笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

凛ちゃん誕生日おめでとう!!いつも元気な凛ちゃんのためのお話を用意しました。もちろん滞嶺君とのお話です。
時系列は本編の2年後となります。つまり凛ちゃん達が3年生の時のお話です!
10,000字超えの長いお話なので時間のある時にどうぞ。


というわけで、どうぞご覧ください。




凛誕生祭:ファーストデート・プロジェクト

 

 

 

 

11月1日。

 

 

それは、凛の誕生日だ。

 

 

「だから満を持してデートに誘おうと思う」

「満を持してって君」

「まさかまだ一回もデートしてないの?!」

「…こいつ聖職者か何かか?」

「逆にすごいね…」

 

 

凛の誕生日を祝うべく、よくデートしてそうな茜&にこペアとことり&雪村さんペアにデートプランの相談をしに来たのだが…何か問題があっただろうか。

 

 

「そもそもまだ付き合ってないんだっけ」

「凛はスクールアイドルだろうが」

「アイドルに恋愛は御法度なのよ!!」

「にこちゃんが言うと説得力溢れるね」

「…茜も矢澤が卒業するまで意地でも手を出さなかったな」

「逆にゆっきーは迷いなくことりちゃんに手を出したね」

「アイドルのルールなんて知らないからな」

「ご、ごめんなさい…」

 

 

アイドルは恋愛NG、それはスクールアイドルでも同じだと考えている。ことりが雪村さんと交際し始めたと知った時はそれはもうにこと花陽が大暴走だったが、今はもう許容している…が、やはり個人的な主義の問題で卒業までは我慢したい。

 

 

「まあそれはいいとして、デートに誘うんだっけ」

「デートは心の赴くままに、というわけにもいかないしな」

「プレゼントとは違う配慮をしなきゃいけないもんね…」

「私と茜は以心伝心だからいいけど…」

「もうにこちゃん大好きんげっ」

「言うな!!」

「愛の囁きは一方通行なのですか」

 

 

相変わらずにこに蹴り飛ばされている茜は放っておいて、確かにデートとプレゼントは全くの別物だ。デートはデートの間全てが思い出として残るものだ。完璧なプランは無くとも最低限の計画が必要となる上に、デートに飽きさせない不断の努力が不可欠だ。

 

 

正直難易度が高い。

 

 

「まずは…不測の事態は起きるものとして考えるべきだな。何が起きても動じないことだ…うろたえていても事態は進まないからな」

「この前一緒にお買い物行ったときは財布を忘れてすごくうろたえてたけど…」

「…言うな」

「えっなになにその超面白そうな話」

「茜もカップルドリンクにうろたえてたじゃないの」

「あれに動じるなという方が無理だよ。にこちゃんもテンパってたじゃん」

 

 

…とりあえず何が起きても動じないようにしなければな。

 

 

「っていうか、そもそもどこに行くつもりなのよ。デートスポットにもいろいろあるでしょ?」

「遊園地とか動物園とかがメジャーだとは思うけど、場所は最初に決めておかないとね」

「…相手の興味にも配慮しておくべきだろう。行ったはいいがつまらない、というのは避けたいだろうしな」

「あんまり遠いところも、行くだけで疲れちゃうからオススメしにくいかも…」

「待て、情報が多すぎる」

「そうかなあ」

「誰もがお前と同じように覚えていられると思うなよ」

「そう言われましても」

 

 

色々意見をくれるのは本当にありがたいんだが、各々があれこれ言うと情報の整理が追いつかん。もう少し議論のスピードを落としてくれ。俺は茜や藤牧さんほど有能じゃねぇんだよ。

 

 

「じゃあまず場所を考えようか。定番は遊園地だけど」

「ハロウィンの翌日だから混んではいないと思うけど、逆に何のイベントもやってないわよね」

「そうなるとイベント重視だとちょっと寂しいね」

「アトラクション重視であればむしろスムーズなわけだ。待ち時間が短くなるからな」

「お買い物もゆっくりできるよねー」

「イベントグッズ系は全く無いだろうがな」

「そうか…ハロウィンの翌日か。そうなると大抵の場所は空いているのか?」

「どうだろうね。大半の施設はハロウィンイベントはハロウィン当日までの開催だと思うけど」

「七夕、ハロウィン、クリスマスは当日までの開催だろうな。終わった行事を祝うわけにもいかないんだろ」

「ふむ…」

 

