笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
絵里ちゃん誕生日おめでとう!!かしこいかわいいエリーチカ!!かしこいかわいいエリーチカ!!!かしk
さて、絵里ちゃん誕生祭特別話なのですが、そもそもまだ絵里ちゃんが誰とくっつくかいまいち不明瞭だとは思います。ですがこのお話でフライング公開です!
時間軸は一年後となります。その間にこの2人に何があったのか…想像してみるのも面白いかもしれません。
というわけで、どうぞご覧ください。
絵里ちゃん誕生祭:必ず祝ってみせるから
今日から1週間後には、元μ'sの絢瀬絵里ちゃんの誕生日だ。
俳優という仕事で忙しい身ではあるところだけど、何とかしてプレゼントを渡したいね。それもできれば隠密に。
プライベートを目撃されて週刊誌にでも載せられたら絵里ちゃんに申し訳ないからね。
「というわけで、そんなシナリオお願いできないかな?」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜?????」
「…な、何だよ」
そう思って、喫茶店で天童にお願いしにきたんだけど…なんだかものすごく不服そうな顔をされてしまった。
「お前…いやお前それはダメだろ…」
「い、いいじゃないか。僕だって女の子にプレゼントを渡したくなることだってある!天童だって希ちゃんにプレゼントするだろ?!」
「希を引き合いに出すな。あと論点はそこじゃねーわバカ」
不服そうなだけじゃなくてなんだか不機嫌だ。いや希ちゃんを話題にするといつも不機嫌になるんだけどさ。自分からは凄い勢いで喋るくせに。相変わらず独占欲が強いなぁ。
「じゃあ一体何なんだよ…」
「それがわからねーのにプレゼントとか1億年はえーわ。もしくは平均依頼料に2桁足して金出せ」
「法外な値段じゃないか!」
「そういうレベルの話をしてんだよ!」
猛烈に憤慨しながらコーヒーを一気飲みした天童は、そのまま伝票を持ってレジまで行ってしまう。
「え、ちょっと待って!もう帰るのか?!話はまだ始まったばかりじゃないか!」
「うっせバーカお前に話すことなんざ俺にはねーんだよ!!ダクソして寝ろ!!」
そう言ってすごい顔をしながらさっさとお金を払って出て行ってしまった。変装しているとはいえ、あんまり目立つわけにもいかないから僕もすぐに退散しなければ。
「えーっと、僕はいくらだっけ…」
「あ、お代はさっきの方が既に払っていますよ」
「えっ」
急いで扉の外を見たけど、天童の姿は既に無かった。勢いで奢られてしまって、なんだかこれ以上拘泥するのも申し訳なくなってしまった。
狙ってやってるんだろうけど。
「それにしても、天童が怒るなんて珍しいな…そんなに悪い提案だったかな?」
ああ見えて天童はかなり温厚な性格だ。希ちゃん絡みのときはともかく、僕個人の依頼にキレたことは今まで一度もない。逆に言えば、それだけ良くない話をしてしまったことになる。
…何がそんなに癇に障ったんだろう?
「えりち、どうかした?」
「…え?ううん、何でもないわ」
「何でもないときは『何でもないわ』なんて言わへんよ」
「希、最近怖いくらい心読んでくるわね…」
大学の講義が終わって希と帰る道すがら、希に心配された。大したことではないのだけど、顔に出てたのかしら。
「…大したことじゃないわ。大丈夫」
「そう?それならええんやけど…」
「ふはははは麗しき知人女性2人組と偶然遭遇してしまったな!!あーこれは帰り道『危ないから…送っていくぜ☆』フラグだな!!いやー参ったなー天童さんにピッタリのハーレムイベントじゃねーかヤッター!!」
「天童さんうるさい」
「容赦ねぇなオイ」
またいつの間にか天童さんが隣を歩いていた。この人、希と居るとすごい確率で会うわね…天童さんと希は付き合ってるから当然かもしれないけど。
そして希はすっかり慣れてるわね。
「あんまり希のお尻を追いかけてるとストーカーと思われますよ?」
「ちちちちちちちちゃうわい!!お尻なんて追いかけてないわい!!」
「比喩やで」
「知っとるわ」
一瞬うろたえたかと思ったら、すぐ真顔に戻った。多分演技でやってるのよね。いつまで経っても謎な人ね…。
「まあ絵里ちゃんは心配なことがあるみたいだが、さほど心配はいらんとだけ言っておこう」
「なになに、天童さん何か知ってるん?」
