笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

長らく続いた天童さん昔話の最終話です。天童さんの詳細は後書きに書くとして、全部わかっちゃった天童さんがどうするかをご堪能ください。


というわけで、どうぞご覧ください。




あり得なかったはずの幸福を

 

 

 

 

 

「まったくふざけてる。ああ、わかったからにはもう読み違えないぞ。自分の願望は全部押し込めて、友のために仲間のためにって生きててそれが幸せだと思ってるタイプだ…メサイアコンプレックスのいい例だよほんと。現実にいるとは思わなかったが」

「わかったって、天童さんがうちのこと好きってこと?」

「ぶっふぉあ?!?!」

「………………あの、本当にそうなんですか?」

「君は!!発言の重みを理解した上で!!冗談を言いたまえ!!!冗談のつもりがど真ん中ストライクをキメた時のことを想像しなさい!!!!」

 

 

冗談のつもりで言ってるのはわかっていたのに、ついむせてしまった。これが惚れた弱みというやつか。ちくしょう。

 

 

「あのぅ…」

「急に恥ずかしがるなバカタレ。…仕方ないだろ、俺は君みたいに生きたかったんだ。自分の幸せだけ追い求めるんじゃ、孤児院にいたバカと変わらない。本当は他人の幸せも拾いたかった。…自分しか優先できなかった。君の生き様が眩しすぎた」

「そ、そうなんですね…」

「…おい純情娘。自分から引っ掛けておいて恥ずかしがってんじゃねーぞこら」

「ううう、だってぇ!!」

「だってもヘチマもねぇ!!」

「…ヘチマ?」

「ヘチマ。」

 

 

茜が言ってた「実はピュア」ってこのことか。ふざけんな可愛いげふんげふん今のナシな。ナシだ。聞かなかったことにしろ。

 

 

だいたい、俺だって惚れたからってこの子を優遇するわけにはいかないんだ。

 

 

だって、いくら自分の望みを直視したからって今更引き返せないから。ここまで全部見捨ててきて、ここに来て「恋しちゃったから」なんて理由で一人だけ助けていたらシナリオはご破算だ。

 

 

どうにかして嫌われる必要がある。

 

 

ならば、手段は選ばない。

 

 

「俺は君が欲しかった」

「ええっ?!」

「だから…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち上がり、希ちゃんの首を掴んで地面に押し倒し、その上に覆いかぶさる。

 

 

悲鳴をあげる暇すら与えない。

 

 

これが、女の子には一番()()はずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから…君を、奪わせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際、希ちゃんに関しては同じような理由で怖い目に遭っている。そういう記憶をぶり返せば、信用を崩すのは容易い。

 

 

だから、嫌ってくれ。

 

 

向き合いたくなかった自分と向き合って、本当の夢から目を逸らせなくなってしまったんだから、せめて以前のように不公平なく人を見殺しにしたい。

 

 

今さら路線変更なんてできないから。

 

 

許せない過去を振り切って何食わぬ顔顔で人助けなんてできそうにないから、許されないまま、いつも通り、シナリオ上の幸せを追わせてくれ…!!

 

 

 

 

 

 

 

それなのに。

 

 

そう思っていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いいですよ」

「な、ん、だと…………!!!!」

「いいですよ、天童さんなら。2回も助けてもらったんですもん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この子は。

 

 

おかしいくらい慈愛を極めたこの女の子は。

 

 

そんなことを、言ってのけるんだ…!!

