笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
実は5月には誕生日の子がいないんですよね。なので真姫ちゃん生誕祭を終えるとのん誕祭まではちょっとテンションが上がりませんね。早く6月来ないかなあ。
というわけで、どうぞご覧ください。
ここ最近、勉強会はしていない。
その理由は他でもない…絢瀬さん。μ'sの活動が結構表立ってきて、ランキングも上位に入り、人気急上昇中のピックアップアイドルとしても選ばれていた。何でか知らないけどμ'sを敵視してる絢瀬さんからしたら、μ's構成員である僕アンドにこちゃんと仲良く勉強会…というのはちょっと無理があるだろう。仕方ない。
で。
「もうすぐ期末試験だけどにこちゃん大丈夫かい」
「あっ当たり前よ!」
「はいダウト」
「ちょっと!少しくらい信用しなさいよ!」
「じゃあ三角関数もバッチリだね」
「えっ」
「微分積分も問題ないね」
「ちょっ」
「ベクトルもやったっけ」
「わああああ!!私が悪かったわよおおおおお!!」
メンバーが増えても依然二人きりの部室でにこちゃんいじり。嘘は良くない。勉強会してる感じでも、にこちゃんがダメダメなのはバレバレだ。そもそもにこちゃんが試験で大丈夫だった試しがない。
「赤点とってライブ出れません、とかなったら笑えないからね」
「な…無いわよそんなこと。…………多分」
「そもそも赤点取らなければいいんだけどね」
にこちゃんは一年生の時に一度だけ赤点を取っており、それで割と懲りたため試験前は毎回泣きついてくる。泣きついてくること自体はいいんだけど、勉強はちゃんとしようね。
「僕がいなかったらにこちゃん赤点の嵐なんだからね」
「ぐぬぬ…反論できない…」
「願わくば反論して欲しかった」
もう一度言うけど、勉強はちゃんとしようね。
弁当をさっさと食べてしまったにこちゃんは、弁当を片付けてだらーっと机に伏す。今考えると、南さんとか高坂さんだと苦しそうな体勢だ。主に胸が。
「…どこ見てんのよ」
「にこちゃん」
「私のどこ見てんのかを聞いてんのよ!」
「気にしないで、大きさが全てじゃない」
「滅びろ」
「ぶべっ」
直接言わなかったのに弁当箱が飛んできた。痛い。
「別にどことは言ってないのに」
「じゃあどこなのよ」
「胸」
「ふんっ」
「ぐぇ」
今度は高坂さんが置いていったお菓子の空箱が飛んできた。さっきほど痛く無い。でもちゃんとゴミは捨ててね高坂さん、にこちゃんの武器が増える。
「他のメンバーに言ったらセクハラで訴えられるわよ」
「つまりにこちゃんには言っていいんだね」
「ていっ」
「あぼん」
さらにペットボトルが飛んできた。頭にヒットして、ばこん、とそこそこな音を立てて激突。僕はノックアウト。
マジでノックアウトされたため、目が覚めたら授業始まってた。にこちゃん共々遅刻した。なんだかんだ起きるまで居てくれたにこちゃんマジ天使。
授業後の一年生の教室。
ここでは、最近謎の現象が見られるようになっていた。
「それでですね!最近注目の3人組スクールアイドル、『FREE'S!』はですね、名前の通り自由なアイドルをコンセプトとして、自ら演奏しつつ踊るという今までに無いスタイルでライブを行っているんです!最新曲の『ファイターズ』では、3人ともボクシングジムに通ってまでボクシングをイメージとしたPVを撮影しているんです!」
いつもはおどおどしていて声も小さく、おっとり系という言葉が似合うような可憐な少女・小泉花陽が、もうこれ以上ないほどハイテンションでスクールアイドルについて捲し立て。
