笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

前回に引き続き、天童さんのお話です。不良の群れに突撃した天童さんの運命や如何に?!やっちゃえ天童さん!!


というわけで、どうぞご覧ください。


今回は存在感のなかった「残酷な描写」が少し仕事してるのでご注意ください。




台本を投げ捨てた結末は

 

 

 

 

 

「なんっ…何だお前、何なんだ一体…!」

「おいおい、俺結構有名人なんだぜ?何なんだは酷いだろ。…いやそんなことより、何なんだはこっちのセリフだっつーの。女の子1人を連れ込むのに13人も用意しやがって、プライドとかねえの?つーか13人て。何お前らキリスト教徒なの?」

「関係ねえよキリスト教は!たまたまだ!…っと、ふぅ、いけねぇ、落ちつかねぇとな。…よう、天童一位さんよ。あんたこんな不良の溜まり場に来るような人じゃねえだろ?綺麗な顔に傷つけられたくなかったら大人しく帰りな」

 

 

不良のリーダーと天童さんが対峙して、睨み合いながら会話してる。顔はずっと恐ろしい表情のまま。

 

 

助けに来て、くれたのかな。

 

 

「はっはっはっバカかお前。目の前で女の子がレイプされそうになってんのにハイそうですかって帰るとでも?お前脳みその代わりに白子詰まってんだろ」

「しらっ…はっ、そんな安い挑発には乗らねえよ。こっちはバカだが力自慢の手下が12人もいるんだぜ?まあ、それでも抵抗するんなら、そこで羽交い締めにしてあんたの目の前でこの子を犯してやるよ。それがお望みなんだろ?」

「ほんとバカだなお前。13人相手にするのに無策なわけねーだろ」

「策があったとしてどうすんだ?トラップでも仕掛けてあんのか?」

「いーや、そんなものは必要ねーよ。こいつがあればそれで十二分だ」

 

 

そう言って天童さんが懐から取り出したのは…。

 

 

 

 

 

 

 

「…バカなのはあんただろ」

「何言ってんだ魔法少女なめんな」

 

 

オモチャの魔法のステッキ。

 

 

………………えぇ〜………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…呆れた。お前ら、やっちまえ」

「おっと、人は見かけで判断しちゃいけないぜ?もちろん道具もだ。よく見たらすごいんだぜこれ」

「はぁ?どこがだよ」

 

 

ステッキを高く掲げて堂々と威張る天童さん。見た目はシュールだけど…天童さんのことだし、本当に何かあるのかな。不良の人たちも警戒してステッキを見つめている。

 

 

「ほーれよく見てろ?このスイッチを入れるとだな…」

 

 

そう言って軽い調子でボタンをぽちっと押す天童さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!!!!!!って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音がしたかと思うくらい、物凄い閃光がステッキから放たれた。

 

 

め、目がっ!!!!

 

 

「ぐあああっ?!てめっ…やりやがったな!!ちくしょう見えねェ!!目が痛ええええ!!!」

「はーっはっはっ!!バカめ、敵がよく見ろって言ってんのに本当にじっくり眺めるやつがあるか!!」

「ぐえっ!!」

「うげぇ!!」

「あがぁっ!!」

 

 

天童さんの高笑いと一緒に、強烈な打撃音と悲鳴が聞こえてくる。もちろん、私も閃光を直視してしまったせいで全然見えない。天童さんが凄い勢いで不良の人たちを懲らしめてる、というのだけがわかる。

 

 

「粉末状のマグネシウムと酸素の瞬間燃焼を利用した手製のスタングレネードだよ。さすがに爆音は出せないがな、ほらこの通り目潰しには最適、だなっ!!」

「いっ、ひぎっ!!痛い痛い痛い痛いっ!!!」

「おうおうなんだ君たち、屈強な男たちが揃いも揃って喚きやがって!!いや、リーダーはそういうのお好きなんだっけなぁ?!」

「あぎゃあああああ!!!やっやめでぐれぇっ!!あっ足はそんな方向には曲がっ、ああああああああ!!!」

「てってめぇ!綺麗な顔して外道かよ!!ちくしょうまだ目が見えねぇ!!」

「ぎゃあっ!」

「おっと手当たり次第殴ると今みたいに手下を殴っちゃうぜリーダー君よ」

「構うものかよ!!つーかなんでてめぇ俺の趣味知ってんだよ!!最初から聞いてたのか?!」

「まさか。黒い服を着て死角から弾丸よろしく突っ込んで扉を蹴り破ったんだぞ、お前のしょーもない話なんか聞いてる余裕あるもんか。ただ多分そうだろうなって思っただけだぜ?」

「ちょ、今俺どうなってんだ?目が見えねぇから上も下も右も左もわかんねぇよぉ!!」

「おう、教えてやるぜー?今お前は逆さ吊りにされてて…鼻に蹴りを叩き込まれるところだよッ!!」

「ぐびゅう?!?!」

 

 

…こら、しめてる…?

