笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

今回もまたお気に入りしていただきました。ありがとうございます!もうすぐ寿命が200年に届きそうでわくわくしてます。今後増えるかどうかはわかんないですけどね!!

というわけで、どうぞご覧ください。


カレーって冷めてもおいしいよね

 

「わぁー!μ'sだ!!」

「うああ」

「おおお?!サインサイン!!あれっ色紙あったかな?!」

「邪魔だチビ」

「ささささささサインなんて書けませんよ?!」

「海未ちゃん落ち着いて…」

「ふふーん、私ならサインあるわよ!!宇宙ナンバーワンアイドルにこにーのサインをもらえるなんて幸運ね!!」

「にこにーのはいいや」

「ぬぁんですって?!」

「にこちゃん落ち着いて」

「なんであんたらまで騒いでんだ邪魔だ」

 

 

家に上げたら弟どもが群がってきた。そしてそれに律儀に反応するμ's。廊下そんなに広くないから、そんなことしたら渋滞が起きる。

 

 

「兄さん、いつも通り押し退ければいいのに」

「女性もいるのにそんなことできるか。大体今日は飯を作るのは俺じゃねえから急ぐ必要もない」

「じゃあ私たちは頑張ってキッチンまで行かないといけないわね」

「でもなかなか言うこと聞かへんよ?」

「しゃーねぇな、どいてな先輩方」

 

 

いつもは邪魔でも力づくで押し通るのだが、今はそれをやっても後続が続けないしμ'sの方々も巻き込みそうだ。だから別の手段で強行突破する。

 

 

μ'sの方々の前に割って入り、1番前にいた大五郎と当四郎の首裏を引っ掴む。

 

 

そして、ブォン!!と。

 

 

廊下の奥に放り投げた。

 

 

廊下の奥にはちゃんとマットが敷き詰めてあるので死にはしない。多分。

 

 

ボッ!!というなかなかすごい音と2人分の悲鳴が重なった。

 

 

「んぎゃあ?!」

「ぐぅえっ!!」

「…兄さん、それは強引過ぎるよ…」

「何のためのマットだと思っている」

「そう言う問題じゃないんだけどなあ…」

 

 

何やら遠い目をしている銀二郎。後ろを振り返るとμ'sの皆様も困惑していた。そんな顔すんなよ、日常だ。

 

 

「滞嶺くん、やっぱり見た目通りの人だったにゃ」

「人間って投げ飛ばせるんやね…」

「普通は投げ飛ばせないと思うよ」

「何言ってんだ、投げないと大人しくならねぇんだからしょうがねぇだろ」

「論点が違うんだよね」

「やめときなさい茜、あれは住んでる世界が違うタイプよ」

「桜タイプか」

「失礼な、どう見ても普通の人間だろうが」

「どこを見たら普通なんだろうか」

「あ?」

 

 

ちょっとでかいだけだろ。

 

 

「それより早く飯作ってくれよ」

「そういやそんな契約だったね。誰が作る?」

「そりゃもう宇宙ナンバーワンアイド「にこちゃんは弟くんたちの相手してあげて」言わせなさいよ!!」

 

漫才しつつ、「おっきいねー!」なんて雑談もしつつ、μ'sの方々が家にわらわら上がってくる。居間に全員入るだろうか。家自体はそこそこでかいから多分大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

「希、にんじんも切れたわよ」

「ありがとエリチ。後は食材とルーを入れるだけやね」

「お米炊けたよー!」

「お米多くないかい」

 

 

滞嶺宅にお邪魔した僕ら。ご飯は東條さんと絢瀬さんと小泉さんが担当し、にこちゃんと高坂さんと星空さんが子供の相手をし、残りはお手伝い。しかし炊飯器満タンのお米を見るのは初めてだ、こんなに炊けるんだね。

 

 

「お母さんとお父さんはお仕事?」

「いませんよ、親なんて」

「えっ」

「…心配なさらずとも、死んだわけじゃありませんよ。多分」

「多分…?」

 

 

南さんがいらぬことを聞いてしまったようだ。まあ予期してなければ聞いちゃうよね。

 

 

