笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼
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ご覧いただきありがとうございます。

今回もお気に入りしてくださった方がいらっしゃいました。ありがとうございます。また寿命が伸びました。え?このノリいい加減飽きた?なんと言われようと私はお気に入りしてくださった方への敬意を怠らない!!
あと17話が16話のUA超えてるのは何故でしょうか。鬼鮫先生の名言効果でしょうか。お身体に触りますよ()

今回はオリジナル回、残る男たち総出演です。9人も覚えていられるか!!って言われそう。

というわけで、どうぞご覧ください。




幕間:まだ見ぬ者たち

 

 

 

 

俺こと天童一位は、今日は喫茶店にて舞台の打ち合わせに来ている。舞台のモデルとなって頂いた天才文学者・松下明(ペンネームは柳新一郎)と、天才俳優・御影大地の2人が今、俺の目の前に座っている。

 

 

松下先生(18歳)は、茜ほどではないが背も低く線も細いメガネ系男子だが、俺と同期であるにも関わらず単身イギリスに留学して博士号を取得し、既に准教授の地位にいるスーパーアクティブバケモン野郎だ。まあかく言う俺も天才劇作家なわけだから人のことは言えない。齢18で年収700万なら凄いもんだろう。脚本作りに伴う著作権料とか印税とかが格が違うんだよ格が。

 

 

大地も同じく18歳で、背は高いわ体格いいわ顔はいいわ声はいいわで人生勝ち組野郎だ。しかも努力家で謙虚という人生のチーターだ。背後から刺されても不思議じゃない。俺も負けてないけどな。身長178cm、体重75kg、握力は42kg。あれ、割と普通じゃね?大地死すべし。

 

 

「ちくしょうこれだから人生はっ!!!!!!」

「…突然何言ってんの天童」

「お店の中ですから、あまり騒がないように」

 

 

ダァン!!!と喫茶店の机に拳を叩きつけると、大地からも松下先生からも冷やかな視線とお言葉を頂いた。ちくしょう人生勝ち組野郎どもめ、脚本家なめんな。全然モテないんだぞ。涙出てきた。

 

 

「俺は今人生の理不尽さに必死に抵抗してんだよ」

「あー、病院行く?」

「病院で治るでしょうか」

「しばくぞ」

 

 

今すぐその可哀想なモノを見る目を止めるんだ。泣くぞ。

 

 

「天童、今日は舞台の打ち合わせに来たんだろう?よくわからないリアクションしてる場合じゃないよ」

「ド正論過ぎてぐうの音も出ねぇ」

 

 

大地の諭すような言葉で我に帰る。そうだ絶望してる場合じゃねえ。

 

 

「まあ今日は大地に松下先生のパーソナリティを掴んでもらうための会食だ。ただ飲んで食ってしてればいいぜ」

 

 

実在する人物をモデルにする場合は、できるだけ本人に近い言動を心がけたい。その方がリアリティが出るし、見ている人もわざとらしさを感じにくい。それは脚本家の自分だけでなく、演じる側である俳優にも頼んでいることだ。大地は良く出演してもらっているからそこら辺の勝手はわかってくれているだろう。

 

 

「僕のことは先生なんて呼ばなくていいですよ、同い年なんですし」

「そうか?じゃあそっちも敬語じゃなくていいぜ、明」

「じゃあお言葉に甘えて。でもある程度の敬語は癖なので許してくださいね」

 

 

とりあえず向こうも堅苦しいのは避けたいようで好都合。やっぱり縁のあった人とは仲良くしたい。

 

 

「にしてもいきなり名前呼びかい?なかなか大胆だな」

「大地もそろそろ俺を名前で呼んでいいんだぜ?」

「やだよ、君の名前『一位』じゃないか。人の名前って感じがしない」

「失礼極まる」

 

 

仲良くしたいって言ってんだろ人の名前をバカにすんなちくしょう。

 

 

「僕はいい名前だと思いますよ。名前負けしてる感は否めないけど」

「あんたも大概失礼だなおい」

 

 

味方はいなかった。帰りたい。

 

 

