笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

前回、またお一人お気に入りしてくださいました!!ありがとうございます!!先月1人も増えなかったのでもう限界かなって思ってました。まだまだ見てくださる方がいらっしゃるのですね!!これからも頑張ります!!
しかし書き置きがだんだん消費されつつあるので早くストックしておかなければ…笑。忙しいんですけどね!!
そんなことより、今回はオリジナル話、今まで影の薄かった誰かさんのお話です。実はサブタイトルは波浜君以外がメインの時は口調変えてあります。さて今回はどなたでしょうか?


というわけで、どうぞご覧ください。




邂逅

 

 

 

 

 

「湯川…照真くん?」

「うん。ずっと昔からの幼馴染なんだけど…」

「テルマ君って僕が手術したときの?」

 

 

突然、みんなに「会って欲しい人がいる」って言い出した花陽ちゃん。話を聞いてみると、湯川照真という人物らしい。らしいっていうか僕は知ってるじゃん。

 

 

「うん、そうだよ。まだ顔を見たことはないと思うけど…」

「そんな!凛も知らなかったよそんなの!!」

「え?!」

「凛にすら伝えていないとは…一体どういうことだ?」

 

 

まさかの凛ちゃんもご存知なかった。凛ちゃんと花陽ちゃんはめちゃくちゃ仲良いから、お互い知らないことなんてないって思ってたわ。

 

 

「それは…照真くん、サヴァン症候群っていう病気らしくて、人とコミュニケーションがうまく取れないの。凛ちゃんにも話したかったけど、凛ちゃんはすぐにお話しに行こうとしちゃうと思ったから…」

「まったく的確だな」

「そんなことないよー!!」

「そんなことあるわアホ」

 

 

まあ凛ちゃん頭ゆるいから細かいこと考えずに話しかけにいきそう。

 

 

「…でも、何で突然その人に会ってほしいなんて言い出したの?コミュニケーションが苦手なんでしょう?」

「…照真くんは、ご飯を買いに行くときくらいしか外に出ない、ううん、出られないの。にこちゃんの妹ちゃんたちとは違う理由で、私たちのライブを直接見ることはできないの」

「…なるほど。今回の事例を踏まえて、その照真ってやつを助けてやってほしいってことか」

「…うん」

 

 

あー、なるほど。

 

 

同じではないけど、「ライブに来れない」って点は確かに共通点だね。もしかしたらなんとかなるかもって思うのもわかる。

 

 

でも、サヴァンはしんどいなあ。先天性だしね。

 

 

「流石に厳しいんじゃねぇか?鯖がなんとかって病気はよくわかんねぇが、医者でも何でもない俺たちでなんとかできるもんかよ」

「サヴァン症候群ね。僕が会った時は顔は合わせてないけど、受け答えはしっかりしてたと思うんだよなあ」

 

 

サヴァン症候群は脳の作りが普通の人と違うとかなんとかそんな感じだった気がする。だから人智を超えるレベルの天才が生まれたりするんだけど、別の部分で不具合がでることが多い。そのよくある例が自閉症スペクトラムらしいんだけど、テルマ君はそんなにコミュニケーション苦手な感じしなかったなぁ。

 

 

「でも、人とコミュニケーションを取るのが苦手な人のところに急に押しかけるのは良くないんじゃないでしょうか」

「そうね…せめて了解を得ないと」

「それはもちろん、照真くんに聞いてみます。それでみんなが来てくれるなら嬉しいなって」

「行くにしても、まずは少人数で行くのがいいんじゃないかしら。いきなりみんなで行くのはプレッシャーかかりそうよ」

「つってもせめて医療に詳しいやつが…」

 

 

医療に詳しい人が欲しい。確かにそう。

 

 

…ん?それなら。

 

 

「…………え?わ、私?!」

「そっか!真姫ちゃんってお父さんがお医者さんだよね?!」

「お医者さん目指してるとも言ってたにゃー!!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!そんな急に…何で私が!!」

「…やっぱり嫌かな?」

「え?!えっと、い、嫌じゃないけど…」

「それなら!!」

「ちょ、えっと!!…わ、わかったわよもう!!行けばいいんでしょ!!」

 

 

そう、西木野総合病院院長の娘、西木野真姫ちゃんがいるじゃん。

 

 

こんなに適任がいるだろうか。いやない。反語ってたまに使いたくなるよね。ならない?

