笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼
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ご覧いただきありがとうございます。

お気に入りが増える毎に感激で寿命が伸びております。おかげさまで還暦までは生きられそうです。頑張ります。

さて、そろそろμ's初ライブとなります。同時に波浜ボーイの本領発揮回です。天才だらけの一端です。

というわけで、どうぞご覧ください。




暇な時に限って案外やることがない

 

というわけで、今日は新生スクールアイドル、「μ's」の初ライブだ。…μ'sって誰がつけたんだろう、ギリシャ神話の女神様だったと思うけど、9人だった気がする。三分の一しかいないじゃない。君たち3人じゃない。いいのかな。

 

 

今日は珍しくにこちゃんは一緒じゃない。おおよそどっかで潜伏してライブ会場である講堂に侵入するつもりだろう、読めてる。僕もわざわざにこちゃんの邪魔はしない。むしろ支持する。

 

 

授業も早く終わるしありがたいけど、講堂を使うのはμ'sだけじゃなく、演劇部が使った後らしい。時間的に機材のセッティングは間に合わないだろう。

 

 

間に合わないだろうから、授業サボって講堂に来た。

 

 

皆勤賞?いらないよ。もう働いてんだし。

 

 

講堂にはすでに、演劇部が依頼したのであろう照明業者が機材の搬入・設置を行っていた。うん、ありがたい。ちょっとお金渡せばμ'sの出番にも貸してくれるんじゃないかな。

 

 

こう見えて、業界じゃトップランクに有名人だし。

 

 

「みなさんおはようございまーす。お久しぶりな方が多いですね」

 

 

「…?どちら様…って、えええええ?!茜さん?!何であなたがここに?!」

「えっ茜さん?!嘘、どこ?!」

「先輩、茜さんって誰です?」

「バッカお前、SoSの本名だよ!サウンド・オブ・スカーレット!」

「ま、まじっすか?!あんな小さい人が?!」

「新人さん聞こえてるよ」

 

 

…とまあ、このくらい有名人だ。

 

 

ペンネーム「Sound of Scarlet」…CGや3Dなどの多方面でのグラフィックデザインを始め、3DCGアニメーションムービーなどの動画、舞台演出や照明演出、空間デザインや服飾デザインなどのリアルでの演出まで、視覚に関わるあらゆるデザインを1人で全て請け負うデザイナー界の神童…って某百科事典に載ってた。大げさだよ。誰が神童だよ。神童ならもっと身長をくれ。ほんとに。切実に。

 

 

とにかく、僕個人への依頼以外にも、大手からドマイナーまで様々な業者から、こっそり後ろ支えとして仕事を依頼されるためだいぶ顔が効く。海外にも効く。すごいでしょ?

 

 

「まさかここでお会いできるとは思いませんでしたよ」

「あー半年ぶりくらいでしたっけ。神戸ではお世話になりました」

「いえいえ、あのときは本当に助かりました!…ところで、今日はどのようなご用件で?」

「ああ、あなたたちの後に僕の出番があるから下見に。それにしても結構大掛かりに用意してますねえ」

「個人依頼とは…この学校お嬢様でもいるんでしょうか。ええ、何でも今年は新入生が少ないそうですから、新入部員を集めるのに躍起になってるようでして」

 

 

まあ1クラスしかないもんねえ。でもちょっとお金かけすぎじゃないかな、今後の公演に響かないといいけど。

 

 

「なるほどね。まあこっちも都合がいいですね。申し訳ないですけど、よければ僕の出番まで機材貸してくれませんか?お金は払うので」

「もちろんですよ!お代もお気になさらずじゃんじゃん使って下さい!」

「いやそうはいきませんよ。あなたたちも商売なんだし」

 

 

交渉はすんなりうまくいった。しかも協議の結果、予定の半分くらいのお値段で貸してくれることになった。こっちは実は無償でやってるからありがたいっちゃありがたいけど、あんまり姿勢低くしないほうがいいんじゃないだろうか。業者的に。

 

 