「天童は置いといて。松下先生…おっと、松下君でいいのかな?」

「呼び捨てで構わないよ、御影君」

「天童じゃあるまいし、流石にいきなり呼び捨ては厳しいよ。松下君は文学者らしいけど、実際何してるの?」

「主に文献の解釈かな。時代は古代から現代まで、世界各国の文学作品を評価している」

「へえ…なんか想像も及ばないな」

 

 

本当に置いてかれた。

 

 

「あれ、でもペンネームの柳新一郎って小説家だよね?小説も書いてるの?」

「ええ。それに小説だけではなく詩も書いていますよ。学んだ文学の叡智を形にしてみたくて始めたんだけど、意外と好評で」

「おうおう、今回の舞台も柳新一郎の詩集、『未来の花』が題材だぜ。小説は結構有名だが、詩集はなかなか手を出す人が少ないからな。俺の舞台で広めようかと思ってよ」

「急に復活したね」

 

 

何を隠そう今回の舞台、この俺が詩集「未来の花」に感銘を受けて、せっかくだから世に広めようと思って作った劇なのだ。柳新一郎という名は小説の分野では有名なのだが、詩集となるとそれほど出回っていない。そもそも詩集を買い求める人が減ったというのもあるだろうが、お蔵入りにするにはとても勿体ない。なに?詩集読んでるなんて意外だって?脚本家であり劇作家なんだからそこら辺の人の数倍本読んでるわなめんなばーか。

 

 

「これでも結構柳新一郎の作品は読んでるんだぜ。意外かもしれねーがな」

「意外だね」

「ノータイムで答えたなお前」

 

 

そんなに意外か。泣くぞ。

 

 

「普段どんな扱いを受けてるかが如実に現れてますね」

「泣きたい」

「まあ天童なんてそんなもんだよ」

「キレそう」

 

 

いい加減キレていいか?

 

 

「他人との関わり方が明らかというのは、人となりが把握しやすいという意味では非常に良いと思いますよ。今日はそういう会なんでしょう?」

「俺がわかりやすくてもなー」

「監督が親しみやすい人だとわかったら安心すると思うよ」

「大地、お前ほんとにそう思ってんのか」

「心外だな、思ってるよ」

「…そうか、それはすまん」

「まあ大体いじりやすいからいじってるだけだけど」

「ようし歯を食いしばれ」

 

 

一瞬反省した俺を殴りたい。いやその前に大地を殴る。許さん。

 

 

「喫茶店で暴れないでくださいよ、追い出されますよ」

「何も言えん」

「あはは、なんだかんだで僕らいいトリオかもね。いじり役いじられ役諌め役って」

「俺の役回りが損しかねぇ」

「愛されてるじゃないか」

「こんな愛いらねえ」

 

 

イジりを愛と形容する文化はどこから来たんだ。オラこんな愛嫌だ。許さん。今日俺誰も許してねぇな。

 

 

「そんないじられ役の天童君は最近のトレンドとか知りませんか?」

「ツッコまんぞ、おおツッコまんぞ。最近のトレンドっつったらあれだろ、スクールアイドル」

「天童、高校生に手を出すのはどうかと」

「出さねえよ。つか最大でも3歳しか変わんねえじゃねか」

「いや天童が女子高生と付き合ってるって言われたらちょっと警察呼んじゃう」

 

 

不本意だが字面だけ見ると確かに結構ヤバイ香りがする。実際手を出す気なんてさらさらないわけだが。ないぞ?何疑いの目を向けてんだ。

 

 

「別に手を出そうなんて考えてねえ。SoSの野郎がよく話してるから興味が出ただけだ」

 

 

SoSは、サウンドオブスカーレット(Sound of Scarlet)…つまり茜のことだ。基本的にA-phy(えいさい)の3人で俺意外の2人(茜と桜)は外部への露出をめっちゃ嫌うため、極力本名は出さないようにしているのだ。面倒なやつらめ。

 

 

「SoS…グラフィックデザイナーだよね。アイドル好きなの?」

「いや、幼馴染がスクールアイドルやってるから話題に上るだけだと思うぞ」

「スクールアイドルといえば、μ'sの作詞の方が以前、僕の詩を引用したいと申し出がありましたね」

「マジで」

 

 

大地はともかく、明はアイドルなど興味ないとか思っていたのだが、まさかまさかのμ'sに関わりがあった。世間狭し。

 

