笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
全カップル成立したので、後はちょっとやり残した話をしておきます。今のままでは幸せに一歩届かなさそうな「彼」がいるので!
タイトルでなんとなく誰の話かわかるかもしれませんけど。
というわけで、どうぞご覧ください。
桜さんの一件があった数週間後のこと。
今日は、天童さんと一緒にお出かけ。
でも、デートに行くわけじゃない。
「三重県って遠いね」
「まあ新幹線通ってないからな。東京から行こうと思ったら新幹線で名古屋まで行って近鉄かJRに乗り換えるのが一番早い…が、それでも結構な時間がかかるんだよな」
「もうそろそろ出発してから3時間経つよ?」
「まあもうすぐだから待ちなされ」
「ひーまー」
「だああっ!くっつくんじゃない!」
両親の転勤でも色んなところ行ったし、天童さんにもデートでなら色んなところに連れて行ってくれた。沖縄にも北海道にも。でも三重県に来るのは初めてなんよ。
「よし、着いた。さあ見よ、三重県の県庁所在地である津市を!!」
「わあ…なんていうか…あんまり街じゃないんやね?」
「まあ県民が認めるレベルで四日市の方が栄えてるからな」
東京駅とか新大阪駅とかみたいな感じかと思ったら、そうやないんやね。
「さて目的地はまだまだ先だぜ!レッツゴーだ!!」
「でも天童さん、なんで急に…」
「…桜の一件があってからさ。俺もいい加減逃げてばかりいられないと思ったんだよ」
「?」
珍しく深妙な顔をする天童さん。きっと色々思い悩んだ末の行動なんやね。
「何故俺は捨てられたのか、何故愛されなかったのか…そのルーツを知らなきゃいけない。そうしないと、俺もずっと過去の…見たこともない両親の幻影に取り憑かれたままなんだ」
「天童さん…」
「ちゃんと過去に向き合って、そうして初めて人を愛せると思う。だから、今まで真実を知るのが怖くて見ないようにしていたけど、改めて捨てられた理由を探しに来たんだよ」
「…つまりうちのために?」
「…………………はいそうですよッ!!今のろける空気じゃなかったのにっ!!」
深刻そうな表情の天童さんが心配だったから、ちょっとからかってみた。そしたらいつも通り変顔をしてくれて、二人で笑いあう。
…確かに、付き合ってる期間はμ'sのみんなの中でもにこっちと並んで一番長いくらいなのに、まだ腕を組むくらいまでしかしたことがない。あの海未ちゃんでさえキスしたって言ってたのに…。
でも天童さんが怖がって逃げちゃうから、いつも我慢してた。
それを天童さんが克服しようとしてるなら、うちも嬉しい。
…そ、そんなすごくキスしたいわけじゃないけど。
したいわけじゃないもん!!
「希ちゃん顔赤いけどどうしたよ」
「何でもないっ」
「えっ何で今ご機嫌損ねたの?俺なんかミスった??」
そういう些細な変化は機敏に察してくる天童さん。ちょっと悔しいから困らせちゃおう。
でも、そうやっていつもうちのことを気にかけてくれてるのは嬉しいな。
しばらく天童さんをおろおろさせながら歩いていると、天童さんが急に立ち止まった。目的地に着いたみたい。
「さ、着いたぜ」
「ここが…」
「そ。俺が育った孤児院」
着いたのは、学校みたいな施設だった。幼稚園みたいな感じかと思ったけど、想像より子供向けな感じじゃないんやね。
「もちろん孤児っつーのは幼児が多いんだが、大半の子たちが自立できるようになるまでここで過ごすのさ。全員里親が見つかるなんてことはあるわけないからな」
「そっか…」
「だから、ここには高校生とかもいる。大学生は流石に見たことなかったなー。この辺大学無いしな」
天童さんはなんの躊躇いもなく門を開けて中に入った。天童さんのことだし、話は通してあるのかな?