 

 

「…………そうかよ。そう、言うなら…!!」

「……っ」

 

 

押し倒しておいて引き下がるわけにもいかない。ここで実際に希ちゃんを犯してしまえば、流石に彼女は俺から離れていくだろう。

 

 

どうせもう沢山の人を見殺しにしてきたんだ。

 

 

今更、女の子一人汚すことくらい、どうってことはない。

 

 

大体、シナリオ上ではこの子はこの後自殺する算段だったんだ。その軌道上に乗せるなら丁度いい。

 

 

だから、右手で首を掴んだまま、左手を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そんなこと…!できるわけ、ねぇだろ…馬鹿野郎…!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしても、だめだった。

 

 

左手は動かなかった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「くそっ…何で…!ここで、ここで途切れてしまったら!今まで全部見殺しにしてきたのに、ここで君を逃してしまったら…今までの犠牲者たちに顔向けできないだろ…!!」

「天童さん…」

「一人だけ優遇するなんて許されない!不公平は許されない!!俺が誰よりも幸せになるには、あらゆる点で公平でなければならない!!だって、だって!誰かを優遇したら、そのバランスを取るように妬む人間が必ず出てくる!…そうあってはならない、敵がいてはならない、絶対に、絶対に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

涙が出てきた。希ちゃんに覆い被さったまま、それでも迷いを振り切るために叫んでいた。いつのまにか首を抑える右手も離れて、彼女の顔の横で手をついていた。左手も同様。要するに、希ちゃんの顔の両サイドに手をついてるわけで、つまり2人の顔は至近距離なわけである。

 

 

 

 

 

 

…やばない?

 

 

 

 

 

 

希ちゃんは顔を赤くしてこっちを見てるし、恐怖は微塵も感じられない。戸惑ってはいるが、どう見ても受け入れ態勢だ。逃げるそぶりは全くない。何だこの子。

 

 

急に我に返って不覚にもちょっとドキドキしちゃってるところに、さらに不意打ちが来た。

 

 

希ちゃんが、目を閉じて顔を近づけてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に猛烈な悪寒が走った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

目前まで迫った希ちゃんの顔から逃げるように、自分でも引くくらいの勢いで後ろに飛び退いた。勢いで机に頭ぶつけたちくしょう痛え。

 

 

「なっ、何をしようとした君は!!」

「…そんな、逃げなくても…」

「逃げるでしょ!そりゃ逃げるでしょ!!まったく年上のおにーさんのファーストキスを奪おうとするんじゃないよまったく…おー怖い怖い」

「怖いって…怖い?」

「怖いでしょ急にキス迫られたらもー!」

 

 

悪寒は消えたが怖かったものは変わらない。頭も痛い。つーか俺が逃げなかったらキスしちゃってたじゃんよ君はそれでいいのかよ。いやいいからあんなことしたのか?なにこれつまり不束者ですが云々ってやつ?やべぇ想像したらまた怖くなってきた。何に怖がってんだ俺は。

 

 

もう頭の中が混乱の極み状態になって頭をもしゃもしゃして、頭ぶつけたところに指が当たって痛え!!ってなって、もう人生で初めてパニックモードになってる俺。これがパニックか。知りたくなかった。

 

 

そんな俺を見つめて何か真面目な顔で考え事をしていた希ちゃんが不意に笑顔になった。

 

 

「…ああ、うふふ。そういうことなんやね」

「何だ何がおかしいんだいや今現在の俺が相当おかしい状況なのは百も承知でございますけれどもー!!」

「ふふっ確かに今の天童さんも面白いですね」

「言外に今以外の俺も面白いと評してませんかお嬢さん」

 

 

面白くあろうとしてるからそれは別にいいけどさ。

 

 

「…天童さん。もしかして、()()()()()()()()()()()()

「なん…………いや、そんな…ことは…」

「ふふっ、そうなんですね?今逃げたのも、嫌われようとしたのも、愛されるのが、愛を受けるのが怖かったからですね?」

「ち、ちが…わ、ない、のか…?」

 

 

言われてもピンとこないが、想像してみればすぐに理解できた。

 

 

今までの人生、愛されたことなんてない。俺がそう仕向けたから。だから、愛されたって何を返せばいいかわからない。貰っておいて、返さないのはどうかと思う。だが、どうしたらいいかはわからない。その結果、返礼をしなかった報いがどう降りかかってくるかが全く想像できない。返礼を間違った罰がどう襲ってくるか予測できない。

 

 

いわゆる、未知への恐怖。

 

 

全てを予測して見通してきた俺にとって、多少のイレギュラーならまだしも、全く先が想像できないのは尋常じゃない恐ろしさを感じるらしい。

 

 

…なんかすげー情けないヤツみたいに聞こえるな?