 

 

「ちなみにサヴァンについての知識は?」

「それなりになら…だって治療できるようなものじゃないし」

「まあそうだよね。花陽ちゃん、まっきー…えっと、藤牧君も連れてっていいかな」

「藤牧さん…?うーん、照真くんも一回会ったことある人が多いのは気が楽かもしれないし…多分大丈夫だと思う…」

「そんじゃあ、了解が得られたら僕と真姫ちゃんとまっきーが最初に向かうことにしよう。その後はまだ未定で」

「えっと…みんな、いいの?」

 

 

さくさく話を進めていると、むしろ花陽ちゃんが不安そうな顔をしだした。まあね、思いのほか反対意見少なかったしね。

 

 

「俺たちが行って効果があるとは思えねぇんだがな…」

「創ちゃん、それはやってみなきゃわかんないよ!私はもっといろんな人にライブを見てほしいもん。それに花陽ちゃんの頼みだもん、ほっとけないよ!」

「ま、まあ…そうなんだがよ…」

「そうだよ!かよちんが困ってるんだよ?!凛たちが力になってあげないと!!」

「あー…まあ、確かに…?」

「創ちゃん、心配いらんよ。こういう時は穂乃果ちゃんの勢いが大事っていうのはわかってるやん?もう前みたいに暴走したりはしないやろうし、穂乃果ちゃんの言う通りみんなで力になってあげよ」

「…あーくそ、わかったよ…」

「なんか真姫ちゃんと似たような返事だね」

「うるさいわね!」

「うるせえぞ」

 

 

創一郎もみんながなんとかしてくれた。君もツンデレなのかな?真姫ちゃんと流れが同じだよ。リアクションも同じだよ。面白いわー。

 

 

「それじゃあ次のお休みの日…日曜か。休み使っちゃうけど真姫ちゃんいいかい?」

「パパと相談するわ。病院のお手伝いのこともあるし」

「あ、そっか。じゃあ真姫ちゃんの予定に合わせようか」

「みんな…あの、ありがとう…!」

「いいよ!花陽ちゃんのためだもん!!」

 

 

今更だけど、ほんとにみんな仲良いよね。

 

 

とにかく、テルマ君にご訪問は花陽ちゃんの返事と真姫ちゃんの予定次第ということになった。うまくいくかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この前の、波浜と藤牧と、あともう一人、うちに来る…?」

「う、うん…西木野真姫ちゃんっていうんだけど…ダメかな?」

「西木野真姫ちゃんっていうのか…ダメ…いや…何で…」

 

 

照真くんに話してみると、やっぱりすごく困っちゃいました。コンビニですらほとんど行けない照真くんには、やっぱり前みたいに大事な理由がないと知らない人に会うのは辛いのかも。

 

 

でも、やっぱり照真くんをそのままにはしておけないよ…!

 

 

「…私ね、照真くんにも、μ'sのライブを見てほしいの」

「μ'sのライブを見るなら、ここからでもネットで見ているぞ…」

「ううん、違うの。あのね、μ'sのライブを、直接、見てほしいの」

「直接…?」

 

 

混乱している照真くんは手に持つ小さな機械をかしゃかしゃ動かし、目線もあちこち動かしていました。照真くんは集中しているとき以外はとても落ち着かない癖があるんです。いつもはだいたい何かの作業をしているのでこうなることはあまり無いんですけど、焦ったり混乱したりするとどうしてもそわそわしてしまいます。

 

 

「うん。ライブってね、画面越しに見るよりも、自分の目で見た方が何倍も感動できるの。私、照真くんにもそれを感じてほしい」

「それを感じてほしいとしても、俺は…人が…」

「うん、わかるよ。人がどうしても苦手なのは。だから、少しずつ慣れていってほしいの」

「少しずつ慣れて…?いや、それでも…いや、いや…そんな…!」

「照真くん、落ち着いて…!!」

 

 

話を続けると、照真くんはついに手に持っていた機械を落として頭を掻き毟りはじめました。ひどく混乱して怖がってしまったみたいです。やっぱりこんなこと言うべきじゃなかったのかも、と後悔しながら照真くんをぎゅっと抱きしめました。しばらく抱きしめていると過呼吸気味だった呼吸も次第に落ち着いて、少しだけ落ち着きを取り戻したみたいです。

 

 

「ごめんね、急に変なこと言っちゃって。やっぱり嫌だよね、怖いよね。ごめんね、私のわがままで嫌なことしちゃって」

 

 

やっぱりダメです。こんなに照真くんが怖がってるのに、無理やり知らない人に会わせるなんて…

 