でも、なんでいないのかねぇ。

 

 

「うちの親は離婚しまして、2人とも出て行きやがったので。奴らの生死は知りません」

 

 

そういう話なのね。重いね。重いとは思ってたけど、重いね。話を聞いていた南さんと園田さんは黙ってしまった。西木野さん?なんか先程からぷりぷりしながらお掃除始めたよ。汚部屋が気に入らなかったご様子。でも君掃除できたんだね。家政婦任せだと思ってた。

 

 

「なかなか人生ハードモードだね」

「…反応軽いですね」

「そうかな」

 

 

そこそこ重い話は想定してたからね。

 

 

「とにかく、あなたたちを手伝えない理由はこれです。弟たちの世話をしなければならんので」

「そっか…それは…」

「流石に仕方ないかもしれませんね…」

 

 

思った以上に大変な事態だったのか、南さんも園田さんもこれ以上強く言えないようだ。まあそうだよね、ご家族を養う大変さは僕らにはわからないもの。

 

 

「カレーできたよー」

「「食べる!!」」

「手を洗ってきなさい!」

「えー、いつも洗ってないよー」

「ないよー」

「洗ってねえのかお前ら」

「「あっ」」

 

 

カレーに過剰反応したちびっ子2人がボロを出したらしい。滞嶺君に連行されて手を洗いに(洗わされに)行ってしまった。なかなか面倒見がよい。流石長男、にこちゃんと同じものを感じる。

 

 

「ふぅー楽しかった…あれ、うみちゃんことりちゃん、どうしたの?」

「それより何で君の方が堪能してるんだい」

「楽しかったにゃ!!」

「失敬、君『達』だね」

「ほんっとに、なんなのよ…」

「…うん、お疲れ様」

 

 

ほくほくした顔の高坂さんと星空さん。にこちゃんは疲れ切ってるからきっとこの2人はちびっ子と一緒に走り回っていたんだろう。にこちゃん頑張れ。

 

 

暗い顔の園田さんと南さんの顔を見て頭にハテナを召喚する高坂さん。それに対して僕が軽く滞嶺君の事情を説明した。ついでにカレーを持ってきた絢瀬さん、東條さん、小泉さんにも説明した。何故2回も説明せねばならんのだ。

 

 

話を聞いたみんなは深妙な顔をしてしまった。これからご飯なんだから辛気臭い顔をするんじゃないよまったく。高坂さんは深妙というよりは真剣な顔をしているけど。

 

 

「カレー!」

「食べる!!」

「かれー」

「こんなに具がたくさん入っているなんて…!!」

「…なんで葬式会場みてぇな面してんですか」

「なんでだろうねえ」

「逆にあんたは冷静すぎやしませんかね」

 

 

戻ってきた滞嶺君にドン引きされた。暗い顔してない僕までドン引きされた。なんでさ。

 

 

「さっき聞いたことを話しただけだよ」

「そんなに深刻な顔しなくてもいいだろうよ…今から飯ですよ先輩方」

「はい…」

「うん…」

 

 

なかなか要領を得ない歌姫たち。まあご飯だからって復帰できるほど元気はないか。

 

 

と思ったけど。

 

 

「ねぇ…滞嶺くん」

「なんすか高坂先輩」

 

 

何人か別の顔をしていた。具体的には高坂さんと絢瀬さんとにこちゃんがどうやら怒ってらっしゃるようだ。兄妹いる勢だね。何かしら思うことがあるのだろうか。

 

 

「滞嶺くんは、スクールアイドルが好きなのは弟のみんなも知ってる?」

「あぁ?…まあ、全員まとめてスクールアイドル好きですから…」

「それじゃあ、私たちにマネージャーがいるのもみんな知ってる?」

「今度は絢瀬先輩か…当然知ってますよ」

「…あんたさ、自分がマネージャーやりたいって兄弟に言ったことある?」

「何なんですか矢澤先輩まで…」

「にこよ」

「…にこ先輩まで。言うわけないでしょう、そんなこといちいち言ってる暇はない」

 

 

3人で質問を投げていく。3人とも考えが同じなのかいちいち口は挟まない。空気的にも挟めない。でもにこちゃん、名前の訂正はいらないと思うよ。いつも訂正してるけど名字嫌いなの。