奥へ進むと、遠くに一人のおじさんがいるのが見えた。天童さんが手を振ってるから、知ってる人かな。
「お久しぶりっすー、古川さん!老けましたねぇ!!」
「やあ、久しぶりだね天童君。まあ、僕ももう50だからね」
「年齢もさることながら、俺が出て行ってから10年近く経ってますからね。でもお元気そうで何よりです」
「おかげさまでね。この歳でも働かせてもらってるよ」
「素晴らしいじゃないですかーこのご時世でまだまだ働けるなんて。おっといかんいかん、希ちゃん、この人は古川さん。ここにいた頃に俺の世話をしてくれてた人だ」
「どうも、古川です。天童君がお世話になっています」
「あ、ど、どうも…東條希です」
初対面だとちょっと緊張しちゃうけど、いい人そう。孤児院で働いてるんやから当たり前かもしれないけど。
「で、この前お伝えした通りなんすけど」
「ああ、君のご両親の手がかり…だよね」
「あるんですか?」
「はっはっはっ希ちゃんよ、あると信じて俺はここに来たのさ。例えば書き置きみたいなものとかな。いくら孤児院の前に捨てられたとして、ただ赤子だけぽいと放置されていればまずは警察にお届けさ。引き取ってもらえるように何かしら用意するはずだ」
なるほど…あまり馴染みがなくて想像しにくいけど、言われてみればそうかも。まずは警察に届けてご両親を探すよね。
「つーわけで、何か手紙的なものないです?」
「ふふ、手紙的なもの、か。まるで手紙のような何かがあるのを知っているみたいだな」
「ははは、そりゃもちろんあると思って来てますとも。俺を誰だと思ってんです」
「部屋の隅で他の子たちをじっと見つめていた子がこんな風になるとはねぇ…」
「わざわざ目立たないようにしてたんですぅー」
「そうかいそうかい。さて、これがお望みの手紙だ。君の両親が、君のために残した手紙だよ」
そう言って古川さんは、肩にかけたショルダーバッグから古い封筒を取り出した。封は既に開いている。
「何で開いてんです」
「僕宛ての手紙も入っていたからだよ。開けないと読めないだろう?」
「まぁ確かに?」
天童さんは封筒の表裏を見ながら不満そうな顔ををしてた。自分で最初に開けたかったんかもしれんね。
結構「特別なもの」を大事にする人やし。
封筒の中には一枚の紙が入っていた。天童さんが紙を開くと、中には文字だけ書いてあった。手書きじゃなくて、パソコンで書いて印刷したものみたい。
「手書きやないんやね…」
「痕跡を残さないためだろうな。今時筆跡さえあれば個人を特定できちまうし」
まあ、誰に捨てられたかわかっちゃったらお互い気まずいしね。
…今まさにそれを解き明かそうとしてるわけやけど。
で、肝心の手紙の内容をうちも見せてもらった。
『やあ、我が息子よ。君の父親である私だ。超スーパー世間が二度見する系二枚目たる私だ。え?見えない?やだなあ遺伝してるんだからわかるだろ?それか隠れて見えないんだよたぶん。おそらく。きっとそうだぜ☆』
…うわぁ、冒頭が既にめちゃくちゃ天童さんのお父さんって感じだ。
天童さんも頭抱えてる。
気を取り直して続き読もう。
『さて、まずは謝らなければならないな。謝って済むことではないが、産まれたばかりの君を放り出してしまってすまなかった。
父さんと母さんはちょっとまあ、色々あって、訳ありの方々に追われていてな。アッ別に悪いことしたわけじゃないぜ?!むしろ悪いヤツらの悪いところの証拠を掴んじゃったからヤバいというか。そうなのよ。そういうことなの。
だからそんな逃避行に君を連れていけなかった。危ないからな。…もちろん、君にも遺伝しているように、父さんにも高精度の先読み能力がある。だから君を絶対に安全な場所に託したというわけさ。』
「…結局何してた人だったんやろ?」
「さあな。情報量が少なくてなんとも言えないな…。あーちくしょう明連れてこればよかったぜ」
「こういう時松下さん便利やね」
「まったくだ。俺も文章から心理が読み取れるような才能欲しかったわ!」
なんだかはっきりしない文章が多いけど、とにかく「何か理由があって置いて行かざるを得なかった」って感じの内容。邪魔になったからとか、そういうネガティヴな理由で捨てていったわけじゃなさそう。
もしかしたら、天童さんもちゃんと愛されて産まれてきたのかも!
