笑顔の魔法を叶えたい   作:近眼
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ご覧いただきありがとうございます。

今回は前回に引き続き本編希ちゃん話です。切りどころがわからなくて10,000字超えました。気合い入っちゃいましたね!!そういうことも稀によくあります。


というわけで、どうぞご覧ください。




幻想のハレーション

 

 

 

 

 

「好きだ!愛してる!!」

「何でそんな勇ましいのさ」

「うあーん!こんなんじゃないよねー!!」

「ま、まあ…間違ってはないわね…」

「でも創一郎の告白みたいになってるよ」

「ああん?」

「痛い痛い」

 

 

というわけで穂乃果ちゃんの家に来たのだ。

 

 

まずは演技してみようということになったので穂乃果ちゃんにやらせてみた。そしたらこうなった。知ってた。とても男らしいド真ん中ストレートだ。益荒男みを感じる。創一郎みたいだ。そう言ったら頭掴まれた。痛いよ。僕の頭はボールじゃないよ。

 

 

「はぁ…ラブソングって難しいんだねぇ…」

「ラブソングは結局のところ、好きという気持ちをどう表現するかだから…ストレートな穂乃果には難しいかもね」

「まあ最終手段として僕がにこちゃんへ告白するんぎゃっ」

「ストレートというより単純なだけよ」

「人の顔に拳を叩き込んでおいてなんでそんな何事もなかったみたいな顔してるのにこちゃん」

「と言ってるにこっちもノートも真っ白やん」

「こ、これから書くのよ!!」

「無視かい」

「真っ白?なんか前のページはいっぱい書いてあるが」

「え?ほんとやね。何が書いてあるのー?」

「ばっ、やめなさい!何でもないわよ!」

「そうだよどうせ僕への愛が溢れてへぶっ」

「あ!ん!た!は!!!」

「痛い痛い死んじゃう」

 

 

図星だったらしいよ。嬉しい。こうなったら僕もにこちゃん観察日記を引っ張り出してくるしかない。黒歴史だけどさ。あれほんとにどうしよう。

 

 

とりあえず馬乗りになってボコボコ殴ってくるのはやめて。とてもいたい。あとなんか見た目が騎乗位げふんげふん今の無し。

 

 

「とりあえず、演技は役に立たなさそうだし、恋愛映画でも見るかい?色々持ってきたよ」

「何でそんなにあるのよ」

「僕自身が参考に集めたものと、天童さんの作品と、天童さんのお気に入り作品を押し付けられたのと、桜のおすすめ(音楽が)を押し付けられたもの」

「半分くらい押し付けられたものじゃないの」

「そんなことないよ。8割くらいだよ」

「もっと多いじゃないの」

 

 

仕方ないじゃん。天童さんがバンバン送ってくるんだもん。

 

 

「ローマの休日でも見るかい」

「なんでチョイスがそんな古いのよ」

「ローマの休日舐めちゃいけないよ。名作なのだよ」

「茜くんの意外な趣味が…」

「いや芸術家なんだからむしろ好きそうじゃねぇか」

 

 

ローマの休日すごいのだよ。オードリー・ヘップバーンだよ。いや女優さんそのものはどうでもよくてね。やっぱりイタリアの街は良いよ。その見せ方もね。魅せ方と言うべきかな。とにかくいいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、部屋を暗くしてシアターさながらの鑑賞会開始。テレビの画面大きいの羨ましい。今度買おう。デジ絵が描きやすそう。あれっそれテレビじゃなくてモニターでいいじゃん。

 

 

「うぅ…」

「ぐすっ…」

「かわいそう…」

(めっちゃハマってくれてる)

(約3名を除いてな)

(穂乃果ちゃんと凛ちゃんが寝るのはわかってたからいいとして、海未ちゃんは何してんの)

(知るか)

 

 

絵里ちゃんとことりちゃんと花陽ちゃんが超泣いてる。ほらね。白黒世代も舐めたもんじゃない。素敵な映画だよ。ほら創一郎も泣け。

 

 