 

 

「滞嶺くん」

 

 

すっ、と、高坂さんが立ち上がる。続いて絢瀬さんとにこちゃんも立ち上がった。どうしたんだい、にこちゃんの背が低いのがモロバレしちゃうよ。

 

 

「…何で弟くん達と相談して決めないの?」

「弟に余計な気を使わせたくないんで」

 

 

滞嶺君が答えると、高坂さんが滞嶺君に近づいて、

 

 

パシィ、と。

 

 

ビンタした。

 

 

うそん。

 

 

「…?」

 

 

当の滞嶺君も何が何だかわかっていない模様。ただし痛くなさそうだ。しかしご兄弟は黙っていなかった。血相を変えたご兄弟達が全員凄まじいスピードで立ち上がって、滞嶺くんの前に立ち塞がったのだ。めっちゃ早かった。血筋か。

 

 

「なっ何をするんです穂乃果さん?!」

「うー」

「大兄貴を殴ったな?!許さねー!!」

「許さねー!!」

「…どけアホ、ビンタ程度で何とかなるかよ」

「でも…!」

「どけ」

 

 

ただし滞嶺君が強かった。弟達を一喝して押し退け、再び高坂さんの前に立つ。今度は絢瀬さんとにこちゃんも高坂さんの両サイドにいる。なにこれ。何が起きるんだ。

 

 

「…何のつもりだ」

「あなた、兄弟をなんだと思ってるの」

「兄弟だろ」

「兄弟には何の相談もしなくていいの?」

「したさ、高校入るときに。たまたまデカい金が入って、その使い道は相談した。だから親がいない俺でも高校に行けている。それだけでもこいつらに負担かけてんのに、これ以上余計なことできるかよ」

 

 

滞嶺君はもはや敬語も抜けて、ものすごい威圧感を放ってこちらを見下ろしている。しかし御三方は全く引かない。ほかのメンツは震え上がっていて、東條さんなんかしきりに絢瀬さんの袖を引っ張って小声で「えりち…」って呼んでいる。子供かな?

 

 

「余計なこと?本当にそうかしら。あなたの思いを弟くんたちに話したらきっと

 

 

 

 

 

「うるせぇ!!!!」

 

 

 

 

 

家が震えた。

 

 

鼓膜がヤバかった。

 

 

そのぐらいの怒声だ。命の危機を感じるくらい。いやほんとに。

 

 

「余計なことを口走るな…俺はこの家の長だ!!支えなきゃならねえ!!大黒柱が余暇に割く暇も時間もあるわけねぇだろうが!!!」

 

 

忿怒の形相で、視線だけで鬼も殺しそうな滞嶺君の声が轟く。普通なら気絶してる人もいたかもしれない。

 

 

しかしこの子達は格別の子らだ。

 

 

みんなむしろ、より決意に満ちた表情になって立ち上がった。僕も立った。流れ的に。

 

 

「…私たちには、一家の大黒柱の大変さなんてわかんないよ。そりゃそうだよ、お父さんもお母さんもいるんだもん、お小遣いに困ることはあるけど、お家のお金の心配なんてしたことないもん」

「だったら余計なこと」

「でもさ!…でもさ、私はお父さんが自分のために時間やお金を使ったことないなんて…そうは思わないよ」

「…だから何だ、俺は俺だ」

「そうかもしれないけどさ!!…でもさ」

 

 

高坂さんがその思いを伝える。僕は対して思うところもないが、他のみんなは心が1つなようだ。やだ僕仲間外れじゃん。別に平気だわ。いやでもにこちゃんと同じ気持ちじゃないのはつらい。

 

 

「でもさ…お父さんが全く遊んだり趣味に時間使ったりしなかったらさ、多分心配するよ」

「だから何だ」

「そうだよね…お兄ちゃんが、μ'sの手伝いをする機会があるのに、手伝いがしたいのに、それを我慢してるって聞いたら…君たちはどう思うの?!」

 

 

