笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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近眼と申します。拙作を読んでいただきありがとうございます。

拙い文章ですが、頑張って書いていきます。




序文:うちの幼馴染はダイナマイトかわいい

 

「スクールアイドルやるわよ!!」

 

 

 

僕の幼馴染が放課後にそんなことを言い始めたのは高校1年の時。共学化された音ノ木坂学院は、その甲斐もなく男子生徒はさっぱり入らず、この学年では男子生徒は僕だけだった。非常に気まずかったが、3クラスあるこの学年でたまたま幼馴染が同じクラスだったのは相当僥倖だったと言える。まあおかげでこのちょこまか動く幼馴染とばっかりしゃべることになったけど。

 

 

「ちょっと茜、聞いてる?!」

「聞いてる聞いてる、聞いてますよまったく。何でとは聞かないけど、思ったより決断が早かったね」

「そりゃもう、A-RISEのライブ見ちゃったらやらざるを得ないわよ!」

 

 

この幼馴染…矢澤にこちゃんはもう驚くほどアイドルが好きで、自分もアイドルになる!と言って何年経ったか数えるのがめんどくさくなったくらい昔からドルオタだ。だったらアイドル養成所でも行きなさいよとは思うけど、この子の家はそこまで裕福ではないので普通に高校行くのが限界だったのだろう。勉強できないなりに頑張って公立高校に入ったわけだし。あと「スクールアイドル」というものが台頭してきたのも都合がよかっただろう。普通に高校行きながらアイドルもできる…かもしれない、って感じで。

 

 

で。

 

 

「A-RISEねえ」

「何よ。知らないとは言わせないわよ」

「君が散々教えてくれたのに知らないわけないだろう」

「ふふん、やっぱりA-RISEともなると茜みたいな凡人にも名が知れ渡っているのね…!」

「だから君が一方的に教えてきたんだろうに」

 

 

そう、A-RISEという名のスクールアイドル。同じ秋葉原のUTX高校で結成された女の子3人組は、急速に人気を集めて一世を風靡するほどの存在となっている。確か同い年だったはずだけど、大したもんだよねほんと。

 

 

だけどそれよりも。

 

 

「でもメンバーに当てはあるの」

 

 

確か彼女もそこまで友達いなかった気がする。いないことはないと思うが、始終僕に話しかけてくるあたりで察せる。まあ僕も友達いないわけだけど。だって男子だし。

 

 

「まず茜でしょ」

「待って」

「…あとは勧誘で頑張るわ」

「待って。まず勝手に僕を勘定にいれないで。しかも僕以外当てはないのかよ」

「大丈夫、茜小さいから多分女装いけるわ」

「ふざけろ」

 

 

小さいのは否定しない。身長157cm、体重47kgじゃそこらの女子より小さいし軽い。だからって女装するほど割り切れない。あと僕は踊れない。

 

 

あともう一つ理由がある。

 

 

「何より『本職』に差し障るから無理だよ」

 

 

僕はグラフィックデザイナーとして仕事をさせてもらっている。元々絵を描いてネットにあげてたのが会社のお偉いさんの目に止まり、お誘いを受けたのだ。それなりの報酬ももらえるし、在宅勤務だし、時間縛られないしで高校生の身にはありがたい処遇だ。ただ、あんまり学校と本職以外に時間がほぼ取れないのは困ったところ。まあバイトしてると思えばいいか。

 

 

「うー、それ言われると困るわね」

 

 

机にへたばってのび〜っとしながら唸るにこちゃん。猫っぽい。いや猫っぽいとかの前のその机僕の机だから。っていうか本職に差し障らなかったら本気で女装させる気だったのか。こわ。

 

 

「やれるとしてもマネージャーくらいだよ」

「じゃああと3人は集めないと部活としては承認してもらえないのわけね」

「しまった、やるとは言ってないのにいらんこと言ったせいで頭数に入れられてしまった」

「やらないの?」

「やるけどさ」

 

 

まあ、なんだかんだ言って彼女に協力しないという選択肢はない。

 

 

幼馴染がずっと昔からの夢を叶えようとしているんだ。それを一番近くで見てきた僕が、「そうなの、頑張れ」で送り出すのは薄情が過ぎるし、個人的に気に入らない。

 

 

大事な人のためになら、きっと何だってできる。

 

