笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
昨日の穂乃果ちゃん生誕祭でURを2連続で引いてテンション爆上がりな私はバッチリ今日も本編投稿です!!ほんとに凄くないですか!!確率!!
そして先週に1人、昨日も1人、お気に入りしてくださった方がいらっしゃいました!!!ありがとうございます!!もう元気がギュンギュン湧いてきますね!!!もうすぐお気に入り30人なんですよ!!!寿命が300年伸びるんですよ凄くないですか!!!(うるさい)
感想も一足はやく30件に到達いたしまして、いつも読んでくださっている皆様には本当に感謝しています。ありがとうございます!!これからも頑張ります!!!!
というわけで、どうぞご覧ください。
今回もオリジナル回です。
私、絢瀬絵里は、今日はμ'sのみんなと劇場に来てる。手術を受けて入院中の茜から、「迷惑かけちゃったお詫びに、天童さんが監督した舞台のチケットを頑張ってとってきたから観てきなよ」とか言って10人分のチケットを渡されたの。…でも天童さんってどなたかしら。希と海未は大喜びしていたけれど。
「素晴らしい舞台でした…!」
「だよねだよね!私も寝る暇が無かったくらいだったよ!!」
「ほ、穂乃果ちゃん…」
「まず素で起きてろよ」
「創ちゃん、涙の跡ついてるよ」
「なんだと」
「創ちゃん号泣してたにゃ」
「情けないわね」
「お前らも跡ついてるがな」
「「えっ」」
みんな賞賛しているけど、実際素晴らしい舞台だったわ。繊細に書き上げられた脚本を、主演の御影大地が完璧に演じる…まさに黄金コンビね。原作者の柳新一郎さんも挨拶で絶賛していたし。
…茜もすごい人と面識あるのね。
「はあ、これだけすごい脚本書けるのに本人があんな人だなんて…」
「にこっち、天童さんに会ったことあるん?」
「あるわよ。茜の仕事仲間だから」
にこもだったわ。でもにこがあんなにげんなりするなんてどんな人なのかしら。
「ねぇにこ、その天童さんってどんな人なの?」
「どんなも何も、一から十まで何がどうなってるかわからない人よ」
「どういうことよ…」
「ほんとだよ、一体俺はどんな評価を受けてんだちくしょう」
「出たわね神出鬼没の変態」
「変態とか言うのやめてー?!」
「「「「「「「「?!」」」」」」」」
「何だてめえは」
「キャー!何で俺はゴリマッチョに吊り上げられてんの?!」
不意に私の後ろから声がかかった。びっくりしている間に、創一郎が謎の人物の胸ぐらを掴んでぶら下げていた…って何をしてるの?!
「創一郎、やめなさい!知らない人になんてことしているの!!」
「気配消してお前らの後ろに立つ怪しいやつは知らない人ではなくて不審者だ」
「ちょっとした茶目っ気!!俺の名前が挙がったからびっくりさせてやろーかなーって思っただけなんです信じろくださいいやごめんなさい許してプリーズ!!」
「ますます怪しいな」
「嘘だろこれ死刑執行ルートじゃね?やだなーこんな簡単にバッドエンドとか近年稀に見るクソゲーじゃねぇかそういうの嫌いじゃないぜでも俺まだ死にたくない」
「創一郎、やめなさい。その変質者が脚本家の天童一位よ。有名人だから最悪警察呼ばれるわよ」
「変質者ゆーな!」
「なんだと」
「痛い!急に放すなよ!」
なんと、この人が天童さんらしい。…たしかに掴み所のない人ね…。正直、高名な人には見えないかも…。
「まったく、茜は『でかいヤツいるけど凶暴じゃないから安心して』って言ってたのに!!」
「普通に考えて、スクールアイドルに変質者を近づけるわけねぇだろ」
「おっと、安易に普通とか言うべきじゃないぞって言いたいところだがまずは変質者って呼ぶのやめてお願いします生きててごめんなさい」
「こ、この方が…天童一位さん…?」