高坂さんの言葉の、方向が変わった。滞嶺君の弟たちに向けて言った。末っ子はよくわかってないっぽいけど、特に2番目の子は俯いてしまっている。

 

 

家族とは、みんなでいるから家族なんだと。

 

 

にこちゃん一家を見ていれば、僕だってわかるさ。

 

 

稼ぎ頭だろうが大黒柱だろうが、一人で全部背負いこむのは…身内としては、きっと面白くない。

 

 

「…俺の家のことに、よくもそこまで…」

「兄さん」

「あ?」

 

 

半ギレの滞嶺君が一歩踏み出そうとしたところで、次男君が声をかけて引き止めた。彼の顔は僕からでもよく見えない。

 

 

「…兄さん、また一人で我慢してたのか?」

「お前らの生活費を削ってまで高校に通わせてもらってんだぞ、我慢することなんざ腐るほどある」

「また俺たちにはなんの相談もしないで我慢してたのか?」

「相談したら反対するだろ」

「…反対されるのはわかってたのか」

「何だ銀、鬱陶しいぞ」

 

 

次男君の声は震え、滞嶺君は露骨にイラついてきた。さっきまで威勢がよかった高坂さんもちょっとびびって引いている。僕はぼさっと眺めてる。

 

 

と、瞬きの瞬間には次男君は滞嶺君に殴りかかっていた。滞嶺君はまるで動じず受け止めたが、次男君の形相に戸惑っているようだ。何しろ半ギレどころかマジギレなんだから。鬼か阿修羅かそんな感じだ。阿修羅は別に顔怖くないか。怖い顔もあったかな?

 

 

「あんたは!!俺たちが何を思ってあんたを高校に送り出したと思ってんだ!!」

「お前が高卒の方が給与がいいからっつったからだろーが」

「それだけなわけがないだろ!言っただろ!『兄さんの好きに過ごしてくれよ』って!!今まで一人で金を拾ってきて!飯も作って!掃除も洗濯も家事の一切!食事のバランスから俺らの健康管理まで全部一手で担って!!だから、あれだけ金が入ったなら、そろそろ兄さんに好きに生きて欲しいと思って高校に行かせたのに!!まだ俺たちに遠慮してるのか!!!」

 

 

滞嶺君もびっくりな大声だ。家が震えてる気がする。殴りかかって止められた姿勢のままで、しかし恐ろしい形相で滞嶺君に詰め寄る次男君。滞嶺君はひどく困惑しているようだ。

 

 

「お前な…俺がいなかったら生活もままならんだろ…」

「舐めるなよ、兄さんほどじゃないが俺だって料理できる。迅三郎も洗濯くらいできる。当四郎も大五郎も自分の部屋の片づけくらいできるんだ。何でも自分がいなきゃ成り立たないと思うな」

「いや…だがな…」

 

 

滞嶺君は体格や単純な力では圧倒的に勝っているはずなのに、気迫で次男君に押されている。そりゃ今まで人生かけて守ってきた家族に噛みつかれたら困惑はするかもしれない。

 

 

彼のやってきたことは、とても正しく家族の柱であり、しかし確かに弟君たちに劣等感や罪悪感を植え付けてきたのだろう。

 

 

 

 

 

「いい加減にしてくれ!!何でもかんでもあんたが片付けてしまったら、俺らは何もできないままだろうが!!そんなの…ペットか家畜みたいなもんじゃないか!!」

 

 

 

 

 

 

確かに。

 

 

超然としていた滞嶺君の顔が大きく歪んだ。

 

 

怒りなどではなく、明らかな悲哀と後悔の表情だった。

 

 

「…おい、そんなつもりは」

「創にーさん、つもりとかじゃないよう」

「…迅」

「創にーさんが、ぼくらのために頑張ってくれてるのはしってるよー。でもさ、ぼくらもその恩返しくらいしたいよ」

「恩返しなんて、」

「見返りを求めないなんて、銀にーさんも言ってたけど、そんなのペットだよー。ささえて、ささえられて、それが家族だよー」

「…」

「細かいことはわかんないけど、大兄貴に無理してほしくないぞ!!」

「ないぞ!!」

「…お前ら…」

 

 