 

となると、テーマパーク系は混雑は避けられることになるのだろう。だが、言ってしまえば閑散期だ。盛り上がりに欠ける可能性も大いにある。

 

 

「あとは動物園とか水族館かな?」

「それも定番よね」

「…俺は動物園は獣臭いし水族館は高低差が強いしであまり好きではないんだがな」

「ご、ごめん…」

「いや、ことりが行きたいなら気にしないが」

「…凛はどちらも気にしなさそうだな」

「だろうね」

 

 

凛が動物好きなのは間違いない。動物園にしても水族館にしても、楽しんでくれることだろう。

 

 

「…意外と気づかないんだが、動物園や水族館の飼育生物は夜行性のものもいる。まともに動いているのが見られないものも少なくないな」

「ああ、それあるよね。水族館はまだマシかなって思うけど」

「この季節だと寒くて出てこない子もいるよね…」

「…難しいな」

「難易度高いのは承知の上じゃなかったの」

 

 

承知はしていたが、思った以上に大変だ。俺にリードが務まるのだろうか。

 

 

「海は季節外れだね。山なんかどうかな」

「山は合宿で毎度行くだろ。あと凛が嫌がる」

「あー…海未ちゃんの…」

「そういえばそんなことあったね」

 

 

山は凛が合宿の時に謎の山登りをさせられたせいであまり気乗りしないらしい。トラウマにでもなったのか。

 

 

紅葉を見るにはそろそろいい季節だろうが…凛のテンション的に楽しんでくれるかわからんな。飽きないだろうか。

 

 

「街歩きとかショッピングという手もあるけどね」

「それこそ日常の外にあるものを探さねばならないから難しいだろう」

「そうかなあ。にこちゃんと一緒ならいつでもどこでも楽し痛い痛い痛い」

「ほんっとにそういうとこ…!」

 

 

せっかくの誕生日だ、日常生活に近いものは特別感が感じられないから避けたいところだ。痛めつけられている茜は無視する。

 

 

結局どこにするにしても一筋縄ではいかないということだろう。メリットの分だけデメリットがある…そう都合のいい話はないということだろう。

 

 

そして、さらに問題があるとすれば。

 

 

「…ただ、俺はそういった類の場所に一度も行ったことねぇんだよな…」

「よくそれでデート誘おうと思ったね」

「しょうがないんじゃないの?両親も遊んでくれるような人でもなかったんでしょ」

「理由が何であろうと、現状は変わらねぇ。エスコートできねぇのはデートに誘う側としてどうなんだ?」

「ほんとによくそれでデート誘おうと思ったね」

「茜は黙ってなさい」

「あぼん」

 

 

両親は俺たちの世話をする気なんて毛ほども見られなかったため、どこかへ連れて行っていってもらったこともない。あるわけない。

 

 

「…それでもデートに誘おうと言うなら、下調べは怠らないように。待ち時間やトラブルなんかは予測できないが、マップくらいなら覚えておいて損はないだろ」

「遊園地のショーだったり、水族館のイルカさんのショーだったり、時間が決まってるものも調べておくと予定が立てやすいんじゃないかな!」

「休憩できる場所もマークしておくと安心だろう。意外と見つからないからな」

「…詳しいな雪村さん」

「…そんなことは

「ゆっきーはお仕事を一瞬でやっちゃうから基本暇で、その分ことりちゃんと会いまくってるからぶぇあ」

「何を話している」

「だからって布投げなくてもいいじゃん。てか布投げていいの」

「使い古しだ」

「わざわざ使い古しを選んでたから投げるの遅かったのか…って汚いなこれ」

「そりゃ使い古しだからな」

「何の使い古しさ。あっこれもしかしなくてもお掃除に使ってるやつだな」

「何てモン投げてんだあんた」

「知らんな」

「ちょっと臭いんだけど」

「知らんな」

 

 

雪村さんの素行はともかく、情報はありがたい。おかげで押さえるべきポイントはおおよそ掴めた。

 

 

「あとはどこにするかだな…」

「まだ決まってなかったのかい」

 

 

そして最初の問題はまだ解決していない。

 

