すごいな。今日はいいことあるかもな」
「えへへ。たくさん見つけたから、お兄ちゃんにも分けてあげるね!」
「いいのか?」
「うん!お兄ちゃん大好きだから」
「ははっ、ありがとう。俺も今日はいいことあるかも」
夕方の河川敷で四葉のクローバーを探したり。空き地で虫を捕まえたり。橋の上で一緒に歌ったり…色んなことをしていた。
「そういえばね!今日は音楽の先生に褒められたの!」
「よかったじゃないか。いっぱい練習したもんな」
「うん!あとね、さすが暦くんの妹だねって言われた!」
「それは褒め言葉なのか…?」
「桜は嬉しかった!」
「そっか、ならいいか」
俺の音楽の才能はこの頃からあった。別に有名人になる気はなかったが、学校内の合唱祭なんかでは重宝されていたし、鼻歌で作曲してノートに楽譜を書き込んだりもしていた。
音感も良かったし、漠然と「俺は他の人たちとはちがうんだな」とは思っていた。
桜も音楽の才能はそれなりにあったが、俺ほどではないようだった。それでも音楽の成績は良く、「暦の妹だから」と言われていつも喜んでいた。
兄と比べられて嫌だ、なんて微塵も思わなかったらしい。それだけ誇りに思ってくれていると思うと、俺も嬉しかった。
「さ、そろそろ帰るか」
「うん」
手を繋いで夕暮れの堤防を2人で歩く。この時間が一番好きだった。大切な人と2人で歩く時間が。
家に帰るとだいたい父がいた。母はいない。離婚したのか、俺が小学校に入る頃にはもういなかった記憶がある。
父は優秀な会社員で、立場も高く、部下からの信頼も厚く、仕事ができて、人当たりのいい社交的な人だった。
「ただいま」
「おせぇぞ。早く飯作れ」
「…」
「返事は」
「はい」
家の中ではとても評判通りとは思えなかった。傲岸不遜で短気で、自分では家事を全くしないくせに気に入らないことがあるとすぐ手が出る。DVの擬人化みたいな野郎だった。
酒癖が悪いくせに家ではいつも酒を飲んでいたし、手当たり次第物を投げる。投げた皿の破片が桜の目に入ったことがあって、そのせいで桜の右目の白目部分には今も傷が残っている。そのときも桜を病院に連れていったのは俺だった。
そのくせ、会社の飲み会では悪い酒癖が出ないように酒は飲まないし、その代わり帰宅してから酒を飲ん暴れるのだ。
こんなのが親だなんて思いたくないし、思っていない。
「飯はまだかよ」
「もうちょっと待って…」
「クソっノロマめ。こっちは腹減ってんだよ早くしろ!!」
「痛っ」
また何か投げられた。ビールの空き缶か。それほど危ない物じゃなくてよかった。
こっちは包丁を握っているというのに。こんなヤツを尊敬している人がいると思うと笑えてくる。
隣で一緒に食事を準備している桜は、こんな環境でも俺と目が合うとにへっと笑ってくる。
これだけは守らなければならないと思った。
この笑顔だけは、クソみたいな父から守ってみせると。その意志を支えに、一人立ちできるようになるまで耐えて生きるのだ。
耐えて生きていくつもりだったんだ、あの日までは。
俺が小学校5年生の時だった。
たまたま夜中に目が覚めて、喉が渇いたからこっそり水でも飲みに行こうかと思っていたんだ。
微かに、誰もいないはずのリビングから物音がした。
一瞬気のせいかと思ったが、物音は一回じゃなくて何度か聞こえてきている。
…泥棒か何か、いるかもしれない。
そう思って、いったん部屋に戻って引き出しから包丁を持ってきた。…なんで引き出しに包丁が入ってんだって話だが、護身用に一本隠しておいたんだ。父は俺の机の引き出しなんか開けないし、キッチンの物も全く把握してないからな。絶対にバレることはない。
正直
忍び足でリビングに近づき、こっそりのぞいてみた。
やはり誰かいる。床に這いつくばっているようだが…?