弟軍団の総攻撃に、腕を下ろして、気の抜けた顔をしてしまう滞嶺君。なんだかとても小さく見えた。

 

 

最後は次男君が締めにいく。

 

 

「俺たちはもう十分兄さんに助けられたよ。今度は俺たちが支える番だ。料理不味いかもしれないし、洗濯も掃除もそんなにうまくできないかもしれないけどさ…兄さんが帰ってくる場所は、ちゃんと守るから」

 

 

すっかり覇気のなくなってしまった滞嶺君はそのまま俯いてしまった。今までのことを思い出して後悔してるのかなんなのかはわかんないけど、ちゃんと弟君たちの思いが通じたようでなによりだ。

 

 

「うう…いい話だね…」

「にゃあ…」

「ぐすっ」

「…何で泣いてんの君ら」

 

 

μ'sのみんなはなんか泣いてた。にこちゃんも泣いてた。許さん。うそうそ、悲しい涙じゃないからこれはセーフ。

 

 

「…しかし部費がな…」

「ああ、それなんだけどね」

 

 

まだ抵抗してくる滞嶺君に、バッチリカウンターを決めておく。これは事前の作戦にもあったことだから問題ない、メンバー全員把握していることだ。

 

 

「僕ってグラフィックデザイナーとかやってんだけどね」

「…働いてたのかよ」

「働いてるよ。でも壁画みたいな大きい作品とかさ、描いても運べないんだよね。パワーなくて」

「まあそうでしょうね」

「君、敬語使えるのか使えないのかどっちなんだい。…とにかく、だから僕は君を雇おうと思うんだ」

「は?」

「バイトバイト」

「は?」

「何でそんな攻撃的なの」

 

 

理解不能といった表情の滞嶺君。だからってそんなキツい物言いじゃなくてもいいと思うんだ。泣くよ?嘘嘘泣かない。

 

 

「そうそう、これこの前のお手伝いの謝礼ね。バイト代」

「…」

「はい」

「…」

「いや受け取ってよ」

 

 

それなりの額が出るよって教えるために、この前のライブのお手伝いの謝礼は封筒に入れて用意しておいた。いや元々渡すつもりだったけど、更なる付加価値が出たもんだからその面も主張しておきたかったの。でも受け取ってくれない。虫なんて入ってないよ?

 

 

「何のつもりだ」

「謝礼だって言ってるのに」

 

 

物も言葉も素直に受け取りなさいよ。

 

 

渋々ながら受け取った滞嶺君はすぐに封筒を開ける。失礼だからねそれ。

 

 

「…何でこんなに入ってんだ」

「諸々の事情で」

 

 

諸々の事情というか、バイト代の相場がわかんなかったから多めにいれただけ。少ないって文句言われるよりマシだろう。多分。

 

 

「で、バイトしてくれれば毎月その2倍くらいは入ると思うけど。どうする?部費なんて余裕でお釣りが出るけど」

「やろう」

「決断早いね」

 

 

即答だった。

 

 

お金は大事らしい。

 

 

「お仕事の内容にμ'sのマネージャーも含まれるからサボらないでね」

「…聞いてませんが」

「言ってないからね。よし、これで晴れて滞嶺君も仲間入りだね」

「「「「「「「「「やったー!!」」」」」」」」」

「鼓膜が」

 

 

鼓膜がパーンなるところだったよ。びっくりしたよ。うるさいよ君たち。にこちゃんは許す。

 

 

「これで波浜先輩の負担も減るね!」

「その分練習も増やせますね」

「ボディーガードにもなるにゃ!」

「滞嶺くん、大きいもんね…」

「一緒に伝伝伝も見れます…!!」

「だからあれは保存用だってば!!」

 

 

大いに盛り上がりを見せるμ'sの皆様…あれ、全員が盛り上がってないな。

 

 

 

「あのー…」

「盛り上がってるとこ悪いんやけど…」

 

 

みんなが怪訝な顔で声の方を向くと、そこにいたのは申し訳なさそうな顔の絢瀬さんと東條さん、そして呆れ顔の西木野さんが食卓の前で立っていた。

 

 

「…カレー、冷めてるわよ」

 

