笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

穂乃果ちゃん誕生日おめでとう!!その前の千歌ちゃんも誕生日おめでとう!!誕生日近いねお二人!!絵が大変だよ絵が!!
穂乃果誕を祝って本編とは別枠でお話をひとつ、急ピッチで書き上げました。舞台は本編の一年後、主役はご想像の通り水橋君です。まだ付き合っておりません。はよ付き合いなさいよ!!!笑
速攻で書き上げたのであんまり面白くなくても怒らないでください…え?その割には10000字弱じゃないかって?後半はノリノリだったんです。

というわけで、どうぞご覧ください。




穂乃果誕生祭:心の贈り物

 

 

 

 

「ねぇねぇ桜さん」

「なんだよ」

 

 

夏のクッソ暑い日、珍しく俺の前で勉強をしている穂乃果が声をかけてきた。無論俺は仕事中(作曲中)だ。穂乃果は今年の大学受験のために彼女なりに頑張って勉強しているようだ。まあ、わからないことばかりですぐ俺に聞いてくるんだが。

 

 

また何かわからないところでもあったのかと思ったら、全然関係ない答えが返ってきた。

 

 

「私ね、もうすぐ誕生日なんだ!」

「そうか」

「うん!」

「…」

「…何かないの?!」

「いやまだ誕生日じゃないんだろ?」

 

 

急に誕生日を宣言されても困る。つーかもう3年くらいここに通ってるのに誕生日は初めて聞いたな。

 

 

「誕生日プレゼント用意しなきゃなーとか!!そういうの無いの?!」

「露骨に要求するあたりがお前らしいよな…」

「えへへ」

「なぜ照れる」

 

 

褒めてねーぞ。

 

 

「私はねー、アクセサリーとか欲しい!」

「そうか、親に頼め」

「お母さんもお父さんもそういうのは買ってくれないもん!!」

「だからって俺に言うなよ」

 

 

何で俺が穂乃果にアクセサリーなんか買わなきゃならねーんだよ。茜を見習えよ、結局この間矢澤と2人で一日中デートしてたらしいじゃねーか。…そっちの方が金かかってそうだな。

 

 

「じゃあパフェでもいいから!」

「何でパフェが妥協案みてーな言い方してやがるんだ」

「天童さんがこの前『そうやるとOKしてくれやすいぞ!』って言ってた!」

「あの人また余計なことを教えやがって…」

 

 

そういう交渉術は使うにしてももうちょい有益なことに使えよ。

 

 

「じゃあケーキ!!」

「『じゃあ』じゃねーんだよ」

「もーケチ!!」

 

 

誰がケチだ。

 

 

「大体何で俺がお前に誕生日プレゼントなんか買わなきゃならねーんだよ」

「えっ」

「…やめろその泣きそうな顔」

「だって…桜さんなら何かくれるかなって思ってたのに…」

「今まであげたことなんて無かっただろ」

「だって誕生日教えてなかったもん!!」

「逆に今年伝えられた方が不自然なんだよ」

 

 

心底悲しそうな穂乃果を見ていると俺が悪いみたいに感じてくる。実際悪いかもしれん。しかしそれよりも今年に限って誕生日プレゼントをねだられている理由が本当にわからん。何故急に。

 

 

「だって茜くんが何だかんだ言ってくれるかもよって言ってた」

「あいつ殺す」

「だめぇー!」

 

 

茜は次会ったら市中引き回しの刑だ。

 

 

「とにかく!私はプレゼント欲しいの!!」

「あーはいはい何か用意してやるよ10円ガムとか」

「ほんと?!」

「喜ぶのかよ」

 

 

10円ガムで喜ぶなよ。ガッカリさせるつもりで言ったんだぞ俺は。

 

 

「桜さんから何かもらえるってだけで嬉しい!!」

「あーそーかい」

 

 

そんなに喜ばれると、プレゼントやらないと外道みたいになるだろ。

 

 

「…まあ気が向いたらな」

「えーっ気が向いてよ!!」

「無茶いうな。そんなことよりとりあえず勉強しろ」

「あっ」

 

 

「気が向いてよ」は抗議文にしちゃ無理があるんじゃねーのか。

 

 

あと勉強してたんだから手を止めるな。

 

 

この日はそれ以降誕生日プレゼントへの言及は無かった。どうせ冗談かなんかだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言ったものの。

 

 

