笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

お ま た せ

皆様お久しぶりです。お久しぶりにも関わらずお気に入り登録してくださっていた方が2名も!ありがとうございます!!

色々やってたらおまけの投稿が遅くなってしまいました。Aqours編書いたり。ゲームしたり。ふと思いついた作品を勢いで書き始めたり。そんなことしてる場合かァーー!!!!

今回は前回同様、ジョリポンさんに「文菜ちゃんのお話が見てみたい」とおっしゃっていたので文菜ちゃんに頑張っていただきました。

新世代の子たちを覚えてない方はエピローグをチェックだ!!(長いけど)


というわけで、どうぞご覧ください。




(新世代)文菜の憂鬱な日々

 

 

 

 

 

「はうぅぅぅぅ…」

「今日はいつにも増して死にそうな顔をしてるね」

「やだぁ!そんなこと言わないでっ!ほんとに死にたくなっちゃうわ!!」

「どんだけよ」

 

 

ある日の練習前、絢瀬文菜ちゃんが死んだ魚みたいな目で部室に引きこもっていた。

 

 

だいたい理由は想像できる。次のドラマの収録が嫌すぎるんだろう。嫌とは言いつつちゃんと行くのが文菜ちゃん。

 

 

だけど憂鬱なのは変わりないようで、よくこうしてダウナーモードになってる。今はそれを僕と姉ちゃんが眺めてる状況だ。

 

 

「は、春陽さんが足りないわ…春陽さんはどこ…」

「重度の依存症じゃないのこれ」

「今更じゃない」

 

 

今更だね。

 

 

当の春陽さんは日直か何かでまだ来てないよ。仕方ないね。

 

 

そんな瀕死の文菜ちゃんをどうしようか考えてると、速攻で練習着に着替えた叶ちゃんがズバァン!と扉を開けて飛び込んできた。扉壊れるよ。

 

 

「ったくもー!そんなうだうだしてないで練習するわよ練習!ほら立つ!!」

「いやああん、もう少しだけ憂鬱に浸らせてぇ」

「憂鬱に浸りたいとかドMなのあんたは!」

「い゛い゛い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「なんて声出してんのよっ!」

「女優が出していい声ではないね」

 

 

ぐいぐい引っ張って立たせようとする叶ちゃんと意地でも机にへばりつく文菜ちゃん。なんて不毛な争いだ。ちなみにこの2人、母親同士が仲良いので2人も仲良しだ。というか文菜ちゃんは叶ちゃん以外に抵抗しない。逆に仲良しな証拠だ。僕?まあ僕男だし。男だよ?

 

 

不毛なやりとりを僕ら姉弟がスルーしていると、今度は光さんとひばりさんが入ってきた。

 

 

「おっはー…って何してるん?」

「もう放課後なんですけど」

「おお、いいところにツッコんでくれたね紫苑君。で、それは何やってるんだ?」

「わかってるんでしょ?」

「わかってるぞ?」

「へぇ…光あんた、私には先に行けと言っておきながらひばりと一緒に来るわけね…!」

「うーん、こうなることも予想できていたわけだけど、ひばりちゃんはひばりちゃんで今日放っておいたら教室に乱入してきた蜂に怯えて練習に来れなかったわけだし、なんというか俺の優しさに免じて許してほしいところだ」

「黙れ女たらし!!」

「語弊と誤解が凄まじいぞえみちゃん。そして許せ」

 

 

光さんは相変わらず全部先読みして全部楽しんでる。姉ちゃんの蹴りを避けるのも手慣れてる。

 

 

「あ、ん、た、はっ!いつまで机にへばりついてんのよー!!」

「みんなそろうまで…もしくは春陽さんが来るまで…」

「練習の準備手伝ってよ?!」

「わぁ〜わたしもまぜてくださ〜い」

「げぇっひばりさん?!」

「げぇって酷いな叶」

「ダメよっ、ひばりさんが関わるとメルヘンワールドになっちゃう…!」

「わたしもお昼寝するです〜。ふあ〜」

「あーもーほら私もなんだか眠く…」

「催眠術かな」

「似たようなものかもなぁ」

 

 

そしてひばりさんは相変わらず無敵。マイペースを極めるとああなる。メルヘンワールド展開。これが現代版固有結界。違う?