「そりゃ天童さんは全知全能の存在だからな!」
「へー」
「雑なリアクションやめようか」
「心配いらないって…どういうことですか?」
「そのまんまの意味だよ。
「はあ…」
ここで「あいつ」って言うあたり、本当にお見通しらしいわね。本当に全知全能なんじゃないかしら。
「あっ、うちもわかったかも」
「流石にわかるわよね…」
「あいつって言っちゃったからな!」
「わざと言ったんでしょ?」
「さあ何のことかなー」
この時期、誰かが関わることとなると随分条件は限られるものね。
そう。
私は御影さんがプレゼントとかくれないかしら、なんて期待をしてしまっているの。
「しかし何でそんな期待を寄せるのかねー。そんなに深い接点あったか?俺が知らないだけか?」
「…どうせ知ってるんじゃないですか?」
「こらこら、俺が何でもかんでも知ってると思うなよ?天童さんにだって知らないことはあるのさ」
「全知全能なんやなかったん?」
「せやったわ、俺全知全能なんだったわ。知りたいことを何でも教えよう…」
「じゃあうちのことどれくらい好き?」
「………………………………………………………………………………………………………………ちょっとタンマ」
「…そこは言ってあげるんじゃないんですか?」
「色々無理があると思うんですけど?希はにやにやするんじゃねぇ」
「えー、タンマって言うから待ってるんよ?」
「律儀〜」
律儀っていうのかしら。
「まあ原因は知らねーけど、さほど心配はいらないさ。どうしても心配なら当日音ノ木坂の前で待ってるといい」
「音ノ木坂の前で…?」
「天童さーん?答えまだー?」
「何なんだよお前はさあ!!そういう子だったか?!」
…天童さんといる時の希はいたずらっ子みたいね。
「…えーっと、何で音ノ木坂の前なんですか?」
「ん?そりゃあ君らが会うとしたらそこしかないだろ。とりあえず希を何とかしてくれ親友さんよ」
「天童さん顔赤ーい」
「うるせえ」
「うふふ…」
「こらロシアンガール笑ってる場合とちゃうねん」
天童さんに甘える希を見ていたらなんだか微笑ましくなっちゃったわ。
希がこれだけ心を開く人の助言なのだし、信用していいのかもしれないわね。
本来、彼は本業で忙しいはずだ。俳優という役柄上、撮影のために国内外問わず飛び回るのが常だろう。特に彼、御影大地は特番のMCやバラエティ番組のレギュラーなんかも務める極めて多忙な身であるはずだ。
「…………うーん、やっぱりこれがいいかなぁ…」
「…それ以前にあなたこんなところにいていいんですか」
「うん、次の収録にはここを15分後に出れば間に合うから」
「前回もそう言って数分で出て行きましたが?」
「正直時間がないからね…実際に実行するかどうかは置いといて、モノは選ばなきゃ。雪村くんはどれがいいと思う?」
「はぁ」
それがどうしてこんなところにいるのか。
どこって、ジュエリーショップだ。最近は俺も金属加工を始め、指輪なんかもオーダーに合わせて取り扱っている。その納品に来たのだが、帰ろうと思ったら見知った有名人がいるのを見かけてしまった。ちなみに昨日もいた。
というか、宝飾品を渡すのなら相当大切な人を想定しているだろうに、「どれがいいと思う?」なんて聞くんじゃない。自分で決めていただきたい。
「誰に何を渡すおつもりかわかりませんが、恋人でもない限り指輪は重いんじゃないですか」
「むう…君はことりちゃんに指輪あげたりしないの?」
「…俺とことりは恋人ですから」
「だよねぇ…」
贈り物を選ぶのに相当難儀しているらしく、見るからにがっくり肩を落とす御影大地。日付と物品からして、絢瀬絵里への誕生日プレゼントなのだろう…とは予想はできるが口には出さないでおく。茜や蓮慈や水橋のように関わりが深いわけではないため、リアクションが予想できない。
要するに下手なことは言えない。
「おっと、そろそろ行かなきゃ。じゃあね、雪村くん」
「…どうも」
本当に10分ほどで退散してしまった。寸暇を惜しんでまで探すことだろうか。やはり自分が「良い」と思ったものを渡すのが一番だと思うが。
まあ、御影大地のことはどうでもいいか。そう思って店を後にする。
「へいへーいそこのボーイちょっと止まりな!あっちょっと無視はやめようぜ天童さんの豆腐メンタルが崩れちゃうょ…」
「…どの口が言いますか」
…1番胡散臭い人に捕まった。
