笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
今回もお気に入りしてくださった方がいました!!ありがとうございます!!!沢山の人に読んでいただけると元気も出ますし頑張れます!!これからもよろしくお願いします!!
…まあ内容はブラックなんですけどね!!!
今回は空白多めなので読み辛かったらごめんなさい。
それでは、どうぞご覧ください。
「ライブ?」
「そう。みんなで話したの、ことりがいなくなる前にみんなでライブをしようって」
「…俺は聞いてないんだが」
「だって創ちゃんスマホ持ってないにゃ」
「金がねぇ。あといい加減創ちゃんやめろ」
翌日、絵里からライブの話を聞いた。昨日はこの屋上で全力で叫んだためなんか気恥ずかしかったが、当然そんなことはこいつらは知るわけない。平常心だ平常心。
しかし俺だけ話が通ってないのは微妙に悲しい。仕方ないが。
「来たらことりちゃんにも言うつもりよ」
「思いっきり賑やかなのにして、門出を祝うにゃ!!」
「はしゃぎすぎないの!」
「にこちゃん何するの?!」
「手加減してやったわよ!」
「にこちゃん手加減なんてできたの」
「ふんっ」
「あぼん」
みんななかなかはしゃいでいる。無理にやってるのか素なのかはわからないが、暗いよりはいいだろう。
だが、まだ顔が暗い奴がいる。
穂乃果だ。
「…まだ落ち込んでいるのですか?」
「明るくいきましょう?これが、9人での最後のライブになるんだから」
海未と絵里が声をかけるが、穂乃果は顔を上げない。余程メンタルにきてるんだろう。
「そうだ、μ'sの顔であるお前が暗い顔してちゃ、笑顔になれるもんもなれねぇよ」
今度は俺も役に立ちたい。何かしら励ましを入れてやるべきだろう。…得意ではないんだがな。
しかし。
いや、やはりと言うべきか。
「…私が、もう少し周りを見ていればこんなことにはならなかった」
俺の言葉は彼女に、届かない。
「そ、そんなに自分を責めなくても…」
「私が何もしなければこんなことにはならなかった…!」
「あんたねぇ…!!」
「そうやって全部自分のせいにするのは傲慢よ?」
「でも!!」
「…それをここで言って何になるの?何も始まらないし、誰もいい思いをしない」
「ラブライブだってまだ次があるわ」
「そう!次こそは出場するんだから、落ち込んでる暇なんてないわよ!」
「仮に今すぐ元気になれなくても、過ぎたことで悩むのは意味がないだろ。前向いて生きようぜ」
「創ちゃんが妙に優しい…」
「うるせえ。とにかく次のラブライブのために
「…出場してどうするの?」
…なに?」
何故。
何で。
そんなことを言うんだ…?
「もう学校は存続できたんだから、出たってしょうがないよ」
「穂乃果ちゃん…」
そんなことはない。
花陽や凛から聞いているぞ。講堂でライブをした日、「やりたいから」って言ってスクールアイドルを続けたって。学校を救った後でも、新たな目標のために邁進するんじゃないのか。やりたいんだろ?そうだろ?
