笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

また前回もお気に入りしてくださった方がいらっしゃいました!!ありがとうございます!!もっともっとお気に入りしてくださるように頑張ります!!
そして物語はシリアス終盤です。しっかりハッピーエンドにしなきゃ!!あれっタイトルは終わるとか書いてある!大丈夫かこれ!!

というわけで、どうぞご覧ください。




盲目の恋が終わる日

 

 

 

 

 

「あの日から、茜はまた元気になったわ。3ヶ月くらいは入院してたけど。…元気になった代わりに、私以外の人とはほとんど関わらなくなった。私もそうなってほしいと思っていたから嬉しかったし、μ'sと関わるまで何の疑いも持たなかったけど」

 

 

花陽も、凛も、創一郎も…みんな黙っていた。既に暗くなった境内に重々しい空気が漂っていた。

 

 

「あいつが急にμ'sの手伝いを始めて、花陽が倒れそうになった時に支えたり、絵里のことを気にかけたりして…その時から、昔のあいつの面影が見えたのよ」

 

 

昔の、私だけじゃなくて目に入る全てを助けないと気が済まないみたいな凄まじい博愛思想。それは、あの日以前の茜の姿と同じだった。

 

 

「やっと気付いたのよ。あいつが無理してたって。私のわがままを守るために、今までずっと自分の主義を殺してきたんだって」

 

 

多分、茜にとって、それ以外に生きる希望がなかったんだと思う。必死に私のために生きようと、他の全てを封殺してきたの。

 

 

そんな私の話に返事をしたのは…花陽でも、凛でも、創一郎でもなかった。

 

 

「…やっぱりそうだったんやね」

「…希」

 

 

いつのまにか私の後ろにいた希だった。隣には絵里もいる。境内でよく見る巫女服ではなく、私服だった。

 

 

「ん?どうしたお前ら」

「希がここにあなたたちがいそうだから、買い物ついでにのぞいていこうって言ったのよ」

 

 

何か意図があって来たのではないのね…いや、希のことだからまた何か裏があるかも。

 

 

「希、やっぱりって…どういうこと?」

「えりちがμ'sに入ったときにえりちにも話したんやけど、茜くんってμ'sと関わり始めねから雰囲気が変わったんよ。それまでにこっちしか見ていなかったのに、反射的に他の人も気にかけてしまうような、そんな感じ」

 

 

…流石希ね。そんなに茜と関わりが深かったわけでもないのに、そこまで見抜くなんて。

 

 

「だからえりちに言ったんよ。もしかして、波浜くんって本当はみんなのために頑張りたいんじゃないかって。にこっちが大好きなのはわかるけど、それにしても不自然だ、何か無理してにこっちだけ見ているんじゃないかって」

「…本当に全部お見通しなのね」

 

 

これほどとは恐れ入ったわ。希は優しい笑顔でこっちを見ている。何よ。お母さんなのあんたは。

 

 

「そうでもないよ。…ねえ、にこっち。茜くんを助けたいんでしょ?」

「…うん。でもどうしたらいいのかわからなくて」

 

 

希は関西弁を消して私に問いかけた。こういう希は、大抵真剣なとき。だから私も本音を言った。

 

 

「そっか…どうしたらいいかはわからないけど、何が原因かはわかるかも」

「え?」

「多分ね?多分、にこっちが茜くんを手放したくないからよ」

「…そりゃそうよ。好きなんだもの。あいつを手放したら…あいつはもう私のもとには帰ってこないわ。そういうやつだもの」

 

 

当たり前だ。茜は恐ろしいほどの博愛で、きっと誰のものにもならない。手を離した瞬間、一瞬で他の誰かを救いに行ってしまうのよ。

 

 

「大丈夫よ。…言ったでしょ?茜くんがにこっちのことが大好きなのは私たちにもわかるの。あれはきっと、嘘じゃない」

「…」

「彼を信じて、自由にしてあげて。だって、にこっちが好きだったのは…みんなのために頑張る茜くんなんでしょ?」

「あ…」

 

 

そうだ。

 

 

私はそんな博愛の茜が好きだった。

 

 

その博愛が好きで、恐ろしかった。

 

 

 

 

「にこっちが一番好きな茜くんを、見てあげて?」

「…うん」

 

 

 

