笑顔の魔法を叶えたい 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
投稿遅れてしまって申し訳ありません。正直に言います。忘れてました()
文章自体は数話先まで書いてありますから余裕なんですけど、単純にリアルが忙しかったんです…すみません…。
まあそれはそうと、今回は凛ちゃん回後編です。頑張れ滞嶺君!!
というわけで、どうぞご覧ください。
凛は幼い頃から元気な子だったそうだ。
遊ぶ相手も男子が多く、それこそ男の子みたいだったらしい。そのせいだろうか、スカートなんか履いて可愛い格好をするとからかわれたそうだ。
幼いながら、いや、幼かったが故に、大きく傷ついたのだろう。
それ以来、凛が女の子らしい格好をすることは無くなったそうだ。
「もう気にしてないのかなって思ってたんだけど…」
「そういえば、私服でスカート履いてるところ見たことないわね」
「…確かにな」
そう何度も私服を目にしたわけじゃないが、たしかにスカートは履いてなかったと思う。
「制服は女子だろうが」
「当たり前でしょ」
「衣装も女の子らしいだろうが」
「凛ちゃんだけ男の子っぽくするわけにもいかないもんね…」
「…馬鹿が、凛、お前は紛れもなく女の子だろうが…!!」
何か腹が立ってきた。
事あるごとにくっついてきたり、水着のくせに飛びついてきたり、その度に心臓を跳ねさせていた俺が馬鹿みたいだろうが。
「あいつが無自覚なせいで俺がどれだけ心労を抱えてきたと思ってんだ…!」
「ほんとだよなー。自身が女の子だって自覚のない女の子が一番厄介だよ…っと。はっはっはっ動きが読めていれば蹴りなんてそうそう食らわんさ!」
「…もういい加減驚かなくなってきましたよ、天童さん」
「…」
「へいボーイ悪かったって。知ってる俺知ってる、読めていても躱せない攻撃もあるってさ。だから下ろして首絞まってんのよマジでギブギブ」
何かいると思ったら天童さんだった。相変わらず神出鬼没だ。しかも一発目は避けてくるようになったから余計腹が立つ。
「天童さん、お久しぶりです」
「げほっ、おうさ、お久しぶり花陽ちゃん。ちゃんと礼義正しい子がいてお兄さんは安心したぜ」
「ちゃんと下ろしたじゃねぇか」
「何でそれで礼義正しいと主張できると思ったんだお前さん」
礼義は弁えているぞ。弟達に教えるためにな。
「まったく、そんなんじゃ俺の命がいくつあっても足りないぜ。プリニーじゃねーんだぞ!残機数千とかそんなんじゃねーんだぞ!唯一無二の我がライフ!」
「要件は何すか」
「ガンスルーか貴様。まあいいか…。とにかく凛ちゃんについて補足だよ。正確には過去のトラウマの威力といったところだな」
「過去のトラウマ…」
「そ。精神が未熟な状態で受けた傷は結構深く残るもんだ。ナントカ恐怖症っつーのは幼児期に形成されるとか、幼児退行はトラウマを受けた時期に依存するとか、そういう報告もあるくらいだしな。それが正しいかどうかは別として、そういう事例はよく知ってる」
トラウマなんてものには縁がないが、大五郎が嫌なことがあるとすぐ拗ねるのを見ていると何となく察することはできる。子供にとっては些細なことも大きな問題なんだろう。
「まあ、繊細なんだろうな。元気ハツラツ無鉄砲に見えるが、根は臆病で傷つきやすいんだろ。
「…臆病…」
「そうさ、臆病なんだ。わからないか?
「…」
「た、確かに、凛ちゃんは男の人を避けることが多いのに創ちゃんは避けません…」
「そういえば天童さんとか桜さんともほとんど話さないわね」
言われてみれば、確かに凛は男性に話しかけることはほとんどなかった気がする。もちろんそれは凛に限った話ではないが、あれだけやたら人に絡んでいく凛の行動としては違和感があるかもしれない。
「まあ俺は基本一人で喋ってるだけだしな!くぅ〜自分で言ってて死にたくなるぜベイベー!!」
「そういうとこですよ」
「存じ上げております真姫ちゃんよ。しかし凛ちゃんはそういったレスポンスを返してくることもあまりないからな」
「じゃあ、何故俺と茜は平気なんだ…?」
「茜に関しちゃそう難しくねーだろ?
