笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼
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ご覧いただきありがとうございます。

ことりちゃん誕生日おめでとう!!今日も私はあなたに脳を溶かされます!!ちゅんちゅん!!!
そして!!前回なんと☆10評価をまたいただきました!!本当にありがとうございます!!もっともっと皆様に「良い!」って言っていたどけるよう頑張りますね!!

今回はお誕生日記念話ですが、本編の時期と(たぶん)ちょうど合う時期だと思ったので本編の時系列に合わせたお話を書きました。にこちゃんや穂乃果ちゃんのときのように一年後ではありません。
主役は雪村瑞貴君です。テンションが低い人なので盛り上がりに欠けるかもしれませんが、最後まで読んでくださると嬉しいです。

というわけで、どうぞご覧ください。

※10,000超えです。




南ことり誕生祭:Wonderful Rush

 

 

 

 

「ねぇゆっきー、ちょっと衣装作ってほしいんだけど」

「…珍しいな、茜が依頼なんて。俺の衣装は金がかかるぞ、いいのか」

「いつも思うんだけど制作時間がバカみたいに早いのに何でそんなに高いの」

「物の価値の分だけ値段は必要だろ」

「自分の作品に対する自信がパない」

 

 

9月に入った頃、喫茶店で茜と二人で蓮慈を待っている時に茜が突然依頼を持ってきた。当然普段は服をわざわざ作る必要はまったく無いため、依頼されることなどほとんどない。

 

 

どういう風の吹き回しだろうか。

 

 

「今度、ことりちゃん復帰を祝って彼女をセンターにした曲のライブをするんだけどね。その衣装を君に頼みたいんだ」

「…お前たち、ラブライブ地区予選があるとか言ってなかったか」

「うん。日程的にはその2週間ほど前にライブってことになるんだけどね、やっぱ同時進行は辛かろうと思って。お金は払うからさ」

「ついでに俺のネームバリューも使わせてもらおうという魂胆だな」

「話が早くて助かるよ」

「人を利用することへの抵抗感は無いのかお前は」

 

 

俺も結構磨り減った神経しているが、茜も時々サイコパスなんじゃないかと疑いたくなる。

 

 

まあとにかく、事情はわかった。こいつらもなかなか忙しいな。

 

 

「で、いいかな?」

「…仕方ないな」

「おっほー、ありがとう。これでみんなの負担が減るね」

「…なんだおっほーって」

「おっほー」

「腹立つな」

 

 

多めに金取ってやろうか。

 

 

「ごめんて。はいこれ衣装デザイン案」

「何だ、作ってあるのか」

「そりゃ僕グラフィックデザイナーだし。当然実際に着ることを想定してないから勝手に変えちゃっていいからね」

「…わざわざ全員違うデザインにしているのか」

「大半の衣装はそうしてるよ。個性出さなきゃ」

「へぇ」

 

 

以前、南ことりからもそんな話を聞いた気がする。アイドルも大変だな。

 

 

まあ、頼まれたって同じ衣装を複数なんて作らないんだが。

 

 

「…というか、何故南ことりがセンターの曲の衣装を俺が作るんだ?それこそ本人が作りたがりそうなものだが」

「あー、ラブライブ予選の衣装を人に任せられないとかいろいろあるけど…ふふん、まあ事情があるんだよ」

「言えよ」

「やだよ」

 

 

何なんだよ。

 

 

「言ってもどうせ忘れるし。とにかく、それお願いね」

「…なんか気に入らないな」

「どうした瑞貴、相変わらず不機嫌そうだな」

「悪かったな」

「おー、お疲れまっきー。今日の診察はおしまい?」

「予定の上ではな」

 

 

知らぬ間に蓮慈が来て話が逸れてしまったため、これ以上追及できなかった。本来なら自身がセンターの曲の衣装なら自分自身で作りたいと思うのだが…わからんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後。

 

 

「どうですか?」

「…そうだな、色が少し単調すぎるだろう。青だけではなく赤系…紫がいいか。それくらいの色を4、5人分使ってやると動きが出るだろう」

「なるほど…」

「あとは…少し生地の面積が広いな。ユメノトビラというくらいだからネグリジェを元にした衣装だろう?ネグリジェはもっと露出が多く、ゆったりした衣服だ。ぱっと見でそれを連想できる見た目でなければ」