「ううぅぅ…何よ、安っぽいストーリーねぇ!!」

「ほらにこちゃんハンカチ」

「泣いてなんかないわよぉ!!」

「ぐぇ」

「…お前ほんと不憫だな」

「遂に憐れみをいただいてしまった」

 

 

にこちゃんは文句言いながら号泣してた。ハンカチ差し出したら殴られた。ひどい。そんな光景をまともに見てるのは希ちゃん、真姫ちゃん、創一郎だけ。一応泣いてる子たちは映画見てるからいいか。寝てる子とか見てない子とかいるし。

 

 

いやなんで見てないの。

 

 

海未ちゃん。

 

 

「ところで海未ちゃんは何してんの」

「うううう…」

「何で隠れてるの?怖い映画じゃないのに」

「そうよぉ…こんな感動的なシーンなのにぃ…」

「泣きすぎでは?」

「結構人情に弱いよな絵里」

「分かってます!!けど、恥ずかしい…!!」

「恥ずかしいってお前…」

「はっ!」

 

 

どうやら海未ちゃんはラブシーンが恥ずかしい様子。耐性なさすぎでは?今度椅子に縛り付けて濡れ場でも見せてやろう。後で殺されそうだからやっぱやめとこ。

 

 

で、海未ちゃんが目を向けたテレビの画面では今まさにキスシーンであった。マジでキスする5秒前だ。MK5。なんか銃の名前みたい。

 

 

それを見た海未ちゃんは…。

 

 

 

 

 

「うわあああああああ!!」

 

 

 

 

 

なぜか叫んでテレビを消し、電気をつけた。叫ぶ必要あったの今。っていうか一番肝心なところを放棄しちゃってまったく君は。何のための映画鑑賞なのさ。にこちゃんの泣き顔見るためだよ。違うわ。

 

 

「恥ずかしすぎます!!ハレンチです!!」

「そうかなぁ」

「そうです!!そもそもこういうことは人前ですべきことではありません!!」

「映画だから人前というかカメラ前なんだけどね」

「つーかキスくらいで何うろたえてんだ」

「じゃあ創一郎誰かにキスしてきてぶぎゃっ」

「殺すぞ」

「死ぬかと思った」

 

 

海未ちゃん映画でも恥ずかしいのはダメなのね。PVでは漏れなく投げキッスしてんのにね。あれ別に僕が指示してるわけじゃないんだけどね。自主的にやってるのにね。あと創一郎が余裕そうな顔してたから煽ったら拳が飛んできた。穂乃果ちゃんの家だから加減されてるとはいえ軽く吹っ飛んだ。これほんとに死んじゃう。

 

 

「ほぇ?」

「終わったにゃ…?」

「穂乃果ちゃん、開始3分で寝てたよね…」

「ごめーん、のんびりしてる映画だなって思ったら眠くなっちゃって…」

「開始3分でそんなデッドヒートする映画なんてないよ」

「察してやれ。映画とか向いてねぇんだよこいつら」

「「ひどい?!」」

 

 

うん、映画向いてないってのはひどい。きっとアンパンマンとかだったら見るよ。僕の方が酷い?そんなことないよ。

 

 

「なかなか映画のようにはいかないわよね。じゃあ、もう一度みんなで言葉を出し合って

 

 

 

 

 

「待って」

 

 

 

 

 

結局振り出しに戻りそうになった話を、真姫ちゃんが止めた。この子今日初めっから目つき悪かったもんね。いつも悪いって?いつもより悪かったんだよ。

 

 

「もう諦めた方がいいんじゃない?今から曲を作って、振り付けも歌の練習もこれからなんて…完成度が低くなるだけよ!」

「でも…」

「実は私も思ってました。ラブソングに頼らなくても、私たちには私たちの歌がある」

「そうだよね…」

「相手はA-RISE。…下手な小細工は通用しないわよ」

「むしろ逆効果になりかねないぞ。無理はできるときにするもんだ、できないことは無理をしてもできん。…今の状況で、ラブソング作りが順調に進むとは思えないな」

 

 