言われてみればそうかもしれない。以前の茜はにこしか見ていなかったし、凛がスカートを履いたからといってそもそも気づかなかったかもしれない。
「でも、それなら創ちゃんは…?」
「これもさほど難しくないんだが…あー、なんて言うべきかな。
「は?」
「待った待った拳を握りながら一歩踏み出すだけですっごい威圧感」
ふざけたことを言っていると歳上だろうが殴るぞ。
「ふざけて言ってるわけじゃーねーよ!!お前が優しい人間だと知った上で、見た目が怖いことも承知して!
「…そんなこと…」
「そんなことなくないぜ。当ててやろうか?
「…」
「へーい図星だろへーい。理解したか?理解したろ?
「た、確かに…」
「私はニックネームないものね」
「お?寂しいかお嬢さん?寂しいのかお嬢さnプエルトリコっ!!」
「何で殴られると国の名前が出てくるのよ…」
「まず殴っちゃダメだよ真姫ちゃん?!」
天童さんの言うことに間違いはない。
俺のことを「創ちゃん」と呼び始めたのは凛で、俺と花陽以外にあだ名はつけていないのだ。
最初は「創一郎って呼びにくいから」とか言っていたが。
本当にそれだけだと言い切れるか。
「一般的にはな、トラウマなんて他人の言葉で踏み倒せるものじゃねえんだ。どこの誰が何と言ったところで、自分の中では変わらない。自身の根底から克服するしかないんだ。…だが、もしかしたら、信頼する誰かの言葉で踏ん切りがつくこともあるかもしれない。なんの脈絡もなく言っても否定されるだけだろうがな」
「じゃあ、私たちが…」
「凛ちゃんは可愛いよって伝えればいいんですか?」
「君らさっきそれで真っ向から否定されてたのをお忘れかよ」
「じゃあどうしろってんです」
「滞嶺君は殺気をしまおうね」
本当に俺たちにできることがあるのか?
「何の脈絡もなく伝えても否定されるなら、脈絡をつくればいいんだろ。
「…あんた台風まで呼べるんですか」
「呼べるわけねーだろバーカあーストップストップ今の撤回するから待って待って超待って」
流石に台風は呼べないらしい。そこまでできたらもうこの人は人類じゃないな。ただし馬鹿にされるのは気に入らないから拳は振り上げておく。
「ええっ?!帰ってこれない?!」
「そうなの…飛行機が欠航になるみたいで」
「そりゃ台風来てるもんね」
「じゃあファッションショーのイベントは?!」
「残念だけど、6人で歌うしかないわね」
「急な話ね」
「自然災害に文句は言えないよ」
翌日。穂乃果ちゃんたちは台風の影響で帰って来れなくなってしまった、と連絡が来た。まあ仕方ないよね。京都とかだったらまだ若干危険ながら帰って来れたかもしれないけど、離島オブ離島の沖縄だからね。無理だね。
「でも、やるしかないでしょ!アイドルはどんな時も最高のパフォーマンスをするものよ!!」
「流石にこちゃん、心構えが違う」
「ふふん!」
「可愛い」
「ふんっ!!」
「ぐべぅ」
唯一にこちゃんだけは微塵もへこたれてない。まあ元オンリーワンだしね。3人減った程度で凹む子じゃない。でも肘はあかんて。肘は。
「それで、センターなんだけど…」
「…え?」
そう、センター。元々は穂乃果ちゃんだったけど、彼女が来れないんじゃあ変更せざるを得ない。
そして変わるとしたら、臨時リーダーの凛ちゃんということになる。いや別に他の子でもいいんだけどさ。
そんなことより。
センターには、この衣装を着てほしいってゆっきーからの依頼があるんだよね。
「う、うっそぉ…」
ウェディングドレス。
よく見る厳かで豪華なものというよりは可愛い系のものだけど、それでも紛れもなくウェディングドレスだ。値が張りそう。
「綺麗…すてき!!」
「女の子の憧れって感じやね」
女の子はこういう衣装好きだもんね。にこちゃんにも是非着ていただきたい。