 

 

 

 

「…会う」

 

 

 

 

 

「え…」

「会う。その、波浜と、藤牧と、西木野に、会う」

「いいの…?怖くないの?」

「怖い…怖いけど、花陽が会ってくれって勇気を出して言ってくれた。俺も、勇気を出さなければ…」

「そんな…無理しなくても…」

「無理してない…。直接は会えない、前みたいにスピーカー越しだ。それなら、まだ怖くない」

 

 

落ち着いた照真くんは、なんとみんなに会ってくれるって。確かにスピーカー越しでなら前も茜くんたちと話せたから、大丈夫かも。

 

 

「それと…花陽、近くにいてほしい…」

「…うん、わかった。そばにいるよ」

 

 

私は初めから照真くんの側にいるつもりでした。だって私も心配だもの。

 

 

それでみんなに会ってくれるなら、十分です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わはー、やっぱここすごいね」

「玄関もすごかったけど…うちにもこんな地下室ないわよ」

「普通は地下なんて無いよ」

「機材が増えているな。私ですら用途がわからない機械…胸が熱くなるな」

「勝手に触っちゃだめだよ」

 

 

数日後、宣言通り僕は真姫ちゃんとまっきーを連れてテルマ君の家を訪れた。前に来たのは一ヶ月ちょっと前くらいだけど、地上部分は普通の民家なのに地下は相変わらず真っ白な謎空間だ。しかもこの短期間でいろんな機械が増えたり減ったり模様替えしたりしてる。なんなんだろうね。

 

 

ちなみに花陽ちゃんとテルマ君は別室にいる。やっぱり直接会うのは無理だってさ。

 

 

「とりあえず、花陽ちゃん達から僕たちはちゃんと見えてるの?」

「うん、モニターがあるから見えてるよ」

「どこにカメラあるのよ…」

「どこにもカメラはない…空気の振動や磁場の変化を床や壁のセンサーが読み取って、それを元に三次元空間を書き出している」

「えっこれ映像じゃないの?!」

「これは映像じゃないぞ」

「どうなってるのかすごく気になるんだけど」

「ほう、床…」

「何で剥がそうとしてるんですか!!」

「倫理観のかけらもないよなぁ」

 

 

なんだか人智を超えた説明をされてしまった。カメラですらないんだね。どんだけ膨大な計算してるのさ。あとまっきーは人の家の床板を剥がそうとしないで。

 

 

「…剥がす繋ぎ目すらないとは」

「そういう問題じゃないよ」

「もうっ本当にお医者さんなんですか?!」

「紛れもなく医者…お医者さん?また可愛らしい呼び方をするな、西木野嬢」

「うるさい!」

「何その西木野嬢って呼び方」

「西木野嬢は西木野嬢だ。何か問題でも?」

「ひくわー」

「何故だ」

 

 

まっきーは真姫ちゃんを西木野嬢って呼んでいるらしい。嬢って。まっきーが言うと無理やり距離を縮めようとしてる感がすごくて気持ち悪い。まっきーじゃなくても「嬢」は無いね。にこ嬢とか言えない。いやちょっと言えそうな気がしてきた。

 

 

「床は液体樹脂を流して後から固めたものだ。繋ぎ目はなく、剥がすことはできない」

「なるほど…しかしこれほどの面積、均一に塗り固められるとは恐れ入る」

「これほどの面積を均一に塗り固めるには粘性を下げれば難しくない。固めるのは重合反応を利用した」

「重合反応?酸化反応ではないのか」

「酸化反応ではない。面積が広すぎて固まり方にムラができてしまうからな。均一に広げたのち、ほんの少量だけ重合開始剤を加えれば一気に全体が硬化する」

「ほう…ラージスケールならではの問題点だな」

「流石に話が高度だね」

「わ、わたしには何がなんだか…」

 

 

頭いい人たちがなんかよくわからない話をしてて、僕らは置いてけぼりだ。粘性を下げるとかそんな簡単じゃなくない?よく知らないけど。とにかくすごい技術らしいことはわかる。ごめん嘘わからない。

 

 

話し込んでる天才は放っておいて、僕と真姫ちゃんは少し奥を除いてみることにした。奥にも沢山の機械が置いてあり、何かをかき混ぜてたり何かくるくる回ってたりロボットアームが何かしてたりしてた。何の機械なのかはさっぱりわからない。

 

 