 

 

でもみんな寝ちゃったら困るから起きてね。

 

 

「どーん!!」

「ぐへぁ」

「紫苑、毎回扉の前に陣取るのやめときなさい。玲に殺されるわよ」

「あれ?みんなお昼寝してるの?」

「まったくもう、練習始めますよ?光さんがいながらどうしてこんなことになっているのですか」

「いやー面目ない」

「ふふふ、いいじゃない。天才には多少のハンデがつきものよ」

「天才は姫華ちゃんだけだからな?」

「ところで紫苑はどこ?」

「さっきあんたが轢いたわよ」

「えー!!」

 

 

起こそうかなって思ってたら勢いよく玲ちゃんが参上した。玲ちゃんというか2年生組。春陽さんだけいないけど。そして僕は轢かれた。人間に轢かれるなんて貴重な体験した。そんなに貴重でもなかったわ。

 

 

「ほらほら、寝たふりしてると美空ちゃんが怒るぞ」

「むぅ。何故寝たふりだとわかったお兄ちゃん」

「妹のことならわからないことなんてないぞ」

「ほら、文菜もひばりも起きなさい」

「うえええん」

「ぐぅ」

「…ひばりは…ガチ寝してる…?!」

「…まあひばりちゃんだからな」

「誰か僕の心配して?」

「紫苑がぺしゃんこにー!!」

「さすがにぺしゃんこにはなってないよ」

 

 

今日もみんな平常運転だ。玲ちゃんが心配して僕をゆさぶってるけど逆効果だからねそれ。死ぬって。首もげるって。

 

 

そんなことしてたら春陽さんが詩穂ちゃんとすずめちゃんを連れて部室に入ってきた。

 

 

「お、遅れてごめん!」

「あああああん春陽さあああああ

「ブロック!」

「…ブロック」

「なんで邪魔するのよぉ!!」

「そんな勢いで飛び込んだら春陽さん怪我しちゃうよ!」

「…あぶない」

「うっ…そ、それは…そう、かも」

「あっ、えーっと、まあ僕も慣れてるから…」

「ほんと?!?!」

「うわぁっ?!」

「春陽、そうやって甘やかすからそうなるんだぞ」

「ぼ、僕のせいなの…?」

「半々じゃないですかね」

「半々ね」

 

 

うーん、文菜ちゃんの春陽さん大好き病もなかなか末期だ。なんとかした方がいいのかもしれない。

 

 

あと玲ちゃん、また胸が僕の頭に乗ってるからどいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もお疲れ様でした!」

「はい、お疲れ様でした」

 

 

今日はドラマの収録に来ています。

 

 

お母様やお父様も一緒です。家族みんなで出演することも多いので、それほど珍しいことじゃないわ。

 

 

でも今は、両親は他の出演者の方々と話していてここにいません。

 

 

なので、

 

 

(ふ、ふええええん。お母様かお父様か、どちらでもいいから早く帰ってきてぇええ!)

 

 

私の心の中はこんな感じ。だって私は胸を張っていいくらいの人見知り(と光さんにいわれました)。何度かあったことのある監督さんとも出来れば話したくないの。嫌よ怖いじゃない!

 

 

「いやぁやはり絢瀬家のみなさんは素晴らしい!全員リテイク無しだなんて普通じゃ考えられないですよ」

「いえ、皆様の指導がよかったんですよ。皆様のおかげです」

「うーんなんて謙虚なんだ!ご両親も誇らしいだろうなぁ」

 

 

だって謙虚にしてないと優しくしてくれないじゃない!

 

 

お父様と一緒にお仕事していたら嫌でも世渡り上手にはなっちゃうわ。

 

 

まあ…こんなに完璧に猫を被れるとは私も思ってなかったけれど…。誰も私が演技で謙虚にしてるなんて思ってないもの。

 

 

「文菜、そろそろ帰るわよ」

「はい、わかりました。すみません、お先に失礼いたします」

「お疲れ様!次も期待してるよ」

 

 

思ったより早くお母様が呼びにきてくれた。もう心の中では喜びで泣きそうになってるけど、もちろん表では礼儀正しく。

 

 

お母様と一緒にスタジオを出ると、お父様が既に車を駐車場から持ってきてくれていた。すぐに後部座席に乗り込んで、

 

 

「うぁあああ、疲れた…」

「お疲れ様。今日も大活躍だったみたいだね?」

「ええ。横から見てたけど、大地さんに負けないくらいの演技だったわ」

「嫌ぁ、そんなに期待しないで…!」

「相変わらずだなぁ」

 

 

ああもう、お父様もお母様も期待してる…。そんなに私にプレッシャーかけないでぇ!

