笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼
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ご覧いただきありがとうございます。

この次のお話あたりから週一投稿にしようかなあと思っています。何故かって?下書きに追いつきそうで怖いんですよ!!!(ゆーて今書いてる下書きは39話)
ストックは無いと怖いんです。

あと今回もオリジナル回です。

というわけで、どうぞご覧ください。

今回も一万字注意報です(というか18,000あったので二つにわけました)


異性がみんな同じ考え方してるわけがない

 

 

μ'sのライブを手伝ってきた。

 

 

狙ってやったわけじゃない。たまたまμ'sのライブ会場予定地で、簡易ステージの骨組みの前でうんうん唸ってるちっこいやつがいたから、恐らくμ'sのステージ設営に困っているのだろうと思って手を貸しただけだ。そのせいで…いや、そのおかげでμ'sのメンバー全員と顔見知りになれたのは僥倖だった。ただでさえ小泉、西木野、星空の3人と仲良くなれたのに、さらに面識が増えてスクールアイドルファンとしては願ったり叶ったりだ。

 

 

だが、ちっこい先輩のように彼女らの支援を真っ当にすることは難しいだろう。

 

 

なぜなら。

 

 

「兄さん、手伝うよ」

「先に全員呼んでこい」

「わかったよ。…おーい!ご飯だぞー!!」

 

 

弟の銀二郎がデカい声で呼ぶと、どたどたと数人が駆けてくる音が聞こえた。すぐさま居間に飛び込んできたのは四男の当四郎、次に末っ子の大五郎。最後に三男の迅三郎がのそのそ歩いてきた。

 

 

「テメェら飯だ!自分の飯は自分で運べ!」

「「はーい!」」

「うぁ〜い」

「兄さん、ぼくの出番が…」

「味噌汁注いどけ」

 

 

俺はこの5人兄弟の長男であり。

 

 

親は、いない。

 

 

死んだわけじゃない。いや、むしろ死んでいてくれた方がありがたいくらいだ。両親はどちらも遊び呆けて5年前に俺たち全員を捨てて出て行きやがった。当時俺はまだ10歳、それでも弟達を養わなければならなかった。幸い、クソ両親どもはロクに家事もしなかったため、代わりに家事をしていた俺が弟達を養うのは難しくなかった。

 

 

問題は金だ。

 

 

クソみたいな両親にまともに親族がいるわけなく、当時保護団体みたいなモノも知るわけなかったため、あらゆる手段でせめて飯くらいは確保してきた。これまた幸い、クソ親父からの遺伝で体格はかなりよく、10歳のクセに170cm近く身長があったためザルなバイトなら高校生で通じた。環境は良くなかったが金は稼げた。当然それでも足りないから、そこら辺のカツアゲ万引きをするような不良どもから金を巻き上げた。最初はボコボコにされたが、体を鍛えて鍛えて、より強く、より堅く、より強靭に鍛えあげたら車に撥ねられても無傷でいられるようになった。食事量は増えたが、その分金回りのいい力仕事もできるようになったし、不良が5人いようが10人いようが負けなくなったから金はギリギリ足りた。

 

 

「今日は煮魚と…インゲンかなこれ」

「ああ、サバ煮とインゲンの胡麻和え、白米、味噌汁。サバ安かったからな」

「えー、魚嫌いー」

「じゃあ食うな」

「やだー!」

「迅三郎、無言でこっちに寄越すな食え」

「うー」

 

 

魚が苦手な大五郎と迅三郎が嫌そうな顔をしているが、こっちも栄養に気を使って飯を作っている。嫌なら食わなくていい、他に食うものもないが。

 

 

金が足りたといっても、生活ギリギリの範囲。弟達も学校に行くようになると、当然俺の進学するための金額は足りるわけない。だから元々は中卒で働きに出るつもりだった。

 

 

予定が変わったのは、中3の夏だったか。

 

 

いつも通り授業が終わってから家に直帰し、荷物を置いて着替えてから町の路地裏に繰り出して不良どもの「狩り」に出ていたときのこと。

 

 

路地裏の中でも特に人目につかない袋小路から男性の小さい悲鳴と若い男の笑い声、そして殴打音が聞こえてきた。男性の悲鳴は少しでも気を抜いていたら聞こえなかったかもしれないほど小さく、おそらくかなり深刻な状態だと思った。鍛え抜いた足で一気に駆け抜け目的地にたどり着くと、薄汚い高校生か大学生くらいの不良10人ほどが、汚れた白いスーツを着たおっさんを取り囲んで、殴り、蹴り、場合によっては鉄パイプなんかでも殴打を繰り返していた。