「や、やっぱりそうですよね…海未ちゃん着てくれるかなぁ…」

 

 

俺は南ことりの自室にて、ラブライブ予選で着るという衣装を見てやっている。電話口でのアドバイスは散々したのだが、やはり実際目にしないとわからないことも多い。だからこうして足を運んで現物を見ているのだ。

 

 

何故南ことりの自室なのかと言われれば、それは「他に適した場所がなかったから」としか言いようがない。正直彼女の部屋も二階にあるため、足のない俺に適しているわけではなかったが…まあ階段なら腕の力で登れる、問題ない。車椅子は玄関に放置するしかないが。

 

 

俺が「君の家まで見に行こう」と提案したからそうなったのだが、南ことりが焦っていたのはなぜだったのだろう。

 

 

「園田海未か?大丈夫だろう、いつも投げキッスしているじゃないか」

「そうなんですけど…恥ずかしがり屋なんですよ」

「恥ずかしがり屋は投げキッスしないと思うが」

「あれも最初は嫌がってるんですけど、本番は楽しそうにやっちゃうんですよ」

「じゃあ衣装も何とかなるさ」

「なるかなぁ…」

 

 

しかしアイドルをしているのに恥ずかしがり屋とは一体どういうことなんだ。自分を見せるための職だと思うのだが。

 

 

「…フリルの数はこんなもんだろう。バリエーションもあって個性が出ていると思う。…しかし上半身にもう少し変化をつけたいな」

「上半身…そうですよね、袖くらいしか変わらないですから…」

「…オフショルダーにするか」

「え、オフショルダーですか?動くと落ちちゃいませんか?」

 

 

人は他人を見るとき、まずは顔を見る。だから衣服に変化をつけたいなら、顔に近い上半身に違いがあった方が「あ、なんか違うな」という印象を与えやすい。スカート部分のフリルや半透明のレースの長さや色にバリエーションが多いのはいいことなんだが、それよりも上半身、特に肩周りに変化が欲しい。

 

 

今全員肩から衣装を提げる形であるため、一番変化がわかりやすいのは一部の人はオフショルにしてやることだろう。

 

 

「問題ない、ゴムである程度しっかり胸の上で締めてやれば、引っかかって落ちない」

「む、胸の上で…」

「…それなら人も分けやすいな。バストサイズが不安な矢澤にこ、星空凛、園田海未は今のままが望ましいが、他のメンバーなら激しく動いても落ちることはないだろう」

「…あ、あはは…って、なっなんでみんなのバストサイズを…?!」

「以前メイド服作っただろう」

「…あ、そうでした」

 

 

半分ほどのメンバーをオフショルダーにするのが望ましいだろう。今挙げた三人はバストが76以下だから若干だが危ういだろう。あとは絢瀬絵里のフリルが高い位置にあるからオフショルダーだと衣装上半身の面積が狭くなってあまり適さない、というくらいか。…やろうと思えば全員オフショルにもできるんだがな。

 

 

「…でも、メイド服作ってくださった時も採寸とかしませんでしたよね?どうして私たちにぴったりの服が作れたんですか?」

「採寸ならしたぞ」

「え?そうでしたっけ?」

「ああ、君たちを実際に見たからな、ちゃんと採寸は済んでいる」

「…あの、前ももしかしてって思ったんですけど…見ただけでスリーサイズわかるんですか…?」

「ああ」

「や、やっぱり…!」

 

 

南ことりは顔を赤くして俯いてしまった。一体どうしたのか。

 

 

よくわからないが、衣装の評価は続ける。そのために呼ばれたのなら、その役目は果たさなければ。

 

 

「…オフショルダー組は胸部分にフリルをつけるのもいいだろうな。君の衣装ならこの辺りで切って、フリルを2段ほど縫い付けてやると露出感を下げられるだろう」

「は、はい…」

「…ん?君の衣装少し手直しをした方がいいな。以前よりバストサイズが大き

「わわわあああああああ?!?!なっ何でわかるんですかああ?!」

「急にデカい声を出すんじゃない…見たらわかると言っているだろう」

「やあああああん!!えっち!!すけべ!!」

「ファッションデザイナーになんて事を痛っなぜぬいぐるみを投げる」

 

