笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼
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ご覧いただきありがとうございます。

スクフェス5周年記念でTwitterでやってる懸賞的なアレで、果南ちゃんのメッセージカードが当たりました。やばいですね。近日中に死ぬかもしれません。

というわけで、どうぞご覧ください。




条件反射はお身体に障りますよ

 

 

 

 

『『『ええ?!生徒会長に?!』』』

『うん。海未ちゃんがダンス教わろうって』

『はい。あの人のバレエを見て思ったんです、私たちはまだまだだって…』

『話があるってそんなこと?』

 

 

グループ通話が始まってすぐに1年生ズの叫びが耳を貫く。息ぴったりだね、的確に僕を殺しにきてる。やめて。

 

 

ともかく内容はやはりさっき電話で話した内容だった。どうやら2年生ズは全員高坂さん宅にお邪魔していたようで、通話に参加しているのは園田さんだけなのに他2人の声もばっちり聞こえる。これ電話の内容高坂さんと南さんにも聞かれたんじゃなかろうか。やだなあ。

 

 

ちなみに僕もにこちゃんのスマホで参加している。自分のは使ってない。何でかって?なんか共同作業っぽいじゃん。気持ち悪いね。知ってる。

 

 

『でも、生徒会長って私たちのこと…』

『嫌ってるよね、絶対!!』

 

 

小泉さんと星空さんは案の定否定的…というか、単純に綾瀬さんご本人が不満なようだ。そりゃあれだけ邪魔してきたら嫌んなるよね。

 

 

でも、園田さんは簡単には提案を棄却しなかった。

 

 

『私もそう思っていました。…でも、あんなに踊れる人が私たちを見たら、素人みたいなものだって言う気持ちもわかるんです』

『そんなにすごいんだ…』

「自前のスマホとかパソコンが手元にあるなら見てみるといいよ。偏見抜きですごいもんだ」

『わわ?!波浜先輩いたんですか?!』

「にこちゃんの隣にいるよ」

『こんな時間にですか?!』

「幼馴染で家も近いんだから変でもなんでもないわよ」

 

 

口を挟んだらビビられた。しょぼん。まあ夜結構遅い時間だし、女の子宅に男子がいるのはビビるかもしれない。でもその理論だと2年生ズも帰り道危ないよ。

 

 

『私は反対。潰されかねないわ』

 

 

これは西木野さんの言。こういう時は素直だと立場が明白でありがたい。怖いこと言ってるけど。

 

 

『生徒会長、ちょっとこわい…』

『凛も楽しいのがいいなー!』

 

 

そして小泉さんと星空さんも同じく反対票。そうなるとは思ってたけど、意外と明確に嫌って言いよる。そんなに嫌か。

 

 

そして、きっとにこちゃんも反対派なのだ。

 

 

「そうね、3年生はにこが居れば十分だし」

「そんな理由なのにこちゃん」

 

 

理由が雑じゃないかいにこちゃん。

 

 

「…でも、」

 

 

ん?

 

 

 

 

「茜は賛成みたいだし、考えてみてもいいかも」

『『『『『ええ?!』』』』』

 

 

 

 

ちょい。

 

 

「待ってにこちゃん、僕そんなこと言ってない」

「でも賛成なんでしょ」

「えーっと」

「らしいわよ」

「待って待って」

 

 

シンキングタイムプリーズ。

 

あれ?何でにこちゃんに看破されたの?電話聞いてたのかな?それとも顔に出てた?ああもうとにかく、想定してたにこちゃんの動きと違う。にこちゃんの希望に沿うような行動を用意していたのに。もちろん賛成派だった時の想定もしてあるけど、こんなに肯定的なのは流石に予想外だ。

 

 

『私もいいと思うけどなあ』

「うおい」

『波浜先輩が焦るなんて珍しいにゃあ』

「焦ってない」

 

 

高坂さんも肯定派だった。それは予想範囲内なんだけど、にこちゃんが予定外すぎてそれどころじゃありません。行き当たりばったり作戦しかないのか。

 

 

『だって、ダンスが上手い人が近くにいて、もっと上手になりたいから教わろうって話でしょ?』

「そりゃそうなんだけど、色々過程すっ飛ばしてない君」

『だったら私は賛成!』

「聞いてる?」

 

 

出発点と終着点は合ってるけど、その道のりでの困難をさっぱりスルーしてしまった高坂さん。黒部ダムでも作る気かい。あれは完成して便利になったからいいけども。いやあれも別に行き当たりバッタリではないか。