結構新曲反対派が出てきた。なんだかんだ言ってみんな安牌を選びたかったらしい。珍しく絵里ちゃんが率先してチャレンジ精神出してきたからつきあってみた、くらいの気持ちだったのかもしれないね。

 

 

「でも

「確かにみんなの言う通りや。今までの曲で全力注いで頑張ろ?」

「………希?」

「今見たら、カードもそれがいいって」

「待って、希…あなた…」

「ええやん。一番大切なのは、μ'sやろ?」

 

 

絵里ちゃんの言葉を遮って、希ちゃんが反対派を支持した。言い出しっぺが寝返ったらもう新曲を無理に考える必要もない。

 

 

 

 

 

けど、残念ながら僕らをナメてはいけない。

 

 

ちゃんとわかってる。希ちゃんの急な方針転換、絵里ちゃんの動揺。そういうのが「何かある」ことをバッチリ教えてくれた。見た感じ真姫ちゃんと創一郎も気づいたみたいだ。

 

 

「何かあったの?」

「ううん、何でもない。じゃあ今日は解散して、明日からみんなで練習やね」

 

 

何でもないわけあるかい。

 

 

最近あんまり活躍してなかったし、そろそろマネージャーの本領を発揮しなきゃだよね。そう、僕マネージャーなんだよ。忘れ去られてそう。

 

 

っていうかまだ歌う曲決めてないから練習できないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーねー!!」

「ばいばーい!!」

 

 

というわけで解散。穂乃果ちゃんの家から出て、にこちゃんと一緒に他のみんなから離れる。

 

 

「というわけでにこちゃん、悪いけど先帰っててもらっていい?」

「なんでよ!!」

「ぶぎゃる」

 

 

ノータイムで拳繰り出すんじゃないよ。

 

 

「ふぐっ、にこちゃんも何となく気付いたでしょ。希ちゃんと絵里ちゃん、何かしら隠してるよ」

「…」

「…にこちゃん、前に僕から卒業するとか言ってなかったっけ」

「言ったけど!…言ったけど、やっぱりちょっと…」

「ジェラシー感じちゃう?」

「そうよ悪い?!?!」

「あふん」

 

 

珍しく素直な返事が返ってきた。相変わらずにこちゃんは僕が大好きらしい。嬉しい。嬉しいけど僕もやんなきゃいけないこともある。たまにはにこちゃんの手を離さなきゃ。

 

 

僕だってにこちゃん好きだけど。

 

 

だからって今の僕は悩んでる仲間をほっとけない。

 

 

「大丈夫。きっと後でにこちゃんも呼ぶから」

「私呼んでどーすんのよ」

「どうしようね」

「何も考えてないじゃないの!!」

「ぶぇ」

 

 

そりゃ何も考えてないよ。天童さんじゃないんだから。

 

 

でも、きっとにこちゃんは必要になるよ。

 

 

だって、みんなで新曲を作るのに何か理由があって、それが絵里ちゃんや希ちゃんのことに関係あるなら。

 

 

もう何が何でもみんなで新曲作らなきゃいけなくなるからね。

 

 

「何も考えてないけど、僕はみんなを助けるよ」

「…」

「だから、待ってて。全部助けたら、それか全部助けるために、必ず迎えにいくから」

 

 

まあ、最終的にはにこちゃんなんだけどね。

 

 

「………何よかっこつけちゃって」

「だってにこちゃんの前だしうぐぇ」

 

 

正直に答えたら首しめられた。死ぬ死ぬ。

 

 

「…早く行ってきなさいよ」

「行く前に逝きそうなんですが」

「なんでよ!」

「にこちゃんが首絞めてるからだよ」

 

 

苦しいよ。にこちゃんヤンデレモードなの?悪くない。良くもないけど。

 

 

やっと首から手を離してくれたにこちゃんは、呆れたような微妙な表情の笑顔を浮かべてた。ごめんね。

 

 

「…行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 

 

それだけ言って、来た道を引き返した。なんか家族みたいなやりとりだ。準家族みたいなもんだけど。

 

 