「これを着て歌うの…?凛が?」
「穂乃果がいないとなると、今はあなたがリーダーでしょ」
「これを…凛が…」
…なんだか凛ちゃんがメンタルブレイクしそうになってる。あれかな、結婚前にウェディングドレス着ると婚期遅れるってやつかな。大丈夫だよ衣装だし。多分。
「にゃぁあああ!!!」
「あっ逃げた」
「待ちなさい!」
と思ってたら発狂して逃げてしまった。そんなに婚期遅れるの嫌なの。君まだ高校生なんだから大丈夫だよ。多分。
「てか創一郎捕まえてよ」
「…」
「おーい?創一郎ー?」
「…ん?」
「ん?じゃないよ。凛ちゃん追いかけるよ」
「お、おう」
創一郎は何をぼさっとしてるの。
すぐに逃げた凛ちゃんを追いかける。僕以外のみんなが。僕はのんびり歩いて屋上に向かった。どうせ行く先は屋上くらいしかないだろうしね。そう思って屋上行ったらもうみんなが凛ちゃん捕まえてた。早いよ。僕が遅いのか。
で、今どうなってんの。
「無理だよ!どう考えても似合わないもん!!」
「そんなことないわよ」
「そんなことある!!」
「一応聞くけど何してんの」
「一応答えるけど凛の説得よ」
なぜか頑なに拒否する凛ちゃん。どんだけ婚期遅れるの嫌なのさ。違う?
「だって凛、こんなに髪が短いんだよ?!」
「だから何さ」
「ショートカットの花嫁さんなんていくらでもいるよ?」
「そうじゃなくて!こんな女の子っぽい服凛には似合わないって話!」
「君はステージ衣装を何だと思ってんだい」
「それは、みんなと同じ服だし、端っこだから…」
どうやら可愛い服はお気に召さないらしい。そんな必死になるほど嫌なの。
「とにかく!μ'sのためにも凛じゃない方がいい!!」
「μ's関係なくない」
「…でも実際、衣装は穂乃果ちゃんに合わせて作ってあるから凛ちゃんやと手直しが必要なんよね」
「ゆっきーなら秒で直してくれるけど」
「お金取られそうやん?」
「まず間違いなく取られるね」
「でしょでしょ?!やっぱり凛じゃない方がいいよ!!」
「この中で穂乃果ちゃんに近いと言ったら…」
「んー…花陽ちゃんかな?身長は少し足りないけど」
「私?」
確かに、今回の衣装についてはオーダーメイドだ。穂乃果ちゃん以外が着るなら調整が必要になる。そしてゆっきーの場合遠慮なく追加料金を請求してくる。それはちょっと部の財政的に困る。
花陽ちゃんなら色々と調整しなくてもどうにかなる。そう、色々と。どことは言わない。にこちゃんに怒られる。
「ふん!」
「痛い」
何も言ってないのに殴られた。理不尽。
「そうにゃ!かよちんなら歌もうまいしぴったりにゃ!!」
「えっ?」
「歌はみんな上手いんだけど」
「確かに、急遽リーダーになった凛に全部押し付けるのもちょっと負担かけすぎな気もするわね…」
「僕前からそう言ってたつもりなんだけどね」
「花陽はどう?」
「お得意のスルーでございますか」
久しぶりにスルースキルを実感したね。実感したくなかった。
「…私は…」
「やった方がいいにゃ!かよちん可愛いし、センターにぴったりにゃ!!」
「でも…凛ちゃん、いいの?」
「……………いいに決まってるにゃ!」
「本当に?」
「もちろん!」
「決まりみたいね」
結局センターは花陽ちゃんになりそうだ。まあご本人もいいって言ってるしね。
…なんて、物分かりの良さそうなことは今の僕は言わないよ。
いいの?と聞かれた時の不自然な間に気付かないほど馬鹿じゃない。
「わぁー!かよちん綺麗!!」
「そ、そうかな?」
「うん!頑張ってね、凛応援してるから!」
「あなたも歌うのよ」
「そっか!あはは…」
「予想通りぴったりやね」
「いや、ちょっと脇が空きすぎかな。絵里ちゃん、直しておいてくれる?」
「わかったわ。さあ、あとはやっておくからみんなは練習に行って」
「わかったにゃ!さあ、いっくにゃー!!」
