笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
にこちゃん誕生日おめでとう!!!この日のためにアニメ一期終わらせたんですよええ!!!
時間軸は一年後なので。三年生組が卒業した後のお話ですから、波浜君が本気モードになってないと困るわけです。いやーやっとお誕生日祝えますよ!!素敵!!!
あ、ちゃんと波浜君とにこちゃんはお付き合いしている前提でお楽しみください。
というわけで、どうぞご覧ください。
一万字いきました。
もうすぐにこちゃんの誕生日だ。
7/22。僕が毎年心を込めてにこちゃんに感謝する大事な日。
「というわけで何かアイデアはございませんかお二方」
「土下座までしなくていいのよ?」
「というか、やっぱり要件はそのことやったんやね」
なので、僕は絵里ちゃんと希ちゃんを自宅に召喚していた。同級生というだけあって、にこちゃんと特にプライベートな関わりが多いのは間違いなくこの2人だろう。次点で真姫ちゃんかな。
最近いろんな人が来るようになって若干片付けた、しかし作品をそこら中に置きっぱなしのぶっちゃけ汚い居間でお二人は苦笑いしていた。
「でも、にこの誕生日は毎年祝っていたんじゃないの?あんなにくっついていたじゃない」
「うーん、今年は今までと心持ちが違うというか。にこちゃん以外のものも見れるようになってからのにこちゃんの誕生日は今年がはじめてだから」
そう。今年、今までと決定的に違うのは僕らの関係性。今までの「にこちゃんしかいなかった世界」から「たくさんの人がいる中でにこちゃんを選んだ世界」になったんだ。
そしたら、いつも通りのプレゼントというのもちょっと気が引けてしまう。
「そういうことなんやね。てっきり毎年スルーしてるのかって思っちゃった」
「そんなわけないよ」
「そういえば、いつもは何をプレゼントしていたの?」
「毎年ハンバーグ作ってあげてたね」
「それでええやん?」
「いつもと同じでは味気ない気がしてしまうんだよね」
「そう?恋人がご飯作ってくれるならうちはすっごく嬉しいよ」
「そうかもしれないけど、特別感はないんだよね。いつも作ってるから」
「ややこしいわね…」
にこちゃんが大学生になった今でも、僕はにこちゃんの家にご飯を作りに行ったりしている。ハンバーグも作る。だから今まで通りだとなんか日常の一コマになってしまう。
「プレゼントするなら、何か形に残るものにしたい。今までみたいに食べたらなくなるものじゃなくてさ」
「形に残るもの…アクセサリーとかかしら」
「うん。僕もそれがいいかなとは思うし、にこちゃんが気に入りそうなデザインも思いつくんだけど…」
「だけど?」
「…本当にそれで喜んでくれるか、微妙に不安になっちゃうんだよね」
そう。
僕が今困っているのは、そういうこと。もちろんにこちゃんはきっと僕から何かを渡せば大概喜んでくれるし、本気で文句を言うこともないだろう。それはわかってる。
でもそうじゃなくて、僕はにこちゃんが本気で望んでいるものを僕の手で渡してあげたいんだ。
アクセサリーであっても、「ほんとにこれが一番欲しいかな」って思ってしまったら先へ進めない。
全部まとめてしまえば、不安なんだ。
「でもなんか以外やね。茜くんって何でも自信満々でやっちゃうイメージやん」
「そんなわけないよ。僕だって不安になることはある」
まあたしかにあんまり不安は感じない方だけど、今回はにこちゃんのことだしね。
「でも、にこが喜びそうなものねぇ…。可愛いものとかかしら?」
「それはたくさん持ってそうだけど」
「それでも、好きな人からもらえたら嬉しいよ?」
「既に持ってるものと被るのが怖いんだよね」
「流石ににこが持ってるものまでは把握してないのね。安心したわ」
「そりゃね、8割くらいしかわかんないから」
「やっぱり安心できないわ」
「何でさ」
仕方ないじゃん、ストーカーモードだった頃に覚えたものだからってそう簡単に忘れないよ。それ以降の持ち物は知らないことも多いけど。