 

「自分で言っといてなんだけど、無理しなくてもいいのよ。だってあんた…」

「無理なんかないよ。にこちゃんのためなら僕は何だってできるから」

「…平気な顔で恥ずかしいこと言わないでくれる?」

 

 

こっちを気にかけてくれる優しい幼馴染に笑顔で返事をすると、当の幼馴染さんは顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。アイドル目指すくせに照れ屋なのは大丈夫なんだろうか。

 

 

「ははは、ごめんごめん。ともかくメンバー集めないとね。どうやって勧誘するの?」

「そりゃチラシ配って宣伝するのよ」

「まあ王道だね。で、チラシはどうするの?」

「…」

「…」

「…茜、頼んだわよ」

「だと思ったよ」

 

 

手伝うと言った手前断れないけどさ。

雑務を全部僕に投げる気じゃないよなこの子。

 

 

 

 

 

 

チラシを用意して、2人でビラまきして。

 

 

にこちゃんが初めて人を連れてきた時には2人で引くほど喜んだ。

 

 

最終的にはダンサー5人、マネージャー1人で部活承認要件を満たし、無事「アイドル研究部」は発足した。名前をつけたのはにこちゃん。スクールアイドル部にしなくていいのか聞いたら、

 

 

「私たちはスクールアイドルの枠にとらわれないのよ!」

 

 

などと大層なことを言ってた。ほんとに好きなことに関しては全力投球の子だ。眩しい。

 

 

初ライブはそんなにお客さんいなかったけど、結構お褒めの言葉を頂いた。もちろんダメ出しもあったけど、にこちゃんは全部踏み越えていくつもりのようだ。頼もしい限り。

 

 

舞台衣装はやっぱり僕に投げられ、まあ確かに手先器用なのは否定しないけど、5人分の衣装を作るのは骨が折れた。でもまあ、にこちゃんが笑顔でいてくれるなら文句は言わないし、なんだかんだ僕も楽しかった。

 

 

 

 

このまま順調にスクールアイドルやってくれるのかと思ってた。

 

 

 

 

にこちゃんは好きなことに対しては妥協を許さなかった。

 

 

他のメンバーの子はそれに耐え切れずに、1人、また1人と抜けていってしまった。僕も必死に引き止めたけど、1人としてここに繋ぎ止めることは叶わなかった。

 

 

2年生に上がるよりも前に、部員は僕とにこちゃんだけになってしまった。

 

 

それからにこちゃんはあんまり笑顔を見せないようになってしまった。

 

 

僕はにこちゃんの笑顔を取り戻したくて、あっちこっち駆けずり回った。メンバーを探したり、ビラまきしたり。寝る間も惜しんで頑張っていた。

 

 

 

 

「…もう、いいわよ。茜。そんなに頑張らなくて」

 

 

放課後の部室で、にこちゃんが机に突っ伏しながら、呟くほどの音量で僕に言った。もう全部諦めてしまったような声で、でも反論も許さないような鋭さで、新しいチラシを描いてた僕の手は動かなくなってしまった。

 

 

「私は、あんたと一緒にいられる場所ができただけで満足だから」

 

 

そう言って彼女は顔を上げ、静かに笑って見せた。笑っていたけど、その裏で泣いているのが僕には見えた。

 

 

「…そうか」

 

 

僕も笑って返した。

 

 

僕の笑顔は、彼女にはどんな笑顔に見えただろう。僕がにこちゃんに見たように、泣いて見えただろうか。彼女はそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

にこちゃんの笑顔は魔法だ。

 

 

その笑顔を見る人みんなに笑顔を伝播させる、世界一平和で宇宙一尊い笑顔の魔法。

 

 

僕はその笑顔を守りたかった。

 

 

また心から笑ってほしかった。

 

 

今回は守れなかったけど、彼女は生きてるから、取り返せる。

 

 

諦めない。たとえにこちゃん本人が諦めても、僕が彼女の夢を諦めない。

 

 

取り返しがつかなくなる前に。

 

 

 

 

 

僕が。

 

 

波浜茜が。

 

 

にこちゃんの笑顔の魔法を叶えるんだ。

 

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

実は既に20話くらいまで書いてあります。

ちょこちょこ修正しつつ適度に投稿していこうと思います。

どうぞよろしくお願いします。

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