『この手紙を君が読んでいる時点で、私がまだ無事かどうかはわからない。むしろ命を落としている可能性の方が高いと思う。しかし、どちらにせよ私を探すのはやめておけ。きっと君も不幸な人生を辿ることになるはずだ。
おそらく隣にいるであろう恋人のためにも、自分の身は大切にしなさい。顔も見たことのない父親との約束だぞ!』
「なんでもお見通しみたい…」
「まじー?これ俺の上位互換だったりすんの?いや遺伝で劣化する方が自然な気もするけどよー」
天童さんのお父さんは天童さんと同じように先のことを見抜いてるみたいだった。こういう才能も遺伝するものなのかな?
続きを読もうと…思ったところで、もう続きが無いことに気がついた。あまり重要なことは書いてなかったけど…お手紙があっただけでも収穫かな?
「どうやった?」
「んー、まあ俺の親ならこんな文面になりそうだなって感じだな。想像してた通りでよかったよ」
「そっか。じゃあちょっとは前進できたね」
「そうだな。さて…」
天童さんは封筒を鞄にしまって古川さんのほうを向く。
「古川さん。
「えっ?」
「…何を言ってるんだい?」
「あなたが2枚目の手紙を隠したことはわかってます。何が書いてあるのかまでは知らないっすけど、
「いや、僕は手紙を読んでいない…」
「そんなわけないでしょうよ。封筒を開けたのは中に古川さん宛ての手紙が入っていたから?まさか。
そういえば天童さん、封筒を受け取った時に封筒の表裏を確認してた。その時に気付いてたんやね。
でも…何で2枚目の手紙だけ隠したの?
「しかし、2枚目があるなんて、しかもそれを僕が隠してるなんて何でわかるんだい?」
「手紙にそう書いてあるからですよ。わざわざ口語で自分がイケメン宣言をする時に『二枚目』なんて表現は使わないし、その後の文章に『隠れて見えない』なんて比喩にしてもおかしい。この手紙に2枚目があって、それが隠されてるってメッセージなんすよ」
「ははは、そんなデタラメで
「デタラメでないことはうろたえるあなたの態度でわかりますよ。さあ、隠した手紙を、見せてください」
古川さんが若干冷や汗をかいているのを天童さんは見逃さない。うちは話の展開についていけなくておろおろするしかない。
反論出来なくなった古川さんが、少し笑いながら観念したかのようにショルダーバッグの中に手を入れた。
「…こういう手は使いたくなかったんだけどな」
そう言って素早く取り出したのは、
拳銃…?!