「こんな安くていいんですか?こっちは皆さんの名前は機材提供としてしか載せられないんですが」

「いやいやいや!茜さんの作品に名前を載せてもらえるだけで私たちの評価は激増しますから、むしろこれでも高いくらいですよ!」

 

 

そんなに影響あるかなあ。

 

 

「あと機材の調整見ていただきたいですし」

「それは別料金もらいますよ?安くはしますけど」

「ですよねー」

 

 

流石にそこは譲らないよ。僕も生活があるんだ。

 

 

 

 

 

そうして機材調整を見てあげていたらお昼になった。今日はお弁当はにこちゃんに既に渡してあるので、わざわざここを離れなくていい。というか僕のお昼はおにぎり2個だし。時間ないから。あとお腹の容量。

 

 

おにぎりを講堂の管理室の扉の前でもりもり食べてると、3人の女の子が目の前に現れた。音ノ木坂の制服着てて、リボンの色が2年生だから、μ'sのお手伝いさんかもしれない。演劇部の子かもしれないけど。

 

 

「やあこんにちは、ここを通りたければ僕を倒して行くんだな」

「えっ…えっ?」

「ごめん、謝るからドン引きはやめてつらい」

 

 

冗談言ったらドン引きされた。初対面で冗談はダメなのかな。

 

 

「えっと…あれ、音ノ木坂の方ですか?」

「ですよ。3年生唯一の男子生徒、波浜茜です。よろしくね」

「あ、はい、よろしくお願いします…じゃなくて!私たち、スクールアイドルのライブのお手伝いでそこ使いたいんですけど、大丈夫ですか?」

 

 

大丈夫って何がだい。ってツッコもうかと思ったけどやめといた。学習するんだよ僕は。

 

 

そしてスクールアイドルお手伝い班で合ってた。というかちゃんとお手伝いいて良かった。いなかったらどうしようかと思った。

 

 

「大丈夫も何も君たちを待ってたんだよ。はい名刺」

「待ってたってどういうことですか?しかも高校生が名刺…ってサウンドオブスカーレット?!」

「ヒデコ知ってるの?私知らない」

「私も」

「知ってるも何も!メッチャ有名なデザイナーさんだよ!私すっごい好きなの!この財布のデザインもSoSさん!」

 

 

一般人は知らないかと思ってたけど以外と名が売れてた。ヒデコと呼ばれた女の子がポケットから取り出した財布は、白地に桜色と金色で蔦と花をあしらった可愛らしいデザインの財布だった。確かに、なんか女の子向けにって依頼であんなのデザインした気がする。でもそれを本人の前で出すのはちょっとだいぶ恥ずかしい。やめようか。やめて。

 

 

「わあ!すごくかわいい!」

「私も欲しい…」

「何でもいいけど早く作業始めなさいよ」

 

 

きゃいきゃいし始めたお手伝いガールズに釘をさす。時間ないんでしょ。っていうか僕が爆死するからやめて。

 

 

「っは!す、すみません…。あの、私たちを待ってたっていうのは…」

 

 

ヒデコといった女の子は礼儀正しく頭を下げながら、おずおずといった感じで質問してくれた。状況がわからないながらもテンパらない感じ、いいね。お仕事有能感が出てる。

 

 

「うん、僕もスクールアイドルに興味があるから。許可は取ってないけど、裏方をお手伝いしようと思って。ほら、照明とか音響とか、素人だけじゃ大変でしょ」

 

 

説明してあげると、3人はすっごい笑顔になって喜びだした。大方、ビラまき呼び込みがメインで、舞台関連のことはうまくできる自信がなかったのだろう。そりゃそうだ、そう簡単にできるものでもないし、機材だって限られているのだから。そんな彼女らにとって、僕の出現は正しく渡りに船、といったところだったのだろう。

 

 

「い、いいんですか?!でも確かSoSって依頼料かなり高かった気が…」

「よく知ってるね。僕もお金欲しいから高めにしてるけど、今回はボランティア。無償だよ」

 

 

というかにこちゃんのためだしね。お金もらってる場合じゃないよね。

 

 

さっきの機材調整費はもらったけど。

 

 

「わあぁ…!ありがとうございます!」

「さあ、時間ないし打ち合わせでもしようか?」

 