「なんかちょっと…」
「「残念?」」
「おーっと青い髪の乙女と紫の髪の乙女に初見で幻滅されし俺はどうやって生きたらいいんですか教えてマザー」
相変わらず創一郎に警戒され、海未と希にはがっかりされて泣きそうな顔をする天童さん。…なんだか可哀想になってきたわ。
「ま、まあまあ…悪い人じゃなかったわけだし…」
「そうだよ、面白そうな人だよ!」
「おっとネタ勢認定いただきました」
「ネタ勢じゃないですか」
「ひどい」
ちょっと庇いきれなくなったわ。…あとにこの敬語初めて聞いたわね。
「うう…せっかく茜がお世話になってるからご飯奢ってあげようかと思ってたのに…」
「どうせ茜の提案ですよね」
「何故バレたし」
「そして茜から預かったお金で奢るんですよね」
「何故バレたし」
「茜のことならお見通しです」
「茜よりにこちゃんの方が重症じゃいったああああ?!膝に蹴りが?!」
「にこちゃん…」
「容赦ないね…」
にこの話からすると、茜が天童さんを通じて私たちにお礼しようとしているみたい。意外と回りくどいことするのね。
「なんで直接じゃないのかしら」
「恥ずかしいんでしょ」
「茜くんって恥ずかしがるイメージが湧かんなあ」
「あいつ、他人にお礼を言われるのは慣れてるけど、じぶんがお礼言うのは慣れてないのよ。昔は人助けする側だったし、今まではお礼をするような事態を避けていたし」
「まあそういうことだから受け取ってやってくれ」
「でも、私がお礼言ったときも微妙なリアクションしてたわよ」
「あ、私のときも…」
「なんであんたたちが茜にお礼言うような事態になってんのよっ」
真姫と花陽も納得した顔をしていた。きっと私がお礼を言っても同じ結果だったのね。それよりもにこがものすごいしかめっ面してるのが気になるわ。ヤキモチかしら。茜とどういう話をしたのかは聞いてるけど、本当に好きなのね。
「つーわけで、もう予約はしてあるから逃げられないぜっつーか逃げないで」
「またフライング予約して…」
「ああ、あと2人呼んでるから」
「なんでよ」
「おっと敬語抜けてるぜにこちゃん。いや、君たちに興味があるっていう有名人がいたからさ…」
…私たちの知らない人を会食に呼ぶのは何故かしら。
「まだかなぁ…」
「落ち着きがないですよ、御影君。予定まであと数分あります」
「とは言ってもね…」
僕らは舞台が終わった後、「μ'sとご飯だぜ!!」と言われるがまま指定された場所で待機していた。
待機しているんだけど。
「めっちゃ焼肉なんだけど」
「…天童君の読みではここが一番だということなんでしょうか」
「女の子とご飯食べる場所にはふさわしくないような…」
「まあそこは天童君ですから」
僕らが待機しているのはいかにも普通の焼肉屋だった。…僕らスクールアイドルとご飯食べるんだよね?もっとお洒落なお店選ぼうよ。逆にさすがだよ、天童。
「うおーい、ついたぞー」
天童に残念さを募らせているところに、ちょうど本人がμ'sを連れてやってきた。
「…あれ、全員ではないんだ?」
「ああ、にこちゃんとでかいやつは家族の飯を作らなきゃいけないからまた今度ってことになった」
「大変だね」
「素晴らしいことじゃないですか。ご家族を大事になさってるということですよ」
確かにそうだけど、全員に会えるものと思っていたからちょっと残念。SoSさん…茜くんと言うべきか。彼が入院中というのは聞いていたから彼が来ないのはわかっているけど。
「って、焼肉なんですか?!」
「もっとお洒落なお店かと思ったにゃ!」
「何を言う、焼肉舐めんなよ。肉だぞ肉。ひたすら肉を食えるんだぞ。嫌なら帰りなさい」
「すみませんでした」
「よろしい」
さっきの予想通り微妙に文句が出ていた。天童、女の子にひたすら肉が食えるって宣伝は本当に効果的なの?効果あったみたいだけど君たちはそれでいいの?