 

 

私は叶じゃないんだから、他人と仲良くするのは苦手なのよ…。叶は自信家でお調子者だけれど、ちゃんと努力して成績を残した上での自信だし、ああ見えて周りをよく見てるすごい子なの。それに引きかえ、私はコミュ障だし猫被り…はぁ。

 

 

今日も明日も憂鬱だわ。

 

 

「そういえば、監督さんから差し入れにってチョコレート貰っ

「「チョコレート?!」」

「チョコに関しては食いつきがすごいね君達?!」

 

 

訂正します。今日はちょっといい日だわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?良い子にしてたら主演の枠を貰っちゃったわけだ」

「そうなのよ!」

「僕に言われてもね」

「そんなことより早く練習行こうよ!」

「そうよ。そんなことより練習したいわ」

「そんなことってなによ!私困ってるのに!!」

「………」

「早く練習行きたいなら宿題教えて」

 

 

今日は土曜日。練習行く前に宿題を終わらせるべく、一年生みんなで叶ちゃんの家に集まった。そしたら文菜ちゃんの愚痴が始まった。まぁいつものことだし、文菜ちゃんは既に宿題は終わらせてるからいいんだけどね。詩穂ちゃん案外頭いいしね。

 

 

じゃあ何で集まってるのかって?僕がわかんないからだよ。頭の良さは姉ちゃんに持ってかれた。ぴえん。

 

 

僕には漫画描く才能しかありません。はい。

 

 

「しゅ、主演なんて…胃が痛いわ…」

「でも引き受けちゃったんでしょ?」

「だって断れないじゃない!」

「まあね、そりゃ僕だってジャンプに載せるよって言われたら断れないね。それより宿題教えて」

「………」

「引き受けちゃったならやるしかないじゃない。頑張りなさい」

「そうそう!ファイトだよ!」

「うううっ私目立ちたくないのに!」

「宿題教えて」

「………」

「そもそも宿題やってるのすずめちゃんだけなんだよ」

「紫苑もやんなさいよ」

「ファイトだよ」

「わかんないんだってば」

 

 

どの話題も解決に向かわない不毛さよ。すずめちゃんだけ極めてマイペースで羨ましい。南家の方々はみんなマイペースだね。うちも大概か。

 

 

わちゃわちゃしていると部屋の扉が急に開いた。扉の向こうには光さん…と、何故か姉ちゃんがいる。

 

 

「おーい、そろそろお昼だけど、みんなお昼ご飯食べていくかい?まあ答えはわかってるから全員分用意されてるんだけど」

「ちょっとバカ兄貴、ノックしなさいよ」

「俺が入室タイミングを間違えるわけないからいいだろ。今ここで5Pが繰り広げられていたなら入っちゃうかもしれないが」

「有り得ないわよ5Pとか。紫苑が過労死するわ。てか妹の5Pに混ざる気なの兄貴は」

「まさか。君らをオカズにえみちゃんとロデオするんだよ」

「死ね光」

「当たらんよ」

 

 

どうやら僕らの分もご飯を作って下さったらしい。東條家のご両親は来客大歓迎で、お邪魔すると大体ご飯出してくれる。

 

 

全然関係ないけど東條兄妹は下ネタ耐性が高いよ。二人のお父さんのせいだと思う。

 

 

「で、姉ちゃんは何でいるの」

「受験勉強しに来たに決まってるでしょ」

「二人とも頭いいんだから余裕だろうに」

「備あれば憂いなし。逆に慢心して落ちるようなことがあったらたまったもんじゃないからな、ちゃんと勉強しておくのが最善策さ」

「本音は?」

「えみちゃんとイチャイチャさせていただいております」

「捏造すんな!!」

「はっはっはっ情熱的だな」

 

 

姉ちゃんはよく光さんと勉強してる。なんの勉強してるかは知らないけど。そりゃ男女二人で同じ部屋にいたら何も起きないはずがなく。いやこの二人揃ってヘタレだから何も起きなさそう。