 

サイズ調整の必要性を提起したら大量のぬいぐるみが飛んできた。何をするんだ、こっちは足が無いから逃げる事すらままならないんだぞ。少し手間がかかるにしても、そこまで怒る事ではないだろう。

 

 

「落ち着け…足が不自由な相手にする所業じゃないだろう」

「うう…雪村さんがデリカシーなさすぎるんですぅ…」

「何を言っているんだ」

 

 

さんざんぬいぐるみを投げつけて落ち着いたらしい南ことりは、赤い顔で半泣きになりながらぬいぐるみを拾い集めている。デリカシーがなんだと言うんだ。今まで特に問題視されたことはないのだが…いや、文書でのやり取りはあるにしても、基本的に直接顔を合わせることはほとんどないな。当人を前にした発言としては不適切だったのかもしれない。

 

 

若干申し訳ない気持ちで南ことりの方を見ると、屈んで隙間ができた首元から、彼女の鎖骨あたりにある下着の紐と締め付け跡が見えた。

 

 

「…南ことり、下着のサイズが合ってないな?跡ができてうごっ」

「どこ!!見て!!るん!!です!!かっ!!!」

「まっ待て、いてっ足が無いからって馬乗りは卑怯痛っ君力強いな?!」

 

 

…しまった、先ほど反省したばかりなのについ指摘してしまった。おかげで南ことりは怒り心頭なのかなんなのか、顔を真っ赤にして突撃してきた上に馬乗りになってぬいぐるみでガンガン殴ってくる。なかなかシャレにならない威力だから俺にしては珍しく焦る。

 

 

 

 

 

 

ガチャっ

 

 

 

 

 

 

「ことり、おやつ持って来たから雪村さんと……食べ…………」

「……………………えっ」

「…あ、どうもありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

すごいタイミングで南ことりの母が入ってきた。片手にクッキーやジュースが乗った盆を持っているあたり、わざわざ俺に差し入れてくれたのだろう。

 

 

まあそれはいいとして、今、南ことりは俺に馬乗りになってぬいぐるみを振り下ろさんとしているポーズで固まっている。

 

 

色々誤解を招きそうだ。

 

 

「………えーっと、お邪魔だったかしら…」

「まっままま待ってお母さん!これはちょっと事情が…!!」

「い、いいのよ?ことりもいろんなことに興味が出てくる歳なんだから…」

「なんか壮大な方向に勘違いしてらっしゃいませんか」

 

 

すすすっ…と、苦笑いで後退する南ことりの母は明らかにちょっとだいぶまずい方向に誤解している。何がまずいかと言われれば、彼女は高校の理事長だ。不純異性交遊がどうのこうの言われたら困るどころの騒ぎじゃない。

 

 

「そう!勘違い!勘違いだよお母さん!!雪村さんが悪いの!!」

「…俺が悪いのか」

「悪いです!!」

「…おお」

 

 

気が弱いのか強いのかどっちなんだこの子。

 

 

「大丈夫、大丈夫よことり。私は何も言わないわ…無理やり襲っちゃうのはどうかとは思うけど…」

「違うのおおお!!」

「ある意味では間違ってない気もするうおっ」

「雪村さんは黙ってて!!」

「…おう」

 

 

襲われた(暴力的な意味で)というのは間違っていないため一応提言してみたら、南ことりからぬいぐるみ豪速球が飛んで来た。後ろに倒れることで辛うじて避けたが、彼女自身も顔が真っ赤であるため相当余裕がないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、まあ一部始終はこんなものですね」

「それは…申し訳ないけれど、雪村さんの擁護はできないわね…」

「そこまでですか」

「そこまでです」

 

 

結局、ブチ切れたのか何なのか錯乱状態だった南ことりを自室に待機させ、俺が彼女の母に一部始終を説明するに至った。やはり俺が悪いらしい。

 

 

「スリーサイズなんて女の子の最高機密みたいなものよ?いくらわかるからって言っちゃいけません」

「…今まで言及しても怒られたことは無かったんですが」

「相手がモデルさんだったからじゃないかしら。自信がある方たちだったのよ」

「…そういうもんですかね」

 