なんだかんだ言ってプレゼント探しをしてしまう俺は一体何なのか。

 

 

「で、プレゼントって何渡せばいいんだ…」

 

 

少し遠出してなんか豪奢なジュエリーショップに入ったのはいいが、どれを選ぶべきかさっぱりだ。つーか何で俺はジュエリーショップなんかに入った。本当にアクセサリー選ぶ気か俺。

 

 

「あんまり高いやつを与えても汚しそうだしな…だがあんま安物も気が引ける…」

 

 

白金製なら少しくらい汚れても平気だろうが、流石に勿体ない気がする。だって穂乃果だぞ。いや何で穂乃果のために真剣にアクセサリーを探しているんだ俺は。

 

 

「…おや、水橋桜じゃないか。こんなところにいる印象は無かったが」

「…雪村か」

 

 

また変なところでばったり会ってしまった。雪村瑞貴、ファッションデザイナー界の若き巨匠だ。こいつもこいつで何でこんなところにいる。

 

 

「俺はウェディングドレスを見せに来たところだ。こういった店には婚約指輪なんかも置いてある…せっかくならドレスもセットで、という魂胆だろう」

「一理あるが、魂胆とか言うなよ」

「商売なんてそんなものだろう。俺たちが作るような芸術作品とは需要が違う」

 

 

まあ、そりゃあ「一般の用途に適するもの」と「芸術として楽しむもの」じゃ根本的な思想が違うだろうがよ。もう少し嫌味のない言い方はできねーのかよ。俺も人のことは言えないが。

 

 

「…で、水橋桜は何故こんなところに?貴金属で着飾るタイプでもないだろう」

「何だっていいだろ、大した意味はねーよ」

「…高坂穂乃果の誕生日プレゼントでも考えていたのか?」

「んなっ、いや、違う!」

「案外嘘が下手だな」

 

 

こいつ何でわかった?!

 

 

「大したことじゃない…ことりがそんな話をしていたからカマをかけてみただけだ。図星だったようだがな」

「くそっ思ったより性格悪いなあんた…!」

「茜にもよく言われる」

 

 

まさかカマをかけられただけだったとは。そういえばこいつ、南と付き合っているんだったか…。変なところで繋がりができてるな。

 

 

「別に何だっていいだろ…。アクセサリーがどうのこうの言われたからどんなもんか見に来たんだよ」

「…アクセサリーを頼まれたからと言って、こんな高級な店に来なくてもよかったのでは」

「…そういえばそうだな…」

 

 

よくよく考えたら、アクセサリーだからって高いものを選ぶ必要はないな。

 

 

「何だかんだ言いつつ真剣に選んであげているじゃないか。もっと冷めた人物だと思っていたが」

「あんたはもっと物分かりのいいヤツだと思っていたよ…」

「よく言われる」

 

 

割と無口だから静かで温厚かと思っていたが、この雪村瑞貴、意外と皮肉屋だな。腹が立つ。俺の周り腹立つやつらばっかりだな。茜とか天童さんとか。

 

 

とりあえず、雪村と一緒に外に出る。クーラーの効いた室内から出ると余計暑く感じる。雪村の車椅子を押していると自分も座りたくなる。つーか相変わらず車椅子重いな。

 

 

「しかし本当に何にすべきかな…」

「君は作曲家なんだろう?曲を送ってあげたらどうなんだ」

「まあそれもアリなんだがな…意外性のカケラもないじゃねーか」

「君がプレゼントをくれる、というだけで十分意外だと思うぞ」

「それは間違いねーな」

 

 

実際、穂乃果も本気で期待したわけじゃないだろう。「もしかしたらくれるかも」、という「分の悪い賭け」をしてみただけなはずだ。もらえたらラッキー、くらいな調子だろう。

 

 

「だから無理にプレゼントを用意する必要はないと思うのだがな」

「あーまあ…」

「…茜や蓮慈とはまた違った人物だな、君は」

「あんなのと一緒にすんなよ」

 

 

あいつらは頭おかしい上に自信の塊みたいなクレイジー野郎たちだぞ。

 

 

「まあそんなことより、どうしてもプレゼントを用意したいなら結局どうする?」

「いやどうしてもってわけじゃ」

「失礼。仮に用意するとしたら、どうする?」

 

 

そう、別にどうしてもプレゼントしたいわけじゃない。ああ、そうだ。そこは否定しておく。雪村もそこには拘泥しなかった。

 