 

 

そこから先はうろ覚えだ。

 

 

覚えてるのは、あまりの惨状にブチギレたこと、最初に数人を突き飛ばして轢き潰したこと、鉄パイプで殴られてもさほど痛くなかったこと、死者こそ出なかったが全員の意識を刈り取ったこと。

 

 

そして、瀕死のおっさんが泣きながら感謝していたこと。

 

 

俺は急いでおっさんを抱えて大通りまで走り、携帯なんて持ってなかったからそこらへんの通行人を脅して救急車を呼ばせた。待ってる間はおっさんの看病をしていた。なぜか俺の名前をやたら知りたがったから教えといた。救急車には乗るとスペースを使いすぎるから乗らず、そこでおっさんとは別れた。

 

 

「大兄貴!おかわり!」

「自分でとってこい。今日は2回までだ」

「わかった!!」

「…迅三郎、食わないならそれでいいが、代わりに食うもんはないぞ」

「うー」

「兄さん、ぬか漬けってあれもう食べれる?」

「食えなくはないが、まだ味はしみてないと思うぞ」

「じゃあまだ我慢しよう。僕もおかわり」

 

 

自分含めて、この兄弟は大概大食らいだ。おかわり回数を制限しないと喧嘩になる。特に白米。

 

 

おっさんを助けて1週間かそこらたった頃、身なりのいい女性とガタイのいいスーツ野郎がうちに来た。金持ちそうな人に面識はないが、女性は重々しく口を開き、あのおっさんが先日亡くなったことを俺に告げた。

 

 

それ自体は特に不思議でもなかった。まともな人間があれだけ暴行を受けたら内出血かなんかで死ねるとは思う。しかし、わからないのは何故それを俺に伝えにきたかということだ。あとどうやって住所を割り出したか。今でも不安なんだが、怪しい方法使ってねえだろうな。

 

 

なんでも、おっさんが死ぬ間際に書いた遺書に、財産の一部を俺に相続すると書かれていたらしいのだ。

 

 

全く意味がわからず、最初は断固反対していたのだが、女性(おっさんの奥さんらしい)が全く引き下がらなかったため渋々承諾した。後になっておっさんが俺の名前を聞いてきたのはこのためか、と思い至った。

 

 

金持ちそうには見えたが、相続なんて相続税が引かれるし大した額も残らないだろう…と思ったら物凄い金額が渡された(流石に当時も今も口座なんて持ってないので現ナマだった)。ドン引きした。後で聞いたところではほんとに有数の富豪さんだったらしい。すげぇ人助けてしまった。

 

 

『見ず知らずのおじさんを、危険を顧みず助けてくれた勇気ある少年に』。

 

 

遺言にはそう書かれていたそうだ。

 

 

おじさんっつーかおっさんだし、危険と思わなかったし、負けるなどとは微塵も思わなかった故に勇気があったというわけでもないから若干罪悪感が拭いきれないが、これは有意義に使わなければ、と思った。

 

 

弟達のために使おうかと思ったが、流石に大金すぎて何に使うか思いつかなかったから弟達に直接聞いてみた。そうしたら、口を揃えて「兄貴が高校行け」と言ってきた。銀二郎曰く、高卒の方が金の入りがいいだろうから、らしいが、本音は俺への恩返しのつもりだったのだろう。小生意気なことしやがってとは思ったが、愛すべき家族の訴えくらい甘んじて受け入れるべきだとも思った。

 

 

こう見えて勉強は問題ないのだ。むしろかなり成績は良い。弟達に教えなければならなかったこともあって勉強は真面目にしていた。だからおよそどこの学校にも行けたが、家から一番近いところを選んだら音ノ木坂になった。女子ばっかとか知らん。

 

 

「当四郎、悪いが風呂の準備してきてくれ。迅三郎が残さないか見張らなければならんからな」

「オッケーでありますよ大兄貴!!」

「兄さん、大五郎がいつのまにかいないけど」

「探してこい」

「たべてるー」

「食べてるアピールは一切れでも食ってから言え」

 

 

そして今に至る。今は部活も何もしていないから夕飯にも間に合うし、朝も全員の弁当作るくらいの余裕はある。

 

 

