笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
このタイミングで秋葉原にちょっと行ってきました。神田明神とか色々。時間がなくて絵馬が書けなかったのが残念です。また今度は沢山時間を作ってから行こう…。
そしてぷちぐるが楽しくて一生ぷちぷちしてられます。
というわけで、どうぞご覧ください。
「今の話、本当ですか?!」
高坂さんの叫びで時間が動き出した。そうだ、理事長さんが絢瀬さんに、音ノ木坂の廃校を告げたんだ。…なぜ?このタイミングで?急すぎるとも思ったけど、経営者側の動きはどう頑張ってもこちらからは見えないのだし、向こうは散々協議した結果なのかもしれない。
だからって納得もできないけど。
「っ…あなた………」
「本当に廃校になっちゃうんですか?!」
「…本当よ」
「お母さん、そんなの全然聞いてないよ!」
ああ、そういえば君のお母さんだったね理事長さん…ってそんな場合じゃない。
「お願いです、もうちょっとだけ待ってください!あと一週間、いや、あと2日でなんとかしますから!!」
「待って待って落ち着いて。一週間やそこらで何する気なの」
何よりパニクってる二年生ズをどうにかしなければ。でもどうしたらいいの。助けてにこちゃん。
「…とりあえず詳しい経緯を聞かせていただけますか?」
「そうね。とは言ってもそんなに長い話でもないわ。廃校にするというのは、オープンキャンパスの結果が悪かったらという話なの」
「…オープンキャンパス?」
「去年もやったでしょうに」
ともかく、即座に廃校って流れではないらしい。つまり、まだ抵抗の余地はある。それよりもオープンキャンパスという単語に疑問符を浮かべている高坂さんが心配だ。ほんとにこの子大丈夫か。
聞いた話を纏めると、オープンキャンパスで中学生たちにアンケートをとり、その結果如何で廃校を決めるというわけだ。オープンキャンパスは二週間後の日曜日。それがリミット。正真正銘の王手である。
そして、生徒会長たる絢瀬さんは、自身が、生徒会が、オープンキャンパスを内容を取り仕切ると押し切って出て行った。うーん、また波乱の香りがするぞ。またっていうかいっつも波乱に満ちてるけどね。ちくしょう。
ここで、何かに取り憑かれたかのように独走を続ける絢瀬さんを思う。何が彼女をここまで駆り立てるのか。何故ここまで僕らを認めようとしないのか。異常とも呼べるほど頑固に突き進む、その理由がどうしようもなく気になった。
…が。
それを知ること、彼女を助けることは、今、にこちゃんの居場所に関係のないことのはずだ。僕の目的はにこちゃんの笑顔を取り戻すこと。それをみんなに広めること。些事にかまけている暇は、きっとない。
まっすぐ、次の問題を、にこちゃんにとってよりよい方向に動くように、確実に放逐しなければならない。
全部にこちゃんのために。
そのために、余計な心配事は無理矢理深層まで仕舞い込んだ。
「そんな…」
「じゃあ、凛たちやっぱり下級生がいない高校生活?!」
「そうなるわね」
「ま、私はその方が気楽でいいけど」
「そうならないために頑張ってるというのに君は」
残りの面子に先ほどの話を伝えると、やっぱりというか案の定というかかなり落ち込んでしまった。西木野さんは口では平気そうにしているが、表情は哀しげである。意地っ張りめ。
「とにかく、オープンキャンパスでライブをやろう!それで入学希望者を少しでも増やすしかないよ!」
高坂さんはこういう時でも元気だ。強気なのかアホなのかはわからないけど、前進するぶんにはありがたい動力だ。
「まあ、その前に生徒会を僕らがライブできるように説得しなきゃならないだろうけどね。その前に今日の練習しなきゃね」
「あ、あの…その前にアルパカの餌と水の入れ替えに行ってきてもいいですか?」
「アルパカ」
急に小泉さんがアルパカを気にしだしたと思ったら、彼女、飼育委員らしい。知らなかった。っていうかあのアルパカ生徒が世話してたのね。荷が重くないか。有蹄類だぞ。うさぎとか鶏ちゃうんだぞ。
「1,2,3,4,5,6,7,8…」
小泉さんが戻ってきたところで、練習を始める。何故か今日は園田さんも僕と一緒に指導側にいるけど、まあ別に問題ないからいい。ちなみに手拍子は僕で掛け声は高坂さん。高坂さん踊りながら掛け声かけれるのか。いつの間にそんな体力ついた。