 

感謝はおいといて。

 

 

僕らは僕らの仕事をしなきゃね。

 

 

 

 

 

「カメラこの辺でいい?」

「んー、もうちょい右!あ、私から見て右!そう、そこ!ストップ!」

 

 

うーん。

 

 

お手伝いさんたち、めっちゃ有能。

 

 

教えたことのほとんどは理解して勝手にやってくれる。おかげでこっちも細かい調整だったりプログラミングだったり専門分野に集中できる。そこらへんの業者より有能だ。雇おうかな。

 

 

「茜さーん!セッティング終わりましたよー!」

「んー、ありがとね。こっちはまだ時間かかりそうだけど、君ら手が空いてるならビラまきとかしてあげて」

「手伝うこととかないんですか?」

「ないね。ここらはもう専門家の領分だから、変に首突っ込まない方がいい」

 

 

準備が終わったお手伝いガールズが戻ってきたけど、あいにくちょっと人任せにできない仕事をしている。なので体よく追い払う。というか実際人寄せはしないとヤバいと思う。

 

 

「そうですか…」

「ほら、シュンとしないで。まだやることあるんだから、友達のために頑張ってらっしゃいな」

 

 

しょげてるお手伝いガールズの背中をペシペシ叩いて励ます。励ましになってるかはわかんない。ほとんど人を励ましたりしないもん。でも、3人ともちょっと元気になって「いってきます!」って言ってパタパタ出て行ったから多分成功だろう。いいだろ成功で。

 

 

さて、1人になったわけだし、やるべきことはやってしまおう。まず音楽再生、それに合わせて照明演出プログラム作成、切り替えタイミングは手動。カメラワーク設定、音響調整、その他諸々。μ'sの子らの要望に極力沿うように全て整える。彼女らの動きから、1番映える画面を予測する。後で動画上げるだろうし、どうせなら綺麗に撮ってあげたいもんね。

 

 

一通り作業を終えて外に出たら、業者の方々が丁度来たところだった。演劇部の出番が近いということか。軽く挨拶して管理室を後にし、ちょっとうろついて時間を潰すことにする。

 

 

 

 

 

あっちもこっちもいろんな部活が新入生を交えて活動していた。1年生自体が少ないけど、いや、だからこそか。みんな気合が入ってる。外に見える運動部たちはほぼ女子高なのに素晴らしくテンション高い。むしろ女性の方がテンション高い可能性もあるけど。

 

 

そんな中、ビラまきしている一団が。μ'sの3人と、お手伝いガールズ3人。ビラは配れてるようだけど、さて、実際何人が来るものか。受け取った人数がそのまま来るわけないし、下手したら全く来ないかもしれない。

 

 

まあ、実際、正直なところ。

 

 

誰も来なくてもしょうがない。

 

 

知名度ゼロから始めたらそんなもんだ。僕らのときはたまたま人が来てくれたけど、それでも両の手で足りる人数。メンバーの知人とか、そんなレベル。

 

 

そこで折れないかが問題なんだ。

 

 

そこで折れちゃ、続かない。

 

 

にこちゃんを交えて活動したら、また2年前の二の舞を演じる羽目になる。

 

 

彼女らは、今後もスクールアイドルを続けるなら。

 

 

人がいなくたって、誰も見てくれなくたって、楽しく歌って踊れるべきなんだ。

 

 

それが、アイドルってもんだろう?

 

 

なあ、にこちゃん。

 

 

 

 

 

正直なところ、することは全くなかったので気まぐれに屋上に来てみた。何故か知らないけどなんか綺麗になっている。誰がこんな辺境の地を掃除したのかと思ったら、あちらこちらに複数の足跡が見えた。

 

 

懐かしい感じがする。規則的に、しかし完全に一定ではないような足跡。きっとダンスの練習でついた跡だろう。μ'sの3人は意外にもこんなところで練習していたわけだ。まったく、邪魔が入らないとはいえ、直射日光が直撃するうえに雨風強い日は使えないというのに。無茶する子たちだ。

 

 