いや、この人のことだからわかってて待ち伏せしていたな。
「まあまあ、ちょっとした頼みごとだよ。我が友人が現状だと色々失敗しそうだからな、ちょっと手伝ってくれよ」
「お断りします」
「何でさあ?!真姫ちゃんみたいなこと言いやがって!!」
「…西木野真姫が何だと言うんです」
「ネタが通じない!」
相変わらず話の内容が掴めない。
「まあいいか。とにかく、大地が絵里ちゃんの誕プレを探してるのは知ってるだろ?あいつほっとくとプレゼントすら決められない、決められたとしても渡せないからな。ちょっとくらいお膳立てしてやろうかなって」
「またシナリオライターやるんですか…」
「違うわい。あれけっこう大変なんだぞ。それに、シナリオを立てたらあいつは確実に『役』に入る。それだとあいつ自身の行動はできないし、偽った自分でプレゼント渡すってのも失礼だろ?そういうのは自分の言葉で、だぜ」
「はぁ」
別に放っておけばいいだろうに、何故この人はお節介せずにはいられないのだろう。しかも去年より悪化している気がする。
「まあ大したことをやるわけじゃないさ。あくまで噂話をするだけだしな。プレゼントについては…誰に頼もうか…」
「あなたがやればいいじゃないですか」
「いや俺は色々勘ぐられるからダメなんだよな。君でもいいが、今後大地と会う機会はなさそうなんだよな…」
意外と自分が胡散臭いという自覚はあるんだな。
「…何でもいいですけど、俺には何をして欲しいんです」
「ああ、それは簡単だぜ」
そう言って俺の役割を伝える天童一位。何というか…そういう手を使うのか、って感じだ。
余計胡散臭くなる。
「毎度思うんですけど、それ本当にうまくいくんですか」
「うまく行かせるのさ。それが俺のお仕事」
「具体性のカケラもないですね」
「言わねーだけで策はありますぅー。舐めんなよこんにゃろー」
「何なんですあんた」
「心底鬱陶しそうな顔はやめなさい」
実際鬱陶しい。
今日のお仕事終わりに、いつも通りプレゼントの物色…を、誕生日2日前までやってるのもなんだか先行き怪しいんだけど、まあそれをしている時だ。
「おー、御影さんだ。お久しぶりです、そしてお疲れ様です」
「…何してんすかこんなところで」
「うわぁ?!波浜くんと水橋くんか!びっくりした…」
「何にそんなにビビったんすか」
「これでも変装して隠密行動してるんだからね?急に名前呼ばれたらびっくりするよ…騒ぎになると嫌だからさ」
「大変ですねえ」
突然後ろから声をかけられた。誰かと思えば作曲家の水橋桜くんとグラフィックデザイナーの波浜茜くん。変装していたのにバレたのにはびっくりだけど、個人的な知り合いでよかった。
「ところで、君たちは一体どうしたんだい。お仕事?」
「そうですよ。僕と桜と天童さんで打ち合わせしてたところです」
「今度A-phyグループで舞台の監修をするんで、その打ち合わせっすね。天童さんはこの後フランス行くとか言って打ち合わせ終わり次第成田に直行しましたけど」
「あいつもスケジュールきっついなぁ…」
知ってはいるけど、天童も海外のあちこちからひっぱりだこだからかなり多忙だ。この前会ったのにもう海外に行くとはね。…っていうか、つまりしばらくはあいつに脚本頼めないってことか。困ったなあ。
「そんで、あなたは何してんですか。ここ陶芸品の店っすよ」
「絵里ちゃんの誕生日に伝統工芸品でもあげようとしてるんでしょ」
「うっ…さ、さぁね…?」
「誤魔化すにしてももうちょいありません?」
「アドリブ苦手って言ってたじゃん。つまり不意打ちに弱いんだよ御影さんは」
「か、勘弁してくれ…」
何故だか速攻で看破されてしまった。天童にされるならわかるけど、波浜くんに見破られるとは…そんなにわかりやすかったかな?
「何でわかったんだい…」
「そりゃ絵里ちゃんの誕生日近いですし」
「うん…それで?」
「え?」
「え?」
「そんだけ?」
「そんだけですよ?」
「…絵里ちゃんの誕生日と僕、関係なくない?」
「えっどう考えても絵里ちゃんにプレゼント渡すと思ってたんですけど」
「それは俺も同感っすね」
「な、何でそうなる…?」
脈絡がなさすぎる…まぐれあたりみたいなものじゃないか。
と、思ってたけど。
「だって絵里ちゃん自身が御影さんからの誕生日プレゼント楽しみにしてたしねぇ」
「もらえるかどうかわからないプレゼントに一喜一憂する心理がわからねーがな」
…何て言った?