 

しかし、やっぱり名案が浮かばないのも事実だ。

 

 

「パンなら喜びそうだがな…」

「…彼女、そんなにパン好きなのか」

「まあ毎食パンくらいの勢いだな」

 

 

そんなに食事風景を見ているわけでもないが、だいたいそんな印象だ。

 

 

「まあ、何を選ぶにしても…無理に高価なものを選ばない方がいい、というのは伝えておこう」

「あ?何でだ」

「高価なものには、それだけの価値が付随するからな。有り体に言ってしまえば、()()()()()。…プレゼントというものは、心の贈り物だ。それをよく考えるといい」

「…心の贈り物?」

「そう。だから見た目の価値に惑わされぬよう」

 

 

いまいち意味がわからん。

 

 

「…ここまでで結構だ。あとは自力で行ける。車椅子、押してくれてありがとう」

「あ?ああ、どうも…」

 

 

どういう意味だか考えている間に、雪村はさっさと車椅子の車輪をモーターで動かして去ってしまった。

 

 

…そうじゃん、あいつの車椅子電動じゃん。何で俺に押させた。いや俺が勝手に押したのか。無駄なことした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、数日経って結局何も思い浮かばないわけだ。そう簡単にプレゼントなんか思いつくかバカめ。

 

 

そんな今日も穂むらに入り浸って作曲をしているわけだが、夏休みなのに穂乃果は練習でここにはいない。もちろんいないならいないで仕事は進むが、本人がいないとなるとプレゼントのことが頭をよぎって微妙に仕事の進みが遅い。何で俺が誕生日プレゼントなんかで頭を使わねばならんのだ。

 

 

「ただいまー」

「ただいまー!あっ桜さんいる!勉強しよ!」

「お姉ちゃん…桜さんがいない時も勉強してよ」

「大丈夫大丈夫!学校で海未ちゃんとことりちゃんと一緒に勉強してるから!」

 

 

穂乃果、雪穂姉妹がちょうど帰ってきた。今は2人とも同じ高校に通っている上に部活も一緒ということで、帰宅タイミングはほぼ同時だ。穂乃果は俺を見るなり正面に腰掛けてきた。何故ノータイムでこっちに来る。雪穂はそんな姉を見て呆れていた。

 

 

「とりあえず着替えてこいよ」

「えーっめんどくさい…あっもしかして桜さん、私の私服姿が見たい?!」

「いや別に」

「反応が薄い!!」

 

 

相変わらず元気でいいことだが、制服のままより着替えた方がいいんじゃねーのか。

 

 

「外暑いだろ。汗かいてないのか?」

「あ!!もしかして汗臭い?!」

「そうは言ってねーが」

 

 

むしろ制汗剤の匂い全開だ。

 

 

「風邪引いたらまずいだろ。さっさと着替えてこい」

「はーい…」

 

 

渋々といった様子で着替えに行く穂乃果。何がそんなに不服なんだ。

 

 

しばらくして着替えてきた穂乃果は、どたどた階段を駆け下りて速攻で俺の前に来た。何なんだ。

 

 

「そう!それでね桜さん!!」

「何が『それで』なんだよ俺はまだ何も聞いてねーよ」

 

 

そしてノータイムで話し出す穂乃果。今日練習であったこととか、登校中下校中あった面白いこと楽しいことをあれやこれやとガンガン話す。正直覚えていられない。どんなことで喜ぶかはそれなりに覚えているが、話を覚えていられるかどうかはまた別の話だ。

 

 

「それで凛ちゃんがね!!」

「まだあんのかよ」

 

 

いつまで話すんだ。

 

 

「だって今日もいろんなことあったんだよ!!」

「だからってそれを俺に話してどうすんだよ」

「聞いて欲しいの!!」

「構ってちゃんかよ」

「構って!!!」

「自覚ありかよ」

 

 

まさかの自覚持ち構ってちゃんだった。穂乃果のくせに自覚ありとはなんか悔しいな。

 

 

まあそれはそれとしてだ。

 

 

今のところ、あの日以降誕生日プレゼントの話は全く出てこない。こんな一時間近くひたすら喋ってるくせにだ。

 

 

本当に冗談半分だったのだろうか。

 

 

それだと俺が真剣に考えてるのがバカらしくなるじゃねーか。

 

 

いや真剣には考えてない。断じてない。

 

 

