笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
ふと見たらお気に入り登録して下さった方がいらっしゃいました。嬉しくてあと10年くらい生きられそうです。私ちょろい。でもお気に入り登録して下さった方ってどうやって確認するんだろう。
メインパーソンがにこちゃんなので最初の方の穂乃果たちの頑張りは必然的に全カットとなります。ショッギョムッジョ。
というわけで、どうぞお楽しみください。
「廃校ねえ」
ついに3年生になってしまって、しかも以前から囁かれていた廃校の噂が遂に現実味を帯びてきた。帯びてきたどころか、一定数に満たなかったらもう廃校と言われてるんだから王手だ。
「…今更廃校って言われても驚かないわよ。今年の1年生なんて1クラスしかないらしいじゃない」
僕のつぶやきに、にこちゃんが弁当箱の中の卵焼きをつっつきながら返事をした。ちなみにここは部室であり、教室ではない。1年のうちに色々目立っちゃった僕らはあんまり友達とかできなくて、教室よりもここにいた方がはるかに居心地がよかった。いや僕はいいんだけどにこちゃんはそれでいいのだろうか。心配だ。
「クラス替えがないのがいいことか悪いことか、とは思うけどね。僕とにこちゃんもクラス変わっちゃったし」
「一緒でもどうせここでお弁当食べてここで駄弁って帰るんだから同じよ。…そんなことより、卵焼きが甘くないんだけど」
「いいじゃないか卵焼きは本来甘くない」
「嫌よ。私は甘いのが好きなの」
「辛いよりマシだろう?」
「辛くしようものなら出禁にするわよ」
「そこまでか」
僕ら2人の弁当は僕が作っている。前はにこちゃんのお母さんが作ってたんだけど、お仕事が大変になって手が回らなくなってきたから僕が代わった。食費も僕が持ってるけど、本職のおかげでどうせ僕のお金は余るから問題ない。しかもにこちゃんのお母さんがとても感謝してくれる。
「それよりも茜、英語教えなさいよ」
「人にものを頼む態度じゃないよね」
卵焼きをもりもり食べながら勉強を教えて欲しいとおっしゃるにこちゃん。卵焼き結局食べるんじゃないか。文句言ってたくせに。
勉強に関しては、まあ見ての通り?できる子じゃない。頭悪いわけじゃないだろうに…って授業中寝てるからか。
ちなみに僕は常に1位である。1位波浜茜、2位絢瀬絵里、3位東條希。これが入学当初から変わらない学力のヒエラルキーである。ちなみに絢瀬さんは生徒会長で東條さんは副会長。僕はアイドル研究部マネージャー。なので僕は影が薄い。きっと、こいついつも1位だけど誰?って感じだろう。
全く構わないけどね。
「いいじゃないのよ、私とあんたの仲でしょ」
「いいんだけどさ。授業終わったらね」
「授業出たくない」
「馬鹿言ってんじゃないよ。放課後ここに来るからその時ね」
「ぶー」
弁当箱の隣に突っ伏すにこちゃん。ふてくされてても可愛いけど、勉強はやろうね。僕も別に授業聞いてないけど。
昼ごはんを食べて教室に戻る。にこちゃんとは違うクラスだけど、絢瀬さんと東條さんは同じクラスになった。まあ向こうは僕を認識してないと思うので気にしない。…いや、この学年で男子って僕だけだから知ってるかもしれない。あれ、そうすると学年1位が誰かもモロバレじゃないか。困った。嘘困ってない。
僕の席は廊下側の一番後ろなので、教室全体がよく見える。絢瀬さんは窓際一番後ろなのでもっとも見にくい位置だが、金髪故に視界には入りやすい。入学当初から冷たい印象まっしぐらの彼女は、素晴らしい美貌とスタイルで尊敬を集める一方であんまり積極的に関わる人は少なかった。東條さんくらいだろう。生徒会メンバーですら一歩引いてる気がする。一歩引いてるというか崇拝してる感じもするけど。
そんなどうでもいいことをぼさっと考えていたら、不意に視界に誰かが入ってきた。
「ちょっといいかしら」
「よくないよ」
「えっ」
「…冗談だよ。そんな露骨にショック受けないでよ」
絢瀬絵里その人だった。お隣に東條さんもいる。ショックをうけてるけど相変わらず凛とした佇まいで、まさに氷の女王と言ったところ。エルサかな。