 

だからといって俺が軽い説教を受けているのは納得いかないが。大体南ことりもアイドルだろう。体型に自信はあるんじゃないのか

 

 

「今後女の子の体に関する話は控えてあげて下さいね?特に、下着を覗くなんて逮捕されてもおかしくないんだから」

「そこまでですか」

「そこまでです。あなたも下着を覗かれたくはないでしょ?」

「…まあ」

 

 

逮捕は困るな。

 

 

「そういうことです。…ところで、ことりとはどんな関係なのかしら?」

「…急に何の話です」

「ことりが家に男の子を呼ぶなんてはじめてなんだもの、気になるじゃない?」

「…指導者、ですかね。俺はファッションデザイナーですから」

「ええ、存じ上げております。女性ならその名を知らない人の方が少ないでしょうし」

「光栄です」

「で、どんな関係なのかしら」

「…話聞いてました?」

 

 

娘の人間関係を探るんじゃない。しかも俺は明確に「指導者」と答えたはずだ。

 

 

「うーん、じゃあ…ことりはあなたにとってどんな子なのかしら?」

「…何を知りたいんですか…。どんな子って、スクールアイドルの衣装担当ですが」

「そうじゃなくて、性格とかの話。あなたから見てどんな子かしら」

「…そんなに何度も会ったわけではないんですが」

「いいのよ、それでも。あの子って結構人見知りするの。特に男性にはね。そんなことりが自分の部屋に男の子を連れて来たんだもの、どんな関係で、どう思ってるのかって気になるじゃない?」

 

 

…茜や滞嶺創一郎と一緒に活動しているからそんな気配は感じなかったが。

 

 

まあ、いいか。

 

 

「…どう思ってるか…そうだな、少々内気で消極的、ところどころ抜けているところがあって見ていて危うい」

「…思ったより厳しいわね…」

 

 

正直な感想だ。俺は蓮慈ほど無感動ではないが、茜のように心優しくはない。

 

 

「…ですが」

 

 

だから。

 

 

 

 

 

 

「表現力があり、感情豊かで心優しい…何より好きなことを貫く奥底の強さは見えます」

 

 

 

 

 

 

短所だけではなく、長所も正しく伝えなければな。

 

 

 

 

 

 

「…そして、俺はそれが羨ましい」

「…羨ましい?」

「いえ、なんでもありません。彼女の印象はこんなもんですが」

「うふふ、結構ちゃんと見てくれているんですね」

「…」

 

 

ただ接触する機会が多かっただけだ。

 

 

「…雪村さん、9/12って、何の日か知っていますか?」

「…μ'sのライブだと聞いていますが」

 

 

9/12、それは茜に提示された納品期限であり、今日南ことり本人からも聞いた…彼女がセンターを務める新曲のライブの日だ。それ以外は何もない。

 

 

「そう、そして…ことりの誕生日でもあるの」

「…はあ」

「もし、あなたの気が向いたら…言葉だけでもいいわ、お祝いしてあげてほしい。きっとあの子、喜ぶから」

 

 

それは知らなかった。知らなかったが…わざわざ俺が祝うようなことだろうか。

 

 

「…善処します」

 

 

その程度しか言えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…9/11日。

 

 

例のライブの前日。衣装は既に茜に預けた。それ以外の予定は今日はない…いや、仕事はあるんだが、今急いでやることでもない。

 

 

「…」

 

 

だからって何故俺はアクセサリーショップに来てしまったんだ。

 

 

「…わざわざ大層なプレゼントを用意する必要はないよな…」

 

 

というかそもそも南ことりの誕生日を祝い義務もない。彼女の母も「気が向いたら」と言っていたのだし、気が向かなければ放っておけばいいのだ。

 

 

…帰るか。

 

 

 

 

 

 

「お、ゆっきーだ。暇そうだね」

「暇ではねぇだろ、明らかにそこの店に入るつもりだったぞ」

「あっはっはっまさか。ゆっきーが宝飾店なんて入るわけないじゃん」

「…」

「すげぇ睨んでるぞ」

「うそん」

 

 

 

 

 

 

…茜と、滞嶺創一郎。

 