 

あっ。

 

 

ご飯前なのをすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「美味しい!」

「うん、冷めても美味しいっすよ!!」

「でも兄さんのカレーの方が好きだな」

「ご家庭の味ってやつかしら」

「嵩増し用の小細工のせいだろ。ルーを少なくしか使えないから、ケチャップとかソースで味を濃くしてるからな」

「道理でこんなにルーが粘り気がある…」

「普通こんなもんだと思うけど」

 

 

結局十数人で食卓を囲んで冷めたカレーを食す。当然俺の作った味誤魔化しほぼスープカレーより上出来なのだが、やはり隠し味などの諸々は弄っていないようだった。素のカレーの味…俺も初めて食った気がする。

 

 

というか。

 

 

誰かが作った飯を食うのも10年ぶりくらいだろう。

 

 

「滞嶺くん泣いてる?」

「泣く要素が無ぇ」

「でも目がうるうるしてるにゃ」

「気のせいだ」

「えー?」

「うるせぇな…」

 

 

…誰かが俺に、俺たちに作ってくれた料理。

 

 

別に特別な工夫がしてあるわけじゃないが。

 

 

 

 

「…飯くらい味わって食わせろよ」

 

 

 

 

…美味いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーてそれじゃあ設営開始だね」

「もう全部持ってきたぞ」

「なんで全部持てたの」

 

 

翌日朝、早速来てくれた滞嶺君。敬語は面倒だから無しという方向にした。そんなことより、机や9人分の飲み物やその他必要なものは彼一人で全部持ってくれた。おかしいね。

 

 

「つーかμ's本隊は何してんだ」

「階段ダッシュでしょ。神田明神でいつもやってるから」

「…じゃあ俺らも行くべきだろ」

「いつも時間なかったから」

 

 

基本的には彼女らが階段ダッシュをしている間に屋上の設営をして、彼女らの到着を待つスタイルでやっていた。しかしこうも早く設営が終わるなら、もう少し早く来て彼女らに合流するのもアリかもしれない。

 

 

「とはいっても今日ももう間に合わないし」

「走れば間に合うだろ」

「僕走れないんだよ」

「乗れよ」

「うそだろ」

 

 

もう滞嶺君は僕を背負って突っ走るモードだ。星空さんの証言では自動車より早かったらしいのに、そこに剥き身でしがみつけと。無理だよ。無理すぎだよ。

 

 

「君にしがみつけるのなんて星空さんくらいだよ」

「それもそうか」

 

 

諦めてこちらを向く滞れ…いや違う。不意に抱え上げられた。

 

 

「待とうよ」

「時間が惜しい」

「惜しいけん゛に゛ゃ」

 

 

ドンッ!!!と。

 

 

すごい音を立てて飛んだ。

 

 

音ノ木坂の屋上から。

 

 

4階建てなんですが。死ぬよ?変な声出たよ??

 

 

地面は見えないのでいつ死ぬのかなーと思ってたけど、思いのほかふわっと着地して、しかし、ゴウッと音がするくらいのすごいスピードのまま走り出した。風圧で息がやばい。

 

 

そのまま走り抜けて、ものの数分で神田明神までたどり着いてしまった。なんという脚力。

 

 

「あれっ?!滞嶺くんと波浜先輩?!」

「わざわざここまで来てくれたんですか?」

「っていうか茜生きてる?!」

「あぶふう」

「…大丈夫かしら?」

 

 

ただし僕は逝く。

 

 

新しい仲間が増えたはいいけど、こうして僕の命が削られる日課が増えたのであった。

 

 

本気で死にそう。

 

 





最後まで読んでいただきありがとうございました。

割と無理矢理理論で滞嶺君をぶっこんでしまった感はあります。が、よかれと思って…ってことが裏目に出ることはよくある気がします。まだまだ未熟者ですね私!!

ともあれ、これでこのお話でのアイドル研究部員は勢揃いとなります。残りの方々は後方支援です。

というわけで、前回お伝えしたように次話は来週となります。お待たせすることになって申し訳ありません。でも自己満作品なので後悔はしません。だって私の作品なんだもーん!!!()


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