ごめんね、ちょっとだけ待ってて。天童さんじゃないけど、僕なりに全力でハッピーエンドを目指すから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで走って追いかけた。

 

 

そう、走った。

 

 

「…ゔぇほっ、げほっ…はぁ、ひぃ」

「あ、茜?」

「…何してんだお前は」

 

 

追いかけてたら、同じくのぞえりコンビを追っていたらしい真姫ちゃんと創一郎に遭遇した。これはラッキー。連れてって。僕死にそう。死ぬ。

 

 

やっぱり走るもんじゃないね。

 

 

「はぁ、はぁ…の、希ちゃんと、絵里、ちゃん、追ってん、でしょ。ほら、はよ、連れてって」

「ほんとに体力ねーなお前」

「仕方ないわね…創一郎、お願い」

「おう」

「あっ待ってちょっと休憩ぐぶぇ」

「休憩してる時間なんて無ぇ。自分の体力の無さを恨め」

「鬼め」

「言ってろ。真姫も行くぞ」

「えっ私も?!ひゃあっ!!」

 

 

創一郎は即座に僕と真姫ちゃんを小脇に抱えてダッシュした。風圧がやばい。でも今までの最高速よりかなり抑えめだ。彼なりに加減してくれてるらしい。早いけどね。さっき原付追い越したけどね。バケモノめ。

 

 

ものの1分弱で前方を歩くのぞえりコンビに追いついた。早い。いや早すぎない?

 

 

「ま、待って!」

「真姫ちゃん…?創ちゃんと茜くんも…」

「こ、この状況で、よく、マトモな、リアクションが、できるね…ぐぇ」

「…何で投げたの…」

「流石にもう運ばなくてもいいだろ」

「真姫ちゃんはそっと下ろすのに僕は丸投げ」

「真姫は女の子だろ」

「男の子だからぞんざいに扱っていいわけじゃないんだよ」

 

 

真姫ちゃんが2人を呼び止めると、2人ともこちらを振り向いて立ち止まった真姫ちゃんと僕が抱えられてる光景を見てなぜ平然としているの。もしかして見慣れたの。見慣れるような光景じゃないよね。

 

 

「前に私に言ったわよね。めんどくさい人間だって」

「そうやったっけ?」

「ああ、言ったな。俺でも覚えている」

「なになに僕それ知らないんだけど」

「自分の方がよっぽどめんどくさいじゃない」

「…気が合うわね。同意見よ」

「いつものスルーですねわかります」

 

 

僕の知らないところで話が進んでるんだけど。僕いらなかった?てか絵里ちゃんは希ちゃん側なんじゃなかったの。真姫ちゃんと同意見でよかったの。

 

 

「まあスルーはもう気にしないけどさ、隠しごとは気にするよ。僕らにサプライズしようって雰囲気でもないし、何を隠してるのさ。僕らは仲間なんだから何だって言えばいいのに」

「…ふふっ、本気の茜くんに隠し事はできんね」

「本気も何も元はこういう性格なの」

「そうやとは思ってたよ。…立ち話もなんやし、うちの家に行こっか」

「何でそうなるの」

「いいから。ついてこればわかるよ」

 

 

何故か希ちゃんのお家に行く運びとなった。

 

 

何でさ。ご両親の許可は取らなくていいの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠慮せんと入って」

「お邪魔します」

「ん?この生活感…一人暮らしなんだね」

「…うん」

 

 

案内されて入った、とあるマンションの一室。ご両親は不在で…食器の数、椅子の使用感、部屋内の雑貨の数から考えて3人以上が生活する部屋ではないのはすぐにわかった。だって僕が一人暮らしだからね。僕の家は父さんが残した一軒家だし部屋の大半はアトリエになってるから希ちゃんのお家とは全然違う様子だけど。

 

 

しかし何で一人暮らししてるんだろうね。僕と同じようにお亡くなりになったのかね。

 

 

「子供の頃から、両親の仕事の都合で転校が多くてね」

「だから音ノ木坂に来てやっと居場所ができたって」

「その話はやめてよ。こんなときに話すことじゃないよ」

「…じゃあいつ話すことなのさ」

「っ…それ、は」

「ちゃんと話してよ。もうここまで来たんだから」

 