「甘いな。彼女らの注目すべき点はそこじゃない。あんな激しい動きを数分間絶えずし続ける無尽蔵のスタミナと、その中でブレずに歌い切る安定感だ。過去最も長い曲は『パーフェクトドライブ』の7分42秒、その時間全てで3人ともノンストップで踊り続けている。リーダーは陸上部、他二人も水泳部とバスケ部を経験しているからこその所業と言えるだろう」
現在進行形で机に足を乗せ、椅子の背にもたれかかり、オールバックの銀髪をギラギラ光らせてサングラスの奥から射抜くような視線を放つ、身長2m越えの一年生唯一の男子生徒、
「花陽も滞嶺くんも、スクールアイドルのことになると止まらないわね…」
「凛はこっちのかよちんも好きにゃあ」
それを星空凛と西木野真姫が横から眺めるという現象。
「さ、さすが滞嶺くん、目の付け所が違います…!」
「そうだ、最近注目と言えばな…」
「花陽、そろそろ切り上げないと練習遅れるわよ」
「っは!もうこんな時間!」
それが真姫が止めるまで続く。クラスメイトからは不思議な現象扱いをされていることに、本人たちは気づかない。
「ああ、そういえばμ'sの新作見たぞ。素晴らしい曲だ」
「ほんと?!」
「ぅおあ、星空、近い」
「上手くできたって自信はあったけど、実際に褒めて貰えると嬉しいにゃー!」
「ぐ、ぬおおお、やめろ、頭を擦り付けるな!!」
滞嶺がμ'sを褒めると、凛は滞嶺に飛びついて頭をぐりぐりと滞嶺の胸板に擦り付けだした。女性耐性があまりないらしい滞嶺は真っ赤な顔で凛の頭を巨大な手で引っつかんで容易くひきはがす。
「んにゃあ」
「な、なんだこの猫は…」
「凛にゃ!」
「やってらんない」
結局話が収束しない様子に呆れた真姫は、もうほっといて先に部室に向かおうと教室の外に足を向けた。
その時だ。
「あ、メール…」
「ん?」
花陽と滞嶺に同時にメールが来た。花陽は両手でスマホを操作して、滞嶺は凛の頭を掴んでぶら下げたまま片手で携帯を操作する。
そして。
「っこ、ここここれはッッッ!!!!」
「…!!てめえらさっさとメンバーに伝えてこい!」
「んにゃあああああああああ?!?!」
「え?……え、きゃあああああああああ?!」
花陽が叫び。
滞嶺は教室の扉に向かって凛をぶん投げた。射線上にいた真姫は咄嗟にしゃがんで凛弾を避け、当の凛は猫の如く謎の華麗な着地を見せた。
「真姫ちゃん、凛ちゃん!は、早く部室に行きましょう!」
「な、何が…って花陽、待ちなさいよ!」
「今日のかよちんはいつになく早いにゃ…!一体何が…!」
花陽は部室へ猛ダッシュし、真姫は事態が飲み込めず呆然。凛は謎の実況を開始した。
そして、疑問に答える声は、凄まじい音量で発せられる。
「『ラブライブ』だ!世界最大のスクールアイドルの祭典の開催が決定した!!」
「はあ…にこちゃんってこういう時に限って時間かかる掃除に当たるよねえ」
「だから急いで終わらせてきたでしょ!早く行くわよ!」
「走ればいいじゃないかい」
「あんたを置いていけないでしょ」
「僕も走るよ?」
「バカ言わないで」
授業後にラブライブ開催のメールが届いて、早くメンバーに聞かせて驚かせようと息巻いていたにこちゃんだったが、そういう時に障害物が道を遮るのがにこちゃんだ。
走らずともそこそこ急いで屋上にたどり着いたにこちゃんは間髪入れず屋上の扉を開け放つ。
「みんな、聞きなさい!重大ニュースよ!」
「それより、少し遅れてごめんね」
屋上では他のメンバーが既にストレッチを行っていた。よくよく考えたら小泉さんあたりもしっかり情報を仕入れていそうだ。
「ふっふっふ…聞いておどろくんじゃないわよ。今年の夏、遂に開かれることになったのよ…スクールアイドルの祭典!」