…前置きが随分と長くなってしまったが、俺は兄弟の世話をしなければならない以上、恒常的にμ'sの手伝いをする暇はない。既に寝る間も削るほどなのだ、雑事に追われている場合じゃない。

 

 

「兄さん、大五郎連れてきたよ」

「やぁーだーさかなたべたくないぃーー!」

「なら食わなくていいぞ」

「ほんと?!」

「まあ魚も肉の一種だし、今後魚類も肉類も大五郎には出せなくなるが仕方ないな」

「え」

「副菜がないと白米と味噌汁と…なんだ?サラダか?あとぬか漬け?くらいしか食わせられないが、本人が嫌と言うなら仕方ない」

「えっえっやだやだ」

「まあ好き嫌いは誰にでもあるもんな」

「やだー!お肉食べたい!」

「じゃあ魚も食え」

「やだ」

「ほう」

 

 

大五郎が駄々をこねて鬱陶しいから、口をこじ開けて煮魚の切れ端をぶち込んだ。吐かせないように口を手でロックしておく。空いてる手で逃げようとしていた迅三郎を捕捉。大五郎の絶叫が響く、我が家の日常は今日も滞りなく進む。

 

 

 

 

 

 

「滞嶺くん!」

「断る」

「まだ何も言ってないにゃ?!」

 

 

翌日の放課後、教室で席に座ってぼーっとしていたら星空が話しかけてきた。内容は分かりきっていたから即刻お断りした。これには星空の両サイドにいる西木野と小泉も苦笑い。

 

 

「凛、もう諦めなさいよ。1週間ずっとこの調子じゃない」

「嫌!凛は滞嶺くんに手伝って欲しいの!」

「た、滞嶺くん、どうしても…だめ、ですか?」

「ダメだ。μ'sのマネージャーなんかできるか」

 

 

そういうことだ。

 

 

この前のライブで手伝ってからやたらと勧誘されるようになった。朝も放課後もよく練習しているのは知っている、しかしそれを手伝う余裕はない。

 

 

「じゃあなんでオープンキャンパスのときは手伝ったのよ…」

「時間があったからな」

「今日は?!」

「ない」

「にゃあ〜」

 

 

残念そうにする星空。それほどまでに俺の手が必要だろうか。

 

 

「波浜先輩の代わりに飲み物持ってくれる人がほしいのに…」

「雑用じゃねえかよ」

 

 

安請け合いしなくてよかった…と思ったが、続く西木野の説明からするとそう単純な話でもないようだ。

 

 

「違うわよ。波浜先輩…小さい男子の先輩、理由は知らないけど信じられないほど体力と筋力がないのよ。おかげでマネージャーの仕事のうち、飲み物運んだり練習道具運んだりするのが凄く時間がかかって、そのせいで先輩ものすごく早起きしてくれてるみたいなの」

「この前は朝5時には来てたって言ってましたから、もう1人マネージャーさんがいたら負担が減るかなって思ってたんだけど…」

「本当に人間かあいつ」

「あいつって、先輩よ」

「真姫ちゃんもたまに敬語抜けてるからおあいこにゃ」

「うぇえ?!」

 

 

飲み物もロクに運べない男子なんて有史以来いただろうか。いたかもしれないが想像も及ばん。そういえば確かに、ステージ設営も自分は働いてなかったな。そういう理由か。

 

 

しかし、結局時間がないことに変わりはない。

 

 

「まあどんな理由があろうと無理なものは無理だ…他をあたれ」

「でも滞嶺くん、μ'sのファンだって聞いたにゃ」

「……知らん」

「今一瞬迷ったにゃ」

「迷ってねぇ」

「部室に伝伝伝もありますよ!!」

「なん…い、いや、時間は削れん」

「なんで一瞬揺らぐのよ…」

 

 

伝伝伝につられそうになったが、流石に弟達を捨て置くことはできない。μ'sの手伝いだってしたいのだが、兄弟を養う義務からは逃れられない。

 

 

「…ダメだ。どうしてもダメな理由がある。無理だ」

 

 

これは俺の家族の問題だ。そこにスクールアイドルをやってるような忙しい奴らを巻き込むわけにはいかないだろう。

 

 

 

 

 

 

「でも、理由があるってことは、それを解決すれば大丈夫ってことだよね!!」

 

 

 

 

 

「あぁ…あぁ?」

 

 

変な声が出た。

 

 