「残ねn
「遅いな」
「うぐぁっ!!」
ズガッ!!と。
古川さんが拳銃を
「わかってるって言ってるだろ?あんたのそのショルダーバッグに、昔からずっと拳銃が入っていることも知ってんだよ」
「くっ…不意打ちでも発砲すらさせてくれないとはね…」
「不意打ちでも何でもないんですよ。全部わかってるんですって」
「はは…本当に、彼の言う通り、僕には逃げ場は無いんだな…」
「…さあ、2枚目はどこです」
「ふ、ふふふ。探してみるといいよ。ここの敷地内のどこかに埋めた。燃やしたりすることもできなかったからそうするしかなかったからね」
「ありがとうございます」
何がなんだかわかってないうちの前で、天童さんが古川さんに背を向ける。この結構広い孤児院のどこかに埋められたっていう2枚目の手紙を探しにいくのかな。
「…本当に探すつもりかい?この広さで。穴を掘れるところだって一つや二つじゃないんだよ?」
「何を言ってんです。埋まっているとさえわかれば、あなたが埋めそうなところを予測するだけで一発でわかります。俺相手に情報を渡しすぎですよ、古川さん」
そのまま歩き出した天童さんを追いかける。天童さんにはどこにあるかわかってるんかな。
「て、天童さん…何がなんだか…」
「…ここの孤児院な。当然公にはなってないが、暴力団組織の傘下なんだよ」
「ええっ?!」
「暴力団が慈善事業するのって結構あるものなのさ。社会から排斥されないようにな。もちろん悪いことだって沢山するんだが、こういう一面で誰かの助けになってたりするんだよ。…で、もちろん古川さんもその構成員なんだよ」
「そ、そう…なの?」
そんな、あんな優しそうな人が…でも拳銃持ってたし、嘘じゃ無さそうやね…。
「そう。俺がここにいた頃から拳銃は持っていたし、時々ヤバそうなおっさんと話してるのも見かけたしな」
「…何で拳銃持ってるの知ってたん?」
「はっはっはっ勝手に鞄漁ったからに決まってんだろ」
「すぐそういうことする!」
「なんだかんだ言ったって俺の本質は昔から変わってないってことさ!」
天童さん、必要とあらば悪いことも平気でやるもんね…付き合い始めてからは悪いことしないようにしてくれてるみたいやけど。
天童さんは奥の方に向かってどんどん歩いていって、裏庭みたいなところについたところで立ち止まった。
「孤児院の子たちって結局こどもだからさ。広場なんかでは泥団子とか作るためにすぐ掘り返される。そんなところには埋めないはずだ」
「なるほど…でも芝生があるところとかは子どもたちも掘らないんやない?」
「そこは不自然に掘ったら埋めた時点で目立つだろう?一回掘り返して、下に何か埋めて、また芝生を元のように戻すのは至難の技だ。子どもが走り回った時に剥がれることもあるだろうしな」
「そっか…じゃあ、どこに?」
天童さんは無言で近くの建物の窓…というより、その中の部屋をみた。事務所かな?
「監視できる場所にするはずだ」
「監視できる場所…?」
「事務所にいても見える場所…じゃない。
「??」
どこやろう…と思ったその時、見えた。
裏庭にある、「立ち入り禁止」の札と柵が。
そこにあるのは、
「ビオトープ…」
「子供たちが勝手に入れず、そして入る場合は自分が常に一緒にいられる場所。立ち入り禁止が故に他の職員も自然と子供たちを追い出せる場所。ここだな」
「でも結構広いよ?」
「だな。これだけ広いと埋めた本人がどこに埋めたか忘れるかもしれない。だから何かしら目印を用意しておかなきゃならない」
「目印…?小川と岩しかないよ?」
「植物もあるやろがい」
柵の内側にあるビオトープには小川のような細い水の流れと沢山の植物、あとは岩がある。何か目印になるようなものあるかな?
「目印ってのは、何かあった時でも動かないものを選ばなきゃならない。デカい木とかがない以上、選択肢は限られるな」
「岩とか?」
「そんなに大きな岩じゃないから、こどもでも数人で押せばちょっとはズレるさ。あと地震とかな」
「じゃあ、草?」
「季節で様子が変わるような目印は避けたいだろうな」
「うーん?どこやろう…」
他に目印になりそうなものあるかな?