恐れちゃいけない。

 

 

たとえ私のもとを離れるとしても…私が好きな茜を、取り戻さなきゃいけないわ。

 

 

 

 

それが、彼を縛った私の責任よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ。

 

 

今日って何日だっけ。

 

 

ご飯は食べたよな。食べた気がする。

 

 

今って何時かな。

 

 

まあいいや、お腹すいた。

 

 

お腹すいたけど、あんまり食べてもどうせ吐くからレトルトお粥でいいや。っていうか数日そればっかな気がする。

 

 

とりあえず日が出てるから夜ではないだろう。それ以外はわかんない。まあいいや。

 

 

ふらふら立ち上が…ろうとして座り込む。足に力が入らなくて立てなかった。まあいいや、ご飯くらい。

 

 

あ、にこちゃん観察日記書かなきゃ。でも最近会ってないや。何書こう。あれ、何日前から会ってなかったっけ。

 

 

全然頭回んない。

 

 

 

 

 

 

がちゃっと、扉が開く音がした。

 

 

鍵はかけた気がする。

 

 

だとすれば…鍵を開けられるのは、にこちゃんだけ。

 

 

 

 

 

 

 

「茜ー、入るわよー」

 

 

 

 

 

 

 

ああ、間違いない。にこちゃんだ。

 

 

「…久しぶりに来たけど、やっぱり変な匂いするわね」

「油絵の匂いだよ、にこちゃん」

「それと洗ってない食器とかの匂いもすごいわよここ」

「そうかな」

「そうよ」

 

 

そんなひどい匂いするかな。食器を洗う元気はなかったけどさ。

 

 

「もともともやしみたいなのに更にやつれたわね」

「そんなことないよ、にこちゃんが来たからパワー全開だ」

 

 

そうだ、僕にはにこちゃんさえいれば何でもできる。だってそのために生きてるんだからね。

 

 

「…じゃあ何であんたは、私の手伝いをしてないのよ」

「ん?」

「今も私はスクールアイドル続けてるのよ?何であんたは私の近くにいないのよ」

 

 

ああ、そういえばそんなメール来ていたな。返事してなかったっけ。いつから練習するんだっけ。

 

 

「おかしいな、にこちゃんからの連絡に返事してなかったなんて。ごめんね、すぐ準備するから…」

「茜」

「ん?」

 

 

すぐに立ち上がって…いや、立ち上がろうと踏ん張っただけだけど、とにかくにこちゃんのお手伝いをするための準備をしようと思ったら、にこちゃんが声をかけて来た。なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「…もう、私のために頑張らなくてもいいのよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………え」

 

 

 

 

 

 

 

動けなくなってしまった。

 

 

「な、何で…なんで?そんなの…そんなこと言われたら、僕は何のために生きればいいの?今までずっとにこちゃんのために生きてきたのに…」

 

 

あの日、僕の死んだ心を救ってくれたにこちゃんの言葉。その言葉の通りに、僕はにこちゃんのために、そのためだけに生きてきた。今になってその手を離されたら…また生きる意味を見失ってしまう。

 

 

「やだ…嫌だ、そんなの嫌だ。僕はにこちゃんのために生きるんだ、頑張るんだ。にこちゃんがいたから今僕は生きているんだ、だからにこちゃんのために頑張るんだ。にこちゃんのために…にこちゃんさえいれば…」

 

 

にこちゃんこの命の恩返しをしなきゃいけない。生きる価値をくれたにこちゃんに返礼をしなければならない。

 

 

あの日、生き残ってしまった僕にはその程度の価値しかない。

 

 

「茜、よく聞きなさい」

 

 

うわ言のように繰り返す僕の肩を掴んでにこちゃんは真っ直ぐに僕を見る。知らぬ間に僕の目からは涙が溢れていた。

 

 

「私は、あんたが好きよ」

「うん、僕も

 

 

 

 

 

「いいえ、あんたはそうじゃないわ」

 

 

 

 

 

え?」

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

僕ら相思相愛だと思ってたけど。

 

 

というか、僕がにこちゃんを好きではないの?