「………え、な、何て?」
「だから絵里ちゃんが楽しみにしてたらしいって。僕はにこちゃんに聞きましたよ」
「俺は穂乃果から聞きました。あいつ何でもかんでも喋るんで」
「あー…君たち、そういえばμ'sの子たちの恋人だったね…」
「俺は穂乃果とは付き合ってません」
「え?」
「不思議でしょ?付き合ってないんですよ彼ら」
「何が不思議なんだ」
まさか…いや、そんなまさか。絵里ちゃんが僕からのプレゼントを期待してるなんて…まさかね。
あと穂乃果ちゃんと水橋くんが付き合ってないのもびっくりだ。
「っていうか前ゆっきーもそんなこと言ってたしね」
「雪村か?俺は松下さんから聞いたぞ。松下さんは藤牧から聞いたと」
「創一郎も当然知ってるだろうし、天童さんが知らないわけないね。照真君はどうなんだろう」
「藤牧とか滞嶺が知ってんだからあいつも知ってんだろ。いっそ何らかの手段で盗聴している可能性もある」
「流石にそれは無いんじゃない」
「け、結構みんな知ってるんだね…?」
「誰が言い出したのか知らねーっすけどね」
「どうせ天童さんじゃないの」
「最近あの人忙しいだろ。暇ないんじゃねーか?」
「天童さんのことだし分身してるかもしれないよ」
「忍者かよ」
僕の友人たちの間では有名な話だったらしい。そんなに言いふらしてるの彼女。いや、天童が流布したとか全然あり得る。
「まあ何にしても、絵里ちゃんが陶器貰って喜ぶと思います?」
「……えーっと、それがわからないから困ってて…」
「絢瀬絵里っていう『役』に入ればいいんじゃねーんですか?」
「それは…できるけど、なんか反則な気がして…」
「できるっちゃできるんですね」
「そこは真面目なんすね」
そう、僕は会ったことのある人になら演技することができる。台本が無い時は「見たことある仕草」しか真似できないけど、その間はその人が考えていることもトレースできる。俳優として、役者として申し分のない才能だと思う。
でも、今それを利用するのはダメな気がする。
「それもうやってるもんだと思いましたよ。天童さんも『大事なプレゼントを渡すシナリオなんか人に頼みやがって』ってキレてましたし」
「ゆっきーもそういうプレゼントは自分で選ぶべきだって呆れてましたねー」
「えっ?」
天童がキレてたのは知ってるけど、雪村くんも呆れてたの?そんな呆れられることをしたつもりはないんだけど…。
「えっ、てあんた…じゃあ何であんたは役に入ろうと思わないんです」
「え?それは…だから反則な気がするから…」
「じゃあプレゼントの渡し方を天童さんに決めてもらうのは反則じゃないんすか。絶対成功するってわかるじゃないっすか」
「………た、たしかに…」
「プレゼントも誰かに聞くものじゃないですよ。何なら喜んでくれるかわからないから、自分が想像できる1番を選ぶしかないんです。僕も…フフっ…桜も…そうしたんですし…」
「てめーまだそのことで笑いやがるのか」
「…何があったんだい」
「いや…こいつ、散々プレゼントなんて渡さないとか言ってたくせに…ふふっ…なかなかお洒落なネックレスあげてたんで…ブフッ」
「言うんじゃねー!!」
「あふん」
「大好きじゃん…」
「違いますって!!!」
水橋くんの面白エピソードはともかく。
確かに、彼らの言う通りだ。天童なら間違いなく失敗しないシナリオを作れる。ファッションの天才である雪村くんなら絶対に間違わないアクセサリーを選べる。
でも、そんな裏技を使うのも、反則なのかもしれない。
自分の本心は伝わらないのかもしれない。
ああ、だから天童は怒ってたのか。「そういうのは自力でやれ」って。
「…君たちの言う通りだ。僕は、僕自身で選ばなきゃいけない」
「そういうことっすよ。さあ、プレゼントは陶芸でいいんすか」
「よくない。僕の好みでよければ、もう決めてある」
「じゃあ早く行ってください。時間ないんすよね」
「うん、ありがとう」
「あぶふう」
「…波浜くんは大丈夫?」
「この程度なら大丈夫っすよ」
「あうあう」
実際、時間はない。今日も明日ももう買えないかもしれない。
でもやらなければ。どれだけ無茶をしてでも、必ず僕が渡したいものを渡さなきゃ。
「…そういえば、なんで君たちはここに?陶芸品欲しいの?」
「そうっすよ?それ以外になんでここに来るんです」
「僕らってジャンルは違えど芸術家ですから。こういった自分の専門外の芸術…伝統工芸とか、結構好きなんですよ」