「あとはアイドルグッズとか?」
「ハマってるものは迂闊に手を出せないね。この前も伝伝伝ver.2買ってたし」
「ver.2とかあったんやねあれ」
「先月出たんだってさ」
μ'sも収録されてて大喜びだったよ。僕が提供したんだけどね。
「なかなか難しいわね…。茜の要求が難しいっていうのもあるけれど」
「ごめんね」
「いいのよ。でも、私たちじゃいい案は思いつかないわね」
「あ、そろそろ高校は終業時間やし、穂乃果ちゃんたちにも聞いてみたら?今日は練習お休みって言ってたよ」
「そうなの?それなら一応聞いてみようかな」
のぞえりのお二人は空振りのようだ。仕方ないね。大本命から始めたけど、一発で納得のいく回答を得られるとは思ってなかったし。
後輩たちにも聞いてみるしかないね。
「よし、じゃあ出かけるか。今日はありがとうね」
「あら、穂乃果たちに会いに行くなら私たちも一緒に行くわよ。最近会ってなかったし」
「うちは神社に来るみんなによく会うよ!」
「まだ巫女さんやってたんだね」
巫女さん気に入ってるのかな。大学生ならもっとバイトあるだろうに。まあ本人が楽しそうだからいいか。
「…あら?」
「どうかした?」
「この絵…私たちの?」
玄関へ向かう途中、絵里ちゃんが廊下の一画にある一枚の絵に目を向けた。
μ'sのみんなが、「僕たちはひとつの光」の衣装を着て並んでいる集合絵。背景は舞台装置にも使った大きな花で…全員、後ろを向いている。
「ほんとや、ラストライブの時のやね。でもどうしてみんな後ろ向いてるん?」
「ああ、それね」
みんな各々ポーズは取ってるけど、感じられるのは躍動感だけ。当然表情は全く見えない。
「それ、わざとそうしたんだよ」
「そりゃ茜くんの絵なんだし、そうなんやろうけど…何で?」
「…君たちの表情は、僕が決めることじゃないと思ったからね」
「「?」」
「君たちがどんな表情をするかなっていうのは、当然作者である僕が自由に決められるんだけど…僕の主観で決めた表情に固定したくなかったの。笑ってるかもしれないし、泣いてるかもしれない。真顔かもしれないし、変顔かもしれない。無限に可能性があるんだ。…だから、君たちの笑顔っていう最後のピースは見る人に委ねることにした。その人が一番相応しいって思う表情を連想できるように。だから後ろ向かせたの」
有名な例で言ったら、ミロのヴィーナスだろうね。
芸術っていうのは、100%完璧に作っちゃ面白くないものだ。だから僕は未完成の部分、画面外の部分なんかは見る人の想像力に委ねる。
そうすれば、「勝手にその人にとって最善の芸術に補完してくれる」からね。
「まあその絵は人に見せるのもったいなくて未だに公開してないんだけどね」
「ええ…」
「いいじゃん、僕の絵なんだから」
どの絵を公開するかは僕の自由だよ。だから変な顔するんじゃないよ。
「お、いたいた」
音ノ木坂に向かう途中の道で丁度いい感じに穂乃果ちゃんと海未ちゃん、ことりちゃんが見えた。現3年生組だね。
「あっ!茜くん!絵里ちゃん!希ちゃん!」
「お久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです。珍しいですね、にこがいないなんて」
「割とにこちゃんと別行動するのは珍しいことではないんだけどね」
常にセットってわけではないんだよ。一緒にいることの方が確かに多いけど。
「そっちこそ、他のメンバーは?」
「私たちは生徒会の仕事があったから少し遅くなっちゃった。2年生は花陽ちゃんがみんなをスクールアイドルショップに連れて行ったし、1年生は先に帰ったよ」
「なんか学年がごちゃごちゃになるね」
「そうやね…2年生は花陽ちゃん、真姫ちゃん、凛ちゃん、創ちゃんだもんね」
1年生たちとも会ったことあるし進級したんだなっていうのはわかるけど、やっぱり印象としてね。卒業しちゃった僕らはなかなか感覚が追いつかない。
「ところで、こんなところで何をしているんですか?」
「君たちに会いに来たんじゃないか。相談したいことがあったからね」