「『ラブライブ』ですか?」
「…知ってんの」
一瞬でにこちゃんのテンションが極小になった。やはり情報は既に出回っていたらしい…にこちゃん元気出して。
「ラブライブ、出るのかな?」
「もちろんです!」
「高坂さん近い近い」
一応聞いてみたら、高坂さんが凄い勢いで突っ込んできた。怖いよ。主に君の元気が怖いよ。
「ラブライブ出場には学校の許可がいるらしいから、まず許可もらいに行かないと。練習始める前にささっと行ってこようよ」
「そうだったのですか…。それならまずは許可をもらいに行くのが先決ですね」
「でも、許可って誰にもらえばいいんですか?」
怖くない方の2年二人が返事をくれた。そして誰に許可をもらうって、そんなの決まってるでしょう。
「そりゃあ生徒会でしょう」
そして止まる時間。どうしたかと思ったら、そうか、絢瀬さんはμ's嫌いっぽいんだった。そりゃあ許可とるのも一苦労だ。
「…どう考えても結果は見えてるけど」
「だよねえ」
「学校の許可ぁ?認められないわぁ」
「星空さん、それ絶対本人の前でやんないでね」
冷静に返事する西木野さんと、謎のモノマネを披露する星空さん。似てるかどうかの前にバカにしてる感が溢れてるからやめてね。似てる?似てるかなあ。
「でも、今度は間違いなく生徒を集められると思うんだけど…」
「そんなの、『あの生徒会長』には関係ないでしょ。私らのこと目の敵にしてるんだから」
わざわざ絢瀬さんを生徒会長呼ばわりするにこちゃん。自身が避けられてることに何かしら思うところがあるのかもしれない。
「どうして私たちばかり…」
「それは…、っ!もしかして、学校内での人気を私に奪われるのが怖いから?!」
「それはないわ」
「そだねえ」
「ツッコミはやっ!茜まで!」
だいたい君がμ'sに入る前からなんか嫌ってたじゃない。
「もう許可なんて取らずに勝手にエントリーしたらいいんじゃない?」
「それはできないよ。要項に学校側の承認が必要ってあるから、非公認のスクールアイドルが勝手に出ることはできないんだ」
西木野さんの主張は正当に蹴らせていただく。そういえば許可とってないから非公認だね僕ら。すごく今更だけど。
すると、西木野さんは続いて凄い提案をしてきた。
「じゃあ直接理事長に頼んでみるとか」
「よくも思いついたねそんな手段…。原則生徒会を通すとは記載されても、直談判できないとは確かに言ってないけどさ」
発想が恐ろしいよ西木野さん。いや実は僕直談判すること結構あるんだけどさ。
「でしょ?なんとかなるわよ。親族もいることだし」
「…親族?」
「ふぇ?」
「聞いてませんでしたか。音ノ木坂の理事長は、ことりのお母さんなんです」
「なんですと」
知らんかった。μ'sのメンバーって、親が理事長だったら医者だったり、結構後光さしてるなぁ。
というわけで、生徒会室は華麗にスルーして理事長室へ。相変わらずここだけ扉が豪華だ。
「生徒会室より入りにくい緊張感が…!」
まあ最高権力者だしねえ。慣れたけど。
それでも勇気を出してノックの構えをとる高坂さん。しかし、ノックしようとしたら先に扉が開いた。ここ自動ドアだっけ。
「あら?お揃いでどうしたん?」
「あれ、東條さん」
なぜか現れたのは東條さん。生徒会の用事かな。
ってことは。
「うわっ生徒会長!」
「うわって高坂さん」
「タイミング悪…」
「こらにこちゃん」
「いたっ」
案の定、絢瀬さんがいた。いてもいいんだけど、高坂さんとにこちゃんのリアクションが失礼極まる。やめて差し上げて。
「…何の用ですか?」
「理事長にお話があって来ました」
「各部の理事長への申請は生徒会を通す決まりよ」