 

 

「…あんたは私しか見ていないだけ。私がそう仕向けただけよ。あんたには…他に選択肢がないだけよ」

「そんなこと…そんなことないよ!!」

「あるわ。あんたは必ず『私のために』って言って行動する。それ以外の行動理由がないのよ。私に関わることだからやる。関わらないならやらない。他の都合は一切考慮しない」

「それは…」

 

 

それは確かにそうだ。だってにこちゃんのために生きているんだから、他のことを頑張る意味はない。

 

 

「あんたは、昔は沢山の人のために頑張ってた。そんな姿が好きだった。…今まで、そんなあんたを独り占めできたんだから私も嬉しいわよ?」

 

 

何なんだ。にこちゃん、そんな今生の別れみたいな言い方しないでよ。

 

 

「…嬉しいけど、正直…今のあんたは好きにはなれないわ」

「そんな…だってさっき好きって…」

「ええ、好きよ。一回好きになっちゃったらそう簡単に嫌いになれないわよ。でも、今から惚れろと言われたら無理よ。かっこよくないし」

 

 

そんなこと言われても困るよ。

 

 

「今はみんなのために頑張ってないもの。…私はあんたに酷いことをしたわ。壊れそうなあんたの心を、都合のいい言葉で縛り付けた」

「でも…にこちゃんの言葉が無かったら僕は今生きていない…!」

「そうかもね。そこは難しいところだけど…それでも、ここから先はいい加減あんたを解放してあげなきゃ」

 

 

何か反論したいが、言葉が出てこない。その一瞬の躊躇は、にこちゃんに次の言葉を出させるには充分だった。

 

 

 

 

 

 

「あんたはこれから、私に構わず生きなさい。私もあんたに縋り付くのは卒業するわ」

 

 

 

 

 

 

「嫌だ!!!」

 

 

 

 

 

 

反射的に叫んでしまった。反論材料なんてないけど、嫌なものは嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ…!!

 

 

「そんなの…にこちゃんがいなかったら僕は…僕は何のために…どうやって生きたらいいの?!嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!独りにしないで!!僕を独りにしないでよ!!!」

 

 

 

 

 

 

バシン、と。

 

 

 

 

 

 

突然ビンタが入った。

 

 

 

 

 

 

痛い。

 

 

 

 

 

 

「…甘えないで」

 

 

にこちゃんも泣いていた。泣いてたけど、語気は強かった。

 

 

「私が言えることじゃないけど、あんた17歳にもなって女の子に縋り付いて生きてんじゃないわよ。大人なら1人で立ちなさい」

「でも…それじゃぼくは何のために…」

「あんたねぇ…」

 

 

にこちゃんは泣きながら、泣いてるけど、凄く綺麗な笑顔を見せてくれた。母親が子供を安心させるときのような優しい笑顔。そして、こう続けるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「別に理由がなくても生きてていいじゃない」

 

 

 

 

 

 

「…え」

「何でわざわざ誰かの許可を受けて生きなきゃいけないのよ。好きに生きればいいのよ、理由なんかなくたって、生きたかったら生きてればいいわよ」

 

 

目から鱗が落ちた気分だ。

 

 

今までずっと、何かのために生きてきた。人のために、にこちゃんのためにって。そうすべきだと思ったし、そうしなきゃいけないと思ったから。

 

 

「あとあんた独りにしないでって言うけどねぇ、あんたにはμ'sの仲間がいるじゃないの。桜さんとか天童さんとか藤牧さんとか雪村さんとかいるじゃないの。何勝手に独りになってんのよ、いつも通りあんたは味方だらけよ?1人が嫌ならみんなに頼りなさい」

 

 

確かに、そう言われればそうだ。僕はいつのまにか沢山の仲間がいた。にこちゃんしか見ていなかったから気づけなかったのか。

 

 

しかし。

 

 

「でも、μ'sは…」

「そう、正直解散寸前よ。だから今、穂乃果にはことりを連れ戻しに行かせてる」

「はい?」

 

 

何言ってんの。

 

 

「いや…留学するんでしょ?」

「そうね。海未の話だと今日出発らしいけど、それでも連れ戻すのが穂乃果よ」

「いやいやいやいや」

 

 

どんだけ先方に迷惑かかると思ってんの。

 

 

「それに…天童さんが知らないところで補佐するとか言ってたし、なんとかしてくれるでしょ」

「…え?天童さんに会ったの?」

「ええ。なんか変?」

 

 

まじで。天童さんが直々に動いてるの。

 