「ねえ桜さん聞いてる?!」

「聞いてねー」

「もう!桜さんのバカ!エッチ!スケベ!!」

「おい待て謂れのない罪を糾弾するんじゃねーアホ」

 

 

…やっぱりプレゼントなんてやらない方がいいんじゃないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局何もしないまま前日になってしまった。

 

 

まあいい、どうせ誕生日プレゼントなんて期待していないだろ。

 

 

 

 

 

…そう思っていたのに。

 

 

 

 

 

「あっ…桜さん!お久しぶりです!」

「桜さん!先日の合宿ではまたお世話になりました…!」

「あー…ほんと毎度毎度謎なんだがな」

 

 

南ことりと、園田海未。

 

 

穂乃果の幼馴染たちが、プレゼントを選びに買い物しているところに出くわしてしまった。

 

 

なお、園田の言う通り俺は相変わらず合宿に連行されている。そろそろ許してくれよ。去年通りならまた秋にも呼ぶ気だろ。絶対呼ぶだろ。

 

 

「謎ではありませんよ。桜さんの指導は非常に的確でわかりやすいですし、みんな指導を受けたがっていますから」

「あと穂乃果ちゃんが喜びますし!」

「何で穂乃果が喜ぶんだよ」

 

 

ほんとによくわからんなあいつは。

 

 

「桜さんも穂乃果の誕生日プレゼントを買いに来たのですか?」

「んなわけあるか。五線譜ノートを買いに来たんだ」

「えっ穂乃果ちゃんに誕生日プレゼント買ってあげないんですか?」

「買わなきゃいけねーのかよ」

 

 

何でそんな意外そうな顔してんだお前らは。

 

 

 

 

 

 

「だって穂乃果ちゃん、1週間前くらいから毎日『桜さんプレゼントくれないかなー』って学校でいってましたし…」

「私たちも桜さんなら当然穂乃果にプレゼントあげるものかと…」

「何だって?」

 

 

 

 

 

 

嘘だろ。

 

 

「…毎日?」

「ええ、それもしつこいくらい何度も」

「練習の時も言ってたから真姫ちゃんが呆れてたね…」

「…何でそんなに…俺には一回しか…」

「それはまあ…そうじゃないでしょうか?」

「私も瑞貴さんにプレゼント欲しいって直には言えないなぁ…一回でも言えるのが穂乃果ちゃんらしいよね…」

「雪村は関係なくねーか」

「「はぁ…」」

「何だよ」

 

 

そんな毎日、何度も言うほど俺からの誕生日プレゼントを望んでたのか。

 

 

でもそれなら何で一度しか言わないんだ。いつもならそれこそしつこいくらい絡んでくるだろう。何でそうしなかったんだ。何が違ったんだ。

 

 

「桜さん」

「あ?」

 

 

二人とも、なぜか真剣な表情で俺を見てくる。俺も深刻に悩んでいるのにそんな顔されたら尋常じゃない事態みたいだろうが。

 

 

 

 

 

 

「大切な人に『プレゼント欲しい』なんて、普通は言えないんですよ。だって恥ずかしくて、厚かましくて、申し訳なくなっちゃって…やっぱり言うのやめておこうって思っちゃいますから。それでも穂乃果ちゃんが桜さんにプレゼントが欲しいって言ったのは、そんな恥ずかしさや厚かましさや申し訳なさに耐えてでも言いたかったってことなんですよ」

 

 

 

 

 

 

…そういうものなのか?

 

 

 

 

 

 

「桜さんも穂乃果のことはよくわかっていると思います。穂乃果は、元気が有り余っていて、無鉄砲で、思ったことは全部言っちゃうような子です。正直頭も悪いです」

「まあ実際そうなんだがお前よく幼馴染をボロクソに言えるな」

「幼馴染だからですよ。だからこそわかります。…穂乃果は冗談なんて言えません。思ったことは全部隠さず口から出てしまいますから。わかっていたでしょう?スクールアイドルをやると言った時も、あなたに曲を作ってほしいと言った時も、穂乃果は本気でした」

 

 

 

 

 

 

ああ、それはわかる。そもそもあいつは冗談を言えるほど頭はよくない。何でも本気だ。園田が挙げたこと以外にも、合宿に来てくれっていうのも本気で言っていた。

 

 

 

 

 

 

じゃあ何で。

 

 

 

 

 

 