 

 

「ぐぬぬ…反論が思いつかないあたり、事実そうなのかもしれん…なんか悔しい…」

「天童さんにも怖いものがあるんですねー?」

「うっせぇにやにやしながら寄ってくんな!怖いものの一つや二つ、真っ当な人間なら持ってるだろ!」

「えー天童さんって真っ当な人間ですかー?」

「なんてひどいことを言うのか君は!!いや自分でも違うとは思うけど!思うけどさぁ!!」

 

 

非常に楽しそうな顔をしてにじり寄ってくる希ちゃん。くっそこの子絶対楽しんでるだろ。やめろ。微妙に抵抗し辛いんだ。惚れた弱みとか言うやつかちくしょう恥ずかしいなオイ。これさっきも言った気がするな。

 

 

「…大丈夫ですよ」

「何が?!」

「さっき押し倒してきた時、右手に力を入れてなかったり、頭をぶつけないようにしてくれていたのはわかってます。私は天童さんの優しさを知ってます。…今はスクールアイドルなので、恋人にはなれませんけど…卒業したら、いっぱい愛を教えてあげますから」

「……………………君、それほぼ告白なのわかってる?」

「………………………ぁぅ」

「ほーらわかってない!!自覚症状ナシ!!だから茜にピュアとか言われんだよくっそ可愛いな待った今のなし」

「……………」

「照れるなもじもじするな俺も恥ずかしい!!恥ずか死ぬ!!」

 

 

希ちゃんの顔が真っ赤だが、きっと俺の顔も真っ赤であろう。なんせ体温がハイパー高いからな。顔あっついからな。ちくしょうなんでこんなラブコメみたいなことになってんだ。

 

 

「あ、あの…天童さん?」

「何だね純情乙女ちゃん」

「恋人って…手を繋いだり、えっと、ちゅ、ちゅーしたりするんですよね…?」

「…………まあ、一般的には、そうなんじゃないか?」

「〜〜〜〜!!」

「なっ!んっ!でっ!!自分で聞いといて!!余計恥ずかしがってんだよ君は!!さっき自らキスしようとしてたくせによお!!バカなのか?!Mなのか?!つーかまだ恋人になれるかどうかわからんでしょー?!?!」

「えっ…だめ何ですか…」

「君さっき自分で卒業するまで待ってって暗に言いましたよね?!?!そのタイムラグの間は俺は何も伝えないし聞かないし返事しませんからね?!しないよ?!そんな泣きそうな顔すんなよあーもー!!」

 

 

うわぁって叫びながら頭をかきむしる。さっきまで泣きそうだった希ちゃんは今度はくすくす笑ってやがる。ちくしょう百面相め。

 

 

「…まったく、人をからかって遊ぶんじゃねぇよ…。好きな子にはイタズラしたくなる的な小学生的発想してんじゃないだろうな?」

「…」

「図星かよ!照れんなよ!俺も恥ずかしくなるじゃん!!さっきから無限に恥ずかしいんだよ!!もう帰れよ時間も遅いし送ってくからさあ!!」

「…そうやって送り狼に…」

「な!ら!ね!え!よ!!!」

 

 

何か無限に希ちゃんに弄られるなおい何でだ。つーかそろそろ下階の住民に怒られそうな気がしてきた。

 

 

「ったくもう、こんな恥ずかしい思いするために呼んだんじゃ無かったのに…。さあさっさと帰る支度なさい」

「はーい」

 

 

いい加減日付も変わりそうな時間になってしまったし、これ以上恥ずかしい思いをする前に家に返すのが得策だろう。さっさと帰りなさい。護衛するから。

 

 

そう思っていたら、不意に俺のスマホに着信が来た。

 

 

画面を見ると、大地からだった。

 

 

 

 

 

 

あ、やっべ。

 

 