 

 

なんだか、ホラー映画でしか聞かないような嫌な音が次々と聞こえてくる。悲鳴も今まで聞いたことない音量だし、明らかに喧嘩の音じゃない。何かが潰れる音。何かが砕ける音。何かが折れる音。…何の音かは、想像したくない。

 

 

明らかに、やりすぎなんじゃ…!!

 

 

「さーてあとは親玉だけかな?目は見えてる?見えてなさそうだな?そりゃ残念、予測通りだ。君の視力が戻るまであと48秒。そんだけあれば…何本骨折れるかねー?」

「ちっくしょう…クソ野郎が…おごっ?!」

「クソ野朗だと…?お前に言われたくねぇよクソ以下が。自分の都合で人の心も体も踏みにじりやがって」

「おぶっ、あがっ!うげぇ!!」

「おーおーもうちょい綺麗に鳴けよ。まだゾンビの方が綺麗な声してんぞ」

「うっ、ぐ…」

 

 

しばらく嫌な打撃音と水っぽい音が響いて、静かになったタイミングでやっと視力が戻ってきた。

 

 

何度も瞬きして、状況を確認する。

 

 

 

 

 

 

見たこともない、光景だった。

 

 

 

 

 

 

思ったよりも血まみれじゃない、いや、むしろ血は一滴も流れてない。逆にそれが恐ろしい。だってさっきまでニヤニヤしていた不良の人たちが、腫れて青黒くなった顔で横たわっていたり、壁にもたれかかったりしているんだから。痙攣している人もいれば白目を剥いて気絶している人もいる。しかも全員、手足の少なくとも1本は有り得ない方向に曲がっている。何でこれでまったく出血しないのだろう。

 

 

…天童さん、流石にこれは…やりすぎだよ…。

 

 

倉庫の中央、私の目の前では、不良のリーダーが天童さんに首を掴まれて吊り下げられていた。この人に関しては、両手両足がぷらぷらしていて…多分全部折れている。

 

 

「う、…」

「安心しな、殺しはしねぇよ」

「うっ!があああああああ!!」

「あーわりぃわりぃ。手足折ったのに投げ捨てちまったぜてへぺろ☆」

 

 

天童さんはゴミ袋でも捨てるかのように不良のリーダーを放り投げた。当然不良のリーダーは激痛で悲鳴をあげたけど、天童さんは全然気に病んでないみたい。

 

 

さっきまでとは違う意味で、声が出ない。

 

 

自分に降りかかる恐怖じゃないけど、目の前の光景が異次元すぎて声が固まってしまう。

 

 

「さて、じゃあどうするかって話なんだよな。もちろん()()()()で許すわけないしな。だからって殺すのはよくない。ああ、良くないな。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ひ、ひぃ…」

「あーオッケーオッケー、予測通りだ。恐怖で舌が固まっていれば舌噛んで自殺とかできねえからな。…さて、改めて、じゃあどうするかだが」

 

 

そのまま懐から何かを取り出す天童さん。改めて見てみると、今はもう鬼のような形相じゃなくて…怖いくらい無表情だった。

 

 

そして、天童さんがポケットから取り出したのは、プラスチックのケースに入った…。

 

 

「…ひっ!く、釘…?!」

「そう、釘。…やっぱ念のため布噛んでろ舌噛まないように」

「うぐっ」

「よしおっけー改めて。さっきから改めすぎだな俺。反省。…そう、釘だ。流石に見たらわかるか?こいつを使うぜ。どうやって使うかはいたって簡単だ。1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()現在時刻19時11分、神主さんが希ちゃんが戻って来ないのを不審に思ってここに探しに来るのが21時17分。釘の打ち込み始めが19時15分ジャストだから、122分、732本の釘をお前の体にひたすら叩き込む。…安心しな、死ぬようなところには打たねーし、気を失わないように話しかけてやるからさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう、無表情で言って、天童さんは釘と魔法のステッキを構える。あれで打ち込むつもりなのかな。

 

 

天童さんには微塵の躊躇もない。

 

 

道端のアリでも潰すかのように。

 

 

なんてことはないかのように。

 

 

釘を二の腕にあてがって、容赦なくステッキを振り上げる…!!