「…あの、天童さん。ご一緒するお2人ってまさか」
「そう、そのまさかだ。さっきの舞台、『未来の花』主演の御影大地と原作者の柳進一郎…本名松下明だ」
「ええええ?!」
「俳優さんと小説家さんだ?!」
「…僕は文学者なんですが…」
先程からこちらをチラチラ気にしていた青っぽい髪の女の子…確か園田海未さん、が、僕らと食事ということで驚愕している。その他メンバーも各々驚いていた。…いや、一部焼肉に夢中になってる。なんか焼肉に負けたみたいで悔しい。
「あっあの、いつも小説読ませていただいています!!」
「ありがとう。園田さん、だよね。よく僕にメールくれる」
「あ、は、はい!その通りです!」
「海未、柳先生にメールしてるの?」
「はい、詩の一部を引用させていただく時に…」
「最近著作権なんて気にしない人も多いのに、殊勝なことです。いつもありがとうございます」
「い、いえ…そんな…」
「あと、松下と呼んでほしいかな。本名も公開しているわけだし」
そういえば、初めて会ったときにμ'sの子からメールもらったって話をしたね。見た目からして大人しそうではあるし、本とかよく読むんだろう。
「わあ…御影大地さん!あ、握手してください!」
「あ、わ、私も!!」
「よろこんで。僕も君たちに会えて嬉しいよ、南さんに小泉さんだよね」
「「はい!」」
「あ、この人テレビで見たことあるよ!」
「凛も見たことある!」
「いろんなドラマに出ているからね」
「そんなに有名なの?」
「すっごい有名なんよ。子供からお年寄りまで、なんでもこなせる万能の天才って言われていろんなドラマで引っ張りだこなんやって」
「ハラショー…」
「…ハラショー?」
僕のこともほぼみんな知ってくれているようだ。恥ずかしいな。絢瀬さんは知らなかったようだけど、ハラショーが何なのか疑問に思っていたら松下君が「ロシア語ですよ」と耳打ちしてくれたおかげで純日本人ではないらしいと理解した。まあ金髪だしね。
皆さま警戒心を解いてくれたようで、緊張もほぐれたようだ。μ'sのみんなが素でこんな感じなのか、天童パワーなのかはわからない。
「真姫ちゃん不満そうにゃ」
「そりゃあ…家の方が美味しいご飯食べられるじゃない」
「はーっそりゃ医者のご家庭に財力で勝てるわけないじゃーん!」
「何かすごく不愉快なんだけど」
「もうちょっとマイルドな言い方はできなかったのかなー」
西木野さんは確かお医者さんの娘さん。そりゃ庶民の焼肉よりいいご飯食べられるよね。
その後は全員で焼肉に殴り込んだ。これがまた結構みんなノリノリで肉を食べてた。普通「あんまり食べると太る…」とかいって遠慮しそうなもんだけど、そこは天童パワーだ。
「ああ、肉の脂質はまんま脂肪になんかならねーし、タンパク質はグルカゴンを出すからむしろ脂肪は燃焼される。米とか食ってるよりよっぽど痩せるぞ、筋肉もつくしな」
この言葉で俄然食う気になった模様。もともと多く食いそうな高坂さんや星空さんはともかく、南さんや小泉さん、東條さんが目の色を変えていたのは驚きだ。…まあ、東條さんに限ってはもとから焼肉好きだったらしいけど。後で知った。
大食い軍団は天童と対決していたし、園田さんは松下君に質問攻めしていたので、僕は絢瀬さんと西木野さんの苦労話を聞いていた。二人とも冷静な子で、苦労が絶えないようだ。でも楽しそうに話してたし、満更でもなかったんだろうね。
「…おや、西木野嬢じゃないか」
「ねえ、その『嬢』って呼び方やめてくれませんか?」
「女性を呼ぶ時の敬称みたいなものだ。それ以外で何と呼ぶ?『さん』は西木野婦人に使ってしまっているしな」
「いいじゃないの『さん』で。被っても大丈夫ですよね」
「2人同時に近傍に存在した場合に面倒だ。あと君は敬語をもう少し覚えるといい」
「余計なお世話です」