「何急に元気になってるのよ」
「凛はいつも元気にゃー!」
いつものように元気になった凛ちゃんはさっさと出て行ってしまう。いや、出て行く直前で一瞬振り返ったのは見逃さなかった。花陽ちゃんも微妙な表情で凛ちゃんを見ていたし、これは確実に何かある。
まあ、それは。
後でさっきから俯いている創一郎を問い詰めようか。
「…つまり、そういうことだ」
「ふむ。過去にからかわれたせいで自信がないと」
「…天童さんには、信頼する人からの後押しがあれば乗り越えられる…こともあるかもしれない、と言われたが…」
「なんか最近やたら首突っ込んでくるね天童さん」
そんなわけで帰り道、創一郎からことの顛末を聞いた。ほんとに思った以上にぴゅあぴゅあ繊細ガールだね凛ちゃん。あと天童さんどうしたの。前そんなに関わらなくても大丈夫かなーとか言ってなかったっけ。
「…何か俺にできることはないのか…」
「一応策は無くはないんだけどさ、創一郎、そろそろメンタル鍛えなよ」
凛ちゃん1人のことでそんな意気消沈してどうすんのさ。我らマネージャーがテンション低いのは部としてはダメだと思うよ。僕はテンション低いけど。だめじゃん。あと君は見た目に反してメンタル豆腐すぎだよ。
「…策があるのか?」
「あるけどね、正直あんまりやりたくないよ」
「言ってみろ」
一応思いついた作戦を話してみると、案の定渋い顔をされた。そりゃね。
「…お前、穂乃果に毒されたか?」
「まあ穂乃果ちゃんを参考にしたのは否定しないね」
「それで本当にうまく行くのかよ…」
「にこちゃんがよくやられてる技だし、多分何とかなるよ。てか何とかしなきゃね」
ちなみに作戦はこうだ。
こっそり凛ちゃんの衣装をセンターのドレスにすり替える。
以上。
すごくあたまわるい。
「準備とかどうするんだよ」
「何言ってんの。会場準備は僕らの仕事だ。隙だらけだよ」
「しかし…それだと花陽が…」
「うん、それは本当に申し訳ないんだよね」
準備に関しては、舞台関係は僕の、楽屋関係は創一郎のお仕事と決まっている。いつもは創一郎も照明設営のお手伝いなんだけど、今回はモデルさんとかも結構いらっしゃる関係で創一郎も別働隊として駆り出されちゃった。でも今回は逆に細工しやすくなったから良し。
そして、花陽ちゃん。
花陽ちゃんだってきっとあのドレス着たいだろうし、それをこっちの都合で剥奪するのは流石によろしくない。
だから。
「というわけで、今から電話しようか」
「は?」
「あ、もしもし花陽ちゃん?」
「おい?!」
ご本人と相談しようか。
イベント当日の準備は思ったより忙しくなかった。いや、バカみたいな忙しさに慣れてしまったのか?茜は大半の力仕事を俺に押し付けてくるからな、今日のように裏方に徹するのは比較的軽い仕事だ。
「ふー、久しぶりに業者の方々に設営頼んだ気がするよ。まあそこの費用はゆっきー持ちだから存分に使ってやる」
「結構遠慮ないなお前」
「お互いそういう関係なんだよ」
人の金で存分に焼肉食うみたいなこと言いやがって。
「それで、舞台はどうなってんだ?」
「どうも何も、さっき始まったよ。僕らの出番は最後だからまだ余裕あるけど、ダンス合わせたりするならそろそろ着替えるといいんじゃない」
「そうだね!じゃあみんな、着替えて最後にもう一度踊りを合わせるにゃ!」
「「「「「はい!」」」」」
「随分リーダーに慣れてきたね」
「結構努力してたみたいだしな」
「凛ちゃんの衣装はそっちね!」
「わかったにゃ!」
「…個室があるから平気なのはわかるんだけど、僕らちょっと居づらいね」
「今更言うか」
最終調整の時間も考慮して、そろそろ着替えて準備するようだ。楽屋に個別の更衣室があるため、俺たちが楽屋から追い出されることはないんだが…なんか、すぐそこで女子が着替えてるとなると落ち着かないな。