 

結局その後も、4人にはだいぶ長いこと相談に乗ってもらってしまった。今度お礼をしなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうわけでだ。

 

 

 

 

(…何で俺は待ち合わせの1時間も前に来てしまったんだ)

 

 

 

 

朝10時に待ち合わせたのに、9時に着いてしまった。我ながら何してんだ。暇か。時間の管理もできねぇのか。

 

 

朝6時に起きたのはまだいい。日常だ。飯を作って弟たちを叩き起こして飯を食って朝7時なのも日常だ。

 

 

その後たっぷり2時間もかけて準備したのが謎すぎる。準備は前日にしただろ。何に時間かけてんだ。何でわざわざ朝風呂なんか入ったんだ。水道代勿体ねぇだろ。何で服選びに40分もかけたんだ。髪型作るのに30分もかけるな。いつもは出発の準備とか15分で終えるだろ。

 

 

(挙句、準備が終わったら終わったで待っていられなくて出発、服とか髪が乱れないようにわざわざ歩いて、その上で1時間早いとはな…いや歩いて来るのは普通か、走る方がおかしい)

 

 

自分で自分にツッコミが追いつかない。これはもうダメかもしれん。

 

 

(服も問題ないよな…わざわざ雪村さんに相談したしな。髪型も含めて。いやしかし…って今さら考えても仕方ないだろ)

 

 

思考回路が無限ループしている気がする。早く来い凛。いやあと1時間来ないのか…何とかして精神統一をしなければ…

 

 

 

 

 

 

「あっ!創ちゃん!もう来てたんだ!」

「んっ、お、おう…さっき、な…」

 

 

 

 

 

 

もう来たのかよ。

 

 

いや確かに来いと願ったが。

 

 

「わあ…創ちゃんかっこいい…」

「あー…まあ、誘った手前な、緩い格好をするわけにもいかなくてな…」

 

 

褒められただけで妙に動揺してしまった。格好は黒いスラックスに白シャツ、黒のジャケットというスーツスタイル…まあだいたいカジュアルなスーツだ。ジャケットの裾が長めなのがいいらしい。髪型もいつものオールバックではなく、メイド喫茶の時のように崩した髪型にした。雪村さん曰く、「素材がいいならシンプルが一番だ。肉もそうだろう?」らしい。肉と一緒にすんな。

 

 

まあ結果として褒めてもらえたから何だっていい。

 

 

「あー、凛も、あれだ、その…似合ってるぞ」

「ほ、ほんと?!よかった…みんなに相談していっちばんかわいくしようって思ってたんだ!」

「そ、そうか」

 

 

一方の凛は、いつもとは全く違う服装だ。まずそもそもロングスカートだ。淡い水色を基調に、小さな花の模様が入ったロングスカート。上はこれまた淡い色合いの緑のシャツ…シャツ?なんか女性特有の肩が出るタイプのアレに、上から白い…なんかシャツみたいなやつを着ている。緑の方は裾のあたりと胸元にフリルがあしらってある。少し背が高く見えるのはおそらくブーツか何か履いているからだろう。短い髪も花柄の髪留めで前髪を留めてあり、若干ながら化粧もしているようだ。

 

 

いつもと違って少し大人な印象だ。

 

 

思わず天を仰ぐ。

 

 

いやいや。

 

 

これは反則だ。

 

 

凄まじいかわいさだ。

 

 

精神衛生上よろしくないレベルだ。

 

 

「…」

「…」

「…えーっと、ちょっと早いけど、行く?」

「………………そうだな」

「どうしたの創ちゃん」

「何でもねぇ」

 

 

デートなのはいいが、今日一日凛を直視できる自信がない。

 

 

「じゃあ…まずチケットか。俺遊園地なんて初めてなんだよな…」

「そうなの?凛は…あっ、でもここに来るのは凛も初めて!」

「…家族と来たんだろ。遠慮しなくていい。俺もいつか、弟達を連れて来たいもんだ」

「…うん!絶対楽しくなるにゃ!」

 

 

場所は、結局遊園地にした。なんてことはない、ただ一番予定が組みやすかっただけだ。イベント事が無いのは寂しいが、それはそれでいい。

 

 

「じゃあ、行くにゃ!」

「おう」

 