僕らは狭いながらも部室はちゃんとあったので、机をしまってそこで練習していた。以前は今ほどにこちゃんのコレクションは多くなかったし、物も少なかったから案外余裕があった。踊る場所には相応しくない気もしたが、安定して練習できる環境ではあった。今のスクールアイドルたちにはそれすらないらしい。それでも負けずに練習してきたのだ。曲も作れないくせに。

 

 

彼女らなら、にこちゃんと一緒にいても離れないでいてくれるだろうか。

 

 

いや、早計はよくない。やっぱりちゃんとライブを見届けてからだろう。どれだけの気概でスクールアイドルをやろうと思ってくれているのか、しっかり見てから判断しよう。

 

 

正門に目を向けると、μ'sの3人がお手伝いガールズ3人に残りのビラまきを託して校舎に戻るところだった。まだ演劇部がなんかやってる時間のはずだけど、衣装に着替えたりまあいろいろやることがあるのだろう。僕は彼女らに遭遇しないようにもう少し時間をおいて行こう。あくまでこっそりお手伝いしないといけない。いやいけないわけじゃないんだけど、にこちゃんが不機嫌になりそうだから。どうせ演出の癖とかでバレそうだけど。

 

 

一際強い風が吹いて、地面の木の葉が舞い上がる。それに混じってライブのビラが一枚飛んできた。キャッチしようと思ったらべしっと顔にへばりついた。かっこわる。

 

 

顔から剥がしてみてみると、手書きであろうビラが目に入った。なかなか可愛らしい絵だけど、誰が描いたのだろうか。なんとなく南さんな気がする。高坂さんではないだろう、あの子は確実に絵が下手だ。園田さんもちょっとイメージに合わない。んー、でも意外と高坂さんっていう線もある。まあ今気にすることではないか。

 

 

いつか彼女らのビラも描くことになるのかな。

 

 

…描いてみたい。この先何人になるかわかんないけど、彼女らの宣伝はしてみたくなる。不思議と応援したくなる。そんな魅力を感じた。人を惹きつけるというか、魅せるというか。案外スクールアイドルにぴったりな子たちなのかもしれない。

 

 

…なんで僕はにこちゃんに関係ないことまで考えてるんだ?

 

 

ふと我に帰ったら、演劇が終わるくらいの時間になっていた。ちょっとのんびりしすぎたかもしれない。ちょっと急ぎ目で管理室まで向かった。

 

 

 

 

 

 

「ああっ先輩!!助けてください!!」

「どーしたの一体」

 

 

管理室に入るなり、管理室に既にいたお手伝いガールズの1人が半泣きでヘルプを求めてきた。このタイミングでトラブルは困る、というか、君そこの機材の操作できるの。勝手に適当にいじったんじゃないでしょうね。

 

 

「機械の操作の仕方が全然わかんないんです!!」

「ああ、うん、」

 

 

だろうね。

 

 

「このままじゃ穂乃果たちのライブに間に合わない…」

「あーわかったわかった僕が動かすから泣かないの」

 

 

最近僕の周りで泣く子増えてないかな。僕は悪くないぞ。悪くないよね?

 

 

「ほとんど用意は終わってんだから心配しなくていいのに。えーっとプログラム呼び出して、起動準備はOK、カメラ初期位置問題なし」

 

 

なにさ、やることほぼないじゃん。まあ僕が後でわたわたしないように準備しといたんだけどさ。

 

 

「…っえ、もう終わったんですか?」

「そりゃ午前中に全部仕込んでおいたからね」

「よ、よかった…」

 

 

へたりこむ女の子。どんだけ心配性なんだ。

 

 

椅子に座ってどうしたものか考えてると、不意に管理室の扉がノックされた。このタイミングでここに人が来る予定はないんだけど…、何事だろう。てか誰だろう。

 

 

「どーぞー、鍵は開いてるよ」

「失礼します…って、波浜くん?」

「あれ、会長様だ」

「普通に呼んでくれないかしら」

 

 