まあそれは置いといて。何の用だろう。咄嗟に冗談が出てしまったけど、ここで会話打ち切りとかないよね。それは非常にいたたまれなくなる。
「別にショックなんて…」
「それで、何か用かな」
「弁明もさせてくれないのね…。学年1位って何かの間違いじゃないかしら」
「えりち。そんなこと言ったらあかんよ」
「何か用かなー」
勝手に会話しないでちょうだい。
「ほら、えりち」
「もう…。あなたが波浜茜くんで間違いないわね?」
「違うよ」
「えっ」
「いやだから冗談だってば。ツッコミ待ちなの。間に受けられると困っちゃうよ」
「希、私こいつ嫌い!」
「ごめんえりち、うちも波浜くんの気持ちわかる」
「もう!」
顔を赤くして涙目でうずくまる生徒会長様。あれ、氷の女王がかき氷お嬢ちゃんになってきた。もしかしてこの子からかうと面白いんじゃなかろうか。
まあでも話が進まないので冗談言うのはもうやめとこう。
「結局用事は何なのかな」
「…今度はちゃんと答えるわよね?」
「答える答える」
「…本当に?」
「どんだけ警戒するのさ」
うずくまったまま顔を半分だけ机の端から覗かせてこっちを見る絢瀬さん。何歳だこの子。上目遣いで妙に色っぽいからにこちゃんがいなければ落ちてた。いや流石に落ちないか。
「実は…あなたが普段どうやって勉強してるのか聞きたくて」
「そんだけかい」
「で、実際どうなの?よければノート見せてほしいのだけど」
「ノート?別にいいけど」
なるほど、勉強熱心な真面目さんだ。ノートの取り方とかにコツがあると踏んでのことだろう。まあそんなわけないんだけど。
パラパラとノートをめくる絢瀬さんの表情は何か面食らったような変な顔してた。何というか、「砂糖だよ」って言われて砂渡されたみたいな。いや表現が難しいんだよ。
まあそりゃそうだろう。
「あの、落書きしか描いてないんだけど」
「そりゃ落書きしか描いてないからね」
「授業中?」
「うん」
授業なんて本職の仕事しかしてない。流石にパソコンやらペンタブやら持ってくるわけにはいかないので、ノートにラフを書き殴るだけだけど。
「…勉強はいつしてるの?」
「そりゃ学校でしてないなら家でするでしょ」
「あの成績は独学ってこと…?」
なにやらショックを受けている絢瀬さん。学校で先生に習うより気に入った参考書使ったほうがいいと僕は思うんだけど、どうなんだろう。
項垂れている絢瀬さんをぼさっと見ていると、隣の東條さんが不意に教室の入り口に向かって声をかけた。
「あ、にこっちやん」
東條さんの視線の先にはなにやら隠れてこっちを見ているにこちゃんが。まあ、さっきから射殺すが如き視線を向けてくるので僕は気づいてたけど。
「どうしたのにこちゃん。ジェラシーかい」
「違う!茜ちょっとこっち来なさい」
「あと3分で授業始まるけど」
「どうせあんた授業聞いてないでしょ!」
「いや僕じゃなくてにこちゃんがさ」
ずかずか教室に入ってきて僕の腕を引っ張るにこちゃん。これはジェラシーだ。間違いない。東條さんと絢瀬さんは、というかクラスのみんなが呆気にとられてぽかんと口を開けて見ていた。まあ反応に困るよね。
廊下まで引っ張ってこられた僕はにこちゃんと窓にサンドイッチされていた。はたから見るとにこちゃんが壁ドンしてるように見える。残念ながら僕は壁ドンされてもときめかないよ。
「茜、何か言うことあるんじゃない」
「にこちゃん友達いたんだね」
「うっさいわね!」
さっき東條さんがにこちゃんを「にこっち」と呼んでいたから、きっと2人は友達なんだろう。友達でないのに愛称呼びは流石にレベル高い。
「希と絵里は去年ちょっと仲良くなったのよ!」
「確かに去年もクラス違ったけど、友達できてたんだ。っていうか絢瀬さんもか」
「そうよ。あんたみたいにぼっちじゃないの」
「大差ないだろう」
「ある!っていうかそんなことどうでもいいのよ!何であんた希と絵里と仲良くなってんの!」
にこちゃんに友達ができてたのは喜ばしいことなんだけど、それよりもジェラシー全開のにこちゃんをどうにかしなきゃいけない。何で仲良くなってんのと言われても困るし、だいたい今さっき初めて喋ったばっかりだぞ。