 

希ちゃんは、僕らに何かを知られるのを嫌がってるようだ。何かはわからない。でも、ここでスルーしたらこの先もずっと隠そうとするんだろう。

 

 

それはよくない。

 

 

希ちゃんもちゃんと幸せになってほしいからね。

 

 

「そうよ。隠しておいてもしょうがないでしょ」

「別に隠してたわけやないんよ。えりちが大事にしてただけやん」

「μ'sを結成した時からずっと楽しみにしてたことでしょ?」

「結成した時から?」

「随分と長いこと黙ってたもんだね」

 

 

話が見えないけど、希ちゃんが頑固なのと、絵里ちゃんは話したがっていることはわかる。

 

 

「そんなことない」

「希!」

「うちが、ちょっとした希望を持っていただけなんよ」

「いい加減にして!!」

 

 

なかなか話が進まない状況に真姫ちゃんがキレた。

 

 

「いつまでたっても話が見えない!どういうことなの希!!」

「そうだそうだー話が進んでないぞー」

「…茜が言うと全く緊張感を感じないわね」

「そう?」

 

 

僕だって真面目だよ。真面目だよ?

 

 

「…簡単に言うとね。夢だったのよ、希の」

「えりち!」

「ここまできて何も教えないわけにはいかないわ」

 

 

今度も絵里ちゃんが話しだした。希ちゃんは話したくなさそうだけど、なんでだろうね。

 

 

「夢?ラブソングが?」

「ううん、大事なのはラブソングかどうかじゃない。11人みんなで、曲を作りたいって」

「…」

「1人1人の言葉を紡いで、思いを紡いで、本当に全員で作り上げた曲。そんな曲を作りたい、そんな曲でラブライブに出たい!…それが希の夢だったの。だからラブソングを提案したのよ。うまくいかなかったけどね」

「そこでラブソングを選んだ理由が不明なんだけどまあいいか。そんならもっと前から言えばよかったのに」

「言ったやろ。うちの言ってたのは夢なんて大それたものじゃないって」

「じゃあ何さ」

「…何やろね」

 

 

たしかに、夢って言うほどのものじゃないね。普通に、「言えば叶う」程度の願望だ。にこちゃんのアイドル願望みたいに必死になって縋り付いてやっと叶うような難しい話じゃない。

 

 

「ただ、曲じゃなくてもいい。11人が力を合わせて何かを生み出せれば、それでよかったんよ。…うちにとっても、この11人は奇跡だったから」

「奇跡?」

「そう…うちにとって、μ'sは『奇跡』」

 

 

そう言って、やっと希ちゃんは自分のことを語り出した。

 

 

希ちゃんが自分のこと話すの初めてな気がするね。

 

 

「…転校ばかりで友達はいなかった。当然分かり合える相手も。…そんな時、初めて出会った子がいたんよ。自分を大切にするあまり、周りと距離を置いてみんなとうまく溶け込めない。ズルができない、まるで自分と同じような人に」

「誰だろうね」

「絵里に決まってんだろ」

「決まってるのね…」

 

 

そりゃね。μ'sに入る前の絵里ちゃんを知ってるからね。

 

 

「思いは人一倍強く、不器用な分、人とぶつかって…」

「だから声をかけたと」

「うん。その時からかな、関西弁を使い始めたのは」

「なんでそこで関西弁を選んだのさ」

「親しみやすい気がするやん?」

「本物の関西弁は割り込む暇もないよ」

 

 

過去に関西にも住んでたからこそなせる技なのかもしれないけど、わざわざ関西弁を使う必要はあったのかな。

 

 

「そのあとも、同じ思いを持つ人がいるのにどうしても手を取り合えなくて。真姫ちゃんを見た時も、熱い思いはあるけどどうやって繋がっていいか分からない…そんな子が、たくさんいた」

「にこちゃんもそうだもんね。並び立って同じ道を歩いてくれる仲間をどうしても見つけられなかった」

「そうやね。にこっちのことは前から知ってたけど…うちにもえりちにも、仲良くはなれても、助けてあげられなかった」

 