 

 

すずめさん?すずめさんは色々諦めてるから一緒に勉強はしないみたいだよ。ご両親と一緒に仕事したらいいんじゃないかって光さんが言ってた。大丈夫かな。

 

 

「で、文菜ちゃんはほっといていいのか?」

「いいんじゃないですかね。もしくは春陽さん呼ぶか」

「春陽さん?!?!」

「反応がすごい」

「春陽を呼ぶと春陽の胃がメルトダウンしてしまうからやめておこうか」

「そ、そんなぁ」

「どうせ後で練習で会えるよ」

 

 

文菜ちゃんは春陽さん好きすぎてヤバいね。どうヤバいかって言われると困るけどヤバいよ。

 

 

「さ、飯食って練習行く…前に」

「?」

 

 

パンっと手を叩いて光さんがみんなを誘導するかと思ったら、光さんはおもむろに文菜ちゃんに近づいた。

 

 

「ど、どうしました…?こんな情けない私にお説教とかそういう

「隙ありー!!!」

「隙無し」

「ぐえっ!」

 

 

文菜ちゃんが怯えてぷるぷるしているところに背後から何かが襲いかかり、それを光さんが見事にキャッチ&トラップ。

 

 

光さんに捕らえられたのは、東條家の末妹である満ちゃんだった。いつのまにいたのだろう。

 

 

「何するのバカ兄貴!!」

「毎度毎度懲りないなお前は。後ろから文菜ちゃんに襲いかかるんじゃない」

「だって安心してわしわしできる人文菜さんしかいないもん」

「叶で我慢しな」

「姉貴は反撃されるし」

「さりげなく私を売るなバカ兄貴」

「1番賢いはずなのに何故こうもバカバカ言われるんだろうな…」

 

 

東條家の誇るいたずらっ子も光さんの前では無力。お兄ちゃんは強し。

 

 

「も、もう!やめなさい満!あなたのせいで下着のサイズが合わなくなるのよ!!」

「それ迷信って聞いたけどー」

「どうかな。現に文菜ちゃんはバカにできないプロポーションだし、叶もこんなんだ」

「こんなんって何よ」

「それに、わしわしされても無抵抗なひばりちゃんやむしろ楽しそうな玲ちゃんも見ての通り。文菜ちゃん同様いいリアクションをする詩穂ちゃんもなかなかのものだ。そして満が怖がってわしわししない美空ちゃんやえみちゃんは…えーっと、綺麗な流線形だ」

「あんたそれフォローになると思ってんの?」

「大丈夫だえみちゃん、俺は流線形の方が好きだ」

「あんた本当にそれフォローになると思ってんの?」

「ならないのか?」

「聞くな!!」

「満ガード」

「ぎゃあああ妹を盾にするド鬼畜兄貴いい!!!」

 

 

楽しそうで何より。姉ちゃんはちゃんと満ちゃんに当たる前に拳を止めた。すごい。

 

 

「おうこら子供達よ、早く来ないと天童さん謹製超ベリーデリシャスオムライスが冷めてしまうぞ?」

「ごめん、満がいたずらするもんだから」

「未遂だもーん」

「そうかそうか。さあ満、お母さんのところへ行こうか。きっと満の胸も立派に育つことだろう…」

「やーだー!!バカ!変態!!スケベ親父!!」

「はっはっはっお父さんのことをちゃんと理解してくれていて嬉しいぞ」

「すごい、罵倒が全く効いてない」

「うちの家族はメンタルが丈夫だからな」

「文菜ちゃん、しばらく東條家に泊めてもらったら?」

「心労で死んじゃうわ…」

「そこまではいかないんじゃない」

 

 

天童さん…叶ちゃん達のおとうさんは、割と忙しい人だからあまり会わないけど、大体いつも無敵でびっくりする。

 

 

台所の方から希さんも出てきた。

 

 

「みんなー、早くご飯食べんと練習遅れるよー」

「はーい。さぁ、いい加減ご飯食べようか」

「ご馳走になります」

「いっぱい食べてねー」

 

 

希さんは天童さんとは別の方向性で強い人だ。いつも落ち着いている。

 

 

「希さんに聞くのもなんですけど、文菜ちゃん大丈夫だと思います?」

 

