笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
最近いい加減寒くなってきて、遂に長袖装備です。寒いのは苦手です…暑いのも苦手ですけどね!!
とりあえずもう台風が来なければ文句は言いません。来ないよね?
というわけで、どうぞご覧ください。
「なっ、何でこんなところに…」
「何でも何も、そこの天童に呼ばれたんだよ。『写真の店に来てμ'sの子らの荷物持ち手伝ってくれ♡』ってメールでさ。まったく急なんてもんじゃないよ」
「す、すみません…」
「君たちは気にしないで。悪いのは100%天童だから」
「おいおい俺の何が悪いってんだ」
「は?」
「あっはいごめんなさい生きててごめんなさい」
…さっきお店でスマホいじってたのは御影さんを呼んでたんやね…。本当にごめんなさい、御影さん。
でも、こんな有名人を気軽に呼び出せる天童さんも…にこっちの言う通りよくわかんない人やね。
「いや…流石にそんな卑屈にならなくても…だいたい君は
「って話してる場合じゃねーわ。さっさとお買い物しないと日が暮れちゃうぜ」
「えっまだ流石にそんな時間じゃ
「やーかましいわ入った入った」
「わあっ」
天童さんは話を途中で遮って私たちの背中を押した。何か都合の悪い話があったんかな。
「あ、店の中では別行動すんぜ。あまり俺たちにジロジロ見られたら選びにくいだろ」
「あ、はい…」
「…こんなの絶対荷物持ちとか要らないじゃないか。何で僕を呼んだんだよ…」
「いいじゃねーかよーJKとお話できるんだぜ喜べやオラ」
「君はおっさんか?」
言われてみれば、天童さんには流れでついてきてもらっていたけど…確かに荷物持ちなんて要らないお買い物しかしない。天童さんもうちらが向かう先を読んでたみたいだし、わざわざ申し出ることでもないはずや。
…なんで、ついてきたんだろう。御影さんまで呼んで。
「あっ、見て希。このイヤリング可愛いわ」
「ほんとやね。ライブの衣装にも使えそう」
「そうね。…なんだか、いつのまにか何でもライブに繋げるようになっちゃったわね」
「ふふっええことやん?楽しいやろ?」
「ふふ。そうね…こうやって何気ないことも私たちみんなのライブに繋がっていくと思うと、いろんなことがいつもと違って見えるものね」
本当に…ここにあるものが全部、μ'sのために使えそうかどうかって考えちゃう。あれはちょっと大きいかな、派手すぎるかなって。
みんなのために考えるのって、やっぱり楽しいもんね。
いろんなアクセサリーを見てえりちとライブの想像をしていると、少し離れたところにいる天童さんと御影さんの会話が聞こえてきた。
「…なあ大地。呪いの宝石ってたしかイギリスにあったよな。あれ演目の題材にしたらなかなかエゲツないやつ作れると思わね?」
「あー、なんかあったねそんなの。でも天童ってバッドエンド嫌いじゃなかったっけ」
「そうなんだよなー…嫌いな作品は書けないのが難点だわ。いや書けなくもないんだけどさ…しかも売れるんだけどさ…あんまり嬉しくないんだよ…」
「普段飄々としてるくせにたまに面倒くさいよな天童って」
「やかましいわーい。おっこの指輪いいデザインじゃねえか…って高い!!ちくしょうあんまり高いやつ置いてない系の店だと思ったのに!!」
「ははは、流石の天童も見たことないものについては予測が不十分だな。そして女の子受けするデザインはこっちだよ」
「あーん?俺はそういう煌びやかなやつは嫌いなんだ」
「女の子受けするデザインって言ったじゃないか。天童受けするかどうかは関係ないよ」
「そんな御無体な」
最初はなんか怖い話してたけど、意外とちゃんとアクセサリーを見てるみたいやね。御影さんは舞台の役によっては女性として出演するくらいだし、そういうのに詳しいのかも。
ひとしきり品物を見て、うちらはお揃いのイヤリングを買い、天童さんと御影さんも何かを買っていた。「先に外で待っててくれい」と言われたのでえりちと2人で外に出た。
「…2人で買い物の予定だったのに、なんだか不思議なことになっちゃったわね」
「せやね…神様のご加護なのかな?」
「ふふっ、おかしなご加護もあるものね」
「そんなこと言ったら天童さんと御影さんに怒られちゃうよ?」
「言わないわよ!」