 

μ'sのマネージャー二人が、何の用だか知らないが通りかかった。

 

 

…タイミングの悪い。

 

 

「…何をしているんだ」

「お買い物だよ。明日のライブに備えて買っておきたいものがいくらかあってね。ほら、アキバって元々電気街じゃん。結構色々売ってんの。照明機材に必要なものもね」

「古くなっていたもの、単純に損傷が激しいものなんかはまとめて交換するらしい。荷物持ちもいるわけだしな」

「怒ってる?」

「まさか。いい筋トレだ」

「プラス思考すぎない?」

 

 

そうか、ライブの準備か…盲点だった。前日まで念入りに準備をするのは当然か。

 

 

 

 

 

…ん?タイミングが悪いとか盲点とか…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「で、ゆっきーは何してんの」

「…何だっていいだろ」

「わあいつも通りテンション低い」

 

 

余計なお世話だ。

 

 

「アクセサリーとかなら、ことりの誕生日プレゼントじゃねぇのか?明日だろ」

「そりゃそうなんだけどね、ゆっきーが人の誕生日をわざわざ祝おうなんて思うとは考えにくいんだよ。自分の誕生日も忘れそうになるくらいだし」

「…余計な情報を言わなくていい」

「手厳しい」

 

 

図星を言い当てられるわ茜が煽ってくるわさりげなく南ことりを呼び捨てるわで微妙に腹立たしい。

 

 

「…誕生日は数日前に耳にした。気が向かない限りわざわざプレゼントなんて選ばん」

「…じゃあ、気が向いたんだね」

「そんなことはない」

「だったら何で宝飾店の前にいるのさ」

「…たまたま通りかかっただけだ」

「結構長いことそこにいるの見てたよ」

「通りかかっただけだ」

「わぉ頑固」

 

 

なんだかわからんが、こいつらにプレゼントを選んでいたなんて知られるのは気分が悪い。自分で認めることなどもってのほかだ。

 

 

「別に誕生日プレゼントなんて恥ずかしくねぇだろ。むしろ誇らしいことだ、人が産まれてきたことに感謝できるんだぞ」

「本当に創一郎は見た目で損してるよねぐえ」

「どういうことだ」

「そういうことだよ」

「…だから違うと」

 

 

この滞嶺創一郎という男、見た目がヤクザな割に中身が善良すぎる。真顔で綺麗事を言える人間がこの世にどれだけいるかって話だ。

 

 

…片手で人を吊り上げるのは善良とは言えないが。

 

 

「まあいいじゃねぇか、そのつもりがなかったとしても祝うくらいしてやれば。ことりもよく雪村さんのこと話しているしな、喜ぶだろ」

「…何で俺のことを話すんだ」

「知らないよ。でも確かによく話題に上るよ、特に衣装合わせとかしてると。『ここは雪村さんがー』ってね」

「あの子が謙虚なだけだろう。人に手伝ってもらったところを自分の手柄にしたくないだけだ」

「別に衣装以外でもゆっきーとこんなこと話したよーって言ってくるよ」

「…そんな大した話をした記憶はないんだが」

「ゆっきーにとってはそうかもしれないけど、ことりちゃんにとっては楽しいお話だったんだよきっと」

 

 

必要以上の会話をした記憶はない。向こうからメールが来て、返事をして、都合のいいタイミングで電話して、質問に答えて、それで終わりだ。特別な話も何もない。

 

 

何もないが、そんな記憶に無いような話も覚えていてくれているのは、なんとなく嬉しい。

 

 

「まあ何だっていいじゃん。せっかくお誕生日を覚えてるんだし、何かプレゼントしてあげなよ」

「…気が向いたらな」

「また頑固な」

「誕生日プレゼントを考えるのも大変だろ。思い付かなかったらやめておくってことじゃねぇのか」

「そうなの?」

「…どうだろうな」

「真偽不明案件だ」

 

 

しかし、嬉しいこととプレゼントを贈るかどうかは関係ない。今まで両親くらいにしか誕生日プレゼントなど贈らなかったのだし、今後もそれでいい。

 

 

それでいいはずだ。

 

 

 

 

 