 

 

『穂乃果ちゃん…』

『頼むだけ頼んでみようよ!』

「ちゃんとそこから先も考えなよ?」

『確かに、絵里先輩のダンスはちょっと見てみたいかも!』

『あ、それは私も…!』

「お願いだから聞いて」

 

 

みんな僕のこと嫌いなんですかね。いいよもう僕にはにこちゃんがいるからつーん。

 

 

『よぅし、じゃあ明日さっそくいってみよう!』

「でも、嫌な予感はするわよ。どうなっても知らないわよ」

「だからそこの対策考えてんだから聞いてくれって皆様」

 

 

解散の流れになるのを何とかして引き止めつつ、思いつく分だけ対策しておこう。

 

 

「とりあえず、綾瀬さんのことだから頼んだら了承してくれると思う」

『ちょろいってこと?』

「もうちょいマシな言い方なかったのかい」

 

 

いやちょろいって言えばちょろいんだけど。そういう意味じゃないの。

 

 

「諦めさせるには、突破不可能な壁を作ってやるのが一番早いって多分あの子は知ってるよ。そうじゃなきゃ今もバレエやってるだろうし」

『確かに…!何か挫折があったから今はやっていない、というのが自然です!』

「小泉さんは誰かと違って理解が早くて助かるよ」

「誰のことよ」

「にこちゃんじゃないよ」

 

 

あんだけ上手なバレエを今はもうやっていないのだから、きっと何か大きな壁にぶち当たってしまったというのは想像に難くない。それなら、自分の知る「挫折の手段」を再現してくる可能性は高い。あとにこちゃん飛び火しないで。にこちゃんも理解力高いとは言えないけどさ。

 

 

「とにかく、向こうがとってくる手段として最も考えられるのは『非常に厳しい練習』になると思う。対抗策はーーーー」

『へこたれない…ってことですね!』

「うん…うん?」

 

 

高坂さんが先回りして答えてきたから反射で「うん」って言っちゃった。いや合ってるけどさ。合ってるんだけどさ。

 

 

『えっ違うんですか?』

「いや合ってるけどさ。そんな軽く言うことじゃなくない?」

『え?上手くなるための練習なんですから、厳しいのは当たり前ですよね』

「うん…うーん?普通もうちょっと忌避感情出ない?」

『…きひかんじょうって何ですか?』

「あー…何でもない」

 

 

何だか拍子抜けしてしまった。あれ?困難に立ち向かうって意外と大変だと思うんだけどな?違うの?違うんですかにこちゃん。

 

 

「…ま、穂乃果はそういう子だから」

「君はお母さnおぶふっ」

 

 

お母さんかって言おうとしたら右ストレートがおでこにキマった。痛いです。

 

 

『よくわかんないけど、明日頼みに行くよ!』

 

 

高坂さんは結局よくわかんないで流してしまった。いいのか。いいのかこれ。ほんとに大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

翌日、高坂さんらは本当に綾瀬さんに頼みに行ったらしく、スポドリを持って屋上に来たら綾瀬さんもいた。やっぱり結局引き受けたんだね。

 

 

ともかく、まずは一度今までの練習成果を見てもらおうということになったようだ。それならまずダンスを見てもらうのが一番。早速練習に取り掛かる。

 

 

「うわっと、どわわわああああ!」

「凛ちゃん?!」

「痛いにゃあー」

 

 

そんで星空さんがすっ転んだ。また間の悪い時に失敗する子だね。大丈夫かい。

 

 

「全然ダメじゃない!よくここまで来られたわね!」

「厳しいねえ」

 

 

綾瀬さんの厳しい言葉が屋上に響く。μ'sの皆さんも若干萎縮している部分はあるだろうが、最終的には人前で披露するものだし、緊張した状態でもパフォーマンスの質を下げてはならないだろう。全然ダメかどうかは知らないけど、良くはない。

 

 

「昨日はバッチリだったのにーっ!」

「基礎ができてないからムラが出るのよ。…足開いて」

「ん、サービスカットかな」

「茜」

「はい」

 

 

にこちゃんからすごい重厚なプレッシャーが飛んできた。ごめんて。ゆるして。

 

 

「こう?」

 

 

で、素直に座ったまま開脚を行う星空の背中を、綾瀬さんはぐっと結構なパワーで押した。

 

 