「…よし!おお、みんな完璧!」
「うん、ずいぶん合ってきたね。完璧かどうかは知らないけど」
実際ふざけた勢いで上達している。当然素人からしたら、って話なので悪いところは悪いのだけど、始めて数ヶ月の子らにプロ級の要求を通すのは酷だろう。まあそもそも舞台上の役者については僕も素人なので、彼女らが思ってるほど助言することもない。ど素人よりはマシだと思うけど。
「これならオープンキャンパスに間に合いそうだね!」
「でも本当にライブなんてできるの?生徒会長に止められるんじゃない?」
「最初にそう言ったよね僕」
僕の話は聞かない主義か西木野さん。泣くぞ。
「それは大丈夫!部活動紹介の時間は必ずあるはずだから」
「ああ、確かに。いかに権力者でも僕らだけ省けないよな」
「そうです!だからそこで歌を披露すれば………」
「まだです…」
突然、園田さんが暗い声と表情で割って入ってきた。何がまだなの。確かにオープンキャンパスはまだ先のことだけど。
「まだタイミングがズレています」
「海未ちゃん…。分かった、もう一回やろう!」
「えぇ…」
そりゃズレてはいるんだけど、今この瞬間に直すところではないと思うのだけど。というかいつの間にそんなに「見える」ようになったの君。
そんなわけでワンモアダンス。
さっきと同じように僕の手拍子に合わせて高坂さんが掛け声をかけ、みんなが踊る。園田さんはじっと見てる。何か問題があるなら口を出せばいいのに、特に何を言うわけでもなかった。険しい顔で見てるだけ。一体何を考えてるのやら。
「はあ、はあ…完璧!」
「そうね」
「やっとみんなにこのレベルに追いついたわねえ」
「前から大差なかったよ」
「うるさい」
「はい」
ものの見事により上手に踊ってみせるμ'sのみなさま。何度も言うが、完璧なわけではないので悪しからず。
「まだダメです…」
それでもまだ首を縦に振らない園田さん。
「これ以上うまくなりようがないにゃあー」
「ダメです。それでは全然…」
「何が気に入らないのよ!ハッキリ言って!」
遂に西木野さんが声を荒げる。これといったダメだしもなく、ただ「ダメです」では誰も納得できない。そりゃそうだ。流石にここまでくると、園田さんの態度は不思議極まる。
「感動できないんです」
「え…」
「今のままでは…」
感動。
何故そこに着目できたのかは不明だけど、園田さんのわだかまりの中心はそこにあるようだ。とは言っても、彼女自身、どうしたら感動できる踊りになるかは恐らくわかっていない。僕もわかんない。だって僕は演出マンで、舞台上の役者についてはさっぱりだ。
そして、とりあえず。
「何がなんだかわかんないけど、何がなんだかわかんないまま練習しても埒があかないね。今日は終いにしようか」
そう伝えると、意外と誰も反論してこなかった。みんな重い雰囲気にやられたのかもしれない。
それと園田さんの内心も気にはなったが、まあ自己解決に任せよう。にこちゃんには直接関係しないし。
そんで帰り道。いつも通りにこちゃんと歩いていると、にこちゃんが不意に口を開いた。
「茜」
「ん?」
「家に着いたら、海未に電話してあげて」
不思議な提案を受けて思わずにこちゃんを見ると、若干悲壮感が漂う真剣な顔をしていた。この前にこちゃんの家で勉強してるときにも見た顔だ。
一体何を思ってその表情なんだ。
「えぇ…。何でさ」
「気になってるんでしょ」
「…………そんなことないよ」
「その間は何よ」
「何でもないよ」
「嘘ね」
今日のにこちゃん、何だか、こう、強い。雰囲気が、というか、有無を言わさない感じだ。何となく語気にやられてしまう。けど、負けてるわけにもいかない。にこちゃんのためにならない行動は極力控えたい。にこちゃんに悪影響が出ては困る。超困る。
「どうせ私に直接関係ないからとか思ってんでしょ」
「エスパーなの?」
ずばり言い当ててきたのでちょっとふざけて答えたら、何故か余計悲しそうな顔になった。何でさ。そんなに面白くなかったか。
「あんたいっつもそればっかり言ってるからわかるわよ。でもあんた、私がしてほしいって言ってるのにそれも私のためにならないと思ってるの?」
「そういう事例もあるでしょ」
「今はそういう事例じゃないわ」
どうあっても園田さんに連絡を取ってほしいらしい。何故だ。
「連絡取るならにこちゃんがやればよかろうに」