病院でのお手伝いの休憩中、本館と別館を繋ぐ渡り廊下付近にある休憩スペースで藤牧さんに会った。…いちいち絡んでくるし、何かやけに自信満々なのが勘に触るからあまり関わりたくないんだけど。
「今日も先生の手伝いか?身近に実技を学ぶ機会があるのは素晴らしいな」
「藤牧さんはどうしたんですか。茜のことですか」
「ああ、その通り。術後の経過も良好だからここに部屋を用意してもらった。うちはあまり大きくないからな、元気なやつの面倒を見るのは逆に手間だ」
藤牧さんは元々定期的にお父さんの元で検診を受けているそうだ。今まで会わなかったのは、彼の診察がいつも平日の昼間だったかららしい。
それなのに今日会っているのは、今が夏休みである上に、彼が行った茜の手術についてお父さんと頻繁に話しているから。今まで類に見ないほど正確で的確な手術だったらしいけど、藤牧さんも口外出来ないことがあるらしくて話が進まないってお父さんが言っていた。
「へぇ、部屋が余っててよかったですね」
「全くだ。病室が余るというのはそれだけ病人が少ないということだ。医者としては微妙な面持ちだが、これを歓迎しないわけにはいかないだろう」
「そうですね。茜は無事なんですか」
「ああ、まったく無事だ。むしろ元気だ。まだ無理はさせられないが、もう走っても大丈夫だろう」
どうやったかはわからないけど、肺の移植でそれは恐ろしく早い。というか、移植に使った肺はどこで手に入れたのかしら。
「まあ、しかし私は人間の極致であって、それ以上の実力を持つ者には敵わないようだ。こればかりはどうしようもないな」
「そんな化け物どうせいないでしょ?」
「いや、いた。サヴァンがな。流石に一から全てを作り上げるあの技術は、もはや異界のそれだ。根本的に作りが違う」
「あなたがそこまで言うような人が本当にいるの?」
「私の幻覚を疑うか?彼がいなければ茜の手術も成功されることはできなかった。なにせ片腕だ、両腕であってもあれほどスムーズに、正確にとはいかなかっただろう」
珍しく他人を賞賛する藤牧さんは、なぜか嬉しそうだった。自分に匹敵する人が見つかって嬉しいのだろう。変な人。
「まあ、テルマについてはまたいずれ話すこともあるだろう。ともかく、また今日も西木野先生の元へ赴かねばならん。今日はここで失礼する」
「別に会うたびに話しに来なくてもいいんですけど」
「そう言うな、私は嬢と話がしたいからな。それではまた」
話をするなり、藤牧さんはさっさとお父さんのところへ行ってしまった。毎回こうやって塩対応してもめげないから困る。変に強いメンタルしてるわねあの人。
茜の知り合いにまともな人いるのかしらって思いながら、そろそろ私もお手伝いの時間なので腰を上げる。
「…ん?西木野か。そういえばお前ここの子だったな」
「今度は桜さん?」
「何でそんな疲れた顔してんだよ」
上げようとしたら、今度は別館の方から桜さんが歩いてきた。何で立て続けに知り合いに会うのかしら。
「別に…変なのに絡まれてただけよ。それにしても桜さんがここにいるなんて珍しいわね」
「そりゃ俺だって病院くらいくるわ。無敵じゃねーんだ」
「それもそうね」
まあ確かに病院に彼がいること自体はまったく変ではない。
それ自体は、変ではない。
「俺はもう用は済んだから帰る。手伝い頑張りな」
「ええ、…えっと、ありがとう」
「お礼言う練習もしておきな」
「うるさいわね!」
「はいはい病院ではお静かにー」
手をひらひらさせて去っていく桜さん。特に異常があるようには見えなかった。
だから、何故病院にいたのかなんて聞けなかった。
だって、別館は…精神病棟なんだから。
天童一位とかいう人の演劇を見た数日後。俺の家には、μ'sのメンバーが来て以来の来客があった。
「おい、帰ったぞ。客を案内しろ」
「お邪魔する。…弟とはいえ、扱いが雑すぎやしないか?」