 

僕がのぞえりコンビと話すようになったのは3年生になってからだけど、にこちゃんは2年生の時にもう2人と仲良くなっていた。それでもにこちゃんは元気にならなかったし、大きく何かが変わってわけではなかったんだろう。

 

 

「そんな時、それを大きな力で繋いでくれる存在が現れた。思いを同じくする人がいて、繋いでくれる存在がいる。…必ず形にしたかった。この11人で何かを残したかった」

「…」

「確かに、歌という形になれば良かったのかもしれない。けど、そうじゃなくてもμ'sはもうすでに何か大きなものをとっくに生み出してる。…ウチはそれで充分。夢はとっくに…」

 

 

言葉が途切れた。

 

 

手に持つお茶の水面を見つめる希ちゃんは何を考えてるんだろう。

 

 

…いや、わかるよ。

 

 

だって、僕と希ちゃんは似ているから。自分の幸せより、みんなの幸せを重視するタイプだ。決定的に違うのは、その「みんな」に自分が含まれてるかどうか。僕は自分も幸せになろうとしてるけど、希ちゃんはそうじゃない。その違いは大きくて、僕の方は博愛と呼ばれ、希ちゃんの方は自己犠牲と呼ばれる。

 

 

僕も最近知ったことだけど。

 

 

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「…一番の夢はとっくに…」

 

 

きっと。

 

 

彼女はなんとなくそれを察しているから、ここで言い淀んだ。

 

 

賢いもんね、希ちゃん。

 

 

だから。

 

 

 

 

 

 

「やかましい」

「……………えっ」

 

 

 

 

 

 

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「君がそれで満足しているなんて誰も思っちゃいない。自然な流れで出来上がった天然物の作品なんかじゃなくて、明確に僕ら自身の手で作り上げた人工の作品を望んでるんでしょ?何でそう言わないの。僕がそんなこともわからないと思った?バカ言うなよ。過去には自分の全部をにこちゃんに捧げた身だぞ。君とそう大して変わりはしない。対象がにこちゃんかμ'sかの違いだけだ」

「…え、え?」

「あ、茜…どうしたの?」

「こいつがキレてるの珍しいな」

「にこちゃん以外のことでキレてるの初めて見たわよ」

 

 

まあ僕あんまり怒らないからね。

 

 

「わかれよ。僕とにこちゃんを見ていたなら。わかれよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうだろ?君もそうなんだよ。ましてや君はμ'sの一員なんだぞ」

 

 

そういえば、のぞえりコンビがμ'sに入る直前にも希ちゃんに説教した記憶がある。同族嫌悪だったのかな。

 

 

でも、そうでしょ。

 

 

人を幸せにするって、とても凄いことで、尊い所業だ。それが複数人に及ぶとなればなおさら。

 

 

ヒーローものでもよく言われるじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

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きっとそれは。

 

 

現実だって同じこと。

 

 

「…そんなこと言われても…」

「うっさい。君の意見は聞いてない。忘れるなよ、僕は目の前でうずくまってる女の子には笑顔になってもらわないと気が済まないんだ」

「にこが聞いたら殴りそうな言葉ね」

「にこちゃんも『そうしなさい』って自分で言ったんだから早く慣れて欲しいなあ」

 

 

おろおろしてる希ちゃんを黙らせて、僕はスマホを取り出す。それを見た絵里ちゃん真姫ちゃん創一郎も、各自スマホを取り出した。なんか絵里ちゃん真姫ちゃん創一郎って語感いいね。墾田永年私財法みたいな。

 

 

「まさか…みんなをここに集めるの?!」

「何か問題でも?」

「いいでしょ、一度くらいみんなを招待しても。…友達、なんだから」

 

 

絵里ちゃんも後押ししてくれた。希ちゃんは理解が追いつかないといった感じでポカンと口を開けていた。無音カメラで写真撮っておいた。

 

 

「君がいなきゃきっとμ'sは始まらなかった」

 

 