よく見ようと思ったタイミングで、たまたま月光が窓から入ってきた。
見えたのは。
床に押し倒された桜と。
俺だって小学5年生なんだ、何が起きているかはちゃんと理解できたさ。
ああ、
そんな、
なあ、神様、俺たちが一体何をしたっていうんだよ。
そんな仕打ちは、前世が大罪人だったとしても容赦なさすぎないか。
…ああ、許すものか。
汚れた生ゴミの分際で、桜に手を出すなんて、世界の誰に咎められても俺が許すものかッ!!!!!
躊躇いなんてなかった。
無音で一気に距離をつめ…手に持った包丁を。
思いっきりクソ野郎の背中にぶっ刺した。
「ぐぁっっっ?!?!」
続いて痛みでのけぞった野郎の首を一閃。喉を潰してやる。叫び声なんて上げさせるものか。
躊躇わない。
こんな野郎は死んで当然だ。
許すものか。
怒りと恨みを込めて、そのまま背中に何度も包丁を叩き込んだ。野郎の反応が鈍くなるまで、何十回と。
「はぁ、はぁっ…はぁ、さ、桜…」
動かなくなった野郎の下敷きになっている桜に声をかける。返事が返ってこなくて、心配になって、とりあえずこの邪魔な生ゴミをどけようとした。
その手を、不意に掴まれた。
野郎の手が、俺の腕を掴んだのだ。
まだ、生きていた。
しかも、背筋が凍るほど怨念に満ちた目で俺を睨みながら。
殺してやる、と、声の出ない唇で呟きながら。
この瞬間、初めて恐怖した。殺したはずの男が、俺の腕を、掴んで、
ああ、
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!!!
殺、殺さなければっ。
殺さなければ。殺さなければ、殺さなければ、
俺は、無我夢中で包丁を振り回した。
まずは腕。俺の腕を掴む腕を切り裂き、削ぎ落とし、指の一本まで丁寧に丁寧に分解するかのように切り落とす。足も切り落として、背中も切り裂いて、背骨も分解して、内蔵も細切れにして、首も切り落として、目も抉りとって、舌も引き抜いて、頭蓋骨も切り開いて、脳さえも叩き潰して、
「はぁ、はぁ、はぁっ」
我に返った時には、もうそこに人間がいた痕跡なんてなかった。おびただしい量の赤黒い液体と、元が何かすらわからない肉片と、最小サイズに分解された骨が残っていた。
罪悪感は無い。
達成感だけあった。これで、もうこの生ゴミが動き出すことはない。ああ、二度と。
この世界から1人のゴミを消し去った。
桜が汚される心配もない…。
「はぁ、桜、さく…ら………?」
落ち着いてきたところで桜の容態を確認しようと思ったんだが、桜が見当たらない。俺がゴミを解体している間に逃げたのだろうか。
怖がらせてしまったかもしれないな。
そう思って、桜を探しに行こうと思った、その時だった。
足元に、白い玉が落ちていた。
目玉だった。
「あっ、ああっ、まっ、まさか、まさかそんな…!!!」
嫌な予感がした。
散らばった肉片を漁る。まさか、まさか俺は。
…多かった。
もう判別のつかない肉片ではわからなかったが。
「あ」
まさか、俺は。
「あああ」
俺は気づかないうちに。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」
なぁ、神様。
俺はそんなに悪い子だっただろうか。
才能の代償とでもいうのかよ。
ただ、ただ、俺は。
「さ、くら…………ああ、桜、桜………お、俺は…………俺は、そんな、そんなつもりじゃ…………………!!!」
泣いてうずくまるしかなかった。
そんなつもりじゃなかった。
桜まで殺すつもりなんてなかった。
桜を、助けたかった、だけなのに。
俺が…この手で、桜を、殺してしまった…。
こんな絶望の中にいるのに、いつのまにか上っていた朝日は、赤黒く染まったリビングを美しく照らしだしていた。