「相談したいこと…?」
「茜くんが?」
「珍しいね!」
「そんなに珍しい?」
「珍しいわね」
「そこ絵里ちゃんが答えるの」
どんだけ珍しいのさ。
「にこちゃんの誕生日が近いから、誕生日プレゼントをどうしようかって思ってね。なかなか思いつかなかったからみんなに聞いてみようと思って。帰りながら聞いてくれないかな」
「にこへのプレゼント、ですか?」
「そんなの茜くんが一番思いつきそうなのに…」
「色々説明するの面倒だなぁ」
面倒だけど仕方ないか。7人で邪魔にならないようにかたまって歩きながら、絵里ちゃんや希ちゃんにしたのと同じ説明を穂乃果ちゃんたちにも伝えた。同じ説明を2回するのってしんどいね。
「なるほど…」
「ちなみに、穂乃果ちゃんは桜に何もらったら嬉しい?」
「えっ桜さん?そうだなぁ…」
穂乃果ちゃん、この流れで聞かれた意味をちゃんとわかってるのだろうか。わかってなさそう。
「うーん…」
「流石に思いつかないかな」
「っていうか、桜さんが何かくれるっていう印象があんまりない…」
「かわいそうに」
「意外と照れながら何かくれるかもしれんよ?」
「ほんと?!」
「かもって言ってるじゃん」
「わあー!何くれるかな?!」
「急にノリノリになったね」
だから「かも」だってば。そういえば穂乃果ちゃんの誕生日もそこそこ近かったね。これは桜の巻き込まれ体質が全力出しそう。
「やっぱりパンかな?ケーキかな?クレープとかかな?!」
「食べ物ばっかじゃん」
「えー。じゃあネックレスとか?」
「ネックレスねぇ。確かにプレゼントとしてはメジャーかもね」
「それか指輪とか!」
「急にハードル爆上がりしてきたね」
「多分意味わかってないまま言ってるから…」
やっぱり穂乃果ちゃんの頭の中はだいたい食べ物らしい。食べ物から離れてみればまあ妥当な意見が出るわけだけど、指輪のプレゼントはちょっと待った。ちょっと早いんじゃないかな。指輪は。まだにこちゃん大学生だから。
「あ、でもペアリングとかって素敵じゃないかなぁ!恋人って感じがして!」
「十分ハードル高いよ」
「でも並のハードルじゃ満足しないやん?」
「それはそうかもしれないけどさ」
まあ確かにことりちゃんの言う通り、恋人同士のペアリングという意味ならアリだろうね。アリだろうけど恥ずかしいじゃん。超恥ずかしいじゃん。「にこちゃん、誕生日おめでとう」っつって指輪渡すの?恥ずかしいね。死にそうになるね。
でも希ちゃんの言う通り、ちょっとは日常を飛び越えないといけない気もする。
でも指輪かあ。
でもなぁ。
「でもなぁ」
「さっきからずっと同じこと言ってるわよ」
「まじで」
口に出てたか。
「花陽ちゃんたちにも聞いてみる?」
「そうしよう!私たちもにこちゃんに誕生日プレゼントあげないといけないし!」
「あ、君らもあげるのね」
「当然です」
そりゃそうだわね。完全に頭になかったわ。ごめんね。
そんなわけで、帰宅途中の穂乃果ちゃんたちはルート変更してスクールアイドルショップへ。僕らもついていく。なんか仲間を増やしてRPGみたいだね。
「そんなもの俺が知るか」
「だよね」
元1年生組と合流し、事情を話したらノータイムで創一郎から返事が来た。そうだろうとは思ったけどね。ちょっとは考えて。
「でも創ちゃんもプレゼント買うでしょ?」
「あ?ああ、まあ…」
「他のみんなにあげておいてにこちゃんにはあげない、なんてわけにもいかないでしょ?」
「ああ…そう、だな」
「照れ屋め」
「殺す」
「死ぬ」
「やめなさい!」
創一郎はシャイボーイなので、誰かの誕生日のたびにこんな感じだ。それを言ったら吊るされた。死ぬ。絵里ちゃんが止めてくれたおかげで致命傷で済んだ。よかった。よくないわ。
「にこちゃんならスクールアイドルグッズです!!」
「それはお前が欲しいだけだろ」
「うっ」
「さっきも出た案だけど、被るのが怖いね」
「た、確かに…。保存用、鑑賞用、布教用以外に更に増えても困るかも…」
「3つあるのは前提なのね」
ガチオタ怖いわー。