…そう思っても、声が出ない。
「それに無理だよ。A-RISEみたいになんて…いくら練習したってなれっこない」
「あんた…それ本気で言ってる…?本気だったら許さないわよ」
そうだ、無理なんてことはない。これだけ短期間で実力を上げてきたんだ、伸びしろも感じる。A-RISEも射程圏内だ。
そう思いはするが。やはり、声に出ない。
俺は、何をしているんだ。
「許さないって言ってるでしょ!!!」
「だめぇ!!」
「放しなさいよ!」
穂乃果に摑みかかる勢いで飛び出したにこを真姫が抑える。ああ、その役も本来なら俺のはずだ。何故俺の体は動かないんだ。
「にこはね!あんたが本気だと思ったから!本気でアイドルやりたいと思ってたからμ'sに入ったのよ!ここに賭けようって思ったのよ!!それをこんなことぐらいで諦めるの?!こんなことぐらいでやる気を無くすの?!」
ああ、そうだ。あんたは誰よりもスクールアイドルを愛して、目指して、憧れた。だから穂乃果を許せない。わかるさ、俺だって許せない。穂乃果の胸倉を掴み上げて吊り上げてやりたい。
しかし、やはり体は動かない。声も出ない。
穂乃果も、俯いたまま答えない。
「…じゃあ、穂乃果はどうすればいいと思うの?どうしたいの?」
絵里の催促にも無言を貫く穂乃果。今彼女は何を思っている?聞かなければならない。しかし、同時に聞いてはならない予感もした。
「答えて」
もう一度、絵里が言う。
穂乃果も、ついに口を開く。
「やめます」
…………なんだと?
「私…スクールアイドル、やめます」
誰もが息を飲んだ。
驚愕、怒り、戸惑い…誰が何を感じているのかはわからない。しかし、誰も予想しなかった答えを。
穂乃果は。
「……………何を言ってるんだ」
誰かの声がした。
女性の高い声ではないが、一般的な男性ほど低くもない声。
…今まで一言も喋らなかった、茜だ。
「君は何を言ってるんだ。引責辞任か?君が始めたこのグループを、自分が悪いからってやめてしまうのか?君が作り上げたμ'sは、そんな簡単に放り捨てていいものなのか?!なあ!!ここはもう君一人のものじゃないんだぞ!!」
「…じゃあ、誰のものなの」
「そんなものμ'sのみんなの
「…にこちゃんでしょ」
「っ?!?!」
茜が、初めて見せる憤怒の表情で穂乃果に詰め寄る。穂乃果の制服を掴んで、本気で怒っていた。にこも口を挟めないほどに。
しかし。
彼の本音を、穂乃果は恐ろしく的確に貫いてしまう。
「にこちゃんのため。そうでしょ?茜くんいつもそうだもん。…あなたにとっては、μ'sは私たちの居場所とかじゃなくて、にこちゃんの居場所なんでしょ?」
「…それは…!!」
実際そうなんだろう。茜の思考は常ににこ中心、他のことは後回しな節がある。
だが、今それを。
糾弾してはいけない気がした。
したが、止められない。
「…茜くんの都合に、私を巻き込まないでよ」
「…あ、」
茜は。
穂乃果の制服を手放し。
その目は、表情は、生きている人間とは思えないほど生気が抜けていた。
そのまま動かなくなった茜を置いて、屋上から去ろうとする穂乃果。にこがキレるかと思ったが、にこもかつてないほどの絶望感を纏っていた。
誰も動けなかったが。
唯一、海未が穂乃果に近づき、
バシィッ!!!と。
穂乃果にビンタを食らわせた。
「…あなたがそんな人だとは思いませんでした。最低です…あなたは最低ですッ!!!」
あの後、みんな帰ってしまった。茜はにこに連れられて、穂乃果と海未はバラバラに。多くのものが崩れていく感覚があった。喪失感とも言うのだろうか。
「…創ちゃん、凛たちも帰ろ?」
「……ああ」
凛に促されて、俺も歩き出す…が、数歩で止まってしまう。
「大丈夫…?」
「…ごめんな」
「え?」
「何もできなかった…お前らを支える立場にありながら、穂乃果を止めることもできなかった…!!」
思わず拳を握る。昨日あれだけ叫んだのに、まだ叫び足りない。自分が許せない。あの場で動けなくなってしまった自分が。
「…ううん、創ちゃんはあれでよかったんだよ」
…え?