「松下先生が割といい服着てるのもその一環でしょうし。…そんなこと気にしている場合じゃないでしょう?時間無いんじゃなかったんすか」
「…うん、そうだね。ありがとう」
2人は天童の差し金なんじゃないかって思ってたけど、どうやらそうではないらしい。事実、そろそろタクシーを捕まえて移動しなければならない。
陶芸品店を飛び出してタクシーを拾い、目的地を告げる。
明日なら、少し時間があるはずだ、その間にプレゼントを買おう。それなら明後日に間に合うはずだ。
「ったく、天童さんも妙なことに人を使いやがって…」
「まあいいじゃん、報酬にハーゲンダッツくれるらしいし。っていうか僕はほんとに陶芸品欲しいしね。あっこの皿いいね」
「俺も別に嫌いじゃねーから余計腹立つんだよな…」
今日は、10月21日。
絵里ちゃんの誕生日。
午後10時。
「…っはあ、はあっ!くっそ、こんな、こんな時に…!!」
僕は秋葉原の街を走り回っていた。
本来ならもっと早く、6時くらいに撮影が終わる予定だった。ところが、機材の不足や演出の変更などによってかなり時間が食われてしまい、結局終わったのが1時間前。大丈夫、プレゼントは昨日買った。だけど変装する暇もない。色々な後始末をしてからタクシーを拾って急いで秋葉原まで来たのが15分前。
最大の難点は。
絵里ちゃんに会う手段がないこと。
(くっ…時間通りに終わっていれば、大学帰りを捕まえるって希望は見えたのに!っていうか何で僕は彼女の連絡先すら知らないんだ?!交換する暇はいくらでもあっただろ!!)
そもそも連絡先すら知らないで会おうとしていたことに不自然さを感じなかったのが不思議だ。何を考えてるんだ僕は。
どこに行けばいいかなんて検討もつかない。そもそもこんな時間に出歩いてるかどうかすらわからない。家がどこにあるかなんて知らない。
っていうかこんな時間に会えたとしても迷惑じゃないだろうか。
いや…まさかここまで来て諦めるなんて!!
「できるわけ…ないな!!」
もう一度走り出す。アテなんてないけど、行くしかない。止まっている場合じゃない。せめて、今日中に渡したい。今年の誕生日は今日しか無いんだ!
(でも、闇雲に走り回ったって…ただ疲れるだけだ。何か、何かないか?!)
走りながら考える。絵里ちゃんの家の手がかりは?まるで無いな。今居そうな場所は?神田明神なんかどうだろう。いや、流石に夜更けに行く用はないだろ。
全く思いつかない。
それでも何か、縁のある場所を巡るしかない。
だから、まずここに来たんだ。
「………はぁ、はぁっ…ま、まさか、本当に…」
「………み、御影、さん…」
音ノ木坂学院の、正門。
こんな時間に、絵里ちゃんはいた。
「…な、何で…いや、ここに探しに来た、僕が言うことじゃ、無いかもしれないけど…」
「天童さんがここにいなさいって、言ってたんです。…でも、言われなくてもここで待ってるつもりでした」
「な、何で…僕は、君に何も言っていない、はず…」
「うふふ…もちろんです。だって連絡先も知りませんから御影さんが来るかどうかなんてわかるわけないですよ?」
居てくれたのは嬉しい、会えて嬉しい、でも何で居るのかはさっぱりわからない。天童の策が絡んでるとしても、なんの根拠もなくこんな場所にいるような子じゃない。
「でも、ここにいたら御影さんが来てくれるような…そんな気がしたんです」
「…………ふっ…何それ」
「ふふっ何でしょう?」
…………まさか、根拠もなく待ってたのか。
この時期、もう夜は寒いんだぞ。
「…嬉しいなあ」
「え?」
「うん、嬉しいな。役者の僕じゃなくて、僕自身を待っててくれたんだ」
「…はい。あなたは、あなたですから」
本当に。
この子に会えてよかった。
この子を好きになれてよかった。
「えーっと…要件は多分わかってると思うけど」
「はい」
「うっ…把握されてると緊張するな…」
「もうっ本当に俳優なんですか?」
「い、いや…素の僕はこんなんなんだってば…!」
笑われてしまったけど、それも素の僕を知っているからできること。
だから僕も、偽らないで伝えなきゃね。
「絵里ちゃん」
「はい!」
「誕生日、おめでとう」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
はい、書きかけではありません。これでおしまいです。途中経過もご想像にお任せするなら最後もお任せするスタイル。なんという外道!!実際何をプレゼントしたかは本編が一年進んだらきっと出てきます。忘れそう()