「桜さんは穂乃果ちゃんの言葉を冗談だと思っていませんでしたか?」

 

 

 

 

 

 

そう、俺は何であの日「どうせ冗談だろ」って片付けてしまったのか。

 

 

 

 

 

 

「そうではないと知りながら、冗談で済ませてしまおうとしたのは…桜さんが、恥ずかしかったからではありませんか?」

 

 

 

 

 

 

目を閉じる。

 

 

クソ暑い陽気で汗ばんだ拳を握る。

 

 

そう、おそらく、そうなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、全くしょーもないことに…穂乃果に誕生日プレゼントを渡すことが、恥ずかしかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…そりゃそうだろ」

 

 

やっと声が出た。本当に…何で俺がこんな恥ずかしいこと言わねばならんのだ。

 

 

「そりゃ恥ずかしいだろ!何で俺が!穂乃果に『誕生日おめでとう』なんて言ってプレゼント渡さなきゃならねーんだよ!()()()()()()()!!そんなの、正面からまともに受け止められるわけあるか!!!」

 

 

穂乃果は太陽みたいなやつだ。

 

 

あいつの笑顔を真正面から受け止められるようなメンタルはしてない。俺には眩しすぎる。

 

 

「…ふふふ。やっぱりそうだったんですね」

「…やかましい」

 

 

やっぱりとはなんだやっぱりとは。

 

 

「プレゼントを渡すのなんて、私たちだって恥ずかしいですよ?」

「はあ?お前らは幼馴染だろ。何度目の誕生日プレゼントだよ」

「何回目でも恥ずかしいですよ!穂乃果ちゃん喜んでくれるかなーって不安ですし、やっぱり改めて産まれてきてくれてありがとうって言うのは何となく恥ずかしいです」

「恥ずかしいですが、それでも誕生日おめでとうって言いたいんです。だって私たちは穂乃果が大好きですから!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

いつだったか。

 

 

雪村が「心の贈り物」だとか言っていたか。自分がプレゼントしたいから渡す…随分身勝手なもんだな。

 

 

でも、「これなら喜んでくれるだろうか」、「あれはあんまり喜ばなさそうだ」って色々考えて、「きっとこれなら喜んでくれる」と自分の心が納得したものを渡す…そういう意味では、確かに心の贈り物なんて呼んでも差し支えないかもな。

 

 

 

 

…とは言っても俺が恥ずかしいことに変わりはない。

 

 

だからプレゼントなんて…と思っていると、突然両サイドからガシッ!と腕を掴まれた。

 

 

…何だと?

 

 

「さあ、行きましょう!」

「レッツゴー!」

「は?おい、ちょっ何故引っ張る?!どこへ行く気だ?!」

「決まっています!穂乃果の誕生日プレゼントを買いに行くんです!!」

「ま、待て!何で俺まで…力強いなお前ら?!」

「うふふ。合宿の様子で、桜さんがあんまり力が強くないのはお見通しですよ?」

「怖いわ!!待て、待て…本当に待て!そんな…プレゼントなんて!!」

「往生際が悪いですね!逃がしませんよ、一緒に穂乃果の誕生日を祝いましょう!!」

 

 

両腕を掴まれてズルズルと引きずられる。周りの視線は羨ましそうにしてくるが、毛ほども嬉しくない。

 

 

さっきから恥ずかしいことばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、翌日。

 

 

スクールアイドルとしての練習は普通にあったようで、今は穂乃果は穂むらにいない。園田と南には音ノ木坂まで来て一緒に祝おうって言われたが、流石にそんなことはできない。だって確実に茜も来る。俺を見たら爆笑して地面を転げ回るまである。そんなの見たら踏み潰しかねない。マジで。

 

 

穂むらも店自体はやっているが、客がいないときなんかはご両親とも裏に引っ込んで誕生日を祝うための夕飯の支度をしているらしかった。

 

 

今はまさに客がいない状態で、ここにいるのはパソコンに向かう俺のみ。正直仕事なんかさっぱり手に付かん。人にプレゼントをやるだけだというのに全然落ち着かない。何度も時計を確認してしまうし、手汗もすごいし、何で俺がこんな目に遭わねばならんのかさっぱりわからん。なんか悪いことしたか俺。

 

 

大体もうだいぶ日も傾いてきたんだぞ。いくら夏で日が長いとはいえ、流石にそろそろ帰ってこいよ。こっちはさっきから心臓が

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

「ただいまー」

「っ!!」

 