 

 

「さて、そーれっ!いー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめてえええ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耐えきれずに、叫んでしまった。

 

 

だって、見たくなかった。

 

 

人に釘を打つ天童さんなんて見たくなかったもん…!!

 

 

私が怖い目に遭ってるときに、2回も助けにきてくれた人なのに!!

 

 

そんな残酷なことをするところなんて、見たくない!!

 

 

「…」

「や…やめて…やめてよ天童さん…。たしかにその人たちは悪い人かもしれないけど、そこまでする必要はないですよ…!誰一人まともに歩けないじゃないですか!」

「…そりゃそうだろ。再び地に足をつけて歩くだなんて俺が許さない。ねじ曲がった手足を労わりながら静かに死んでいけ」

「そんなっそんな酷いこと…!!」

「酷い?相応の罰だろ。犯罪の罪は等しく死よりも重い」

 

 

釘を打ち付ける直前で止まった天童さんは、全くの無表情だった。いつもの飄々とした明るい天童さんとは全然違う。

 

 

ただ、ちゃんと止まってくれた。

 

 

「ううん、酷いよ…!もう十分だよ、今のままでも後遺症が残ったっておかしくないくらいだよ?!悪いことをしたのは確かだけど、そこまでしなくたっていいじゃない!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「………………………………敬語が抜けてんぜ、希ちゃん」

 

 

思わず泣きながら叫んでしまった。天童さんは今度は無表情じゃなくて、悲しそうに目を伏せて釘をケースにしまっていた。

 

 

そして、今度はこっちに歩いてくる。釘をしまった後、別のポケットからカッターナイフを取り出していた。

 

 

「…縄を解こう。残りの時間分のアルバイトを片付けたら、階段下に来てほしい。話をしたい」

「えっ…あの、この人たちはどうするんですか?」

「安心しな。殺しもしないし、出来るだけ痛めつけないように処理しておく。警察の目につくところに放り込んでおくだけだけどな。…まあ痛みのショックで死んだって言われたらちょっとどうしようもないけど」

「そんなっ

「わかってる。大丈夫、誰も死なないようにする。俺にはそれができる。明日のニュースでわかるはずだ。まったく、君は被害者なのによもや加害者を労わるなんてな。だいぶ頭のネジ飛んでんなぁ…。よし、解けたぞ。さあ、服の乱れを直して。行ってきな」

「…あ、ありがとうございます。…信じていいんですか?」

「………ご自由に」

 

 

どうやら、不良の人たちにはこれ以上危害を加えないでくれるみたい。信じていいかはわからない。ただでさえ読めない天童さんのことだから、口先だけで誤魔化すのはきっと得意だ。

 

 

でも、さっきは、私の言葉を聞いてくれたから。

 

 

私は、私のヒーローを信じたい。

 

 

「じゃあ、信じます」

「ちょろい子だな…」

「そんなことありませんっ。…じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 

服の乱れをを手早く直して、急いで倉庫を後にする。一瞬だけ振り向くと、天童さんは辛そうな顔で瞑目していた。

 

 

結局、天童さんは何者なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルバイトを終えて倉庫に箒を戻しに行くと、まるで何事も無かったかのように復元されていた。天童さんが蹴り破ったって言ってた扉さえも。やっぱり不気味やね。

 

 

「…遅かったな」

「天童さんならわかってたんやないですか?」

「君のことはわからないことだらけだよ。…さて、とりあえず歩こうか」

 

 

本当に階段下で待っていた天童さんは、いつもの元気さは全然なくて、なんだか疲れているように見えた。流石に13人の不良さんを懲らしめるのは疲れたのかも。

 

 

「それで…話したいことって何ですか?」

「…ああ、そうだな…あまり他人に話を聞かれないところに行きたいんだが…」

「行き先決まってないんですか?」

「いや決まってんだが…なんか言いにくくてな」

「…………ラブホとかですか?」

「君は俺を何だと思ってんだ」

 

 

違ったみたい。

 

 