だが、ここから出て行くわけにもいかない。
既に俺たちの隣には速攻で着替えた花陽たちが待機している。
そして。
「かよちん、間違って
「間違ってないよ」
困惑した凛が個室から飛び出してきた。
それは当然だ。だって、凛の個室に準備されていたのはウェディングドレスなのだから。
間髪入れずに答えた花陽は流石と言うべきか。
「あなたがそれを着るのよ、凛」
「な…何言ってるの?センターはかよちんで決まったでしょ?それで練習もしてきたし…」
「大丈夫よ。ちゃんと今朝、みんなで合わせてきたから。凛がセンターで歌うように」
「そ、そんな…冗談はやめてよ…」
「僕はともかく、この子達が冗談でこんなことすると思うかい?」
「で、でも…」
「お前はするのかよ」
「するよ?」
「するのかよ」
するなよ。
未だ困惑している凛の側に、花陽が駆け寄る。その表情はとても優しい笑顔だ。
「凛ちゃん、私ね?凛ちゃんの気持ちを考えて、困ってるだろうなと思って引き受けたの。でも、思い出したよ!私がμ'sに入った時のこと!」
彼女は誰よりも凛を知り、凛に助けられてきた。困った時は助けてくれる、μ'sに入る後押しもしてくれた親友。
だからこそ。
「今度は私の番」
一方通行ではいられない。
こっちが助けるターンがあったっていいはずだ。
「凛ちゃん…凛ちゃんは可愛いよ!!」
「えっ?」
「みんな言ってたわよ?μ'sで一番女の子っぽいのは凛かもしれないって」
「そ、そんなこと…」
「そんなことある!!だって私が可愛いって思ってるもん!!抱きしめちゃいたいって思うくらい!可愛いって思ってるもん!!」
「えっ…」
「…」
「まさかの百合展開」
「何言ってんだ?」
「何でもないよ」
色々言った花陽も、それを聞いた凛も、お互い恥ずかしくなったらしく赤面している。すごいこと言いやがって。
「まあ実際、女の子らしさをどこに見出すかって問題はあるんだけどね。だから僕は女の子っぽいかどうかは明言できないんだけど、可愛いかどうかで言ったら可愛いよ。元々にこちゃんと並べるために僕は頑張ってたんだ、中途半端な子を入れるわけないじゃん」
「説得力のあるような無いようなこと言うんじゃないわよ」
「純粋に僕自身も可愛いと思ってるよ?…でもほら、そう言うとにこちゃんそうやって睨むじゃん」
「睨んでないっ!!」
「あぶしっ」
茜も少しはフォローを入れてくれた。心境としては微妙だが、状況を考えれば納得せざるを得ない論旨だな。
「あ、あとそのドレス、ゆっきーに頼んで凛ちゃんサイズに手直ししてもらったんだけどね。彼も『高坂穂乃果でなければ星空凛が着るとは思っていたから直す準備はしてある』って言ってたし、ファッションマスターから見ても君にそのドレスが似合わないなんてことはないみたいだよ」
「いつの間に頼んでたの…?」
「さっき」
「仕事早すぎねぇか」
いくら一瞬だと言っても「さっき」頼んで「今」に間に合うのはおかしいだろ。
「そ、そんな…凛は…」
それでも、これだけ聞いてもまだ自信が持てないらしい凛を見て、茜がこっちに目配せしてきた。
ああ、そういう手筈なんだ。
昨日の電話の時点で、花陽と茜と俺で決めたこと。
『多分花陽ちゃん一人で説得しようとしても無理だから、間に僕が入るから最後の一押しは創一郎お願いね』
『…何で俺なんだ』
『仲のいい同性の証言と、仲のいい異性の証言って別の効力があると思うんだよね』
『別にそれ茜の役割でもいいだろ』
『君の方が仲良いだろ』
『私も創ちゃんがいいと思う…茜くんって今でもやっぱりにこちゃんが一番って感じだし』
『そゆことそゆこと』
『そゆことじゃねぇよ』
最後の一押しの役目は、俺が担う…
「…」
「…」
……………………………何言えばいいんだ?