「まあいいや。()()()()()()()()覚えておくといいんだけど、きっと君はそんなところで何か買うよりも自力で作った方が喜んでくれるよ。だってあの子、君のファンだしね」

 

 

 

 

 

それでいいはずなのに、茜の助言がやけに耳に残った。

 

 

「…そうかよ」

「そう。じゃあ僕らは帰るよ。明日の準備しなきゃ」

「結構時間食っちまったが間に合うか?」

「余裕だよ。設営自体は明日の朝一でやるしね」

「…俺も帰るか」

「何にも買わねぇのかよ」

「買わない」

 

 

もう日も随分と落ちてしまったため、このまま帰る。いいんだ、何も買わなくても。何も用意しなくても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は朝から大忙しです。

 

 

私の誕生日に合わせて、私がセンターの曲のライブを計画してくれたんです。しかも場所は空港。ステージもなんと滑走路です。茜くんが今は使われていない滑走路を頑張って借りてくれたんだそうで、見栄えを良くするための整備を創ちゃんが頑張ってくれたそうです。私のためにここまでしてくれたんだから頑張らなきゃ!

 

 

「うわー!滑走路ってこんなに広いんだね!!」

「ずーーーーーっと奥まで道路にゃ!」

「飛行機に乗ることはあっても、滑走路を歩くことなんてなかなか無いから新鮮ね」

「…飛行機も乗ったことないんだけど!」

「にこちゃん乗ったことないの?」

「無いわよ!乗ったことない人の方が多いわよ!!たぶん!!ねぇ茜?!」

「そりゃ絵里ちゃんは出身はロシアだし、真姫ちゃんはブルジョワだしね。僕もたまに海外行くけど」

「裏切り者!!」

「しょうがないじゃんギャラリーとか開いてって言われるんだから痛い痛い」

「創ちゃんはどこ行ったん?」

「あっ、あそこにいるよ。あそこで………飛行機を…引っ張って…」

「…………うそやん」

 

 

…みんなはいつも通りだけど。

 

 

なんだかみんなを見てたら私も緊張が解れちゃった。

 

 

「あ、そうそう。皆様ご注目、今回特別に作ってもらった衣装だよ」

「わあ…楽しみ!」

 

 

あっ、そうだった。今回の衣装は茜くんがプロの方に衣装を依頼してくれたんです。本当は私が作りたかったんだけど、茜くんが「僕からの誕生日プレゼントだと思って。大丈夫、世界一信頼できる人に頼むから」って言うから任せちゃった。どんな衣装だろう。

 

 

「…何で木箱に入ってるのよ」

「潰れないようにって言ってたよ。いつもこうやって渡すんだってさ」

 

 

…ちょっと不安。

 

 

「はい開けるよー。せーのっ…………ふんぬ…………」

「…開かないじゃないの」

「おかしいな…昨日確認した時は開いたのに」

「貸しな…よっ」

「開いた」

「普通に開くじゃないの!」

「筋力がなかっただけだろ」

「なるほど、昨日も桜に開けてもらったしね」

「なるほどじゃないわよ!!」

「ぐふ」

 

 

創ちゃんが開けてくれた木箱の中には、仕切りの間に一つずつ綺麗に畳まれた衣装が入っています。「南ことり」と札のついた衣装を手にとってみると、白を基調とした少しかっこよさがある衣装でした。とても上質な生地を使っていて、なんだか着るのがもったいなくなっちゃいます。

 

 

早速みんな着替えてみると、いつもはあまり使わない帽子や手袋があるってこともあって、みんなちょっとカッコよく見えます。白に青っていう配色も関係あるのかも。

 

 

でも…なんだか着心地が良すぎてびっくりです。前にもこんなことあったような…

 

 

 

 

 

あっ。

 

 

 

 

 

「あ、茜くん…この衣装、もしかして…」

「ご明察だよ。ゆっきーに頼んだの」

 

 

やっぱり…この着心地はアキバでみんなのメイド服を作ってもらったときと同じです。…とっても踊りやすくていいんだけど、やっぱりスリーサイズがバレちゃってると思うと恥ずかしい…!