「…俺の家だよ」

「えっ」

「俺の家。一番他人の目が届かない場所だろ?」

「…………ラブホとあんまり変わらないような…」

「だから君は俺を何だと思ってんだ」

「いえ…男の人が女の子を自宅に連れ込むっていうのは…」

「だから言いにくかったんだよちくしょう!!」

 

 

天童さんをからかっていたら、ついにいつものように変顔で叫び出した。それがなんだか嬉しくて、おかしくて…つい笑っちゃった。

 

 

「ふふっ」

「何笑ってんだまったく。こっちとしては今世紀最大の問題だぞ」

「うふふ、ごめんなさい!でも天童さんがいつもみたいな調子に戻ってくれたのが嬉しくて」

「…いつもみたいな、ねぇ」

「あっ、またしんみりした顔になってますよ」

「いいじゃねーかよしんみりしたって…」

 

 

いつもと違う天童さんを見れるのもちょっとうれしくて、ついからかっちゃう。ふふ、天童さんが女の子だったらわしわししてるところやね。

 

 

少しアキバから離れたところにある、ちょっと高そうなマンションに入り、最上階までエレベーターで登る。…天童さんのご両親ってお金持ちなのかな?

 

 

 

 

 

 

って、そうやん!お家ってことはご両親が…!うちの家にはいつもお母さんもお父さんもいないからすっかり忘れてた!!

 

 

 

 

 

 

「…どうしたよ。急に静かになって」

「えっあのっいえっ、ご両親になんて挨拶しようかって…」

「………ああ、それについては気にすんな。両親いないから」

「え?」

「君とは違う理由だけどな。さあ着いた、ここだぜ」

 

 

焦っていたのが急に冷めた。天童さんも家にご両親がいないんやね…。でも、うちとは違う理由ってことは…まさか、茜くんのご両親みたいに…。

 

 

天童さんに続いて玄関の扉をくぐると、すごい部屋が視界に広がっていた。マンションにしては広いとかそういうのやなくて、いや広いんやけど。

 

 

 

 

 

 

そこら中に紙束が溢れている部屋は初めて見た。

 

 

 

 

 

 

「まあ遠慮なく…っつっても足の踏み場がねぇな。まあ基本的に人呼ばねーからなぁ…ちょっと待ってな」

 

 

そう言って適当に紙束を拾い集める天童さん。天童さんって脚本家だし、これ全部脚本なんかな?だとしたらすごい。

 

 

なんとなく近くにあった紙束に目を向けると、台本みたいに人物と台詞が書いてあった。

 

 

 

 

小泉花陽『凛ちゃん…凛ちゃんは可愛いよ!!』

星空凛『えっ?』

西木野真姫『みんな言ってたわよ?μ'sで一番女の子っぽいのは凛かもしれないって』

星空凛『そ、そんなこと…』

小泉花陽『そんなことある!!だって私が可愛いって思ってるもん!!抱きしめちゃいたいって思うくらい!可愛いって思ってるもん!!』

 

 

 

 

 

…。

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

 

「こ、これって…?!」

 

 

思わず今見た紙束を掴んじゃった。続く会話も聞いたことがある、いや、()()()()()()()()()

 

 

何で天童さんが…?!

 

 

「それが俺の才能だよ」

「てっ…天童さん?」

「他人の行動を予測すること。そういう才能。それをまとめて脚本として形にして…現実に反映させられるのが俺が天才と言われる所以だよ。細かい言葉の差はあるだろうが、概ね俺の書いたシナリオ通りになってるはずだ」

 

 

いつのまにか後ろに立っていた天童さんが、そんなことを言った。そんな、未来予知みたいなこと。実は後から茜くんから話を聞いて脚本にしました、って言われたらまだわかるのに。

 

 

「まあ信じられないわな。先読みが得意くらいには思われてたかもしれないが、未来予測までできるとは思わないだろうし」

「そうですよ…流石に信じられません…」

「まあ信じられないならそれでいいけどさ。…そう、それより君に話したいことがあるんだった。まあそこに座りな」

 

 

そういえばそういうつもりでここに来たんやったね。お言葉に甘えて座布団に座らせていただいた。

 

 

「…話ってのはな、謝罪だよ。俺は君に謝らなきゃならない。本当にすまない」

「えっ?何で謝るんですか…?むしろうちがお礼しなきゃいけないくらいですよ?あの、助けてくれてありがとうございました」

「…違うよ。さっき言った通り、俺は人の行動を予測できている。だから、今日、君が襲われることは前から知っていた」

 