「何よあんたマネージャーでしょ。団員の管理くらいしなさいよ」
「それ言われると困っちゃうな」
いくらにこちゃんのために頑張ると言っても、流石に職務放棄と言われるのは厳しいところだ。非難や批判は行動の自由を狭めるから極力受けたくない。
「たまには練習の外でもマネージャーらしくしなさい。あんた練習のとき以外あの子たちのこと考えてないでしょ」
「そりゃ頭の中はにこちゃんでいっぱいだからね」
こう言っておけばにこちゃんは照れちゃって反撃が薄くなる。とてもかわいい。
のだけど。
今日は照れずに、右手を額に当てて俯くだけだった。
「そう…そう、よね」
「待ってなんで急に納得してんの」
おかしい。何かが決定的におかしい。ここまでにこちゃんの言動が読めないのも始めてかもしれない。
「…とにかく。せっかくμ'sっていうスクールアイドルをやれたのに、あんたの職務怠慢で潰れちゃったらどうすんの」
「そんなに深刻かなあ」
「深刻よ。元々廃校を阻止するために始めたのよ?廃校が決まったらもう頑張る必要もないじゃない」
それでやる気を失っちゃうような子たちじゃないと思うけども…、にこちゃんがそういうならそんな可能性もあるのかもしれない。大人しく従っておくのが吉かな。
「はあ、わかったよ。にこちゃん家着いたら電話するよ」
「うん…ってなんで私の家なのよ」
「ダメなの?」
「ダメじゃないけど!」
でも、対価としてにこちゃんと一緒にいる時間を増やしていただこう。
さて。にこちゃんがお風呂入ってるうちに電話してしまおう。何となく聞かれたくない。にこちゃんはお風呂長いから、電話中に出てくることは多分ないだろう。
…にこちゃんが望むから。そう、にこちゃんがそうしてほしいと望むから、わざわざ電話するんだ。する必要もない言い訳を自分にしているのは何故だろう。とにかく、内心とは違って意外と躊躇なく通話ボタンを押せた。
数回のコールの後、園田さんは電話に出てくれた。
「あ、もしもし。波浜ですよ」
『も、もしもし…えっと、どうかなさいましたか?』
何故か凄く警戒したご様子の園田さん。なんでさ。僕なんかしたっけか。
「…なんでそんな警戒してるの?」
『え?い、いえ、波浜先輩から電話をいただくなんて全く想像していなかったので…』
「一応僕マネージャーなんだけど」
『波浜先輩はにこ先輩のことばかり話しているので』
「否定できないね」
どうやら園田さんにも僕のにこちゃんラブはばっちり認識されているようだ。だからって他の子を見てないわけじゃないのよ。そんなに見てないけど。
「まあそれは置いといて。今日の話なんだけどさ」
『…』
「今日のあの様子だと、何か君の認識をひっくり返す出来事があったはずなんだ。みんなの踊りを、今まで特に疑問も持たずに見てきた踊りを、感動できないと一蹴してしまえるような何かが」
今日の園田さんは明らかに様子がおかしかった。いやもう少し前から変だった気もするけどこの際それはどーでもいい。問題は、彼女の身に何が起きたのか。彼女は何を訴えようとしているのか。今回の問題を潰すにはそれを知らねばなるまい。
『…生徒会長の、踊りを見たんです』
「絢瀬さんの?ってかあの子踊れるんだね」
『幼い頃からバレエをしていたそうです。とても上手で…感動しました。あんなに踊れる人からしたら、私たちなんてただの三流にしか見えないのもわかります』
「へえ」
通話しつつ、手元のタブレットで動画検索をする。二台持ちだぜどやぁ。…とにかく、あの子昔はロシアに住んでたらしいし、10年くらい前の、ロシアのバレエコンクールあたりを探せば見つかるだろう。
そう思って探してたら案外さっくり見つかったので見てみる。
なるほど、美しい踊りだ。舞台の演出はプロでも役者そのものには詳しくないので大したことは言えないが、少なくとも僕には文句がつけられないくらいの上手さ。そりゃμ'sの子たちがど素人にも見えるというものだ。
「確かにこりゃすごいねえ」
『え、もう見てるのですか…?』
「タブレットあるからね」
『…先輩、そういえば何気なく有能でしたね…』
「何気なくって何」
無能に見えるのだろうか。泣きそう。
『いえ、気にしないでください。とにかく、私たちはそんな生徒会長を納得させられなければ、オープンキャンパスへの参加は絶望的だと思うのです』
「そりゃそうだろうねえ」