予定とは全然違う1日になっちゃったけど、楽しくなかったとは言わない。天童さんも御影さんもいい人やし。天童さんはちょっと裏が読めないところがあるけど。
そんな、いつもとちょっと違う普通の日に。
「ねぇねぇ、君たち可愛いねー。何?2人でお買い物?」
「暇なら俺たちと遊ばねぇか?」
「ひゅーっ金髪美女に巨乳とかすげー組み合わせじゃん?」
「君たちみたいに可愛い子にぴったりな遊びがあるんだけどさー」
大きなイレギュラーが横入りしてきた。
「…すみません、友人を待ってるので」
「まあまあ、友達とならいつでも遊べるじゃん?俺たちとはもう会えないかもしれないしさぁ」
「友人を待っているので」
「おいおいおい!お前全然相手にされてねーじゃん!ダセーな!!」
「うるせーぞ!!」
ガラの悪そうな男の人が、5人。品のない言葉をかけてきて、品のない目でこっちを見てくる。えりちは強気に返事しているけど、うちは怖くてえりちの袖を掴むだけ。えりちだって震えてるのに。
「ったくよぉ、そんなやり方じゃダメなんだっつーの!」
「あぁ?!じゃあお前がやってみろよ!」
品の無さを隠そうともしない男の人たちに鳥肌が立ち、身が竦んで動けない。
「ああ、やってやるよ。こういうのはな…こうすんだよ!!」
そう言った男の人の1人が。
突然私に向かって手を伸ばしてきた。
「っ!!」
咄嗟に目を閉じる。
名前も知らない人に触られる恐怖が一気に駆け巡る。
えりちも反応できなくて、周りに他に人はいなくて。
誰か助けて………!!!
「ぐぅえッ?!?!」
閉じた瞼の向こう側から、蛙が潰れたような声がした。
「おいコラてめぇら…人の友人に気安く触れようとしてんじゃねぇぞゴミクズの分際で………!!!!」
恐る恐る瞼を開いた先にいたのは、麦わらぼうしを被って、黒いスラックスと黒い袖なしの黒いシャツを着て、さらに夏なのに長袖の白いシャツを羽織っている人。
天童一位さん。
彼が、私の前でガラの悪い男の人のを背負い投げした姿が映っていた。
「…え」
「て、天童さん…?!」
「オーケーすまなかったな君ら。怖い思いをさせちまったな、ホラーだったな!お詫びと言っちゃあなんだが、このゴミクズどもをトイレのシミになるくらいすり潰してやる…!!!」
何だかよくわからないけど、助けてくれた。あと何故かもの凄くキレてる。
「絢瀬さん、東條さん、大丈夫かい?!怪我は?!」
「御影さん…!!」
「だ、大丈夫です!でも天童さんがっ!」
遅れてお店から出てきた御影さんも駆けつけてくれた。私たちを引き寄せてガラの悪い人たちから距離を取ろうとしているけど、今は天童さんが心配だ。だって5対1だもの、勝てる気がしない。
「わかってる!あいつだって弱くない、ああ見えて世界中の武道は一通り習得してる!でも、だからって5対1は流石に怪しいよ!!
「御影さんは?!」
「っ…ごめんっ、僕は無理だ。台本があればなんだってできるけど、台本のない舞台じゃ僕は動けない…!!」
「そんなっ…!天童さん!やめて!!怪我しちゃうよ!!」
やっぱりそうだ。自分より大きな相手を軽々と背負い投げできるくらいには強いかもしれないけど、相手が多すぎる。
「離してっ…天童さんが!!」
「希っ落ち着きなさい!!あなたが出て行ってどうなるっていうの?!」
「でも!!」
「ぐぅっ!!」
「ああっ!!」
御影さんとえりちに腕を掴まれている間にも、天童さんは5人を相手に互角の喧嘩をしていた。しかも全員に挑発をかけて私たちの方に1人も抜けていかないようにしながら。
でもそれもすぐに限界が来て、お腹にガラの悪い人の拳が突き刺さった。続いて顔に、背中に、またお腹にと拳や蹴りが入っていく。
「やめて…やめて!!それ以上その人を傷つけないで!!何でも
「おいコラアアアア!!!人がせっかく君たちのために戦ってるっていうのに勝手に身を差し出すんじゃねぇえええええ!!!」
「ひっ?!」
「うるせーぞテメェ!!」
「やかましいのはそっちだボケ木偶が!!!」
「うげっ!!」
「うわっ?!?!」
何でもするから、と言いかけて、ボロボロの天童さんがものすごい大声で遮られた。放たれた蹴りを掴んで別の男の人に向かって放り投げる。
「ゲホッ、くっそ好き勝手しやがって…」
「て、天童さん…」
「狼狽えんな!!