凛は良かったと言う。何が良かったんだ、何も出来なかったし、何も救えなかったのに。
しかし、花陽と真姫も寄ってきて言葉を続ける。
「そうだよ。創ちゃん、きっと
「穂乃果やにこちゃんを止めるのに、あなたの力技は一番有効だったとは思うけど、あなたはそうしなかった。怪我させるかもしれなかったからでしょ?怖がらせたくなかったからでしょ?ほんとに見た目に似合わずお人好しなんだから」
「凛はね、創ちゃんもっと怒ると思ってた。何かあった時に穂乃果ちゃんを殴ったりしないかなって心配だったの。でも、最初ライブの話をした時は穂乃果ちゃんを励まそうとしてくれたし、頑張って優しいこと言おうとしてた。一回も手を上げなかった。一回も怒らなかった」
3人の励ましを受けて、何か納得できそうだった。
「創ちゃんは何も出来なかったんじゃないよ。
凛が俺を見上げながら、涙を流しながら語る。花陽も涙を浮かべた笑顔を俺に向け、真姫も目を潤ませながら呆れたような笑顔を向けてくる。
ああ、そうだ。
ずっと、こいつらを最優先でやってきた。
だってこいつらはスクールアイドルで、俺はマネージャーだ。こいつらを傷つけるわけにはいかない。必要以上に怖がらせてはならない。俺が手を上げれば彼女らは怪我し、怒声を上げれば慄く。怪我させたら踊れないし、怖がらせたら以降の関係に支障が出る。彼女らを支えなければならなかった。
だから、怒りや激情にまかせて声を上げることも手を出すこともできなかった。
動けなかったのではなかった。
怒りや焦りの本能を、「彼女らを守るべきだ」という奥底の理性が封殺した。
だから動けなかった。否、動かなかった。
あんな状況下でも、俺は無意識下で彼女らを守ろうとしていた。
目先の解決ではなく、これからもずっとμ'sを守っていくために。
「だが…穂乃果を止めることはできなかった…」
「それは凛たちがなんとかするにゃ。友達だもん」
「うん、全部創ちゃんに任せっきりにするわけにもいかないもんね」
「仕方ないわねぇ」
「真姫ちゃん素直じゃないにゃ」
「何よ!」
俺は余計なことをしない選択をすることで、これからもμ'sを守れる。俺が苦手なこと、出来ないことはどうやらこいつらがやってくれるらしい。
らしいが…ん?
凛がこちらに向けて手を広げている。
「…どうした」
「…しゃがんで」
「は?」
よくわからない要請をされたが、言われた通りしゃがむ。
ふわっ、と。
軽やかに凛が抱きついてきた。
「んなっ何を?!」
「…ありがとう」
「…は?」
「ごめんね。凛たちのために苦しませちゃったね。ありがとう、凛たちのために悩んでくれて。…いいんだよ。凛たちは友達でしょ?一人で悩まなくてもいいんだよ」
一瞬振り解こうとしたが、凛の震えた声を聞いて思い留まった。…泣いているのか。俺を苦しませたと思って。
「…ああ、すまないな。変に心配かけちまったな」
「いいよ、心配かけてよ。創ちゃんはいつも凛たちのために頑張ってくれるんだもん、凛たちもお返ししたいよ」
横にいる花陽と真姫も頷いていた。…なんて優しいやつらだろうか。なんて俺は恵まれているのだろうか。生まれた境遇に文句も言いたくなったことも沢山あったが、今は生まれてきてよかったと思う。
不意に、凛の手が俺の頭の後ろを撫でた。
「…創ちゃんも、辛かったら泣いていいんだよ」
「辛いわけが…」
「さっきは泣きそうな顔してた。いい?泣かなくて大丈夫?」
耳元で囁きながら俺の頭を撫でる凛。かといって、そう簡単に泣けるもんでもない。泣いたことなどほとんどないしな。
「…ああ、大丈、夫…だい、…」
「…うん」
おかしいな。
声がうまく出てこない。視界が潤む。目が熱い。
涙が、ぼろぼろ零れ落ちてくる。
「…ぐっ、く…」
「…うん、ありがとう、創ちゃん」