 

 

 

 

びびった。

 

 

めちゃくちゃびびった。

 

 

びびってプレゼント落としそうになったわバカヤロウ。

 

 

「おかえり。さ、早く着替えてらっしゃい。ご飯できてるから」

「はーい。…あっ。お姉ちゃん、私先に行ってるよ」

「えっ私も行くよ?」

「もー…そうじゃなくて。ほら、私はゆっくり着替えてるから!」

「えっえっ」

 

 

こっちに気付いた雪穂が穂乃果をこっちへ押している。俺だって何となく気付いている、穂乃果は何故か意識的にこっちを見ないようにしているらしい。だっていつもなら、帰ってきた瞬間に俺の前に突っ込んでくるんだから。

 

 

雪穂がさっさと階段を上がっていって、こっちを見てぽかんとしている穂乃果となんとなく目をそらしている俺だけが残った。

 

 

 

 

………

 

 

……………

 

 

…………………どうすんだこれ?

 

 

「…」

「…何だよ」

「えっ?えー、えっと…ただいま?」

「何で疑問形なんだよ」

 

 

穂乃果もいつものような元気はない。若干顔を伏せ、目を泳がせてもじもじしていた。

 

 

…そんな態度取られると俺も余計恥ずかしくなるだろうが。

 

 

「…はぁ」

 

 

思わずため息をついて立ち上がる。若干穂乃果は身を竦めて一瞬こっちを見たが、またすぐ目を逸らしてしまう。

 

 

(…ちくしょうが。何だそれは)

 

 

何だその顔は。

 

 

何だその恥ずかしそうな顔は。

 

 

何だ、その恥ずかしそうで、期待して、同時に怖れているような…恋する乙女みたいな顔は。

 

 

 

 

 

 

…可愛いじゃねーかよ。

 

 

 

 

 

 

今のナシ。忘れろ。

 

 

 

 

 

 

「…あーくそ。おい穂乃果、目を閉じろ」

「へっ」

「目を、閉じろ」

「あ、えっ、へっ?えっちょっまだ心の準備が」

「やーかましい早く目を閉じろアホ」

「はっはい!!」

 

 

なんか腹が立ってきたので、バカ正直に渡すんじゃなくてサプライズ作戦に変更。穂乃果は顔を真っ赤にしてあたふたしていたが威圧でねじ伏せる。

 

 

ぎゅっと目を閉じてこっちを向く穂乃果に近寄る。目の前にいる穂乃果は若干震えながら目を閉じて首を竦ませていて、ここまで近づくと制汗剤の匂いやら抑えきれていない汗の匂いやら正体不明の甘い匂いやらが漂ってくる。ぎゅっと瞑った目が、きつく結ばれた唇が、真っ赤に染まった耳が、手を伸ばせば届く距離にある。

 

 

 

 

 

 

これはやばい。

 

 

 

 

 

 

顔が熱い。

 

 

 

 

 

 

やばいと理性が叫んでいる。

 

 

 

 

 

 

だから、出来るだけ手早く、しかし悟られないように慎重に…彼女の首に、プレゼントを。

 

 

 

 

 

 

ひまわりの装飾をあしらった、簡素なネックレスを。

 

 

 

 

 

 

かけてやった。

 

 

 

 

 

 

「…もういいぞ」

「…………え?」

「もういいって言ってんだよさっさと目を開けろアホ乃果」

「いたぁっ?!アホじゃないもん!!」

 

 

用が済んだらさっさと解放してやる。なんか戸惑っていたが、もたもたしているのでデコピンしてやった。

 

 

「首元を見てみろ」

「首元…?えっ…これ…」

「………………あー、なんだ。

 

 

 

誕生日…おめでとう」

 

 

 

「…ううっ」

「おいこら何で泣く」

 

 

プレゼントのネタばらしをした途端に泣き出しやがった。何だ、そんなに気に入らなかったのか。確かにそんな高価なもんじゃねーけどよ。園田と南に連れ回されているときにふと目に入って、ひまわりって太陽みたいだよなって思って、なんとなく買っちまったやつだけどよ。そりゃまあひまわり自体も宝石とかじゃなくてアクリル板だけどよ。泣くほどかよ。

 

 

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい…まさか、ほんとに…ほんとに、誕生日、プレゼント、くれるなんて…思わなくて、嬉しくて、涙が…勝手に…」