「………ねえ、創ちゃん」
「…なんだ」
凛の方から切り出してきた。
「凛は…凛は可愛いって、創ちゃんも思う…?」
さっき花陽の言葉を聞いた時よりもはるかに顔を赤くしながら、しかしまっすぐこっちを見て聞いてきた。
…聞かれたからには答えるしかないな。
「…バカかお前は」
「へ?」
近寄って、しゃがんで凛と目線を合わせてまず叱る。いきなり脈絡もなく可愛いなんて言えないしな。言えるわけねぇだろ。
「過去に言われたことがどれだけ響いてくるかなんて俺は知らねぇんだがな。可愛い女性にくっつかれて恥ずかしくないわけねぇだろ。お前気づいてなかったのか?毎度毎度、お前がくっついてくるたびにどれだけ俺が緊張してたと思ってんだ。どれだけ恥ずかしい思いをしてたと思ってんだ」
「え、えっと?」
なんかだんだん腹立ってきた。
「挙句お前水着で密着してきやがって。まだお前がもっと女性らしくなければよかったんだ、正真正銘360°どこから見ても可愛い女の子のくせに抵抗感もなくひっついてきてしかも恥ずかしい思いをしているのは何故か俺だけとか何だてめぇふざけてんのか」
「あ、あの…ごめんなさい?」
自覚が足らねぇ奴には自覚させなければならない。
迷惑は迷惑だと、害は害だと、利益は利益だと、善は善だと。自覚するからこそ正しく扱えるのが武器で、無自覚に振り回しては被害を振りまくだけだ。
可愛さだって武器なんだ。
しっかり管理してもらわなければ困る。
具体的には、俺の心臓が保たない。
「昔の男子が何を言ったかなんて関係ねぇ」
しっかりと、至近距離で目を見つめて。
「それを未だに引きずっているっつーなら俺がまとめて塗り替えてやる」
花陽じゃないが、今度は俺がお前を救う側だ。
「お前は、可愛い。誰が何と言おうと保証してやる。スカートを履いたって、化粧をしたって、女の子らしく着飾ったっていいんだ。お前は可愛い女の子なんだから。それを否定する奴は片っ端からへし折ってやる。全部全部叩き折って、お前が世界一可愛いって証明してやる」
俺の心を救ってくれたお前に、俺は全身全霊で返礼しよう。
「…だから安心しろ。お前はあのドレスを着ていいんだ。女の子なんだから。胸張って女の子らしくしてこい、
「すっ…………あっ、は…あ…………ぁぃ…」
「にこちゃん、あれは僕らがもう到達することのない青春の境地だよ。羨ましい」
「まあ私たちああいう感じのすっ飛ばしちゃ…って違う!!」
「はぶふっ」
何故か顔どころか耳やら首まで真っ赤にして、合わせていた目を伏せて両手で顔を隠してしまい、返事もやたらか細い声だった。茜は何故かにこに蹴り飛ばされているし、花陽も赤い顔で口元を押さえて驚いているし、真姫は若干赤い顔で髪の毛を指先で弄んでいるし、絵里は聖女みたいに微笑んでいるし、希は若干顔を赤くしながらにやにやしているし、一体なんだお前ら。
「…さあ、早く着替えてこい。踊り合わせる時間、なくなっちまうぞ」
「………うん」
「何でそんなしおらしくなってんだお前」
「……ううううう!!創ちゃんのバカ!!!」
「はあ?って危ねぇな殴るなよ」
「危ねぇなと言いつつ避ける素振りも見せないあたりが流石だよね」
何故か怒られた上に殴られたが、元気出たみたいだしまあいいだろ。
ウェディングドレス的な衣装を着て舞台上を歩く凛ちゃんを見て、微妙にほっこりした気分になってるなう。照明室からだとちょっと遠いけどね。