「あ、あそこにあるのがミケランジェロだね。僕の手術で使ったやつ」

「え?どれ…気持ち悪いっ!」

「気持ちはわかるけど、開口一番に気持ち悪いは失礼じゃない?」

 

 

確かに黒くて細長いものがたくさん生えてて気持ち悪いのはわかるんだけどね。

 

 

「それよりも、花陽ちゃんたちがいる部屋はどこにあるんだろう。僕らが乗ってきたエレベーター以外に扉見当たらないんだけど」

「別のエレベーターがあるんじゃない?」

「そうなのかなぁ」

 

 

一通り地下室を見回ってみたけど、色んな機械が置いてあるだけで扉は一つもない。前来た時もテルマ君は別室にいたけど、結局どこにその部屋があるかはわからないままだ。前回は花陽ちゃんが手術前にテルマ君のところに逃げたはずなんだけどな。エレベーター使ってた記憶がないな。

 

 

とりあえずまっきーのいるところに戻ってくると、何故かまっきーに右腕が生えてた。なんでさ。事故でなくなったでしょ。

 

 

「…まさか再生医療ってそこまで進歩したの?」

「そんなわけ…ないと思うけど…」

「ん?ああ、茜と西木野嬢か。案ずるな、義手だ義手。まあ義腕と言うべきかもしれんが」

「そんな精巧な義手あんの」

「テルマが作ってくれた。恐ろしいぞ?私の左腕より器用に動く」

「そりゃ恐ろしい」

 

 

生えたんじゃなくて義手だった。すごいな、ほぼ違和感がない。触ってみたけど、感触まで自然だ。こんなんチートじゃん。

 

 

「テルマ、義足は作れないのか?」

「義足は作れなくもない。ただ腕より難しいな、重心がブレないような作りにしなければならない。膝下から失われている場合はさほど問題ないのだが、膝がないと切断面を関節と捉えて作るのが一番早い」

「それは困るな。瑞貴は残った足が非常に短い…不自然な足になってしまう」

「勝手に人の義足を注文するんじゃないよ」

「問題ないだろう。瑞貴とて足があった方が都合がいいことだってあるはずだ」

「そういう問題じゃないと思う」

 

 

まっきーは人のことを分かった気になって勝手に進めてしまうから良くないね。天才なのに。天才だからかな?

 

 

「ふむ、思ったより議論で時間を使ってしまったな…そろそろ戻らなければ」

「そもそもまっきーは来て大丈夫だったの。自分の病院ほっといて」

「当たり前だ。私がいなくても業務が回るようにしておかなければ、私が学会などで不在の時に困るだろう」

「流石だね」

 

 

意外と後進の育成をちゃんとしてた。ちゃんと育成出来てるかは別として意外だ。

 

 

「まっきーがそろそろ帰るみたいだから、僕も帰るよ。真姫ちゃんどうする?」

「それなら私も帰るわ」

「おっけー。そういうことだから今日は帰るね。だいたいまっきーと喋ってただけだった気がするけど」

「そうか?」

「そうだよ」

 

 

君らの議論で数時間使ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って感じだったわけだけど、お話してたというよりは議論してただけだったね」

「私も別にいらなかったじゃない」

「そ、そうだね…」

「そういう知識があれば話はできるって感じなのかしら?」

「うーん難しいにゃー!」

 

 

次の日の練習後に、テルマ君訪問の全貌をみんなに伝えた。あんまり成果があったとは言えないね。雑談とか世間話みたいなことはできなかったし。僕と真姫ちゃんは地下を見学しただけだったし。

 

 

「外に出られるように…とはなかなかなりませんね…」

「どうしたらいいか全然わからないね…」

「テルマ君がどうしたいかとかも読めないからなあ」

「ご、ごめん…」

「いや花陽ちゃんが謝ることではないんだけど」

 

 

流石にサヴァン相手にこころちゃん達と同じ手は通じないだろうし、困ったね。これは本当に困った。マジマジ。

 

 

 

 

 

 

「へーいボーイズアンドガールズ、面白そうな話してんじゃーん?俺も混ぜて混ぜtうおおおおおっ?!だーから滞嶺!!急に暴力振るうんじゃありません!!お前のラリアットなんか食らったら首が飛ぶわッ!!」

「飛ばねぇよ…つーかよく避けたな」

「避けられないつもりで殺しにきてる!!」

 

 

 

 

 

 

…何で天童さんがいるのさ。

 

 