 

「アイドルが僕の詩を読んでいるなんて想像もしませんでしたよ」

「だろうね」

「教養の深いヤツもいるもんだな」

 

 

にこちゃんもだいたいオツムは弱い子だし、リーダーの子もあんなんだし、類友というヤツでそんな子ばっかりかと思ってた。

 

 

「そもそも谷川俊太郎先生や宮沢賢治先生、寺山修司先生の詩をそのまま歌にしているスクールアイドルもいるそうですからね」

「合唱曲かよ」

「…ごめん、寺山修司ってどなたかな」

「…なんですって?」

「お前…寺山修司知らんのか…」

「あー、うん…えっなにこれ、地雷踏んだ?」

 

 

詩人に詳しい教養人たちの前で有名な詩人を知らぬと答えるとは浅はかなり、大地。

 

 

この後の喫茶店会議は、本気を出した明と俺が閉店まで大地に詩人講習を行って終わってしまった。…まあ、これで大地も明がどういう人物かわかっただろ、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

「以上が手術の概要だ。波浜の方は成功率63%、雪村は83%」

「低いよ」

「贅沢を言うな…肺の手術だぞ」

「だって失敗したら死ぬやつじゃん。ゆっきーとは違うんだ」

「俺だって失敗していいとは微塵も思ってないんだがな」

 

 

僕は今日は小さな病院に来ている。べつに病気になったわけではなく、とある縁で知り合った2人の天才と話をしに来たのだ。

 

 

「私の右手と高性能な人工肺でもあれば成功率は格段に上がるんだがな、左手一本かつ臓器移植、しかも患者の体力が最底辺だとこれくらいが限界だ」

「十分化け物だと思うよ」

 

 

今、僕の前でホワイトボードに僕の肺機能再生手術案を書いているのは、18歳にして医師免許と医学部の博士号を持つ天才もとい化け物、藤牧蓮慈。右腕と右目を失っているため白衣の袖に右腕は入っていないしいつも眼帯をしているけど、不思議と違和感は感じない。そんなことより、ぶっちゃけ目が死んでることの方が心配だ。

 

 

「俺は今の義足と車椅子で十分だ。そもそも足の移植なんて聞いたことがない」

「前例がないわけじゃないから安心するといい」

「そういう問題かな」

 

 

そして、僕の隣で足の移植手術案の説明を受けているのが今話題沸騰中の天才ファッションデザイナー、雪村瑞貴。彼は両足を失っているため基本的には車椅子生活であり、今日も車椅子で病院に来ている。彼は別に目は死んでいないが、だいたいいつも半目なので気怠げに見える。でも車椅子には裁縫道具が大量に搭載されてるし、そんなのが病院に入っちゃっていいのだろうか。

 

 

今日の話し相手はこんな脱力系天才2人だ。僕も割と脱力系だから多分第三者から見たらきっととてもユルい。

 

 

「俺は足を使うこと自体が少ないからな、高い金を払ってまで足を手に入れようとは思わない」

「僕だってにこちゃんに会えなくなるリスクは払いたくないよ」

「またにこちゃんか」

「またにこちゃんだよ」

 

 

僕の人生はにこちゃんでできてるんだってば。

 

 

「その矢澤嬢とより快適に過ごせるようになるはずなんだがな」

「それで命失うわけにはいかないよ」

「難儀なやつだ」

「命は投げ捨てるものではないんだよ」

 

 

藤牧(まっきー)は医者なはずなのに命を軽視しすぎじゃないだろうか。

 

 

にこちゃんの話題を出すと、雪村(ゆっきー)が思い出したように口を開いた。

 

 

「そう、矢澤さんといえば、μ'sのメンバーだったよな」

「そうだね。ゆっきーがμ'sに興味あるなんて意外だね」

「ああ、アイドル自体は毛ほども興味無いんだが」

「それはそれで悲しいね」

 

 

真顔でアイドル全否定されるとにこちゃんラバーとしては悲しくなってくる。毛ほどは興味持ちなさいよ。いや毛ほどの興味でも無いと同義か。

 

 

「μ'sの衣装がよくできていると思ってな」

「ああ、南さんか。上手だよね、僕より」

「お前の専門は絵だろうが」

「演出も得意だよ」

 