「申請とは言ってないわ。ただ話があるの」
「こら西木n」
「真姫ちゃん、上級生だよ」
「ああ、うん」
果敢に西木野さんが抗議するもあえなく粉砕。ついでに敬語使うように言おうと思ったら高坂さんに先を越されて僕もあえなく粉砕。出番プリーズ。
まあ出番はともかく、結局絢瀬さんと対峙することになってしまった。どう突破するつもりか眺めていると、さらに登場人物が追加された。
「どうしたの?」
南さんのお母上こと、理事長さんである。
大勢でぞろぞろ理事長室に入るのも迷惑千万なので、一年生はお外で待機命令。一応メインの二年生が中心に話すということで、僕とにこちゃんは少し後ろで待機。絢瀬さんと東城さんもお隣にいらっしゃるが、絢瀬さんはすこぶる不機嫌な表情だ。東條さんも心配そうな顔をしている。
「へえ。ラブライブねぇ」
そしてお偉いさん机の向こうのお偉いさん椅子に鎮座する理事長さん。確かに髪型とか髪色とか南さんに似てる。トサカとかさ。あれは理事長さんセンスだったのか。
「はい。ネットで全国的に中継されることになっています」
「もし出場できれば、学校の名前をみんなに知ってもらえることになると思うの!」
「私は反対です。理事長は学校のために学校生活を犠牲にするようなことはするべきではないと仰いました。であれば…」
ラブライブ出場のメリットを説く二年生、デメリットを責める絢瀬さん。どちらも必死だ。
そして、理事長さんの意見は。
「そうねえ。でもいいんじゃないかしら、エントリーするくらいなら」
「あれ。思ったよりあっさり風味」
なんだか拍子抜けするほど物分りがいい。やっぱり親族効果だろうか。理事長がそれでいいのだろうか。よくないんじゃない。
「なっ…!ちょっと待ってください!どうして彼女たちの肩を持つんです?!」
「別にそんなつもりはないけど」
「だったら、生徒会も学校を存続させるために活動させてください!」
「んー…それはだめ」
「………意味が、わかりません…!!」
「そう?簡単なことよ?」
予想外の反応だったのか、氷の女王も裸足で逃げ出す必死さで理事長さんに詰め寄る絢瀬さん。対する理事長さんは全然まったく動じない。これが大人の貫禄…貫禄とか言うとお年を召して聞こえそう。大丈夫、理事長さんお若いよ。誰に弁明してんだろう僕。
「っ…失礼します…!」
「えりち…」
絢瀬さんは苦悶の表情で踵を返し、大股で理事長室の扉へ向かい外へ出て行った。東條さんも小走りでついていく。それを見て一年生たちも扉から顔を出した。
「…」
にこちゃんは、絢瀬さんの横顔を見つめて黙って見送っていた。友人として何か思うところがあるのだろう、それは僕も同じだ。いやにこちゃんのことじゃないしあんまり思う所ないわ。
「…ただし、条件があります」
「うん?」
理事長さんは今度は僕らに向かって言葉を投げた。なんだろう、奉仕活動でもせよと言うのだろうか。
「勉強が疎かになってはいけません。今度の期末試験で1人でも赤点をとるような事があったら、ラブライブへのエントリーは認めません。いいですね?」
まあ…当然だよね。
当然であり、
「…あぁ」
「…はは」
「…うぅ」
「また一波乱だねぇ」
にこちゃんには厳しい条件だ。…あとなぜか高坂さんと星空さんも瀕死だけど、これも僕が処理する案件だろうか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
にことのぞえりを元から友達設定に変えたので、原作と微妙に展開が違います。内面くらいですが。でもそういう細かな変化も大事かなぁと。
あと滞嶺君再登場。ふつうに仲良くなってますね。