 

希さんとうちの母さんと文菜ちゃんのお母さんは仲良しで、週一くらいで3人で会っている。たまに父親たちも混じる。

 

 

だから文菜ちゃんがマジで精神面がヤバいようなら察してくれてると思うんだ。

 

 

実際僕は結構心配なんだ。授業中や教室にいる時はともかく、僕ら幼馴染たちしかいない時はだいたい胃が痛そうな顔をしているから。

 

 

だけど、希さんは、

 

 

「大丈夫や」

 

 

全然気にしてなさそうにそう言った。

 

 

「根拠は?」

「文菜ちゃんはえりちより大地さんに似てるから」

「…そうですか?」

「うん。金髪だし、見た目はえりちに似てるけど、中身は大地さんによく似てる。…えりちと大地さんって真逆なんよ。えりちは普段は冷静で頭も回るけど、焦った時とか追い詰められた時とか、余裕が無い時に弱いの。でも大地さんは、普段はおろおろしてるけど、余裕が無い時ほどすごい力が出せるタイプ。文菜ちゃんは、ドラマや舞台の本番では絶対に失敗しない子だってえりちが言ってたから、きっと大地さんに似てるんよ」

「はぁ」

 

 

それはそれで大丈夫なのかな。文菜ちゃんのお父さん、人気俳優だからあまり会ったことないけど、テレビで見るよりはるかに頼りない感じだったけど。

 

 

「絶対失敗しない、いつも通りにやれば必ずうまくいく。だから文菜ちゃんは頼まれたお仕事を絶対に断らない。経験上うまくいくって知ってるから」

「なんか危なっかしいですけど」

「大丈夫。うちの光と同じように、親の才能をまるっきり引き継いで生まれた子だから」

 

 

才能を引き継いだ子。

 

 

僕のようにダウンサイジングされて受け継いだわけでも、玲ちゃんのように一部だけ受け継いだわけでも、美空さんのように一片も受け継がなかったわけでもない。光さん、ひばりさん、姫華さん、文菜ちゃんの4人だけは、親が持っていた才能を完全に、もしくはより強く引き継いだ。

 

 

そんな文菜ちゃんを見る希さんは、友人の娘というよりは昔の姿の友人を見ているかのように見えた。

 

 

「だから、大丈夫。やるしかないって思ったら失敗しないって本人もわかってるから、文菜ちゃんは潰れんよ」

 

 

親の昔の話なんて知らないけど。

 

 

一度も失敗することがなかったIFの世界の友人を見ているような眼差しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛…………ついに収録の日が来ちゃったわ…」

 

 

我ながらすごい声が出たわ。

 

 

しかもこのドラマ、いつもと違ってお母様もお父様もいらっしゃらない。当然春陽さんもいない。完全に私一人だけ。

 

 

いえ、もちろん他の演者の方々もいらっしゃるけど、知人がいないってこと。

 

 

さすがにこれは初めてだわ。

 

 

そろそろ緊張で死んじゃうんじゃないかしら。

 

 

「文菜さん、そろそろ時間ですよ」

「はい。準備はできています」

 

 

心の準備はできてないけど!!

 

 

でも時間が来たなら行くしかないのよ…。逃げたところでどうにもならないし。他の方々にご迷惑がかかるし。

 

 

あーでも出る前に春陽さんに電話くらいしたかったわ…。

 

 

…。

 

 

春陽さんは今日はいない。お母様もお父様もいない。誰かがいることを心の糧にはできない。

 

 

私一人で頑張らなきゃいけない。

 

 

…そもそも何で、私はこんなに弱虫になってしまったのだろう。叶のように活発ではなかったけれど、それほど人見知りではなかったと思う。

 

 

いや、小学校に入るまでほとんど幼馴染以外の人と合わなかったからわからないわね。元々人見知りではあったのかも。

 

 

小学校に入った時も、子役として初めて出演した時も、怖がってると思われないように演技してた気がするし。

 

 

じゃあ、なんでそれでも女優業なんてしているのだろう。

 

 

それは簡単なことよ。

 

 

『文菜ちゃんやっぱり演技上手だね。この前のドラマ見て姉ちゃん泣いてたよ』

『泣いてないわよ!!』

『ぶげっ』

『ま、まあ感動したのは本当だけど!』

『僕も感動したよ』

『あんたこそ泣いてたでしょ』

『泣いてないよ』

 