にこちゃんにLINEしながら、希ちゃんに語りかける。

 

 

「君がいなきゃきっと11人集まらなかった」

 

 

自分の価値を正しく知らない子のために。

 

 

「君がいなきゃμ'sじゃなかった」

 

 

その功績を、僕らはちゃんと知っている。

 

 

 

 

 

 

 

「忘れるなよ、僕らは仲間で友達だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

だからちょっとくらいわがまま言ってもいいんだよ。

 

 

むしろ言いなさいよ。

 

 

もはや遠慮も謙虚も通り越して卑屈だよ。

 

 

だから、僕らが勝手に叶えてやろう。11人みんなで作る、一つの作品を…作っちゃおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええー!やっぱり作るの?!」

「そう、みんなで作るのよ!」

「それにしてもすごい掌返しだね真姫ちゃん」

「あんたは事情知ってるでしょ!」

「何よ私が知らないところで茜は何したのよ!!」

「痛い痛い」

 

 

みんなを呼んで曲を作ろうと話したらみんなびっくりしてた。主に真姫ちゃんの方針変更に。にこちゃんだけ僕の腕をつねってた。痛いよ。

 

 

「希ちゃんって一人暮らしなんだねー」

「初めて知りました…」

「何かあったの、真姫ちゃん」

「別に何にもないわよ」

「ちょっとしたクリスマスプレゼントよ。μ'sから、μ'sを作ってくれた女神さまに」

「そうそう。だからキビキビ働け平民」

「茜も平民じゃないの」

「その通りでございます痛い痛いほんと痛い」

 

 

あんまりご家庭の事情とかは安易に話さない方向でいこうということになったから、なんかことの経緯がよくわかんないことになっちゃった。何が困るってにこちゃんが不機嫌。とても困る。痛い。

 

 

「作るなら作るで早くしないとな。一言でいい、何か言葉を出してくれ。まとめるのは海未やら茜やらがなんとかするだろ」

「丸投げじゃないですか?!」

「僕文学の才能はそんなにないよ」

「使えねぇヤツだな」

「丸投げしといてこの仕打ち」

 

 

創一郎からの敬意がみるみる減ってる。

 

 

「うーん、みんなで言葉を出し合ってかぁ…ん?これって…」

「あ、ああっ!」

「うわっ希ちゃん?!」

「ふふん、見えたぞ見えたぞ。それ講堂でのライブの写真だよね。我ながらよく撮れてると思う」

「へえ、そういうの飾ってるなんて意外ね?」

「意外だねぇ」

「べ、べつにいいやろ?うちだってそのくらいするよ…友達、なんやから…」

「えーなになにもっと大きい声で」

「もう!!」

「ぐえ」

「希ちゃん!」

「かわいいにゃーへぶっ!!」

「もう!笑わないでよ!!」

「話し方変わってるにゃ!」

「まさか僕への物理攻撃第3号が希ちゃんとは…」

 

 

希ちゃんの部屋には、いつかの解散事件の直後に行った講堂ライブのときの写真が、よく見えるところに写真立てに入れて飾ってあった。何さ、ずっとあれ見てにやにやしてたのもしかして。やっぱりピュアじゃないか。面白かったからイジってたらぬいぐるみが飛んできた。飛びつこうとした凛ちゃんは枕でガードしてた。意外と運動神経良いな希ちゃん。

 

 

照れて顔真っ赤な希ちゃんを、絵里ちゃんが後ろから抱きしめる。おっとシャッターチャンス。無音カメラの出番。

 

 

「暴れないの。たまにはこういうのもないとね」

「もう…」

「いいよそのままそのポーズで」

「…茜は何してるの?」

「今いい写真撮れる角度」

「はあ…」

 

 

いい百合を見せてもらった。

 

 

と、そんなわちゃわちゃしてるところに。

 

 