「凛はリボンあげようかなー」
「リボン…確かに、にこはいつもツインテールですしリボンはいろんなものを使うかもしれませんね」
「ヘアゴムとかもいいんじゃない?」
「真姫ちゃんが真面目に考えてるへぶっ」
「何よ悪い?!」
「しょんなこと言ってないれす」
リボンはなるほど、良案だね。真姫ちゃんのヘアゴムっていうのも。しかし真姫ちゃんが誰かの誕生日を真面目に祝おうとしてるなんてびっくりだ。びっくりしたのは悪かったから鼻パンはやめなさい。鼻血出る。
「美容用品なんかはどうだ。顔面きゅうりおばけよりはマシなやつ」
「創一郎がまともな意見出してる」
「悪いかよ」
「悪くないから下ろして」
美容用品も盲点だったね。ライブのお化粧も色々気を使ってたし、日頃から顔パックとか化粧水とか使ってるもんね。でもそれを創一郎が言うとは。って言ったらまた吊るされた。頻繁に人を持ち上げるのやめよう?っていうか君さっき「そんなん知るか」って言ってたじゃん。普通に意見出してるじゃん。
「意見は色々出たけど…」
「みんな何にする?」
「私はケーキ焼こうかなぁ」
「ことりちゃん、私も手伝うよ!」
「うん、ありがとう花陽ちゃん!」
「私はリボンにします」
「あ、私も!」
「私は化粧水にしようかしら。希、一緒に探しましょ」
「ええやん!うちはファンデにしようかなー」
「私がいいお店知ってるわ、一緒に行きましょ。ちょっと高いけど」
「真姫のちょっとは本当にちょっとなのかしら…」
「…俺は菓子でも買うか。高い買い物もできねぇしな」
「凛も一緒に選ぶにゃ!」
…なんかみんな一斉に決まってしまったんだけど。みんな決断早くない??
「えー、えっと…僕は…ん?どうしよう?」
「なんだか選択肢を狭めちゃったみたいで申し訳ないわね…」
「まあ、これだけ人がいるんやから仕方ないやん?」
人ごとみたいに言いおって。
「…でも、きっとにこなら、茜からもらうものなら何だって嬉しいわよ」
「わかってるけどさ」
「いえ、わかってないわ」
「へ」
そんなバカな。僕ほどにこちゃんのことわかってる人はいないぞ。
「本当に、何だって喜ぶと思うわ。だからこそ、ちゃんと考えなきゃいけないのよ」
「どゆこと」
「まだ日はあるんだから考えてみて。…私たちはちょっと下見してくるわ。誕生日、楽しみにしてるわよ」
「えぇ…」
そこで放り出す?既に他のメンツは散り散りになってるし、結局振り出しである。そんなぁ。
宝飾品のお店って、お客として訪れるとなんか緊張するね。デザインを任された時とかに仕事で入る分には全然平気なのにね。
いやまだ入ってないんだけどさ。
指輪って聞いたから来ちゃったけど、なんか入る勇気出ない。不審者だと思われたらやだなぁ。でも入る勇気は出ないなぁ。今同じこと言ったね頭回ってないね。
「ファーっなんかちっこい野郎がジュエリーショップの前で深妙な顔してる何これチョーおもしれーファーっ」
「天童さん死んでください」
「心に余裕がない!!」
もたもたしてたら一番来て欲しくない人が来た。現実は非情である。よりにもよって天童さん。神さまはもう少し優しくしてくれてもいいと思うんだ。いや桜が来ても嫌だけど。ゆっきーもまっきーも嫌だけど。やっぱ誰が来ても嫌だわ。
「おいおい茜クンよ、もう少し心に余裕を持とうぜ。ついでに唇に歌も持とうぜ」
「その場合心に持つのは太陽だったと思うんですけど」
「おっとそういえばお前博学だったな!通じねーかと思ってたぜ!」
相変わらずこの人会話の導入が難しい。
「まあしょーもない小ネタは置いといて。どうせあれだろ、にこちゃんバースデーをどう祝おうかって絶賛お悩み中なんだろ?」
「…どうせμ'sのみんなに相談したことも織り込み済みなんでしょう?」
「もちろんだ。そして、だからこそ来た」
「何かアドバイスくれるんですか」
「いや煽りに来た」
「ドラムにコンクリで埋められてください」
「悲惨な末路!!」
切実に帰ってほしい。
「そんな邪険にすんなよ、ちゃんと話しかける理由はあったさ」
「またシナリオの導きですか?」