 

えみさんと紫苑が感動したって言ってくれたから。

 

 

『はーっ、あんた本当にすごいわね。あんな舞台初めて見たわよ』

『うんうん、才能の塊って感じだ。いや、努力の賜物って言った方がいいのかな?」

『ふーんだ。私は別に…

『満なんて最後立ち上がって拍手してたじゃない』

『しーてーなーいー!!』

 

 

光さんと叶と満がすごいって言ってくれたから。

 

 

『玲は文菜ちゃんの演技好きだよ!いつもドラマ見てる!』

『うん、澪も好き。家族みんなで見てるよ』

『見て見て、これ文菜ちゃんが写ってるポスター!』

『それ本人に見せちゃうの…?』

 

 

玲さんと澪が好きだって言ってくれたから。

 

 

『文菜ちゃんが頑張ってるのを見てるとねぇ〜、私も頑張ろ〜って思うの〜』

『…元気もらえる。文菜が頑張ってるんだから、私も頑張ろうって思える』

『一緒に頑張ろうねぇ』

『…うん』

 

 

すずめさんとひばりが元気をもらえるって言ってくれたから。

 

 

『もちろん、私も文菜が出演しているドラマを見ていますよ。日本舞踊を学ぶ者としても、スクールアイドルとしても学ぶべき点が多いですから。私、こう見えてあなたを尊敬しているのですよ?劇中であればほとんどなんでもできるのですから。まあ普段はアレですが』

 

 

美空さんが尊敬してるって言ってくれたから。

 

 

『私がドラマを見てるのが意外?私はいつでも座学ばかりしているわけじゃないのよ。そもそも天才なんだからそんなに必死にお勉強する必要もないし。むしろ、それよりも同じ天才の所業を観察していた方が遥かに有意義だわ』

 

 

姫華さんが私を天才だって言ってくれたから。

 

 

『文菜ちゃんのドラマとか舞台とか見てるとね、なんだか胸の奥がぎゅんぎゅんして、頭がくらくらして、なんだか別の世界にいるみたいになるんだ!』

『字面だけ見るとドラッグキメてそうな言い方だな…。でも言いたいことはわからなくもない。本当に別の存在がそこにいると錯覚しそうな、そんな演技だと思う。ただうまいだけじゃなくて、人を惹きつける魅力がある』

『もう、文菜ちゃんは年上なんだから敬語使わなきゃだめだよ椿!』

『今更そんなことを言うような間柄じゃないだろ?!』

 

 

詩穂と椿が惹きつける魅力があるって言ってくれた。

 

 

そして。

 

 

『…僕はね、前はもっと人見知りが酷かったんだよ。でも、同じ人見知りの文菜ちゃんが沢山の人と一緒にお仕事してるのを見てると、僕も人見知りだからって情けないところ見せられないなって思えるんだ。それに、文菜ちゃんが頑張った後に僕に色々話してくれる時の文菜ちゃんはとっても目をキラキラさせてるから、ああ、文菜ちゃんはこのお仕事が本当に好きなんだなってわかるんだ』

 

 

春陽さんが褒めてくれたから。

 

 

『きっと辛いこともたくさんあると思うけど、一緒に頑張ろう?僕は絶対、文菜ちゃんの頑張りを見届ける。側にいられない時も、心は一緒にいるよ。たとえ周りに知ってる人がいなくても、心の奥で僕が一緒にいてあげる。だから君は一人じゃないよ』

 

 

携帯を胸の前で握りしめる。携帯に付けてある、春陽さんからもらった歯車のストラップが揺れる。

 

 

そう、私が女優を続けるのは、この仕事が好きだし、何よりみんなが私を見てくれるから。この一点だけは誰にも負けないってみんなが信じてくれているから。

 

 

紫苑も「ネームが思いつかない…」ってへこんでることがある。叶もお兄さんに追いつけないことに悩んでいる時がある。ひばりも指に針を刺してしまって、生地を汚してしゅんとしていることがある。詩穂も彼女のお父さんのボイストレーニングが大変で疲れ果てている時がある。

 

 

私一人だけ、逃げているわけにはいかないの。

 

 