 

何にしても、来てしまったものはもうどうにもならん。

 

 

凛の誕生日を、全力で祝うのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「対象、入園したよ」

「気づかれてないわね?」

「…なあ、何で俺らはこんなことしてんだ?暇か?」

「そんなこと言って桜さんも来てるじゃん!」

「お前らが何かやらかさないか監視に来てんだよ」

「バッカお前、この天童さんが脚本した尾行計画だぜ?何事も起きるわけないだろ」

「むしろ不安しかないんですよね」

「…見失うぞ」

「何で雪村はノリノリなんだよ」

「面白いだろ。何のために普段使わない義足を持ってきたと思っている」

「絶対そんな用途じゃねーだろ。湯川がキレるぞ」

「………そんな用途じゃねーが、キレはしない。好きに使うといい」

「何で湯川もいるんだよ。てかどこだよ」

「どこだと言われてもな、ここだ。光学迷彩で隠れている。花陽もいっしょだ」

「ど、どうしても凛ちゃんが心配で…」

「お人好しかよ」

「僕は変装して紛れてこようかな。絵里ちゃんも来る?」

「はい。希はどうする?」

「うちと天童さんも行くで」

「俺もかよ!」

「…御影さん、お仕事無いんすか」

「わざわざ開けたんだよ。遂に彼らがデートするわけだしね!」

「ええ、こんな純愛、参考として見逃すわけにはいきません!」

「松下さんまで…あんたはまともだと思ってたのに…」

 

 

何だかんだ言って創一郎の知人がこぞって尾行してた。まあ行き先知ってたからね。天童さんもいるしね。行くしかないじゃん。ないじゃん?

 

 

そんなわけで16人体制の創凛コンビ尾行作戦開始である。

 

 

ちなみに翌日くらいには何してんだ僕らって思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはジェットコースター乗るにゃ」

「いきなりか。人気のやつは待ち時間長いがどうする?」

「一回見てみよ!朝だからそんなにかもしれないし!」

「確かにな。とりあえず向かうか」

 

 

初手は決まったため二人でジェットコースターへ向かう。るんるん気分で隣を歩く凛に時折目を奪われつつ、園内地図を思い起こしながら迷わず進む。道中凛が近日の出来事を話してくれたが、よくもまあそんなに話題が出てくるもんだ。

 

 

で、着いたのだが。

 

 

「80分か…多いと見るか少ないと見るか」

「まだ10時前だし、80分待っても平気にゃ」

「そうか?それなら乗るか」

「うん!」

 

 

というわけでさっそく列に並ぶ。周りの人にめっちゃビビられて悲しくなったが、凛はまったく気にしていないようだった。

 

 

「そういえば、この前絵里ちゃんがお誕生日に御影さんにシュシュもらったって言ってたにゃ」

「…シュシュって何だ」

「えっとね、髪を結ぶ時に使うかわいいやつ!!」

「…極めて雑だが何となく想像できた。つーかあの二人そんなに仲良かったのか」

「何かあったらしいけど凛も詳しくは知らないにゃ」

「まあ俺たち変な縁が多いからな…」

「そもそも茜くんが有名人だもんね…」

 

 

思えば大半の縁は茜が繋いできたんだが、音楽家だったりデザイナーだったり医者だったり、やたらと有能な知人が多すぎる。俺の立つ瀬がない。

 

 

「俺も負けてられないな。更に筋トレに気合いを入れなければ」

「えっまだ頑張るの」

「あ?」

 

 

何が不思議なんだ。

 

 

その後もジェットコースターの番が回ってくるまで、凛はずっと喋っていた。本来は俺が話題を振るべきなんだろうが…まあ、凛が楽しそうだしいいか。

 

 

ジェットコースター自体もなかなか楽しめた。この程度の速さは走れば出せるし、この程度の高さなら飛び降りても平気だが、この速さであっちこっち上下左右ぐるぐる回るのはなかなか爽快感があった。凛もわーきゃー言いながら楽しんでいたし、お気に召したのだろう。

 

 

「ふーっ、楽しかったにゃ!」

「それはよかった。…時間は少し早いが、昼飯にするか。混んでくるしな」

「なるほど!それじゃあご飯行こ!凛はラーメン食べたいにゃ」

「だろうな」

 