「あ、お帰り兄さん。雪村さんも話は聞いていますよ。車椅子押しますね」
「おかえりー」
「大兄貴おかえりー!あっお客さんだ!いらっしゃいませー!!」
「っしゃいませー!!」
「店じゃねえんだぞ。飯の用意するから散れ」
「…賑やかだな」
「楽しいですよ?」
招いたのは雪村さんだ。たまたまμ's復活ライブの時に再会したのだが、どうやらことり奪還に少なからず貢献してくださっていたらしい。何か礼をしたいと申し出たら、服を作らせてくれと言われた。意味がわからん。わからんが、それでいいなら弟たちに服を設えてもらおうという話になったのだ。
「…車椅子重くないですか」
「色々道具を載せているからな。少しは重いかもしれん」
「持ち上げた方が楽だぞ、銀」
「ああ、車椅子ごと持ち上げられて移動したのは今日が初めてだ」
「なんか…ごめんなさい」
車椅子は段差で引っかかったりして不便だったから、途中から肩に担いでここまで運んできた。何もおかしなことはないはずだ。
「しかし…こっちが礼をするはずなのに、服なんか作ってもらって悪いな」
「気にするな。最近普通の服を作っていなかったから、これが一番俺は嬉しい。サイズも様々だしな」
「まあでかいのもチビもいるからな」
俺と銀二郎は比較的でかいが、迅三郎は母親似であまり背は高くないし、当四郎と大五郎はまだ年齢的な問題で小さい。そう思うとたしかに大小様々だ。
「とりあえず俺は飯を作ってくるから、その間に採寸でもしといてくれ」
「いや、採寸ならもう済んだ」
「…は?今会ったばっかだろ」
「ああ、今会った。だからもう採寸は済んだ」
「何言ってんだ?」
「見ただけで寸法がわかるということじゃないかな…」
「そういうことだ。食事を作ってくれている間にも完成するだろう」
何で見ただけでサイズわかるんだよ。…そういえば俺も、執事服作るとき採寸されなかったな。
「おい待て、お前以前μ'sにメイド服作ったよな?」
「ん?ああ、作ったな」
「…採寸しなかったよな」
「したぞ。ちゃんと見た」
「…つまり全員のスリーサイズを見ただけで見抜いたわけかお前」
「当然だ。全員サイズぴったりだっただろう?」
ああ、なるほど。
何人か赤面してる奴がいたが…あれはメイド服自体ではなくて、これが原因か。
セクハラ一歩手前じゃねぇか。
「ん?これメンバーサイトのプロフィール埋められるんじゃ…」
「兄さん、それやったら多分追放されるよ」
「だろうな」
それぐらいわかるわ。
雪村さんを居間に案内してから俺は飯を作っていたが、その間ずっとミシンが動いている音がした。弟たち4人がずっと静かだったあたり、その様子を見ていたんだろう。
飯を作り終えて弟たちを呼び、食卓に運ばせてから自分も食卓に向かうと、本当に服が完成していた。なんだ、俺の周りバケモンしかいねぇな。茜然り、桜さん然り。
「…パスタか、カルボナーラの。一気に茹でていたのは量の調節のためか」
「パスタは楽でいい、安いしな。これでも相当豪華に飯を食えるようになったが」
「まあ…それだけ量があれば安くせざるを得ないだろうな」
「普通だろ。お前らが食わなさすぎなんだ」
「そんな山盛りのパスタを俺はマウンテンでも見たことはない」
「山がどうかしたのかよ」
「名古屋にある喫茶店だ、気にするな。…まあ、俺の分の量が普通であることは幸いというべきか」
なんかその喫茶店気になるな。
「それでは…いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」
「いただきます」
「…!美味いな…!」
「そりゃあ大兄貴が作ったからな!」
「食費も増えたおかげでさらに美味になりました」
飯はお気に召したらしい。不味いとか言われたら投げ飛ばすところだが、そうならなくてよかった。