「いんや、今回は本当に俺の独断によるアドバイスだ。とある方から助言してやってくれって依頼されてね」
「だいたい想像できるけど」
まあ誰が頼んだかはおいといて、実際天童さんは人心理解に関しては右に出る者はいない。なんか悔しいけど頼ってもいいかもしれない。なんか悔しいけど。
「まあ、うまく伝わるかどうかわかんねーけどさ。にこちゃんって、多分茜からプレゼントをもらえるなら何だって喜ぶと思うんだよな。それはわかるよな?」
「うん」
「オーケー、それなら行幸。だから、問題は『それならなんでわざわざプレゼント選んでるのか』ってことだ。だって何でもいいなら手元にあるもので済ませてしまえばいい。一番楽だ」
「えぇ、それはちょっと…」
「そう、そこだ」
天童さんは、たまに見る真面目な顔でこちらを見据えていた。自然とこっちも真顔になる。
「品そのものの価値に大した意味はないと知りつつ、しかし確かに価値ある何かを選ぼうとしている。その理由は、お前自身が価値をつけないと不安だからだよ」
「どういうことです」
日本語がよくわかんない。
「自分にプレッシャーかけすぎなんだよ。『にこちゃんに渡すものなんだから、相応の価値を持たせなければならない』って思い込んでしまっている。実際に価値が必要かどうかに関わらずな。だから納得できない価値のプレゼントは却下しちまう。にこちゃんは喜ばないんじゃないかって不安になっちまう。よくある『本当に何をあげたら喜ぶのかわからない』わけじゃなく、お前が勝手にハードル上げてるだけなんだよ」
「それは…」
「もちろん、選ぶ側としての責任はあるけどな。ゴミ渡すわけにはいかねーし。でも、だからって、100%心から喜ばれるものなんて選ぶ必要は全くないし、そもそも本人が選ばない限りそんなプレゼントは存在しないんじゃねーか?」
はっとして、俯きかけた顔をあげて天童さんの顔を見た。
その通りだ。絶対ににこちゃんが喜んでくれるものなんてあるわけない。
だって僕はにこちゃんじゃないんだから。
それなのに、「もしかして迷惑かな」って、「いらないかもしれないな」って、考えたって埒があかない。渡してみなければ結果はわからないんだ。
…それは、たしかにその通りだけど。
「そう…そうですね。確かに、そうだ。でもやっぱり僕は、こんな時に失敗したくない…」
「はー…茜、お前はいつからそんなに完璧主義になったんだ」
「いや、完璧主義ってことは…」
「今のお前は完璧主義者だよ。お前あれじゃなかったのか?絵描く時、何も思い浮かばなかったらとりあえずなんか描いてみるスタイルじゃなかったのか?」
「それ今関係ない…」
「いーや関係あるね。敢えてお前の言葉を使わせてもらうぞ。…未完成の方が美しいんだ。不完全の方が魅力的なんだ。そうなんだろ?だったらプレゼントもそれでいい。未完成でも不完全でも、渡してからが本番だ。作品の構想決めるのにぐだぐだしてんじゃねぇ!」
未完成の方が、美しい。
そう、そうだ。そうだけど…それでいいのかな。
「ほらさっさと帰って考え直してこい!!」
「えっ待ってプレゼント買わなきゃ
「うるせえ一旦帰って考えろ!!」
もやもやしてたら天童さんにぐいぐい押されて宝飾店から遠ざかってしまった。何すんのさ。
天童さんもなにやら待ち合わせをしているようでそそくさとどこか行ってしまったし、仕方ないから帰ろう。
家に戻って、とりあえず今日はにこちゃんの家にご飯作りに行く予定がないのを確認して、適当にオムライスでも作ろうかと思ってフライパンに冷凍したご飯をぶっこんで炒めている時。
視界に、自分が描いた絵が入ってきた。
μ'sファイナルライブに合わせて描いた、みんなの後ろ姿の絵。
「…未完成の方が、美しい」
この絵もそうだった。他の絵もそうだった。いつもそうだった。わざと完璧に仕上げないで、空白の部分は見る人の想像に任せる。それなら見る人それぞれにとって最高の作品が頭の中に出来上がる。
…まあそれはそうなんだけど、にこちゃんの誕生日プレゼントに関係あるかな?