「このビオトープは人工だ。じゃあこの小川はどこから流れてきている?」
「え、近くの川…とか?」
「農業用水さ。水道水は塩素消毒のせいで生き物が住みにくいからな。…農業用水を引っ張ってきてるってことは、その出口がある」
そう言って天童さんが向かったのは、
「水源…」
「そう。こいつは絶対に動かせない。配管の問題でな。だからこれが目印だ。この周りの左右どっちか…右側だろうな。よいしょ」
小川の上流、水が出てくるところ。そこには金網が張られていて、その奥から水が流れてきているみたいだった。確かにこれは動かせない。
天童さんは素手で地面を掘り起こす。涼しくなってきたとはいえ、まだたくさん虫さんがいた。いろんな虫さんが出てきても天童さんはまるで気にせずに掘り進めていく。
そして。
「お、あったあった。ご丁寧に缶に詰めてあるのか」
一つの平たい缶を取り出した。随分錆びてるけど、割れたりはしていないみたい。
天童さんはそれを持ってビオトープを出て、手と缶を水道水で洗ってから缶の蓋を開けた。
缶の中には、なんだか丈夫そうな紙が入っていた。
「…紙っつーか、樹脂シートみたいだなこれ。難燃性、耐水性、耐薬品性の印字可能なシートか…20年以上前によくこんなもの持ち出してこれたな」
「そんなすごい紙なん?」
「そうだぜ。まぁ、古川さんが即刻焼却処分とかしてなかったあたりこういうものが埋まってる気はしてたがな」
天童さんは手に持つ紙を広げた。またパソコンで打った文字だけど、ちゃんと文章が書いてある。
『さて、こちらは2枚目なわけだが、きっと古川君がこれを読んでいることだろう。まあ組員である以上、読まないわけにはいかないよな。しかし先に言っておこう、この封筒を開けたが故に君の逃げ場は既に無くなった。この紙には私が掴んだ組の悪事の証拠をたくさん書いてあるし、末端の君が知ってはいけないことも書いてある。この紙は特殊な紙だから焼却処分もできないし、そこらへんに捨てても分解や風化しない。情報が書いてある時点で、この手紙を読んでいるかいないかに関わらず、手紙の存在を隠さなければならなくなったわけだ。君はこの紙を私の息子に渡すまで、誰にもバレないように大切に管理するほかなくなってしまった』
その後には、暴力団が起こした事件の証拠や麻薬取引の現場写真なんかが書いてあった。確かにこんな情報は外に漏れたら大変。
「これ、うちらも知っちゃって大丈夫なんやろか」
「まあダメだろうな」
「ええっ」
「心配すんな。ここにこんな情報があったなんて誰も把握してない。俺らが口を滑らせない限りはバレやしないさ」
なんか大変なことを知っちゃったなぁ。
とりあえず続きを読もう。
『情報のばら撒きはこのあたりにしておこう。本当はもっと色々つかんでるけどな。
まずは古川君。この手紙はきっと君も読んでいるだろうから君への依頼も書いておく。まずは息子を、中学卒業までは面倒を見てやってくれ。きっと高校からは自力で生活し始めるからそれまででいい。
また、名前は私はつけないでおくから、息子本人につけさせてくれ。生まれてすぐ放り出す、親失格の両親からは名を授ける権利なんてない。彼の好きな名前をつけてあげてくれ。ただまあ、苗字はちょっと面倒だから「天から舞い降りた童」って感じで「天童」って苗字にしてあげてくれ。いいよな天童って。天才っぽい響きがする。しない?』
「て、天童さん、これ…」
「…そうか」
「天童さん…?」
「そうか、名前はくれなかったけど…苗字はくれたんだな…」
そう呟いた天童さんは、大喜びしたりはしないけど…すごく、すごく嬉しそうだった。
「ははっ。頭悪いのかよ…そんなん名付けたのと同じだろ。天から舞い降りた童、ねぇ…中二かよ」
「ふふ、そうやね。でも天童さん、嬉しそう」
「嬉しいさ。両親が俺に名前をくれていた。それだけで十分さ…何も残さずに置いていかれたと思っていたんだから」