 

時間は12時前だが、混む前に昼飯を済ませることにした。少し遅めの昼食にしてもよかったんだが、腹が減ったのを我慢するのもあまりよくないだろう。あと、食後に駄弁るやつらが溜まってて席があまり空いていないというのもあり得る。やはり先に食っておくのが吉だ。

 

 

ラーメンの店も押さえてあるし、今のところ滞りなくデートできている。午後も気を抜かず…楽しんでいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何で僕らもジェットコースター並んでんの』

『そ、そりゃ尾行のためでしょ。凛たちはもうさっき乗ったんだし、私たちまで乗る必要はないわよ!出るわよ茜!』

「はっはっはっそんなまさか。他のお客様のご迷惑となりますのでさっさとお乗りくださーい」

『…天童さん、図りましたね?』

『それより穂乃果がノリノリなのを何とかしてくれません?俺はさっさと逃げたいんですけど』

『桜さん!もうすぐだよ!!』

『わかったわかった離れろ』

『な、何で私まで…?!』

『当然、彼らの心境を察するには同じ境遇に身を置かねばなりません!さあ海未さん、乗りますよ!』

 

 

いえーい、こちら尾行部隊の天童さんだぜ。滞嶺君と凛ちゃんが超絶叫系ジェットコースターに突撃して行ったから、自ら飛び込んでいった明と海未ちゃんのお供に茜とにこちゃんと桜と穂乃果ちゃんを生贄に捧げておいたぜ!あ、俺たちは引き続き尾行しまーす。

 

 

『…おい、シャレにならない高さ何だが』

「おー、よーく見えるぜ。希ちゃん何が食いたい?」

「うちはステーキ食べたいなー」

「よっしゃ天童さんが奢ってやるぜ」

「ううん、自分の分くらい自分で出すよ。もう大学生やし」

「なんてしっかりした子なんや…」

『インカム越しにイチャイチャしないでいただけま…うあああああああ?!?!』

『いやあああああああ!!!』

 

 

地上にお留守番組は被害者の絶叫をおかずに昼ごはん食って来よう。

 

 

何でこんなことするかって?

 

 

「いやー楽しいな希ちゃん!次は誰を犠牲にしようか!!」

「お化け屋敷には絶対えりちを連れて行かなきゃ…」

「ふへへノリノリやんけお嬢さん」

「えー天童さんほどじゃないよー」

 

 

我ら悪童カップルだからな。

 

 

 

 

「でも雪村さんとことりちゃんどっか行っちゃったよ?」

「んなもん想定通りだ。後で捕まえる」

 

 

 

 

尾行も楽しくやらなきゃな!!逃すかよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラーメン美味しかったにゃ!」

「それはよかった」

 

 

昼飯は無事、混む前に食うことができた。食い終わって外に出たら結構な列になっていたから作戦成功といったところだろう。一食の量が少なかったせいで10品以上食う羽目になってしまったが、外食なんてそんなもんだろう。外食は金がかかる。

 

 

「次はどうしよっか?コーヒーカップ?メリーゴーランド?」

「何で食後に避けるべきやつを列挙すんだ」

 

 

回る系は酔うかもしれねぇだろ。吐くぞ。

 

 

「うにゃにゃ…あっ!そうだ、あれ行こうよ!」

「どれだよ」

「ほらあれ!」

 

 

凛が何かを見つけたらしく、指差す方向を見てみる。

 

 

そこには、いかにも古いボロいといった見た目の建物が建っていた。

 

 

…ああ、なるほど。

 

 

「…お化け屋敷というやつか」

「そう!あれ、創ちゃんお化け苦手?」

「苦手っつうか…拳が通じない相手はな…」

「倒す気でいるの…?」

 

 

デートとしては定番中の定番(らしい)、お化け屋敷。霊的な何者かに襲われる遊戯らしいが…つまり俺の身体能力が役に立たなくなる。俺の天敵だ。

 

 

怖いわけではない。

 

 

決して怖いわけではない。

 

 

「よーし、行っくにゃー!!」

「…………おう」

「…もしかして怖い?」

「まさか」

「…手繋ごっか!」

「は?」

「はい」

「は?」

 

 