「んぎゃっ!痛いにゃああ?!」

「綾瀬さん、折れちゃうよ」

「折れないわよ。少なくとも足を開いた状態で床にお腹がつくようにならないと」

「ええー?!」

「それもはや180度じゃないか」

「そうよ。柔軟性をあげることは全てに繋がるわ、まずはこれを全員できるようにして。このままだと本番は一か八かの勝負になるわよ!」

 

 

そんなに柔軟大事かなあとも思ったけど、そういえばバレエやってる人ってすんごい体柔らかいイメージがある。そういうものなのかもしれない。やっぱり専門でやってる人は肝心要な部分を理解していらっしゃる。

 

 

「…嫌な予感的中」

「まったくだね」

 

 

にこちゃんも言ってるが、やっぱりキツい練習を用意してきた。予測はしてたけど、実際見てみると確かに厳しい。開脚でお腹を床につけるなんて中国のなんたら雑技団みたいなとこみたいだ。

 

「…ふっ!」

「おお!ことりちゃんすごい!」

「まじか」

「えへへ」

 

 

雑技団員がいらっしゃった。南さんがバッチリお腹を床につけている。お腹より出張ってる胸は床についていないからあの状態で上体も起こしてるわけだ。骨大丈夫なのあれ。あとにこちゃん目が怖い。大丈夫だよ貧乳はステータスだって言うじゃないかぐへぁ。

 

 

「何で殴ったにこちゃん」

「別に」

「酷くない」

 

 

にこちゃんの拳が左頰に刺さった。これはキリスト様的には右頰も差し出すべきなのだろうか。にこちゃんなら殴られてもいい…いややっぱやだ。

 

 

「感心してる場合じゃないわよ!みんなできるの?!ダンスで人を魅了したいんでしょ!このくらいできて当たり前!」

 

 

左頰をさすっていると綾瀬さんの声が飛んできた。なんか熱血顧問みたいになってるよ。見てる分には面白いわ。

 

 

「波浜くんはやらないの?」

「僕マネージャーなんだけど」

「マネージャーも部員のサポート役なんだから、練習の消耗具合も管理すべきだと思うわ」

「そういうならやってもいいけど、僕死ぬよ」

「…大げさじゃないかしら」

「大げさじゃないんだなーこれが」

 

 

引き続き柔軟に悲鳴をあげる部員たちを見ていると、綾瀬さんからお声がかかった。僕は運動すると死にかけるので絶対やだ。にこちゃんの為でもないのに命削りたくない。

 

 

「…やらないなら、練習メニューの見直しでもしてあげなさい」

「やってるよ」

 

 

膝に乗せたタブレットを弄りながら答える。μ'sの練習関連は全てここに突っ込んである。今も綾瀬さんの言葉を聞きながらベストな計画を考えているところだ。

 

 

色々考えながら見ている間に、片足バランスだったり筋トレだったり、練習は進んでいく。…いつぞや、桜が「音楽なんて基礎練習さえできれば上手くなるんだよ」とか言っていたのを思い出した。綾瀬さんもダンスの練習はほぼせず、基礎トレーニングばかりしている。何をやるにしても基礎が一番大切なのは変わらないのだろう。そういえば僕も昔はデッサンばっかやってた気がする。あれすごく大事らしいね。

 

 

「ラストもう1セット!」

 

 

同じ練習を何度も繰り返して、ついにラスト。運動神経のいい星空さん、弓道部やってる園田さん、そして過去から今に至るまでずっと練習してきたにこちゃんまでみんなキツそうな顔している。汗もすごい。

 

 

そして。

 

 

 

 

グラっと。

 

 

 

 

小泉さんのバランスが、崩れた。

 

 

「かよちん?!」

「ふんぬ」

 

 

気がついたら小泉さんを抱えていた。…重い。いやきっと僕の腕力がないだけなんだろうけど。ゆっくり降ろして僕も倒れる。反射的に走ったらしく、息がもう、だめ。

 

 

「かよちん大丈夫?!」

「う、うん…それよりも波浜先輩が…」

「い、いや、大丈、夫。短距離、だったし?」

「全然大丈夫じゃないでしょ馬鹿!!」

「誰が馬鹿さ」

 

 

じつはあんまり大丈夫じゃないけど。さすがにこちゃん。

 

 

「…もういいわ。今日はここまで」

 

 

そして降ってくる綾瀬さんの声。近年稀に見る愛想尽かした人の声だった。

 

 

「ちょっなにそれ!」

「そんな言い方ないんじゃ?!」

「私は冷静に判断しただけよ。これで自分たちの実力がわかったでしょ」

 

 