 

 

「…どうかした?お気に召さなかったかな。ことりちゃんなら絶対喜んでくれると思ったんだけど」

「え?!う、ううん、すっごく嬉しいよ!!ただ…」

「ただ?」

「………ちょっと恥ずかしいなって…」

「…あー、まあ、うん。ことりちゃんは聞いてるのか。あのー…ごめんね?」

 

 

正直に言ってみたら、茜くんは承知の上だったみたい。うー、やっぱり恥ずかしい…。

 

 

「…もしかしてゆっきーが何かしたかな?あいつ無自覚に無神経だから気をつけてね」

 

 

暑くなった顔をぱたぱたと扇いでいる時に茜くんがそう言ってました。本当にその通り…もうちょっと早く教えて欲しかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブは大成功でした。

 

 

ライブ会場には当然のように雪村さんもいて余計に緊張しちゃったけど、ミスもなくしっかり踊れたし、お客さんも歓声をくれて、茜くんと創ちゃんもよかったって言ってくれて、桜さんも「まあまあじゃねーか?」って言ってくれたのでとてもいい出来だったと思います。雪村さんはすぐに帰っちゃったみたいで感想は聞けなかったけど。

 

 

会場の片付けは茜くんと創ちゃんにお任せして、着替えが済んだところで穂乃果ちゃんが「パーティーしようよ!」って言ってくれたけど、今日はお母さんがチーズケーキを作ってくれているからパーティーは後日改めてってことになりました。楽しみ!

 

 

そして、穂乃果ちゃんと海未ちゃんとも別れて家の前に着く、その直前でした。

 

 

 

 

 

 

家の前に、大きな車椅子に座った人がいました。

 

 

夕日で逆光になってて顔は見えませんが、そのシルエットを間違えるはずがありません。

 

 

 

 

 

 

「…遅かったな」

「えっ…雪、村さん…?」

 

 

 

 

 

 

雪村瑞貴さん。

 

 

いつも不機嫌そうにしていて、デリカシーもないけど、ファッション界の神童でいつも素敵な衣装を作っている…

 

 

私の、憧れの人。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何で…今日って家に来られるんでしたっけ…?」

「…いや、そんな約束はしていない。俺が勝手に来ただけだ」

 

 

何が起きてるのかわかりません。何でわざわざ、雪村さんが私の家の前まで来てくださっているんだろう。あっ、ライブの感想を言いに来てくれたのかな?

 

 

「…先に言っておくんだがな」

「は、はいっ?」

「俺は普段こんなことをする人間じゃないんだ。今回は極めて稀な例だと覚えておいてくれ。他の奴らに文句を言われると面倒だ」

「は、はぁ…」

 

 

何のことでしょう…いつもはわざわざ感想を言いに来ないってことでしょうか。

 

 

なんだかもやもやしたまま考えていると、雪村さんは車椅子のしたから肩幅くらいの大きさのプラスチック製の箱を取り出しました。

 

 

 

 

 

 

そして、それを私に差し出して。

 

 

 

 

 

 

「………………はっ、ハッピー、バースデー…?」

 

 

 

 

 

 

「…………えっ」

 

 

 

 

 

 

予想外の言葉が聞こえました。

 

 

ちょっと目が点になっちゃいました。

 

 

「…早く受け取れ」

「へっ?!は、はいごめんなさい!ありがとうございます!!」

「なぜ若干にやけている」

「えっ、だ、だって…雪村さんがハッピーバースデーなんて言うと思わなくて…言うとしても『誕生日おめでとう』ってもっと落ち着いた感じかと思ってました」

「…そこか」

 

 

言葉そのものにもびっくりしたけど、恥ずかしそうに顔を背けて、とっても言いづらそうに疑問形で言う姿は…いつもと全然雰囲気が違って、少しだけかわいらしい感じがしました。なんだか打ち解けてくださった気がしてちょっとだけ嬉しいです。

 

 

「…プレゼントなんて用意したことはほとんどないからな、気に入らなくても文句を言うなよ」

「そんな、文句なんてあるわけないです!雪村さんがくださったものなんですから!…あの、開けてみても…」

「………………………………どうぞ」

「…えっと、嫌でしたら部屋で開けますよ?」

「どうぞ」

「は、はい」

 

 

すごく不機嫌で恥ずかしそうな顔をしながら返事してくれました。顔が赤い気がしますが、夕陽のせいかもしれません。

 