「いやさっき話したのが初めてだから仲良しとは程遠いかと」
「本当でしょうね」
「嘘つく意味がないだろうに。何がそんなに気に入らないのやら」
にこちゃんが息巻いて答えようとしたところで本鈴が聞こえた。流石に本鈴鳴ったら授業に向かう素振りくらいは見せなければまずいだろう。にこちゃんが。
「ほら授業始まるよ」
「うー、放課後ちゃんと部室来るのよ!逃げるんじゃないわよ!」
そう言って走り出すにこちゃん。いや廊下は走ってはいけないよ。あと放課後は英語やるんじゃなかったのか。
廊下走ってるのを先生に見つかって叱られるにこちゃんを尻目に、僕は自分の教室にのんびり入るのだった。
授業が終わって放課後、早速部室に向かおうと鞄を担ぐ。絢瀬さんと東條さんに呼び止められたけど、ごめんね、にこちゃん最優先。軽く断って失礼させてもらった。
というわけで、死地部室なう。扉開けたらにこちゃんが仁王立ちしていた。目の前で。部屋に入ってきたのが僕じゃなかったらどうすんだ。
「やあにこちゃん、今日もかわいいね」
「うるさい!今日の昼の続きを聞かせてもらうわよ!」
「にこちゃんかわいいよ」
「ちょっと、聞いてんの?」
「にこちゃんかわいい」
「話逸そうったってそうはいかないわよ」
「ほんと超かわいい」
「ああああもおおおおおお!!やめて!やめなさい!!」
とりあえずべた褒めしておく。うーん、照れてる。かわいい。顔真っ赤にして頭をぶんぶん振ってツインテールを振り回している。おお、ナイススイング。
「そんなことより!絵里とか希とかとは友達じゃないっていうのは本当でしょうね!」
「そんなに僕に友達いてほしくないのかい」
「違うわよ!」
「じゃあ何さ」
「なんか…その…茜が女の子と話してると腹たつの!」
「やっぱりジェラシーじゃないか」
「うー!」
ほんと可愛いなにこちゃん。
「じゃあ僕はどうしたらいいのさ」
「…え?」
「え?って」
まさかほんとに友達かどうか聞くだけの用だったの。
「友達ではないわけだけど、今後の彼女らとの関わりはどうして欲しいのさ」
「…どうしてほしいんだろう」
「嘘やん」
この流れだったらあんまり関わらないで!って要望通すところじゃないのかな。うーん、そう考えるとなかなかのヤンデレ具合だ。いやいやにこちゃんヤンデレちゃうし。
「でもにこちゃんが嫌がることはしたくないから、今後絢瀬さんと東條さんとの接触は控えようかな」
「え?!それは…」
にこちゃんがハッとした表情で声を上げた。なんか、それは違うよ!って言いそうな表情だ。論破されそう。
「どうしたの。友達か僕かどっちを取ろうか迷ってるの?」
「…あーもう!わざわざ言うな!!」
「あふん」
言ってみたら図星だったらしく、教科書投げられた。痛いよ。教科書って意外と痛いんだよ。だってほら、背が硬いじゃん。
「そうよ!茜も絵里も希も大事よ!みんな仲良くしてほしいのわよ!!」
「じゃあ仲良くしようよ」
「でもそしたら茜が…」
話が進まないよにこちゃん。
「一回仲良くしてみればいいじゃないの。やっぱりにこちゃん的に嫌って言うなら距離取るし」
「それはそれで絵里と希が傷つきそうよねぇ…」
「何事も犠牲がつきものだよ」
「怖いこと言うんじゃないわよ」
にこちゃんファースト派としては他の誰かがどうなろうと知りません。人間的にどうなんだろうかって感じではあるけどしゃーない。
「というわけでにこちゃんと一緒に仲良くしてみるね」
「…うん」
なんだかんだ押し切った。にこちゃんには友達が大いにこしたことはないからね、にこちゃん笑顔になるかもしれないし。
その後、微妙に納得いかない様子のにこちゃんを引き連れてそのまま帰った。流れで帰っちゃったけど、そういえば英語勉強してないじゃん。してやられた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
自分で書いてて長いなとは思いました。約4,000字でした。4,000字って長いんですね。
しばらくオリジナル展開が続きますが、途中から原作に合流します。それまでオリジナル駄文にお付き合いください。精進します。