何となく気乗りしないでいたら、無理やり手を繋がれた。どういうことだ。とりあえず誰か状況を説明しろ。おい。

 

 

「…今度こそ、行っくにゃー!!」

「お、おう?!」

 

 

元気に振る舞う凛だが、何だかんだ顔が赤いし手も汗ばんでいる。

 

 

気持ちはわかる。

 

 

非常に恥ずかしい。

 

 

しかし恥ずかしさを勢いで誤魔化すことにしたらしい凛はもう止まらない。俺も手を引かれるままお化け屋敷に突入するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………な、なあ、天童。よよよよりにもよって僕らをお化け屋敷に充てがうのは何で??一番ダメな人選じゃない??』

『…………………………ぅぅ、御影さん…』

「えー?一番内部の雰囲気をありのままに実況してくれるコンビじゃん?最適な人選だろ」

「えりち頑張れー」

『ううう希のバカあああああ!!』

「やっべ楽しい」

『…俺まで巻き込みやがって』

『あの、私と瑞貴さんは慣れてますよ?』

「まあ真のメイン実況は君らだし。逃げた罰でもある」

『あ、あの…一番怖がらなさそうな人も送り出されてるんですけど…』

『…一番怖がらなさそうな人も送り出されてるんだが、俺は何の表現もできないぞ』

「いや君らは単純に面白そうだから」

『鬼ですか?!』

『気にすることじゃない。私でさえこういった施設は興味深いと思っているんだ。恐怖の心理、自ら体験するのも悪くない。なあ真姫?』

『だ、だからって頼まれてもないのに飛び込まないで!!』

「…うん、藤牧君に関しては完全に事故」

「天童さんならお見通しなんやなかったん?」

「彼も湯川君みたいに人智超えてる組だよ…」

『お褒めに預かり光栄だ』

「褒めてねーよ」

 

 

今度はさっきジェットコースターに乗らなかった奴らをまとめてお化け屋敷に偵察に出した。

 

 

まあお気づきだろうが、単に俺と希が楽しんでるだけだぜ!!特に大地と絵里ちゃんコンビな!!二人とも暗いの苦手なんだぜ!!やっべ超楽しい!!

 

 

 

 

 

「…桜、天童さんをちょっと何とかしよう」

「あの人絶対本旨忘れてるわよ」

「忘れていただいて一向に構わないんだが、確かにアレは看過できねーな」

「私いいこと思いついた」

「言ってみろ穂乃果。お前はこういう時は役に立つ」

 

 

 

 

 

 

後で知ったことだが、テンションあげてたら密談に気づかなかった。天童さん一生の不覚だぜ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー…楽しかったね!!」

「ああ、どれもこれも楽しかった」

 

 

お化け屋敷は突然現れる幽霊の作り物を反射的に破壊しそうになってしまい、あわや器物破損といったところだったが…それ以外はなかなか楽しかった。凛も悲鳴をあげてくっついてきたしな。手も繋げたしな。何を言ってんだ俺は。

 

 

その後はメリーゴーランドやらコーヒーカップやら、その他乗れるものはだいたい乗り回した。空中ブランコだけは自粛した。体重的に機械に負荷がかかりそうだからな。

 

 

途中でチュロスとかいうのとかクレープとかも食ったし、完璧だったかはわからないが悪くないデートだったと思う。

 

 

もう夕刻だし、後は帰るだけか。

 

 

「…創ちゃん、まだあれ乗ってないよ!乗ろうよ!」

「観覧車…ああ、夕日綺麗に見えるかもな。よし、乗るか」

「…………うん」

「…何で自分で提案しておいて萎縮してんだ」

「し、してないよ!ほら行こう!!」

「お、おい」

 

 

観覧車。そういえば茜が「デートといえば観覧車だよね」とか言ってたな。危うく最後の最後でしくじるところだった。

 

 

また強引に手を取って俺を引っ張る凛の表情は夕陽の逆光で見えないよく見えない。笑っているように見えるが、やけに動きがぎこちない気がする。

 

 

…観覧車なんて、展望台と大差ないと思うんだがな。なぜデートに必須だと言っていたのだろう。

 

 

観覧車は意外と乗客の回転率が良いらしく、それなりに人は並んでいたがすぐに乗れた。2人で向かい合う形で乗り込み、店員さんが扉を閉めると回転に合わせて少しずつ上昇し始めた。