 

 

 

 

「……………やべぇすっかり忘れてた」

「どうしたんですか?浮気ですか?」

「恋人でもない人の浮気を疑うなよ怖えよ。いや今はこの電話の方が怖えな…」

「誰からなんです?」

「大地だよ。詳細は話せないが…」

 

 

大地に今日のバラエティ番組の収録の詳細を教えないでおいたのを忘れてた。具体的に言うとタイキック食らうことを伝えなかったのを忘れてた。元々の予定では予めフォローを入れておくことで冗談で済ませる予定だったのだが…希ちゃんと話していて完全に忘れていた。これは確実にご立腹だ。激おこプンプン丸だ。

 

 

恐る恐る通話ボタンを押す。今こそシナリオ力を発揮する場面だ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へいもしm

『天ッ!!!!!!!!童ッ!!!!!!!!!!!!!』

「ぎゃあああああ耳があああああああ?!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無理だった。

 

 

今回もやっぱりダメだったよ。

 

 

『ほんっっっっとうに痛かったんだからな?!何でそういう肝心なところ教えておいてくれなかったんだよ!!!!』

「ま、まあまあ…バラエティ的には美味しかっただろ?他の皆様は予告なく蹴り入れられるんだし、それよりはマシさ!!」

『そういう問題じゃない!!天童もやられてみろ!!もうめちゃくちゃ痛いんだぞタイキック!!!』

「あっはっは…俺は遠慮しとく…」

『天童うううううう!!!』

「はいごめんなさいマジでごめんなさい私が全面的に悪かったファミチキあげるから許して」

『ああん?!?!』

「ファミチキはご所望ではありませんでしたかそうですかー!!」

 

 

割と本格的にキレてらっしゃった。これは土下座案件だ。わかる、わかるよ、タイキック痛いよな。でもそんなに怒ることないじゃんね。はいわかります俺のせいですねすみません。希ちゃん何必死に笑い堪えてんだ。いっそ笑え。

 

 

何とか謝り倒してハーゲンダッツで手を打ってもらった。ハーゲンダッツで済んでよかった。ナイス俺の才能。

 

 

「…さあ、行こうか」

「………ふふっ」

「まだ笑ってんのか君は!!俺の返事しか聞こえてないくせに!!」

「いえ、天童さんの返しと、あと、顔が…」

「顔ッ!!!!!!」

 

 

変顔してたのは認めるけどさぁ!!人から恨みを買わないキャラとしてネタキャラを演じ続けてきたのが、いつのまにか素になってたんだよしょうがないでしょもー!!

 

 

散々笑われながら家を出て、今度は希ちゃんの家に向かう。さっきまで爆笑してたくせに、途中からは黙ってしまった。俺も何も話せなかった。何を話せばいいかわからん。頑張れ俺の才能。こういう時に活用するもんだろ。話せないならせめて未来予測だ未来予測。俺の十八番だろ。ちくしょう頭回んねーな。

 

 

随分長く歩いた(気がする)後、もうすぐ希ちゃんの自宅というところでやっとわずかに未来が読めた。そのままでは気に入らない結末になるのもわかった。一回くらい、希ちゃんの願いも叶えてやりたいところだ。

 

 

その手段を探るのにまたしばらくかけ、ちょうど希ちゃんが住むマンションの一室にたどり着いた時にようやく思いついた。

 

 

「…あの、私の家、ここなので…」

「お、おう。…なあ、希ちゃん」

「はっ、はいっ」

「何でそんな緊張してんだよ。…あのさ、君がμ'sにいられるのもあと少しなんだ。一回くらい、みんなにわがまま言ってもいいと思うぜ?」

「…そんなの…」

「まあ遠慮するわな。じゃあ…そうだな、来月にはラブライブ最終予選あるんだし、()()()()()()()()()()()()()()既存の曲より初見の曲の方が印象に残るだろうしな」