…こんな景色を美しくと思ってしまった。
もう、俺はまともな人間には戻れない気がした。
あらゆる絶望に耐えられなくて…俺は、意識を失った。
その後、俺の叫び声を聞いた近所の人が警察を呼んだらしく、俺は病院に運ばれた。
年齢とか精神状態から見て、しばらくはノータッチでいてくれた。身体に出来た傷も見つけてくれて、虐待が原因であることもおよそ察してくれた。過剰防衛であることは否定できなかったが。
だから少年院送りにもされなかったが。
退院してから、俺の居場所は無くなった。
当然だ。側から見れば、優秀な父と無邪気な妹を殺した奴なんだから。
事実が何であれ、表面上だけは無慈悲な殺人鬼だった。
当然、親類の誰も俺を引き取ろうとしなかった。そりゃ親を殺した子供なんて引き取りたくないだろう。
当然学校にも行かなくなった。当然誰も呼びに来なかった。それを知った精神科の先生が、俺みたいな境遇の人を支援してくれる東京の病院まで連れていってくれた。
それが、西木野総合病院。
齢10歳にして、東京に引っ越して一人暮らしすることになったのだ。
ここなら誰も俺を知らない。
だから、地元に残っているよりはマシに生きていけると。
…だが、俺の精神が不安定であることには変わりなかった。第一に、人体を解体したトラウマのせいで、他人と関われなくなったし、常に刃物を携帯していないと外出もままならなくなっていた。それどこらか定期的に何かを切り刻みたくなる衝動に駆られるようになっていた。西木野総合病院の院長先生がマネキンを用意してくれて、だいたいはそれを滅多斬りにして気を紛らわせていた。それか料理のついでに肉を細切れにするかのどちらかだ。
しかしそれはまだ軽いトラウマだ。いや軽くはないが。
俺にとっては、それよりも桜を殺してしまったことの方が遥かに大きかった。
あんなに明るくて、無邪気で、罪のカケラもない桜を失ったなんて、信じられなかった。
だから。
「へーっ、君がこの曲を作ったのか!先日メールさせていただいた天童一位だ、よろしく!」
「…ええ、
「…なんかテンション低いな君。どうした?もしかしてコミュ障か?」
俺のことを誰も知らないなら。
俺なんていなくていいから。
せめて名前だけは、桜がいた証拠を残すことにしたんだ。
そうして、水橋桜として生き始めて数年。
音楽の才能をフルに使って、自力で生活できるまでになったある夏の日。
いつものように頑丈なコートの内側に大量の刃物を忍ばせて秋葉を彷徨いていた時のことだ。
「…こんなところに茶屋があったのか」
作曲できそうなところを探していたら、穂むらという店を見つけた。まあ、和菓子とか嫌いじゃないし、そこら辺の喫茶店より静かかもしれない。
そう思って入ってみた。
「いらっしゃいませー!お母さーん!お客さん来たよー!」
店番をしていた女の子。
その元気な挨拶に、一瞬だけ桜の面影を見た。
桜と同じ、太陽のような笑顔だった。
「……………」
「どうかしましたか?」
「………あっ、いや…そ、そこで…ちょっと、作業させてもらっても…いいかな」
「いいですよ!何か食べますか?あっお茶持ってきますね!」
「えっあの」
すごい勢いで話してくるのも、ちょっと桜っぽかった。あとで女の子の母親がお詫びにと言ってまんじゅうを一つサービスしてくれた。
「ごめんなさいね、うちの子がうるさくて…。お客さん、中学生かしら?」
「あっ、えっと、まあ、そうです」
中学校なんて行ってなかったが、年齢的には中学3年くらいだったはずだ。
「えーっじゃあ穂乃果と同じくらいだ!」
「こら穂乃果、お客さんにご挨拶くらいしなさい」
「あっはい!高坂穂乃果です!」