扉を開けて礼儀正しく入ってきたのは我らが生徒会長、絢瀬さんだった。何しに来たんだろう。あんまりスクールアイドル活動に肯定的ではなかったはずだけど。まさかこっそり見るためにわざわざ管理室まで来たんだろうか。ありうる。

 

 

「どうかしたのかい」

「あの子たちのライブの映像をもらおうと思って」

「永久保存版かい。大ファンじゃないか」

「違うわ。ネットに上げて、反応見たいのよ」

「お嬢様、肖像権というものをご存知ですかな」

「うっ」

 

 

ネットに上げるといっても親切心ではないだろう。あんまり評価が良くないのを期待してるのか、袋叩きにされるのを望んでるのか、とにかく悪意で思いついたことだろう。でも本人の許可なく動画を載せるのは感心しないぞ会長。

 

 

「まあいいけど」

「あなたが許可出していいの?」

「僕が動画のセットアップしてるからいいでしょ多分。ライブ終わったら渡すから、せっかくだからここからライブ見ていきなよ」

 

 

一応制作陣の1人なわけだし、許可も出せるだろう。だめかな。まあいいや多分本人たち気にしないし。

 

 

「ライブ…できるかしら。誰もいないけど」

 

 

そう言って窓から講堂の中を見る絢瀬さん。もう開始まで数分というところなのに、講堂には人の気配は皆無だった。きっとどこかににこちゃんが潜んでるのだろうけど、ここからはさっぱり見えないし、にこちゃん以外は人っ子一人いない。

 

 

「まあそうだろうね」

「まあそうだろうねってあなた」

 

 

まあ予測してた事態だけどさ。

 

 

「そりゃできて1ヶ月もないスクールアイドルのライブなんて来ないでしょうよ。他の部活の体験もあるんだし」

「やけにあっさりしてるわね…」

「経験者なのでね」

 

 

経験者なめんなよ。

 

 

「先輩、もうすぐ時間です!」

「はいはい了解」

「え、あなたが操作するの?」

「他に誰がいるんだい」

「そこの子かと…」

「はっはっは、素人に操作できる機材に見えるかい」

「あなたが操作できるようにも見えないわよ…」

 

 

ブザーと緞帳の準備を始める僕に驚く絢瀬さん。そういえば彼女には僕の本職教えてなかったな。まあ教える意味もないけど。サウンドオブスカーレットを知ってれば、動画アップするときにクレジット見て気づくかもしれない。でも別に気づかなくていい。

 

 

「3、2、1…ブザーお願いします!」

「はーい」

 

 

ブザーのボタンをポチッと長押し、たっぷり5秒間ぶーっというよくあるブザー音を鳴らし、指を離すと当時に緞帳を開くボタンを押す。

 

 

誰もいない講堂の舞台の、幕が上がった。

 

 

 

 

 

『ごめんね、頑張ったんだけど…』

 

 

お手伝いガールズの声がスピーカー越しに聞こえる。衣装に身を包んだ舞台上の3人は講堂の様子を見て随分ショックを受けているようだった。無理もない、一念発起して臨んだライブで、まさか1人として客がいないとは思わなかっただろう(にこちゃんいるだろうけど)。

 

 

『ほのかちゃん…』

『穂乃果…』

 

 

南さんと園田さんの声が、限りなく弱々しい声が、辛うじて聞こえた。むしろよく声が出たものだ、絞り出すような声であっても精神力が及ばなければそこで崩れ落ちてもおかしくない。

 

 

『そっ、そりゃそうだ!…現実、そんなに、甘くない…!』

 

 

明らかに無理して明るい声で言う高坂さん。しかし、ここから見ても涙が止まらないのがすぐにわかった。あんだけ無駄に元気な子でも、こんな惨状の前では元気は品切れなようだ。

 

 

大きな挫折だろう。心が折れただろう。ここまで届く嗚咽が全てを物語る。

 

 

「ほら、見なさい。こんな結果になったじゃない」

 

 

意外にも悲しそうな、ん?辛そうな?よくわからない、とにかくネガティヴな表情で言う絢瀬さん。何か彼女にも思うところがあったのか。

 

 

僕は絢瀬さんの言葉には返事せず、椅子から立ち上がって扉へ向かう。

 