しかも天童さん、100%喜ぶプレゼントなんて………
「…あぁ、そういうこと」
まったく、天童さんもいつも通りタチが悪い。肝心なところはもうちょっと強調して言ってほしい。
でも、これでやることは決まったね。
「…ってクサっ焦げ臭いっ」
でもご飯は焦げた。しょぼんぬ。
今日は、7/22。
そう、私の誕生日よ!!!
「「「「「「「「にこちゃん誕生日おめでと〜!!!!」」」」」」」」
「…おめでとう」
「おめでとー」
「…まさか今年もみんな集まって祝ってくれるなんてね」
でも、夕飯前に誰か来たと思ったら元μ'sのみんなが勢ぞろいしてるなんて思わないわよ。
「当然でしょ?μ'sの仲間、なんだから」
「ま、真姫が素直…!!」
「何よ!」
「まあまあ、仲良しなのは知ってるからみんなお邪魔しよう。今年もにこちゃんにハンバーグ作るよ」
「ええっそうだろうとは思ったけど急に…」
「にこちゃーん!茜くんから話は聞いてるから大丈夫よー!!」
「ママもグルか…!!」
茜はいつも私に「誕生日おめでとう!今年もご飯作りに行くよ」ってメールをくれていたのに、今年はサプライズ仕様みたい。忘れられたかと思って心配…してないけど!!してないわよ!!
「こんばんは!」
「こんばんはー!」
「みゅーずー」
「こころちゃん、ここあちゃん、虎太朗くん、こんばんは!」
「あんまり騒がしくすんなよ。近隣の方々に迷惑だ」
「そーいちろーさんあそぼー」
「ん?ああ、構わんぞ。将棋教えてやる、大五郎よりは強くなれるだろ」
「しょうぎー」
「いきなり将棋教えんの」
「なんか文句あるか」
こころ、ここあ、虎太朗ともみんな遊んでくれている。…流石に全員来ると狭いわね。
夕食をみんなで食べた後は、みんながプレゼントをくれた。
ことりと花陽は二人でケーキを作ってきてくれた。チョコを練りこんだスポンジとホイップクリームで作った土台に、いちごが山盛りの豪華なホールケーキ。…よく作ったわねこれ。
海未と穂乃果はそれぞれリボンを。海未がくれたのはピンク色にハートの模様が入ったかわいいモノ、穂乃果は虹色のモノ。海未はこういうの買うの恥ずかしがりそうだし、穂乃果は「虹色って私たちのイメージカラー全部合わせたみたいだよね!」って言ってた。でも普通虹色にピンクって入ってないような…って思ったら、端っこにYUKIMURAって書いてあった。雪村さんに頼んだのね。
絵里、希、真姫は化粧品をくれた。…なぜかめちゃくちゃ高級なブランドだったけど。真姫は当然のように渡して来たけど、絵里と希は「高すぎて2人で一つが限界だったわ…ごめんね?」と逆に申し訳なさそうだった。嬉しいけど…そんな高いものじゃなくてよかったわよ?