「ん、ああ、どうも」
「あなたは?」
「は?」
「あなたの名前!」
「もう穂乃果!あんまり強引にするとご迷惑よ?ごめんなさいね、うるさい子で」
「うるさくないよ!」
「……水橋、桜」
「え?」
「水橋桜、です。俺の名前」
「桜さん…なんだか女の子みたい?」
「こら穂乃果!」
「いたっ!」
なんというか、賑やかな親子だった。
不思議と元気が出る光景だ。
この子が、桜に似ているからかもしれないな。
この日から、俺の行動はかなり変わった。
まずほぼ毎日穂むらに行くようになった。平日も平気で来る俺のことを、穂乃果の母親は何も詮索して来なかった。色々察してくれたのかもしれない。
あと、明るい曲も作れるようになって、また人気に拍車をかけた。1年前から本格的に一緒に活動するようになった天童さんも鬱陶しいテンションで喜んでいたな。ちなみに茜はその頃は矢澤しか見ていなかったから俺のことなんか気にしていない。
もう一つ変化があったとすれば、切り裂き癖をコントロールしようとし始めたことか。
自分の部屋で、ザグッ、ドスッ、と、布を裂く音と樹脂を貫く音が鈍く響く。足を動かすとギャリギャリと金属が擦れる音がした。
足元に散らばるのは、集めてきたハサミ、カッターナイフ、剪定鋏、サバイバルナイフ、包丁、メスなど。今までと同じように興奮して息切れしつつも、いつもとは違う動きをしようとしていた。
目の前のマネキンはズタボロになっていて、どう見ても無事ではない。
しかし、上達している。
狙ったところを切り裂けるようにはなってきている。
狙う場所は、関節、腱など。狙ってはいけない場所は、首、大動脈、臓器など。
もし発作が抑えられなくなって、誰かに切りかかることがあったとしても。
今度は誰も殺さないように、
そのために、発作が起きるたびに必死に制御し続けた。
ああ、そうだ。初めて会った時から、穂乃果は俺を救ってくれていたんだ。
穂乃果は、毎日店に来る俺にやたら懐いた。高校に入学した時には俺と一緒に写真を撮りたがった。μ'sを作った時にはすぐ俺に知らせてきた。何故か夏合宿にも連れていかれた。他にも色々連行された。
強引だったが、たしかに俺の心を救ってくれた。刃物はずっと持ち歩いていたが、切り刻みたくなる衝動も随分収まってきていた。穂乃果に振り回されることで、昔と同じくらいテンション高くいられるようになった。
このままなら、昔のように戻れるかもしれないと、少しだけ思っていたんだ。
ああ、でも。
襲われそうになっていた穂乃果を見た瞬間、あの日の桜の光景が蘇った。
その後はもう、恐怖に襲われて無意識だった。
ああ、やっぱり。
トラウマなんて克服できなかった。
こんな殺人鬼は…やっぱり、幸せにはなれそうにない。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
なんでこんな残酷な運命にしてしまったんでしょうか私。水橋君が不憫すぎます。
たくさん転がしておいた伏線もだいたい理解していただけたでしょうか。時々謎の憂いに襲われることとか、常にコートを着ている理由とか、驚いた時に咄嗟にコートの中に手を突っ込んだりハサミを取り出したりするのとか。もっと分かりにくい描写では、初対面の人に対してコミュ障だったり、穂乃果の前でだけやたらテンション高かったり。実はかなり序盤に誰かが刃物でマネキンを滅多斬りにしている描写とか、「桜は朝が苦手」って明言されているところとかあります。GWに暇を持て余すようでしたら探してみてもいいかもしれません…笑
しかしこんな状態の水橋君だってきっと穂乃果ちゃんが救ってくれます!穂乃果ちゃん以外にも仲間はたくさんいますから!!