 

「あなたも諦めた?」

「まさか」

 

 

次の問いには答えた。扉の前で立ち止まり、絢瀬さんの方に振り返る。

 

 

確かに、客がいなくてショックで歌えないとなると、メンタル的にはアイドルとしては赤点だと僕は思う。にこちゃんは誰もいなくたって笑顔で歌って踊れる子なんだから。

 

 

でもさ。

 

 

なんだか、あんだけ頑張ってた子たちが、この学校のために慣れないことに手を出して身を削ってきた彼女らが、こんな結末で終わっちゃうのは。

 

 

 

 

「ただお客さんになってくるだけだよ」

 

 

 

 

なんか癪じゃない?

 

 

ここでお仕事してる場合じゃないでしょ。

 

 

だから、そう言って管理室の扉を、

 

 

 

 

バンッ!!と。

 

 

 

 

開けようとしたら、扉の音は講堂の方から聞こえた。

 

 

『あ、あれ?ライブは?あれ?あれぇー?』

 

 

さらにやけに可愛らしくて情けない声が聞こえてきた。とっさに窓に駆け寄って講堂の中を覗くと、端っこに茶髪が見えた。身を乗り出してよく見てみると、リボンの色からして1年生の眼鏡っ娘だ。

 

 

ここにきてまさかの遅刻勢。

 

 

…なんか僕、カッコつかないなあ。

 

 

「ふふ、ははは」

 

 

思わず笑ってしまった。なんだい、ちゃんと見てくれる人いるじゃないか。1人だけど、0とは天地の差だ。なんか笑っちゃった僕を絢瀬さんが変な目で見てくるけど気にしない気にしない。

 

 

『やろう!歌おう、全力で!』

 

 

高坂さんの威勢のいい声も聞こえてくる。舞台に目を向けると、さっきまで崩れそうだった新生スクールアイドルたちが、それはもう嬉しそうに立っていた。立ち直り早いね。

 

 

『だって、そのために今日まで頑張ってきたんだから!』

 

 

さらに声が続く。南さんと園田さんも俄然やる気が出たようだ。ライブを始めるために、それぞれ配置についていく眼鏡っ娘1年生は感動の嘆息をもらしながら講堂の中央付近まで降りていく。

 

 

これは楽しくなってきた。

 

 

「ふふっ、ふははは。どうだい、彼女ら、素晴らしいじゃないか。こんなに手に汗握る展開も、心躍る舞台も初めてだよ…!」

 

 

にこちゃんの前以外ではほぼ出ることのない、本気の笑顔で思わず口にする思い。ただにこちゃんの希望が息を吹き返したからだけじゃない、何か彼女らμ'sの重大な魅力を見つけたような気がして、笑わずにはいられなかった。こら絢瀬さんドン引きしない。お手伝いちゃんもドン引きしない。傷つくでしょう。

 

 

やめないけど。

 

 

「さあ、さあ、僕も腕を振るおうじゃないか。ちょっとオーバーワークで頑張ってあげるよ、君らがもっともっと相応しく映るように!」

 

 

音楽が始まるのを待つμ'sの3人を前に、お手伝いちゃんと絢瀬さんを機材の近くから押しのけて再生ボタンに手を伸ばす。何か言ってるけど聞こえない聞こえなーい。

 

 

「見せてくれ、魅せてくれ、君たちの輝きを!!」

 

 

そう叫んで、ボタンを押す。

 

 

彼女らの、μ'sの、音楽が始まる。

 

 





最後まで読んでいただきありがとうございました。

波浜ボーイをこんな天才野郎にしたのは、「素人にあんな照明操作は無理じゃね?」って思ってたからです。なのでプロの犯行にさせました。これからも照明やカメラワークはプロの犯行になります。ちなみに「茜→赤音」からサウンドオブスカーレットは出しました。かっこいい…かっこよくない?

波浜少年が心の中でめっちゃ喋ったりテンションぶち上げたりお忙しい回でした。彼もいろいろあったせいで情緒不安定なんですよ。多分。

次くらいにやっと他の男達が召喚されます。多分。



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