 

 

「わあー!見て、創ちゃん!良い景色にゃ!」

「おお、夕陽も相まってなかなか絵になる景色だな」

 

 

もうすぐ日が沈むというタイミングは、秋空ゆえに夕陽の橙が良く映える。園内全体をオレンジ色に染め上げ、遠くに見える街並みも陽の橙と影の黒が絵画のようなコントラストを作っていた。

 

 

思っていた以上に美しい景色にしばらく見とれていたが、ふと対岸の凛を見てみると。

 

 

 

 

 

うっとりと外を眺める、夕陽に照らされた横顔が、恐ろしく綺麗で、可愛くて、魅力的で。

 

 

 

 

 

目が離せなくなってしまった。

 

 

 

 

 

どれだけそうして見つめていたかわからないが、凛も視線に気づいたのか、こちらに顔を向けた。

 

 

その動作すらも魅力的に見えてしまう。俺は相当末期らしい。

 

 

「…創ちゃん、そっち行っていい?」

「ん゛っ、お、おう。いいぞ」

「なんかすごい声出たにゃ」

「気のせいだろ」

 

 

急に話しかけられて喉に声が引っかかってしまった。

 

 

そのまま凛は俺に近付いてきて、俺の隣には腰掛ける。そして何故かこっちにもたれかかってくる。

 

 

おい。

 

 

どういう状況だ。

 

 

体温が史上最高に高いぞ。

 

 

心臓の音がやかましいぞ。

 

 

凛の方を向けないじゃねぇか。

 

 

「…創ちゃん」

「なんっ、何だ?」

「…ふふ、創ちゃん緊張してるにゃ」

「してねぇ」

「してないの?」

「してねぇ」

「じゃあこっち向いて」

「……………………おう」

 

 

向いてと言われて向かないわけにもいかない。妙に回りが悪い首を動かし、凛の方を見る。

 

 

 

 

 

 

「…今ね、凛たち、2人きりだよ」

 

 

 

 

 

 

「…あ、ああ」

 

 

夕陽に照らされ、煌めく瞳。明らかに赤く染まった頬。わざわざいつもよりお洒落をしてきた凛が、どこか扇情的な表情でこっちを見てくる。

 

 

「創ちゃん、アイドル好きだもんね。アイドルは恋愛禁止だって、ことりちゃんが雪村さんと付き合いだした時に創ちゃんも怖い顔してたにゃ」

「そ、そうだったか…?」

「うん。そうだった。…凛はね、自分の気持ちも…創ちゃんの気持ちも、わかってるつもりだよ。だから今日、誘ってくれて嬉しかった。デートのつもりで誘ってくれたんだよね」

「…バレていたか」

 

 

そう、実は今日の目的は伏せたまま凛を誘っていた。他の面子にも口止めはしてあったから、誰かから聞いたという線は無いだろう。思いっきりバレていたのか。

 

 

「ふふ、だって凛の誕生日に2人で遊園地行こうって、顔赤くしてそっぽ向いて緊張しながら言ったら誰だってわかるにゃ」

「くっ…返す言葉もねぇ」

 

 

隠してたつもりだったんだがな。

 

 

「だから凛もいっぱいお洒落してきたの。創ちゃんに似合ってるって言って欲しかったもん!」

「…ああ、とてもよく似合ってる。…い、今までで一番、かわ…可愛いんじゃ、ないか?」

「…そこはスラスラ言って欲しいにゃ」

「うるせぇ…」

 

 

人を褒めるとかほとんど経験がねぇんだよ。

 

 

「…えっとね、とにかく、創ちゃんのことわかってるつもりだったから、凛も何も言わなかったんだけど…」

 

 

一瞬下を向いた凛が意を決したように顔を上げると。

 

 

 

 

 

 

 

 

潤んだ目が。

 

 

 

 

 

 

 

煌めく瞳が。

 

 

 

 

 

 

俺を、見つめてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今なら、誰も見てないよ。何だって、していいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷に撃たれたよう、というのはこういうのを言うのだろう。何言ってんだと思いつつ、その真摯な瞳から目が離せない。

 

 

 

 

 

ああ、そうだ。俺は凛が好きだ。

 