反論も意に介さず冷たく言い放つ綾瀬さん。今は立派に氷の女王だ。今は。

 

 

「今度のオープンキャンパスには学校の存続がかかっているの。…もしできないっていうなら早めに言って。時間が勿体無いから」

 

 

徹頭徹尾辛辣にして怜悧、やはり彼女はμ'sを捻じ伏せるつもりでいるようだ。練習は厳しいし、コーチも厳しいし、やる気が削がれることこの上ない。

 

 

…でもそんなの、上を目指すならば当然だろう。

 

 

「…待ちな、綾瀬さん」

 

 

足早に去ろうとする綾瀬さんを呼び止めると、随分訝しげな顔をされた。何だいその顔。

 

 

足元はふらつくけど、やらねばならないことがある。練習が厳しくて、コーチも厳しくて、でもそれは当たり前。もちろん僕らは強豪じゃないし、コーチである綾瀬さんだって同じ学生で、そもそもアイドル研究部には縁もゆかりもないはずなのだ。

 

 

だから僕はふらつきながら、スポドリと新しいタオルをひったくり、綾瀬さんに突きつける。別に悪気があるわけじゃなく、制動が効かないから動きが大雑把になってしまうだけだ。悪気はないんだ。いやほんとに。信じて。

 

 

「今日は、ありがとね。お疲れ様」

「………波浜くん、いったい何をしているの?」

「労ってんだけど」

「…」

「こんなあっついのに、わざわざ、屋上で練習見てくれたんだしゲホッ」

 

 

わざわざ来てくれた彼女には敬意を示さなきゃ失礼じゃん。しかしむせた。かっこ悪い。

 

 

そう思って綾瀬さんにスポドリとタオルを押し付けている間に、μ'sのみんなは整列していた。

 

 

「ありがとうございました!!」

「……………え」

「明日もよろしくお願いします!!」

「「「「「「お願いします!!」」」」」」

 

 

その言葉に何を受けたのか。それはさっぱりわからないけど、心底驚いたような表情をした後、さっと振りかえって無言で出て行ってしまった。スポドリとタオルは受け取らないまま。受け取ってよ。余計かっこ悪いじゃない。

 

 

「じゃあ、今日はここまでにしよっか!」

「そうですね。…波浜先輩もあの様子では私たちを見ていられないでしょうし」

「まったく無茶して!」

「にこちゃ、酸素缶」

「はいはい」

 

 

にこちゃんは僕がいつもこっそり持ってきている酸素缶を僕の荷物から取り出して僕に渡してくれた。すぐさま口にあてがってしゅーしゅーする。そしてむせる。

 

 

「何やってんのもう!」

「死にそう」

 

 

むせた反動でやっぱりぶっ倒れた僕をにこちゃんが優しく介抱してくれる。今死んでもいい。

 

 

瀕死の僕が復帰したタイミングでみんな解散することに。また明日、綾瀬さんに教わることには誰も文句を言わなかった。にこちゃんでさえ。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

屋上で準備していると、にこちゃんと2年生ズがまずやってきた。

 

 

「にこちゃん遅かったね」

「いやあんたが早いんでしょ。私6時に起きたのよ」

「その頃にはもうここにいたね」

「あんたは…もう」

「はいはいそんなことより。綾瀬さんが来るまでに柔軟くらいしておきな」

「はーい!!」

「何でこの子超元気なの」

 

 

早起きに関してはスルーするけど、それよりも高坂さんがやたら元気だ。元からか。

 

 

「にゃんにゃにゃーん!!」

「ちょ、ちょっと!」

 

 

突然屋上の扉が開いたと思ったら、星空さんが綾瀬さんを伴って突入してきた。何事。

 

 

「おはようございます!」

「まずは柔軟からですよね!」

 

 

高坂さんと南さんが元気に挨拶。なんか楽しそうだ。そして対する綾瀬さんはこれまた驚いた表情だ。

 

 

「…辛くないの?」

「何がさ」

「昨日あんなにやって、今日また同じことをするのよ。第一上手くなるのかわからないのに」

 

 

呟かれたのは疑問。ああいう練習で身の程を知らせることで心を叩き折ろうとしたのに、なぜむしろ元気になってるのか。そりゃ疑問に思うわ。僕もびっくりだわ。ていうか上手くなるかわかんないのかよ。

 

 

そして、返事は至極単純だった。

 

 

「やりたいからです!」

「…っ!」

「確かに練習はすごくキツいです。身体中痛いです!でも、廃校を阻止したいという気持ちは生徒会長にも負けません!だから今日もよろしくお願いします!!」

「「「「「「お願いします!!」」」」」」

 

 

答える高坂さんに続いて、他のみんなも頭をさげる。にこちゃんまで。にこちゃんが誰かに頭を下げるなんていつ以来だろう。なんだったら僕にも頭下げたことなんてない気がする。あれ、なぜか羨ましい。

 

 

当の綾瀬さんはよほど衝撃を受けたようで、形容しがたい複雑な表情で踵を返し、無言で出て行ってしまった。急いで追いかけようと出口へ足を向け

 

 

 

 

 

(…あれ?)