天童さんは元々、ご両親から愛されないで生まれてきたと思ってた。
だから、何か残してくれていたっていう事実だけでもすごく嬉しいんだと思う。
よかったね、天童さん。
「…ってまだ手紙の内容全部読んでねぇのに感傷に浸ってる場合じゃねえわ」
「あっそうやったね」
そういえばまだ続きあったね。
『そして、まだ名もなき我が子。改めて、すまなかったな。生まれてすぐに、物心つく前から放り出してしまって。親と名乗る資格もないと我ながら思う。予測できていなかったわけじゃない。それでも私は妻と一緒にいたかったし、君と暮らしたかった。…どんなに足掻いても敵わなかったけどな。私の勝手が招いた結果だ、許してくれとは口が裂けても言えない。
それでも、君の幸せは願わせてくれ。せめて、私のいないどこかであっても幸せになってくれていますように、と。愛すべき我が子が、誰よりも幸福な人生を歩めますようにと。
この手紙には君の母さんの言葉はないけれど、母さんの分まで愛を込めて。君に私たちの愛情が届くよう、祈りを込めて。
生まれてきてくれて、ありがとう。』
「…ほんとに、馬鹿じゃねえの」
天童さんは、泣いていた。
私もなんだか泣けてきちゃった。天童さんはちゃんと愛されて生まれてきて、きっと今もどこか遠くで愛してくれてる。そう思ったら、天童さんが報われる気がして。
本当に、よかった。
天童さんはすぐに涙を拭いて、ついでにうちの涙もハンカチで拭って、そのあと古川さんのところに戻った。古川さんは拳銃を弄りながら孤児院にあるベンチに座っていた。…ってまだ拳銃持ってるやん。
「まったく、蹴り飛ばしたあと無用心に置いていったと思ったら丁寧に弾を詰まらせておくとはね。器用な子だ」
「多分分解しないと取れないっすよ。組の人たちに見つからないようにこっそり直すしかないでしょう」
「そうするしかないか。…その缶を持ってるってことは、本当に見つけたんだね」
「もちろんです。おかげで良い情報が得られましたよ」
「君もご両親と同じように追われるぞ?」
「そんなことはありませんよ。俺ら以外にこのことを知ってる人はいないんですから」
「僕が言うかもしれないじゃないか」
「自分の命を賭けてまで告発しますか?それはないな。あなたはここの子たちを置いて死ぬわけにはいかない。そうでしょう?暴力団の組員ではあるけど、あなたはここにいる子たちを大切にしている。子供たちに危険が及ぶようなことはできないはずだ」
「…君の言う通りだ。はあ、完敗だね」
さっき撃たれそうになったのに普通に会話してる。天童さんのメンタルすごい。
それにしても、古川さん自身は優しい人ではあったみたいやね。子供を守ろうとする、いい人や。撃たれそうにはなったけど。
「もう、帰るのかい?」
「ええ、目的は達成したので。…これは貰っておきます。もうこいつのために神経尖らせることもないでしょう」
「ああ、そうしてくれ。元々君のものだ」
天童さんは手に持ってる紙をかざしてそう言った。そして今度は錆びた缶を古川さんに差し出す。
「こいつはお返しします」
「…それはもはやゴミなんだけど?」
「はっはっはっ」
「…」
「…」
「何か言ったらどうなんだい?!」
「いやまあ返す言葉もなく」
「ないんだ?!」
「まあ冗談はおいといて。…思い出か何かと思って取っといてください。また遊びに来ますから」
「…でもゴミだよ?」
「はっはっはっ」
「…」
「…」
…これはただゴミを持って帰りたくないだけやね。
「…まあいいか、それ持って東京まで帰れっていうのも申し訳ないし。わかった、預かっておくよ」
結局古川さんが折れてくれた。ありがとうございます。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「ういっす。…古川さん」