 

グラフィックデザイナーだけど一芸特化じゃ一流とは言えないもんね。なんかの漫画で似たようなセリフ聞いたな。

 

 

「そりゃ服くらい作れるだろう」

「「お前は黙れ」」

「私が何をしたというんだ」

 

 

どうせ何でもできるバケモンは口を挟まないでください。

 

 

「とにかく一度会ってみたいものだ。まだまだ改良の余地もあるしな」

「という口実でナンパするんだね」

「お前は俺を何だと思っている」

「そんなやつだとは思わなかった」

「轢くぞ」

「誠に悪うござんした」

 

 

からかってたら真顔で脅された。ゆっきーはいつも真顔だから冗談なのかマジなのかわかんない。困る。

 

 

「μ'sに会いに行くなら私も呼んでくれ。西木野先生の娘さんに挨拶しておかなければ」

「面識あったのかい」

「そもそも私たちが入院していたのは西木野総合病院だろう。私と波浜は特に危篤だったからか、お嬢がよく病室に来ていたよ」

「覚えて無いんだけど」

「肺が潰れて意識不明だった患者が覚えてるわけないだろう」

「確かに」

 

 

意識不明なら外の様子がわからなくてもしかたないね。

 

 

僕ら3人は偶然同じバスに乗り合わせ、偶然交通事故に遭い、まっきーは右半身を、ゆっきーは下半身を、そして僕は胸をそれぞれ破壊されていた。僕は言うまでもなく、まっきーは顔まで被害が及んでいたしゆっきーの出血も尋常じゃなかったはずだけど、命が助かったのは単に西木野先生の手腕のおかげだろう。今も定期検診ではお世話になってるし。西木野さんのことは今の今まで知らなかったけど。

 

 

ちなみに、事故の生存者は4人しかいない。この集まりは事故生存者の会みたいなものなのだ。

 

 

「そういうことならちゃんと挨拶しに行かなきゃね」

「しかし私もお嬢に会うのは10年ぶりくらいだから、向こうは覚えてないかもしれないな」

「覚えてないだろ、当時向こうは5歳だぞ」

「5歳なら覚えてるかもしれない」

「お前、全人類がお前と同等に記憶残せると思うなよ」

 

 

まっきーは天才すぎて思考回路が僕らと合わない。5歳のときのことなんてそうそう覚えてないよ。僕もにこちゃんしか覚えてない。いや流石にそんなことないか。

 

 

「まあ予定が合いそうな日があれば連絡するよ。彼女らをここに連れてくる方が楽かな」

「私のスケジュール的にはそれがありがたいな…そろそろ時間だ」

 

 

そう言うと同時に、ノックとともに「先生、診察のお時間です」と看護師さんの声が聞こえた。看護師さんも恐らく立派に医学部看護学科とか出てるだろうに、未成年を先生呼ばわりしなきゃいけないとはちょっと切ない。強く生きて。

 

 

「そういうわけだ。また後日」

「うん。さあ僕らも帰ろうか、ゆっきー押してくよ」

「やめろ。虚弱体質に車椅子押されたら逆に心臓に悪い」

 

 

無視して車椅子を押しながら部屋を出る。今日も、というか今回も被害者の会は他愛もない話で終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ぴんぽーん、と軽い音が鳴る。

 

 

それと同時に目の前の扉が勝手に開きました。入ってよいということです。

 

 

私…小泉花陽がこの家を訪れるのは一ヶ月ぶりくらいになります。最近μ'sに入ったこともあって忙しく、なかなか来れなかったんです。長らく顔を見せてなかったので門前払いを食らうかも…と内心不安だったのですが、杞憂だったようです。

 

 

扉をくぐって靴を脱ぎ、きちんと揃えてから廊下を進む。途中にある居間や和室は生活感がなく、人が住んでいるとはとても思えません。一瞬ほんとうに誰もいないのか心配になりましたが、お風呂やキッチンは少し使われた形跡があったので一安心です。でも、逆に一ヶ月ぶりで少ししか使われた形跡がなかったということに気づいてやっぱり心配になりました。

 