創一郎と凛はお菓子の詰め合わせをくれた。コンビニなんかでよく見るお菓子ばっかりだったけど、とにかく目についたものを買って大きな袋にぎっしり詰めてくれたらしくかなりの量が入っていた。お菓子は好きだからいいけど…食べ終わるのに何日かかるかしら。あんまり一気に食べすぎると太っちゃいそうだし。いや確実に太るわねこれ。
そして。
「今年は僕からもあるよ」
「ええっあんたはハンバーグじゃなかったの?!」
「そんなに驚かなくても」
「本当に毎年ハンバーグだったのね…」
まさかの、茜からもプレゼント。ちょ、それは予想してなかったわ。だっていつもハンバーグ作ってくれていたし、それだけで十分だったのよ!
一体何をくれるのか想像もつかない。っていうか、茜からもらえるなら何だって嬉しい…んんっ、な、なんでもないわ。茜ごときに私を喜ばせることができるかしら!!
「はい、これ」
「…何これ」
「さあ何でしょう」
渡されたのは一つの封筒。…金一封とかじゃないでしょうね。それはそれで嬉しいけど、風情も何もあったもんじゃないというか…。
「開けていいよ」
「えっいいの?」
「むしろ早く開けると良いよ」
こういうのって後でこっそり開ける系じゃないのかしら。
まあ、開けてと言うなら遠慮なく。
封筒を開けて中身を取り出すと、出てきたのは。
「…フリー、チケット?」
「うん、フリーチケット」
「……何の?」
「僕の」
「ごめん意味わかんない」
「ひどい」
本当に意味がわからない。何よフリーチケットって。このチケットそのものも不思議だけど、やたらデザインが凝ってるのも謎だわ。
「僕もにこちゃんに何かあげようって思ったんだけどね」
「うん」
「何かあげるなら、にこちゃんが一番嬉しいものにしようと思って」
「うん」
「だからにこちゃんに決めてもらおうと思って」
「…そういうこと」
私が決めるプレゼント、ってことね。
確かに…茜からプレゼントをもらえるならほとんど何だって喜べる自信がある。多分それは茜もわかってる。
だからこんな形にしたのね。
「あと、これなら物以外のプレゼントもできるしね。ご飯作るとかデートするとか」
「そういう選択肢もありってわけね…」
「そう。だってほら、僕ってよく『未完成の芸術』の話するじゃない。今回もそうだよ。最後はにこちゃん完成させるってことで」
茜はすっごい笑顔でこっちを見て、そう言った。他のμ'sのみんなも茜のプレゼントのことは知っていたらしく、それぞれ笑顔を浮かべている。
きっとみんなにも相談したのね。茜が「今」の状態になってからはじめての誕生日だったから。
…なんだか、すごく、嬉しいわ。
「にこちゃん泣いてる?」
「泣いてない!」
「へぶしっ」
茜が煽りに来たので殴っておいた。人の泣き顔を覗くんじゃないわよ。
「…ありがと、茜」
「どういたしまして」
「…えっと、プレゼントの内容はまた考えておくわ」
「うん、一緒に選ぼうね」
笑顔で答える茜から、恥ずかしくて直視できなくて目を逸らした。
本当はもう決めてるのよ、プレゼント。みんなの前では恥ずかしくて言えないけど。
2人で一日中デートして。
最後にしっかり伝えるのよ。
「大好きよ」って。
「あ、そういえばにこちゃん、億単位の宝飾品とかは流石に無理よ」
「そんなものねだらないわよ!!」
「ぐっふぇ」
「なんだか心なしか威力が高い?!」
「わああ!茜くん大丈夫?!」
余計なこと言ってきたので蹴りを入れておいた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
未完成の芸術ってなんかの教科書で読んだ記憶があります。実際そうだと思います。絵なんかも全部完璧に描き込むより、一番目につくところ以外はある程度アバウトな方が見栄えは良くなるみたいですから。
ともあれ、波浜君とにこちゃんのラブラブデート(仮)も描写しないことにしました。どこへ行ったか、何をしたかは皆様のご想像におまかせします。
皆様も完璧を目指そうとして無理しちゃダメですよ!!
あと、この話を区切りにまた毎週土曜投稿に戻します。下書きをまた再生産しなければ…!!