 

 

 

 

しかし、凛がスクールアイドルであるうちは言うまいと思っていた。凛も恐らく俺に好意を寄せていることは流石に察せたし、卒業まで待っても問題ないと思っていた。

 

 

それでも、凛は、今、そう言うのなら。

 

 

凛は願っているんだろう。

 

 

 

 

 

 

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流石に馬鹿でもわかる。観覧車はもうすぐ頂点に達し、日もまさに沈まんとしているところだった。

 

 

ここまで世界にお膳立てされてしまったら、俺も覚悟を決めるべきだろう。

 

 

「…じゃあ、凛。聞いてくれ」

「…はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は…お前が、星空凛のことが、好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うん。凛も、創ちゃんが、滞嶺創一郎のことが、好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言ってしまった。

 

 

 

 

 

そしてそこで終わらない。

 

 

 

 

 

そのまま凛に顔を寄せて。

 

 

 

 

 

 

 

そっと唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

丁度日が沈んで星々が輝きだし、観覧車が頂点に達した時だった。

 

 

ああ、「デートに観覧車は必須」って、こういうことなのか。

 

 

なんというか、今ならクソったれな両親にだって感謝できそうなくらい、澄み渡った気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、何で俺と希ちゃんだけで観覧車乗ってんの?」

「散々弄んだ仕返しやって」

「何でこれが仕返しになるんだよ。むしろご褒美なんですけど。だって密室で希ちゃんと2人きりだぜ?!ご自慢のバストをわしわしマックスする絶好のチャンスなわけさうわははははははは!!!」

「ええよ?」

「…………………………………………………………………………………………はい?」

「ええよ、天童さんなら」

「…ん?ちょっと待てよ?あれ?そんなシナリオ用意してないぞ?恥ずかしがる希をちょっとからかってるうちに一周するはずだったんだが?だったんだが?」

「…天童さん?」

「はい何でございましょうか」

「………わしわししないの?」

「えっ何でして欲しいみたいな雰囲気で言ってくるの?痴女か君は。痴女なのか?」

「私の全ては、いっちゃんのものだから…」

「やめっ、くそっ『いっちゃん』はズルい…ちょ、いやマジで勘弁してくれませんかねお嬢さん?君俺が一番怖がってるの何か知って…ってまさか!君も仕返しの仕掛け人側か!!くそっ!君も仕返し対象なんじゃなかったのか抜かった!!」

「いっちゃん?」

「あっはい当方十分に反省しておりますのでご勘弁願えませんかねダメですかダメですよねってか君もノリノリだったのになんで君は不問なのさ不公平だってばー!!おいコラお外の皆様インカム越しに聞こえてんだろ!!許さねーぞちくしょう少しくらいリアクションしてもいいだろーがよー!!!」

 

 

 

 

「で、希ちゃんに託してきちゃったわけだけど」

「『恥ずかしいからインカム切っといて』って言われたけど、何するつもりなのかしら?」

「まさか希ちゃんの色じかけ…?!」

「なんつーこと言ってんだほのバカ。こと天童さんに対して色じかけとか効くかよ、むしろ食われるわ」

「バカじゃないもん!!」

 

 

結局天童さんは希ちゃんが痛い目を見せてくれることになった。穂乃果ちゃんの提案で「天童さんに仕返ししたら君は不問にするね」って言ったらノリノリで引き受けてくれた。

 

 

さ、そろそろ創一郎たちが乗ってるところが天頂に着くし、バレる前に僕らは退散しようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと素敵な結末になってるだろうしね。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

………甘あああああああああああい!!!
自分で書いておいて恥ずかしくなってしまいましたよこんなん…マジ純愛…
というわけで、本作品初キスは滞嶺君と凛ちゃんが掻っ攫っていきました。まあ時系列的にはかなり後なんですけどね!!
ちなみに滞嶺君は凛ちゃんのお相手をするにあたり、「ギャップ」と「純真」をテーマに考えたキャラクターです。見た目で誤解されるタイプを目指したらこうなりました。それと凛ちゃんの純粋さに見合うレベルの純情を備え付けたら正統派ラブコメ担当になりました。他の男性陣が異質すぎるのが悪いんです!笑

あと余計なことをする天童さんはちゃんと粛清されました。


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