「だったらみんなで解決すればいいにゃ!みんなに相談しよ!!」

「…何勝手なこと言ってんだ」

「そうよ。そんな簡単な問題じゃないかもしれないじゃないの」

「ご、ご家庭の事情とかかもしれないし…」

「よーっし行っくにゃーー!」

「聞けよ」

 

 

狼狽えていたら強行突破された。なんて話を聞かないやつだ。これは波浜先輩も苦労していることだろう、そもそも西木野と小泉が既に辟易している様子だ。

 

 

「滞嶺くん早く早く!!」

「誰も行くっつってねーだろ」

「うにゃにゃにゃにゃ」

「押しても動かないのは確認しただろ。学習能力ねえのか」

「んぐぐぐぐ…今度は動くかもしれないじゃん!!」

「動かねえよ」

 

 

俺の体重を押すには一般の女子では筋力が圧倒的に足りない。無理がある。

 

 

「うう…どうやったら部室まで連れていけるの…」

「無理だ諦めろ」

 

 

ひたすら俺を押し続ける星空。この程度の障害は毛ほども効かない。そのまま立ち上がり、引き止めようと腰にしがみついてにゃーにゃー言う星空を引き摺りながら昇降口まで突き進む。最終的には練習に遅れるからといって西木野に連行されてどっか行った。嵐のようなやつだ。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、滞嶺君を連れて来たいから僕に相談に来たのね。何故僕に来たのかさっぱり不明だけど」

「だって男の子同士にゃ」

「男の子は同じ生物の一群じゃないんだよ」

 

 

放課後、練習前の部室にやってきた星空さんが僕に相談してきた。滞嶺君を連れてきたいのに来てくれないと。知るかよ。僕はにこちゃんと蜜月の時を過ごしてたんだぞ。ごめん蜜月は言いすぎたわ。

 

 

「なんか事情があるなら無理に引き止めてはいけないでしょ。複雑なご家庭かもしれないじゃないか」

「なんとかならないの?」

「何をなんとかするんだよ」

 

 

無理に引き止めるなと言っているじゃないか。

 

 

「だいたい僕は平気だって言ってるのに」

「どこが平気なのよ。今日も朝5時くらいに来てたんでしょ」

「なんか変かな」

「早起きすぎるでしょ!」

 

 

そんな早起きじゃないよ。家帰ってご飯食べてお風呂入って絵描いて12時には寝る。4時に起きて朝ごはん食べて出発して5時着。ほら4時間も寝てる。いや、最近はこっそりμ'sのグッズのデザイン作ってたからもっと寝るのは遅いか。仕方ないよ、依頼が来たんだもん。ご本人たちにはまだ内緒だけど。

 

 

「…これは本格的に滞嶺君を勧誘しなければいけませんね」

「そうね…そんなに早くからいるなんて知らなかったわ」

「というかにこっちじゃない限り気づけんなぁ」

 

 

なぜか哀れみの視線を向けてくる女神さんたち。なんでさ。にこちゃんのためなら無休で一生働けるよ。

 

 

「とにかく滞嶺くんの話を聞く場を準備しないと…」

「それなら簡単だよ!!」

 

 

急に高坂さんがでかい声で宣言してきた。さっきまで静かだったのに。いやうるさかったけど僕の耳に入ってなかっただけか。にこちゃんの声しか聞こえないもんな。

 

 

「あんな筋肉達磨は力ずくじゃ連れて来れないよ?」

「筋肉達磨って」

「うん、だから力ずくで連れていかなければいいんだよ!!」

「うん、何言ってるかわかんない」

 

 

彼女の中では理論が繋がってるのかもしれないが、僕にはさっぱり伝わらん。にこちゃんや絢瀬さん勧誘作戦のときも案外こんな感じだったのかもしれない。みんな察しがよい…いやみんなも首を捻ってる。やっぱりわかるように言いなさいよ。

 

 

そう要請したところ、高坂さんによる滞嶺君勧誘作戦の概要が伝えられた。まあ、なんというか、ゴリ押しだ。でもまあにこちゃんのときも絢瀬さんのときもゴリ押しだったし、ゴリ押しって実は結構いい手なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

いつも通り授業を受け、μ'sの一年生達と飯を食い、今日もさっさと帰る。帰って飯の準備だ。食料自体はまだあったはずだから、スーパーに寄る必要もないだろう。

 

 

「お邪魔します!!」

 

 

と思っていたのだが。

 

 