「なんだい?」
「…また、今度は遊びにきます」
「わかった、待ってるよ」
「はい。ありがとうございました」
それだけ言って、背を向ける天童さん。短いやりとりだったけど、天童さんも古川さんもなんだか晴れやかな表情をしていた。
帰り道、気になったことがあったから天童さんに聞いてみた。
「ねぇ、天童さん」
「ん?」
「手紙、ご両親の名前書いてなかったけど…古川さんに聞かなくてよかったの?」
「ああ、多分古川さんも知らないよ。俺と同じような才能持ってる親が足取りを追えるような痕跡を残すはずないからな」
「そっか…残念やね」
そう、名前。本当はどんな苗字になるはずだったのか、天童さんも気になってるかと思ってた。わからないものは仕方ない。
「生きてるかどうかもわかんないもんね…」
「いや、多分生きてるさ」
「え?でも手紙には…」
「まあ生きてる保証はないって書いてあったけど、生きてるだろ。だいたいどこに隠れてるかも検討がつくし」
「検討ついてるん?」
「もちろんだ。同じ才能を持ってるなら想像しやすいんだよ」
ドヤ顔で語る天童さんの目は探しに行く気満々やった。天童さんだもんね、そうなるよね。
「…よかったね」
「ああ」
「ちゃんと愛してるって書いてあったね」
「ああ。知らなかったけど、ちゃんと愛されていたんだな」
「ふふっ、今までも彼女に愛されてきたやん?」
「あー…まあ、確かに?」
「怖がって受け取ってくれなかったけど」
「悪かったな!」
「これからはちゃんと受け取ってくれる?」
「…そうだな。これからは、逃げないで受け取ろう」
そう言って、天童さんは一瞬難しい顔をした後、不意に顔を近づけて…キスしてくれた。
びっくりして一瞬強張っちゃったけど、天童さんの手も少し震えていて、頑張って勇気だしてくれたんだなって思った。愛され、愛し返すことへの恐怖は残ってるみたいだけど、それを乗り越えて一歩進んでくれた。
「…とりあえず今までのお返しな」
「むー、今までのお返しはキス一回だけなん?」
「アッご不満でございますかすみません生きててすみません」
3年分をキス一回で生産できると思ったら大間違いよ。
「ふふっ、じゃあこれからたくさんお返ししてね!いっちゃん!!」
「まーたその呼び方…あれ、あんまり怖くないな」
「ええやん?そのうち天童さんって呼べなくなっちゃうんやし」
「え?何でだ?」
「え?苗字変わったら天童さんが天童さんじゃなくなるか、うちも天童になるかどっちかやん?」
「…………………ああそういう!!」
「…もう!恥ずかしいから気づいてよ!!」
なんか流れで結婚前提みたいな言い方しちゃった。も、もちろん結婚できたらいいなぁとは思うけど!
「それは君が大学卒業したらな」
「えっじゃあ大学卒業したら結婚してくれるん?」
「おおう、そんな嬉しそうに言われると恥ずかしくなるな」
「ねえそうなの?いっちゃんも結婚するつもりでいてくれてるの?」
「おーい関西弁がどっか行ったぞー」
そんな会話をしながら、自然と手を繋いで駅まで歩いた。
私、ちゃんと待ってるからね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
天童さんの苗字の由来があやふやなままだったこと、あと愛され恐怖症を治さないと結婚できないのでは?と思ったこと。以上2点の理由から補足的な意味を込めてこんなお話を書かせていただきました。真面目に推理する天童さんが珍しくイケメン。
そんなわけで、次回は一旦エピローグを書かせていただきます。まだおまけのお話も用意してあるので終わりはしませんが、お話全体にいい加減フィナーレを用意させていただきます。一旦ケリをつけたい理由があるのです!
どうぞ、最後までお付き合いください。
何か書いて欲しいエピソードがあれば、言ってくだされば頑張って書きますよ!!たぶん!!