 

「そっか…それなら…」

「何よ」

 

 

前にも天童さんが暗躍したことは何度かあった。そのほとんどは起き始めた崩壊を止めるような、ハッピーエンドを飾るようなもの。

 

 

だったら、これが彼の思うハッピーエンドだというのか。

 

 

「…にこちゃん、僕は自分のために生きてもいいのかな」

「当たり前でしょ」

「もうにこちゃんのためだけに頑張れなくなるかもしれないよ」

「きっとそうなるし、覚悟してるわ」

「ずっとにこちゃんと一緒に居られなくなるよ」

「あーもうわかってるわよ!さっきも言ったでしょ?!私も茜を卒業するのよ!全部覚悟の上よそんなこと!!」

「あふん」

 

 

色々にこちゃんに確認したら殴られた。痛いよ。ひどいよ。でもこの感じ、いつもの僕らとにこちゃんだ。いつも通りのやりとりができるのが、なんとなく嬉しい。痛いけど。

 

 

「…私も茜にいつまでも縋ってるわけにはいかないもの。私こそ、茜がいなくても生きていけるようにならなきゃ」

「寂しいね」

「まあ私はそれでも茜を狙うわよ」

「本人を前にして言うかいそれ」

「言うわよ、幼馴染だし。茜がμ'sのみんなとか、クラスのみんなとか、沢山の女の子と出会って、その上で私を選んでくれるくらいになるのよ。…大体、もう好きって言っちゃったし」

「まあそうなんだけど」

 

 

いくらなんでも僕恥ずかしいよその宣言。

 

 

「宇宙ナンバーワンアイドルになるんじゃなかったの。僕一人にかまけてる場合じゃないんじゃない?」

「それはそれよ。もちろんアイドルに恋愛はご法度だから付き合ってなんて言わないわ。全部終わった後に一緒になるのよ」

「ごめんねにこちゃん、僕発火しそう」

「なんでよ!!」

「恥ずかしいんだよ」

 

 

恋する乙女って強い。メンタルが。何でにこちゃんそんな平気な顔してるの。

 

 

「まあ、でも茜も元気になったみたいでよかったわ」

「うん、にこちゃんのおかげかな。もう僕は…好きに生きていいんだ」

「バカね、初めから好きに生きてよかったのよ」

 

 

安心した顔の、ちょっと寂しそうな、でも望んだ結末に満足したような表情のにこちゃん。改めて見てみると、今までの盲信的な賞賛抜きにしてもかわいかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…そうだね。僕はこれから僕のために生きる。君のためには…生きられない」

「私もよ。私もあんたのためには生きないわ。ずっと一緒にいたりもしない」

 

 

 

 

 

 

しっかりと。

 

 

お互い口にして確かめる。

 

 

確信する。

 

 

 

にこちゃんは「あんたは私を好きじゃない」って言ったけど、流石にそこは譲れない。

 

 

僕はにこちゃんが好きだよ。どんな形であれ、僕を救ってくれた。しかも二回も。二回目に関しては、僕を手放す覚悟までして救ってくれたんだ。

 

 

そんなの、好きにならないわけないじゃん。そんな優しさを持ってる人、ほかにいないよ。

 

 

でも、これからはもっと色んな人を見て、その上でにこちゃんを選ぼう。根拠はないけど、やっぱりにこちゃん以上の女の子はいないと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

だから、にこちゃんにくっついている理由はもう無い。

 

 

 

 

 

僕が10年間縋った妄執が、今、終わりを告げたんだ。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

2人は幸せなキスをして終了…だと思った方!!!残念ながら違いましたごめんなさい!!キスどころかハグすらせずあろうことかビンタを食らわせました流石にこちゃん!!!
こんな設定にした私が言うのもなんですが、やはり依存はよくないと思ったのでこんな形にしました。よくある「関係を重ねて恋愛に持っていく」タイプではなく、「最初から恋愛感情マックスなのを一度リセットする」形のお話を書きたかったんです。あんまりそういうお話見ませんから。
まあでも結局波浜君とにこちゃんはラブラブカップルになるんですけどね!!!(盛大なネタバレ)

アニメ一期は次話で完結となります。突然二期もその後もお話は続きますが、とりあえずの区切りまでお付き合いいただけると幸いです。

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