「滞嶺君はいますか!!」

 

 

なんか来た。

 

 

なんかというか、紛れもなくμ's御一行様だ。マネージャーも含む。

 

 

「…なんだ?」

「滞嶺君!μ'sのマネージャーをやってくれませんか?!」

「断る」

「即答じゃないか」

「何で?」

「…わざわざ言う必要もないな」

 

 

わざわざ全員で説得しに来たか。無駄な話だ、家族は犠牲にできん。

 

 

「そっか…じゃあ仕方ないね」

「ああ、先輩には悪いが…」

「仕方ないから滞嶺くんについていくね!!」

「悪いが諦め…はあ??」

 

 

 

 

何言ってんだこの人。

 

 

「滞嶺くんが授業終わったらすぐ帰っちゃうのは知ってるにゃ。だからこの後、滞嶺くんにとって大事なことがあるに違いないにゃ!」

「それ高坂さんが言ったことだよね」

「だから凛たちは、放課後の滞嶺くんに直接ついていくことにしたの!」

「それも高坂さんが言ったことだよね」

「そうすれば、滞嶺くんが何に困ってるかわかるし、何か手伝えるかもしれないにゃ」

「全部高坂さんの言だね」

 

 

星空が何やら嘯き、波浜先輩が横槍を入れる。しかし星空は聞こえないが如くスルー。この先輩マジで大変そうだ。

 

 

「にこちゃん、もう僕は必要ないんじゃないかな」

「安心しなさい。あんたいなくなったら会場の予約とかライブの演出とか諸々できなくなるわ」

「にこちゃん愛してる」

「ふんっ」

「あふん」

 

 

微妙に傷ついたらしい波浜先輩が矢澤先輩にちょっかいをかけて肘鉄を食らっている。そういえばこの2人、幼馴染だそうだ。なるほど仲がいい。

 

 

…そんなことより。

 

 

「気安く人のことに首突っ込むんじゃねえ。あんた達になんとかできる案件でもねえし」

「そんなのわかんないじゃん!」

「わかります。俺の家族の問題だ…あんた達にできることはない」

 

 

無理なものは無理だ。まさかこの人達に弟の世話とか家事とか任せるわけにはいかない。そういうのは金払って雇うものだし、そんな金はない。

 

 

だから追及を逃れるためにキツめに断ったのだが、波浜先輩が「家族」というワードに一瞬反応した気がした。

 

 

「家族…?」

「ああ、家族だ。そう簡単に首突っ込んでいい案件じゃないのはわかるだろ」

「それは…」

 

 

μ'sのメンバーは全員返答に困っていた。病気で倒れた母がいるとか、そんなのを想像しているのかもしれないが、あいにくそんなことは全くない。しかし萎縮してくれるならそれでいい、俺の事情に巻き込むわけにはいかない。

 

 

「…それは余計なんとかしなきゃいけないな」

「は?」

「「「「「「「「え??」」」」」」」」

 

 

なんとか切り抜けられそうだと思ったところで、波浜先輩が謎発言を繰り出した。

 

 

「はぁ…そう言うと思ったけど」

「にこちゃん何でため息」

「うっさい。それよりいいの?普通に考えてめちゃくちゃプライベートな問題よ?」

「プライベートだからって一人で解決しなきゃいけないわけじゃない。ぽっと出の僕らの役割かどうかはわかんないけど、適度に人が多いのは悪いことじゃないはずだよ」

 

 

なぜかいつもは眠そうな目をギラつかせて語る波浜先輩。この人こんなんだったか?

 

 

つか家庭の事情に首突っ込むか普通。

 

 

「でも、あまりご家庭のことに他人が口を出すべきじゃないと思うわ」

「そうやで、見られたくないこと、言いたくないこともあるかもしれへんやん?」

「知ったことか」

 

 

絢瀬先輩、東條先輩の苦言も一蹴。何か家族に対して思う所でもあるのだろうか。

 

 

「家族のために何かが犠牲になるのは仕方ないかもしれないけどさ、家族のために自分を犠牲にするのは、残された家族にとっては降りかかる不幸意外の何者でもない」

「俺は別に自分を犠牲にはしてねえぞ」

「君、μ'sのファンだと言ったよね」

「…まあ」

 

 

本人達の前で言うかそれ。ほら見ろ星空が若干嬉しそうな顔をしているじゃないか。いやよく見たら全員満更でもなさそうな顔をしてやがる。クソが。

 

 

「なら、一緒に活動できるチャンスをフイにしてるわけだよ」

「だからなんだ」

「だから自分を犠牲にしてるでしょ」

「してねえよ」

「おかしいな、日本語が通じてない」

 

 

意地を張る俺との問答に辟易した様子の先輩。早めに諦めてほしい。

 

 

ん?