廊下の突き当たりには金属製の扉と、壁にボタンがついています。ボタンを押すと扉は滑らかに開き、中にお手洗いより少し広いくらいの空間が現れました。

 

 

そう、エレベーターです。

 

 

さっきまで見えていた民家とは明らかにマッチしない設備を使って、私は地下に降りていきます。

 

 

数十秒ほどかけて降下した後、チーンという高い音とともに再び扉が開くと、そこには白色の、アキバドームを超えるんじゃないかと思うほど広大な地下施設がありました。嫌な匂いもなく、音も微かに聞こえる機械音だけ。そんな空間を一人で歩いていると足音さえひどく大きく聞こえてしまいます。

 

 

しばらく歩くと、白衣を着た男の子が見えてきました。沢山のモニターの前に座り、何やら入力していたようですが、私が近づくとおもむろに立ち上がってこちらを振り向きました。

 

 

「…もう来ないかと思ったんだがね」

 

 

目元の隠れたボサボサの髪、痩せた体、硬い表情、高い身長。ぱっと見は不健康な科学者みたいな男の子。

 

 

「ごめんね。μ'sの活動が忙しくて」

 

 

湯川照真。

 

 

凛ちゃんにも秘密の、世界に秘密の私の幼馴染。

 

 

「来てくれと頼んだ覚えもない。わざわざ謝る必要はない。…茶でも飲んでいけ、折角きたんだし」

 

 

抑揚のない声でお茶を進める照真くん。表情が変わらないため分かりにくいですけど、彼はいつも人のことを気にかけている優しい人なんです。

 

 

「あ、ありがとう。…今は何を…」

「依頼があったから義手を作っていた。肩から先がないクライアントは初めてだな」

 

 

自分のお茶も注いだ照真くんはモニターの一つを顎で指す。そのモニターには沢山の線で描かれた腕のような機械が写っていました。なんだか想像していた義手と違います。映画のロボットみたいです。

 

 

「肩から受け取った信号をどれだけ早く正確に伝達し、人工筋肉に伝えられるかが肝だな。普通依頼されるものは肘から先ばかりだったが、今回は肘や肩まで動かさねばならん…。筋電義手の手法じゃ手詰まりかもしれん、肩に直接電極をつっこみたいところだが、それだと風呂とかでの劣化とそれによる疾病が心配だしな…」

 

 

よくわかんないことをぶつぶつ言いながらふらふら歩く照真くん。明らかに真っ直ぐ立っていられない状態です。

 

 

「…あ、あの…照真くん、ご飯ちゃんと食べてる…?」

「飯は…最後いつ食ったかな…」

「うう…やっぱり…!」

 

 

私は急いでエレベーターへ戻り、地上に戻ります。やっぱりというかなんというか、昔から集中するとご飯もまともに食べない人だったのでなんとなく予想してましたけど…!

 

 

地上についてからキッチンにお邪魔すると、冷蔵庫の中身を確認。案の定ほとんど何もは入っていなかったので急いで靴を履いて玄関から飛び出します。時間も惜しいので近くのスーパーでレトルト食品を多めに買ってすぐ帰宅。今度は靴も揃えずキッチンに向かい、レトルト食品をレンジで温めてエレベーターを降ります。とりあえず炒飯にしました。お野菜も入ってますし。

 

 

「はあ、はあ…こ、これ、食べて…!」

「…早くなったな」

「そんなこと言ってないで食べてください!」

「んぐっ」

 

 

他人事のようにぼーっとしている照真くんの口に、焦っていた私は炒飯をすくったスプーンを突っ込んじゃいました。

 

 

「あっちぃ?!」

「あっ!ごっごごごごめんなさい!」

 

 

出来立てなのを忘れていました。

 

 

「おっ、おまっ」

「あわわ、だ、誰か助けてぇー!」

「落ち着け、ここには僕と君しかいない。…火傷したかもしれないが平気だ、ゆっくり食えば問題ない」

 

 

しゅんとする私を尻目に、炒飯に息をふーふーして冷ましながら食べる照真くん。多分火傷しているのですが、それでも彼は文句は言いません。何度私がドジしても、一度としてそれを諌めたことはありません。

 

 

誰も知りませんが、本当に優しい人なんです。

 

 