『…先輩、他人事だと思ってません?』
「まさか。ここでμ's終わっちゃったらにこちゃんに顔向けできないし」
『やっぱりにこ先輩が中心なんですね』
「そりゃそうだ」
にこちゃんは僕の存在理由といっても過言ではないからね。にこちゃん居ないと死んじゃうから。うん。
『…先輩はどうしたらいいと思いますか?』
不安そうな声がスマホ越しに聞こえる。きっと、これ以上なく真剣に悩んでいるのだろう。ここがμ's存続の分岐点みたいなものだし、深刻に捉えて然るべきではある。
ていうか、僕に聞いちゃうあたり相当参ってる。僕なんかスルーされることの方が多いのに。なんかつらい。
「君はどうしたい?」
『え?』
「君の意見。μ'sという大衆じゃなくて、個人の主張。どうしたらいいと思ってるの?」
真面目に答えちゃっていいのだろうか…と思うより前に言葉が出た。案外僕は自分をコントロールできてないっぽい。
対する園田さんからの返事は、すぐには来なかった。呼吸音さえ聞こえないため、きっと息が詰まるほど真剣に考えているのだろう。
『私は…』
何分経ったか、数秒だったかもしれないが、ともかく園田さんが重い口を開く。
『私だったら…せっかく上手な方がいらっしゃるのですから、教えていただく、というのが一番だと思いますが…みんなからは反対されると思います。言い方は悪いですが、今は生徒会長は敵なのですから』
「いいんじゃない」
『…へ?』
「いいんじゃない、教えてもらうの。大変だとは思うけど」
『…やけにあっさりしてますね?』
「そりゃ僕も同じ意見だったからだよ」
結構考えてた割には、僕と同じことを考えてただけらしい。もちろん相手は絢瀬さんなわけだし、一筋縄ではいかない上に引き受けてくれた上でこっちを崩そうとしてくることも考えられる。やだ危険満載。
でも、やっぱり上達への近道だ。今後ラブライブに出場していくことも考えれば、上達の手段を惜しんでる場合じゃない。
『…にこ先輩が反対しても、あなたはそう言いますか?』
「さあ?」
『えぇ…』
「わかんないけど、僕がどうこうよりも、君は君がいいと思う手段を貫くのがいいんじゃない」
『しかし、それで意見が割れてしまえば…』
「…ん、そこを説得するのが議論だろう。さ、僕の出番はここまでだよ。後は君たちで話し合うといい。そんじゃねー」
『え?!あ、ちょっと!』
通話終了。お疲れ様でした。
なんかいらんこといっぱい言っちゃった気がする。
「…早かったね、お風呂」
「悪いけど、いつも通りよ。あんたの電話が長かったのよ」
「そんなにかな」
「そんなによ。ってこらこっち向くな!まだ下着だけで服着てないのよ!!」
「なんで脱衣所に持っていかないの」
何故急いで電話を切ったかと言えば、にこちゃんの気配がしたからだ。我ながら気持ち悪い。背後のにこちゃんを察知してしまうとは。
「あんたが心配だったから服着る前に様子見に来たのよ」
「服着る程度のタイムラグなんて誤差じゃないの」
「うるさい」
「ぐえ」
早くも服を着たにこちゃんの拳骨が降ってきた。痛い。やっぱり服着るくらいでそんなに時間食わないじゃないの。
頭をさすりながら振り向くと、最近よく見る深妙な表情のにこちゃんが真後ろに立っていた。なんなんだろうねこの顔。
「…ちゃんと電話できたみたいね」
「僕は電話さえまともにできない子供なのかい」
「できない以前にしないでしょ」
「しないね」
確かに電話はほとんどしない。メールすらしない。桜とか天童さんみたいなごく一部の人に業務連絡するときくらいだ。いや今回もよくよく考えたら業務連絡じゃないか。
「…やっぱり…」
「ん、何か言ったか、にこちゃん」
「………ううん。何でもない」
何かボソッと呟いたにこちゃんは、その内容は教えてくれなかった。まあにこちゃんが言いたくないなら聞かない。
「そっか…うん?」
とりあえずにこちゃんを愛でる会でもしようかと思ったら、スマホに着信がきた。にこちゃんもスマホを取り出したのを見ると、にこちゃんにもかかってきたようだ。となると…案の定、μ'sのグループ通話だ。
発信主は、園田さん。
…僕、今すぐみんなに聞いてみろとか言ったっけ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
なんだか微妙に不穏がやってきました。伏線ちゃんと回収できるんでしょうか私←