「ええっ?!そんな、今更新曲を作るなんて…」

「君らなら1ヶ月あれば余裕もいいとこだろ。…まあ、どうするかは自由だけどさ。()()μ()&()#()3()9();()s()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ら、らぶそんぐ…」

「…君はいつもの余裕綽々の調子はどこ行ったんだ」

「ぅぅ、うううう!!」

「痛っなんだ?!何故殴る痛っ!!」

 

 

即興のシナリオに希ちゃんを乗せるための助言をしたら、なぜかぽかぽか殴られた。なんだ可愛い…いや何でもない。

 

 

「まったく…、とにかくっ。一回くらいわがまま言ってみろ。友達を信用してみなさい。…じゃあ、俺はもう帰るから」

「あ、あのっ」

「何だまだなんかあるのかー?!」

 

 

このままだと埒があかないので、名残惜しいがさっさと去ることにする。しようとしたのに呼び止められた。何だよもうこのままだと朝までここに居座っちゃうぞ。無くはない。いや無いわ。

 

 

当の希ちゃんはまた顔を赤くしてもじもじしていた。いいぞもっとやれ。あっちょっと待った今のナシ。変態みたいに聞こえる。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、その…」

「…」

「………………えっと、その、あの、か、鍵…うちの鍵、そこの植木鉢の下に、あるので…」

「……………………………はい?」

「なっなんでもないです!!!!さよなら!!!」

 

 

 

 

 

 

鼻先でバタンっと玄関のドアを閉められてしまった。

 

 

…今のは、今度はうちに来いということだろうか。

 

 

何をさせられるんだ。

 

 

軽く恐怖を覚えながら家に戻っている途中に、希ちゃんからメールが来た。

 

 

『さっきのは忘れてください。』

 

 

そう書いてあった。

 

 

「…」

『イヤです』

 

 

そう返事した。

 

 

そしたら怒涛の如き長文の文句が来た。めちゃくちゃ誤字が多いあたり、相当焦って恥ずかしがって送ってきたと見える。

 

 

うむ、もう誤魔化さないでおこう。

 

 

この子めちゃくちゃ可愛いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さっきのは忘れてください。』

「…」

『イヤです』

「〜〜〜〜っ!!もうっ!!!」

 

 

別れ際に、少し寂しくなっちゃって、つい変なこと言っちゃった。恥ずかしくなってメールしたらまたいじわるな返事が来た。余計恥ずかしくなっちゃってぽぽぽぽぽって思いつく限りの文句を打ち込んで送りつけた。よく見たらいっぱい誤字しててもっと恥ずかしくなった。

 

 

もう今日はダメな気がするから、お風呂でシャワーだけ浴びてすぐ寝ちゃおう。そう思ってお風呂に向かい、服を脱ごうとしたところで、まだ手首に縄の跡が残ってるのに気がついた。

 

 

…天童さんが来なかったら、この程度じゃ済まなかった。もっと色々失っていた。まだこの跡を見ると恐怖で震えるけど、多分この程度の跡なら明日には消えてる。それに、恐怖よりも愛しさが溢れてた。

 

 

天童さんなら13人が相手でも「絶対勝てる」っていう脚本をなぞれば喧嘩も勝てるんやろうけど、どんな脚本があったってそう簡単に喧嘩に勝てるわけない。

 

 

マグネシウムを燃やすと強い光を出すっていう知識。13人の目線を集める技。そして視界を失って暴れ回る人たちを速やかに無力化する力。色んな前準備が、どんな事態を強制されても乗り切れるような備えがないとできないことだった。

 

 

きっと幼い頃からたくさん勉強して、たくさんトレーニングして、今まで生きてきたんだと思う。不断の努力と強い意志、そういうものが天童さんを形作っている。

 

 

それなのに、あの人はきっと、自分ができることを誇るより先にできなかったことを見て悲しんでいる。

 

 

なんて、不器用なんだろう。

 

 

私も人のこと言えないけど。

 

 

そんな不器用さが愛しくてたまらない。

 

 

「はぁ〜…もしかしてうち、相当重症なんじゃ…」

 

 