「でも!!」
「でもじゃねぇ!!店の人だって警察呼んでくれてるはずだし、
ボロボロの体を引きずりながら拳や蹴りを避け続ける天童さんが、なぜか勝ち誇った顔でこちらに大声で語りかけてくる。
その、理由は。
「う、うわあああああ?!?!」
「おい、どうし…ぎゃあああああ?!」
「何だ?!何で後ろにいるお前らが…あ、ああああ!!」
「ひっ…!!なんっ、何だお前!!」
「なっ何か用かよ?!」
「なんか用かだとテメェら。人の大事な仲間を泣かせておいて何の用だって聞くか普通?」
「兄さん、こういう奴らはダメだよ、性根が腐ってる。痛い目を見させてやらないと」
「ぼくもね、つよいよ」
「てめー!!えりちゃんとのぞみちゃんを泣かせやがって!!キ◯玉潰してやる!!」
「つぶしてやるー!!」
滞嶺、創一郎くん。
そして、その弟くんたち。
片手で大量の食材が入った大量のビニール袋を持ちながら、片手でガラの悪い人の頭を掴んで吊り上げるその姿は…何だか頼もしいとかそういうのやなくて、もうなんだか呆れる光景やね。
「ふへへ…来てくれると信じてたぜ、滞嶺君よ。何か…味方だと異様に頼もしいな」
「…すみませんでした。あなたのこと誤解していた。こんな場面だったらきっと真っ先に逃げるタイプだと思っていました。希を、絵里を、守ってくれてありがとうございます」
「げほっ、いやー、急に敬語使うんじゃねーよ。気持ち悪いな」
「やっぱ後で殺す」
「既に瀕死なんですがそれは」
「知るか」
「デスヨネー」
天童さんはふらつきつつも笑顔で創ちゃんと会話していた。いつもみたいにふざけた調子で…ちょっと安心した。
そしてそこから先は早かった。
創ちゃんが強いのはわかってたけど、弟の銀二郎くんと迅三郎くんも本当に喧嘩に強かった。銀二郎くんはものすごく鋭いパンチで一撃でガラの悪い男の人を悶絶させ、迅三郎くんは殴りかかってきた人を何だかよくわからない動きで真後ろに放り投げていた。後で聞いたら、銀二郎くんはボクシングを、迅三郎くんは太極拳をやっているんやって。すごいなぁ。
「よし、後は俺を置いてお前ら帰れ。警察が来る前に」
「え…何でですか?!」
「何でって君ら、こんな大仰な喧嘩した後だぜ?事情聴取とか非常に面倒くさいぞ。μ's関係者の君らはそれで練習に支障をきたしたら嫌だろ」
「まあ…それはそうだが」
「はいはい帰れ帰れ。何のために大地呼んだと思ってんだ。頼んだぞ、安全に帰してやってくれ」
「このためだったのか?!」
「いやまあこうなってほしくはなかったけどよ…保険としてな…」
大した事でもないかのように、自分が人柱になると言う天童さん。そんなの、守ってくれたのに後始末までやらせるなんて…。
「でも天童さん怪我してるじゃないですか!!」
「まあそうだけども。それ関係ないだろ」
「手当てしないと…!」
「いーよ別に。見た目はアレだけどさほどキツい怪我じゃないからな」
確かに、唇が切れて血が出てたり殴られた頬が腫れたりしてるけど…痣になってたり、折れてたりしている様子はない。
でも、確実に怪我はしてる。
「だから君らはさっさと
「やだ」
帰っ…はい?」
うちはポーチからガーゼと消毒液と絆創膏を取り出しながら天童さんに近寄る。
助けてくれたのに、何もできないなんて嫌だよ。
「じっとしててください」
「希さんや、俺の話聞いてました?見た目より大した
「じっとしててください」
あっはい」
未だに大したことないって言い張る天童さんに、ちょっと腹が立った。
程度の大小はあっても、怪我したことに変わりはない。
ましてや、私たちを守って怪我してくれていたのだ。
感謝しないわけにはいかないじゃない。
「…何でナチュラルに治療しようとしてらっしゃるのお嬢さん」
「静かにしててください」
「ねぇ金髪のおねいさん、君のご友人を止めてくださらない?」
「希の言う通りにしててください」
「うぃっす」
えりちもうちに賛成してくれて、天童さんはそれ以上口を開かなかった。御影さんが小声で「すげー…」とだけ言っているのが聞こえた。