 

 

 

 

 

 

足を止める。

 

 

…何で追いかけようとしてんだ??

 

 

このままみんなに彼女の指導通りの練習をさせて、見てあげればいいじゃないか。

 

 

彼女が居なくてもできることはあるだろ。

 

 

ていうかにこちゃんに関係ない。

 

 

そう思って、とっさに出口に向いてしまった足をみんなの方に戻そうとして、

 

 

「行ってきなさい」

「へ」

「行ってきなさい。絵里が心配なんでしょ」

「…え」

「そうですよ、にこ先輩の言う通りです。追いかけてあげてください!私たちも柔軟終わったら追いかけますから!」

「いやそうじゃなく」

 

 

にこちゃんが行ってこいと言ってきた。困惑してたら高坂さんも乗ってきた。待ちなさい君たち、僕そんなこと言ってない。

 

 

だいたいなぜ綾瀬さんを心配せねばならないのか。あれか、にこちゃんに仲良くしてあげてって頼まれたからか。ああそうかそういうことだな。にこちゃんの頼みなら仕方ない。

 

 

「さ、早く」

「うん、ごめん」

 

 

そうにこちゃんに答えて、出口へ向かう。思ったより迷いなく足は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…あの、にこ先輩。なぜ波浜先輩を行かせたのですか?」

 

 

海未がおずおずといった様子で聞いてきた。確かに、私が茜を何処かへ寄越したことなんて今までなかったかもしれない。

 

 

「…あいつは、元々そういうやつなのよ」

「え?」

「どういうことですか?」

 

 

私の答えを理解できない様子の海未と花陽。他のみんなも訝しげな表情でこっちを見ていた。

 

 

「あんたたちと関わるまで考えもしなかったけど」

 

 

茜は「あの日」から、ほとんど私以外と、私が関わらない人と接触しなくなった。

 

 

中学も、高校も、頭いいくせにわざわざ私と同じ学校を選んでまで側にいてくれた。私はそれが嬉しかったし、茜も当然のように喜んでいた。いつも私のためにって言って私のわがままを聞いてくれて、部活作るのも手伝ってくれた。

 

 

それは、全部「()()()」から。

 

 

それが、茜と穂乃果たちが関わり始めてから変わりだしていた。

 

 

少しだけ、本当に少しだけだけど、「あの日」以前の茜に。

 

 

「…茜があんなに歪んじゃったのは、私のせいなのよ」

 

 

きっと「あの日」が。

 

 

私たちを変えてしまったんだ。

 

 

 

 

「…何だかよくわかりませんけど、」

 

 

しばらくの無言の後、穂乃果が口を開いた。

 

 

「波浜先輩はいい人ですよね?」

「初ライブの時も照明やってくれたんだよね!」

「練習も彼のできる範囲で協力してくれますし」

「…悔しいけど、背中押してくれたし」

「私たちの体調管理もしてくださってるし」

「なんだかんだいって優しいにゃ!」

 

 

穂乃果に続いてみんながそれぞれ茜のいいとこをあげていく。何よ、茜のいいとこは私が一番…げふん。

 

 

とにかく、みんな本来の茜を無意識に感じているようだ。今までの茜なら、私以外に優しくしたりはしなかったはずなのに。

 

 

この子たちとなら、元の茜を取り戻せるかもしれない。

 

 

「…そうね。茜はいいやつよ。それより早く柔軟やって茜を追いかけましょ」

 

 

 

 

 

茜は、私の本気の笑顔が見たいって言ってくれた。

 

 

でもね。

 

 

それは私も一緒よ。

 

 

私も、あんたの心からの笑顔が見たいのよ。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

シリアス感出てきました。いやシリアスするならシリアスな場面に合わせようかと…。波浜少年に何があったかはアニメ一期終盤くらいに公開予定です。9人も話作らなきゃいけないので波浜君の救済はかなり早め。



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