 

 

よくよく考えたら、わざわざ相手してやる必要もねぇ。このまま力ずくでトンズラしたっていいじゃねぇか。

 

 

走れば乗用車程度の速さは出せるし。

 

 

「…問答の時間も惜しい、俺は帰る」

「えー!」

 

 

高坂先輩が抗議の声を上げるが、無視して教室を出て昇降口まで行く。…意外と誰も追い縋って来ない。いや期待したわけではないが、予測はしていた分拍子抜けだ。

 

 

まあそれはそれで走る必要はなくなったのでいいんだが

 

 

 

 

「滞嶺くん遅いよー!」

「早く行くにゃ!」

 

 

 

 

…なぜ先回りしている??

 

 

「先に靴と脚立用意しておいたんだ」

「…準備がいいですね」

 

 

波浜先輩、意外と…いや思った通り食えない先輩だ。つーかどこに2階まで届く脚立があったんだ。

 

 

まあ…それならそれで、当初の予定通り走るだけだ。

 

 

「悪いですが…ここは一人で帰らせて頂きます。…それでは、お先に」

 

 

一瞬腰を落として、ドンッ!!という音を残して彼女らの頭上を飛び越える。一瞬誰かの手が服に掛かったような気がしたが、振り返る暇はない。着地とともに、跳んだ速度を殺さず走り出し、階段を一足で一気に全て飛び降りて道路を突っ走る。あとは車道をひたすら走るだけだ。車と同速で走れば文句も言われん。

 

 

ひとしきり走ったら家に着いてしまった。だいたい5分くらいだろうか。走ったお陰で時間もあるし、少し手の込んだ料理を

 

 

 

 

 

 

「にゃ〜、やっと止まったにゃあ…」

 

 

 

 

 

 

…ん?

 

 

 

「っ?!?!」

「にゃああああ?!」

 

 

あっ。

 

 

いつのまにか腰にへばりついていた星空を反射的に真上にぶん投げてしまった。そうか、腰になんか当たったものと思っていたが、星空が飛びついてきていたのか。我ながら何故気づかんかった。…その前に結構な威力で投げてしまった星空を回収する。上に放り投げたから落ちてきた星空を衝撃を与えないようにキャッチ。ここら辺は大五郎を高い高いしていたときに慣れた。しかし星空が落ちてくるとは、字に起こすと恐ろしいな。

 

 

「んにゃっ」

「…おどかすな、反射的に投げちまったじゃねえか」

「反射的に人を数メートル投げ飛ばせる方がびっくりだにゃ」

「そんなにおかしいか?」

「人を投げ飛ばせる時点でびっくり人間にゃ」

 

 

そうだろうか…恒常的に弟達をぶん投げてるからよくわからん。というか走っている俺にひっついてきた星空は乗用車にしがみついて5分ほど耐え抜くのと同義であり、それはそれでびっくり人間だろう。

 

 

それよりも、こいつどう処理すべきだろうか。とりあえず地面に降ろすと「ありがとう!」と元気よく返ってきた。

 

 

「とりあえずお邪魔しんぎゃっ?!」

「何勝手に人の家に入ろうとしてやがる」

 

 

不法侵入されそうだったから首根っこ捕まえて引き戻す。こうすると首をくわえられた子猫に見えなくもない。

 

 

「何するにゃ!!」

「こっちのセリフだアホ」

「せっかく家まで来てあげたのに!!」

「勝手に来ておいて恐ろしい言いがかりだなおい」

 

 

フリーダムすぎるだろこいつ。

 

 

と、星空がでかい声を出すもんだから。

 

 

「兄さん、帰ったなら早く入りな…よ??」

 

 

ガラッと。

 

 

玄関の戸を開けて銀二郎が出てきた。

 

 

そして、俺と、俺が首根っこを掴んでる星空を交互にしばらく見比べて、

 

 

「…にっ兄さんがスクールアイドルを拉致してきた…?!」

「銀二郎てめえ死にてえのか」

「いやだって、兄さん…えっ…え??兄さん?マジで?」

「お前の語彙力は虫並みか?」

 