飯を食い終えて片付けたあと、新しい服のお披露目となった。あの短時間でそれぞれ2着ずつ作っていたらしい。早すぎるだろ。そのうち一着はフォーマルな儀礼用といった感じの、式典にでも着ていけそうな服。もう一着はカジュアルな普段着だった。サイズも引くほどぴったりだ。
「おー!!すげー!!かっけー!!」
「かっけー!!」
「おー」
「兄さん…これ本当いただいちゃっていいの?」
「本人がいいと言ってんだからいいんだろ」
銀二郎も言っているが、もらっていいのか不安になるくらい上質だ。
「俺、普通の服を作ってくれって言った気がするが」
「普通の服だぞ?」
「普通にしては質が良すぎませんか…?」
「俺が作ったからだろう」
「兄さん、何でこんな自信満々なの」
「俺に聞くな」
天才ってみんなこんな尊大なんだろうか。桜さんもあんなんだし、茜も腹立つしな。
「何にしても、俺の服が気に入ってくれたなら本望だ。大切にしてくれ」
「ああ」
「わーい!!」
「まてー!!」
「…彼らのは丈夫な生地で作ってある、心配するな」
「何から何まですまねぇな」
当四郎と大五郎が走り回っているのを見て、雪村さんが補足してくれた。ほんとに申し訳ねえ。
俺の目の前には大量の紙が積み上げられている。
紙には配役と台詞がたくさん印刷されていた。今も現在進行形でプリンターから同じような紙が吐き出されている。しかし、積み上げられた紙の方には赤ペンでそこらじゅうに訂正が入っていた。
これは、脚本。
しかし、何かの舞台の脚本ではない。
俺の、人生の脚本である。
「俺との関わりがμ'sに与えた影響は…いまのところナシ。今後もしばらく無さそうだな。おそらく俺が介入しなくてもハッピーエンドだろうが…もう少し手を加えたいところだな」
人生なんて、一人の人間の一舞台にすぎない。しかも一回こっきりで、観客がいなければ存在すら疑わしくなるような代物だ。
何も指標がなければ無為に終わってしまう。
だから、俺はハッピーエンドを飾るための脚本を書いているのだ。
毎日毎日、少しずつ。これから起きるであろうこと、言うであろう台詞を推測して、起こりうる未来を予測する。何をしたらどこが変わるか、誰にどんな影響が出るか。全てを書き出して、よりよい未来につなげていく。
「あー、そういえば茜の回復が予定より早そうだって聞いたな。たぶん一日退院が早くなるし、そこ訂正しなきゃな」
時には、すでに起きたことの影響を考えて脚本を修正し、新しい展開を考える。よりよい未来を予測する。
「えーっと、後は…確か雪村が滞嶺と接触。衣服製作か?依頼かな…いや、彼にそんな金があるとは思えんな。雪村が自主的に申し出たか。恐らく普通の服が作りたかったとかだろう。そうなると今後の滞嶺の身なりに上方修正がいるな…あ、あいつ弟がいっぱいいるって茜言ってたな。それなら弟軍団にも服作ってるかもしれんな。何歳なんだ?そこは不確定でいいか」
予測、予測、予測。
よりよい未来のために。
一世一代の大舞台に、俺の人生を仕上げなければ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
特に影の薄かった御影さんと松下さんの存在感をあげておきました。天童さんはまあ事あるごとに絡んできます。年上勢は出番を作りにくいのでもっと存在感出さなきゃ…。
そして藤牧君と水橋君。藤牧君は波浜君の回想でも出てきた通り親が医者だったので、真姫ちゃんのお父さんと交流があります。天才ですしね!!水橋君は忘れた頃に重そうな雰囲気を突っ込んでおきます。
滞嶺君と雪村君は雪村君のスリーサイズ看破能力を書きたかっただけです。セクハラの権化爆誕です。本人はまったくそんなつもりはないんですがね!!
最後にもう一度天童さん。彼もすごい人なんです。アニメ二期の間にもっと天童さんのお話を入れていく予定ですのでお楽しみに。