 

箱の横が開く形の箱だったので、箱をわざわざ地面に下ろさなくても開けられました。箱の中から出てきたのは、白色の下地に緑色で草原を描いた模様のある一着のワンピースでした。半袖で、袖口と首元に緩いフリルがついています。生地は薄いですが、数枚重ねてあるようで下着は透けず、その上で輪郭だけ少し透けるようになっているみたいです。

 

 

「こ、これって…!」

「………………俺が作った。…君のイメージで作ったら夏服になってしまった。悪いが来シーズンにでも着てくれ…ん?いや、違う。着てくれなくてもいいんだが、まあ、そうだな、せっかく作ったわけだし、着てくれたら嬉しい…いやさほど嬉しくはない?なくはない…」

「…ふふっ」

「……何を笑っている」

「うふふっ…だって、雪村さんがそんなに必死に言い訳しているの始めて見ましたから…ふふ」

「…………………」

 

 

やっぱり、この服は雪村さんが作ってくれたものです。よく見たら草原の中にところどころ灰色の小鳥がいて、模様ももしかしたら私のために用意してくれたのかも。

 

 

それにしても、服についてしどろもどろになりながら言い訳している姿はなんだか子供みたいで、服飾の才能とか、ちょっと冷めた雰囲気とか、ぶっきらぼうな物言いとか、いつもの冷たい大人の人みたいなイメージとちょっと離れていて新鮮です。

 

 

数年前からファッションの先輩として憧れて、雲の上のすごい人だと思ってたけど…どれだけ才能に溢れていても、やっぱり同じ人間なんだなって思います。なんだか親近感が湧いちゃいました。

 

 

「ありがとうございます!大切に、大切に着ますね…!」

「ああ…あー、まあ、そんなに大切にしなくても…」

「ううん、大切にします」

 

 

まだ恥ずかしがってる雪村さんをしっかり見つめて、ちゃんと感謝の言葉を言います。言わなきゃだめですよね。

 

 

 

 

 

 

「雪村さんが、私のために、『これが一番いい』って思ってくれたものなんですから。どんなものだって私は大切にします!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

雪村さんは、私の言葉を聞いて、目を見開いて驚いていました。そんなに変なこと言ったかなぁ…。

 

 

「心の…」

「あの…変なこと言っちゃいましたか?」

「…ふん、変だな」

「あう…」

「変だが…なんとなく納得のいく話だ。そういうことにしておこう、そいつは俺の…心の贈り物だ」

「…はい!」

 

 

一旦俯いてしまった雪村さんでしたが、声をかけると顔を上げて返事をしてくれました。

 

 

その表情は笑顔で…よく見る、困ったような笑顔とか皮肉っぽい笑顔じゃなくて、初めて見る晴れやかな笑顔でした。

 

 

 

 

とても…ステキな笑顔でした。

 

 

 

 

「…もう帰る」

「あ、はい!ありがとうございました!」

「…ああ、そういえば…今日のライブ、よかっ…あー、素晴らしかった?違うな、なんかこう…えーっと、そう、なかなか魅力的だったぞ」

「えっ、みっ魅力的?」

「…なんか間違えたか?いや、もういい、これ以上は無理だ、帰る」

「ええっ」

 

 

最後に不思議な感想を残して、雪村さんは車椅子の向きを変えて行ってしまいました。思ったより早いです。

 

 

…魅力的なんて言われるとなんだか恥ずかしいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………言ってから気づいたが。

 

 

 

 

 

 

 

他に思いつかなかったからって、「魅力的」はちょっと恥ずかし過ぎないだろうか。

 

今更恥ずかしくなった。既に日は落ちていたため、赤面した顔を見られることはなかったが。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

デリカシー皆無マン・雪村瑞貴の爆誕です。元々はただテンション低いだけの予定だったのですが、それだとテンション低い時の水橋君と変わらないのでちょっと設定を追加しました。
服の設定やら何やら勝手なことを言っていますが全部私の妄想です。
あとは心の贈り物という言葉、穂乃果ちゃん誕生祭に雪村君が水橋君に言っていましたが、ことりちゃんの受け売りだったようです。なんてずるい子!!


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