 

うちの正面に座って、項垂れてそう言う天童さんは…すごく弱々しくみえた。

 

 

「知っていて、止めなかった。そうしなければならなかった。シナリオ上では、君が襲われないとヤツらを捕まえることができなかったんだから」

「…」

「本当は…君を助ける予定も無かった。君が犯されている間に警察を呼んで、現行犯で逮捕させる予定だった。ヤツらは強姦容疑で一斉検挙される代わりに、君は家から出なくなり、2週間後に自殺する予定だった。…俺はそれを止めようとしなかった。君を犠牲にしてでも、ヤツらは悪として裁かれなければならなかった。だから、ごめん」

 

 

天童さんはまったく顔を上げずに、淡々とそう言った。何だか懺悔を聞く修道士さんになった気分。

 

 

だって、私は。

 

 

「…でも、助けてくれました」

「…いや、だけど…」

「助けてくれました。本当はそうする予定じゃなかったのに、私が犯される前に不良の人たちを倒してくれました。…やりすぎだとは思ってますけど、助けてくれたことは本当に感謝してるんです」

「…怖い思いをさせてしまったのに、それで許すっていうのか?」

「もちろん怖かったですし、なんなら天童さんも怖かったですけど…ほら、私はまだ貞操を守れていますから。天童さんがいなかったら失っていたんです。だから、ありがとうございます」

 

 

あの時呟いた「助けて」を。

 

 

天童さんは拾ってくれた。

 

 

どんな予定だったとしても、助けてくれたことに変わりはないもの。

 

 

感謝するに決まってる。

 

 

それを聞いた天童さんは、やっと顔を上げて驚いたように私を見た後…安心したように、フッと笑った。

 

 

「…本当にちょろいな君」

「ちょろくないです!」

「ちょろいよまったく。…まあ、でも、許してくれるのなら…ちょっと気が楽になる」

「はい。そもそも恨んでませんから。…でも、何でそんなに頑張って先読みするんですか?そんなことしてたらすごく大変そうですけど」

 

 

そう、さっきから不思議に思っていた。

 

 

仮に未来が予想できるとしても、こんな一言一句違わないほど正確に見通す必要なんてないと思う。ましてや、さっきの凛ちゃんたちのやり取りみたいに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そこまでして先読みしなきゃいけない理由がわからない。

 

 

「…それは…」

「それは?」

「………はぁ、人に話すつもりは無かったんだがな。まあいいや、せっかくここまで来たんだ。聞いていけ」

 

 

天童さんは一瞬誤魔化そうとしたのか目を泳がせたけど、諦めたようにため息をついて理由を話してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「幸せになりたいからさ」

 

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

 

すごく普通な答えに、思わず変な声が出ちゃった。

 

 

「死ぬほどシンプルだろ?でもちょっと違う。…さて問題だ希ちゃん。俺の両親は、何故いないと思う?」

「えっ?えっと…私と違うってことは…えーっと、あの…死んじゃった、とか?」

「あー、茜の話聞いてりゃそう思うわな。…残念、違うよ」

 

 

ちょっと答え難かったけど、違ったみたい。じゃあ、何でだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「初めからいないのさ」

 

 

「…え?」

 

 

「俺は、いわゆる捨て子。孤児なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

上を向いて、何かを思い出すように天童さんはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「これは…ここにある脚本は、当たり前の愛情さえ受けられなかった俺が、愛なんて無くても幸せになれるって証明するための人生のシナリオなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛とは何だ。

 

 

恋とは何だ。

 

 

当たり前のように言いふらすその言葉は、絶対必要なのか。

 

 

それをもらえなかった俺は、幸せになってはいけないのか。

 

 

…そんなの納得できるわけがない。

 

 

だから、俺は絶対に世界で一番幸せになってみせる。

 

 

何を犠牲にしてでも、愛など無くても幸せになれると証明してみせる…!!

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

天童さん大活躍…?です。何だかんだ強い天童さん。もうあいつ1人でいいんじゃないかな。
マグネシウム粉末は本当にめっちゃ光るのでお気をつけください。まあ金属マグネシウムは消防法で規制されてるはずなのでそうそう手に入らないんじゃないかと思いますけどね!
天童さんの行動やら何やらが忙しい今回のお話、次回は天童さんの過去編です。アニメ一期終盤に書いた波浜君の過去話みたいな位置付けです。天童さんも苦労してるんですよ!多分!!

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