「…うん、美味い。久しぶりに飯食うとやたら美味く感じるな」

「ほんとにいつから食べてなかったの…」

 

 

呆れる私を見て目を細くする照真くん。ほとんど表情は変わっていませんが、これが彼の精一杯の笑顔であることを私は知っています。

 

 

彼はサヴァン症候群だそうです。

 

 

普通の人の脳とは構造が異なる現象。その多くが凄まじい記憶力などの天才的才能をもたらし、その代償のように対人関係や言語能力に異常をきたすと聞きます。

 

 

照真くんは天才と呼ぶことすら憚られるほど卓越した科学・工学の知識と能力を持ち、数々の機械や理論を独自に作り上げたにも関わらず、感情表現ができず、一部以外の人間と直接コミュニケーションを取ることができないため、世にその技術が広まることはありませんでした。

 

 

彼のご両親は飛行機事故で亡くなられたそうです。それは小学校2年生のときのことで、それから彼が学校に来ることは無くなりました。そのときに心配になって、幼馴染ということもあって時々様子を見に来るようになって、今に至ります。

 

 

彼は「外」には出ないため、一般常識が欠けているところがあるので、ある意味引きこもっていた方がトラブルは少なそうですが。

 

 

「…ご馳走さま。助かった」

「ううん、どういたしまして」

 

 

お礼に対して笑顔で返事をすると、照真くんも目を細め返してくれました。

 

 

「あ、そうだ。μ'sね、またメンバーが増えて9人になったんだよ」

「ああ、この前のライブの動画を見たから知っている」

「あ、そうなん…って照真くんネット使えたの?!」

「そりゃ使えるだろ…近い」

 

 

びっくりして大きな声を出してしまいました。だって照真くんがネット使ってる姿なんて想像できないもん…!

 

 

「俺謹製のマザーコンピュータがあればネットくらい繋げる。…ほら」

 

 

そう言って照真くんが真顔で手を横に振ると、沢山あるモニターの一つに動画サイトが映し出されました。なんだか他の画面に映る様々な設計図や理論、プログラムと並べると凄く浮きます。あと動画サイトの開き方がいちいちカッコいいです。近未来です。

 

 

「ちゃんと今までの花陽の活躍も見てる。…とは言ってもまだ2曲しか出てないか」

「うぅ…」

「…何恥ずかしがってんだ」

「恥ずかしいですよっ!!」

 

 

男の子に「ちゃんと見てる」なんて言われると、いくら幼馴染といえども少しくらいドキドキします。

 

 

「まあ、ここから応援しているから無理に来なくてもいいんだぞ」

「…でも、そうしたら照真くんご飯食べないよね?」

「……………………そんなことはない」

「目を見て言ってください」

 

 

視線を思いっきり逸らす照真くん。やっぱりたまには会いに来ないと心配です…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザグッ

 

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

 

布を裂く音と樹脂を貫く音が鈍く響く。足を動かすと今度はギャリギャリと金属が擦れる音がした。

 

 

足元に散らばるのは、ハサミ、カッターナイフ、剪定鋏、サバイバルナイフ、包丁、メスなど入手が楽なものから困難な物まで様々。それらを息を切らして眺める。震える手に握られているのは果物ナイフで、暗い室内でも刃に光が反射するほど鋭く研がれている。

 

 

目の前のマネキンはズタボロになっていて、いい加減新調しなければならなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

狙った位置に付く傷はだいぶ増えたが、完全じゃない。反射的に動いて出来てしまった傷も少なくない。

 

 

 

 

 

違う、こうじゃない。

 

 

 

 

 

自身に言い聞かせるように呟いて、また果物ナイフを振るう。

 

 

 

狙う場所は—————————。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

裏の情報が出たり、ラスト不穏だったり忙しい回になってしまいました。最後誰なんでしょうね。

波浜茜、水橋桜、滞嶺創一郎、天童一位、藤牧蓮慈、雪村瑞貴、松下明、御影大地、湯川照真。
この9人が全オリキャラになります。テンション低いやつが多いのは私の趣味です。ツンデレがいいんです(?)。天童さんがテンション高すぎて浮くわ浮くわ…笑。

どこかでまとめた方が良さそうですが、どうやってまとめるべきかわがんにゃいので思いついたらまとめます。



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