 

失礼な誤解をしてきやがった。こいつ兄をなんだと思ってんだ。顔面蒼白の顔をする銀二郎と、それを見て首をかしげる星空。なんだこれ。

 

 

「とりあえず凛は入っていい?」

「いいわけねーだろ」

「事態は飲み込めないけど、せっかく来ていただいたのに放り出すのは忍びなくないか兄さん?」

「お前は黙ってろ」

「あ、もしもし凛だよー」

「てめえ何電話なんてしてやがる」

「うん、かよちんのスマホで凛の場所わかるからそこまで来て!」

「何呼んでんだコラ」

 

 

他のμ'sのメンバーに連絡をしだした星空からスマホを没収する。腕も押さえておくべきだったか?

 

 

「みんな来るって!」

「来るって!じゃねえよ」

「本当ですか?!」

「銀、てめえは黙ってろ」

 

 

満面の笑みでよろこぶ銀二郎は牽制しておく。何だかんだ言って俺の影響で兄弟みんなスクールアイドルファンなのだ。だからここで舞い上がられるとこいつらの侵入を許してしまう。

 

 

「でも…」

「銀、うちに余計な人を招く余裕はねえ。自分らの食いぶちだけで精一杯なんだ、大したもてなしも出来ないのにスクールアイドルを家に上げるか?」

「う…」

 

 

星空を一旦下ろしてから銀二郎の両肩を掴んで、諭すように言い聞かせる。実際余裕はないので間違いない。礼儀の上でも軽率に人を入れるわけにはいかない。

 

 

しばらく不味そうな顔をしていた銀二郎は、やがて諦めたように星空の方へ顔を向ける。

 

 

「…星空凛さん、申し訳ありませんが…」

 

 

 

 

 

「ご飯なら心配なさるな、僕が買ってきた」

「持ってるのは穂乃果たちだけどね!」

「大人数でお家に向かうなら、私たちも何かしなくちゃって思って!」

「滞嶺君は沢山食べそうですから沢山買ってきましたし!」

「栄養バランスも考えて買ってきましたよ」

「私がバランス考えたんだから、文句は言わせないわよ」

「それに、こんな大人数でご飯なんてわくわくするやん?」

「勝手にお邪魔するんだし、これくらいはしないと」

「宇宙ナンバーワンアイドルの手料理を食べられるんだから泣いて喜びなさい!」

「にこちゃん、一人だけなんか毛色が違う」

「うっさい!」

 

 

 

 

 

…なんか来た。

 

 

高坂先輩と南先輩、そして小泉がでかい買い物袋を提げている。自分らの分+αといったところか…、白米がやたら多いのは見なかったことにする。

 

 

しかしまあ…なんというか、凄いことにするやつらだ。

 

 

「…いくらだよこれ」

「気にしなさんな、僕お金持ちだから」

「半分は私が払ったじゃないの!」

「君が勝手に払ったんじゃないか」

 

 

値段を気にしたらはぐらかされたが、どうやら、なぜか金持ちらしい波浜先輩と医者の娘西木野による富豪作戦らしい。強行突破すぎるだろ。

 

 

「そんなわけだから入れて」

「…いや、」

「兄さん、流石にあれだけご飯があるというのに断るというのは納得いかない」

「銀、お前詐欺には気をつけろよ」

 

 

弟に疑心がなさすぎて心配だ。

 

 

しかしまあ、実際あれだけ食材を用意されて追い返すというのも申し訳ない。…結局向こうの作戦勝ちか。

 

 

「…わかったよ、入ればいい。ただし飯は手伝わん」

「もとからそのつもりよ。それより勝手に決めてしまってごめんなさい」

「今更謝られてもな」

「っていうかほんとにいいの?ご家族とかに何の了承も貰ってないけど」

「まさかそれを気にしていらっしゃる方がしるとは」

「言っとくけど穂乃果が勝手に決めたことだからね?」

「お得意の強行突破ってやつだ」

「ちょっとー!穂乃果のせいにしないでください!」

「他に何と言えと言うんだい」

 

 

誰が言い出そうと強行突破の事実は変わらない。とりあえず仲は良いようでなによりだ。俺には迷惑だが。

 

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

重々しい設定第1号は滞嶺君でした。重いくせにざっくり。だって悲しい話書きたく無いですもん!!(じゃあ何で考えた)

とりあえずはあと1話、滞嶺君のお話にお付き合いください。



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