「何で天童さんが…」

「ふっふっふ…たまたま通りがかるとかそういうのは考えてくれないわけ?」

「天童さんに限ってそんなんあり得ないですしおすし」

「俺が一から十まで把握してると思うなよ?」

「してないんですか?」

「してねーよどこの超人だよ」

「既に超人の域だと思うんですけど」

「えっまじ?いいぜもっと褒めろ」

「帰ってください」

「辛辣ぅ〜」

 

 

褒めると調子に乗る人だったねそういえば。

 

 

「何にしても天童さんみたいに胡散臭い人は余計会わせられませんって」

「胡散臭いとは失礼な」

「そ、そうですね…ちょっと照真くん怖がっちゃうかもしれませんから…」

「あっ花陽ちゃんに言われると本気っぽいからヘコむ」

「僕も本気なんですけど」

「慈悲のカケラもねぇなお前」

 

 

天童さんが胡散臭いのは間違いない。胡散臭さの塊に近いし。まあそれ以外にも、天童さんみたいな人の心を自在に操る系の人がサヴァンに通用するか怪しいってのもある。むしろ変に怖がらせる方がマズい。

 

 

「だいたい天童さん、知らない人の行動は読めないでしょ」

「それは花陽ちゃんに話を聞くんだよ。聞いた話でもあるのと無いのは大違いだ」

「でもサヴァンですよ?」

「サヴァンだって同じ人間なんだ。何も困ることはねーよ」

「本当ですかー?」

「こらこらそんな疑わしそうな顔をするんじゃない。俺も不安になっちゃう」

 

 

実際不安しかないし。

 

 

いや、普通の人が相手だったら天童さんは信頼できるんだけどね。今回は特殊な例だから。

 

 

「まあ任せろって。誰よりもハッピーエンドを重んじる天童さんの本気を見せてやる」

「は、はあ…」

「あとたまにはかっこいいとこ見せないと威厳が失われちゃう」

「初めから無いと思います」

「お前は俺に恨みでもあんのかよ」

 

 

恨みはないけど、天童さんって何となくツッコまざるを得ない感じで喋るよね。

 

 

そんなわけで、仕方なくテルマ君の人となりを天童さんに伝える花陽ちゃん。何だかんだ言って僕らも知らない情報がちょこちょこあった。彼も両親いないんだね。お仲間だ。ちょっと悲しいお仲間だなあ。

 

 

「オーケーオーケー、大方の人となりはわかった。あとは、そうだな…食べ物の好き嫌いとか、ちょっとした癖とかあったら教えてほしいんだが」

「好き嫌いは…ごめんなさい、わからないです。照真くん何でも文句ひとつ言わずに食べてくれるので…」

「僕もにこちゃんの料理なら何だって食べるよ」

「張り合わなくていいわよ!!」

「うぶっ」

 

 

にこちゃんの料理は美味しいから何だって食べられるよ。しかしにこちゃん、回し蹴りとはまた新しい技を会得したね。用途が僕へのツッコミというのが悲しいけど。

 

 

「あとは、癖…そういえばいつもよくわからないおもちゃを持ってます」

「…よくわからないおもちゃって一体何なんだよ」

「ご、ごめんなさい…本当によくわからないんです。手元でかちゃかちゃしてるのはわかるんですけど…」

「ルービックキューブとかかしら?」

「そんなにカラフルじゃなかったと思うなぁ…」

「つーかルービックキューブだったら『よくわからない』とか言わねぇだろ」

「確かに…」

 

 

とは言っても手元でかちゃかちゃできるおもちゃなんて他に知らないけど。それか知恵の輪かな?でも彼なら一瞬で分解しそう。

 

 

「あとは全然寝なかったり、モニターの前からあんまり動かなかったりするくらいでしょうか…癖かどうかわからないですけど…」

「…なるほどな。オーケー、策は整った。んじゃあ作戦を発表するぜー」

「あれ、天童さん一人でやるんじゃないんですか」

「丸投げする気満々かよ!」

 

 

いや天童さんって大体勝手に一人で解決しちゃうから。

 

 

 

 

 

そんな天童さんの策は、なるほど確かに人手を借りざるを得ない。

 

 

でもそれ本当に大丈夫なのって感じだ。

 

 

うまくいかなかった時が怖いんだけど。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

もうちょっとだけ続くんじゃ。今回は湯川照真君のお話です。あまり出てきてませんが。サヴァン症候群についてはそんなに詳しくないので大半想像で埋めてます。
そして今回もやってきた天童さん。暇なんでしょうか。

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