「あっ!見て!」

「ん?ああ、雪降ってきたのか」

「見に行こ見に行こ!」

「今年初の雪だにゃー!!」

「は?おいお前ら作曲はどうした!」

「まあいいじゃん。どうせ止まんないしあの子たち。そしてみんなついていくだろうし、雪からインスピレーションもらえるかもよ」

「…ったく世話の焼ける…!」

「とかなんとか言って創一郎も雪見に行きたいんじゃないの」

「…………そんなことはない」

「君ももうちょい素直になりなよ」

 

 

雪が降ってきたらしい。早速気づいた穂乃果ちゃんや凛ちゃんが速攻で飛び出す。それに続いてみんな出て行く。創一郎もそわそわしてないで早く行くよ。

 

 

机の上から鍵を拝借してちゃんと施錠して、近くの公園に向かった9人を追いかける。もうすっかり夜だということもあって、ゆっくり降ってくる雪に街灯の光が反射してすごく綺麗だ。これは一眼の出番。

 

 

「…想い」

 

 

それぞれ、手のひらを空に向けて雪を受け止めている。

 

 

「メロディ」

 

 

手に触れたらすぐに消えてしまうけど。

 

 

「予感」

 

 

その結晶の姿を、きっと忘れはしない。

 

 

「不思議」

 

 

降ってくる雪とともに出てくる言葉。

 

 

「未来」

 

 

儚く美しい雪の結晶に、恋心が刺激されたのかもしれない。

 

 

「ときめき」

 

 

これが彼女たちの恋の言葉。

 

 

「空…!」

 

 

触れたら消える恋の詩。

 

 

「気持ち」

 

 

それでも確かに在った心の形。

 

 

「………好き」

 

 

この前の告白演技でも言ってた。

 

 

自然に出てきた言葉が大事だって。

 

 

だったら、今の言葉たちは僕らの歌にふさわしい言葉だろう。

 

 

 

 

 

 

 

「で、創一郎は何か言わないの?」

「何で俺まで」

「希ちゃんは『11人で形にしたい』って言ってたじゃん」

「…確かに」

 

 

ちょっと離れたところから一眼で写真を撮りまくりながら創一郎に振る。そう、僕らも例外じゃない。でもとりあえずまずは写真。ふーむ、もうちょっと露光時間増やしたらもっと幻想的になるかな。

 

 

「………………雪?」

「安直極まりない」

「…うるせぇ。それよりお前も何か出せ」

「すごい上から目線」

 

 

さすが創一郎、ど真ん中ストレート。嫌いじゃないよそういうの。

 

 

「僕は雪降ってるの見た時から決めてあってね」

「写真撮りながら答えるのかよ」

「今この瞬間は逃せない。…よし。ほら、綺麗でしょ」

「…なんか雪がめっちゃ光ってるな」

「写真って強く光る物体が写り込むとその物体周りも白くなるんだよね。街灯の位置と露光時間を調節して、一番雪が綺麗に光るように調節するとこんな幻想的な写真になるの」

「それで、それが何か関係あるのかよ」

「あるよ。僕はこの現象を曲名に使いたかったの」

 

 

若干ローアングルから雪とμ'sのみんなをいろんな角度から撮った写真群。写真展に出せそうな出来だ。肖像権の許可もらったらμ's写真展でも開こうかな。

 

 

とにかく、この「光源が写り込んだ際に白飛びする現象」が、幻想的な恋の歌にちょうどいいかなと思ったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、ハレーションっていうんだ。せっかくだから創一郎の言葉と合わせて曲名にしよう。…『Snow halation』。うん、パッと思いついた単語で作った言葉ながら、いい響きじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

μ'sから、μ'sを作ってくれた女神さまに。

 

 

輝く雪の贈り物だ。

 

 

 






最後まで読んでいただきありがとう。

無事希ちゃんの願いを叶えることができました。波浜君がキレるのは、のぞえりのお二人がμ'sに入る時と穂乃果ちゃんがスクールアイドルやめるって言ったときくらいです。希ちゃんには怒る波浜君。
あとはスノハレの題名です。せっかく写真が得意な波浜君がいるんですから、ちゃんとハレーションの意味を知っている前提で話を進めました。その結果、題名をつけるのはマネージャーの2人ということになりました。久しぶりに波浜君の才能を有効活用した気がします。


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