 

 

結構ボロボロ涙を零している穂乃果を見て俺は…うろたえていた。いや、どうすんだこれ。ちょっと雪穂やらご両親方、助けてくれ。もういっそ「よくも娘を泣かせやがって!!」みたいにキレてくれて構わないからこの場をどうにかしてくれ。

 

 

「うう…ふぐっ」

「…あー、まったく世話がやけるなお前」

 

 

しかしそんな都合よく助っ人は来ない。俺がどうにかするしかない。何か、何か記憶のどこかにこんな時の対処法が押し込まれてないか…と考えて。

 

 

一回だけ。

 

 

泣いてる穂乃果を落ち着かせたことがあるのを思い出した。

 

 

プレゼント渡すだけでも恥ずかしかったのに余計恥ずかしいことをせねばならんのは非常に気がひけるんだが…

 

 

 

 

 

渡したネックレスをぎゅっと握って。

 

 

もう堪えることもなくボロボロ涙を流す穂乃果を見ていたら。

 

 

 

 

 

「…わっ?!」

「…落ち着け。どんだけ泣く気なんだ」

「ええ?!ちょ、ちょっと桜さん?!」

「うるせえな…」

 

 

 

 

 

 

なんだか我慢できなくなって。

 

 

 

 

 

 

思わず抱きしめてしまった。

 

 

 

 

 

 

…これ捕まらないよな??

 

 

「…落ち着けって言ってんだ。一旦深呼吸」

「…う、うん」

「落ち着いたか?」

「うん、ちょっとだけ…でも、あの、もう少しだけこうしていても…」

「親御さんとか雪穂が来る前に離れろよ」

「わあっ忘れてた!!ここ家だ!!」

「忘れてたのかよ」

 

 

急にびょんっと飛び退く穂乃果。せわしねーやつだな。

 

 

「桜さんのコート硬いね」

「そういう素材なんだよ」

 

 

急に現実に引き戻すんじゃねーよ。

 

 

「あの…プレゼント、ありがとう。凄く…凄く嬉しい…!」

「あー、まあ…気に入っていただけたようでなによりだ」

「うん、凄く素敵!ずっと着ける!」

「ずっと着けていられるほど丈夫じゃねーと思うが…」

 

 

会うたびに恥ずかしくなるからずっとは着けないでくれ。

 

 

「…大事にするね」

「ああ、失くすなよ」

「失くさないよ!!」

「あんまり信用できねーな」

「ひどい!!」

 

 

いつものふざけた調子に戻ってきた。

 

 

「さあ、そろそろ着替えてきな。きっと家族も祝ってくれるから」

「うん!…あの、桜さん」

「あ?」

 

 

そろそろご家族も待ちくたびれただろうし、俺も退散しようかと思っていたら呼ばれた。何だ。

 

 

「あの、もし…もし、また私が泣き出しちゃったりしたときは、その、えっと…」

「…あー、まあ、時と場合によるが…ああ、たまにくらいなら」

 

 

何か言い淀んでいたが、大体言いたいことは伝わった。皆まで言うな、恥ずかしい。

 

 

「…ありがとう」

「はいはいどーいたしまして。じゃあ俺はもう帰るぞ」

「うん。またね」

 

 

もういい加減メンタルが保たないのでさっさと退却する。穂乃果もさっさと階段を上っていったようだった。

 

 

しばらく歩いて…もう星が見えるほど日の落ちた空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

夏は相変わらずクソ暑い。

 

 

 

 

 

 

だけどまあ…今日は気分がいいから熱帯夜も許してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、穂乃果はあれから本当に毎日ネックレスをつけているらしく、後日茜には爆笑された。

 

 

腹が立ったから殴っておいた。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。


甘あああああああああいッ!!!!!!
さすが水橋君!!糖分とお色気担当水橋君!!これは甘い!!いや私がそういう風にしたんですけど。
なんかこうして見てみると水橋君の方が主人公のテンプレみたいに見えますね。まあμ'sの主人公のお相手ですからね!!
また、大体おわかりかと思いますがことりちゃんのお相手は雪村君です。割と誰と誰が対応しているかはわかりやすくしているつもりですので。…どっかの脚本家とかは全然明言されませんけど。
水橋君と穂乃果ちゃんがくっついていないのはお話の筋道の関係で仕方ないことです。このお話はμ's解散後も続く予定なので…。

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