「台本は…」

「大丈夫、全部覚えてきました」

 

 

さっきメールを確認したら、春陽さんから「頑張ってね」ってメールが来ていた。

 

 

そう、私は一人じゃないわ。沢山の幼馴染が応援してくれている。

 

 

ええ、そうよ。天才女優なんだもの。自分自身すらも騙し通しましょう。

 

 

顔を上げる。しっかり前を向く。携帯をマネージャーに預けて、私は歩を進める。

 

 

「皆様、おはようございます。今日も一日よろしくお願いします」

 

 

今日の私は、私の役は「高級旅館の女将の娘で殺人犯」よ。

 

 

役らしく、後ろ暗い気持ちは怨念に変えて、執念深く演じきりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはドラマの放映が終わった後、つまり結構先の未来の会話。

 

 

「いやあ、まさか主演で真犯人とは思わなかった」

「ほんとよ。しかも最後のシーンめちゃくちゃ怖かったじゃない」

「やめてぇ…私の目の前で評価しないで…」

「ものすごい気迫だったなぁ。鳥肌立ったよ」

「アレはたしかに怖いもの苦手な絵里さんとか大地さんには任せられないかもしれないわね。姫華さん、セリフ覚えてる?」

「もちろんよ。『うふ、うふふふふ。アハハハハハハ!!これでみんなずっと一緒なの…ずっとずっと永遠に、未来永劫一緒にいられるのよ!!さあ、さあ、刑事さん、私気に入ったわ、あなたもぜひ、一緒に、私たちと一緒に暮らしましょう、永遠に!!』だったわ」

「やーめーてー!!恥ずかしくて死んじゃうわ!!」

「文菜ちゃん軽々しく死にすぎじゃない?」

「その後、最初の被害者のはずの恋人に射殺されたところも凄かったです…思わず悲鳴を上げてしまいました」

「…文菜、あの時顔から倒れてたように見えたけど。大丈夫だった?」

「大丈夫じゃなかったわよ…鼻血出たわ…」

「クッションとかあったわけじゃないんだね」

 

 

ドラマが放映されるたびに毎週部室でドラマの評論会が行われてた。その度に文菜ちゃんの精神が削れる。

 

 

「で、でも、やっぱり文菜ちゃんはすごいね。一人でもあれだけの演技ができるなんて…」

「春陽が応援に行ってたらもっと本気出してたかもな?」

「流石に行けないよ…部外者だし…」

 

 

まあ春陽さんがいるだけで文菜ちゃんはちょっと元気になるんだけどね。

 

 

「…みんなのおかげよ」

「ん?」

「みんなが、私を褒めてくれるから。みんなの期待に応えなきゃって思えたから頑張れたの」

「文菜ちゃん…」

「だから…みんな、ありがとう」

 

 

机に突っ伏しながらも、少し照れてそんなことを言う文菜ちゃんはもう紛れもなく物語のヒロインだった。

 

 

素でもこれってずるいね。

 

 

「……………よっしゃ練習するかー!!」

「えぇっ?!そこは何か、どういたしましてとかそういう返事が来るところじゃあ…?!」

「さー行くわよー!ドリンクお願いね兄貴!」

「お、遅れるんじゃないわよー!」

「い…行っくにゃー!!」

「ちょっと?!みんなどうしたのよ!」

「ふふふ…みんなちょっと照れちゃったみたいよ?私も不覚にもときめいちゃったから、先行くわね」

「ええ?!」

「もう姫華!明言すると余計恥ずかしいじゃないですか!!」

「…………行くよお姉ちゃん」

「はぁ〜い」

「僕も行こ」

 

 

みんなそろってキュンとしてしまったからみんなで逃げた。流石は女優、男女問わず全員を一瞬で落としてしまった。恐ろしいわぁ。

 

 

 

 

 

 

「文菜ちゃん」

「何かしら、春陽さん?」

「…頑張ったね」

「…うん!!」

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

文菜ちゃん回なのに文菜ちゃん視点が少ない件。仕方ないですよ!!新世代はそんなに深掘りしてないですもん!!!
でも新世代の子たちの雰囲気もだいたい伝わったらいいなと思います。みんな両親に似ているところを持ってるので、そこらへんで誰の子供かってわかりやすく…なってるといいなぁ。
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