でも、マイクが拾ってくる「可愛い」やら「綺麗」という観客からの声援に目を輝かせている様はばっちり見えた。
「シャッターチャンスがいっぱいだ。ステージ脇のカメラで写真撮りまくっておこう」
「…結局、何やらゴタゴタがあったらしいが、問題なかったのか」
「うん。全部ばっちり解決したよ」
ちなみに隣にはゆっきーと桜がいる。ゆっきーは主催だから当然いるし、桜は楽曲提供で呼ばれているからここにいる。でも別に君らが照明室にいる必要はないじゃん。
「ったく、何が『女の子らしい服は似合わない』だよ。茜や滞嶺が着るんじゃあるまいし、そんなことあるわけねーだろ」
「僕はともかく創一郎はギャグですらないよ」
「…お前はいいのか」
「んなわけない」
桜も完全に呆れているご様子だ。呆れている上に、多分だけど、本来なら穂乃果ちゃんが今舞台上にいるはずなのが不在なせいでご機嫌ななめだ。こっちもこっちで青春だよね。次の人生は普通ににこちゃんに恋したいわ。
「おい曲」
「わかってるよ。機嫌悪すぎでしょ」
「悪くねーよ」
凛ちゃんの話が終わったタイミングで曲を流す。
Love wing bell。
元々凛ちゃんのために作った曲ではないはずなんだけど、なんだかとても凛ちゃんにぴったりな歌詞だ。
これから彼女も変身できるといいね。
「もうほんっとうに暇だったんだよ!!」
「わかったから。もう10回くらい聞いたから」
「海未ちゃんは寝落ちするまでババ抜きするし!!」
「待って何それ」
「一番夜更かししなさそうなやつが…」
「あっ…あれは、なぜか私が全く勝てなかったので…」
「負けず嫌い極まってるね」
「あと大体何でかは予想できるわよ」
数日後、台風は無事過ぎ去り、穂乃果たちも遅れて帰ってきた。今日は久しぶりに全員揃っての練習なのだが、穂乃果がもう喋る喋る。台風のせいで如何に暇だったか、と。
あと海未は多分顔に出てたんだろうな。
「あっそうだお土産」
「おや、ありがとう…ありがとう?」
「…何だこれは」
「シーサーだよ!」
「シーサー…これシーサー?」
「シーサーって言うならシーサーなんじゃねぇか…?」
「シーサーがゲシュタルト崩壊しそう」
急に思い出したように俺と茜に渡したお土産は、何か謎のポーズをとったシーサーらしき赤色のナニカだった。何だこれは。
謎の土産に俺たちが困惑していると。
がちゃっ、と。
屋上の扉が開き。
「お、スカートデビューだね」
「はっ。いいじゃねぇか、似合ってるぞ」
「えへへ」
遂にトラウマを乗り越えて、女の子らしい服を着られるようになったようだ。
「よーし!今日も練習、いっくにゃー!!」
そのまま元気よく練習に参加する凛。やっぱり、凛はこうでなくてはな。
「で、その写真はなんだ」
「この前のイベントの写真だよ。雑誌とかに載せられそうな写真を厳選してんの」
「…使わないやつはもらっていいか」
「使うやつでも構わないよ。実際使うのはデータの方だしね」
何となく数枚もらってしまったが、本人に確認取るべきだっただろうか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ハイパー純粋筋肉ダルマの滞嶺君が本気出しました。これこそラブコメ…!!波浜君より滞嶺君とか水橋君の方が主人公感出てますけど、一応主人公は波浜君です。ちなみにドレス調整費はばっちり取られました。
さて、次回はまたオリジナル話を挟みます。アニメ一話ごとにオリジナル挟んでるせいで話が進まない!!(自分のせい)