「弟達は帰らせたぞ。5対1なら俺1人で勝てたとして問題ないしな」
「何でお前は帰らねーんだよばーかちくしょう!!」
「俺だってあんた1人に責任を背負わせるのは気分が悪い」
「聞いた以上にお人好しだなお前…!」
創ちゃんも残ってくれたみたい。弟くん達はしっかり守りながら、自分はちゃんと責任を全うする…やっぱり真面目で優しい人やね。
完全に脱力しきっている天童さんは消毒している間も顔色ひとつ変えなかったけど、消毒する瞬間だけ体が強張っているのはうちにはバレバレや。やっぱり痛いんやないか。
ちょっといたずらしたくなってきた。
「ったくお前ら、警察の事情聴取って結構キツいってえええええ!!!のっ希てめぇっ!!消毒液マシマシのガーゼで患部をぶっ叩くのは消毒とは言わねえよバカヤロウ!!」
「えー大したことない怪我って言ってたやーん」
「今のはかすり傷でも痛むわ!!」
「おい何気軽に希を呼び捨てにしてやがんだ」
「お前も呼び捨てじゃねーか何でキレるんだー?!」
意外なところに飛び火しちゃった。
でも…面白いし、ええやん?
事情聴取は想定より遥かに早く終わった。バカなやつらが俺や滞嶺君が悪くないと一貫して主張してくれたおかげだろうが、また余計なことに労力を使ってくれたもんだ。
「…なあ天童」
「どうしたよ大地」
そんな事情聴取からの帰り道、大地と2人で歩いている時に大地が真剣な声で話しかけてきた。
「
「さあ?何のことかなー」
「誤魔化すな!!君ならあんな奴らの動き、読めて当然だっただろ!!絵里ちゃんと希ちゃんを怖い目に遭わせて、それが君のハッピーエンドに何の関係があるんだよ!!」
こいつもこいつで珍しく本気で怒っていた。
まあ、避けられるなら避けたかったんだろう。わかるわ。
「買いかぶるなよ」
だが、謂れのない糾弾はやめていただきたい。
「俺だって避けられるなら避けたかったさ。
「…なんだって?」
「初めてだぜ。ああ、初めてだ。
本当の本当に予想外だったのだ。
これでも俺は自分の才能を過不足なく発揮して、1の情報から100を理解し、10000の未来を予測するような膨大な予測をずっとやってきた。一番起こりうる未来は必ず起きたし、変えようと思えば未来を変えることもできた。
今日、俺の予測では神田明神に知り合いは来なかったはずなんだ。
東條希は絢瀬絵里と出かけて不在のはずだった、いや、実際不在だったんだ。
「…チンピラを避けられなかったのはわかった。おそらく時間を調整して、滞嶺君が通りかかる時間に喧嘩してくれたんだろ。それなら天童はいつも通りだった。ごめん」
「そういうことよ。俺だっていつでもどこでも万能じゃないんだぜー?」
「…何で、助けが来るのがわかってたのに喧嘩したんだ?」
「…は?」
「天童、君は一通りの武道を習得しているけど、それを振るうのは嫌ってたじゃないか。わざわざ君が手を出さなくたって、口論で時間稼ぎだって君ならできただろ?…なんで手を出したんだ」
「本当は、その予定だったんだよ」
「…え?」
「口先で適当に誤魔化して、奴らがちょうど希ちゃんか絵里ちゃんの腕を掴んだタイミングで滞嶺君が通りかかる予定だった。そうするつもりだった。…だったのに、やつらが希ちゃんに手を伸ばしたのを見たら、なんか…シナリオなんか頭から抜けちまって、とにかく腹が立って、許せねえって思っちまって…気がついたらぶん投げてた」
余計面倒になるのは明白だったのに。
あんな奴らの汚い手があの子に触れると思ったら、我慢なんてできなかった。
「…やっぱ、台本通りに動くのって簡単じゃねーんだな…」
俺は何を思って、あんな行動に出たのか。
俺のことなのに、読めないなんて…ほんとにバカらしい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
突然やってくるシリアスムーブ、そしてブチ切れ天童さん。若干影薄い御影さん。弟達まで強い滞嶺兄弟。ますます天童さんが何なのかわからなくなりますね!多分いい人ですよ!多分!!
しかしブチ切れると言動が汚くなります。めっちゃ罵倒してます。怖いよ天童さん!!