シャワーを浴びている間もずっと天童さんのことを考えてる。ああん、もう、にこっちのこと笑えなくなるやん。恋するって、こんなに恥ずかしくて、会えないのがつらくて…でも、つい顔が緩んじゃうくらい、幸せなことなんやね。

 

 

「…それにしても、ラブソング、かぁ」

 

 

シャワーを止めて体を拭き、パジャマに着替えてドライヤーで髪を乾かしながら呟く。今ラブソングなんて考えたら天童さんいっぱいのラブソングになっちゃう。だめだめそんなの恥ずかしい。

 

 

髪を乾かし終わって、歯を磨いて、電気を消してお布団に飛び込む。もう時間も遅いからか、すぐ眠くなってきた。

 

 

「ラブソング…天童さんにラブソング…えへへ」

 

 

ラブソングって言葉だけでなんだかにやにやしちゃう自分に気がついて、一旦起き上がってほっぺたをぺしぺし叩いて表情筋を戻してもう一度お布団に潜る。

 

 

うん、言ってみるだけ。

 

 

みんなに言ってみるだけなら、やってみてもいいかも。

 

 

そう思いながら、結局にやにやしたまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ………て、天童さん………待って……」

「大丈夫、優しくするから…。さあ、いくよ…」

「あっ、あっ、ああっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っだああああああああああ!!!!」

 

 

 

「ひゃああああ!!!」

 

 

 

「はっ…夢か…。はぁ…危ねぇ、色々危ねぇ。………出てないよな?うん、出てない。ちょっと夢精はよろしくない。恥ずかしい。あーもー朝っぱらから変な気分だなあオイ!!!」

 

 

 

「ゆ、夢かぁ…。わ、私…なんて夢を…やぁん…私、そんなはしたない子じゃないもん…」

 

 

 

「ちくしょう予定より早く起きてしまったじゃねーか!!よしこういう時は筋トレだ!筋肉が全てを解決する!よーしスクワットしながらシナリオに修正をかけるぞ…。この筋トレぶんの影響を直さねば!!いや今の夢を記録しといて夜のお供に…いやダメだ!希ちゃんはそういう不浄な目で見てはいけない!いや見たいけどさあ!!誰に弁明してんだ俺はちくしょうバーカバーカ!!」

 

 

 

「はうぅ…。だ、だめだめ!顔洗って朝ごはん食べよ…!夢なんてすぐ忘れるから大丈夫…だと思う!うん、何もなかった、うちは何も見なかったよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知る由もないが。

 

 

俺と希ちゃん、その日の夜は同じような夢を見たらしかった。

 

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

終盤で察しがついた方もいらっしゃるかもしれませんが、スノハレ編に入る前にこのお話を入れておきたかったんです。だからアニメ2期に入ってからやたら天童さん出番多かったんです。
というわけで天童さんと希ちゃんが(ほぼ)くっつきました。希ちゃん実はこのくらい照れ屋で純情なんじゃないかと勝手に思ってます。

天童さんのテーマは「愛情」です。希ちゃんのお相手を考えるにあたって、希ちゃんの掴み所のなさを上回り、かつ希ちゃんの助けを必要とするような男性を考えたらこうなりました。あと、ご都合主義的な「絡まれてるところに偶然通りかかる」っていうのはつまらなかったので、「全部知ってて止めに入る」形で助けるのを書きたかったので、掴み所のない天童さんにその役目が回ってきました。いい感じに胡散臭い人になってくれたと思います。
ちなみに設定を細かく考えた男性陣第3位です。第2位は波浜君で、第1位は…ナイショです。天童さんはだいたい何でもアリだと思ってるので設定盛るのが楽でした。ネタキャラですし。

とにかく、天童さんについてはまだちょっと謎もありますが(名字の由来とかご両親とか)、恋愛的には波浜君に続いてほぼ完了です。次は誰と誰がくっつくのか…楽しみですね!!

というわけで次回は本編に戻ります。アニメ2期も後半くらいでしょうか?残りも頑張ります。

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