そういえば、生まれてこの方頭を撫でられたことなどなかった。慰められたことなどなかった。人生で初めて、しかも同級生の女子に頭を撫でられて慰められるとか。
…カッコ悪いな。ダサいな。
でも、涙は止められなかった。
それから優に30分くらいは泣いていた。
泣き声を上げるほどではなかったが、凛はずっと頭を撫でてくれて、花陽は背中をさすってくれていた。真姫はおろおろしていたらしい。
泣いた後は、これほどスッキリするものかと思うほど思考がクリアになった。ああ、落ち込んでいる暇はない。これまで通り、こいつらを守ってやらなければならない。
…本当は凛を抱きしめ返してやりたかったが、俺は人を抱きしめる力加減なんて知らなかった。
………
………………
………………………あれ。
僕はいつの間に帰ってきたんだろう。
なんかさっきまでにこちゃんが居た気がする。多分にこちゃんと帰ってきたんだろうな。なんで記憶飛んでるんだろう。損した。
知らぬ間に僕は居間のど真ん中に立っていた。一軒家の居間だからそれなりに広いが、仕事で使う画材やキャンバスが空間の大半を占めているせいであまり広くは感じない。
居間を一人で占領していいのかって?
いいんだよ。
僕は一人だから。
両親は、もういないから。
一人だと自覚したら、さっきの屋上での出来事が脳裏に蘇ってきた。いや本当にさっきなのかわかんないけど。体感的にはさっき。
とりあえず、高坂さんが抜けてしまったらμ'sはうまく回らなくなるだろう。衣装係もいない。少なくともしばらくは活動休止とかになるだろう。
「…せっかくにこちゃんの居場所を見つけたのになぁ」
にこちゃんがμ'sに入った時は、アイドル研究部を続けておいてよかったと思ったけど…結局ダメだったか。
今まで成功した試しがないなあ。
「まあいいか、またにこちゃんの居場所作りを
『…茜くんの都合に、私を巻き込まないでよ』
「…」
ああ、
そうか。
僕の都合には、誰も巻き込めないのか。巻き込んじゃいけないのか。
でも、そしたら、にこちゃんの居場所はどうしよう。
にこちゃんが笑顔でいられる場所はどうやって作ろう。僕がやろうとする限り、全部僕の都合になっちゃうじゃん。
…あれ?
…僕には、何もできないの?
かしゃっ、と。
無意識に手に持っていた平筆が床に落ちた。
…ああ。
そういえば今まで一度もにこちゃんの居場所を作れなかった。小学生の頃も、中学生の頃も、高一のときも。で、今回も無理だった。
もしかして、僕はにこちゃんの役になんて立てないんじゃないか。
「…だめだ、そんなこと考えてたら…」
頭を振って疑念を吹っ飛ばし、隣室の書斎に行く。
書斎には父さんが残した多くの本と書斎机がある。そして、それとは他に大量の40ページ綴りのノートで埋まった棚がある。
「書かなきゃ…」
そして今日も机のスタンドライトをつけて比較的新しいノートを開き、内容を書き込む。
「…」
書き込もうとした。
でも、手は動かなかった。
ノートの題名は。
『にこちゃん観察日記』。
これで、175冊目。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
まずは遂に抜けてしまった穂乃果ちゃん。波浜君への言葉がクリティカルヒットしたようですが…はたして。
そして滞嶺君。9人の男性陣の中でもかなり登場は多いのでツワモノ感がすごいとは思いますが、無敵ではありません。むしろ過剰に優しすぎるくらいです。親もいないので甘えることもできなかった彼に抱擁は効果抜群です。凛ちゃんファインプレー。
最後に、心の折れた波浜君。ここから波浜君の核心に入っていきます。
ちなみに、40ページのノート174冊を毎日1ページ丸々埋めて日記を書くと19年くらいかかります。